人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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246話 自由の代償

朝早くから伊賦夜坂(いふやざか)という人気のない山道の奥へと向かうのは静香達である。

 

彼女達が向かう先とは黄泉平坂がある根の国の入口。

 

先導するオオヤマツミとミシャグジさまの後ろをついていく静香は疲れた表情を浮かべている。

 

強がっていてもまだ子供であり、恐怖心によって睡眠を阻害された事で一睡も出来なかったのだ。

 

「もう少しで根の国の門につく。準備はいいな?」

 

「……えっ?え、ええ……大丈夫よ、大丈夫……」

 

「…その様子なら昨夜は一睡も出来なかったようじゃな?強がっていてもまだ子供じゃて」

 

「私の覚悟は本物よ!それを証明してみせるんだから!」

 

「お前さんのような子供を戦場に連れていくのは忍びない……全部民衆共の怠慢のせいなのじゃ」

 

「そうだな…今の日本の圧政が70年代だったなら、デモやストどころか内戦が起こったかもな」

 

「半世紀もの時間が日本人の性根を骨の髄まで腐らせた。今の民衆の中身はパンとサーカスじゃ」

 

「団塊世代の人達がいたのに……どうして日の本の民はそこまで堕落したのかしら?」

 

「学生運動や組合運動が消えたのは昭和の豊かさが原因だ。食うに困らなくなれば牙も抜かれる」

 

「当時の連中は豊かさのせいで後代の人々に何も受け継ぐ必要性を感じなくなったのじゃ」

 

「逃げ得というヤツね…本当に酷いわ。自分達が生きている国の未来を豊かさで捨てるなんて…」

 

「今の日本人こそ経団連や売国政治家共の理想の姿だ。自分の頭で考えず御上に全てを丸投げだ」

 

「上に言われた事を忠実に守るロボットの生産じゃ。国が売られているとも気が付かずにのぉ…」

 

堕落した日本人を憂う会話を続けていたら目的地に到着したようである。

 

国津神達が後ろを振り向き、静香は息を飲み込みながら緊張感を表す。

 

見えたのは鳥居のような石柱が二本であり、しめ縄が巻かれている。

 

そこを潜った瞬間、静香は肩にずしりと重みがかかり言い知れぬ程の恐怖を感じてしまう。

 

「この感覚は……悪魔の結界と似ているわ。ここは既に異界になっていたのね」

 

「この先に石組みの台座の上に石碑が鎮座している。黄泉の入口である千引岩の欠片じゃよ」

 

「中に入るのは悪魔の異界や魔獣の結界に入るやり方と同じだ。ソウルジェムをかざすといい」

 

石碑の前まで来た静香はソウルジェムを生み出して石碑に向けてかざしてみる。

 

すると異界の景色が変わっていき、恐ろしい悪夢の光景が広がっていく。

 

「こ……これが黄泉平坂……!?」

 

辺りの景色は通常空間から悪魔の世界に切り替わるようにして変化しており、周囲は異臭が酷い。

 

まるで仏教においての地獄を表すような景色であり、周囲には怨霊の鬼火が無数に浮かぶ。

 

辺りの草木も枯れ果てており、およそ生命の息吹を一切感じることはない程の異界なのだ。

 

「我々が向かうのは黄泉の国に至る手前にある根の堅州国(ねのかたすくに)じゃ」

 

「酷い瘴気……こんな場所にいたんじゃ私の魂までこの世界に取り込まれてしまいそう……」

 

「いいか、この世界で見かけた飲み物や食べ物には一切触れるな。イザナミ神と同じ末路になる」

 

「うむ…我らが高祖神であるイザナミは死した後、この世界に流れ着き黄泉の食べ物を口にした」

 

「そのせいで体は腐敗し、生ける屍の如き醜い姿に変えられて永遠を彷徨うようになったのだ」

 

「すなおから聞いた事があるゾンビみたいね。分かったわ、この世界の食べ物には手を触れない」

 

「道中には黄泉の住人である悪魔共もいるだろう。油断はするなよ」

 

魔法少女姿に変身した彼女は背中に背負っていた刀の柄を握り込み抜刀する。

 

母の形見である練気刀をお守り替わりにしながら彼女はオオヤマツミ達の後に続くのだ。

 

「生きたままあの世に辿り着けただなんて……すなお達に語っても信じてもらえないわよね」

 

暗黒に染まった黄泉平坂の夜道を歩いていると、恐ろしい女達の囁き声が響いてくる。

 

<<アハハハハ!!魔法少女だって亡者と変わらないわよ!魂を抜き取られた連中のくせに!>>

 

「な、なんですって!?巫をバカにするヤツは許さないわよ!!正体を現しなさい!!」

 

草むらの中から飛び出した無数の黒い物体とは女性の髪の毛。

 

あまりにも長過ぎる髪の毛が静香達の周りに飛び込み髪を編み上げながら形を形成していく。

 

現れたのは黄泉平坂の住人であり髪の毛の体を形成しながら立ち上がってきたようだ。

 

【ヨモツシコメ】

 

黄泉の国の醜い女であり、イザナミの姿を見たイザナギを殺すために放たれた刺客。

 

醜い字をシコと読むのは死国である黄泉と関係するという説もあり、死をばら撒く女共であった。

 

「あぁ……美味しそうなソウルジェムね!それを置いていきなさい!私が食べてあげる!!」

 

「ちょっとアンタ!!1人で独占する気!?アタシだって食べたいわよ!!」

 

「あなたはこの前ブドウを食べてたじゃない!!私だって食べたかったんだから今回は無しよ!」

 

誰が静香のソウルジェムを食べるかで喧嘩を始めてしまうヨモツシコメであるが相手が悪い。

 

静香は炎を司る魔法少女であり、ヨモツシコメ達の体を構成するのは燃えやすい髪の毛だ。

 

「悪いんだけど、私の魂は譲れないわ。その代わりに私の魂から発する炎をくれてあげる!!」

 

ソウルジェムの魔力から発するのは刀に纏わせた業火であり、炎を見た女達が叫びだす。

 

「ゲゲェ!!?こ、こいつ炎の魔法を使えるヤツだったのぉ!?」

 

「聞いてないわよ!!ア、アンタが食べたいって言いだしたから……アンタに獲物を譲るわね」

 

「押し付けないでよ!?あなただってこの娘のソウルジェムを食べたいって言ってたのにー!」

 

「問答無用!喧嘩するぐらいなら仲良く私の炎を喰らいなさい!!」

 

刀を振るう度に次々と火球が飛んでいき、ヨモツシコメ達の体を燃やしていく。

 

慌てふためく他のヨモツシコメは逃げ出そうとするのだが、他の者達が容赦してくれない。

 

「鎧袖一触!!この程度の雑兵など我の真の姿を晒す程の脅威ですらない!!」

 

作業着を纏った屈強な男が素早く踏み込み、右拳に氷を纏わせていく。

 

剣となった拳を用いて打ち貫く一撃は『氷龍撃』であり、水を司る山神ならではの魔法だ。

 

人間に擬態していようとも静香が勝てない程の力を秘めた者こそが大国村の軍神である。

 

「オオヤマツミに言われてしまったのぉ。お主らなど、我々の敵ではないということじゃ」

 

走りながら逃げるヨモツシコメの頭上を月面宙返りを行いながら着地して前を塞ぐ者が現れる。

 

両腕がない老人が用いる武器とは両足であり、雷を纏わせた回転蹴りが次々と放たれていく。

 

<<アバババババババッッ!!!>>

 

『雷龍撃』の一撃を回転蹴りを用いて放つ姿はまるで体術を用いる忍者のようだ。

 

両腕がなかろうと擬態姿であろうとミシャグジさまの力は本物であり、敵を寄せ付けない。

 

頭部を蹴り砕かれた女悪魔達の体が倒れ込み、MAGの光をばら撒く最後を迎えるのだ。

 

「こっちは片付いたわ。そっちは心配するような状況でもなさそうね」

 

「無論だ。この程度の障害ならば問題ない、先を急ごう」

 

「我々は黄泉平坂にいる。まだまだ怨霊悪魔はうじゃうじゃ湧いてくるじゃろうのぉ……」

 

かくして一行は黄泉平坂の奥へと進んでいき、道中の戦闘も危なげなく通り超えていく。

 

そんな者達が辿り着いた場所とは根の堅州国(ねのかたすくに)にある峡谷。

 

噴き上がる熱気によって静香は顔をしかめる程にまで熱がってしまうようだ。

 

「この巨大な崖の下にヒノカグツチは封印されている。道は無いから崖から下るぞ」

 

「こ……こんな下に降りろっていうの!?火山の噴火口に飛び込むようなものよ!!」

 

「ヒノカグツチは神話通り体そのものが業火なのだ。この熱こそ我の父神の怒りでもある……」

 

「ヒノカグツチの……怒り?」

 

「生まれただけで母神を殺し、父神に呪われながら殺され、己だけでなく全てを憎む怒りじゃよ」

 

辛そうな表情を浮かべる国津神達が跳躍しながら崖を下っていく。

 

突起の多い崖の壁面を利用しながら降りていくその姿はまるで崖の急斜面を渡る山羊のようだ。

 

「迷っていても仕方がないわ……この下に私の望む力があるのなら……突き進むのみよ!」

 

力を求める魔法少女もまた崖を飛び降り、崖の壁面を利用しながら峡谷の下に降りていく。

 

彼女達が降り立ったのはマグマの川のような場所。

 

まさにその景色は仏教の地獄で表現された焦熱地獄を表す程の光景であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「熱い!!熱過ぎる!!こんな場所にいたんじゃ私は焼け死んでしまう!!」

 

魔法少女であっても噴火口の内部に飛び込めば無事で済むはずもなく、静香の肌が焼けていく。

 

辛そうな表情を浮かべるのは国津神達も同じであり、命を焼き尽くす封印の地の洗礼を浴びる。

 

「ぐっ!!山神である我でも耐え難い!待っていろ、汝らの体を強化する!」

 

オオヤマツミが補助魔法の『ラクカジャ』を行使。

 

最大までかけられた補助魔法のお陰で静香達の防御力が増し、炎ダメージも軽減されていく。

 

「ありがとう……オオヤマツミ様。これなら何とか奥まで進めるかも……」

 

「じゃが…いずれ限界がくるだろう。ヒノカグツチとの闘いは時間との勝負…各々覚悟なされ」

 

ダメージゾーンとも呼べる程の地獄の道を進んでいくと暗い奥底から恐ろしい声が響き渡る。

 

<<グゥゥゥゥッッ!!この魔力はオオヤマツミとミシャグジか…?何用だぁ!!!>>

 

峡谷に響き渡る程の轟音ともいえる叫びを聞いてしまった静香の耳が痛くなり、恐怖してしまう。

 

「これ程までの大声を出せる程の存在なの…?ヒノカグツチは……?」

 

「覚悟せよと申したはずじゃ。お前さんが相手をするのは山火事そのものだと思え」

 

「父神殿は巨体を封印されているとはいえ、怒りの業火は健在だ。油断すれば一瞬で燃やされる」

 

「それ程までの存在だなんて……魔法少女であっても勝てる気がしないわね……」

 

峡谷の奥に進めば進むほどヒノカグツチの強大過ぎる魔力を全身で感じてしまう。

 

今まで戦ってきた中で最悪の敵を前にしても静香の覚悟は揺るがない。

 

不退転の覚悟で進んだ少女の先には大きなマグマの池が見えてくる。

 

「あ……あれが……ヒノカグツチ……?」

 

「言ったじゃろう……山火事そのものを相手にするようなものだとな」

 

無数の岩場がマグマの中に浮いており、その中央には巨大な男神が鎖によって拘束されている。

 

全身が燃えるために衣服も纏えず、髪の毛も生えず、ひたすら巨体を燃やし続ける荒神の御姿だ。

 

「貴様らァァァァーーーーッッ!!我をここから解放しろォォォォーーーーッッ!!!」

 

燃え上がる上半身しか見えないが、それだけでも全長は100メートルを超えている。

 

燃え上がる高層ビルを相手に戦うことになった静香は初めて死を意識させられる事になったのだ。

 

【ヒノカグツチ】

 

日本神話に登場する代表的な火の神であり、母神であるイザナミを焼き殺した荒神。

 

ヒノカグツチの亡骸や流れ出た血からは数多くの神々が生じ、その強い創造性を覗かせる。

 

火の焼き尽くす破壊の力と陶器や鉄器などを生み出す生成の力を象徴する神。

 

火伏せの神や鍛冶・焼物の神としても信仰され、死してもなお神は人の内に生きるのであった。

 

「あ……あんな荒神を……私が倒せるの……?」

 

恐怖心が抑え込めなくなり、静香の体がガタガタと震え始める。

 

国津神達でさえ恐れの感情が顔に浮かんでいるが、それでもオオヤマツミが先んじて叫ぶ。

 

「我らが父神殿!!怒りを鎮められよ!!我らは貴方様の御力を賜りたく……」

 

「黙れぇ!我は貴様の父になった覚えなどない!我のどの部位から生まれたかも分からん神め!」

 

「ヒノカグツチ殿!!今の日の本には太陽あらず!!我ら国津神はこの国を救うために……」

 

「笑止!!貴様の本音は知っているぞ…タケミナカタ?我と同じく暗い炎を宿す者よ!!」

 

「タケミナカタ……?」

 

ミシャグジとしか名を聞いていない老人の真名なのかと疑問を浮かべる静香。

 

ヒノカグツチには見抜かれているのかとミシャグジさまは顔を俯けてしまう。

 

「汝の両腕を切り落とした憎き天津神族への復讐心!!それこそが汝を戦場に駆り立てるのだ!」

 

「…確かにワシはタケミカヅチに敗れた。蛇神に堕ちてしまったが、国津神の誇りは捨てない!」

 

「父神殿!!貴方様もまた国生みの神!貴方様の血潮もまた日の本を育てる神を生んだのです!」

 

「黙れぇぇぇーッッ!!我にあったのは父神であるイザナギの呪い!!妻を殺した我への呪い!」

 

イザナギを思い出しただけで全身から吹き上がる業火の勢いが増し、暴れ狂いだす。

 

両腕は広げられたまま鎖で縛りつけられているが、壁面の楔が抜けそうな程にまで暴れ狂う。

 

「憎い…全てが憎い!!焼き尽くしてやる…日の本の全てを業火で焼き尽くしてやろうぞ!!」

 

「そんなことはさせないわ!!」

 

虫けらなど気にしてはいなかったようだが、火の神を恐れない程の叫びを上げる女に目を向ける。

 

そこに立つのは国を憂う者であり、憂国の烈士となった時女一族の長を務める者。

 

「ぬぅ……魔法少女だと?何ゆえに魔法少女などがこの地にいるのだ?」

 

「私は貴方様の力を欲する者!!日の本を奪い取った国賊共と戦う力を欲する者よ!!」

 

燃え上がる両目を細め、静香の心の中を見ようとする。

 

何かを感じ取ったのかヒノカグツチが盛大に笑い出したようだ。

 

「フハハハハハ!!汝もタケミナカタと同じ穴の狢か!!我と同じく暗い炎を宿す娘め!!」

 

「私も……タケミナカタ様と同じ暗い炎を宿している……?」

 

「汝にあるのは復讐の炎!!故郷を燃やされ!母親を殺され!一族の未来を奪われた憎しみだ!」

 

怒りの炎を司る荒神には見抜かれているのかと静香まで顔を俯けてしまう。

 

「大儀など飾りだ!!汝の中にあるのは復讐を果たすために暴れたいだけの欲望!我と同じだ!」

 

「確かに私の中にも復讐心が宿っている……だけど!私は個人の復讐よりも大儀を望む者よ!!」

 

「貴様の怒りもまた国を焼くぞ!!国賊だけで済むものか…罪なき民共も業火で燃やす炎だ!!」

 

「そんなことはないわ!!私は罪なき者まで殺そうだなんて……」

 

「国と戦うというならば貴様は国賊扱いされる!!迎え撃つ敵は働くだけの労働者共だ!!」

 

「そ……それは……」

 

「貴様はその者達を殺さねばならぬ!大儀と名乗りながら罪なき者共まで殺す!それが戦争だ!」

 

アビヒコと同じ言葉を浴びせられた静香の体が震えていく。

 

霧峰村を襲った米軍兵は村を焼いた罪人共だと怒りを爆発させる事で殺す事が出来た。

 

しかし今度は国のために働くだけの公務員まで殺さなければならず、静香もまた罪人となる。

 

「戦争とは矛盾極まった行為!!ミイラ取りがミイラになり果てる道!!それでも進むか!!」

 

覚悟を問われた者の震える拳が握り込まれていく。

 

迷いを切り払うように刀を振るった静香は己が何者であるのかを叫ぶ事で覚悟を示す。

 

「私は時女静香!!国を守ることを誓った一族の長!私を突き動かすのはこの誇りだけでいい!」

 

「よくぞ申した!!これで我らは同じ復讐の炎を纏う者!存分に怒りの炎を燃やし合おうぞ!!」

 

ついにヒノカグツチが動き出し、小さき憂国の烈士の覚悟を試そうとする。

 

霞の構えを行いながら迎え撃つ静香もまた死地に赴く覚悟を決めるだろう。

 

ここは黄泉平坂。

 

死者達が辿り着く場所であり、ここで死ぬ者はその魂まで永遠に囚われる牢獄であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「行くぞ!!オオヤマツミ!!」

 

「承知ッッ!!」

 

悪魔の力を解放した男達が悪魔変化を行い、その巨体を持ち上げていく。

 

ミシャグジさまの隣に立つのはヒノカグツチの上半身に匹敵するほどの巨躯の山神。

 

全身を岩盤のような岩の塊で構築した御姿こそがオオヤマツミの真の姿なのだ。

 

「喰らうがいい!!我が憤怒の炎を!!」

 

巨大な口を開けたヒノカグツチが放つのはファイアブレスであり、豪熱放射が迫りくる。

 

迎え撃つのはオオヤマツミであり、同じく巨大な口を開けて氷結ブレス攻撃を仕掛ける。

 

絶対零度のブレス攻撃と豪熱放射のファイアブレスがぶつかり合い、互いが一撃を押し込み合う。

 

「オオヤマツミとワシが奴の体を構築する炎を消し去る!いいか、炎攻撃だけはするなよ!!」

 

「分かってるわ!!同じ属性攻撃が通用するはずがないものね!」

 

「お主は隙を見つけて奴の体に飛び移れ!!首の傷跡こそが奴の弱点じゃ!!」

 

静香がヒノカグツチを見上げれば首の辺りが真一文字に光っており、内側から炎が溢れている。

 

「あの傷跡こそがイザナギ神がつけたもの。概念存在であるがゆえに傷も残ってしまうのじゃ」

 

「あの傷に沿うように斬り付ければいいのね?了解したわ!!」

 

前線を任せた静香はマグマの泉の端へと走り出す。

 

ブレス攻撃を仕掛け合うオオヤマツミを援護するためにミシャグジさまは口を大きく開く。

 

亀頭のような頭部の口から吐き出されたのは『たたり艶電』であり、呪いの塊が飛んでいく。

 

魅了効果を与える大ダメージを放つ一撃であるが、既に狂っている荒神には効果が薄い。

 

ブレス攻撃を放ちながらも静香の移動には気が付いているヒノカグツチは体から業火を放つ。

 

「キャァァァァーーーーッッ!!?」

 

地獄の業火で周囲が爆発していき、爆発に吹き飛ばされた静香が危うくマグマに落ちかける。

 

「ヌゥゥゥゥゥーーーーッッ!!!」

 

気力を振り絞りながら冷気ビームを放ち続けるオオヤマツミであるがついに押し切られてしまう。

 

「ウォォォォーーーーッッ!!?」

 

ファイアブレスの熱線が直撃したオオヤマツミの体が燃え上がり、片膝をつく。

 

山神であるため炎には弱く、まるで山火事のように体が燃え上がり続けるようだ。

 

「フハハハハァ!!山神である貴様如きが!!憤怒の炎である我にかなうものかぁ!!」

 

「いかん!!今助けるぞオオヤマツミ!!」

 

水を司るオオヤマツミを失ってはヒノカグツチから吹き上がる業火を消す方法を失ってしまう。

 

駆け寄ろうとするミシャグジさまに目掛けて放つのはアギダインであり、大火球が迫りくる。

 

「ウォォォォーーーーッッ!!?」

 

跳躍して避けようとしたが大爆発の爆風までは防げず、ミシャグジさまが大きく弾き飛ばされる。

 

体を拘束されたままの状態でありながら二体の国津神達でさえ押し切られてしまう脅威。

 

それが荒神であるヒノカグツチの力であり、国津神達から恐れられる程の存在なのだ。

 

<<まだよ!!>>

 

叫び声が聞こえた方に視線を向ければ、左腕を拘束した鎖の道を走る静香の姿が迫りくる。

 

肌は焼け焦げており、全身大火傷を負いながらもヒノカグツチに一太刀浴びせようというのだ。

 

「ムハハハハ!!業火の中に飛び込んで死ぬつもりか?愚か極まったな!!」

 

飛んで火にいる夏の虫が死ぬ瞬間を楽しもうと静香に意識を向けているからこそ隙が生まれる。

 

仲魔達を信じているからこそ出来る決死の囮となった彼女の覚悟を汲み取った者が死力を尽くす。

 

「フッ……もう小娘とは呼べないな。汝の覚悟は受け取ったぞ、猛き者よ!!」

 

体が燃え上がりながらも口を開き、再び絶対零度の極太冷気ビームを発射する。

 

オオヤマツミの一撃が迫りくるのに気が付いた時にはもう遅い。

 

「グォォォォォーーーーッッ!!?」

 

冷気ビームが体に直撃した事で全身に纏っていた業火が鎮火していく。

 

この勝機を逃せば死ぬしかないと分かっている静香は最後の力を振り絞りながら刀を振り上げる。

 

「御首級頂戴つかまつるわ!!!」

 

振り上げた刃が狙うのは業火が鎮火した巨大な首に走る真一文字の傷跡。

 

ついに静香の決死の一撃が決まった事で国津神達の顔も安堵で微笑む。

 

だが、トドメの一撃を放った者だけは違う。

 

「そ……そんな……」

 

刀の刃が傷跡に沿うように食い込んでいるが、首を跳ね落とす程の一撃としては足りない。

 

体を焼き尽くされながら走ってきた彼女の力はもう殆ど残っていなかったのである。

 

「貴様ァァァーーーーッッ!!神に傷をつけるかァァァーーーーッッ!!!」

 

トドメを刺しきれなかった事態に気が付いた国津神達であるがもう遅い。

 

神を傷つけるのは神の誇りを傷つけるも同じであり、憤怒を爆発させた体が燃え上がっていく。

 

その場に立っていては燃え尽きてしまうと静香は大きく跳躍して国津神達の元に逃げる。

 

鈍化した世界。

 

再び燃え上がった業火の体から放つのは大都市でさえ焼き尽くす一撃となるマハラギダイン。

 

地面に着地した静香の体を覆うように体を盾にしてくれる国津神達の背後で業火が噴き上がる。

 

<<アァァァァーーーーッッ!!!>>

 

灼熱地獄と化した封印の地が激しく燃え上がり、国津神達の体を焼いていく。

 

いくら炎を防いでくれても熱までは防げず、静香の体は耐え切れない。

 

「こんな……ところで……」

 

焼け焦げていく自分の体の臭いさえ感じなくなっていく静香の意識が消えていく。

 

ソウルジェムも穢れに耐え切れないようにどす黒く変色していき、魔法少女の死が訪れるのだ。

 

薄れていく意識の中、志半ばで倒れる自分の無力さを嘆いてしまう。

 

憂国の烈士になろうとした時女静香の物語が幕を閉じる時がきたのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ここは……どこ……?」

 

意識が朦朧としながら歩く空間とは白い霧に覆われた世界。

 

何も見えない世界を夢遊病患者のように歩くのは静香であり、ここが何処かも分からない表情だ。

 

自分が生きているのかも死んでいるのかも分からない彼女の元に空から光が降りてくる。

 

静香の前にまで現れたその存在こそ、希望を願った魔法少女達の救い神であると同時に死神。

 

光が形を成し、現れた存在こそが円環のコトワリ神なのだ。

 

「もしかして貴女が……私達が死ぬ時に現れるという……円環のコトワリ……?」

 

あまりにも長過ぎるピンク色の髪、白いドレスのスカート内には宇宙が見える。

 

背中には白い翼が広がっており、その目は神であり悪魔を表す金色の瞳。

 

女神の姿がここまで忠実に形となり表れる現象こそ悪魔ほむらの力が崩壊している証拠。

 

もう直ぐ銀の庭に入り込める程にまで宇宙の壁を壊せる円環のコトワリが語り掛けてきたようだ。

 

「……自由という名の愚か者よ」

 

あまりにも冷たく、冷淡な声。

 

鹿目まどかと同じ顔と声を持ちながらも、その心は機械のように無機質。

 

魔女達の救い神であるはずなのに、あまりにも希望を感じさせない女神が問いかけてくる。

 

「自由とは()()()()()()()()、死のかげの谷なり。行く先には()()()()が待ち受ける」

 

「自由とは奈落…?自由という死のかげに飛び込む者達は…墓場に入るしかないと言いたいの?」

 

「女よ……我は汝の心を見る」

 

金色の瞳が爬虫類のような瞬膜となり、静香の心の中を覗き込む。

 

何かを感じ取ったのか円環のコトワリ神が静香を試すようにした言葉を投げかけてくる。

 

「自由という名の愚か者よ!お前はその名の為に病を担い痛みを負い、果てぬあざけりを受ける」

 

円環のコトワリ神が語った言葉こそが自由を掲げて戦おうとした全ての人々を表す言葉。

 

自由のために心は尽きぬ痛みを背負い病んでいき、誰にも信じてもらえないあざけりを受ける。

 

「怖れるか、患いを?怖れるか、辱めを?」

 

これから静香達のような自由を掲げる魔法少女達は際限のない苦しみの病が降りかかるだろう。

 

人々からは嘲笑われ、馬鹿にされ、中二病だのカルトだのテロリストだのと呪われていくだろう。

 

その道に進む覚悟はあるのかと問われた時、憂国の烈士は答えてくれる。

 

「……恐れないわ」

 

眉一つ動かさず静香の覚悟を聞いた円環のコトワリ神がさらに試す言葉を投げ放つ。

 

「お前はその名の為に()()()()()()()()、幾度も否まれ、()()()()()()()()()であろう」

 

自由を掲げれば掲げるほど親友達と心はすれ違い、喧嘩しながら分かれていく。

 

陰謀論者だと馬鹿にされ、幾度も否まれ、暗い敗北に包まれた人生を生きるしかない。

 

暁美ほむらや美国織莉子、そして氷室ラビや三浦旭や里見親子が通った暗い道を表す。

 

そして志を同じくした仲間達とでさえ心がすれ違う。

 

広江ちはるや南津涼子のように、際限のない別れを経験する敗北の道が待っているだろう。

 

「怖れるか、欺きを?怖れるか、災いを?」

 

円環のコトワリ神の言葉を理解出来る程の経験を積んでしまった静香の体が震えていく。

 

これから先、自分は誰にも理解されない道を生きることになるだろう。

 

悪魔のように悪者にされながら生き、人々から呪われる存在になるしかない。

 

それでも静香には背負わなければならない使命があるのだ。

 

「……恐れないわ」

 

迷いのない目を向けてくる魔法少女の覚悟を受け取った円環のコトワリ神が残酷な言葉を放つ。

 

その言葉はまさに、救済を拒む者達に向けた憎しみさえ感じさせる程の冷たい言葉だった。

 

「……女よ、汝もまた悪魔の道を進むか。暁美ほむらと同じ道を進むか」

 

「暁美ほむら……?その魔法少女も私のように自由を掲げた者のようね……?」

 

「ならば汝らには()()()()()が待っているだろう。我の救済を拒む者共に相応しい末路がな」

 

「貴女……私が恐れると言ったら……私を救済するつもりだったの?」

 

「我は魔女達の希望によって生まれた虚構の神、アラディア。我の救いは魔女達の希望なり」

 

「勝手なこと言わないで!!私は円環のコトワリに導かれることが救いだなんて思わない!」

 

円環のコトワリに向けて拒絶を示した魔法少女の態度が気に入らないのか、眉間にシワを寄せる。

 

円環のコトワリ神であるアラディアに立てつく者達にもまた裁きが訪れる日も近いのだろう。

 

「女よ……自らを由とせよ。しかし、その道は奈落の道であり、墓場の勝利が待っているだろう」

 

<<だからこそ、私達が彼女を支えるのよ>>

 

静香の背後に現れた別の光に目を向けていく。

 

神々しく輝く天女のような国津神の姿を見た円環のコトワリ神が怒気を含んだ言葉を吐き捨てる。

 

「我の邪魔をする気か……?刀剣の神!!」

 

静香の背後に現れた存在が静香を抱きしめ、円環のコトワリ神が築いた異界から救済してくれる。

 

「静香……貴女には使命がある。貴女が進む暗き道を切り開くための刃となりなさい」

 

「あ……貴女は……?」

 

「さぁ、目を覚まして。まだ貴女の戦いは終わりではないわ…恐れなくていい、私達がついてる」

 

「そうよ……私には使命があるわ。だからこそ……その道を切り開くには……」

 

静香の姿が光に包まれるようにして消えていく。

 

獲物をかすめ取られたような不愉快さを顔に表す無機質な女神がこう告げる。

 

その言葉は自由を掲げて悪魔の道に進んだ魔法少女達に向けての宣戦布告でもあった。

 

「自由という名の愚か者共……我は覚えておくぞ。汝らの愚かさと、その罪深さをな」

 

アラディアが静香に語った言葉こそ、かつてのボルテクス界で人修羅にも語られた言葉である。

 

人間は自由という概念に憧れながらも、自ら自由を捨てて群衆生物になる道を求める者達。

 

自由のリスクに耐えられず、自ら考えて抗う道を捨てながら安易な救いを求めていく。

 

だからこそ、自由(CHAOS)を求める者達は誰よりも強くならなければならない。

 

その道の最も凶悪な敵となる存在こそ、自らを由と出来ず、秩序(LAW)に盲従する()()()()

 

もし人修羅である尚紀の心にも怖れがあったならば、きっとルシファーの道には進まないだろう。

 

安易な救いというコトワリについて行く道を選び、自由とは程遠い末路を迎えていたのであった。

 




黄泉平坂を描いてるとペルソナ4を思い出しますな。
ペルソナ3リロードはどうしようか迷うけど、取り合えず様子見。
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