人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
「急ぐぞ、ライドウ!あの女を逃がすわけにはいかん!」
ヒトコトヌシの風魔法の応用を用いて建物の上を疾風の如く飛び越える者とはライドウである。
彼は工匠区辺りを捜査していたようであり、ヒトコトヌシの情報を得た彼は仲魔の魔力を追う。
「モー・ショボーの魔力を感じる先を推測するに、神浜監獄辺りにいると思われるな」
「そこにレイが潜んでいればいいのだが……」
「フフッ、モー・ショボーの尾行捜査の腕前を信じてやれ。あの娘もうぬと共に生きた悪魔だ」
「そうだな…気分屋な子供悪魔だが、大事な局面では彼女に何度も救われてきたんだ」
「うぉれも気分屋だァァァーーッッ!!しかし!子供悪魔に遅れはとらねェェェーーッッ!!」
「張り合うなヒトコトヌシ。うぬにはうぬの力がある、それぞれの個性を活かすのだ」
ヤタガラスから放たれた断罪者としてレイの命を終わらせる者となるために彼は行く。
大東区と南凪区の区境近くにある神浜監獄が見えてきた時、強烈なプレッシャーを感じてしまう。
地上に降り立つライドウを迎え撃つかのようにして待ち伏せていた男に視線を向ける。
「キョウジ……生きていたか」
工匠区の端にある神浜オートレース場の駐車場で待ち構えていたのは刀箱を背負う葛葉キョウジ。
あと少しで大東区と南凪区の境にまで近寄れたのだが、彼に背を向けるわけにもいかないようだ。
「…葛葉ライドウまで現れるとはな。恐らく目指す場所はレイがいる神浜監獄だろうな?」
背負っていた刀箱を降ろし、右手で箱を掴むキョウジが鋭い目つきを向けてくる。
ライドウの肩にしがみ付いていたゴウトが飛び降り、邪魔者に向けて立ち去るよう警告するのだ。
「やはりあの女は神浜監獄に潜んでいたようだな。邪魔立ては許さんぞ!即刻立ち去るがいい!」
「俺に構わず先に進んだらどうだ?もっとも、背を向けた貴様らを見逃す俺ではないがな」
ハイカラマントを両手で払い除けたライドウが腰の鞘を左手で握り込み、抜刀する構えを行う。
「自分の邪魔をするのは自分への復讐心を満たすためか?それとも…レイ・レイホゥのためか?」
それを問われるキョウジは押し黙ってしまう。
それでも自分がなぜこの場に馳せ参じたのか、己の本心を語らなければ迷いは解けない。
迷いを抱えたまま戦って勝てる相手ではないのだ。
「…レイは長年連れ添った俺の部下だ。しかし…俺はレイの正体に気が付いていた」
葛葉探偵事務所を立ち上げて間もない頃にレイ・レイホゥはキョウジに接触してきた。
能力は申し分なく、デビルサマナーでもある彼女がなぜ私立探偵事務所に来たのか彼は調べた。
すると後ろにはヤタガラスが潜んでいるのが分かり、レイはエージェントだったと理解する。
「俺は葛葉一族の面汚しと罵られてきた…そんな俺を見張るためにレイを寄越したのだろう」
「うぬにとっては目の上のたんこぶ同然の者であったか…ならば、なにゆえ彼女を庇う?」
「勘違いするな。俺の望みはレイの死であり…レイを殺すべきなのはヤタガラスではない」
「我ら以外にも彼女の命を狙う者がいるのか…?ならば、その者の味方をしたいわけか?」
「レイは復讐者に殺されるだけの罪を犯してきた女だ。復讐者には屈辱を晴らす権利がある」
「大儀のためにレイを討つ我らではなく、個人の復讐心を満たしたい者に与するか…愚かな」
「大儀だの正義だの、貴様らはいつもそれを振りかざす。俺はそういった概念が大嫌いな者だ」
七星剣と書かれた刀箱から中華式の剣を取り出し、鞘から抜刀してライドウに刃を向ける。
ライドウもまた抜刀して陰陽葛葉をキョウジに向けるようにして構えるのだ。
「俺は正義の味方なんぞしない。俺が味方をするのは私欲を満たしたい者…ナオミの方だ」
「ナオミか…その者がレイに誅罰を与えるならば我らは止めん。しかし、我らにも任務がある」
「ヤタガラスに飼われるだけの狐共め。貴様らみたいになりたくないから俺は一族を捨てた」
左手を白スーツの懐に入れて召喚管を取り出す。
握り込まれた拳に見えたのは二つの召喚管であり、それが意味する事ならば分かるだろう。
「まさか……貴様も二体召喚が出来るのか!?」
「葛葉ライドウに出来て…俺に出来ないはずがないだろう?それを証明してやる!!」
二つの召喚管の蓋が開いていきMAGが放出されていく。
召喚管を振り抜き、キョウジの周りにMAGの光が広がりながら二体の悪魔を顕現させる。
キョウジの背後に現れたのはゴズキであり、もう片方はゴズキと対を成す地獄の獄卒。
蟲毒の丸薬によってキョウジのMAGを練り上げる力は増し、二体同時召喚を可能としたようだ。
【メズキ】
牛頭鬼と対を成す馬頭鬼であり、馬の頭を持った地獄の役人である。
槍や矛を持っている姿で描かれ、牛頭鬼と共に死人を地獄へ連れて行くのが役目であった。
「ゴズキにだけいいカッコはさせませんよ。私の刀の錆びにしてくれる!!」
「へっ!俺様の大斧とメズキの刃から逃げられるかな?」
牛と馬の頭をもつ巨人悪魔達がキョウジと共に武器を構えてくる。
ライドウもまた封魔管の一つを抜き、ヒトコトヌシと共に戦わせる悪魔を召喚。
現れたのはクルースニクであり、ゴズキとの決着をつけるために銀の剣を抜いて構えるのだ。
「集団社会に依存するあまり個を失った狐め…貴様のような男こそが正義の奴隷と成り果てる!」
「ならば自分はこう返そう…貴様のように行き過ぎた個を振りかざす者こそが社会不適合者だ!」
「偽りの自分を演じて好かれるよりも、ありのままの自分でいて憎まれる方が遥かにマシだ!!」
秩序(LAW)と自由(CHAOS)を掲げた者達が互いに踏み込み、刃を交えていく。
ライドウと斬り結び合うキョウジであるが、逃した邪魔者を追う余力はないだろう。
(魔法少女を見逃す判断をするしかなかった…俺とてライドウを押し留めるだけで精一杯なんだ)
自分の力量を見誤り何でもこなせるなどと己惚れた慢心に浸る者ではない。
攻める時には攻め、引く時には引く判断を下せる者だからこそシドを相手に生き残れたのだ。
人々から嫌われてでもジョーカーとして生き抜く覚悟を示す者は社会不適合者とも言えるだろう。
それでもジョーカーは己の役目を果たすために権威ある存在に向けて批判を浴びせる者となる。
権威を批判する事で憎まれても、批判が無い権威がどんな恐ろしい事をするのかを知る者なのだ。
だからこそキョウジは嫌われ者となるだろう。
権威あるヤタガラスを批判し、正義の味方を批判してでも押し留めるために彼は戦うのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「そんな……そんなぁぁぁぁ……」
異界が解けた神浜監獄にまで辿り着いた美雨は中に入り込み、大切な人達を見つけだす。
しかし彼女は遅過ぎたようだった。
目の前には愛する姉達が無残な姿を晒したまま倒れ込んでいる。
互いの胸には必殺の一撃が刺さり合い、生命の鼓動を止めてしまっていたのだ。
「レイ姉さん…起きるネ…起きて欲しいヨ!ナオミ姉さんも…お願いだから…起きて欲しいネ!」
必死になって体をゆすっても反応してくれない。
互いの命は互いの一撃によって絶命しており、召喚された不動明王もMAGが絶たれて消えていた。
泣き崩れてしまった美雨が覆い被さるようにしてレイの死体にしがみ付きながら泣き喚く。
回復魔法が使える魔法少女であっても、死者を生き返らせる魔法は持ち合わせていないのだ。
「なんで…どうして…?お願いだから目を開けてヨ…昔みたいな笑顔を見せて…レイ姉さん!!」
無力感に打ちひしがれてしまう美雨は楽しかった頃の記憶を思い出しながら泣いてしまう。
一緒に稽古したり遊びに出かけたり、時には喧嘩もしたり仲直りしたり出来た記憶が巡っていく。
今この時だってきっと仲直り出来ると信じようとした。
しかし、理想と現実は余りにもかけ離れている。
感情は理屈を超えるものなのだ。
復讐を叫ぶ感情に支配された者と、断罪を望む感情に支配された者は理屈を選ばなかった。
ゆえにこの結末こそがレイとナオミの満足がいく光景となるのだろう。
しかし、それは彼女達の正しさであって美雨の正しさにはなりえない。
「うあぁぁぁ……ッッ!!ヒック…グスッ……アァァァァーーー……ッッ!!!」
温かい涙の雫が死者となったレイの胸に流れ落ちていく。
その温かさを感じる事はもう出来ない。
レイとナオミは旅立ったのだ。
死者達が辿り着くあの世の淵とも言える場所、彼岸の淵へと旅立ったのであった。
……………。
「やはり……死相を超える事は出来なかったようだな?」
レイとナオミを迎えに来た者こそ、嘆きの川の渡し守をしているカロンである。
彼の前に立つのは思念体となったレイとナオミの魂であり、かろうじて人の形を保っている。
彼女達は何も言わずに渡し守に支払う硬貨を手渡していく。
「確かに受け取った。では……乗るがいい。汝らの逝きつく先まで案内しよう」
船に乗り込んだ者達を確認したカロンは船を移動させていく。
嘆きの川を下っていく彼女達は無言のまま項垂れているようだ。
何か声を掛けようかと顔を同時に上げたりもしたが、目と目が合った瞬間また顔を俯けていく。
沈黙に耐え切れなかったのか、ナオミがカロンに向けて質問をしたようだ。
「ねぇ…私は何処に連れていかれるの?レイの逝き先は地獄だとしても…私は天国に逝けるの?」
それを問われたカロンは暫く黙り込んでいたが、重苦しい態度を向けながらこう告げてくる。
「…残念だが、汝が向かう先は隣の罪人と同じく……地獄なのだ」
残酷な宣告をしてきた者の言葉に動揺したのかナオミが声を荒げてしまう。
「どうして私が地獄逝きなのよ!?私は正義を成したわ!なのにどうして罪人扱いになるの!?」
「汝が仏法に違反した強欲な者だったからだ」
「私が…仏法に違反した強欲者ですって…?正義を求めたのが…どうして強欲になるのよ!?」
「正義という概念は
「復讐が…善行にはなりえない…?」
「正義の構造とは卑劣極まったダブルスタンダード。自分は良くて、お前はダメ。それを求めた」
「それは……その……」
「恨む気持ちが善悪を生む…悔しい感情が物事を観えなくする…復讐者もミイラに成り果てる」
「なら…正義って何なのよ…?罪には罰が必要だと叫ぶのが…太古から続く司法概念でしょ…?」
「罪とは自らが生み出す業によって生み出される。正義の中身を考えない者は罪人と変わらん」
「そんなのって…あんまりよ!!私は大切な人を殺されたわ…泣き寝入りするのが正しいの!?」
「だから自分も相手を殺すのか?殺す相手の周囲にいる者達の悲しみを考えてやらないのか?」
「知ったことですか!!私に報復したいという連中がいるなら…全てと戦ってあげるわよ!!」
「罪人共の殺戮行為を呪うくせに、自分の殺戮行為は良いという…
正義を掲げる者達こそが罪深い存在なのだとカロンは論してくれる。
復讐を果たせた今、彼女はようやく自分自身に目を向ける余裕が生まれたのか聞いてくれている。
「正義を掲げる者は悪霊に憑りつかれる。恐ろしいイデオロギーの名の元に断罪行為を繰り返す」
「それが私の姿であり……かつてのナオキの姿だったのね……?」
「汝らだけではない、真面目で心優しい者ほど同じ心理に辿り着く。地獄の悪霊に憑かれるのだ」
カロンが語る言葉こそが、正義を振りかざす和泉十七夜や葛葉ライドウにも当て嵌まる真実。
心優しき正義の味方は自分の正義に妥協しないし、命を賭けて突き進んでいける。
だからこそ正義の味方になろうとする者達は
それこそが歴史において大虐殺を実行した極右や極左の独裁政権指導者達なのだと伝えてくれた。
「私は……ミイラになっちゃったのね。それでも私は……満足よ。これでいい……一緒に逝くわ」
「ナオミ……あたしのせいで……地獄にまで付き合わせる事になるだなんて……」
「いいのよ…これは私が望んだ末路…だから一緒に逝くわ。地獄でまた…あの頃に帰りましょう」
「ナオミ……グスッ……エッグ……ナオミィィィィーーー……ッッ!!!」
泣き出してしまったレイの思念体がナオミの思念体に抱きついてくる。
抱き締め合う2人の姿はようやく昔の頃に戻れたかのようにして幸せな表情を浮かべている。
互いに死ぬ事でしか自分達と向き合えなかった女達に視線を向けるのが辛いカロンは目を逸らす。
彼は罪を犯した魂をあの世に連れていくだけの者であり、魂の救済者にはなりえない者。
だからこそカロンは望んでしまう。
この罪人達は悔い改める事が出来た。
だからこそ、もう一度やり直すチャンスを与えて欲しいと願ってしまうのだ。
そんな時、カロンは嘆きの川の上空から現れる巨大な光を放つ存在に気が付き、顔を上げていく。
「おぉ……おぉぉぉ……!?あの御方はまさか……こんな場所にまで来て下さるとは!!」
驚きの声を上げるカロンに気が付いたレイとナオミも嘆きの川の空を見上げていく。
空から現れた存在の神々しい魔力には覚えがあるナオミが言葉を零してしまう。
「あれは…不動明王?いいえ、違うわ…あの姿はまさか……不動明王の真の姿!?」
大日の如く光を放つ球体がカロンの船の前にまで降り、船の動きが止まってしまう。
光の中で形を成していく人の姿こそ、不動明王の真の御姿。
現れた神仏こそ密教における中心仏であり大日如来、
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【ヴィローチャナ】
大日如来のサンスクリット語名であり、宇宙と一体と考えられる汎神論的な中心仏。
インドの叙事詩では太陽神であり、アスラ神族の王としてもヴィローチャナが登場する。
密教においては我即大日・即身成仏という思想があり我らは大日如来と一体化すると考えてきた。
過酷な修行の果てに自分自身をあるがままに認め、悟りの境地に至れるのだという思想なのだ。
またヴィローチャナのルーツはゾロアスター教の最高神アフラ・マズダなのだと言われてきた。
「過酷な人生の果てに己を見つめ直せた者達よ。ここで死ぬべきではない」
光の中であぐらをかきながら座る神仏の神々しい御言葉を賜った者達が両手を合わせてしまう。
心から祈りを捧げたくなる程の威光に触れた者達はこれ程の影響力を神仏から受けてしまうのだ。
「己を止観し、一切の因果道理を観ずる道はまだ遠い。しかし、それは生きてこそ得るものだ」
「あたしを…助けてくれるの…?大儀のために多くの罪を犯した…あたしなんかを…?」
「罪と向き合い、懺悔する事が出来る者こそが悟りの道に進む事が出来る。汝にも機会はある」
「私は復讐という正義を抱えたまま…大切な親友を殺してしまったわ…。私も救われるの…?」
「汝も罪と向かい合えた者。罪を犯さぬ者などいない…己と向き合うからこそやり直せるのだ」
ヴィローチャナが説くのは密教である仏教の考え方だ。
人間の宇宙観、人生観の至極を窮めていて生きがいのある人生を生き抜くための大切な要を説く。
人々の生活の中で誰かと共に生きる喜びを大切にして周りを尊重する精神こそ大切だと仰られる。
正しさを押し付けるのではなく、
「転んだ子供と同じ気持ちを持て。誰もが人生を転ぶ者…だからこそ共に立ち上がる精神が要だ」
「不動明王…いいえ、ヴィローチャナ。こんな私なんかのために…救いの言葉を与えてくれる…」
「罪人のあたしなんかのために…手を差し伸べてくれる。これが…誰かの温かさだったのね…」
人生の孤独に苛まれてきた2人の心が大日の光に触れた事で浄化されていく。
密教は求道者自らが仏となり、光源となるのを目的としている。
何も出家者に限ったことではない。
その心さえあれば直ぐに実践できる。
密教は俗世で生きるためにある教えだといっていいだろう。
だからこそ密教の本尊である大日如来が先ずはそれを実践してくれる。
そんな神仏の御姿に憧れた者達こそが仏教の教えを守る道を生きてくれるのだろう。
「レイ……私達……やり直せるかしら?」
涙を零しながらレイに顔を向けてくれるナオミに向けて、同じく涙を零すレイは答えてくれる。
「ええ……やり直せるわ。帰りましょう……あたし達が共に生きられた……優しい世界へ」
両手を重ね合ってくれた復讐者と罪人が微笑み合い、許し合ってくれる。
この光景こそカロンが望んだ美しき光景であり、ヴィローチャナが与えてくれた生き甲斐なのだ。
「煩悩のままに生きる事を慎み、かと言って過度な禁忌や苦行も己を殺す。心身を清らかに保て」
カロンの船の上に向けて手を掲げたヴィローチャナが神仏の力を発揮する。
上空に現れたのは円環を描く光の光輪。
ヘブライ宗教ではキリストや天使の輪を表し、仏教では衆生の煩悩を砕く慈悲の光を表す。
天体の運行を示す太陽の図形であり、生命、宇宙、完全、中心、循環、永遠、光明を表すのだ。
「おぉ…救いの糸が下りてくる!まるで極楽から地獄に救いの糸を垂らす釈迦の光景だ!!」
光輪から船に向けて糸が下りてくる。
レイとナオミの元に垂れ下がった糸を見た2人は互いに向かい合い、頷き合う。
正義を果たした者だけが救われたらいいという欲を見せず、罪人の方に救いを与えようとする。
そんなナオミの気持ちに微笑み、今度はレイが糸をナオミに与えようとしてくれるのだ。
2人の尊重精神を見極めたヴィローチャナが頷き、彼女達の魂を宙に浮かばせていく。
光の環の中に吸い込まれていく彼女達は互いを抱きしめ合い、神仏に運命を託すのであった。
「ハスの糸に導かれた者達が現世に行きましたか…お見事です、ヴィローチャナ殿」
晴れ晴れとした表情を向けるカロンであるが、ヴィローチャナは憂いの表情を浮かべてしまう。
「…これより先、現世は地獄となるだろう。我もまた…動かねばならぬ時がくる」
「それは……
「そうだ。現世が魔界と一体化した時、我の軍勢であるアスラ神族もまた地上に顕現するのだ」
「では…いよいよなのですね?光と闇のハルマゲドンがついに始まる……末法の世となる……」
「その前に……決着をつけねばならぬ戦いがあるのだ」
「それは一体……?」
「その戦いを我と共に進む者こそ…新たなるアスラとなりし人間。人修羅なのだ」
「人なるアスラである人修羅とアスラ王が共に戦う?それ程までの強敵とは一体…?」
光の中に消えていくヴィローチャナが最後に残す言葉は怒りに満ちている。
仏敵そのものを滅ぼし尽くす程の憤怒を感じさせる程の恐ろしき声がこう吐き捨ててくるのだ。
<<我はもう
それだけを言い残し、ヴィローチャナの姿は消えてしまう。
残されたカロンの船が動き出すのだが、彼の表情は今までにない程の恐ろしさで固まっている。
「…ついにCHAOS勢力の内紛が始まってしまうか。ハルマゲドンの前でこれでは現世はもう…」
カロンの憂いを表すかのようにして川の流れが急になっていく。
その光景こそこれからの現世を表し、逃れられぬ恐ろしき急流が迫りくるのを表すのだ。
黙示録は既に始まり、いずれ世界に終末を宣告する笛を鳴らす天使達も現れるだろう。
これから先を思えば思う程、死者を運ぶ者が考える未来は末法の地獄絵図しか浮かばなかった。
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薄暗い廃路の中で泣き崩れたままの美雨であったが、辺りが光に包まれていく光景に気が付く。
「こ…これは……?」
まるで円環のコトワリに導かれる魔法少女達の元に降り注ぐ光のような光輪が周囲に広がる。
輪の中からこの世に舞い戻ってきた魂達が自分達の体へと戻っていく。
肉体に魂があるならば効果のある蘇生魔法を悪魔は所有している。
光輪が強い光を放ち、放たれた回復魔法とは『サマリカーム』の光であった。
強い光が2人の死体を覆い尽くし、胸に刺さった傷口を塞いでいく。
心臓が止まった事で四肢の末端が黒ずんでいたのも治っていくのだ。
「ん……んん……?」
レイとナオミの重い瞼が持ち上がり、上半身を起こしてくれる。
あまりにも信じられない力の権限を見せられた美雨は神の存在を強く感じてしまう。
「奇跡ネ……こんなの…魔法少女じゃ無理ヨ…。本物の…神の奇跡が見れるなんて……」
光の円環が消えていく中、美雨に向けて神々しい声が響いてくる。
<<この者達を支えるのだ、美雨>>
「この念話は……もしかして……神様カ……?」
<<今のナオミに必要なのは…我ではない、汝なのだ。これからのナオミを…頼んだぞ>>
光が消え去っていく中、ナオミは不動明王が収められていた召喚管を手に取ってみる。
もう彼女に力を貸す必要はないと判断した不動明王は召喚者の元には帰らなかったようだ。
「…今までありがとう、不動明王。貴方こそが…サマナーとして生きた私の最高の仲魔だったわ」
――貴方が与えてくれた倶利伽羅剣は……私の煩悩を断つために与えてくれていたんだわ。
立ち上がったレイとナオミが向かい合う。
何を喋っていいのか分からずモジモジした態度を向け合っていたが嗚咽が響く方に視線を向ける。
「レイ姉さん……ナオミ姉さん……良かた……本当に……良かたネェェェェーーッッ!!!」
「「美雨!?」」
泣きながら駆けてくる彼女が2人に飛び込むようにして抱き着いてくる。
彼女達の首に両手を回し込んで泣きじゃくる美雨が流す涙は悲しみではない、嬉し涙だろう。
こんなにも帰りを待ってくれている人がいてくれたのだとレイとナオミは気が付いてくれる。
3人は抱きしめ合い、ようやく香港時代の頃へと帰れる日がきてくれたのだ。
「レイ……私ね、思い出す事が出来たの」
「えっ…?何を思い出したのよ…?」
「私がボディガードをしてあげているナオキの演説よ。彼が人権宣言を掲げた時にこう語ったの」
――迷惑をかけない人間など存在しない!!
――迷惑を語るあんたは他人に迷惑をかけなかったのか!
「私だって沢山老師に迷惑をかけてきた。迷惑をかけてきたのに他人の迷惑を許さないなんてね」
「ナオミ……その、あたし…嘘をついてたの」
ばつが悪そうに話してくれたのは老師の最後の言葉である。
レイがトドメを刺した時、彼はレイを憎む言葉などかけてはいない。
――君はまだ若い、やり直せる。
――君がどんな者達に操られていようとも、君の人生は
――自分の気持ちに目を向けるのだ、そして…本当の自分は何を望んでいるのかを考えて欲しい。
「潜入工作員に過ぎないあたしを心配してくれた。あの人は…自分を殺す相手を慈しんでくれた」
「老師……」
「流石はナオミを救ってくれた人よ。あたし…どうして自分の気持ちを優先しなかったんだろ…」
「集団社会に属する者達なら誰もが背負う同調圧力よ。周りの言う事が正しいと押し付けられる」
「あたしは個を喪失してた…。人は集団に依存するけど…集団よりも大事なものがあるわ」
――個を喪失しない信念……自分の正しさを周りの連中に委ねない
自分らしく生きる事に値段はつけられない。
自分らしく生きる事ほど楽しい事は無いし、自分らしく生きてこその一生なのだ。
ヤタガラスという集団社会で生きてきたレイはようやく気が付いてくれた。
国や組織や企業社会に飼われて周りに合わせるだけでしか生きられない者達には個が必要なのだ。
サタニズム精神である個の確立こそが民主主義国家を成熟させる唯一の思想なのだと理解した。
しかし、それを許さないのが集団社会。
周りが求める分かり易い概念だけを他人に押し付けようとする存在こそが正義主義者であった。
<<見つけたぞ、レイ・レイホゥ>>
恐ろしい声が廃路内に響き渡ってくる。
暗闇の中から歩いてくるのは焼け焦げたハイカラマントを纏った葛葉ライドウである。
顔もすす塗れであり、キョウジとの戦いの激しさを周りに理解させる程の状態であったようだ。
断罪者が現れた事に警戒した美雨が大切な人達を守ろうと魔法武器を生み出して構える。
「不味いわね…ナオミとの戦いでMAGが底を尽きちゃってるからアマテラスも消えてるし…」
「私だって…もうMAGが残ってないわ。それでも、今度は貴女を守る立場になってあげるわ」
「レイ姉さんとナオミ姉さんは逃げるネ!この正義バカは私が抑え込んでやるヨ!!」
力強い目を向けてくるライドウが腰のホルスターから銃を抜き、レイに向けてくる。
正義を執行する事こそが大衆を洗脳する分かり易さであり時代劇など娯楽世界でも普及してきた。
自分は正義だと信じる者は批判になど耳を貸さない。
正義の物語だけを頭に浮かべたい。
同一性同調洗脳教育の賜物であり、個で考えず周りが正しいと教えることだけを強要する。
ドストエフスキーはイデオロギーに憑りつかれた狂人を悪霊に憑かれていると表現したのだ。
「どうした…ライドウ?なぜ引き金を引かない?」
微動だにしないライドウを不審に思ったのか足元のゴウトが顔を上げてくる。
見ればライドウが持つ銃は震えており、狙いが正確につけられなくなっていたのだ。
「自分は…ヤタガラスのデビルサマナーだ。しかし…これが本当に正義なのか…?」
彼に迷いを生んでしまったのはキョウジの言葉である。
偽りの自分を演じて好かれるよりも、ありのままの自分でいて憎まれる方が遥かにマシ。
その言葉がライドウの胸に響いたのか彼には迷いが生まれてしまいキョウジを倒せなかった。
ここに来られたのも一瞬の隙をついてキョウジを退けただけであったのだ。
「ライドウ…私ね…隠し身を使って戦いを見届けたんだ。私にはこの女の人が悪いと思えないよ」
ライドウの横を浮遊しているモー・ショボーの顔にも迷いが浮かんでしまっている。
今のレイに天誅を与える事が本当に世のため人の為となるのか分からなくなっているのだ。
「迷うな、ライドウ。あの女は多くの者達に悲しみと絶望を与えた者…許されない罪人なのだ」
「罪人ならば容赦なく殺すべきなのか…?それで本当に人々は救われるというのか…?」
「それを決めるのはライドウではない、大切な人々を奪われた
たとえナオミと美雨がレイの罪を許そうとも、レイが殺してきた人達の遺族は決して許さない。
周りの者達が周りの正しさをライドウに向けてぶつけてくる。
その無念の気持ちを汲み取り、悪をやっつける事が本当に正しいのか?
今のレイ・レイホゥを信じてみたい自分の気持ちこそが正しいのか?
全体(LAW)の望みが正しいのか?個人(CHAOS)の信じたい気持ちが正しいのか?
帝都の人々を守り抜くために守護者として生きてきた葛葉ライドウに選択が迫られる時がきた。
「自分は…人々を守る守護者として生きてきた。だが、それでは守れない者がいると…理解した」
決断を下したライドウが銃をホルスターに仕舞ってくれる。
犠牲となった人々の苦しみを踏み躙る判断をしたライドウに向けてゴウトが罵声を浴びせてくる。
「ライドウ!!うぬはそれでも人々の守護者か!?何のために人々を守ろうとしてきたのだ!!」
「ゴウト…先程語った言葉通りだ。悪を裁くべきかは被害者が決める事…彼らが仇を討つべきだ」
「それでも帝都の守護者か!!牙無き民の牙となってこそ14代目葛葉ライドウであろうに!!」
「自分が守りたいのは社会の安寧だ!!この女が再び社会を乱すならば……容赦なく斬る!!」
ヤタガラスの任務を放棄し、心を通わせた仲魔と喧嘩してでも自分らしさを彼は選んでくれた。
疑う事も大事だが、信じる事も大切だと尚紀の老師となってくれた関羽も言葉を残している。
葛葉ライドウは魔法少女の虐殺者として生きた人修羅とは違う道を選んでくれたのだ。
「ライドウ……お前を見直したネ。初めは感情がない、言われた事だけをする人形に見えたヨ」
「……否定はしないさ。それが…今までの自分の在り方だった」
「でも違た…お前は悪人でも信じようとしてくれる…思いやりのある男だと分かて…嬉しいネ」
「……気が変わらないうちに逃げるがいい。しかし、ヤタガラスから逃れるのは難しいぞ」
ライドウ達に一礼をした者達が神浜監獄を後にしていく。
無言で見送るライドウであるが、横のモー・ショボーは嬉しそうに彼に抱きついてくれている。
足元のゴウトは呆れた顔を浮かべながらもレイに対する疑いの気持ちを捨てない腹積もりだろう。
葛葉ライドウは
君子は和して同ぜず、小人は同じて和せず。
和とはすなわち自らの主体性を堅持しながらも他と協調すること、それが君子の作法と説く。
それに対して同とは自らの主体性を失って他に妥協すること。
およそ君子の作法ではなく、小人のすることだと孔子は説いた。
ライドウは本物の和の道に進む覚悟を示し、他と協調する正義の味方となってくれた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「まさか……生きて出てくるとはな」
神浜監獄から外に出てきたナオミ達を待ち構えていたのはボロボロな姿をしたキョウジ。
タバコの煙を燻らせているようだが、レイが生きていた事を意外そうに見つめてくる。
「あたしだって葛葉ライドウに狙われて生き残れたのが信じられないわ。だけど彼を見直したわ」
「ヤタガラスの飼い狐に過ぎないと思っていたが…どうやらそうでもないらしい。おかしな男だ」
「それより何であんたがここにいるのさ?その見た目…もしかしてライドウを抑えてくれたの?」
「勘違いするな、俺は復讐者が屈辱を晴らせたらそれでいいと思う男だ。貴様のためには戦わん」
「なによソレ!自分の部下に死ねだなんて…ほんと、あんたはあたしの気持ちを汲み取る男ね♪」
「フフッ♪私の気持ちにも寄り添うだなんて…貴方に興味が出てきたわ、ミスターキョウジ♪」
嬉しそうに近寄ってきたレイとナオミがキョウジの両腕に手を回し込んで抱きついてくる。
「お、おい、お前ら何をする!?気安く抱きついてくるな!!」
「照れない照れない♪あんたもそういう顔が出来る男だと分かって、あたしは嬉しいよ♪」
「フフッ♪復讐の後なんて考えなかったけど…貴方の下で働くのも面白そうね♪」
不愛想で周りに敵意を撒き散らすキョウジであるが、両手に花では照れた顔を浮かべてしまう。
そんな男の姿が面白かったのか、美雨も笑顔を浮かべてくれたようだ。
「どうやら生き残れたようね、レイ。そしてナオミも生き残ってくれて嬉しいわ」
声が聞こえた方に視線を向ければマダム銀子と呼ばれる者が近寄ってくる。
黒スーツの上から白のコートを肩に纏う銀子はこの光景が分かっていたようにして迎えてくれる。
「葛葉ライドウが見逃してくれてもヤタガラスは見逃してはくれないわ。身を隠す必要がある」
「そうでしょうね…あたしはこれからもヤタガラスから追われる者として…生きていくわ」
「隣の男と同じく、厄介者として生きる道だっていいじゃない。それこそが自分らしく生きるよ」
「フン、ヤタガラスから命を狙われても助けてはやらんぞ。精々俺に迷惑をかけるなよ」
「そうは言うけど、貴方だってヤタガラスの連中から見れば消えて欲しい者よ。同じ穴の狢ね」
「チッ…うるさい女悪魔だ。まぁいい、俺もヤタガラスは大嫌いだし攻めてくるなら迎え撃つさ」
「港に行ってみなさい、私がチャーターしたモーターボートがあるわ。これで街から逃げなさい」
「有難いわ。神浜市はヤタガラスに包囲されてて逃げられなかったけど、海からなら逃げれるわ」
「キョウジ、貴方がレイを送ってあげるのよ」
「どうしてそうなる!?」
「だって貴方はモーターボートを運転出来ると言ってたじゃない?私は運転手を手配してないの」
「くそっ…クレティシャスで飲んでた時に余計な言葉を吐くんじゃなかったな…」
忌々しい表情を浮かべながらもキョウジは自分の車へと歩いていく後ろ姿を見せる。
キョウジの背中についていくようにしてレイも歩くのだが立ち止まり、ナオミと美雨に振り向く。
その顔には迷いもなく、これからの人生を覚悟を決めて生き抜く表情を浮かべてくれている。
「いつかまた会いましょう、ナオミ、美雨!そしてあたし達は…香港時代をやり直していくの!」
それが聞けたナオミと美雨は香港時代の笑顔を浮かべてくれる。
「約束するわ!私も自分の仕事を終えた時は…ミスターキョウジの職場に顔を見せに行くから!」
「私も一緒に行くネ!また始められるヨ…私達…またあの頃のように…生きていくネ!!」
笑顔で手を振ってくれる者達を背に、レイは新たなる人生に旅立つために車に乗り込む。
不貞腐れた顔を浮かべるキョウジに微笑みを浮かべた後、レイは夜道に顔を向けていく。
「神浜市…ここで命が終わるかと思ったけど…あたしに新たな人生を与えてくれた街になったわ」
ポケットから取り出した写真に目を向ける。
そこには大切な思い出が今も残っており、これからも続いていくだろう。
ナオミもまたポケットから写真を取り出して見つめていく。
「この写真…レイの顔を塗り潰すんじゃなかったわね」
「大丈夫ネ、私も同じ写真を今も大切にしているから、コピーしてナオミ姉さんに渡すヨ」
「何から何まで世話になるわね…美雨。貴女こそが…私とレイのまとめ役かもね♪」
憎しみの過去を捨てるためにナオミは黒く塗り潰した写真を破り捨ててくれる。
これからの新しい人生を生きられるナオミの心にはようやく晴れ間が広がってくれたようだ。
そんな彼女に視線を向ける者こそ、天空の世界から召喚者だった者を見つめる不動明王の御姿。
彼の存在に気が付いているマダム銀子は顔を上げ、頷いてくれる。
神々である彼らには世界の未来が視えているのだろう。
この一時もつかの間の平和に過ぎないのだと知る者として、これからを行動していくのだ。
それでも不動明王の表情には喜びが浮かんでいる。
ナオミの新たなる門出を祝う者として、今は喜びに水を差す真似をせず消えていってくれた。
ナオミ&レイの大団円エンドで御座いました!
いやー原作では描けないハッピーエンドを描くと清涼剤噛んだように清々しくなりますね!
ライドウも男らしく自分を貫ける姿こそ、ヤクザも恐れる股間の巨砲をぶら下げる男の姿だということですね(汗)
キョウジさんの分かり易いツンデレを描くのも楽しかったです!