人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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229話 メメント・モリ

車で東京港に訪れているのはアリナと日傘をさした十七夜達である。

 

彼女達は目の前にそびえ立つ超巨大な豪華客船に目を向けているようだ。

 

彼女達の横に立つのはアリナのマスターを務めるシド・デイビス。

 

彼の表情には不快な感情が浮かんでいるが、サングラスを指で押し上げ周りに悟らせまいとした。

 

「ねぇ……本当にアリナ達のためのハウスを提供してくれるワケ?あのルシファーが…?」

 

「…そのようでス。私としても信じられませんネ…大魔王様のお膝元でアリナが暮らすなド…」

 

「それにしても…とんでもないデカさだな。まるで海に浮かぶ巨大な城のようだ…」

 

接岸した巨大船は物資搬入作業をしているようであり、補給のために立ち寄っているようだ。

 

彼らの元へと二台のリムジンがやってきて停車し、後部座席から誰かが下りてくる。

 

現れたのはアリナと十七夜の面倒を見ることになった堕天使ビフロンスの姿であった。

 

「この者達がそうか?」

 

「えエ、そうでス。不肖な弟子をルシファー様の居城に住まわせる事になるとハ…申し訳なイ」

 

「私とて不本意ではあるが…ルシファー様の意思は全てに優先される。面倒をみよう」

 

「このスカルフェイスなオッサンがアリナ達の面倒を見るワケ?オシャレなマスクだヨネ」

 

「無礼を慎みなさイ、アリナ。この御方もエグリゴリに在籍される堕天使殿なのでス」

 

「お前達が住まうのは船の前部となる。私の管轄区である迎賓館であり…言いたい事は分かるな」

 

「ちょ…ちょっと、アリナ達に何をさせる気なワケ…?」

 

ビフロンスが後ろを向けば、お供を務めるメイド達がアリナ達の元にまで来て腕を拘束してくる。

 

「放して欲しいんですケド!?アリナ達に何をさせる気なワケ!?」

 

「住まわせる以上は働いてもらう。お前達用のメイド服を見繕ってもらうがいい」

 

「ワッツ!?アリナがメイドになるだなんて…どんなジョークか分からないんですケド!!」

 

「やれやれ…何処に行っても自分はメイドをやるしかないようだ。余程の縁がある仕事なのか?」

 

「この程度の罰で済んだだけでも奇跡なのだ。本来なら死罪同然の失態を犯した身なのだからな」

 

「寛大なルシファー様のために励むのでス、アリナ。大魔王様の宮殿には汚れ一つ許されませン」

 

「ヴァァァァーーーッッ!!アリナが清掃員みたいなワークをやらないとならないなんて!!」

 

彼女達を連行していったメイド達がリムジンに乗り込み、船の車両甲板に向けて走行していく。

 

見送るシドとビフロンスであるが、アリナがメイドをやれるか不安そうな表情をしていたようだ。

 

補給を終えたルシファーの居城が再び出航するために港から離れていく。

 

メイド長から指導を受けに行く不貞腐れた顔つきなアリナの横を歩く十七夜が窓に視線を向ける。

 

離れていく景色を見つめつつも思うところがあったようだ。

 

(八雲…今の君はどんな人生を送っている?差別が無くなった神浜で幸福に生きているのか…?)

 

ももこ達からみたまの事を伝えられた十七夜は胸が締め付けられる程の苦しみを感じている。

 

悪魔となった十七夜が帰れる場所を残すために多くの事をしてくれた恩人のような親友なのだ。

 

(すまない…自分は君の気持ちに応えられない。自分が残す平等世界をどうか幸福に生きてくれ)

 

自責の念に縛られた者は窓から視線を逸らしてアリナの後ろについて行く後ろ姿だけを残す。

 

全ては自分が救えなかった犠牲者にしてやれる弔いこそが今の自分の価値だと信じて生きていく。

 

神浜テロをもたらした責任を背負う者は悪魔として常闇の世界を生きていくのだろう。

 

罪を背負い込もうとする和泉十七夜であったが、その感情と同じ気持ちを胸に抱えた者がいる。

 

その人物こそ、自分の憎しみを晴らすために神浜テロを望んでしまった八雲みたまなのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

これは人修羅と彼を追う葛葉ライドウが東京捜査のために動き出した時期の出来事である。

 

焼け果てた水名区を歩くのは大東学院制服姿の八雲みたま。

 

両手には供花が持たれており、神浜行政が用意した追悼施設に向かって行く。

 

水名区は神浜テロの主戦場だった場所であり、地区の家屋の半数が東側の人々に焼き尽くされた。

 

そんな街を歩く大東学院制服姿の女子生徒を見つけたならば水名住人達は怒りを表すだろう。

 

「おい…見ろよ。俺達の街を焼いた東側の女が現れたぞ…」

 

みたまを睨むのは瓦礫の撤去作業を続けている水名区の男達。

 

皆が怒りを表しながら彼女を睨んでくる。

 

周りの人々から浴びせられる憎しみの視線に気が付いているのか、みたまは体を震わせる。

 

彼女が東の者だとアピールする制服を着て神浜テロの追悼施設に向かうのには理由があった。

 

「この街を破壊した奴らがどのツラ下げて俺達の前に現れやがったんだ……許せねぇ」

 

「おい、拉致ってボコボコにしてやろうぜ」

 

スコップやつるはしを持った男達がみたまの元に行こうとするが他の男達が止めてくる。

 

「やめろって!神浜人権宣言のせいで…俺達は全国から悪者にされたんだぞ!!」

 

「これ以上何かをやらかしたら…またマスゴミに報道されて肩身が狭くなるんだ!」

 

「うるせぇ!!マスゴミなんぞ怖くねぇよ!!」

 

「連中だけが問題じゃねぇよ!今の神浜は人権の街にされたんだ!通報されたら警察行きだぞ!」

 

「警察なんぞ知ったことか!!この腰抜け共め!!東側の肩を持つ奴らは東の回し者共だぁ!!」

 

喧騒が聞こえだした現場から歩き去っていくみたまの顔は青ざめてしまっている。

 

今の彼女を守ってくれる人権宣言を叫んでくれた尚紀に感謝しながら足早に去っていく。

 

震えながらも道を歩いていき、彼女は神浜テロの追悼施設にまで辿り着けたようだ。

 

追悼施設の中に入り、追悼祭壇に花を置く。

 

両手を合わせる彼女は犠牲者達の冥福を心から祈る姿を周囲の者達に見せてくれたのだ。

 

(やっとこの場所に来る勇気が持てた…。この街を焼いてしまったのは…私の願いのせいよ)

 

彼女の心の中にあるのは和泉十七夜と同じく自責の念であり、今も心を縛り上げている。

 

神浜差別を憎み魔法少女となり、調整屋をしながら神浜テロにも加担する罪を犯した者。

 

かつては断罪者としての尚紀に裁かれかけたが今はこうして無事でいられている。

 

心を入れ替えた尚紀の尽力で神浜の街から表立った差別は消え、彼女の心から憎しみは消えた。

 

それでも心の中には自責の念が消えた事など一度もない。

 

多くの者達に死を撒き散らした者として責任の矢面に立つのは当然の義務だと考えていたのだ。

 

(ヴィクトル叔父様からも言われたわ…罪を犯した私でも…生きてもいいって)

 

やり直しが効かないからこそ人生は面白い。

 

そう彼女に言い聞かせたヴィクトルは罪を背負いながらでも生きていいと言ってくれた。

 

その気持ちは罪を犯した者達全てに当てはまる概念でもあるのだ。

 

(私はもう…この街の人達を絶対に憎まない。憎んでいいのは…憎しみに支配された私自身よ)

 

自分を見つめ直せた者だからこそ、これからはこの街の人々を支える立場になりたいと願う。

 

それこそが罪人の自分なんかを信じてくれた人達への恩返しなのだと彼女は思っている。

 

それでも人間は感情と狭い経験でしか物事を考えられない生き物。

 

どんなに悔い改めた罪人であっても許さない者達はいるだろう。

 

それこそが国家でさえも侵害が許されない内心の自由であり、言論の自由でもあった。

 

「お父さんを返せ!!!」

 

突然の子供の叫びに驚いたみたまが顔を後ろに向ける。

 

そこに立っていたのは同じく供花を行いに来た親子であり、小学生ぐらいの子供が睨んでくる。

 

「コラ、ダメよ!気持ちは分かるけど…東の人達を責めちゃいけないわ」

 

「だって!東の連中が街を焼いたせいで…避難誘導をしてたお父さんは火に飲まれて死んだ!!」

 

「それが警察官の務めだったのよ…。お父さんも覚悟はしてたと思う…だから怒らないで、ね?」

 

「嫌だ!!お父さんを返せ…返してよ……ボクの自慢のお父さんを……返してぇ!!」

 

母親に抱きつきながら泣き喚く子供に対し、みたまの心は罪悪感によって押し潰されていく。

 

子供と同じく無念の表情を浮かべる母親であるが、それでもみたまを罵倒する言葉は叫ばない。

 

「貴女に文句を叫んだって…夫は帰ってこないの。お願いだから…この子の前から消えて頂戴」

 

「私……その……ごめんなさいっ!!」

 

肩を震わせたみたまが走り去っていく。

 

自責の念に耐えられないのか彼女の瞳から涙が零れ落ちていく。

 

罪人を許す者達もいれば許さない者達だって当然いる。

 

被害者の苦しみは加害者には分からないし、詫びれる言葉も無いだろう。

 

「私は…あの人達に何をしてあげられるの?尚紀さんだって償いをしてくれた…私だって……」

 

死をばら撒いた者が償いの道を模索するが、どう償えばいいのかも彼女は分からない。

 

道も分からない気持ちが行動にも表れてしまい、東に向けて逃げたと思ったら西に逃げていた。

 

そんな道も分からぬ迷い人に視線を向ける者が廃ビルの屋上にいたようだ。

 

「…死に憑りつかれ、死の重みに耐えきれない者。…()()()()()()()、戯れながら踊る者か」

 

ハロウィンの黒い道化のような服の上から死神のマントを纏う者が地上を見下ろす。

 

フードで覆われた頭部の顔は全体を覆う白いダンスマスクを被りながら素顔を隠している。

 

しかしダンスマスクの両目には悪魔を表す真紅の瞳が浮かんでおり、ただならぬ気配を醸し出す。

 

何より不気味なのはダンスマスクに赤く描かれた疑問符ペイントだろう。

 

「多くの死者達の怨念に引き寄せられ、この街に流れてきたが…面白い女を見つけられたようだ」

 

白いダンスマスクを用いて顔の内側を一切晒さない者のようだが男性だという事なら分かる。

 

この存在に興味をもたれた八雲みたまは逃れられない死に魅入られる事になるだろう。

 

邪悪な男が周囲に放つ死の気配とは、かつて暁美ほむらを襲った魔人種族と酷似しているからだ。

 

悪霊の如く姿を消し去った男が向かう先とは死の罪から逃げ出した者と同じく新西区であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

気が付けば去年までの癖で新西区の外れである廃墟の街を歩いている。

 

この地区は魔獣もさほど訪れない廃墟の街であり、だからこそ調整屋を構えるのに適していた。

 

しかし店を構えていた場所は今でも立ち入り禁止を示すようにしたテープで遮られている。

 

「ここが私の…罪の象徴。店に訪れた魔法少女達を利用して…私はテロ戦力の拡充を手伝ったわ」

 

今でも直視するのが辛い現場のせいか、彼女は逃げるようにして歩き去っていく。

 

歩きながらも自分の罪を振り返るかの如く去年の秋頃を思い出していくのだ。

 

多くの魔法少女達を調整してきた中で、彼女はあらゆる魂の記憶を視てきている。

 

私利私欲を求める者達や、虐げられ抑圧され続けた末に復讐を叫ぶ記憶だって視てきている。

 

だからこそ、この者達がどんな望みを抱えて暗躍していくのかについては気が付いていた。

 

「私は…あの子達を見て見ぬフリをした…。その気になれば長達に通報だって出来たのに…」

 

もし神浜テロを企てた魔法少女達を取り押さえる事が出来たならここまでの被害規模は無かった。

 

しかしあの頃のみたまは長達に通報すらせず、自ら進んで調整を行いテロの準備を手伝った。

 

その結果が街の惨状であり、さっき叫んだ子供のような犠牲者を無尽蔵に生み出す結果を生んだ。

 

「自分の憎しみばかりを見て犠牲になる人達の苦しみを考えなかった…これが復讐の怖さなのね」

 

善人だろうと悪人だろうと同じ人間であり、同じ心理で動いていくものだ。

 

殆どの場合、自分の努力で過去の痛みを昇華するという方向は取らない。

 

自分を傷つけた相手の行動を変えさせたいという形を取る。

 

自分は無力という屈辱を長期間味わっていけば許せない人となってしまう。

 

正義の人として先鋭化してしまえば悪人と決めた存在を勝手に断罪していく光景こそ報復なのだ。

 

「私は…西側の差別主義者達を許せなかった…。そして…同郷の差別主義者達も許せなかった…」

 

いつしか彼女は傷つけられるのが怖くて偽りのペルソナを被り、周囲に愛嬌を振りまく者となる。

 

ヴィクトルとも出会えた事で悪魔を知る事になり、悪魔研究にも没頭した。

 

全て現実逃避のためであり、ぬるま湯に浸かりながら本当の自分を押し殺そうとした日々。

 

それでも憎しみは消えないまま抑圧され続け、いつしかそれは報復を望む感情と化す。

 

「全てが怖くて…全てが憎かった。だから…私を傷つける存在なんて消えればいいと思った…」

 

みたまの耳に怒りを表す子供の声が響き渡り、泣き喚く哀れな姿が脳裏に浮かんでしまう。

 

彼女の拳が握り込まれ、震えていく。

 

自分を不快にさせたり傷つける者達に向けた怒りではない。

 

みたまを超える苦しみを周りに撒き散らした自分自身への憎しみによって体が震えてしまう。

 

「どうして気が付かなかったのよ…傷つけられる人々の姿に…西も東もないんだってことを…」

 

後悔に苛まれ続ける彼女は贖罪の方法を探すだろう。

 

しかし彼女が犯した罪は余りにも重く、死した者達を生き返らせる術すらない。

 

周りに死を与えた者は死に憑りつかれ、死ぬまで断罪を叫ぶ者達に呪われながら生きていく。

 

罪人となった者はその苦しみを背負いながら生き続けなければならないなら、もはや生き地獄だ。

 

<<人は死を恐れる。己の死を恐れ、他人の死を恐れ、また己の死を恐れる。()()()()()だ>>

 

奈落の底から響いてくる怨霊の囁きの如き声が念話として響いてくる。

 

恐怖に駆られた彼女が俯いた顔を上げて周囲に目を向けるのだが遅過ぎたようだ。

 

「これは……悪魔の異界!?」

 

ソウルジェムを掲げて魔法少女姿になるのだが、彼女は戦う力を殆どもたない者。

 

唯一の力である調整とて魂を操作する手段であり、魔獣や悪魔に有効な攻撃方法にはならない。

 

異界に構築された廃墟の路地裏から出てくる男の姿を警戒する。

 

「死神の鎌を持った悪魔なの……?」

 

現れた存在は先ほどの男の姿であり、右肩に担ぐようにして持つのは死神の大鎌。

 

大鎌の先端は疑問符を描くようにして湾曲しており、疑問符の脇に死を表す4本棘と刃が備わる。

 

「……女よ、何故に生きる?」

 

みたまの前で立ち止まった擬態姿の悪魔男が質問を投げかけてくる。

 

「なんですって…?私が…どうして生きているのかを問いたいの…?」

 

「私は君が分からない。多くの罪を犯した者として断罪を望んでいるくせに…何故に生きる?」

 

「それは……その……」

 

「責めているわけではない、疑問を感じただけだ。答えたくないならば構わないよ」

 

紳士的な態度を見せてくる悪魔に警戒心を緩めたのか、みたまはシルクに似た布を消し去る。

 

「もしかして…貴方は私の罪を断罪しに訪れた……死神さんなの?」

 

「それは違う。君の罪を裁きに現れた魔人が他にもいたはずだ。私は疑問を投げかける者さ」

 

「随分と事情通なのね……」

 

「君の心を覗かせてもらった。黙って覗いた事は謝ろう」

 

「十七夜と同じく読心術が使える悪魔のようね…。全てを見たというなら…話してもいいわ」

 

今までの経緯を知る者として彼女は語っていく。

 

マスクの下の顔がどのようになっているのか悟らせない者だが、やはり疑問を投げかけてくる。

 

「多くの者達が君を許し、生きる目標を与えたようだが…それは他人が与えた答えでしかない」

 

「私自身が出した生きる答えには…なりえないと言いたいの?」

 

「君は与えてもらえた答えに従って望む結果が得られなければどうなる?その人達を憎むのか?」

 

「それは……」

 

「私が聞きたいのは君自身が導き出した生きる答えだ。どうやらまだ答えは出ていないようだね」

 

「貴方は何者なの…?罪人の私なんかを…どうしてそこまで気にしてくれるというの?」

 

「私を表す名は様々であり、固有の悪魔名をもたない。私を例えるならば…()()()()()()()だ」

 

「擬人化された死……?」

 

「答えが出たら聞かせてくれ。私はマスターを失った者だから次のマスターを探す為に街に残る」

 

それだけを言い残した謎の悪魔が去っていく。

 

後ろを振り返る勇気もない彼女は異界が解ける光景を茫然としながら見ている事しか出来ない。

 

「私自身が導き出した…生きる答え……」

 

疑問を投げかけられた事によって八雲みたまは自分だけの生きる答えを求めていく。

 

そんな彼女を見守るかのようにして、謎の悪魔は神浜の地に潜伏するようになっていった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「随分と久しぶりやね……どうしたん?調整屋として何か悩み事でもあるんか?」

 

自分では答えが出せなかった八雲みたまは電車に乗り込んで見滝原市にまで訪れている。

 

この街には彼女の師匠でもある調整屋の先輩がいるので相談に乗ってもらう事にしたようだ。

 

「お久しぶりです……リヴィア先生」

 

牽引式のキャンピングカーの前でみたまを出迎えた存在こそ、出張調整屋を営む者。

 

色黒な肌をもち、紫色をした長髪に黒色を基調とした魔法少女服を纏う成人が近い女性のようだ。

 

眼鏡を指で押し上げた彼女が笑顔で迎えてくれる後ろでは同じく調整屋の卵達がいる。

 

「お久しぶりです、みたまさん。今日はどういったご用件でしょうか?」

 

「ふんむっ♪ふんむふむふむ!」

 

右に控えているのはボーイッシュな見た目をした調整屋の卵を務める少女がいる。

 

左に控えているのは普通の言語を喋れないが元気な態度を見せる調整屋の卵を務める少女がいた。

 

「貴女達も久しぶりね、ヨズルちゃん、すだちちゃん」

 

「外で話すのもなんやし、中に入り。長話になるんやろ?」

 

「いいんですか?それじゃあ、お言葉に甘えて失礼します」

 

キャンピングカーの中に入ったみたまがリヴィア達と向かい合う。

 

「前に連絡くれたのは二年前頃やったね。業魔殿の吸血鬼おじさんは元気にしとる?」

 

「ええ、元気にしてるわ。最近はイメチェンしたのか…頭がおかしいぐらい元気一杯よ」

 

「あの陰険な吸血鬼おじさんがイメチェン?どういう心境の変化なんやろね…」

 

「あの人がいなかったら私は神浜で調整屋を営む事は出来なかった。変人だけど私の恩人よ」

 

「そうやったね。ええなーみたまはスポンサーを見つけられて。私もスポンサー欲しいでー」

 

「移動式の調整屋だとお風呂も大変よね…先生も叔父様の知り合いなんだし支援を頼まないの?」

 

「私は悪魔と関わり合うのはごめんやね。みたまみたいに物好きにはなれそうにないわ」

 

「そうですか…」

 

「悪魔に興味を持つなとはいわへん。でもな…魔法少女にとって、悪魔は天敵でもあるんや」

 

「分かってる…だけど悪魔と関わった事を後悔していないわ。悪魔がいたから私は救われたから」

 

「そうなんか…?まぁ、悪魔は魔獣と違って個性的やから、変わり種もおるってことやろうね」

 

ヨズルが淹れてくれた紅茶を一口飲み、席に座ってくれた3人に向き直る。

 

「今日訪れたのは…多くの事を話さないとならないからなの。長くなるけど…聞いて欲しいわ」

 

彼女は語っていく。

 

自分が調整屋として神浜テロを支援した事や、断罪者となった悪魔に命を狙われたこと。

 

それに断罪者となった悪魔が神浜を救ったことや魔法少女と悪魔の新たな関係等も語ってくれる。

 

長い話を聞かされたリヴィア達の表情は暗く、何よりも調整屋として言える言葉があった。

 

「私はな、みたまがテロに関与した事を責めるつもりはない。私の考えもヴィクトルと同じや」

 

「先生もヴィクトル叔父様と同じ考えなんですね…?」

 

「商売人は全てを想定して商いなんて出来へん。私ら調整屋は中立者として平等に商売するのみ」

 

「でもそのせいで…私は神浜テロの戦力拡充を手伝ってしまったわ。結果はテレビ内容通りよ…」

 

「今となっては死者数は17700人を超えているそうですね…私も驚きを隠せませんでした」

 

「ふむぅ……ふむっふむふむ……」

 

「すだちも怖くて堪らないと言ってます。ですが私達は調整屋…我々は商いをしているだけです」

 

「ヨズルの言う通り。調整も所詮は物売り…物に罪を問うなんて極論を掲げる連中だけなんや」

 

「先生やヨズルちゃんの意見は正しいと思うわ…。だけど…私はそこまで冷徹にはなれないのよ」

 

「みたまさん……」

 

「ふむぅ……」

 

「私はね…東の者として今でも呪われてる。小さな子がね…お父さんを返せって…言ってきたわ」

 

それを言われたリヴィア達は顔を俯けていく。

 

物売りの都合など物売りの正しさであって被害者達の正しさにはなりえない。

 

店で買った包丁で家族を殺された者なら犯人だけでなく店主とて犯人を見逃した共犯にしてくる。

 

被害者達から悪にされ責められる苦しみを抱えた者であり、テロを望んだ気持ちもある。

 

「私は調整屋として中立に商売をした…だけど、心の中では…神浜なんて滅びろと考えていたわ」

 

店主にとっても怨みを抱く者達を殺してくれるなら、犯罪者は店主にとっては都合がいい存在だ。

 

店主である自分は中立者のフリをしながら犯罪者に加担する事を心の何処かで喜んでいたと語る。

 

「私は裁判にかけられたけど…無罪の扱いを受けた。だけど…今でもあの裁判を納得してないわ」

 

「……みたま、あんたはそれを私達に語ってどうして欲しいん?裁かれにきたと言いたいん?」

 

「私は償いの道を探している…神浜人権宣言のお陰で私の憎しみが消えた時…後悔だけが残った」

 

「みたま……あんたは()()()()()()()()()()で」

 

「えっ…?私が……死者に憑りつかれている……?」

 

調整屋の先輩として、物売りの先輩として厳しい表情をリヴィアは向けてくる。

 

彼女は調整屋としての在り方を八雲みたまに伝えた者であり、指導者として責任を感じている。

 

商売人としての大切な部分を伝えきれていなかったのだと判断した彼女は忠告してくれたようだ。

 

「物が人を殺すんやない、人が人を殺す。物売りのあんたが死者に憑りつかれてどうするん?」

 

「ならどうすればいいの…?テロで犠牲者になった人達に向けて私は悪くないと言えばいいの?」

 

「家族を返せと叫ばれたと言うとったな?せやけどな…家族を返せは直接殺した奴に言うべきや」

 

「言えない…そんな薄情な言葉なんて私は言えない!そんなんじゃ…被害者が浮かばれないわ!」

 

「被害者達には被害者達の人生があるように、あんたにはあんたの背負ってきた人生がある」

 

「私の…人生ですって……?」

 

「誰でも人生を転んでしまうもんや…憎まれるべきは転んだ者やない、転んだ原因を憎むべきや」

 

「罪の…原因……?」

 

「テロは東西差別が発端や。なら社会問題を放置し続けた全員に罪がある…みたまだけやないで」

 

「そうです。人間は分かり易い悪を求める連中です…結果だけを切り取って悪人の全てとする」

 

「結果論によって罪人だけが悪者にされる。自分達の罪を棚上げした上で……悪者だけを叩く」

 

「ふんむ!ふむふむふむ!ふんむむむ!!」

 

「すだちもみたまさんは悪くないと言ってます。結果だけを見て原因を考えないのは愚かです」

 

「リヴィア先生…ヨズルちゃん…すだちちゃん……」

 

目に涙を溜め込む弟子の隣に座ったリヴィアが肩に手を置き、微笑みを浮かべてくれる。

 

「罪は皆で背負うべきやで。みたまがサンドバックにされるなら…私が出て行って批判したるわ」

 

「その時は私も先生と一緒に立ちましょう。人生を転んだ調整屋として…言える言葉があります」

 

「ふむぅ!!ふむふむふーむ!!ふんむむむ!!」

 

「皆がみたまの味方やで。罪は皆で背負えばええから…自分だけで背負い込むのはやめときな?」

 

嬉し涙を流すみたまが先生の豊満な胸の中に顔を埋めながら泣いていく。

 

可愛い愛弟子を抱きしめてくれたリヴィアは彼女の頭を優しく撫でてくれたようだ。

 

同じ調整屋に罪を告白した事で心が軽くなれた彼女は帰路につき、リヴィア達が見送ってくれる。

 

「おーい、リヴィア。今日も調整に来たぞー」

 

後ろを振り向けば見滝原市で活動している魔法少女の杏子とさやか達が来てくれる。

 

さやか達に視線を向けたリヴィアは眼鏡を指で押し上げた後、満面の笑みを浮かべるのだ。

 

「さて、辛気臭い空気はここまでや。今日も調整屋を繁盛させるために元気よくいくで!」

 

「はい、先生。ようこそ調整屋にお越しくださいました、佐倉様、美樹様」

 

「だから…その丁寧口調はやめてくれないかなーヨズル?美樹様はその…お尻が痒くなる…」

 

「あたしもさやかと同じだ…ケツが痒くなるから勘弁してくれよな」

 

「ふむ、ふむむむむ、ふむーん♪」

 

「すだちもすだちで今日も何言ってるのか分からないけど…まぁいいか!今日もお願いします!」

 

後から織莉子達も現れた事によって見滝原市に出張している調整屋は忙しくなっていく。

 

そんな光景を遠くから見つめていたみたまの口元には微笑みが浮かんでくれていたのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

多くの人達がみたまを支えてくれる言葉を与えてくれる。

 

しかしそれらは他人の言葉であって彼女の言葉ではない。

 

謎の悪魔はみたま自身が出した償いの答えを聞いてみたいと語り掛けてきた。

 

それが気になる彼女は未だに迷いを抱えたまま毎日を過ごす事しか出来なかった。

 

「どうしたんだよ、調整屋…?」

 

「えっ…?あ…ごめんなさい、ももこ。ボーっとしてたわ…」

 

業魔殿の調整屋でももこのソウルジェムを調整していたようだが、心あらずの状態である。

 

御霊合体を得た魔法少女のその後を経過観察してきたが、どうやらまだ調整が必要なようだ。

 

新たなる悪魔の力を宿そうとも、ソウルジェムは感情の濁りによって穢れを生み出してしまう。

 

そのため魔法少女達の心を調整する必要があるためか八雲みたまは調整屋を続けられていたのだ。

 

「何か悩み事でもあるのか?良かったら相談に乗るけど?」

 

「悩みなら…ももこの方が多いんじゃないの?ソウルジェム内の魂も所々に濁りが見られたわ」

 

「まぁ…あたしも色々と悩みは抱えてるよ。だからって悩んでる調整屋を無視していいわけない」

 

「ももこ……」

 

調整の仕事を終えたみたまを連れたももこが休憩所が設けられているフロアにまで連れてくる。

 

ソファーに座って向かい合うももこに向けて、みたまは胸の内に抱えた悩みを語っていく。

 

「過ちを起こしたらどうやって償えるのか…難しい悩みだな。あたしだって同じ悩みを抱えてる」

 

「ももこも同じ悩みを抱えているの?何か大きな過ちを犯した事があるの…?」

 

「そ、それは……その……フェミニズム問題の時の事だよ…」

 

「あっ……そうだったわね。辛い記憶を思い出させちゃって……ごめんなさい」

 

空気が重くなってしまったため、みたまは別の話題に切り替えてくれる。

 

聞いてみたかったのは魔法少女として何を理由にしながら戦っているのかだった。

 

それを聞かれたももこの目は遠い眼差しを浮かべてしまい、ソファーに首をもたれさせていく。

 

彼女も自分の原点を思い出したかったのか、天上を見上げたまま自分の過去を語ってくれるのだ。

 

「あたしがさ…魔法少女になろうとしたのは勇気が無かったからだってのは知ってるだろ?」

 

「ええ……好きな男の子に告白する勇気が無かったから…キュウベぇに願ったと聞いたわ」

 

「魔法少女になって勇気が貰えたのに…気が付いたら他の女に好きな人を奪われてた」

 

「ももこ……」

 

「アタシはいつだってバットタイミングな女さ。だけど手遅れなら手遅れなりに生きるしかない」

 

「好きな男の子さえ得られず…見返りも無いまま正義の味方を続けられたのは…どうしてなの?」

 

疑問を投げかけてくるみたまであるが、親友のももこはお節介好きな優しい人物だと知っている。

 

他人のために命を懸けて戦うのもそれが理由だと思い込んでいたが彼女はこんな話を語ってきた。

 

「魔法少女として恐ろしい怪物と戦ってきたけどさ…誰からも感謝されないだろ?」

 

「それはそうだけど…ももこは感謝されたいから戦ってきたの?」

 

「最初はそんな気持ちもあったけど魔法少女は誰にも知られない存在。だから見返りなんてない」

 

「それでも戦ってこれたのは…大切な仲間を守るためだったのかしら?」

 

「それもあるけどさ…やっぱりあたしはね、好きだった人に幸せに生きてもらいたいんだよ」

 

照れた表情を浮かべてしまう彼女の心の中には未だに未練も残っている。

 

それでも彼女は魔法少女としての戦いを生きるために未練を隠してまで戦ってくれていたようだ。

 

「魔獣をやっつけてまた学校に行ったら…好きだった人が無事でいてくれる。それで満足なんだ」

 

「自分の恋人になってくれなくても…好きな人を守り抜くために戦ってきたというのね?」

 

「うん…そうだね。献身には見返りが欲しいけど…あたしはお節介だけが生き甲斐なんだ」

 

「そんな辛い人生で幸せなの…?ももこだってまだ未練が残るぐらいに好きだったんでしょ?」

 

天上を見上げていた顔をみたまに向けたももこは照れ隠ししながらもこう口にする。

 

その言葉を聞けたみたまの目は何かを得たのか見開いてしまうのだ。

 

()()()()()()()()()()()()()…アタシだけの思いを貫きたい。だからこそ戦っていけるんだ」

 

――恋する女はね、好きな人のために生きられてこそ辛い現実にだって立ち向かっていける。

 

――アタシが辛い現実と戦ってこれたのは……()()()()()()()()()()()()()からなのかもね。

 

愛する気持ちを貫きたいからこそ辛い現実とだって戦える。

 

この思いだけは誰の言葉でもないし、誰かから譲り受けたものでもない自分だけの感情だ。

 

だからこそ迷いなく進んでこれたし、間違いだったとしても誰かを責める理由もない。

 

それこそが十咎ももこの原点なのだから。

 

得心が行ったのかみたまは微笑んでくれる。

 

「フフッ♪恋する乙女パワーって…凄いわね。調整屋さんはももこを見直しちゃったわー♪」

 

「おいおい…からかうなって。でも少しは元気が出てきたみたいだし語るだけの価値はあったな」

 

ももこを見送ってくれるみたまであるが、自分の思いを確認するようにして右手を()()()沿()()()

 

「愛する気持ちは誰のものでもない…私だけのもの…」

 

みたまが思い出すのは彼女だけでなく、東の人々に光を運んでくれた尚紀と過ごせた日々の記憶。

 

それを思い出すだけで左胸に隠れた心臓の鼓動が高鳴りを始めてしまう。

 

「見返りもなく辛い贖罪人生を生き抜くための答えとは…誰かのために生きる…愛する心なの?」

 

罪人として極刑を望んだ頃の彼女には無かった感情が今のみたまの左胸には宿っている。

 

情熱的なその思いこそが今の彼女に生きる力強さを与えてくれているのだろう。

 

愛する人を守りたい、愛する人のためにこそ生きてみたい。

 

それだけで多くの死と向き合う生き地獄になろうとも立ち上がる強さを与えてくれるのだ。

 

八雲みたまは罪を犯した人間が生きていくために必要な何かに気が付き始めている。

 

多くの死をばら撒き、多くの人から憎まれ、贖罪に耐える者の道は()()()()()()()()()だろう。

 

常闇の如き世界を歩く贖罪者の足を支えてくれている感情を胸に秘め、彼女は進んでいくのだ。

 

愛する男が運んでくれた光を携えた彼女はこれからを生きる答えを導きだしていくのである。

 

そんな彼女を街の何処かで見守る存在こそ、罪人に疑問を投げかけてきた死の悪魔なのであった。

 




常闇みたまさん誕生の合体素材となる悪魔は何者なんでしょうねぇ?
まぁ常闇みたまさんのドッペルがメメントモリなんで、それに該当するメガテン悪魔は一体だけなのでメガテニストには正体バレバレやもしれませんね。
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