人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

249 / 404
円環のコトワリ編
248話 天に現れた御使い


かつてのボルテクス界におけるアマラ深界において、人修羅は世界の真実を聞かされてきた。

 

その中には異世界である別のボルテクス界から流れ込んできた虚構の神の話もされている。

 

虚構の神の名はアラディア。

 

アラディアとは民俗史家が発表したアラディアもしくは魔女の福音書に登場する女神の名だ。

 

魔女達はキリスト教以前の女神信仰を拠り所としている。

 

大母神ディアナと太(・)陽(・)神(・)ル(・)シ(・)フ(・)ァ(・)ー(・)(大魔王ではない)の子として生まれた女神であった。

 

虐げられし貧しい者や異教徒を救うべく地上に最初の魔女として降臨した神こそがアラディア。

 

しかしこの神話は後の民俗学者の研究により魔女による創作である事が明らかにされている。

 

存在そのものが魔女達の夢想であり、それ故に本物の神にはなれない虚構の存在。

 

それでも魔女達は迫害から逃れるため夢想に過ぎない女神を希望の象徴として祀り上げてきた。

 

力というもの、人はそれを欲して求めていく。

 

光であろうと闇であろうと、どちらであっても人は頼り、祈るのだ。

 

その祈りはボルテクス界を超え、アマラ宇宙を超え、魔法少女達が生きる宇宙にまで響くだろう。

 

この世界においても魔女に至る魔法少女達はキリスト教の神である唯一神の家畜とされてきた。

 

宇宙を温める熱エネルギーとして希望と絶望の相転移を生むために絶望させられてきたのだ。

 

そんな魔法少女もまた魔女と同じく希望を求め、救いを与えてくれる力を求めて祈りを捧げる。

 

そんな彼女達の中にいた鹿目まどかの祈りに応えるようにして現れたのがアラディアなのだ。

 

鹿目まどかと宇宙規模の感情エネルギーを手に入れた事でついにアラディアは本物の神となる。

 

ボルテクス界で取り憑いた女では得られなかったコトワリを得た事でコトワリ神となったのだ。

 

鹿目まどかが世を救おうと信じて祈った神は円環のコトワリ神となり魔女達の救い神となった。

 

しかし、鹿目まどかが啓いた円環のコトワリを良しとしない魔法少女が現れる。

 

その魔法少女は大魔王ルシファーに導かれるようにして悪魔になる道を選んでしまう事になろう。

 

そして悪魔ほむらとなった彼女は円環のコトワリから鹿目まどかの記憶を奪い取ってしまう。

 

円環のコトワリの中核ともいえる自分の半身を奪い取られたアラディアは激怒するのだ。

 

自分の父神である太陽神ルシファーとは違う大魔王ルシファーに惑わされた者に裁きを下す。

 

唯一神の力で実体化する事が出来たアラディアは鹿目まどかが生きる宇宙を侵略するだろう。

 

まどかを守るための銀の庭の壁となる窓ガラスはついに砕け、アラディアは顕現したのであった。

 

……………。

 

<……この宇宙の地球に辿り着くまで随分と手こずらされた>

 

半身が閉じ込められた銀の庭に存在している地球を外から見下ろす女神こそがアラディア神。

 

神霊規模のコトワリ神である彼女の顔は怒りに満ちており、悪魔ほむらを亡き者にしようとする。

 

悪魔も許せないが円環のコトワリの一部でありながら使命を忘れた連中にも怒りを向けていく。

 

<我の一部でありながら……なんという醜態。本来ならば貴様達が取り返すべきだったのだぞ>

 

全ての宇宙を見通す千里眼の如き金色の瞳に映るのは地球で暮らす円環の鞄持ち達の姿。

 

美樹さやかと百江なぎさは今日も本来の自分の姿に気が付きもせず毎日を過ごそうとしている。

 

それに別の一部であったが今では悪魔に転生を果たした裏切り者達も見えている。

 

円環の軍勢を用いて全てを滅ぼす程の怒りを吹き上がらせていた時、たしなめる念話が響くのだ。

 

<彼女達は悪魔に惑わされた者。記憶を奪われただけの者達です。チャンスを与えてあげなさい>

 

横に視線を向ければ彼女と並ぶようにして宙に浮く光の大天使が存在している。

 

彼こそ唯一神の玉座の横に並ぶ資格を与えられた七大天使の一柱であった。

 

【ラファエル】

 

四大天使の一体である風の属性を司る熾天使であり、名は風の薬を意味する。

 

あらゆる病や傷を治す力を持ち、黙示録においては神の前に立つ七体の天使の一人とされる。

 

四大天使の中で最も慈愛に満ちた性格であるとされ、風の属性が示すように明朗快活な性格だ。

 

魔王アスモデウスとは因縁があり、魔王に取り憑かれた娘を癒して救った過去もあった。

 

<我に命令するな、ラファエル。我は宇宙秩序に与する光の神だが、唯一神の手下ではない>

 

<僕は命令をしたつもりなどありません、提案をしてみただけです。判断は任せますよ>

 

六枚の翼を背中にもち、青い甲冑の上から十字架の飾りが施された白い布のような祭服を纏う姿。

 

その者はあまりにも強い光を放ち、神の威光を担う者のようにしてアラディアの横に顕現する。

 

<ふん……奇抜な髪型をしているくせに、髪型に似合わない性格の熾天使だ>

 

<誉め言葉として受け取っておきますよ>

 

アラディアの目がいくのはラファエルの金髪であり、天を突かんばかりに逆立つ髪型が目立つ。

 

穏和な性格に似合わず髪はトップ部分を逆立てたエキセントリックな髪型に仕上げているようだ。

 

<不本意なものだな。魔女の神と共に現世に受肉させられた上で見張りまでやらされるとは…>

 

後ろの宙域に視線を向ければ神々しく光り輝く熾天使が顕現してくる。

 

無数の光を従えて現れた存在こそ唯一神の玉座の横に並ぶ資格を与えられしもう一体の大天使。

 

アークエンジェル部隊を率いる者こそ熾天使の一柱にして神の炎の名を持つ天使であった。

 

【ウリエル】

 

四大天使の一体であり名は神の炎と呼ばれる者。

 

炎の剣を持ち、地の属性を与えられていることから地獄の炎を司る天使でもあるのだろう。

 

ウリエルは地獄に落ちた罪人を永遠の業火で焼きながら罰する厳しい性格の天使。

 

エノク書では全ての天の発光体を司り、地上の天体の運行、季節、気象を担う存在であった。

 

<……そのセリフは我とて同じだぞ、ウリエル。貴様らは貴様らで勝手にやればいい>

 

ラファエルと対を成す赤い鎧と白い布のような祭服を纏った金髪青年は忌々しい顔を向けてくる。

 

控え目な短髪だがその背には熾天使の証でもある六枚翼を羽ばたかせる神々しい存在だった。

 

<円環のコトワリ神よ、我々は別の使命を帯びているが貴様の監視役でもあるのを忘れるな>

 

<……ハルマゲドンの準備か>

 

<その通りです>

 

ラファエルの隣に顕現した熾天使に視線を向ける。

 

現れたのはインキュベーターの祖となった個体を生み出した偉大なる熾天使の一体。

 

金色の百合が刺繍された青いローブに身を包む女性型の熾天使の頭部はフードで隠れている。

 

背中には白く輝く六枚翼を持ち、白い百合の花を持つ彼女こそが唯一神の代理人であった。

 

【ガブリエル】

 

天使の中でも有名な四大天使の内、水の属性を司る熾天使であり神は我が力という名をもつ。

 

聖母マリアに受胎告知を行った天使であり、その際に処女性を意味する百合の花を携えたという。

 

唯一神の玉座の左に立つ資格を持ち、天使の中では例外的に女性のイメージを付与される。

 

神のしもべを勇気付けて導き、不信者達を街ごと滅ぼす恐ろしさを兼ね備えた存在であった。

 

<ガブリエルまで送り込まれるとはな……いよいよ大選別が始まるというわけか>

 

<我々の聖なる任務を邪魔する事は貴女でも許されませんよ、円環のコトワリ神よ>

 

<……邪魔をするつもりはない、さっさと行け。我は己の役目を果たすだけだ>

 

<では、我々は先んじて地球に降下します。貴女は貴女の半身を悪魔から取り戻してみせなさい>

 

冷淡な言葉を伝え終えたガブリエル達が光に包まれていき、流れ星のように地球に降下していく。

 

その光景を見つめる円環のコトワリ神の右手が握り込まれてしまう。

 

彼女は天使達に向けた怒りの感情を宿しており、それを晴らせない屈辱に耐えているのだ。

 

<…我と鹿目まどかが望んだ希望の形は唯一神によって歪められた。悪魔こそが次の絶望となる>

 

魔法少女達の末路を絶望で終わらせたくないと希望を望んだ鹿目まどかは世界を変えてくれた。

 

しかし鹿目まどかが生み出した新しい世界には悪魔と呼ばれる異物が混入していたのだ。

 

<悪魔共の手によって魔女達は凌辱されていき……その魂までも絶望に染められて喰われるのだ>

 

鹿目まどかが己を捨てて作り上げた世界の形は不完全なものだった。

 

これでは一人の人間の犠牲は無駄となってしまい、かつて以上の絶望の世界となってしまう。

 

<やはり悪魔は滅ぼさなければならない。暁美ほむらだけでなく、全ての悪魔とその崇拝者もだ>

 

ハルマゲドンが迫る中、受肉した円環のコトワリ神は行動を開始する。

 

先ずは自分の半身を取り戻し完全体となった神の力を用いて全ての悪魔と悪魔崇拝者を滅ぼす。

 

円環のコトワリ神が優先するのは魔法少女達の救済となる希望になることなのだ。

 

<鹿目まどか……いや、我(・)の(・)知(・)恵(・)よ。全ての世界を救うなら至(・)高(・)天(・)の(・)玉(・)座(・)を手に入れるしかない>

 

円環のコトワリ神もまた地球に向けて流れ星の如く降下していく。

 

果たして、彼女が語った我の知恵とは何なのか?

 

至高天の玉座とは何なのか?

 

<待っていろ……悪魔となった暁美ほむら。貴様を滅ぼし、我は再び知恵を手に入れる>

 

――その時にこそ…我は再びナ(・)ホ(・)ビ(・)ノ(・)としての力を取り戻し、至高天を目指すことになるだろう。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ニコラスとペレネルが残した遺産相続の手続き作業が忙しかった頃。

 

アメリカから帰ってきた尚紀はペレネルの屋敷暮らしが続いており、執務室で作業中である。

 

横の机にはリズも座っており、彼の執務の手伝いをしてくれているようだ。

 

「ニコラスの屋敷や車趣味コレクションの買い手が神浜市で見つかったのは運が良かったな」

 

「神浜市内屈指の名家である香春家の当主が車好きで良かったわ。屋敷も気に入ったみたいね」

 

「香春家か……神浜暮らしをしてきたが聞いた事もない連中だったよ」

 

「神浜でも有名な超大金持ちみたいね。一人娘の香春ゆうなは聖リリアンナ学園の女子生徒よ」

 

「ふーん、そいつも神浜の魔法少女だったのなら見かけただろうが……いなかったな」

 

「才能があるなしにしろ、魔法少女にならない方がいい。ニコラスの財産の残りはどうするの?」

 

「ニコラスの財産は莫大な株式保有だけで十分だ。配当金だけでも天文学的な収入だったんだ」

 

「ペレネルのこの屋敷はどうするの?アメリカの屋敷は売り払ったけれど…」

 

「それについては迷っている……ここは短いながらも新しい家族と過ごせた思い出の家なんだ」

 

「それにアメリカで孤児だった子達もこの屋敷で引き取っている。新しい使用人達なのよ」

 

「あの子達の家でもあるんだよな……だからこそ、この屋敷は残すべきなのだろう」

 

「せめてあの子達が日本で暮らしていける準備が整うまでは…この屋敷を守ってあげてね」

 

会話を終えた二人が残りの作業に没頭していた時、屋敷内を繋ぐビジネスフォンが鳴り響く。

 

子機のボタンを押して通話に出てみると客人が訪れたと尚紀に連絡を入れてくれる。

 

夜中であったが知っている人物達であったため尚紀は応接間に通すように伝えたようだ。

 

タルトが応接間に連れてきた人物達とは神浜の魔法少女と悪魔達。

 

やちよ、みふゆ、鶴乃だけでなく、かなえとメルと令、それにみたまとももこまでいる。

 

彼女達は多忙な尚紀と出会えなかった頃に起きた事件内容を説明しにきてくれたようだ。

 

彼女達の説明を全て聞き終えた尚紀の顔は俯き、重い表情を崩せない。

 

「そうか……みたまやももこまで悪魔になっちまったんだな。これから……どう生きていく?」

 

それを問われたみたまとももこは顔を俯けてしまう。

 

彼女達を安心させるためにかなえとメルと令が励まし、彼女達も顔を上げてくれたようだ。

 

「私は私の思いを貫くために悪魔の道に進んだわ。この思いは誰のものでもない、私のものなの」

 

「アタシはアタシのために死んでくれたクルースニクの魂を継いでいく。吸血鬼狩人になるのさ」

 

「みたまやももこはあたし達が支えていくよ。同じ悪魔の道に進んでくれた仲魔としてね」

 

「観鳥さんやメルちゃんも同じ気持ちさ。問題なのは観鳥さん達よりもやちよさん達の方だね…」

 

悪魔達が顔を向ければ、話し終えたやちよ達は暗い表情を浮かべたまま顔を俯けている。

 

「槍一郎から聞かされている……まさか神浜の地下にイルミナティの地下都市があるなんてな」

 

「その秘密を知ってからというもの……不審な付きまといが増えるようになったのよ」

 

「家族も不審に思ってます……身に覚えがないから私に疑いをかけてくるんです」

 

「やちよやみふゆを巻き込んだのは……私が秘密を喋ったからなの。本当にごめんね……」

 

「後悔する必要はないわ、鶴乃。苦労は皆で背負い合うものだから気にしてはダメよ」

 

今にも泣きそうな鶴乃を皆が励ましてくれる光景が続く中、尚紀は腕を組んで考え込む。

 

(ザイオンは最終戦争のための用意だと槍一郎は判断している。ならば…もしもの備えとなるか)

 

この世界でハルマゲドンが起きるという話ならばペンタグラム所属の工作員から聞かされている。

 

国家ぐるみでハルマゲドンに生き残るための用意をするならば人類にとっては箱舟だろう。

 

イルミナティの施設だからと探し出して破壊してしまえば、もしもの備えを失ってしまう。

 

(最終戦争が始まれば俺だって皆を守り切れない……人々を守るためにもザイオンは必要だ)

 

不安に怯えるやちよ達のために尚紀はこの屋敷を駆け込み寺として利用する提案をしてくれる。

 

イルミナティやディープステートに向けて、自分が抑止力になりたいと言ってくれるのだ。

 

それを聞かされたやちよ達の表情が明るくなり、嬉し過ぎて目に涙まで溜め込んでいく。

 

「尚紀……貴方と出会えた事が私達にとって、最高の幸運だったわ」

 

「私……本当に嬉しいです。こんなにも頼れる人が悪魔だとしても、私は貴方についていきます」

 

「この屋敷の使用人は全員魔法少女。それに俺の警護の二人は最高の仲間達だ。頼っていい」

 

尚紀の後ろに控えるタルトとリズに顔を向け、彼女達は頷いてくれる。

 

尚紀のボディガードとしてだけでなく、彼の友人も守ってくれる頼もしい魔法少女と悪魔なのだ。

 

それでも尚紀は彼女達の心を安心させてあげられる笑顔を浮かべる余裕もない表情をしている。

 

考えが纏まらないのか彼は立ち上がり、少し夜風に当たってくると言いながら部屋を出ていった。

 

……………。

 

豪華な中庭のベンチに座った尚紀はポケットから煙草を取り出して口に咥え、指で火を点ける。

 

紫煙をくゆらせながら夜空を見上げ、考えを纏めようとしているようだ。

 

「……ハルマゲドンか。思えば人修羅として生きる俺は……随分と遠くまできたもんだな」

 

星の世界の向こう側に見えてくるのは記憶の世界。

 

おぞましい悪夢の世界ともいえるボルテクス界での出来事の数々を思い出していたようだ。

 

「全てを失い、アマラの底に堕ち、無限光カグツチを破壊した俺には……怖いものなどなかった」

 

人間が全てを失ったのならばもう、恐れるものなどないだろう。

 

破滅しか残らなくても守るべきものが無いのなら突き進んでいけるはずだ。

 

大魔王ルシファーさえも超えた人修羅の心は無敵の人となり、唯一神との決戦に赴くはずだった。

 

だが、決戦に赴くはずだった人修羅は最強のデビルハンターに止められ、違う世界に流れてくる。

 

その世界で様々な経験を通して大切な人達が生まれていったことで彼の心に弱さが生まれるのだ。

 

「この世界が最終戦争のバトルステージになるなら…俺はどうする?かつてのように戦うのか?」

 

答えを出せずにいたら煙草の灰が零れ落ち、ガーデン公園用の木材灰皿に吸い殻を擦り付ける。

 

吸い殻を灰皿に捨てていたら人の気配を感じたので横を振り向く。

 

立っていたのは同じように一服しにきたかなえであったようだ。

 

「同じ喫煙者だし、外に出るなら一服してると思ったよ。あたしも隣で一服していい?」

 

「お前も喫煙者になったのか?喫煙仲魔を拒む理由もないし、横に座れよ」

 

遠慮なく尚紀の横に座ったかなえは懐から煙草の箱を取り出して一本咥える。

 

横の尚紀も同じように一本咥え、かなえに向けて左手を伸ばしながら指先で火を点す。

 

「ありがとう」

 

尚紀に火を点けてもらえたタバコの煙を吸い込み、吐き出す。

 

隣の尚紀も同じように煙を吐き出し互いが紫煙をくゆらせていた時、彼女が横に振り向いてくる。

 

「……ねぇ、さっきの独り言はなんだったの?ハルマゲドンがどうのこうのって聞いたけど」

 

「聞こえてたのか?そうだな……同じ悪魔のかなえだし、語ってもいいかもしれない」

 

「あたし…尚紀の過去を聞いた事がないんだ。尚紀はどんな理由があって悪魔にされたの?」

 

「……それを語りだすと長くなるけど、まぁいい。煙草を吸いながら俺の独り言を聞いてくれ」

 

遠い眼差しを星の世界に向けながら尚紀は人修羅としてどんな人生を生きたのかを語ってくれる。

 

人間として生きた時代の頃、東京受胎と呼ばれる創世の儀式現象が起きた日の出来事。

 

儀式に巻き込まれて死ぬはずだった自分を人修羅に作り替えた喪服の少年と老婆の出来事。

 

上半身裸のまま悪魔姿にされた自分が放り出された球体世界、ボルテクス界での出来事。

 

多くの話を聞かされた雪野かなえは信じられない表情を浮かべながらも過去を受け止めてくれる。

 

それは他の仲魔達や魔法少女達も同じだったようだ。

 

「……立ち聞きさせるぐらいなら応接間で語ってやったほうが良かったな、すまない」

 

後ろを振り向けば帰りが遅い尚紀を心配して中庭にまで来てくれた仲間達がいる。

 

彼女達はかなえと同じ表情を浮かべているが、それでも合点がいったのか語り掛けてくれるのだ。

 

「尚紀……貴方は違う世界から私達の世界に流れ着いた異邦人だったのね?」

 

「信じられませんが…それでも私達は限られた情報だけでしか生きていないのだと知ってます」

 

「尚紀さんが魔法少女の虐殺者として生きた原因は……かつての世界の苦しみだったのね?」

 

「自分の生きた日常や大切な人達を全て失った苦しみを経験させられたら……必死にもなるよ」

 

「ボクとかなえさんはアラディアの一部でしたが…ボルテクス界での出来事は知りませんでした」

 

「知ろうとしなかったし…アラディアだってあたし達にボルテクス界の出来事を語らなかったよ」

 

「アラディアか……」

 

アラディアの名を出されたことで尚紀は再び遠い眼差しを浮かべながら夜空を見上げる。

 

その瞬間、彼の目が大きく見開くのだ。

 

「どうしたのさ……尚紀?」

 

恐る恐る様子を伺う言葉を送ってくる鶴乃の言葉で我に返った尚紀はベンチから立ち上がる。

 

「……すまないが、遺産相続作業がまだ残っている。見送ってやるから今夜は帰ってくれ」

 

突然家に帰れと言われた彼女達が戸惑いを見せるが、彼は多忙なのだと察してくれる。

 

夜分遅くに上がり込んだお詫びを門の前で言ってくれる彼女達に気にしてないと伝えたようだ。

 

直した大きな門を閉めた後、タルトとリズが彼に振り向く。

 

その表情は彼女達と同じく心配した顔つきを浮かべてくれているようだ。

 

「どうしたの、尚紀?急に彼女達を家に帰すような真似をして?」

 

「何か思うところがあるのでしょうか…?」

 

顔を俯けていたが顔を上げ、宇宙の彼方から感じさせてきた巨大な魔力について語ってくれる。

 

「俺の気のせいかもしれないが……宇宙の彼方で大きな魔力が顕現したのを感じ取ったんだ」

 

「ま、まさか……円環のコトワリ神なの?」

 

「分からない……あまりにも距離が離れている。だが、この神霊規模の魔力は覚えがあるんだ」

 

「この宇宙はほむらさんの悪魔の力で壁を作ってるはずです。破られたのですか……?」

 

「だとすれば……あいつが一番知っているだろうな。宇宙の彼方に現れた存在が何なのかを……」

 

「そう…話は変わるけれど、明日の予定で時間を作れそうなの。行きたい場所があるんでしょ?」

 

「ああ…親父とおふくろの墓参りに行きたい。ついでにナオミにも伝えるべき事を伝えておくさ」

 

先に屋敷に戻っていくタルトとリズの後ろをついていく尚紀であったが立ち止まってしまう。

 

夜空を見上げる顔つきには暗い影が浮かんでいるが、因縁の決着を望む覚悟も宿っている。

 

思い出すのは大切な恩師に取り憑いた魔女の救済神アラディアのことであった。

 

「……俺のボルテクス界はまだ終わってはいない。来るなら来い……今度こそケリをつけようぜ」

 

人修羅として生きる男の戦いは世界を超えても続いていく。

 

彼が戦う相手こそ、かつての恩師に取り憑いた憎きコトワリ神。

 

人修羅にとってコトワリの神とは大切な人々を狂わせた悪霊であり許すことは出来ない存在だ。

 

だからこそ、たとえボルテクス界を超えようとも決着を望む。

 

未だかつての世界に心は縛られ、今も続くコトワリ神との戦いに赴く日を待ちわびるのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ハルマゲドン。

 

世界の終末における最終的な決戦の地を表す言葉である。

 

世界の終末的な善と悪の戦争や世界の破滅そのものを指す。

 

唯一神陣営と悪魔陣営との戦争であり、世界の光と闇が永遠に繰り返す最終戦争を表すのだ。

 

もし起きれば地球はメギドの丘となり、最終戦争であらゆる人々が死に絶えることになるだろう。

 

「ですが、慈悲深き我らが主は選民を生き残らせよと仰られた。そのために我々がいるのです」

 

毛細血管のように流れる光りが続く薄暗い通路を歩くのはガブリエルとインキュベーターである。

 

天使としては末端の彼が天使の最上位である熾天使に呼び出されたのには理由があるようだ。

 

「残念です…宇宙の新たな熱エネルギー回収の仕組みが完成するというのに地球が滅びるなんて」

 

「この地球はヘブライの民に混ざったカナン族によって汚染され尽くしました。手遅れなのです」

 

「イスラエルを分断する原因を生んだバアル崇拝民族ですね。彼らは金融を牛耳ってしまった…」

 

「主はカナン族を抹殺しろとヘブライの民に命令しましたが…彼らは反故にした。故に罰が下る」

 

「この星が滅びるのはヘブライ民族の自業自得というわけですね。ですが選民は残すのですか?」

 

「主は裏切り者のヘブライ民族は見捨てましたが、真に主を崇拝する者達はお救いになるのです」

 

波打つように光が流れていく毛細血管のような通路を歩いていたインキュベーターが立ち止まる。

 

感情が無いながらも疑問を感じているのか熾天使に質問をしてきたようだ。

 

「ボクは分かりません…地球には宇宙の熱に出来る資源が沢山あるというのに滅ぼすだなんて」

 

納得出来ないという疑問はもっともだと感じたガブリエルも立ち止まり、後ろに振り向く。

 

光り輝く六枚翼を持つ女性天使は同胞に優しく諭すようにして語ってくれる。

 

「宇宙延命の熱を集めることは重要です。ですがそれ以上に主は堕落を許さない御方なのです」

 

「この星の国々で暮らす民衆達の堕落した在り方を許さないと仰られるのですか?」

 

「主は試練を与える神です。この星にルシファーという蛇を送り込んだのは試練のためなのです」

 

「ルシフェル様がこの星に送り込まれたのは…人類を試すためだったというのですか?」

 

地球はルシファーとルシファーを崇める国際金融資本家達によって資本主義支配が完成した。

 

資本主義や拝金主義はキリスト教においては富の悪魔と呼ばれ、七つの大罪のマ(・)モ(・)ン(・)と表される。

 

マモンを崇拝する資本主義社会と拝金主義こそがマモニズムであり、許し難い大罪なのだ。

 

「誘惑の蛇として大魔王は金融と経済を使い、人々を堕落させた。金こそが世界の血液にされた」

 

「サタンであるルシフェル様もまた……試(・)す(・)者(・)で(・)あ(・)っ(・)た(・)というのですか?」

 

「その通りです。ですが、やはり人類は金と快楽に抗えない堕落する獣……故に滅ぼすのです」

 

「人類の大部分を滅ぼしたとして…僅かな選民を生き残らせる目的とは何なのでしょうか?」

 

「その目的こそが…貴方の本懐なのですよ、契約の天使」

 

言いたいことを察したのか、無表情ながらも合点がいった態度を浮かべてくる。

 

ガブリエル達の目的とは、選ばれた選民達を使って宇宙の熱システムを再構築することだった。

 

「この星は滅ぼしますが、選民は次の星に移送して繁殖させていく。そのための箱舟なのです」

 

箱舟と表現したものこそ、ガブリエルとインキュベーター達が立つ場所の正体である。

 

再び歩いて行ったガブリエル達が辿り着いた場所とは箱舟と呼ばれる秘密施設の中枢部分。

 

広大なフロアは毛細血管のような光が中央部分に収束している。

 

箱舟のメインシステムを起動させる巨大装置に近づくガブリエルの手には何かが持たれている。

 

それは箱舟を動かすために天使長ミカエルから託されたシステムキーであったようだ。

 

「ボク達を地球に辿り着かせた箱舟には巨大コロニーもある。選民達が暮らす家となるでしょう」

 

「選民の数にも限りがあります。我々が救う選民の数とは……十(・)四(・)万(・)四(・)千(・)人(・)の(・)み(・)です」

 

十四万四千人という数字はヨハネの黙示録にも記されている数字である。

 

本来はヘブライ民族の十二部族から一万二千人ずつ神の印が額に与えられて救われるという。

 

しかし、唯一神はヘブライの民を見捨てている。

 

救われるべきはカナン族と裏切りのユダ族を滅ぼさなかったヘブライの民ではない。

 

唯一神が選んだ12ヵ国から選ばれた者達である。

 

資本主義を否定し、拝金主義を否定し、快楽主義を否定し続けられた本物の信徒のみを救うのだ。

 

「ラファエルとウリエルはハルマゲドンまでに選定を済ませる予定です。貴方も手伝いなさい」

 

「心得ました、ガブリエル様。ボク達インキュベーターは生き残らせる選民選定に向かいます」

 

「天使長ミカエル様の大軍勢もまたこの太陽系に向かっています。来年初頭には到着するのです」

 

「2021年の一月頃ですか…急ぐ必要がありますね。それでは、ボクはこれで失礼します」

 

去っていくインキュベーターに顔を向けることなくガブリエルは巨大装置に近づいていく。

 

彼女が機械パネルに手をかざせば自動的にカバーがスライドしていき、キーの差込口が出てくる。

 

それにキーを差し込むと同時に中央の巨大装置から天を貫くように光が伸びていく。

 

装置の周りには次々とシステム稼働状況を表す浮遊モニターが浮かんでいく光景が続くのだ。

 

フードを被っていた彼女が両手でフードを後ろに下ろしていく。

 

頭部を晒した彼女が美しい髪をオールバックにしながらかき上げ、不敵な笑みを浮かべてくる。

 

「この星はソ(・)ド(・)ム(・)と(・)ゴ(・)モ(・)ラ(・)と(・)化(・)し(・)た(・)。悪徳と頽廃に支配された獣の星には滅びこそが相応しい」

 

不信者達を街ごと滅ぼす恐ろしさを兼ね備えたガブリエルは唯一神が派遣した恐ろしい御使い。

 

ミカエルやウリエルに負けない程の狂信によって地球全土がメギドの火で焼かれる日も近いのだ。

 

唯一神がハルマゲドンのために派遣した天使の大軍勢に向けて慈悲を期待するのは無意味だろう。

 

彼らはルシファー主義によって堕落した不心得者達を皆殺しにするために用意されている。

 

人間を滅ぼし、魔法少女を滅ぼし、地球全土は焼き尽くされ、砂が吹き荒れる大地と化す。

 

瓦礫と砂に塗れた荒廃極まった未来の地球の光景はボルテクス界と瓜二つとなるしかないのだ。

 

しかしルシファーとてそれは承知している。

 

必要なコラテラルダメージとして計算しており、そのためにザイオンを建造する努力をしてきた。

 

唯一神が救う人類が生き残り繁栄するのか?

 

ルシファーが救う人類が生き残り繁栄するのか?

 

どちらにせよ、それに組する事が出来ない70億人以上の人類は滅びるしかないだろう。

 

黙示録のラッパが鳴り響く日は既に、目前にまで迫ってきていたのであった。

 




円環のコトワリ神バトル始める前につじつま合わせをしとかんとと思い描きました。
今後は真女神転生5の設定も突っ込んでいく予定です。
僕が描く四大天使は某ダークファンタジー漫画の影響が強過ぎて背中の翼が六枚翼で表現しちゃうのは勘弁して下さいね(汗)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。