人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
人は決断する時、大きな不安に襲われる。
はたして、十分な検討を重ねただろうか?
決断に値する知識を持っているだろうか?
そして考え続けるうちに、決断のための情報には際限がないことに気が付く。
どんな決断であれ、検討材料は無限に存在するだろう。
下した決断に対して、自分では考え抜いたふりをする。
だが本音では自身で予見出来ない不測の事態に怯えている。
選択とは決断を下す前のためらい行為であり、それはある種の精神的なゆらぎ。
我々は常に疑念を抱いている。
正しい行いをしているだろうか?
正しく立ち振る舞っているだろうか?
そして、いつしか自分自身を見失ってしまう。
その思考に陥ってしまった人は、ほんの小さなミスで足を止めてしまうのだ。
確固たる自信があるのならば、
そのことに気づけたのなら人は劣等感に苛まれずにありのままの姿を受け入れられる。
自分自身と上手く付き合っていけるはずだ。
そして、己を信じられるだろう。
全ての人生が正しく、全ての過程もまた正しい。
別の選択肢があったかもしれないが、だとしても
……………。
「私は……このままでいいのかな?」
暗い自室の中でベットに横たわっているのは鶴乃である。
現在の彼女は武者修行のため他県に行った父親に代わり、独りで家を守る生活を送る者。
独りになったことで自由時間を作れたようだが、そのせいで毎日考え事をしているようだ。
彼女は未だに暗い不安を抱えた者であり、その不安を周囲に語ることを迷い続けている。
「あんな恐ろしい国家機密をお爺ちゃんは抱えていたから……暗殺されちゃった」
彼女が抱えている不安の中身とは神浜の地下に建造されたザイオンという秘密都市。
それをジャーナリストに語ろうとしたために彼女の祖父は日本政府に暗殺されてしまった。
「神浜ヘイト条例の時だって日本政府は暗躍していた……日本の政治は悪そのものだよ」
鶴乃は子供なりにテレビを見ながら日本の総理大臣がコロコロ変わる現象を不思議がった者。
そして日本の政党が推し進めてきた法律によって日本社会がよくなったとは思えなかった者。
だからこそ日本の政治そのものが日本人の味方ではない悪だと考える結論に達したのだ。
「私達は正義の魔法少女……人々を苦しめる悪を放置なんて許されないよ。だけど……」
寝返りをうちながら抱き枕に抱き着く彼女の体は恐怖心に支配されながら震えていく。
恐怖心に支配されるのは祖父を取材しにきたジャーナリストが暗殺された現実を知る者だからだ。
暗殺現場に偶然居合わせてしまった彼女は父とともに恐怖した。
国家機密を追う者は誰だろうと何処にいようと追い詰められて殺されるしかない光景だったのだ。
「お爺ちゃんは恐怖心を抱えてたから…あのジャーナリストさんが現れるまで秘密にしたんだね」
もし自分が抱えている国家機密を正義の魔法少女達に喋ってしまえばどうなってしまう?
何処に監視があるかも分からない暗殺者にいつ殺されるか分からない人生を周りに与えてしまう。
そんな未来を考える彼女は自分の祖父と同じように苦しみ、仲間達に秘密を語れなくなったのだ。
「言えない……誰にも言えない。私だけ殺されるならまだいい…私の仲間まで巻き込まれたら…」
仲間の未来を思いやる気持ちと自分達が掲げる正義の感情に板挟みされた鶴乃は苦しみ続ける。
精神の袋小路に陥りながらも彼女は選択を抱え込み、迷いぬく者となってしまう。
不測の事態に陥ってしまったリスクを考えるなら、秘密を周囲に語るなどありえない。
リスクを恐れるあまり鶴乃もまたやちよと同じく御上に迎合する者に成り果てようとしている。
何も知らない馬鹿を装い、権力に降伏して譲歩の御慈悲を貰うのが物事の分かる大人な態度。
古来からの卑屈民族である日本人らしい発想に陥った鶴乃もまた保身に走る選択を望んでしまう。
だが彼女は正義の魔法少女であり、正義は悪に屈する者ではないと信じながら戦った者。
やちよと同じく物事の分かる大人になりきれない鶴乃は今日も悩み苦しむ生活を送るのであった。
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今夜の魔獣パトロールを行っている者達とは七海やちよをリーダーとする魔法少女達。
相棒の梓みふゆは都ひなののスペシャルドリンクの影響を受けたようだが現在は回復している。
そんな彼女達の後ろについていくのは顔を俯けたまま歩く由比鶴乃の姿であった。
「……おかしいですね」
左手にソウルジェムを生み出して歩くみふゆであるが浮かない表情をしている。
横を歩くやちよもそれに気が付いているのか彼女に語り掛けてきたようだ。
「そうね……最近、魔獣の出現率が低下しているような気がするわ」
「それは喜ばしいことなんですが…問題なのは魔獣ではなく、神浜に悪魔が出現するんですよ」
「この神浜はテロで焼かれた街…多くの呪いを抱えている。だけど、ならなぜ魔獣は消えたの?」
「分かりません…。まるで
「魔獣が生み出すグリーフキューブですら今はもう重要性が薄い……悪魔の魔石で事足りるわ」
「それに私達やかりんさんのように悪魔を仲魔にしてる魔法少女は、それすら必要ありません」
「悪魔達が私達の穢れを吸い出してくれる。悪魔の存在は魔獣以上に私達を生存させてくれるわ」
「それだけなんでしょうか…?私達は悪魔の存在について過小評価するわけにはいきません」
「そうね…知恵ある悪魔は魔法少女を喰らう存在でもある。魔獣以上の警戒が必要になるわね」
「悪魔会話出来る分、魔獣よりマシですが…知恵あるからこそ手段を選ばない戦いもしてきます」
「悪魔という存在は私達にとって希望となるのか…それとも新しい絶望か…難しいわね」
そんな話をしていたようだが、会話に入ってこない鶴乃を不審に思ったのか後ろに振り向く。
どうしたのか聞いてきた仲間達に反応した彼女は顔を上げながら空元気な態度でごまかしてくる。
「もう新学期だけどボーっとしてちゃダメよ、鶴乃」
「うん…ごめんね。最近さ…色々と考え事が多くてね…」
気を取り直して歩いていくと、角を曲がった辺りで悪魔の魔力を感じ取る。
「この魔力パターンは悪魔です。この先にある建設予定のビルに潜んでますね」
「会話が出来るタイプの悪魔なら先ずは悪魔会話よ。話しても分かり合えないなら戦うしかない」
走っていくやちよ達であるが後ろを走る鶴乃は立ち止まってしまう。
彼女が振り返った場所にあったのは防犯カメラ。
まるで鶴乃の姿を映しているかのようにレンズが向けられ続けている光景に背筋が凍り付く。
「私を見張ってるの…?そんなことないよね…?私の……気のせいだよね……?」
怖くなった彼女は走り出し、やちよ達の背中に追いついていく後ろ姿を残すのだ。
スマートシティ化された神浜市は防犯意識が極めて高い安全な街ともいえるだろう。
それは裏を返せば、誰もが
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異界の中に構築された建設ビルの中では魔法少女達が悪魔と戦いを繰り返す。
悪魔会話を試みようとしたのだが、相手は人間の言語を理解出来ないタイプの悪魔であった。
「ハァァァァァーーーッッ!!」
魔法槍を一回転させたやちよの周囲に発生した水分が氷結していき、氷の槍を形成していく。
氷の槍を無数に発射するマハブフの一撃が直撃して氷結したのは吸血悪魔であった。
【チュパカブラ】
南米で目撃が噂される吸血UMAであり、スペイン語で山羊の血を吸うものと言われている。
1995年に初めて目撃例が現れ、多くの家畜を襲い血を吸ったようだ。
「トドメよ!!」
複数の魔法槍を生み出したやちよが突進攻撃を行い、氷結したチュパカブラ共を串刺しにする。
<<グギャァァァァァーーーッッ!!!>>
巨大なトカゲめいた吸血悪魔は粉々となりMAGの光を撒き散らす最後を迎えたようだ。
下の階では鶴乃とみふゆがコンビを組みながら戦っている。
「取り憑いた人達の中から出ていきなさい!!」
「駄目だよみふゆ!悪霊タイプの悪魔はまともに悪魔会話出来ないよ!」
みふゆと鶴乃を囲んでいるのは複数の人々である。
だが彼らの体からは黒い霧のようなものが生み出されており、頭上に悪魔を形作る。
彼らに取り憑いていたのは怨霊悪魔の類であったようだ。
【ディブク】
中世以降のヨーロッパのユダヤ人達の間に伝わる悪霊であり、人間に取り憑き体と魂を支配する。
輪廻を許されず彷徨う人間の死霊とされ、安住の地を見付ける事が出来ずに人間に取り憑く。
その体と魂を支配して精神に異常を引き起こすとされていた。
<<グッ……ごがっ……グガァァァァァーーーッッ!!!>>
形を成した悪霊に操られた者達が魔法少女達に飛び掛かっていく。
それを制するためにみふゆが放つのは悪魔の攻撃魔法である。
「その動き、封じます!」
巨大なチャクラムを回転させながら放つのは『スクンダ』と呼ばれる魔法。
敵全体の命中率と回避率を落とされたため、襲い掛かってくる人間達のスピードが落ちる。
動きが鈍化した相手など自己流拳法ではあるが手練れである鶴乃の敵ではない。
「アチョーーーーッッ!!」
次々と回転蹴りと功夫扇の一撃を放ち、舞うように移動しながら人々を打ち倒す。
取り憑かれた者達の中から逃げ出そうとする悪霊に向けて跳躍した鶴乃が炎魔法を放つ。
「チャチャーーーッッ!!」
功夫扇で薙ぎ払うようにして放たれたのはマハラギであり、複数の火球が悪霊に直撃する。
<<グゴァァァァーーーーッッ!!!>>
浄化の炎で焼き尽くされた悪霊達が消失していき、着地した鶴乃がブイサインを浮かべてくる。
そんな姿に微笑んでくれるみふゆであるが、別の魔力を感じ取った彼女が外に視線を向けるのだ。
「鶴乃さん!!」
「えっ!?あ、あの巨大な悪魔は何ッッ!!?」
建設途中のビルの横にある空き地ではビルから跳躍してきたやちよが悪魔を相手に奮戦中だ。
見れば新手の悪魔は巨体であり、やちよの体など片手で捻り潰せる程であった。
【ティターン】
ギリシャ神話に登場する巨神族であり、ウラノスとガイアの間に生まれた三つの巨人族の一つ。
バルカン半島においてゼウス信仰が確立する以前の古い時代の自然神であり大地を象徴する。
ウラノスの後を継いで主神となったクロノスもティターンの一柱である。
ティタノマキアの戦いでゼウスらに敗れて多くは地底タルタロスに封じられているとされた。
「グッハハハ!!香ばしい呪いに包まれた街にやってくれば、魔法少女も豊作ときた!!」
全長30メートルを超える巨大な巨神族を相手に奮戦するやちよが叫ぶ。
「私の言葉が分かるなら話を聞きなさい!!人間社会を襲うのは即刻やめて立ち去るのよ!!」
「嫌なこった!!人間の魂も美味いけど魔法少女の魂はもっと美味い!!暫く街に居つくぜ!!」
「聞き分けのない悪魔ね……警告はしたわよ。人々を襲うなら、正義の魔法少女が相手よ!!」
「ケッ!!魔法少女がなんぼのもんだ!!その小さい体ごと飲み込んで魂を喰ってやる!!」
建設資材が置かれた場所を跳躍移動しながらティターンの攻撃を回避していく。
巨体を用いて暴れまくり、建設資材を踏み潰していく相手にめがけて跳躍体勢から槍を掲げる。
彼女の槍が氷結していき、巨大な氷の槍と化す。
「くらいなさい!!」
大きく跳躍しながら放ったのはブフーラであり、相手にめがけて巨大な槍が飛翔していく。
しかしティターンは右手に持つ巨大な剣でギロチンカットを放ち、氷の槍を打ち砕いてくる。
「なんて力なのよ!?私の魔法を力任せに砕いてくるだなんて!!」
「俺を誰だと思っている!!ギリシャ神話のティターン神族の者を相手にしているんだぜ!!」
「ティターン神族ですって!?神を相手に戦うことになるなんてね…悪魔の世界はイカレてるわ」
「魔法少女が悪魔の魔法を使ってくるとはな!変わった街だが気に入った!!その力を示せ!!」
ティターンはグラディエーターを思わせる鎧の兜に備わったバイザーを持ち上げる。
素顔を晒した巨人が口を開け、ファイアブレスを放ってくる。
巨人が放つ業火が周囲を焼いていくが、やちよは跳躍を繰り返しながら業火を避けていく。
「悪魔の力をどうして人のために使おうとしないの!サマナーと共に生きる道もあったはずよ!」
「自由こそが悪魔世界の不文律!!自由を掲げる悪魔だからこそ!好き勝手に生きるのさ!!」
「自由には責任が伴うわ!!貴方はその代償を支払う覚悟があるんでしょうね!?」
「殺すも殺されるも悪魔の日常茶飯事!忌み嫌われようとも、この矜持だけは悪魔の誇りだ!!」
――
「命の代償を支払うリスクを恐れないようね…いいわ。ここをお前の墓標にしてあげる!!」
やちよの援護に向かうためビルから飛び降りていくみふゆだが、鶴乃は動けない。
彼女はティターンが叫んだ言葉が頭に響き渡り、動揺を起こしている。
「忌み嫌われてでも……命のリスクを支払ってでも……自分を貫ける輝きを求める……」
動けない鶴乃に代わりやちよとみふゆが奮戦していく。
しかし巨大な巨人は想像以上にタフであり、暴れまくるその巨体を2人は止められない。
「せめて奴の動きが止まってくれたら……」
「私達だけの火力では届かないのですか……?」
魔獣以上の力をもつ悪魔を相手に迷いを浮かべていた時、2人にとっては仲魔の念話が響く。
<なら、その役目はあたしがやる>
建設ビルの隣にあるビル型多層駐車場の屋上にまで駆け上っていくのは一台のバイクである。
リッターバイクのネイキッドモデルであるZ900RSが夜の闇を切り裂きながら上っていく。
上に跨っているのはオートバイゴーグルを顔に纏った雪乃かなえ。
屋上にまで上ってきたバイクに視線を向けるティターンの顔に目掛けてバイクが突っ込んでくる。
悪魔衣装である貴族服の赤いマフラーをなびかせる者が屋上フェンスを突き破りながら跳躍。
鈍化した世界。
迫りくるバイクの上で両腕を構える彼女が両手に持つのは魔槍ルーン。
バイクで上りながらタルカジャを最大にまでかけたうえで気合まで行使した一撃を放つ時がくる。
「ガハッッ!!!?」
最大火力となった槍の一撃が巨人の頬を打ち、同時に烈風破の衝撃波が顔全体に広がっていく。
倒れこんでいくティターンを超えたバイクが建設ビルの中にまで飛び入ってくる。
着地と同時にバイクを横倒しにスライドさせたかなえは片足をついたまま滑り続ける。
壁に激突する前に停止出来た彼女の自殺もののスタントアクションを無駄にする仲間ではない。
「やるわよ!みふゆ!!」
「先に仕掛けます!!」
かなえの最大火力の一撃をもってしても倒せなかったティターンが巨体を持ち上げていく。
しかし彼が見た光景とは満月の光に照らされた砂漠の世界。
<<夢と現実を超えた幻覚の世界を味わいなさい!!>>
突然砂漠に大穴が開いた事でティターンの巨体が下に落ちていく。
暗闇の世界で落ち続ける彼に迫りくるのは無数の巨大チャクラムである。
「グァァァァァーーーッッ!!?」
巨大な剣で切り払おうとするが幻惑によって狙いがつけられず、次々と体が切り裂かれていく。
みふゆのマギア魔法であるアサルトパラノイアの世界はまだ終わらない。
<<逃がさないわ!!>>
上空から迫りくるのは、やちよが放つマギア魔法。
赤黒い巨大な槍が次々と雨のごとく降り注ぎ、槍がティターンの体に突き刺さっていく。
<<私の槍で……貫くから!!>>
落ちていく奈落の底から飛翔してくるのは槍を構えたやちよの姿。
冷気魔法を最大にまで解放した彼女が放つ巨大な槍がティターンの体を貫く。
「グワァァァァァーーーーッッ!!!」
巨大な体を貫き、天に昇らんとするやちよの『アブソリュート・ラピッズ』が敵を屠る。
みふゆが築いた幻惑世界が解放された時、そこにはティターンの巨体は存在していない。
残っていたのは夜空に向けてMAGが吸い上げられていく光景だけが残されていた。
「何とか倒せましたね、やっちゃん」
駆け寄ってきたみふゆに顔を向けたやちよが微笑み、拳と拳を合わせあって勝利を喜び合う。
そんな中、建設ビルの方からバイクで駆け下りてきたかなえが近寄ってくるのだ。
「かなえ!せっかく尚紀から貰えた給料で買えたバイクが壊れるところだったじゃない!」
「そうですよ!あんな危ない運転なんて二度としないで下さいね!」
プンプンした顔を向けてくる2人であるが、かなえは呆れた表情を返してくる。
「やちよとみふゆだって…あたし抜きで悪魔と戦う危険を犯した…だからバイクを飛ばしてきた」
「そ、それは……その……」
「魔獣退治ならまだしも、悪魔を相手にするのは危険なんだ。今度はあたしを頼って欲しい」
「それについては反省してます…。それより、鶴乃さんを見かけませんでした?」
「見かけたけど、ずっと立ったまま顔を俯けていた…。声を掛けても返事をしないし…」
心配になった3人が顔を建設ビルの方に向けていく。
ずっと立ったままの鶴乃は自分が情けないのか手を握り締めながら震えていたのであった。
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鶴乃が心配な3人は彼女を家まで送っていくことになる。
かなえもバイクを押しながらついてきてくれるようであり、4人は万々歳を目指していく。
そんな時、落ち着きたいから公園に寄って欲しいと鶴乃が言い出してくる。
彼女達は万々歳近くにある公園に立ち寄り、鶴乃を公園ベンチに座らせたようだ。
「冷たい飲み物でも買ってくる。尚紀から貰えた給料はまだあるし」
「そ、そんな!そこまで気を使ってもらわなくてもいいよ……」
「気にしなくていい、鶴乃も大事な仲間なんだ」
黒のライダースパンツとジャケットを纏うかなえが踵を返してコンビニを目指す。
「ついでに一服もしてくるから、先に話を始めておいて」
「かなえ……貴女タバコ吸うようになったの?」
「あたしは今年の四月で二十歳だよ。高校生だけど……もう未成年じゃない」
「そういう問題じゃないでしょ。尚紀みたいにヤニ臭くなっても知らないわよ?」
「あたしは元々煙臭い女だったよ。やちよとみふゆはそれをよく知ってるはずさ」
それだけを言い残したかなえが去っていく。
そんな彼女の後ろ姿が何処か魔法少女時代のかなえの姿と重なって見えてしまう仲間達であった。
「フフッ、たしかに…煙臭い魔法武器を振り回してたわね、かなえは」
「煙が恋しいのかもしれませんね。それにかなえさんはロックが好きだしタバコも似合うかも♪」
「そういう問題じゃないんだけど……まぁ、みかづき荘の中では吸わないで欲しいわ」
2人が後ろを振り向けば、ばつが悪い態度をしている鶴乃がいる。
何か深い悩み事を抱えていると察したやちよとみふゆは優しい言葉をかけてくれるのだ。
「何か悩み事でもあるの、鶴乃?戦闘中でさえ悩んでしまうぐらいのものなの?」
「私達で良ければ相談に乗りますけど…話してくれませんか?」
2人の優しさが嬉しい鶴乃であるが、心が温まるよりも恐怖心の方が大きい。
そんな彼女だからこそ、こんな話を持ち出してくれた。
「私ね……さっきの悪魔が言った言葉がね……胸に刺さるぐらい……かっこよかったの」
「あの悪魔が叫んだ言葉が……かっこいいですって?」
「どういう意味なんでしょうか…鶴乃さん?」
オドオドした態度を浮かべながらも、言葉を選びながら鶴乃は聞いてくる。
「2人はさ……自由(CHAOS)という概念について…考えたことはある?」
「自由という概念について……?」
「例えばね…言いたい言葉があるのに周りの同調圧力が怖くて…何も言えなかった経験はない?」
それを問われた時、やちよとみふゆの顔が俯きながら黙り込んでしまう。
やちよの頭に浮かんだ苦い記憶とは、モデル事務所の社長に平謝りして自分の意思を曲げた記憶。
みふゆの頭に浮かんだ苦い記憶とは、伝統に縛られた水名が怖くて差別反対と言えなかった記憶。
「私もね…言いたい悩みがあるのに…怖くて言えない。だからね…自由を貫く悪魔が羨ましい…」
「鶴乃……」
「リスクを恐れず、自分を貫き、刹那の中で輝ける者に悪魔はなれてるのに……私はなれない」
「私もリスクを恐れたから自分の意志を曲げた事があります。怖くて差別反対と言えなかった…」
「私もヘイト条例反対と叫びたかったのに…モデルをクビにされるのが怖くて…意思を曲げたわ」
「気持ちは分かるよ…私も怖くてたまらない…。リスクに耐えられなくて…悩みを語れないの…」
同じ苦しみを抱えた者同士が席に座りあい、自分に足りなかったものが何かを考え出す。
「私ね…悪魔の尚紀にも同じ質問をした事がある。そしたら彼は…こんな言葉を送ってくれたの」
――自分が自由だと思うためには、
「悪魔は自由で羨ましいと思うかもしれない…。でも、自由には責任も伴うのよ?」
「だけど…リスクを支払えば我慢を強いられなくて済むよね?2人も我慢を強いられたでしょ?」
「それは……」
「リスクを取らず、私達は我慢に耐えてきました…。その末路が……神浜東西差別だったんです」
「現在の生活は全部…私達が我慢を選んだせいで生まれたもの。これってさ……幸せなこと?」
それを問われた時、やちよの心の中には深い後悔が生まれてしまう。
中学時代、たとえ魔法少女であっても好きな男に告白していたらと後悔し続けてきた。
だからこそ、みたまにも同じ苦しみを味合わせたくないと彼女の恋路を後押ししたのだ。
「リスクを恐れず…大胆に突き進むべきだと言葉を残した詩人がフィレンツェにいたわ」
新しいことをしようとする時、人はもっともなことを言って、それを止めさせようとする。
しかし、直感が一番正しいのだ。
自分が進むべき道は、自分のリスクで、大胆に突き進むべきだ。
自分の直感に自信がないと、人の言うことに流され、自分の道を断念する時がある。
しかし後になって、あの時の自分の直感が正しかったと気づく、その時の後悔は最悪だ。
自分の直感を信じて、自分の道を敢然と進めという言葉を残した詩人こそがダンテであった。
「私は私の道を進めばいい…他人には勝手なことを言わせておけばいい。それが……自由かもね」
「なんだか凄く我儘にも聞こえますが、だけど…自由があるからこそ、私達は救われるんですね」
「それがきっと…尚紀が語ってた個の確立なんだって……私は思うよ」
自由という概念は、早い話が
それを行えば正義の魔法少女達はいい子ちゃんだとは認められなくなり、悪者にされるだろう。
だが現実的に考えて、いい子ちゃんを続けられる人間がこの世に存在しているのか?
生きているだけで他人に迷惑をかけ続けるのが人間なのだと叫んだ者が神浜にはいたはずだ。
悪魔のような社会悪になってでも、貫きたい意思を果たすためには何が必要か?
尚紀は鶴乃に語ってくれたはずだ。
自分が自由だと思うためには、やりたい事を制限する意識を取り除く事が重要なのだ。
だが、自由にはリスクという名の責任が伴うもの。
自由が欲しくてたまらないはずなのに、リスクを恐れて人々は自分で自由を捨てていく。
周りに合わせるだけの群衆生物と成り果て、個が消滅して全体主義化をもたらしていく。
その光景こそが神浜東西差別であり、歴史に逆らえない全体主義社会にされてしまった原因だ。
これこそが周りに合わせて迷惑をかけないという秩序(LAW)に従うことが美徳とされた世界。
何処に人間という
そんな世界など周りと同じ規格品という名のロボットで埋め尽くされた無機質な世界でしかない。
唯一神の下僕であるLAWの天使やインキュベーターと何も変わらない人間の姿がそこにはある。
ならばこそ、時には悪魔の如く自由(CHAOS)を掲げる者にならなければならないはずだ。
「私……先に謝っておくよ。本当にごめん……きっとみんなに……凄く迷惑をかけると思う」
立ち上がった鶴乃がやちよとみふゆの前に立つ。
胸に手を当てれば心臓がバクバクと揺れ動き、喋れば訪れるだろう命のリスクが迫りくる。
それでも彼女は勇気を振り絞らなければならない。
周りの者達に迷惑をかけてでも、伝えたい気持ちがあるのなら果たさなければならない。
大切な仲間達が出来なかった勇気を示す道を、由比鶴乃が示さなければならないのだ。
「この話は…私のお爺ちゃんが暗殺された程の国家機密になるの。それでも……聞いてくれる?」
体が震えながら目に涙を浮かべても覚悟を示す仲間の姿が目の前にいてくれる。
勇気を示す者になろうとしてくれる仲間のためにこそ、やちよとみふゆも腹を括ってくれるのだ。
「分かったわ……語って頂戴。それで私達に危害が及ぼうとも……私は貴女を憎まないわ、鶴乃」
「私もやっちゃんと同じ気持ちです。きっとかなえさんも同じだと思う……もう少しだけ待って」
「うん……分かった。彼女が聞いてくれる覚悟を見せてくれたら話すよ…」
かなえも戻ってきた時、彼女も同じ答えを示してくれるだろう。
3人のためにこそ、鶴乃は自分の胸に押し殺してきたザイオンの秘密について語ってくれるのだ。
そんな彼女達の姿を遠くから見つめている人物がいる。
偽装トラックの助手席に座っていたのはイルミナティのエージェントであるキャロルJだ。
「……好奇心は猫をも殺す。悪魔のように自由を行使するってんなら責任を果たすんだな、小娘」
邪悪な笑みを浮かべる彼はヘアブラシを取り出しながら髪型をキメていく。
その後、鶴乃が抱えた国家機密を聞かされた者達は家に帰りつくことになるだろう。
それでもやちよの胸は恐怖と不安でいっぱいであり、鶴乃の身を案じてくれる。
寝る前にスマホを取り出し、鶴乃のスマホに電話を入れてみる。
「おかしいわ……どうして繋がらないの!?まさか……まさか……ッッ!!?」
恐怖心が爆発したやちよは深夜であろうとも仲間達に連絡を入れていく。
鶴乃が暮らす中華飯店万々歳。
その店はシャッターで閉じられているはずであるが、恐ろしい傷跡が生々しく残っている。
家は悪魔の如き狂爪で破壊されており、店の前は騒ぎを聞きつけた人々で溢れていたのであった。
この物語で七海やちよさん達の活躍は最後になるかもしれません。
環姉妹が人間として死んだ宇宙では、みかづき荘組の活躍は生まれないと考えましたので。
まぁ、ぶっちゃけるとキャラ多過ぎ問題で扱いきれなくなった作者の都合なんですけどね(汗)