人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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24話 赤き魔法少女

尚紀は気になる案件を抱えており、休みを三日間もらって風見野市に帰ってきている。

 

愛した人の墓参りを済ませた彼が立ち上がり、我が家となってくれた教会に視線を向ける。

 

「佐倉牧師からかかってきた電話内容…あれについて調べてみないとな」

 

新興宗教の突然過ぎる大成功に対して強い違和感を感じてしまう。

 

「あれは…魔法少女の願いという、奇跡の力を持ってしか成し得ない現象だ…」

 

嫌な予感が彼の頭の中を過っていく。

 

「佐倉一家の置かれた状況から考えて…魔法少女に契約するとしたら身内以外に考えられない」

 

あれ程の飢餓地獄から脱するために誰が魔法少女として契約したのか?

 

「佐倉牧師には俺の投資の件を伝えている。あの人物が関係しているとは思えない」

 

それに佐倉牧師の妻は第二次性徴期など遠い昔に過ぎている事を考えれば答えは出るはず。

 

「だとしたら子供達か?風華…お前の二の舞にだけは…絶対にさせはしない」

 

墓前から踵を返し、新興宗教の集会を行っている礼拝堂に向かう。

 

我が家の寝床となってくれた礼拝堂の両開き扉を開けて中に入る。

 

「懐かしいな…殆ど中は変わらないが、奥の祭壇周りは変わっちまったか」

 

奥の祭壇を見上げればキリスト教の祭壇と大きな十字架は取り除かれている。

 

残っていたのは佐倉牧師が演説を行っている演説台のみ。

 

佐倉牧師の演説を聞き入っている信者達の様子を注意深く観察する。

 

(この信者達…様子がおかしい。まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()に見える…)

 

自分の判断で言葉の良し悪しを考えているとは思えない虚ろな信者達に不安を募らせる。

 

佐倉牧師の言葉一つ一つを聞いた瞬間、その言葉を即座に肯定しているような連中である。

 

人間は思考をしない生物ではないはずだ。

 

「あら、尚紀君じゃない?来てくれていたのね」

 

横に立っていた自分に声をかけてくるのは佐倉牧師の妻である。

 

「悪いな、急に押しかけたりして」

 

「いいのよ。貴方は家族なんだから、いつでも帰ってきていいの」

 

「新興宗教が大成功して何よりだな。今の生活はどんな調子だ?」

 

「お陰様で持ち直したわ。献金も主人が望めば信者の方々が多額のお金を献金してくれるの」

 

(こんな怪しい新興宗教に気前よく万札を出す人間がいるのか…?)

 

「ちゃんと三食ご飯を食べれるようになったか?」

 

「人並みの生活レベルに戻る事が出来たわ。私もパートから開放される事になったしね」

 

「それを聞けて何よりだ。子供達はどうしている?今も元気にしているか?」

 

「その件なんだけど…聞いてくれるかしら、尚紀君」

 

佐倉杏子の現在の状況を伝えられる事となっていく。

 

「学校からの帰りが妙に遅かったり、夜中に家を出たりしているだと?」

 

「以前の杏子からは考えられない行動をするようになってしまったの…心配でしょうがないわ」

 

(…馬鹿な選択をしやがって。お前はソウルジェムという石ころに変えられちまったんだぞ…)

 

魔法少女の真実を杏子は聞かされていない事ならキュウべぇを知る彼なら分かるだろう。

 

(お前はいずれ魔女となり…世界に呪いと災いをもたらすんだ…)

 

石ころから生まれる感情エネルギーは唯一神が生み出したアマラ宇宙を温める供物とされる。

 

唯一神の手下であるインキュベーターと呼ばれる契約の天使に対して怒りの感情が湧いていく。

 

「悪い子と付き合ってる訳ではないの。この前、お友達を家に連れてきてくれた事があったわ」

 

「…お友達?」

 

「そうなの、()()()さんという見滝原中学校に通う人物でね、杏子の一つ上の学生さんなの」

 

(巴マミ?風見野市の隣街の人間なんかと…どうしていきなり親交が生まれる?)

 

「とても聡明で気立てのいい、優しい子だったわ。杏子やモモが懐くのも無理ないわね♪」

 

(恐らく何らかの形で魔法少女となった杏子に接触してきた奴だと考えるのが自然だろうな…)

 

巴マミの狙いはなんだ?

 

善人の皮を被り、杏子に近づいて何を企んでいる?

 

そんな風に他所の街から来た魔法少女を疑ってしまう者、それが魔法少女の虐殺者である。

 

「杏子も巴さんの家に遊びに行くのよ。彼女は両親が事故で無くなって一人暮らしだから…」

 

(杏子の魔法を利用し、悲惨な家の事情を好転させるために…悪事にでも使うつもりか?)

 

魔法少女がロクでなし揃いだというのを尚紀は東京で嫌という程見てきた人物。

 

疑いが極まっていくのも当然であろう。

 

魔法は悪魔の力であり、その力の誘惑に対して人間は驚く程に脆い。

 

(人間は過ぎた力を持った瞬間…心の中の悪魔が囁く)

 

お前は人間を超えた絶対者だ。

 

この力を使って好きに生きようぜ。

 

人間社会など恐れるに足りない。

 

(巴マミ…杏子を利用し、罪の片棒を担がせる気なら…その首、背骨ごと引き抜いてやる)

 

「悪かった。今日は顔を見せに来ただけだから…もう帰らせてもらう」

 

「え?せっかく来たんだし、ゆっくりしていったらいいのに…」

 

「色々調べる事が出来ちまってな。これも仕事なんだ…」

 

「探偵さんも大変ね、また来てね。娘達も主人も喜んでくれるから」

 

魔法少女となった杏子、そして杏子が活動するであろう風見野市の現在の状況が気になる。

 

そして巴マミと呼ばれる見滝原市の魔法少女の存在について調査も必要だ。

 

自分がいなくなっているうちに起きた状況を掴む必要があるため行動を開始するのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

一夜開けた昼の時間。

 

彼は以前来たことがある繁華街の老舗ラーメン屋でラーメンを啜っている。

 

昨夜調べた風見野市の魔法少女社会に関する情報を頭の中で整理しているようだ。

 

「どうやら今の風見野市は一つの魔法少女グループがメインとなって活動しているようだな…」

 

調査を進めていく中で現在の風見野市を守護する魔法少女組のリーダーを突き止める。

 

「人見リナ…あいつがリーダーとなり、魔女だけでなく使い魔も相手に戦っているようだ」

 

風華と同じ道を進む魔法少女もいてくれるのだと知った時、嬉しい気持ちを感じてしまう。

 

(あんな魔法少女ばかりなら…俺は魔法少女の殺戮者とは呼ばれていなかった…)

 

人見リナ達にならこの街を任せてもいいかもしれないと彼はリナを信頼してくれる。

 

「問題なのは、あいつらの周りに杏子がいなかったことだな…)

 

風華のように郊外で狩りをしているのか?

 

もしくは巴マミのいる見滝原市で狩りをしているのか?

 

考えながらラーメンを啜っていた時、入り口から歩いてきた女性客が近寄ってくる。

 

「すいません、他の席が一杯なんで…相席いいですか?」

 

「えっ?あ、ああ…構わない」

 

「失礼します」

 

――ねぇ…尚紀。もしかしてこれって、デートってものですか?

 

「……フッ、懐かしいな」

 

「あの……やっぱりカウンター席に移動しましょうか?」

 

「あっ…すまない、表情が悪かったか?」

 

「何か、悲しそうな顔をしてましたし…」

 

「…少し昔を思い出してしまったようだ。直ぐに食べ終えるから…ごゆっくり」

 

かつての思い出が重なって見えながらも勘定を払い終えた尚紀は独りで店を出ていった。

 

 

風見野市を全て回りきった彼は隣街の見滝原市の駅に来ている。

 

見滝原市とは近年になって近代的な都市開発が進められた新興都市。

 

最先端技術も数多く導入されている相当な規模の近未来型都市である。

 

海沿いに面しており、神浜市ともさほど離れていない距離にあった。

 

「これ程の規模の街だったんだな…これなら魔女の数に困る事もない」

 

人間が多く集まる都市はそのまま魔女が沢山集まる都市であることの裏返しである。

 

「栄えているようだが、この街も格差が厳しい地域だな…」

 

工業区や商業区は整備され、多くの事業者が進出しては失敗を繰り返して自殺者が出ている。

 

見滝原市のニュースをスマホで調べていた時、そんな特集記事を彼は電車内で見つけたようだ。

 

光り輝く街ほど魔女の闇が深いのは何処に行っても同じであった。

 

「風見野にはいなかった杏子はおそらく、この街の何処かで巴マミと魔女を探索しているな」

 

(もしくは杏子は利用され、巴マミの私利私欲を満たすための道具にされているか…)

 

注意深く魔法少女の魔力を探索しながら市内を歩き続ける。

 

「…おかしい。この街は規模に比べて驚くほど魔法少女の魔力を感じないな…?」

 

これだけの街なら複数の魔法少女グループが縄張り争いを繰り返していても不思議ではない。

 

恐らくは縄張り争いによって多くの魔法少女達が共倒れした可能性があるだろう。

 

それに魔女との激戦の果てに死んでいった可能性や、あるいは両方の可能性もある。

 

「この見滝原市で生き残る事が出来た魔法少女がいるのなら…そいつは歴戦の強者だろうな」

 

時刻は夕方となり、歩き続ける彼だがこれ程の街では見つけ出すのも困難な状況となっていく。

 

「街の光景の中に多くの建設途中のビルがあったな。この街はまだ成長途中といったところか」

 

途方に暮れていた時、二つの魔力を感じとる。

 

「建設途中の骨組みビルから感じる…近いな」

 

魔力を感じさせない人間の姿のまま現場に赴く。

 

建設現場の骨組みビルの階段を登っていくと二人の魔法少女らしき人物が見えたので隠れる。

 

「今のあたし達ならさ、ワルプルギスの夜だって倒せるんじゃないかな?」

 

(あの赤い魔法少女服を纏った少女…間違いない、杏子だ…)

 

「ワルプルギスって…あの……?」

 

(ブロンドヘアーの髪を後ろでクルクル巻いている女が…巴マミか?)

 

二人はどんな関係なのかを注意深く観察していく。

 

「あたし達だったら、そんな大物の魔女だろうと目じゃないって」

 

「…ふふふ、随分大きく出たわね」

 

「調子に乗りすぎ?」

 

「そんなことないわよ。目標は大きい方がいいんじゃないかしら?」

 

(随分仲がいいようだ…自分の立場を利用して杏子を操る類には見えない…考え過ぎか?)

 

「…でも、本当にそうかもね。私達だったらきっと…倒せると思うわ」

 

夕日に染まる空を仰ぎ見ながらマミは決意の言葉を述べる。

 

「もしいつか本当にワルプルギスの夜がやって来る時が来たら…一緒にこの街を守りましょう」

 

(……どうやら、俺が間違っていたようだ。杏子はいい魔法少女の先輩に出会えたようだな)

 

人間社会を守るため、杏子と共に命をかけて戦おうとする奴が狡い真似をするとは考え辛い。

 

しかし人間社会にとって巴マミは正義か悪かなど、今は左程重要な話ではない。

 

問題なのは魔法少女に契約してしまった家族の方だろう。

 

ビルの鉄骨部分に隠れていた尚紀は二人の魔法少女の前に姿を現す時がくる。

 

「……よぉ、杏子。お友達と随分変わったコスプレをしているな?」

 

「え…?な…尚紀!?どうして…どうしてここに!?」

 

「え…?佐倉さんの知り合いなの…この人?」

 

彼にとっては辛過ぎるだろう、赤き魔法少女との出会いを経験する日が訪れるのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

無表情の尚紀は静かに杏子に近づいていき、右腕を持ち上げる。

 

「ぐっ!?」

 

右手で張り倒された杏子は地面に倒れ込んでしまう。

 

「杏子…何故だ?何故お前は…魔法少女なんぞになっちまったぁ!?」

 

「尚紀…魔法少女の事を…知ってたのかよ…?」

 

いきなりの修羅場に対してマミは慌てて杏子に駆け寄りながら抱き起こす。

 

「貴方は一体誰なの!?いきなり佐倉さんを打ったりして!仲間を傷つけたら許さないわよ!」

 

「これは家族の問題だ…お前は出てくるな」

 

「家族って…佐倉さんの家はたしか、四人家族だったはずでしょ?」

 

「尚紀は暫くの間…あたしの家で暮らしてた人だ。あたし達にとって…本当に大事な人なんだ」

 

「そうだったの…?ごめんなさい、これは…身内の問題なのね…」

 

マミはしおらしく黙り込み、杏子から離れていく。

 

「何処で魔法少女の事を知ったんだよ…?魔法少女の存在は秘密にされてきたはずなのに…」

 

「杏子…お前の頭を撫でてくれていた風華の左手の中指にあった指輪の感触を覚えているか?」

 

それを聞いた瞬間、杏子はハッと思い出す。

 

「確かに…風姉ちゃんの左手にはいつも…指輪の感触を頭で感じてた…」

 

「風華はお前と同じ魔法少女だった。そして風見野を魔女から守るために命をかけて戦った」

 

その一言で以前から疑問に思っていた事に答えが出るだろう。

 

「風姉ちゃんはいつも夕方には用事があるから帰っていく…あれがもしかして…魔女の探索?」

 

「そうだ。あいつはたった独りで魔女や使い魔から風見野市の人間達を守り続けた女だった」

 

「それじゃ尚紀は…風姉ちゃんと一緒に魔女と戦っていたのかよ!?」

 

「その通りだ。俺は魔法少女と共に魔女や使い魔と戦ってきた事がある」

 

「そんな…人間が魔女と戦えるというの!?そんな話はキュウべぇから聞いた事もないわよ!」

 

「マミさん、尚紀は恐ろしく強い奴なんだ…」

 

小さい頃、魔法少女に誘拐された時に誘拐犯魔法少女から助けてくれた時の記憶が巡っていく。

 

(凄く強かった…魔法少女を相手に秒殺だなんて…今のあたしでも出来るかどうか…)

 

「話を戻すぞ。何故…魔法少女なんぞになっちまった、杏子?」

 

顔を俯け続ける家族に対して言い訳は許さないような厳しい顔を向けてくる。

 

拳を震わせながら杏子は自分の無念を尚紀にぶつけていくだろう。

 

「あたし…悔しかったんだ。父さんの言葉を誰一人聞いてくれない現実が悔しかった!」

 

赤裸々に語られていくのは彼女の無念の数々。

 

キリスト教の牧師として市民の為に頑張ってきた誇らしかった父。

 

それが宗教を捨て、新しい道に進んだだけで信者達から掌返された苦しみ。

 

裏切り者と元信者達から罵られ、悪い噂ばかりを街に流されていく苦しみ。

 

誰からも必要とされず、教会団体からも切り捨てられた苦しみ。

 

そして両親や妹が飢えて苦しむ姿は彼女にとって何よりも苦しかった。

 

「父さんは間違ってない!ちゃんと父さんの言葉を聞いたら分かるんだ!だから願った!」

 

――父さんの話を、みんなが聞いてくれますようにと願った。

 

杏子の無念の感情は全て吐露された瞬間、尚紀は激しく後悔してしまう。

 

(投資の話を……家族に秘密にするべきではなかった!!)

 

魔法少女にならずとも救いの手を差し伸べる事はいつでも出来る用意があるのに、この始末。

 

救いの手を隠してしまったために杏子は魔法少女の運命を背負うことになってしまう。

 

(杏子に魔法少女の才能があると分かっていたら…いや、待て…確か予兆はあったはず!?)

 

教会の礼拝堂に現れたインキュベーターの姿が脳裏を過る。

 

(まさか…既にあの時から杏子に狙いをつけていたのか…!?)

 

備えられなかったのは彼の責任。

 

救いの手を差し伸べる用意があったなどとは今更言うことは出来ないだろう。

 

「無念の気持ちは分かった。だがキュウべぇから聞かされただろ…戦いは命がけになるとな」

 

「それぐらい背負ってみせるさ!父さんや家族を救うためなら!」

 

「馬鹿野郎!命は一つしかないんだぞ杏子!お前は殺し合いの世界を何も理解しちゃいない!」

 

「それは違うわ…尚紀さん!佐倉さんは私と一緒に様々な魔女と戦って…」

 

「…魔法少女が死ぬ光景を見たことがあるか…杏子?」

 

首を振る杏子であるが、マミは魔法少女達の死を見届けてきた記憶が脳裏を過ってしまう。

 

「冷たくなった風華を抱き抱えて帰ってきた夜を覚えているか?あれが…魔法少女の末路だ」

 

「冷たくなった大切な人の遺体に縋り付いて泣き続けた夜を忘れるもんか…あれが…死…?」

 

「あいつこそ魔法少女の鏡だと言える程に気高く、誇り高い魔法少女だった。だが…死んだ」

 

魔法少女の死を思い出してしまった事で体が震えていく。

 

死を意識するのは自分で経験するよりも他人の死を見た時に強く思うもの。

 

メメント・モリとも呼ばれ、ラテン語で自分がいつか必ず死ぬことを忘れるなという意味だ。

 

それは生きている人間だけが感じとり、他者の死から学ぶものであろう。

 

「あたし…危機感が無かったのかな?TVの変身ヒロインにでもなった気分で勘違いを…?」

 

「お前は親から貰った一つしかない命を地獄の業火で炙ってるんだよ!()()()()()()()()!!」

 

彼の叫びを聞くしかないマミは他人の死を知る魔法少女として唇を噛み締めていく。

 

何か杏子を肯定してあげる言葉を考えるのだが見つからないようだ。

 

「…この人が言っている事は…全て事実よ、佐倉さん」

 

魔法少女は常に死が隣に潜んでいる事を歴戦の魔法少女であるマミは知っている。

 

「私だって…いつ死ぬか分からないもの…」

 

(家族が生きていたら…殺し合いの生活を送る事がバレたら…怒鳴られるのが当たり前よね…)

 

「秘密を知らないお前の親に代わり、俺がお前を怒鳴ってやる!命を粗末にしてんじゃねぇ!」

 

「あたし…間違ってた?父さんの為に魔法少女になったのに…家族を…苦しめるの?」

 

家族の事を考えた瞬間、命を粗末にする親不孝に気が付いたために杏子は咽び泣き始める。

 

「佐倉さん…魔法少女の戦いは命がけなの。避けられない現実として…受け止めないと駄目よ」

 

「あたし…自殺するような選択をしたのかな?あたしの前の宗教なら…神様への重罪だよ…」

 

自分を攻め抜く杏子の姿についに耐えきれなくなったマミは尚紀の前に立ち塞がってくる。

 

「佐倉さんは絶対に死なせない!!私が…守り抜いてみせるわ!!」

 

尚紀に対して一歩も譲らない決意を秘めた眼差しをマミは向けてくるが、彼の目は冷ややかだ。

 

「…お前に何が出来る?杏子の命の担保にでもなってくれるのか?」

 

「私には家族はいない…でも佐倉さんにはまだ家族がいるわ!その人達に絶望は与えない!」

 

「戦いの世界に絶対なんてものはない。お前の言葉は信用出来ない」

 

「それでも…それでも…佐倉さんを私に託して欲しいの、尚紀さん!!」

 

「自惚れるな!!お前の力でなぜ杏子の命が保証出来るっていうんだよ!?」

 

「私は…銀の魔女と呼ばれた存在と戦った時に…救えなかった子供に誓ったわ!」

 

巴マミは目の前で大切な人を絶対に死なせはしないと誓っている魔法少女である。

 

魔法の力もロクに無い無力な自分がかつていた。

 

そのせいで一人の子供の命が目の前で失われた。

 

逃げ出した時に出会ったのは死んだ子供の家族の姿。

 

もう二度と帰ってこない我が子の名を呼びながら探し続ける姿を未だに覚えている。

 

彼女は無力な自分を絶対に許さないと決意し、強くなり続けると誓った魔法少女なのだ。

 

「私はもう…大切な人を失いたくない!私の力は全て…守り抜きたい人達のためにこそある!」

 

右手のリボンから魔法のマスケット銃を生み出し、尚紀に向けて構えてくる。

 

「この銃を私が握り締めている限り…大切な人を絶対に死なせるものですか!!」

 

彼女の決意に満ちた瞳には覚悟が宿る。

 

それでも杏子の家族の心には届かない。

 

「……なるほど、よく分かった」

 

戯けて両手を上げるポーズをした直後、尚紀の体が揺れる。

 

即座に攻め込み、右手で銃身を払うと同時に左手で銃身を掴む。

 

両手でマスケット銃を奪い、奪った銃床でマミの顔を強打する。

 

「あぐっ!!?」

 

怯んだ隙に銃を構え直し、腹に蹴りを入れる。

 

「ごふっ!!?」

 

相手の背が痛みで低くなり、開けた射線の向こう側の獲物に対して銃を構える。

 

その銃口の先には杏子が身に着けた赤いソウルジェムが見えるのだ。

 

「お前が…嘘つきだってことがな」

 

「ゴホッ!ゴホッ!!どうして……こんな事をするんですか!?」

 

「お前は銃を手放した。お前は杏子を守れなかった。お前のせいで杏子は死んでしまった」

 

――備えられなかった…お前のせいでな。

 

敵とは思えない人間が突然襲いかかってくる状況もある。

 

備える事が出来なかったお前は未熟者だと尚紀は容赦なく宣告するために仕掛けたようだ。

 

その言葉は自分自身にも向けられている。

 

備える事が出来ていれば杏子は魔法少女にならずに済んだからだろう。

 

「今の力に満足するな、常に戦う牙を研ぎ続けろ、獰猛に力を求め続けろ」

 

それが殺し合いの世界で大事な人を守る方法だと尚紀は自分を含めて言い聞かせる。

 

「わ…私は……まだ足りないの…?」

 

膝が崩れるマミに駆け寄り、杏子は肩を貸してくれる。

 

「強くなれよ……巴マミ。杏子を守れるぐらいにな」

 

マスケット銃を捨てた彼は踵を返して去っていく中、顔も向けずに願いを託す言葉を送る。

 

「……杏子を、頼んだぜ」

 

階段を降りながら見滝原市で出会った魔法少女について考えると先を信じられてくる。

 

「あいつは強くなる。確かな覚悟、それを貫く意志…磨けば磨く程に輝けるさ…()()()()()()

 

その一助になれたなら、慣れない指導をやってみるのも悪くはなかったと彼は感じている。

 

夕日が沈みかけた空を仰ぎ見ながら、今は亡き愛する女性を思いながらこう呟く。

 

「お前と同じ志は…ほっといても…誰かが引き継いでくれるもんなんだな……風華」

 

彼女に負けない意志と覚悟を再び手にするため、尚紀もまた決意を胸に東京へと帰っていく。

 

その後のマミはどれ程の過酷な研鑽を積んだのか?

 

自分にとっては意地悪ともいうべき戦闘シミュレーションを常に考える努力の日々。

 

備えられなかった者が死ぬという指導を骨身に刻み、自分の力にしようと藻掻く。

 

そして彼女は今まで以上に強くなるだろう。

 

その状況判断能力は()()()()()()()()()()()()()()()において十分に発揮されるのであった。

 




読んで頂き、有難うございます。
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