人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
東京某所の高層ビル内の会議室にて対策会議が開かれている。
内容はザイオンの秘密を周囲に漏らした由比鶴乃と彼女から秘密を聞いた者達に対する処置。
キャロルJも殺害されていることもあり、彼らは秘密が外部に漏れる事を憂慮している。
しかし会議に出席するシド・デイビスの考え方は違っていたようだ。
「たとえ秘密を漏らそうとモ、信じる者などいませン。我々はオーダー18に集中するべきでス」
「大事の前の小事だと言いたいのだろうが、キャロルJが殺されている。我々も看過は出来ない」
「あのような弱者なド、我々は必要としなイ。足手まといを始末してもらえたと思えばいイ」
「我々のことについての情報を吐いている可能性もある。今直ぐ始末するべきだと思うのだが?」
「心配性ですネ、フィネガン。我々が敷いてきたマインドコントロールは無敵なのですヨ」
「確かにそうだが…問題なのは組織の者が殺されたのに手を出さないでは示しがつかんのだ」
「勿論、連中には全員死んでもらいまス。その結末は地球に蔓延る非生産的家畜共と同じでス」
「……ワクチン接種で殺すのか?」
「彼女達も未知の病魔を恐れるでしょウ。我先にとワクチンに飛びつくはずでス」
「……我々のワクチン接種を疑う賢人共が神浜の魔法少女の中にいたとすれば?」
「問題になりませン。ワクチンを打たない者はバイオテロリストにされル。そのための作戦でス」
「……確かに、そのためのオーダー18でもあるな」
「我々に立てついた魔法少女ハ、苦しみ悶えながら死んでもらウ。
会議場の様子を隠し身の技術を用いて見物している悪魔がいる。
彼は気が付かれないよう溜息をつき、そっと会議場から出ていく。
その様子をサングラスごしに視線を向けていたフィネガンであったが視線を戻したようだ。
その頃、高層ビルの屋上には人型の悪魔が立っている。
黒いマントで全身を覆いながら遠くの景色に視線を向けていたのはシドが使役するクドラク。
遠くの方角にある都市とは神浜市であり、眉間にシワを寄せながら忌々しい表情を浮かべている。
怒りを押し殺すことが出来ない彼の背後に近寄ってくる悪魔に気が付いたのか後ろを振り向く。
「……どうだった?会議の様子は?」
近寄ってくる悪魔は身長185cmあるクドラクよりもずっと大きい。
三メートルにも上る身長をした悪魔はつまらない態度を浮かべながら報告してくる。
「ダメだ、下の連中は神浜の魔法少女を襲いに行く気がねぇ。ワクチンで仕留めるとよ」
笠帽子を被った馬頭と骨が浮かぶほど痩せた姿をした者の報告を聞いたクドラクは舌打ちを行う。
背後に現れた悪魔とはフィネガンが使役する悪魔の一体であった。
【クバンダ】
ラーマーヤナに登場する身長三メートルはある大柄なラクシャーサ。
仏教においては馬頭人身であり疾風のように早く動き、人々の精気を吸い取る魔物とされる。
人々に恐れられているが四天を守る四天王のうち、増長天に仕える悪魔でもあった。
「何を考えてるのか分かるぜ、クドラクの旦那。そんなんじゃ腹の虫が収まらねぇ…だろ?」
クドラクの横に立ったクバンダが同じ方角に視線を向ける。
纏う赤いマントと笠帽子に備わった珠のれんが夜風に揺られる中、恐ろしい囁き声が響く。
「……もうシドなんぞ関係あるか。たとえ行くなと命令されても……オレは神浜に行くぜ」
憤怒に歪んだ表情を浮かべるクドラクの頭の中にあるのは憎き存在。
何度も煮え湯を飲ませてきた魔法少女である十咎ももこと、因縁の宿敵であるクルースニク。
この存在を自分の手で八つ裂きにしなければ気が済まない程にまで怒りを溜め込んできた。
「…もうシドの旦那の元には戻らない覚悟で行く気ですかい?」
「そうだ。オレはもうアイツの下で働くつもりはねぇ。好き勝手にやらせてもらうさ」
「そいつは粋な判断だ。儂も神浜には心残りがある、ついて行きやすぜ」
「テメェも神浜に心残りがあるのかよ?」
「儂は里見太助の娘と家政婦をやってた娘をさらったもんさ。喰い損ねたのが心残りなんだ」
「なるほどな。だがフィネガンが動かない以上はオレと同じく独断行動だ。覚悟はあるのか?」
「フィネガンは堅物だ、大食いの儂は散々我慢を強いられる命令をされてきた。潮時だな」
「へっ、それでこそ悪魔ってもんだ。オレ達悪魔の自由は誰にも邪魔させねぇさ」
「まぁ、イルミナティと縁を切ったら食肉製品に困ることもあるが、自分で調達して調理するさ」
「テメェは痩せの大食いのくせに人間をそのままの状態で丸ごと喰えない奴だったな」
「儂はグルメだからな、調理した少女の肉しか喰わんのさ。里見太助の娘の肉は美味そうだった」
「テメェがついてくるのは丁度いい。耐性強化したオレだが日中の行動は未だに苦しいからな」
邪悪な笑みを浮かべる悪魔達が跳躍し、ビルを飛び越えながら東京を後にしていく。
シドとフィネガンが気が付いた時にはもう遅い。
彼らは神浜に向かい暗躍するだろう。
悪魔として、己の自由を貫く道を体現するために動き出すのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「ムッハハハハ!!そうか、やはり吾輩を頼るしかあるまいな、葛葉!!」
業魔殿に訪れているのは葛葉ライドウとゴウトである。
彼らは人修羅と共に東京捜査に赴いていたのだが戦いによってライドウは重体となってしまう。
モー・ショボーの献身的な治療によって傷を癒せた彼は神浜に戻り業魔殿にやってきたようだ。
「ヴィクトル、ライドウが作り上げた悪魔全書はまだ持っているか?」
「勿論だとも。葛葉のカルテは吾輩にとって大切な思い出の品だ。大事に保管している」
「ライドウは二体仲魔を失ってしまった。新たな力を必要としているわけだ」
「うむ、ではイッポンダタラに貴様のカルテを持ってこさせよう。しかし代金はどうする?」
「自分が払おう。超力兵団と戦った時に手に入れたマッカがまだ残っている」
少しすると悪魔合体施設内にメイドのイッポンダタラがサービスカートを押しながらやってくる。
「仲魔を失った召喚管をカートに置くがいい。選んだ悪魔をストックしてやろう」
ライドウはハイカラマントから手を伸ばし、二本の召喚管をヴィクトルに渡す。
一本の召喚管はカートに置くのだが、もう一つの召喚管を興味深そうに見つめてくる。
「むぅ…これはデジャブか?大正時代の頃にもこれと同じ出来事があったような気が……」
ヴィクトルが見つめているのはヨシツネ用の召喚管である。
「我も覚えているぞ。あれはたしか、コドクノマレビト事件の時だったか……」
「コドクノマレビト事件?」
「気にするな。うぬにとっては明日の話だが、我らにとっては昨日の話なのだ」
「まぁいい。葛葉、この空の管には強き意思……いや、強きMAGが宿っている」
「ヨシツネのMAGが残っている…?」
「未練とも呼べる程の思念……フッ、ヨシツネは変わらぬ忠義のサムライのようだな」
「それで何が出来るというんだ?」
「実体は失われているが、吾輩の理論ならばこの力を貴様の刀に宿せるぞ」
「……シュミットか」
邪悪な笑みを浮かべたヴィクトルがクワッとした顔つきを浮かべながら盛大に叫んでくる。
「物質への悪魔転移、錬剣術(シュミット)!!吾輩の偉大なる研究成果の一つだ!!」
「知っている。それに自分が東京で戦った悪魔人間もシュミットで武装していた」
「な…なんだとぉ!!?吾輩に先んじて錬剣術を完成させてくる者がいるとは……」
「ヴィクトル、シュミットをするなら炎に耐性をもたせる加護も与えてくれ。それが必要だ」
「何せ、ライドウを焼き殺そうとする程の錬剣術には魔王スルトが使われている程だからな」
「ならばオーダーに応えよう。成功の暁には葛葉ぁ!!貴様は新たな力を手にするだろう!!」
悪魔合体の準備を始める中、ライドウに近寄ってくる者が現れる。
傷が癒えてきたとはいえ、まだ本調子ではないライドウの護衛を務めるクルースニクのようだ。
「時間がかかるようならば、私は単独捜査に向かいたい。許可を貰えないだろうか?」
「どうした、クルースニク?何を捜査しに行くというのだ?」
「宿命を持つ者としての本能が叫んでいる。この街に再び奴の気配が近づいているとな」
「クドラクか…たしか仕留めそこなったと言っていたな?それが事実ならば不味いな…」
「自分も行こう。吸血鬼悪魔を放置しては犠牲者が乱造されてしまう」
「いや、私だけで行く。ライドウはヨシツネが生まれ変わる瞬間を見届けてやってくれ」
「クルースニク……」
「それにこの街には正義の魔法少女達もいてくれる。自分だけで重荷を全て背負うこともない」
「……分かった、行っていい。シュミットが終わり次第、自分もそちらに向かおう」
彼を見送るライドウであるが、今後の事が気になるゴウトは顔をライドウに向けてくる。
「さて、人修羅がアメリカに行っている間は我らも動けぬ。今後を考えねばな」
「自分は現代のヤタガラスを信用出来なくなっている。今のヤタガラスに探りを入れなければな」
「だとすれば、つい最近までヤタガラスの情報部に所属していた者がいる。その者を当たるか」
「…レイ・レイホゥか。しかし、今の自分はヤタガラスに見張られる者でもある。迂闊に動けん」
「あの女はキョウジと共に去っていくのを見ている。キョウジは確か探偵事務所を開いていたな」
「たとえ見張りがいなくとも、自分が乗り込めばキョウジと殺し合いになる。代理人が必要だな」
代理人の当てもない彼らは途方に暮れるのだが、悪魔合体施設に近寄ってくる者に気が付く。
扉を開けて中に入ってきたのはナオミであったようだ。
「貴方も仲魔の補充に訪れていたようね、ミスターライドウ?」
「ナオミか。その様子だと、うぬも仲魔の補充に訪れたように聞こえるな」
「ええ、私も仲魔を二体失った者ですもの。ミスターキョウジの事務所に行く前に補充するわ」
その一言を聞いた者達の目が見開き、天の助けとばかりにナオミに頼ってくる。
事情を聞かされた彼女は快くライドウの頼みを聞いてくれたようだ。
「私もね、現代のヤタガラスは胡散臭いと思ってたわ。レイから情報を聞いて届けてあげる」
「すまんな、ナオミ。ライドウもアカラナ回廊を悪用した者としてヤタガラスに見張られる者だ」
「レイが街を脱出しても、未だにヤタガラス構成員が街を包囲してる。動けないのも無理ないわ」
ヴィクトルと話し始めるナオミに視線を向けながらも、ライドウは心の中で迷い続ける。
(もしも…ヤタガラスが日の本の民を裏切る組織に成り果てているなら……自分はどうする?)
大正時代の頃からヤタガラスに仕えてきたデビルサマナーとして護国守護の矜持を持ってきた。
だがヤタガラスに刃を向けることになれば、国賊として討たれる者に成り果てるだろう。
(尚紀は自分に向けて叫んでくれた……自分は何のために戦う者なのかを)
ハイカラマントの中で手を握り締めるライドウの手が汗ばんでいく。
ヤタガラスのサマナーとして生きてきた者として、彼もまた決断しなければならない時がくる。
その時こそ、葛葉ライドウは何のために戦う者なのかを示すことになるだろう。
洞窟の如き暗闇の研究所に視線を向けるライドウの心もまた暗闇に包まれていく。
彼もまた洞窟の壁に映る影を疑う者となり、自由の道を模索するようになるのであった。
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キョウジが探偵事務所を開く宝崎市には宝崎順心学園という学校がある。
神浜市から宝崎市まで通学する里見那由他は周囲を警戒しながら帰路につく。
宝崎順心学園は中高一貫校であり、彼女は今年で高校に進学出来た者のようだ。
赤で彩られた美しい学生服を着たクラスメイト達の輪に加わらず、背後を壁で隠せる道を探す。
こんな生活を余儀なくされたのは彼女が日本政府に追われる者だからだ。
「怖い……毎日が怖いですの。これが織莉子さんが背負う苦しみだったんですの……」
那由他もまた生体エナジー協会から逃げ出した者であり、織莉子と同じく逃亡人生を生きる者。
そして彼の父である太助でさえ国家に謀殺されかけた者であり、親子揃って追われている。
いつどこに監視の目があるのか分からず恐怖に支配された人生を生きていくしかない者達だ。
今の自分が生きていられるのは国家権力に対抗出来る世界権威ともいえるだろう尚紀のお陰。
そう考える彼女は毎日を無事に生き残れたら尚紀に感謝を送る生活を送ってきた。
人通りのない道を選びながら神浜市に帰るための駅に向かっていく。
そんな時、背筋が凍り付く程のプレッシャーを与える存在が背後に現れるのだ。
「里見太助の娘だな?」
「ひっ!!?」
心臓を鷲掴みされる程の恐怖心を爆発させた彼女は震えながら後ろを振り向く。
立っていたのはSPを思わせる黒スーツを身に纏うサングラス姿の男である。
「逃げられるとでも思っていたのか?しぶとく生き残っていた太助諸共始末してやる」
「い……いやっ!!来ないで……来ないでぇ!!」
涙目になりながら後ずさる彼女を追うように男は近寄ってくる。
そんな時、目の前の男を何処かで見たことがあることに気が付いた彼女は叫ぶ。
「あなた……忘れてないですの!!玄関で応対したラビさんを突然襲った男ですの!!」
「ほう?あの時のことを覚えてくれていたようで何よりだ。儂は再びお前と出会いたかった」
邪悪な笑みを浮かべた男がサングラスの奥で深紅の瞳を光らせてくる。
後ろ手を組みながら近寄っていた男が手を解き、背後に隠していた武器を持ち出す。
持たれていたのは馬の蹄鉄を彷彿とさせる湾曲した刃であり、那由他は去年の記憶を思い出す。
この武器を投げられた瞬間、ラビと那由他は抵抗することさえ出来ずに捕縛されたのだ。
「ところで、お前は何歳だ?」
「な……なんで私の年齢なんて気にするんですの!?」
「質問しているのは儂だ。答えろ、お前は何歳だ?」
「……今年で16歳になる高校一年生ですの」
それを聞かされた男が満足そうな笑みを浮かべてくる。
「つまり、まだ15歳時期というわけだな?クックック……どうりで美味そうに見えるわけだ」
「美味そうに……見える?」
「儂はな、
それを聞かされた彼女は何を言いたいのか理解し、歯がガチガチと揺れ動く程にまで震え上がる。
織莉子達と交友を深めたことでキリカと小巻から生体エナジー協会内部の光景を伝えられている。
彼女達がそこで見た光景とは、食肉加工された魔法少女達の残骸が捨てられたこの世の地獄。
自分も同じように食肉加工されるのだと察した彼女は涙を流しながら逃げ出してしまう。
「助けてぇぇぇーーーッッ!!誰か助けて下さいですのぉぉぉーーーッッ!!」
人目につかない路地裏を帰り道にしていたため周囲には人の姿が見られない。
恐怖に怯えるばかりで先を想像出来なかった愚か者に向けて擬態姿の悪魔が武器を投げる。
「儂の墨縄から逃れられるものか!!15年ものの赤身肉は誰にも渡さん!!」
投げられた武器がブーメランのように飛んでいき、彼女の前を通り過ぎながらUターンする。
「くっ!!?」
『惑いの墨縄』を受けた那由他は毒々しい色をした複数のリングで体を拘束されてしまう。
クバンダが操る墨縄に手も足も出なかったラビと那由他はこのようにして拉致されたのだ。
<<流石はテメェ自慢の墨縄だ。上手くお縄に出来たようじゃねーか>>
倒れ込んだまま藻掻き苦しむ那由他の元に歩いてきたのはオールバックにして髪を纏めた男。
日傘を差しながら歩いてきた黒スーツ姿の男とは擬態姿のクドラクであり、膝を屈めてくる。
「言われた通り拘束してやったが、こいつをどうするつもりですかい?」
「こいつは撒き餌だ。神浜の魔法少女を釣り上げるためのな」
「それが終わったら儂がコイツを喰ってもいいんですかい?」
「勿論だ。好きなように調理して喰っちまいな」
「そいつはいい。この美味そうな和牛娘はステーキのレアにして調理しよう」
「嫌ぁぁぁぁーーーーッッ!!助けてパパ!!ラビさん!!助けてぇぇぇーーーッッ!!!」
絶望の穢れを放ち始めるソウルジェム指輪に向けてクドラクが手を伸ばす。
感情エネルギーを吸い取る『エナジードレイン』を行使する事によって穢れを取り除けたようだ。
「こんな場所で絶望死は許さねぇ。今日からテメェはオレの下僕だ」
邪悪な魔眼が行使され、『セクシーアイ』によって那由他は魅了状態にされてしまう。
指を鳴らすクバンダが拘束の輪を解き、立ち上がった彼女が虚ろな表情を向けてくる。
「……何なりと、お申し付けください。クドラク……様……」
「いい子だ。テメェは撒き餌として魔法少女を釣り上げる道具となってもらうぜ」
「……承知しました」
去っていく者達であるが、クドラクとクバンダは物陰に隠れている人物に視線を向ける。
「……助けなくてもいいのか?助けないなら、このまま連れ去っちまうぜ?」
物陰に隠れている存在とは氷室ラビとハクトウワシに擬態したサンダーバード。
魔法少女姿をした彼女は怒りの形相を浮かべながら魔法武器であるブーメランを握り締める。
「選択しろ。お前は何者だ?世界の終わりを見届けるホワイトメンか?それとも正義の味方か?」
「わ……私は……」
肩に留まるサンダーバードが残酷な選択を強いてくる。
人間のように生きていた頃の思いがまだ残っている彼女は目の前の光景で感情が沸き立っている。
だからこそ冷静な判断を下せと迫ってくるのだ。
「守ろうとする力はそれを超える守ろうとする力に潰されるのみ。全ては無価値であり、虚無だ」
「私が今、那由他様を助けたところで……破滅の未来によって……私たち人類は滅ぶのみ……」
「一時の救いなどに価値はないと理解したはずだ。お前は何者だ?もう一度言ってみろ」
人間らしい感情に支配されていたが、それでも頭で考えれば考えるほど答えは決まっている。
怒りによって震えていた体が静まり、生み出していた魔法武器も消してしまう。
再び虚無の表情を浮かべた氷室ラビは、大切な人を見捨てる決断を下してしまうのだ。
「私は……ホワイトメン。氷室ラビであることを捨て、過去を捨て、虚無の未来を望む者よ」
隠れている者が戦意を解いたのを感じ取ったクドラク達が去っていく。
物陰から姿を出したラビは大切な親友だった存在の背中に向けて別れの言葉を送る。
「さようなら……那由他様。世界の終わりを見届けるフォークロアとして……私の道を行く」
彼女と共に那由他を見送るサンダーバードであるが、ラビに不信感を持ち始める。
「…やはりお前はこの世の事象に未練があるようだ。もっと絶望を知る必要がある」
「えっ?わ……私は……その……」
「次に行く未来の光景を見届けろ。それで分かるはずだ……この世に希望などないことにな」
再び蜃気楼の世界に消えていくラビとサンダーバード。
彼女達が向かう未来とは、もう直ぐ訪れるだろう東京の惨劇が広がる景色。
ホワイトメンになろうとする氷室ラビは未来の東京で知るだろう。
世界の希望になろうとする人修羅でさえ抗いきれなかった絶望を見届ける者になるのであった。
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娘が学校から帰ってこないことに気が付いた太助は彼女の連絡網を通して彼女を探す。
娘の友達になってくれた八雲みかげにも連絡が届き、みかげを通して姉にも情報が届く。
みたまはももこ達にも連絡した事で神浜の魔法少女達は捜査に乗り出してくれたようだ。
私服姿のみたまと女子制服姿のももこが新西区の夜道を捜索する中、2人が話し始める。
「レナが帰りに新西中央駅を通った時、那由他ちゃんの姿を見たのが最後みたいなんだ…」
「困ったわね…その後の目撃情報がなければ広い捜索範囲になってくるわよ」
新西区を捜索しているももことみたまであるが、目撃情報が少ないため途方に暮れている。
那由他の魔力を探し出そうとしているようだが、捜索範囲が広すぎて掴み切れないようだ。
「悪いな、手伝ってもらってさ。調整屋は……おっと、もう調整屋じゃなかったよな?」
「ええ……残念だけど、悪魔になった私は魔法少女時代の固有魔法は失ってしまったわ」
「困ったな……魔法少女達にはまだ調整が必要だっていうのにさ」
「その点については当てがあるの。私の代わりになってくれる調整屋を用意するわね」
「みたまの代わりになってくれる調整屋……?」
「私の先生に相談したらね、弟子の2人を神浜に送ってくれることになったのよ」
「そいつは助かる。それで……これからのみたまは業魔殿スタッフとして働くんだよな?」
「ええ、それは変わらないわ。それにこの街の魔法少女社会に不慣れなあの子達も支えたいし」
「だとしたら、これからも業魔殿はアタシ達が繋がり合える場所になるな。これからもよろしく」
「勿論よ♪調整は出来なくなったけど、ソウルジェムの穢れは取り除ける。お掃除屋さん開業ね」
「調整屋から靴磨きに転職か…。サラリーマンの靴を磨くように、アタシ達を綺麗にしてくれよ」
「やーん、ももこったら例え方が上手いわね♪ピカピカになるまでワックスをかけてあげる♪」
冗談交じりの会話を続けていたようだが、みたまの心には不安が広がっている。
悪魔になった者としてソウルジェムに触れるのが怖い感情が芽生えているのだ。
(悪魔になった私は……やろうと思えばソウルジェムを食べられる。人の魂を喰らえる者なのよ)
悪魔になって一番苦しかったのは飢えの欲望。
家で暮らす妹のソウルジェムを見るたびに生唾が湧いてくる自分に恐ろしさが込み上げてきた。
だからこそ彼女はソウルジェムに触れることを恐れているのだ。
「どうした、みたま?」
顔を俯けているみたまの肩を左手で掴む。
心配そうな顔を向けてくれるももこであるが、みたまの視線は自然と彼女の左手に向く。
中指に嵌められているソウルジェム指輪を見た途端、彼女は手を払い除けてしまう。
「お、おい!?どうしたんだよ!」
肩を震わせているみたまを心配してくれるももこであるが、彼女は俯いたまま語り掛けてくる。
「…ごめんなさい、ここからは手分けして探しましょう。見つけたらスマホで連絡するわ」
走り去ってしまう彼女の背中に声をかける事も出来なかったももこは心配そうな顔を浮かべる。
新西区の北部に向けて走っていくみたまは心の中で謝りぬいていたようだ。
「悪魔とは…欲望に飢える者。十七夜…私もまた飢える者になるかもしれない……貴女のように」
吸血鬼と変わらない悪魔に成り果てるのではないかと彼女は怯え続ける。
これが悪魔の尚紀達が背負ってきた苦しみだったのかと悪魔になってようやく理解出来たようだ。
それでも彼女は尚紀達のように欲望を律して生きていこうと決めている。
「尚紀さんも耐えてきた…私も耐えてみせる。私達は支え合える……そう信じて生きていくわ」
姿が見えなくなったみたまの代わりにももこは新西区の南部を捜索しようと歩き始める。
「みたまは北に向かったし、レナとかえで達は東を回ってくれてるから……アタシは南だな」
ももこが進んでいくのは新西区の外れにある廃墟エリア。
旧調整屋があった地域を目指していた時、空から蝙蝠が一匹舞い降りてくる。
<<……よぉ、クソアマァ。生きていたようで何よりだなぁぁぁ……>>
蝙蝠から放たれる念話の声によってクドラクだと気づいたももこが魔法少女姿に変身する。
「その声は……あの時の吸血鬼悪魔か!?姿を見せろ!!」
<<決着をつけようぜ。オレはこの先にある廃墟街に潜んでる、スペシャルゲストを連れてな>>
「スペシャルゲストだと……?」
<<探してるんだろ?お前らの仲間を?ここに早くこないとステーキにされて喰われちまうぞ>>
「まさか……那由他ちゃんをさらったのはお前だったのか!?許さないぞぉ!!」
<<そいつの魔力を追ってこい、オレは早くテメェを八つ裂きにしたくてウズウズしてんだよ>>
「そこで待ってろ!!アタシ達の力で必ずお前を打ち倒してやる!!」
<<何を勘違いしてんだ?人質がどうなってもいいってのかよ?テメェだけで来るんだ>>
「アタシだけを狙ってるのか!?卑怯者!!人質を盾に使うなんて!!」
<<テメェともう一体の奴には散々煮え湯を飲まされてきた。先に殺したいのはテメェらだ>>
「くっ……分かった、アタシだけで向かう。那由他ちゃんを傷つけたら許さないからな!!」
<<その意気だ。従うフリをして伏兵を潜ませても無駄だ。テメェの動きは監視してるからな>>
蝙蝠が飛び立っていき、ももこは蝙蝠を追いながら走っていく。
廃墟街に入れる辺りにまで差し掛かった時、同じように走ってきた者に顔を向けてくれる。
「もしかして、クドラクが狙ってるもう一体の存在はクルースニクさんだったの?」
「私以外も招き入れると奴は言っていたが……どうやら君だったようだな」
白いトレンチコートを纏い、銀のロングソードを鞘に納めたクルースニクが近寄ってくる。
彼の強さは最初に出会った時よりも増していると感じたももこは安心した表情を浮かべたようだ。
「顔色は良さそうだね。前に会った時は苦しそうだったし」
「あの時の私はサマナーがいない状態だった。MAG不足で苦しかったが、今はライドウの仲魔だ」
「ライドウさんの仲魔になったんだ?彼も来てくれているの?」
「いや、ライドウは業魔殿にいる。それに傍にいようが人質を取られている状態なのだ」
「そうだね……ライドウさんやみたま達に頼れない以上は、アタシ達でケリをつけるしかない」
「行くぞ、ももこ。奴が私達の力を見くびっているというのを思い知らせてやろう」
「うん!!」
クルースニクと共に廃墟街に入った瞬間、悪魔の異界に取り込まれた状況を2人は感じ取る。
誰もいない異界の夜道を歩いていきながら魔力を探していた時、クルースニクが質問してくる。
「君は悪魔を恐れないのだな?」
「えっ?突然何を言い出すんだよ?」
歩きながら話しかけてきた者であるが、過去を振り返るようにしながら顔を俯けていく。
「私はな…人間の母親から生まれた者だが、異形の赤子として人々から恐れられた者なんだ」
クルースニクとして生まれた者は人間の子供であるが、白い羊膜に包まれて生まれてくる。
赤い羊膜に包まれて生まれてくる吸血鬼クドラクと戦う宿命を与えられた者だが彼も異形の子。
普通の人間としては扱われず、悪魔のように恐れられてきた幼い時代があったようだ。
「少しの差異だけで人々は他人を悪者に出来る。見た目だけでなく違う意見を言うだけでも悪だ」
邪悪な吸血鬼と戦える者は、言い換えれば邪悪な吸血鬼を滅ぼせる程の化け物ともいえる。
正義のために刃を振るう彼でさえ、人々は恐れをなし、遠ざけようとされてきた過去を背負う者。
だからこそ自分は幻魔と呼ばれる悪魔に過ぎない概念と成り果てたのだと語ってくれたのだ。
「アタシもね……悪魔というだけで他人を悪者にしたことがあるんだ」
人間の守護者であることを貫こうとした悪魔に向けて、ももこは悪者だと罵った過去がある。
彼がどんな思いを胸に秘めて戦おうとしていたのかを知る努力もせず、殺し合ってしまう。
それだけでなく、同性愛を巡る問題の時でさえ彼を知る努力もせずに悪者にしてしまった。
全ては己の正しさが間違いだと認められず、劣等感を克服出来なかったために生まれた光景だ。
「アタシは相手を知る努力を放棄した…魔法少女を傷つける存在だと前提にして悪魔と戦った…」
「私とて同じ扱いを何度もされたさ。それが……人々の変わらない偏見感情というものだ」
「何でアタシは相手の言葉じゃなくて…自分の偏見感情しか見なかったのかって……後悔してる」
「皆が通る道さ。それで……後悔を経験した君はこれからどうする?悪魔を恐れ続けるのか?」
顔を俯けていたももこが顔を上げ、首を横に振ってくれる。
振り向いてくれた彼女の顔には迷いもなく、信じてくれる者の優しい表情が浮かんでいたようだ。
「アタシはもう感情で判断をしない。無知と偏見が悪者を作る…だからアタシは変えていくんだ」
「ならば問おう。君は何のために戦う者だ?自分だけの正義という偏見感情のために戦う者か?」
それを問われた彼女は答えてくれる。
その表情にはもう迷いは浮かんでいない。
「アタシが戦う理由は…自分の正義を貫くため。だけど、相手を知る努力もやめちゃいけない」
「正義を貫く道は酷く主観的なものだ。そのため客観性を失い、自分の正しさを疑わなくなる」
「アタシは馬鹿だからさ…きっと一生間違いながら生きていく。それでもさ……
――アタシの戦いの道はきっと……
その答えが聞けたクルースニクは満足そうな笑みを浮かべていく。
「己の間違いと向き合う道は辛い道だ。殆どの者が間違ってるのはお前の方だとすり替えてくる」
「アタシはもう他責の安心感には浸らない。
「その答えが出せるなら、君は差別をしないだろう。自分の無知を知る知恵を得たのだから」
「えーと…たしかアインシュタインの無知の知だっけ?みたまがそんな話を語ってたような…」
「君は賢人だよ、ももこ。学歴や肩書だけで賢人気取りをしているエリート共よりも遥かにな」
「えっ?えっ!?やだなーもーっ!!褒めても何も出せないからねーっ♪」
クルースニクの背中をバンバン叩きながら笑顔を浮かべる彼女を見ながら彼も微笑む。
彼女ならば悪魔の自分であっても恐れず受け入れてくれる強さを持っていると確信したようだ。
霧が立ち込めてくる異界を歩く者達が立ち止まり、顔を上げていく。
そこに見えたのは建設途中であったが放棄された高層ビル。
「あそこだな」
「行こう、クルースニクさん」
戦場に向かう者達が入り込む場所こそクドラクの居城にされた夜魔の領域。
夜と戦い続ける幻魔と自分と向き合う大切さを知った魔法少女の戦いが幕を開けるのであった。
東京編描く前にシスターももこにしとかないとと思いましたので描いていきますね。