人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
大国村にある図書館に訪れているのは南津涼子である。
村の図書館は大国村に流れてきた知識人や技術者達の私物を寄付してくれた書籍ばかり。
そのため大事に扱って欲しいという張り紙が図書館の壁に貼られているのである。
席に座った彼女が読んでいる本とは人間の心理バイアスに関する書籍のようだ。
「あたしはあの時……何であんな言葉を叫んでしまったんだよ?」
村で暮らすうちに心が落ち着いてきた彼女は感情に飲まれた発言をした過去に苦しんでいる。
鞍馬天狗の話術に翻弄された静香達は怒りに飲み込まれて逆上してしまった。
復讐心で戦うなとちはるに言われたのに、その彼女までも怒りの感情をまくし立ててしまった。
「あの時あたしは……ちはるの言葉を憎んじまった。不愉快だと感じた気持ちに支配された…」
平和主義者を自分を脅威に晒す者だと憎み、敵を討つのを邪魔する裏切り者だと怒りに飲まれる。
そんな過去を背負う涼子は自責の念に苦しんでいたのだ。
「どうしてあたし達は……違う意見を言う人を悪者に出来るんだ?人間の内面が分からない……」
悩み苦しむ若者を見かねたのか、図書館の管理を任されている女性が近寄ってくる。
「それは貴女達が自分に都合のいい感情や情報だけを求めて自分の無知を正当化したからよ」
「えっ…?お前さんは……?」
「初めまして、私はこの村の警備隊に所属する女悪魔よ。平時は図書館の管理人さんね」
「アンタも悪魔なのかい?人間に擬態されると魔力を感じないから見分けられなくて怖いね…」
「前の席に座ってもいい?」
頷いてくれた彼女は涼子の前に座り、彼女達が苦しんだ人間心理について語ってくれる。
「人間は自分の感情や自分好みの情報だけを求める偏見生物。それは人間心理から生まれている」
我々人間が言葉や情報に触れた時、正しいのかどうかは感情的理由付けが生じてしまう。
ものの捉え方は人の気分や行動に影響を与える。
「想像して。貴女は困っている表情を浮かべている子を見れば、ネガティブな捉え方をしない?」
「それはあるね。あたしはお節介だから助けようとするけど、逆に相手を怒らせる時もあるんだ」
「知覚によって得られた情報で認識が生まれ、行動に表れる。それが悪い結果を生む場合もある」
「あたしが知覚した情報によって……悪い認識が生まれている?」
「これは陰謀論もそうね。陰謀論と聞いただけでネガティブな認識が生まれて行動に表れるわ」
ネットで見かけた信じ難い情報を発信する者を見ればアレは嫌いだ不愉快だという認識が生じる。
私が不愉快になるのはデマ情報を発信するクソ連中が全て悪いんだという感情が生まれてしまう。
自分は間違っていないという安心感に浸るため、自分に都合のいい情報や同じ意見を探し出す。
それによって私が正しいことが証明されたな!、と偏見に支配される行動が生じるのだ。
「
「あたし達は…認知バイアスに支配されていたのか?確かにあたし達は感情に支配されてた……」
「普通は膨大な基礎知識をベースにして事象・知見を論理的に積み重ねた末に結論に至るものよ」
「感情に支配されたあたし達にあったのは……
「後から事象を都合よくはめ込む。それで全てを知った気分になる。だから話が嚙み合わない」
偏見を排除して多角的に知る努力をしてくれないから見えているものが違う。
偏見を排除して多角的に知る努力をしてくれないから議論の対象が全然違ってくる。
それこそが暁美ほむらや美国織莉子、氷室ラビや三浦旭や里見親子が背負ってきた苦しみ。
誰にも自分の言葉は届かないし、誰も信じてなんてくれない。
人間は見たいものしか見ないし、信じない。
ガイウス・ユリウス・カエサルが残した格言の正体とは、人間の認知バイアスの歪みであった。
「ここにね…ちはるちゃんも来てくれた事があるわ。どうして私の言葉は届かないのか探してた」
「ちはるもここに来てたのか…?あたしはバカだよ…静香の母さんから遺言を託されたのに……」
「皆その時の気分で全てを決めつけてしまう。私の主人であるサマナーもそれに苦しんだわ…」
「アンタのサマナーさんも……誰にも信じてもらえない苦しみを背負ってきたのか?」
「在日米軍の支配を語ってきても誰も信じてくれなかった…陰謀論者や工作員扱いされてきたわ」
人間とは安心出来るものに飛びつき、自分は間違ってなかったという心強さを求める者。
そんな者達に向けてニーチェはこんな言葉を残している。
――真実を受け入れるのは難しい、
――君が出会う
「人は自分の間違いをプライドをかけて認めない。自分の人格を傷つけられる程の苦痛だからよ」
「だから自分の考えを否定する奴は敵にしてしまうんだね……」
「敵という概念は相手との相関関係において発生するわ。敵とは自分自身が生み出すものなのよ」
敵を作るのは自分の心であり、それ故にどこに行っても敵が現れる。
皮肉なことに本当の敵は自分自身ということになるのだ。
「人間だけじゃない……魔法少女だって偏見に支配される。本当に人類は救いようがないよ……」
「人類は自分達で傷つけ合う死にたがり共だと馬鹿にする悪魔もいる…。否定は出来ないわね…」
気が付けば外も暗くなっており、涼子は入口付近で見送ってくれる女悪魔に手を振ってくれる。
彼女の姿が見えなくなった頃、図書館の庭に生えたアオギリの木の枝に留まる鳥悪魔が語りだす。
「彼女達も決断しなければならないな。民衆共に頼れない以上は……自分達の手を汚すしかない」
「私もそう思うわ…ホウオウ。私達は真実を語れば語るほど、大切な人でさえ心がすれ違うのよ」
彼女が語った悪魔名こそ、大国村の航空部隊の隊長であり中国や日本で崇拝される霊鳥。
平等院鳳凰堂や一万円札にも取り入れられたその姿はあまりにも美しい伝説の鳥であった。
【ホウオウ】
鳳凰は天帝の遣いであり鳥の王である霊鳥と呼ばれ、麒麟・霊亀・応龍と並ぶ四霊に数えられる。
朱雀と同一視されることもあり、炎の守護神ともされているようだ。
善政を行った皇帝の前にその姿を現す存在であり、鳳凰の卵は不老長寿の霊薬といわれていた。
「日の本と国名をつけながらも、今のこの国に太陽無し。今の天皇など皇帝の器ではない」
「それでも国威というプロパガンダとして税金暮らしが出来る。民は飢えて死んでるというのに」
「皇帝とは民を守る者であり、民を搾取する者ではない。皇帝を名乗るなら武装蜂起するべきだ」
「無駄よ。あんな偽物の御飾に期待なんて必要ない。この国には新しい皇帝が必要なのよ」
「だからこそ私はオオクニヌシ殿の元に来た。あの御方こそが日の本の国威となるべきなのだ」
「我々はヤタガラスを滅ぼし、日本政府を奪い、新たなる国生みを行う」
「かつての将門公と同じ道を我らは突き進む。啓明結社とヤタガラスから国を奪い返せ」
国津神達がやろうとしているのは古事記や日本書紀で語られる国譲りの真逆。
自分達が育てた地上の国をヘブライである天津神族に譲るのではなく奪い返す。
国津神の領土を託したのは天津神族への信託あってのこと。
それを反故にするならば是非もなく、天津神族とその血族である天皇家にも牙を突き立てる。
国作りをしてきた国津神達の誇りをかけて、全てのヘブライ神族に宣戦布告を行う覚悟であった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
大国村は霧峰村と違いエネルギー生産が行われるため夜道でも街灯の明かりが点いている。
明かりを超えながら家路に向かっていると休憩所の椅子に座っている少女を見かけてしまう。
「静香……?」
街灯に照らされていたのは静香であり、深い悩みを抱え込みながら顔を俯けたままのようだ。
近づいてくる者に気が付いた彼女は顔を上げ、座ってもいいかと聞いてくる者に頷いてくれる。
暫くは互いに無言の状態が続いていたようだが、意を決した涼子が重い口を開いていく。
「なぁ……大将。これからどうするんだ?時女一族のあたし達はどう生きていけばいい……?」
自分達を導く長に向けてこれからの方針を問われた事で、時女当主の者は決断を迫られてしまう。
震えていく彼女を横目で見る涼子は静香が重い選択によって苦しんでいる事を理解してくれる。
「何を考えてるのかは大体察しが付く。あたし達は日の本を守る矜持を掲げてきたんだ」
「……それが時女を時女で在らせる信念よ。私の代でそれを変えようなんて絶対に思わないわ」
「なら、お前さんは日の本や米国と戦争をするのか?あたし達は革命軍として生きていくのか?」
「それしか日の本を救う手立てなんて存在しない。ならもう……進む以外にないじゃない」
「その道に皆を巻き込んで、あたし達を大量殺戮者にしたいのか?相手は悪鬼じゃない、人間だ」
「何が言いたいのよ……涼子?」
自分と違う考え方を語る者が不愉快なのか、静香は苛立ちを含む声を出してしまう。
そんな彼女の反応を見た涼子は先ほど語られた人間の心理バイアスが動いているのを感じ取る。
今こそ静香の母から託された遺言を果たすべきだと決心した涼子は語り始める。
仏教の教えで静香を導いてあげてほしいと遺言を残した静香の母のためにこそ譲れないのだ。
「この国は消極的平和状態だ。内部に多くの矛盾・緊張・怒りを抱え込んだまま国が抑圧する」
「そうよ…アビヒコ様から聞かされた日の本の現実こそが、偽りの平和で作られたものだったわ」
「だから内戦で解決するなんてただの戦争なんだ。あたしが求めたいのは積極的平和なんだよ」
「積極的平和……?」
「社会矛盾や国家間の紛争でもその関係者が互いに敬意を持ち、漸進的に問題を解決するべきだ」
そう言われた静香は立ち上がり、血相変えた表情を浮かべながら涼子をまくし立ててくる。
「バカ言わないで!売国奴に敬意を持ちながら交渉で解決出来るだなんて本気で考えてるの!?」
「極めて難しい道だとは思う……それでも、あたしは仏教徒として殺戮で解決なんて出来ない」
「目を覚ましなさいよ涼子!!貴女だってあの時に怒ったはずよ!邪悪な敵は滅ぼすべきだと!」
「それについてはちはる共々反省している。あたし達は感情に流されてる…気が付くべきなんだ」
「気が付くべきなのは貴女よ!平和的交渉なんかで政権が譲歩するなら暴力革命は起きてない!」
「過去の歴史がそうであっても、あたしは仏教徒なんだ。仏教徒として本願寺の過ちを忘れない」
「涼子!!貴女の母様がどんな死に方をしたのか忘れたの!?売国政府と戦って死んだのよ!!」
「分かってる!!母さんの仇を滅ぼしたい怒りもある…それでもあたしは破戒僧にはなれない!」
「復讐こそが正義よ!!虐げられた者達が泣き寝入りするでは…その人達の心は救われないわ!」
怒りの感情を爆発させる静香の心の中にあるのはナオミやかつての神浜魔法少女と同じ気持ち。
理不尽を敷かれた者達は憤り、その者達に苦しみを与え続ける怨敵の罪には罰が必要だと叫ぶ。
ハムラビ法典を叫ぶ静香の感情こそ日の本の民が愛してやまない応報刑による復讐感情なのだ。
「この国はもう傀儡政権よ!日の本の民から徴収した税金が何に使われてるのか知ってるの!?」
「そ……それは……」
「中央銀行に搾取されるだけじゃない!
私達の税金は何のためにあるのか?
それは私達が健康で文化的に生きるためのものであり、国を信託して民は税金を支払うものだ。
なのに今の日本政府は日本人の健康や文化的に豊かになるための税金を海外や在日にばら撒く。
その規模は数百兆円規模であり、その税金が私達に還元されていれば私達の生活は豊かになった。
「消費税も社会保障税として生み出された!なのに今の日の本は何!?
「あたしもそれはおかしいと思ってた…。スーパーやコンビニで未だに老人が働いてるのをさ…」
「神浜で暮らしてきて信じられない現実だった!あの光景こそ税金悪用による搾取光景なのよ!」
「一億総活躍社会だの財源がないから税金を上げるだのは……全てデタラメだったんだな……」
「今の日の本は
「あたし達は税金を還元されずに死ぬまで搾取される…。あたし達
涼子に向けて怒りを爆発させればさせるほど静香の覚悟は決まっていく。
これ程までの仕打ちを日本人に敷いてきた売国政府は、もはや魔獣を遥かに超える脅威である。
売国官僚や売国政治家は外国と共謀して日本人を殺してきた罪人として外患誘致罪にするべき。
全員を極刑にしてやると叫んでくる復讐者に向けて涼子は仏教の教えを伝えてくれたようだ。
「静香の気持ちは分かったよ。だからね…今度は仏教徒としてのあたしの気持ちを知って欲しい」
「仏教徒としての……涼子の気持ち?」
南津涼子が語ってくれたのは仏教的視点から見た戦争と平和である。
戦争は人間だけが起こす矛盾極まったものであり、人間特有の行為。
人間の理性が欲望・野心・我執・怒り・破壊欲という反理性に支配されて繰り返されてきたのだ。
「戦争は常に正義を掲げる煩悩の現象だ。自分が間違っていると考えて起こす戦争なんてない」
「当たり前よ!時女の矜持である愛国心が間違っているだなんて理屈は絶対に認めないわ!!」
「静香の自我によって私闘は行われるけど戦争は集団自我で生み出される。皆を巻き込むのか?」
「私達は時女一族よ!日の本を守る矜持を貫いてきた一族なのよ!今更それを捨てろというの!」
「自己の正義や正当性にしか目が向かないのを仏教では
「だったら涼子……貴女は仏教徒として時女一族を抜ければいい!!私は止めはしないわ!!」
自分の誇りを傷つけられたと逆上した静香は走り去り、夜道の世界へと消えていく。
止めることも出来なかった涼子は暗闇の草むらの中に潜んでいた少女に顔を向けたようだ。
「ごめん…ちはる。静香を説得しようと思ったんだけど…やっぱり聞く耳をもってくれなかった」
隠れていたのは広江ちはるであり、草むらから出てきた彼女は暗い顔のまま椅子に座ってくれる。
「涼子ちゃんは冷静になってくれて…凄く嬉しいよ。やっぱり私達には客観性が必要だと思う…」
「それはあたしも理解した。…けど、人間って奴らはいつだって捉え方が先行して行動に表れる」
「平和を望む私達だけど……時女一族の矜持を忘れたことはないよ。他の方法を探してみたい…」
「あたしも同じ気持ちさ。だけど……静香の言葉も真実だ。交渉による解決は不可能だと思う…」
「何が正しいのかな…?この村に来てからずっと悩んでるけど……答えが出てこないんだ……」
「あたしだって答えは出せない…。国の窮地を救う確実な方法は戦争だってのも分かってる…」
「だけど、涼子ちゃんは仏教徒としての誇りを選んでくれた。私……本当に嬉しかったよ」
「あたしを諭してくれたのはこの村の住職だ。浄土宗開祖の法然の言葉であたしは救われたよ」
「涼子ちゃんは決断してくれた……私も涼子ちゃんについていく。だけどみんなは……」
「うん…他の子もきっと静香と同じ気持ちを掲げると思う。あたし達は
「泣き寝入りだなんて思わない。悔しい感情が物事を見えなくする…私はこの気持ちを貫くよ」
涼子は夜空に視線を向け、今は亡き静香の母と無念の死を遂げた自分の母に思いを馳せる。
静香の母の遺言を叶えたい気持ちと、自分の母が戦ってでも国を守ろうとした気持ち。
両方の正しさに板挟みされて苦しみ抜いたが、それでも涼子は決断を下してくれた。
今の彼女は時女一族の者である前に仏教徒。
仏の教えによって救われた者を見ることが誇りなのだと自分の原点に返る道を選んだのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「私は静香と共に戦うわ!!私は時女一族の巫…そして家族を殺された報復を望む者なのよ!!」
村の図書館内にある会議室では涼子とちはるから呼び出された者達が檄を飛ばし合う。
静香の代わりに彼女達の意思を確認しようとしたのは静香の姿が何処にもいないからである。
彼女の身を心配しているが、それでも涼子とちはるは仲間達の意思を確認しようとしたのだ。
「すなお…あたしも家族を殺された。気持ちは分かるけど人命と財産を無差別に破壊するでは…」
「家族を殺されたのに…どうして涼子さんとちゃるは逃げ出すのよ!?家族が浮かばれないわ!」
「私だって悔しい!!だけど…それを理由にして自分達の暴力を正当化するのはおかしいよぉ!」
「私達は日の本を守るために戦う覚悟で巫になったのよ!その誇りが間違っているはずがない!」
「すなお!捉え方が先行しているって気が付いてくれよ!感情で全てを決めちゃいけないんだ!」
「いいえ、譲らない!!私の望みは静香と同じ…日の本を支配する売国政府と米帝を倒す事よ!」
家族を殺された復讐心と時女の誇り、そして暗殺者の自分を救ってくれた静香への忠誠心。
それらによって土岐すなおは動かぬ意思を涼子達に示し、彼女達の提案を拒絶してくる。
「……私もすなおさんに賛成します。たとえ日常を捨ててでも、平和を取り戻すために私は戦う」
「ちか……お前まで……」
静香やすなおと同じく暗い復讐心を宿したちかの目に迷いはなく、怒りの業火を燃やす者となる。
震えていた彼女の手が握り込まれ、自分がなぜ自然の世界に逃げ込んだのかを語っていく。
「私は他人から騙されてきました……だから人間が怖くなって自然の世界に逃げ込んだ女です」
「だから何も信じない女になろうっていうのか…?疑い過ぎた奴がどうなったのかを見ただろ!」
「見ました。私も尚紀さんと同じ末路になる…それでも彼が戦ったから社会を変えられたんです」
「間違っていたとしても……社会を変えられるって言いたいの?」
「尚紀さんは私に人を疑う大切さを教えてくれました。疑うからこそ…敵を見つけられるんです」
「だったら自分の判断も疑えよ!周りを疑ってばかりじゃ……自分への客観性が消えちまう!!」
「そうだよぉ!!そのせいで尚紀先輩だって……自分のおかしい部分に気が付けなかった!!」
「分かってます。私は自分の判断を疑ってきました…それでも、これ以外に方法が見つからない」
「消去法でそれが論理的に正しいなんて保障は無い!目を覚ましてくれ、ちか!!」
必死の形相で説得しようとする2人の気持ちによって迷いが生まれていた時、横の者が口を開く。
「……他人を信じたって、応えてなんてくれないであります」
語りだしたのは旭であり、その目は虚無を宿している。
まるで他人を一切信用しない者のような態度で彼女は自分の気持ちを話していくようだ。
「我は魔法少女の真実を広める活動をした者。ですが結果は知っての通り……誰も応えなかった」
「旭さんはその時に酷い迫害を受けて体に傷をつけられました。女の命である肌を傷つけられた」
「今は体の傷跡は残ってませんが…心の傷は今でも残っている。だからこそ、我は誰も信じない」
「平和的な話し合いを粘り強く行っていくじゃダメなの……?」
「それを行おうとした結果が我なのです。人間は見たいものしか見ないし、信じないであります」
「旭さんも疑うことの大切さを知っていれば愚かな行為はしなかったと…私に教えてくれました」
「我とちか殿は売国政府など信じない。傀儡となった連中が耳を傾けるのは米帝の命令のみです」
「私と旭さんは日本政府と話し合いで解決していくだなんて信じない。もっと確実な方法を選ぶ」
ちかと旭はすなおに顔を向け、3人は頷き合う。
恐れていた通り、彼女達は静香の意思に賛同して国津神達と共に日本政府や米軍と戦うつもりだ。
そして彼女達と同じく時女一族の本家を滅ぼされた事に憤る分家の魔法少女だっているだろう。
「涼子さん、ちゃる、私達は私達の道を行く。貴女達が戦いたくないというなら好きにして」
「軽蔑はしません。私達の道は修羅の道となる……私のこの手だって……尚紀さんと同じとなる」
「我は霧峰村を焼かれた時より覚悟は完了済みであります。我の弾丸は敵の眉間を貫いていく」
交渉は決裂したため、3人は会議室を後にする。
取り残された2人が顔を俯けていた時、会議室を提供してくれた管理人の女悪魔が扉を叩く。
入っていいと言われた彼女が扉を開けて中に入り、この結果が分かっていたような表情を見せる。
「…人は決断する時、決断材料には際限がない事に気が付くわ。そんな時に頼るのが直感なの」
「直感だって……?」
「直感は理屈を超える。自分の疑念が正しいのか間違っているのかと迷った時は心に従うものよ」
「たとえそれが間違いであっても……人は進んでいける存在なの……?」
「確固たる自信があれば例え間違いであっても信念を通すことは出来る。後悔しないためにね」
「劣等感に苛まれずに……ありのままの姿を受け入れていく……」
「貴女達もまた正しいわ。自分の疑念を選び、殺戮者になることを踏み止まってくれたのよ」
「全ての人生が正しく……全ての過程もまた正しいと言いたいの?」
「そうよ。別の選択肢があったかもしれないけど……だとしても全ての人生に意味があるわ」
伝えるべきことは伝え終えた彼女は会議室から去っていく。
残された彼女達は暗い表情のまま沈黙していたが、堪え切れなくなった涼子が重い口を開く。
「静香の母さん…あたしは無力だよ。こんなにも人々は自分の正しさを信じて生きていけるんだ」
「それがきっと自由(CHAOS)であり……悪魔のように混沌に生きる存在の姿だったんだね」
自由を掲げる者達もまた責任を背負わされることになるだろう。
テロリストとして生きていくことになれば、愛する日常にはもう帰ってこれないかもしれない。
それでも彼女達は我慢を選ぶことなどもうしない。
耐え難きを耐え、忍び難きを忍びという玉音放送時代の日本人の愚かさには戻らないと決意する。
我慢を選べば選ぶ程国に搾取され、私達の人生は傀儡政府に滅ぼされると理解した者達であった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
涼子と口論になってしまった静香は村長の屋敷に戻った後、アビヒコの元に訪れている。
大広間で座り向かい合っていた静香であったが、握り込んだ手に汗を浮かべながら口を開く。
「私は力が欲しい。ついてきた仲間が不安のあまり戦えなくなるような事態にさせないためにも」
それを聞かされたアビヒコは沈黙していたが、やがて彼女が何を望んでいるのかを語ってくれる。
「…我々のような悪魔の力を求めたいと言うのか?」
「そうよ。私が求めたい力とは…嘉嶋さんのような悪魔の力。並ぶ者がいない程の力が欲しいの」
「その覚悟をするに至った原因があるのだろうが聞くまい。大事なのは覚悟があるのかどうかだ」
「覚悟ならあるわ。私は時女一族の矜持を誰よりも体現しないとならない者…そのための力なの」
「愛国心を示すための力を求める…その気持ちは我らと同じであろう。協力は惜しまない」
「私は今すぐ力が欲しいの。サマナーになるための修行をしている暇はない」
「そこまで急ぐ理由とは何だ?」
「私の力を示し、時女の魔法少女達の心に安心を与えてあげたい。私についてきてもいいのだと」
「群れを率いる者に求められるのは安心であり、信託だ。力を示すのもまた長の務めであろうな」
頷いてくれたアビヒコは静香の要求に応えるために試練を課そうとしている。
それを聞かされた静香の表情は恐怖によって引きつってしまい、驚愕した顔つきで叫んでしまう。
「噓でしょ!?黄泉平坂が……古事記に記された黄泉の国がこの近くにあると言うの!?」
「我々がこの地に根差したのは潜伏するだけではない、守り人としての役目もあるのだ」
「黄泉平坂から出てくる悪魔が人々を襲わないようにするための役目も貴方達にはあったのね…」
「かの地には我々が封印した荒神が存在している。その神を倒し、服従させてその力を手にしろ」
「黄泉平坂に封印された荒神と決闘をしてこいと言いたいの…?」
「この村の悪魔は大事な戦力、誰一人お前のために犠牲にするわけにはいかん。代わりが必要だ」
「その代わりとなる荒神は……私の期待に応えられる程の力を秘めた神なの?」
「無論だ。国津神である我々も封印に手こずった……何せ、イザナミ神を殺せる程の火の神だ」
その荒神を表す言葉を聞いた瞬間、聞き耳を立てていた者が襖を開けて声を荒げる。
「正気なのか!?この者にヒノカグツチの元に向かわせようとは……自殺行為だ!!」
大広間に入ってきたのは村の軍神であるオオヤマツミであり、静香の身を案じてくれる。
「危険は承知。もとよりこの娘は勝算など無い戦に赴く身…ならば死中に活を求める必要がある」
「我々でさえ封印するだけで精一杯だった荒神を戦力にするなど不可能だ!我は反対する!!」
「汝の意見は聞いていない。この娘に覚悟があるのかどうかを問いたい。ないなら…話は無しだ」
静香を試す者であるアビヒコは彼女に顔を向け、覚悟がある者なのかを問いかけてくる。
「時女静香、汝に問う。日の本を取り戻すための力を求めるだけの覚悟はある者か?」
今の自分でも勝てないオオヤマツミでさえ恐れる程のヒノカグツチを相手に決闘をしてくる。
それがどれ程の死地に赴くことになるのかは言うまでもない。
震え上がっている静香であったが、それを上回る程の感情によって恐怖心を抑え込む。
涼子と喧嘩したことで自分の道に迷いはなくなった彼女は決意を示してくれるのだ。
「アビヒコ様……私は戦ってくる。準備をするから少しだけ時間を頂戴」
「気は確かか小娘!?せっかく拾えた命をみすみす捨てに行くようなものだぞ!!」
「オオヤマツミ様…心配してくれる気持ちは嬉しい。だけど時女一族の長として…押し通るわ」
一度決めたら止まらない性格をした静香の真っ直ぐ過ぎる気持ちをオオヤマツミは危惧している。
これではブレーキの効かない車のような女であり、自分では止められずいずれ崩壊するしかない。
しかし、そんなブレーキの効かない車娘の肩を持つ国津神が入ってくるのだ。
「いいんじゃねーか?その向こう見ずで真っ直ぐな覚悟をオレは気に入ったぜ」
大広間にやってきたのはナガスネヒコとミシャグジさまであり、ミシャグジさまは呆れた様子。
「やれやれ…これでは命がいくつあってもこの娘は足りん。仕方がない、ワシもついて行こう」
「ミシャグジ殿だけでは心許ない、我もついて行くぞ」
「そんならオレも……」
「汝はダメだ、ナガスネヒコ。村長代理の汝まで死んでしまったら村の者達が不安で圧し潰れる」
「オオヤマツミならいいってのかよぉ、兄者!?」
「村の軍神であるオオヤマツミ殿やミシャグジ殿も向かわせたくないが……止まらんのだろう?」
「その通りだ。この娘は大国村の大事な戦力となれる逸材だ…ここで死なせるわけにはいかん」
「そういうわけじゃ。色気がないオッサンと爺さんが黄泉路のお供になるのは勘弁せぇのぉ」
「フフッ♪そんなことないわ、とっても心強いわよ。本当にありがとう……必ず生きて戻るわ」
こうして静香達一行は根の国である黄泉平坂に向かう事になっていく。
彼女の意思を後押ししてしまったのは、お節介が過ぎた涼子のせいでもある。
知覚によって得られた情報で認識が生まれ、それによって行動が生まれたせいで悪い事が起きる。
静香の母の気持ちばかりに意識を向けていたせいで静香の気持ちに意識を向けられなかった。
それによって気持ちがすれ違い、悪い結果が起こってしまったのだ。
善意が必ずしも人々を救うものではない。
それは先入観であり自分勝手な主観であり情報不足。
相手を知る努力をしない限り自分の捉え方だけで人々を判断して良し悪しを決めてしまう。
ニーチェが残した言葉通り、君が出会う最悪の敵はいつも君自身なのであった。
自分の先入観や捉え方の先行で物事を決めちゃって悪い結果をもたらしたまどマギキャラがいますよね?
はい、さやかちゃんの気持ちを知る努力もせず恭介君に告白を行う発言をした志筑仁美ちゃんですね。
人間は本当に救いがねぇ(汗)