人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

250 / 404
249話 白鳥の湖

ソビエト連邦が成立していない頃のロシアにおいて、1877年に披露されたバレエ作品がある。

 

それはチャイコフスキーの白(・)鳥(・)の(・)湖(・)と呼ばれるものであり三大バレエに数えられるものの一つだ。

 

悪魔の呪いによって白鳥に姿を変えられた王女様と、王子様が王女様に恋をする物語となる。

 

しかしそれを良しとしない悪魔の差し金によって、白鳥と瓜二つの黒鳥の女が現れるのだ。

 

王子様は黒鳥の女に誘惑され、白鳥の王女様の呪いを解く永遠の愛を捧げてしまうこととなる。

 

それに絶望した白鳥の王女様と騙されていたと知った王子様は絶望し、来世での愛を誓い合う。

 

2人は湖に身を投げて自殺し、愛の力を前にした悪魔は滅び、恋人達の魂は永遠に結ばれる。

 

このような内容のバレエ物語として描かれるのがチャイコフスキーの白鳥の湖なのだ。

 

今から始まる物語はこのバレエ作品をなぞる物語となっていくだろう。

 

白鳥という偽りの姿で生きることとなってしまった人間の少女。

 

白鳥と瓜二つの姿をした黒き心を持つ女神。

 

白鳥の呪いを解くのを許さない悪魔達。

 

それらが織り交ざった永遠の愛を語る物語が今、始まるのであった。

 

……………。

 

「私は……鹿目まどか。何処にでもいる……中学生の女の子……」

 

眠れなかったのか、彼女は部屋から出てきて浴室の洗面台で顔を洗っている。

 

洗い終えた顔をタオルで拭き、鏡に映る自分自身に向けて会話をするように話しかけていく。

 

「パパとママがいて…可愛い弟がいて…学校に行けば友達がいる……そんな普通の女の子」

 

夜中になるといつも不安に襲われ、自分自身が分からなくなる少女は戸惑いを隠せない。

 

彼女は夜の間だけは本当の自分自身との繋がりを取り戻し始めているのだ。

 

今夜は特にそれが強く、鏡に映る自分自身の姿に違和感を感じる程にまでなっていた。

 

「えっ……?」

 

自分自身の目が金色の瞳になっている姿を見て、まどかは驚いてしまう。

 

鏡に映る彼女の姿がどんどん変化していき、女神の如き美しい姿として映っていく。

 

「わ……私なの……?」

 

本当の自分自身の姿が映っている鏡に向けて手を伸ばそうとする。

 

鏡に映っているもう一人の自分自身も同じようにして手を伸ばしていく。

 

本当の自分と出会えたような気になっていた時、突然彼女が悲鳴を上げるのだ。

 

「きゃぁ!?」

 

急に鏡がひび割れたかと思ったら砕けてしまい、驚いた彼女は尻餅をついてしまう。

 

何が起こったのかも分からず、呆然としながら立ち上がり洗面台に落ちた破片に視線を向ける。

 

「ほむら……ちゃん……?」

 

その破片の中に映っていた存在とは、白鳥になる呪いをまどかにかけた存在である悪魔の姿。

 

辛そうな顔を浮かべた悪魔は一瞬だけしか見えず、破片を持ち上げた時には見えなくなっていく。

 

大きな音が聞こえたため近寄ってきた父親に顔を向け、何でもないと答えてくれたようだ。

 

彼女達の頭上からは悪魔の羽だけが舞い落ち、事なきを得たかのように見えるかもしれない。

 

だが、悪魔は恐怖のどん底に落ちたかのような表情を浮かべながら家の外に飛び出している。

 

彼女が見上げるのは夜空であり、無数の流星が地表に向けて落ちていく光景が続いていたのだ。

 

「……現れたわね。円環のコトワリ神……アラディア」

 

空から現れたのは悪魔の呪いを解きに現れた脅威と、強大なる魔力を秘めた無数の存在。

 

いつの間にか後ろで立つクロノスは細目を開け、暗い瞳孔を夜空に向けながら語り掛けてくる。

 

「……それと同時に天使の群れも現れおった。ついにハルマゲドンが始まるというわけじゃな」

 

「アラディアだけでなく宇宙意思の御使い共まで現れるなんて……まったく、泣けてくるわ」

 

「どうする?どちらであってもお前さんの脅威であることに変わりない。どちらを迎え撃つ?」

 

顔を俯けながら重い沈黙が続いた後、顔を上げた彼女が後ろに振り向く。

 

その顔は鬼気迫るほどの覚悟が宿っており、不退転の覚悟を決めたように見えるだろう。

 

「先ずはアラディアよ。奴は最優先でまどかを狙ってくる…さっきだって危ないところだったわ」

 

「戦力を固める必要があるのぉ。早いところ混沌王殿に連絡を入れた方がいい」

 

「そうした方がいいわね……明日の学校が終わった後に連絡を入れてみる」

 

「アラディアはどんな手段を用いて鹿目まどかを奪いに来るか分からん……油断はするなよ」

 

「分かっている……私の全てを用いてでも止めてみせる。貴方も力を貸しなさい」

 

「当然じゃな。ワシは特等席に座りながらお前さんのいくすえを見守らせてもらうとするか」

 

「見物料は貰うけれどね」

 

家の中に戻っていく2人であるが、ほむらは後ろに振り向く。

 

夜空を見上げる彼女の表情は絶対に勝てない脅威であろうとも守り抜く守護者の顔つきとなる。

 

「持てる限りの力を用いて生み出した宇宙の壁すら砕く存在が相手でも……私は戦い抜くわ」

 

築いた城壁は破られ、後は敵が雪崩れ込んで城内は虐殺の限りを尽くされることになるだろう。

 

銀の庭の城主である暁美ほむらは選択を迫られる。

 

鹿目まどかを守るか、鹿目まどかとその周囲の者達も守るべきなのか。

 

選択を迫られた時、彼女は魔法少女時代から変わらない決断を下すことになるはずだ。

 

彼女は鹿目まどかの守護者であり、それ以外の守護者にはなりえない。

 

自分の限界に打ちのめされ続けた者だからこそ最愛の人だけは守り抜くのだろう。

 

その道は独りよがりの独善であり、まどかを守りたい自分の望みだけを求める利己主義の道。

 

かつて暁美ほむらに向けてムスビのコトワリを啓いた少年は忠告の言葉を残している。

 

他に選びようがあるのに一つの事に拘る必要はない。

 

赤の他人なんて本当はいらない。

 

自分に必要な時のみ他者を求め、他者を利用する。

 

拘泥しない我儘な道だけを望み、自分の精神世界だけを見ながら面白おかしく生きていけばいい。

 

今の暁美ほむらは守護者であるが、限定的な守護者に過ぎないだろう。

 

自分と愛する人と、愛する人を支えるのに都合がいい者だけを欲する気持ちしかないのだ。

 

彼女の心の形が生み出した引(・)き(・)籠(・)り(・)の(・)道(・)こそが新田勇が啓いたムスビの道となる。

 

そう期待する男もまたコトワリ神が地球に顕現する光景をビルの屋上から見ていたのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

後日の夕方頃。

 

神浜から車を移動させて見滝原に向かっていくのは流れの調整屋を務めるリヴィア・メディロス。

 

どうやら弟子の2人を神浜市に送った帰りの道中であったようだ。

 

「ヨズルとすだちが住める部屋をホテルに用意してくれるなんて、ヴィクトルは太っ腹やね」

 

彼女は弟子のみたまが悪魔となり、調整屋を続けられなくなった事情を聞かされている。

 

それが彼女の選んだ道ならばとリヴィアは尊重してくれており、新たな調整屋を手配してくれた。

 

「あの子達も成長している。そろそろ自分の店を構える経験を積む時期やし、丁度良かったで」

 

紫を基調とした大きなトレーラーハウスを牽引する車の助手席に視線を向ける。

 

隣と後ろの席にいつも座ってくれていた2人の姿がいないのが寂しいのか、少しだけ目元が潤む。

 

弟子の背中を後押ししてくれる師匠であるが、可愛い弟子達と離れ離れになるのは寂しいのだ。

 

「あかん……おセンチになんてなってる場合やない。私はこれからも…流れの調整屋なんやし」

 

眼鏡の奥から零れそうな涙を片手で拭いた彼女は運転を続けていき、見滝原郊外に入っていく。

 

見滝原に帰る前にこの地域で暮らす美国織莉子の容態を確認したかったようだ。

 

トレーラーハウスを駐車出来る駐車場に車を停め、徒歩で織莉子の屋敷に向かう。

 

玄関ブザーを鳴らすと電動の門が開いていき、彼女は織莉子が待つ中庭へと進んでいく。

 

急な訪問であったが織莉子は笑顔でリヴィアを迎えてくれたようだ。

 

「座って下さい、遊びに来ていたキリカが丁度帰ったところなの。今代わりのお茶を淹れるわ」

 

「そんな気をつかわんでもええのに。でも長時間運転して疲れてるし…遠慮なく頂くわ」

 

席に座った2人は紅茶を飲みながら仲良く談笑していく。

 

調整屋達の力によって織莉子の体調は回復しており、リヴィアも安心した表情を浮かべている。

 

織莉子も誰かと一緒にいる時は心細さが癒されるのか笑顔を浮かべてくれている。

 

たわいもない話を続けていた時、屋敷の門から魔法少女仲間の大声が響いてきたようだ。

 

<<開けてーー織莉子ーーッッ!!今すぐ門を開けて中に入れて欲しいんだぁ!!>>

 

忘れ物でもしたのかと織莉子は電動の門を開けに行く。

 

屋敷に入ってきたキリカは血相変えた表情を浮かべながら中庭にいる者達に駆け寄ってきた。

 

「た……大変なんだ!!私が暮らす見滝原が……見滝原の街がぁ!!!」

 

「見滝原がどうかしたんか……?」

 

「落ち着きなさい、キリカ。慌ててたら伝えたい内容も上手く伝えられないわよ?」

 

「私は口下手だから上手く伝えられない!とにかく来て欲しい……自分の目で見れば分かる!!」

 

ただ事ではないと判断した織莉子とリヴィアはキリカの背中について行くようにして走る。

 

丘の上にある高級住宅地であるため、少し移動すれば遠くの景色に見滝原市が見えるだろう。

 

だからこそ、キリカが何を伝えたいのかを理解出来る程の信じられない現象が映ってしまうのだ。

 

「な……なんなの……あの光景は!!?」

 

「見滝原の街が……光り輝く巨大なベールに包まれとるように見えるで!!?」

 

驚愕した表情を浮かべてしまう織莉子とリヴィア。

 

彼女達が見た光景とは、見滝原市全体を覆うような光り輝く巨大なドーム球体。

 

光のドームに包まれた遠くの見滝原市は濃霧に包まれているかのようにして全景を見通せない。

 

「私が暮らす見滝原市に戻れないんだ!!入ろうとしても気が付いたら外に出されてるんだ!!」

 

「電話をして家族さん達の無事を確認出来へんの!?」

 

「スマホ通話や公衆電話さえ繋がらない!!街が霧のようなベールで隔離されているんだよ!!」

 

「これ程の事態になったのなら近隣の住民達はパニックになっているはずよ!!」

 

「それがどういう訳か誰も異常に気が付いてないんだ!まるで…巨大な魔法の力に思えてくる!」

 

家族が心配で両膝が崩れてしまったキリカの肩に織莉子は手を置いてくれる。

 

それでも不安と恐怖を隠し切れない織莉子とリヴィアは再び遠くの見滝原市に目を向けてしまう。

 

「これ程までの巨大な魔法を行使出来る魔法少女なんているわけないわ……だとしたら……」

 

「神の力か……悪魔の力やろうね……」

 

見滝原で活動してきた魔法少女達は神が築き上げた霧の城壁によって締め出されることとなる。

 

これから先の舞台劇に彼女達は必要ないとでも言いたいかのようにして隔離されてしまったのだ。

 

神が築き上げた城壁の内側に囚われてしまったのは見滝原で暮らす魔法少女達。

 

そして人間のフリをさせられている鹿目まどかと百江なぎさ、そして悪魔となった暁美ほむら。

 

巨大な霧のベールに包まれた街で始まるのは、楽しい楽しい舞台劇。

 

白鳥にされてしまった少女が真に必要としている存在と出会う物語。

 

そしてそれを許さない悪魔達が織りなす舞(・)踏(・)会(・)となるだろう。

 

演劇が始まる鐘の音は既に鳴り響いてしまっている。

 

舞台のカーテンは開いていき、囚われた白鳥の物語の開演が始まっていったのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

織莉子達が見滝原市を覆う異常事態に気が付いた翌日。

 

街の風景はいつもと変わらない様相を見せている景色が続いていく。

 

街行く人達は自分達が囚われの身になっているとも気が付かずに今日を生きようとしている。

 

しかし彼ら、彼女達は街の外に意識を向けることが出来ない状態にされているのだ。

 

職場でさえ街の外に仕事に向かおうとする者達はおらず、見滝原の街だけで生活が完結していく。

 

それは学生達も同じであり、見滝原中学校に通う生徒達も同じ今日を生きようとしているのだ。

 

しかしごく一部の者だけは見滝原市に起きた異常事態に気が付いている。

 

それこそが見滝原市を悪魔の力で支配してきた暁美ほむらであった。

 

<不味いのぉ…昨日の段階でこの街はアラディアが生み出した結界に飲まれてしまったようじゃ>

 

中学校に向かう生徒達をベンチに座りながら監視している学生服姿のほむらに向けて念話が響く。

 

時の翁であるクロノスは隠し身の技術を用いてステルス状態を維持しながら背後に立っていた。

 

<私の結界の上から覆うようにしてこの街を支配してくるとはね……恐ろしい相手だわ>

 

<円環のコトワリ神がこの街を隔離した狙いは分からんが、今のこの街は陸の孤島と化している>

 

<街のライフラインだって街の外に依存してるのよ…こんな状態が長く続けば無事では済まない>

 

<勿論街の生活品が消えていくだろう。それでも、街の人間達は気が付かないまま飢えて死ぬ>

 

<目的の為なら手段を選ばない相手のようね…。所詮は魔法少女にとっての救い神でしかないわ>

 

<円環のコトワリ神が街の何処に潜んでいるかは分からんが……奴は必ず仕掛けてくるぞ>

 

<分かっている……私の記憶操作魔法を全開にしているけれど、いつ打ち破られるか分からない>

 

平静を装うとするが内心は恐ろしくて溜まらない彼女の前を元気よく歩いていく小学生が現れる。

 

目の前を通り過ぎる小さな女の子は円環のコトワリ神の一部である百江なぎさ。

 

今はまだ円環の鞄持ちとしての記憶をどうにか抑え込んでいるが、いつ破られるか分からない。

 

視線を彼女から逸らして次にやってくる者にも目を向ける。

 

歩いてきたのは一緒に暮らす佐倉杏子と共に通学している美樹さやかだった。

 

「おっ?ほむらじゃん。そんなところに座ってボーっとしてると学校に遅刻しちゃうよー?」

 

いつも通りの態度で接してくる者達を見て彼女は安堵の溜息をつく。

 

横の杏子はほむらの見た目が変わっている部分に気が付いたのか指摘してきたようだ。

 

「ほむら、今日はいつものカチューシャを身に着けてないよな?イメチェンでも狙ってるのか?」

 

杏子が気が付いたのは暁美ほむらがいつも頭に身に着けている黒いカチューシャ。

 

見れば十字架のように描かれた白いラインが横に向けて流れている新デザインであった。

 

「えっ……?ええと、これは……その……」

 

「別に変には見えてねーよ、似合ってるし。十字架のデザインを見てるとつい反応しちまってな」

 

「ほむらはイメチェン狙ってるようですなー?しかし、あたし達の制服もチェンジしてるから!」

 

新しい制服に袖を通しているのが嬉しいのか、さやかはくるりと回りながら上着を見せびらかす。

 

見れば女子制服は新学期頃から新潮されており、留め具で上着を閉じる制服になっているようだ。

 

<<ほむらちゃーん、さやかちゃーん、杏子ちゃーん、おはよーっ!>>

 

元気な声が聞こえてきたので視線を向ければ鹿目まどかが手を振りながら登校してくる。

 

彼女達の様子は今の段階では変化が見られないと判断したほむらは学生鞄を持ちながら席を立つ。

 

「おはよう、まどか。昨日の段階で何か変わった出来事とかは起きなかったかしら?」

 

「えっ?別に…いつも通りだったと思うけど、変なことを聞くね?」

 

「……そう、それならいいの。早く学校に行きましょう、時間も余裕がなさそうだし」

 

「そうだな、遅刻ギリギリで登校してるとマミからまた小言を言われそうだし」

 

「高校に進学したマミさんの校舎は離れてるから、学校で会えるのは昼休みぐらいになったねー」

 

とりとめのない会話を続けて歩きながらも、ほむらはまどかに視線を向ける。

 

さやかと杏子を相手に楽しそうに会話を続ける彼女の笑顔が愛しいのか、右手が握り込まれる。

 

(守り抜いてみせる……彼女の笑顔は人間の世界でしか生まれない。神の世界では得られないわ)

 

彼女達の変わらぬ日常を見送ってくれるクロノスだが、透明な姿のまま空を見上げていく。

 

薄目を開いて感じ取っているのは空を飛び交う円環の分霊達の姿であった。

 

(既に街は円環の分霊共から完全包囲を受けている……逃げ出すことは出来ん、戦うしかないぞ)

 

……………。

 

「皆さん!既にニュースで見ていると思いますが、未知の病魔の感染拡大が広がっています!!」

 

教室でHR活動を行うのは進級したまどか達の担任となれた和子先生である。

 

教鞭を持ちながら怪しく眼鏡を光らせる三十代半ばぐらいの女教師がいつも通りの茶番を始める。

 

「病魔に負けない体作りには食事が大切です!新陳代謝を高める料理は何ですか?はい中沢君!」

 

ビシッと教鞭を向けられた男子生徒の中沢は二年生時代と変わらない態度で答えてくれる。

 

「え、ええと……生姜料理だと思います」

 

「その通り!ですがチューブの生姜で生姜焼きは許さんという男とは絶対に付き合わないこと!」

 

怒り心頭になりながら教鞭をへし曲げてしまう担任教師を見た生徒達は苦笑いを浮かべてしまう。

 

新しい恋人もダメだったのかといつもの反応を返したいが、生徒達はヒソヒソ話を始めていく。

 

「なぁ…先生の言ってる未知の病魔ってヤバイんだろ?もう世界中で感染が爆発してるぞ…」

 

「前の月が終わった後から東京とかの大都市はロックダウンなんだろ?次はこの街かもなぁ…」

 

「ドラッグストアでマスク買えたか?酷い混雑で俺は買えなかったよ……」

 

「消毒液まで根こそぎ買いつくされてるんだろ?まるで昭和のオイルショックの光景だよな…」

 

「大丈夫だって、国が何とかしてくれるさ。直ぐにワクチン接種が始まって沈静化していくさ」

 

やはり不安が広がっているのかと感じた担任教師は冷静さを失くさず生活するようにと釘を刺す。

 

暗い表情のまま話を聞いていたほむらであるが、彼女の脳裏に魔人ペイルライダーの言葉が過る。

 

(疾病の騎士は私に語ってくれたわ…この世界に起こってしまう黙示録と病魔の話を……)

 

百年前のスペイン風邪のようなパニックが既に日本国内でも始まろうとしている。

 

それを危惧したい気持ちもあるが、それ以上に今は優先しなければならない問題があるのだ。

 

(世界の終末は近いのかもしれない…だけど今はダメよ。まどかを守り切ってから考えるわ)

 

不安と恐怖で圧し潰されそうな気持ちを隠しつつ今日の授業も適当にこなしていく。

 

下校時間となったほむらはまどかと一緒に帰りたいと言い出し、彼女は快く承諾してくれる。

 

夕日に照らされた2人が帰り道を歩く中、やはりまどかも不安を隠せない表情を浮かべてしまう。

 

「テレビでやってる世界規模の病魔のニュース…怖いよね。この国はどうなっちゃうんだろう?」

 

「私だって怖いわ…だけど貴女がそれを気にしても仕方ないの。毎日の健康に気を付けましょう」

 

「うん……そうだね。それ以外に私達が自衛する手段なんてないんだもんね…」

 

それ以上は何も言わなくなったまどかと共に帰路を急ぐほむらであるが何かを感じ取る。

 

それは自分の一部ともいえるだろう偽街の子供達の魔力が次々と消えていく現実であった。

 

顔面蒼白となった彼女が後ろに振り向き、遠くの景色に視線を移す。

 

「どうしたの、ほむらちゃん?」

 

心配してくれるまどかに何ていえばいいかも分からない彼女は首を横に振り、後ろに振り返る。

 

「……早く家に帰った方がいいわ。もう誰が未知の病魔に感染しているか分からない国だもの」

 

「うん……そうした方が良さそうだね」

 

家路を急ぐ2人であるが、ほむらは差し迫る脅威が直ぐそこまで迫っているのを感じている。

 

(我儘なあの子達は自由にさせておくしかなかった…。そのせいで各個撃破されるだなんて……)

 

ほむらの一部といえた偽街の子供達が殺戮された現場には既にクロノスが到着している。

 

様々な魔法武器が突き刺さった彼女達の体は崩れていき、本体であるほむらの内側に返るだろう。

 

「街で放し飼いにしていた使い魔の姿も見えない…奴らは我々の戦力を全て削ぎ落すつもりじゃ」

 

暗い路地裏で夕暮れの空を見上げるクロノスは魔力探知でアラディアを探そうとする。

 

しかし巧妙に魔力を隠している円環のコトワリ神を見つけ出すことは容易ではなかったのだ。

 

その頃、ほむらにとって最凶の脅威である円環のコトワリ神は街で一番高い場所に立っている。

 

電波塔の上で佇むアラディアは淡いピンク色に発光した翼を広げながら羽を撒き散らす。

 

その羽一つ一つが円環のコトワリの一部となった魔女であり、円環の鞄持ち達なのだ。

 

「敵の敗北を確実にするには、その者の味方を先に潰せ。暁美ほむらの使い魔共はこれで全滅だ」

 

腕を組みながら地上に視線を向ける女神の力だけでも圧倒的なのに彼女には円環の軍勢までいる。

 

円環のコトワリ神アラディアは個体ではなく魔女の集合体である群体神。

 

アラディアと中核を成す鹿目まどか、そして全ての魔女達によって構成される三(・)位(・)一(・)体(・)の(・)体(・)。

 

その体の構造は父と子と精霊(天使)によって構成されている唯一神と同じ存在であったのだ。

 

「後は我の知恵を取り戻す邪魔建てを繰り返す悪魔を仕留めるのみ……だが、どうする?」

 

アラディアの脳裏に浮かぶのは共に地球にやってきたラファエルから送られた忠告の言葉。

 

円環の鞄持ちとして鹿目まどかを救いに送った美樹さやかと百江なぎさは操られているだけの者。

 

もう一度チャンスを与えてあげて欲しいという慈悲の言葉によって踏み止まってくれる。

 

「…いいだろう、もう一度だけチャンスを与える。そのために貴様らの記憶を取り戻してやろう」

 

光り輝く羽が舞い落ちる見滝原市。

 

その羽一つ一つが円環のコトワリを成す魔女であり、円環の魔法少女達である。

 

それらのどれか一つにでも触れようものならたちまち円環の一部であった記憶を取り戻すはずだ。

 

美樹さやかと百江なぎさが円環の使者として復活する時はもう目前に迫っていたのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「なんてこった……これじゃあ見滝原の街に入れねーじゃねーか……」

 

見滝原市に入れる郊外にまで訪れているのは人修羅達である。

 

セイテンタイセイは筋斗雲に乗りながら夜空を飛んでいるのだが、入れる場所を見いだせない。

 

「街を覆う光のベール…近くで見れば霧にも見えるな。これと似た霧をどっかで見たような……」

 

人修羅達と合流するためにセイテンタイセイは夜空から地上に向けて降りていく。

 

向かった先には黒のライダースパンツと白と青のラインが入った革ジャケットを纏う尚紀がいる。

 

彼は目の前にそびえ立つ巨大な霧の壁を見上げながらも何かを思い出していたようだ。

 

「こちらの方もダメだ、上空の方はどうだった?」

 

ケルベロスに跨っているクーフーリンも戻ってきて問うのだがセイテンタイセイは首を横に振る。

 

「周辺地域モ酷スギル瘴気ダ…シカシ、我ハコノ霧ト似タヨウナモノヲ見タコトガアル気ガスル」

 

「冴えてるな、ケルベロス。俺はボルテクス界でもこの霧と同じもので苦しめられた経験がある」

 

「テメェは何かに気が付いたようだな、尚紀?」

 

「カブキチョウを思い出せ。あそこを支配していた巨大ミズチが操っていた霧のことをな」

 

そう言われた仲魔達がハッとした顔つきとなり、そびえ立つ霧の正体に気が付いてくれる。

 

「ミアズマだったか……尚紀はミズチから手に入れたマガタマの力で気が付いていたようだな?」

 

「俺の幻惑魔法もミアズマの力だ。目の前の霧は俺の力を遥かに超えた幻惑魔法の壁だな…」

 

「どうりで酷い瘴気の臭いなわけだ。このエアロゾル状物質で覆われた街にどうやって入る?」

 

「俺に任せろ。ミズチのミアズマ世界に入り込める道具をまだ持っているし、試してみるか」

 

周辺地域にまで流れ出る霧の壁にまできた尚紀が左手をかざし、掌からウ(・)ム(・)ギ(・)の(・)玉(・)を出現させる。

 

ウムギの玉が光を放ち、ミアズマの霧を開けようとするが霧の壁が分厚過ぎて開ききれない。

 

「ミズチのミアズマなんて次元じゃない……ウムギの玉でこじ開けられるか分からない程の力だ」

 

「それでもやるしかあるまい。我々の救援をほむらは今か今かと待ちわびているはずだ」

 

「円環のコトワリ神の力は神霊クラスなんだろ?だとしたらヤバイぜ……」

 

「一刻モ早ク合流シナケレバ……アノ悪魔娘モ無事デハスムマイ」

 

「間に合ってくれよ……今行くからな、ほむら」

 

美しさの中に禍々しい瘴気を内包したアラディアの結界世界と化した見滝原市。

 

白鳥となった少女は瘴気の湖に閉じ込められたも同然であり、この場所で終わるのやもしれない。

 

瘴(・)気(・)の(・)湖(・)に(・)映(・)る(・)街(・)で広がっていくのは、まどかを守ろうとする者達の戦いとなっていくだろう。

 

まどかを本来の自分の姿に戻そうとする道が正しいのか?

 

まどかを偽りに塗れた世界で人間のまま生きさせる道こそが正しいのか?

 

己の正しさを絶対に譲らない者達の戦いが始まっていくことになるのだ。

 

その光景こそボルテクス界どころか、数多の世界で繰り返された人間と悪魔の戦いをなぞる道。

 

瘴気の湖に映る街において、自らの信念をかけた殺し合いが始まっていくのであった。

 




とりあえず、ワルプルギスの廻天に繋がる前哨戦のような展開で終わらせられるように描いていきますね。
来年の冬に公開するようなんで、その間に東京編を進め終えられた後ぐらいに廻天のネタを入れていきたいので。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。