人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

251 / 398
250話 波打ち際のなぎさ

湖から立ち上る蒸気霧のような白い煙が溢れている見滝原市。

 

そんな霧の道を歩いているのは百江なぎさであり、赤いランドセルを背負いながら家路を歩く。

 

道行く人達は小学生の姿に目を向けることなく霧の道を進み、瘴気の世界を生きている。

 

彼ら、彼女達は霧に包まれた街で生きているのだという現実を認識することは出来ないようだ。

 

それでも鼻がいいなぎさは違和感を感じてきている。

 

「何なのです…?なんか酷い臭いを感じる街になったような気が……?」

 

瘴気の臭いを感じながらも、それが何なのかを思い出すことが出来ない少女は家に辿り着く。

 

マンションの階段を登っていき、自分が暮らしている家の通路を歩いている時だった。

 

「えっ……?お前は…何なのです?猫のような…キツネのようなピンク色の生き物ですね?」

 

なぎさの目の前の地面にいるのはピンク色をしたキュウベぇ。

 

体色がピンク以外は契約の天使のように見える存在は目の前の少女を見上げてくる。

 

しかし何も語り掛けてくることもなく、不気味な生物はただただ彼女を見上げるばかり。

 

「……な、何か言って欲しいのです。ニャーとか、ワンワンとか……」

 

何を思ったのか、ピンク色をしたキュウベぇは後ろに向けて走り去っていく。

 

キョトンとした表情を浮かべながら謎の生き物を見送ることしか出来なかったようだ。

 

「何だったのです……あの生き物?」

 

摩訶不思議な生き物を何処かで見た事があるような気分に浸りながらも家の鍵を取り出す。

 

玄関の扉を開けて中に入ると、いつもの家の光景が彼女を出迎えてくれる。

 

「……ただいま」

 

返事が返ってこない家の中へとなぎさは入っていく。

 

いつもの家の光景とは、まるでゴミ屋敷かと見まがう程の悪臭塗れの家。

 

ゴミ袋が積み重なり、電灯は劣化して使えず、歩く場所すら殆どないマンションの一室。

 

ここが百江なぎさの生きる家。

 

まともな神経をしている者が住まう場所ではなかったのだ。

 

親が出迎えてくれることもない暗い家の中に入り込み、ランドセルを放り捨てる。

 

暗い汚部屋の中で座り込み、転がっていた絵本を手に取った少女は不幸な物語を読んでいく。

 

マミが用事でいない時はこうやって惨めな家の中で不幸な物語の世界に浸るのが彼女の日課だ。

 

「かわいそうな女の子は石となって、今はもう知っている者もいないのです、おしまい」

 

不幸な物語の世界に意識を向けている時だけは辛い現実を忘れられる。

 

現実逃避に我が子を追いやることしか出来ない彼女の親は何をしているというのだろうか?

 

「なぎさは……辛いだなんて思わないのです。だってマミがいるし…お母さんだっているのです」

 

立ち上がった彼女は自分の現実が詰まった汚部屋から逃げるようにして家を出る。

 

マミのマンション前で座っていれば用事を済ませたマミと出会えるだろうと歩いていく。

 

「晩御飯はマミの家で食べるのです。今日は何の料理を作ってくれるのか楽しみなのです」

 

暗くならないうちにマミのマンションに向かっていると向こう側から親子連れが歩いてくる。

 

「ママー、晩御飯はハンバーグがいいなー」

 

「そうねー、ママも食べたくなってきたし、チーズハンバーグを作ってあげるわ」

 

「わーい!チーズハンバーグ大好きーっ!!チーズ♪チーズ♪」

 

「うふふっ♪腕によりをかけて作ってあげるから、楽しみにしてなさいね」

 

仲良し親子は手を繋ぎながら楽しそうに談笑し、なぎさの横を通り超えていく。

 

そんな親子に振り向くこともない彼女は視線を地面に向けながら歩き、こう呟いてしまう。

 

「…寂しくなんてないのです。なぎさにはマミがいるし…明日はお母さんのお見舞いに行けるし」

 

百江なぎさは孤独な少女。

 

小学校でも友達はおらず、クラスメイトからは関わりたくない者だと遠ざけられてしまう。

 

吹けば飛ぶような儚い女の子であり、何処かで行方不明になっても誰も気にしてくれない者だ。

 

そんな彼女は魔法少女になってしまい、きっと何処かで円環のコトワリに導かれる末路を遂げる。

 

しかし今の彼女は人間時代の頃のように生かされている少女。

 

悪魔の記憶操作魔法によって人間時代の生活に変化が生まれたお陰でどうにか生きてこられた。

 

「あら…?あそこで座っているのはなぎさちゃんかしら?」

 

瘴気の霧が立ち込める道を帰ってきたマミが気が付いたのはマンション前で座り込んでいる者。

 

彼女に気が付いたなぎさは笑顔を浮かべながら駆け寄ってきたようだ。

 

「おかえりなのです、マミ!今日も晩御飯をご馳走になりにきたのですよ!」

 

寂しかった気持ちを表すようにして抱き着く彼女の頭をマミは優しく撫でてくれる。

 

「ただいま、なぎさちゃん。私と同じ独り暮らしなんだし、遠慮なく毎日ご飯を食べにきてね」

 

孤独な自分に優しくしてくれるマミが嬉しいのか、胸に顔を埋めながら頬擦りしてくる。

 

顔を隠すようにしているのは嬉し涙が零れているのを隠したかったからだろう。

 

同じ孤独を背負う少女と共に生きられる生活に幸福を感じているマミが笑顔を浮かべてくれる。

 

「今晩はなぎさちゃんの好きなチーズハンバーグにしましょうか♪」

 

「チーズ!?チーズハンバーグ大好きなのです!マミのチーズハンバーグは世界一なのです!」

 

お互いに笑顔を浮かべながら手を繋ぎ、マミの家に向かっていく。

 

百江なぎさにとって、巴マミの傍こそが本当の家であり心が癒される場所。

 

失いたくない気持ちは強く、だからこそ本当の自分の記憶を無意識に遠ざけようとしてきた。

 

しかし、そんな彼女の元に現れた存在こそ円環のコトワリの一部である存在。

 

ピンク色をしたキュウベぇは無言のまま彼女達の背中を見送っていたのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

百江なぎさの親は母親が存在しており、体が悪いのかずっと病院暮らしが続いている。

 

そのため娘の面倒を見る事も出来ず、家を子供独りに任せきりの状態になっていたようだ。

 

女手一つで子供を育てることは今の日本では難しく、シングルマザーは社会問題となっている。

 

「私はあの子を何処まで育てられるの…?貯蓄だって入院費用や娘の生活費で尽きそうなのに…」

 

暗い表情を浮かべた女性が入院ベットに横たわりながら窓の景色を見つめている。

 

彼女こそが百江なぎさの母親であり、我が子を孤独に追い込んでいる張本人だ。

 

「海であの人と出会った時、こんな未来が訪れるなんて思わなかった…出会うべきじゃなかった」

 

目を瞑り、かつての思い出の世界に浸っていく。

 

耳の奥には波打ち際の渚の音が今でも残っているようだ。

 

「思い出の場所で感じた渚の音を私と夫は娘の名前にした…いつかあそこに連れていきたかった」

 

思い出の世界に浸れば浸るほど、現実の辛さによって心労がたたり病気が悪化していく。

 

家に帰らない父親のせいで母親だけでは娘の面倒を見る事も限界が訪れようとしている。

 

「今日はあの子がお見舞いにきてくれる…私はあの子にどんな顔をすれば……ゲホッ!ゲホッ!」

 

見回り中の看護師が患者の容体が急変したのに気づき、入ってきて薬を飲ませようとしてくれる。

 

しかし現実の辛さに耐えられない彼女はヒステリーを撒き散らす態度になっていくのだ。

 

「薬なんていらないわ!!どうせ病弱な私の人生は助からない!!早く私を殺して頂戴!!」

 

「落ち着いて!手術をして間もないのに興奮しては体に毒です!!」

 

「生きていても私は生きられない!結婚を期にテレビ業界から引退した私に再起なんてないわ!」

 

「シングルマザーが辛いのは貴女だけじゃないんです!どうか強い望みを持って!」

 

「望みなんてないわ!!夫は私を捨てて何処かに消えた……私と娘は捨てられたのよ!!」

 

泣き崩れてしまったなぎさの母は怒りと憎しみ、そして絶望の嘆きを呟くばかり。

 

担当医が来て彼女を励ましてくれるが精神薬を処方させる判断をする程にまで彼女は弱っている。

 

向精神薬を飲まされた彼女は辛い感情が麻痺したお陰か、窓の景色を見ながら黙り込んでしまう。

 

換気をするために開けられた窓から流れてくる風に髪が揺れていた時、何かの気配を感じ取る。

 

「えっ……?誰もいない……?」

 

病室を見回すが、ただの人間である彼女には侵入者の姿を知覚するための能力はない。

 

侵入してきたピンク色のキュウベぇは座席の上に立ちながら彼女を見上げていたようだ。

 

<<悪魔から呪縛を与えられ、気持ちよく騙されてきた女よ…貴様の呪縛、我が解いてやろう>>

 

座席に立った概念存在の目が赤く光る。

 

突然目が見開いていくなぎさの母親は思い出すだろう。

 

悪魔の記憶操作魔法に操られる前の自分にとって、娘のなぎさはどのような存在だったのかを。

 

……………。

 

病院エントランスホールに入ってきたのは百江なぎさである。

 

お土産袋の中には母親に元気になってもらおうと母親が好きなチーズが沢山入っているようだ。

 

「病院の臭い……なぎさは嫌いなのです。なんだか……暗い気分になっちゃうから」

 

気分が沈んだままでは母親に心配をかけてしまうと空元気を出そうとしていく。

 

それでも今日はどことなく胸騒ぎを感じてしまい、怖くなっていく恐怖感に戸惑ってしまう。

 

そんな彼女が母親の病室の前にまできて扉を叩く。

 

返事は返ってこないが扉を開けてみると、窓の外に視線を向けながら黄昏る母がいたようだ。

 

「……お母さん、手術が終わったみたいだし…お土産のチーズを買ってきたのです」

 

空元気のまま笑顔を浮かべるなぎさであるが、母親の様子が何処かおかしい。

 

悪魔の記憶操作魔法である精神操作魔法は円環のコトワリ神の力で既に解かれている。

 

魔法にかかっていた頃のような優しい態度を向けてくれない母親の姿が怖くなっていく。

 

「……いらないわ。それより……家にあの人は帰ってきた?」

 

それを問われたなぎさは黙り込んでしまう。

 

そんな彼女の態度で答えを得たかのようにして、なぎさの母は呪縛を解かれた本音を語っていく。

 

「……あの人はもう、来たくなくなったんでしょ?あなただって、本当は来たくないんでしょ?」

 

「な……何を言い出すのです……?」

 

「もう私のところに来なくていい……あの人と一緒に何処にでも消えてしまえばいいわ」

 

突き放すような言葉を送ってくる母親の姿を見せられる娘の体が震えていく。

 

それと同時に悪魔に封印されてきた記憶の一部がフラッシュバックして蘇っていくのだ。

 

(なぎさは…これと同じ言葉を言われた気が…今のお母さんの姿を…見た事があるような…?)

 

「みんな嘘ばっかり……そうよ、私が何もかも悪いのよ。みんなを苦しめるだけの女なのよ…」

 

「そ、そんなことないのです!嘘をついてくれるのだって…お母さんを傷つけたくないから!」

 

周囲の人や我が子が彼女を心配すればするほど、彼女の心は怒りと憎しみに支配されていく。

 

コンプレックス地獄に陥った者に与える優しさが必ずしもその人の心を救うとは限らない。

 

相手が優しさを望んでいない時に送られる優しい嘘など、被害妄想を爆発させる燃料なのだ。

 

「みんな私をバカにしたいだけよ!!貴方も私をバカにしなさいよ!!ざまぁみろって!!」

 

「言わないで…お母さん…そんな言葉を……なぎさに言わないで欲しいのです!!」

 

「うるさい!!()()()()()()()()()()も献身も……私はいらない!!みんな大嫌いよぉ!!」

 

娘を罵倒しながら泣き崩れてしまった母親は両手で顔を覆いながら泣き喚く。

 

私に母親なんて無理だった、なぎさは他の家の子として生まれていれば良かったと喚き散らす。

 

青い顔をしたなぎさは後ろに下がっていき、騒ぎを聞きつけた看護師達が部屋に入ってくる。

 

「落ち着いて下さい!!今が苦しくても、きっと良くなりますから!」

 

「娘さんの前で錯乱しないで!!貴女の可愛い娘なのよ!?」

 

「やかましい!!私に娘なんていない!!いらない!!出ていけ……みんな出ていけーっ!!」

 

看護師達が暴れる患者を抑え込み、女性看護師が震えるなぎさを病室の外へと連れ出してくれる。

 

今にも泣きそうな彼女をベンチに座らせようとしてくれる女性看護師を無視して彼女は走り出す。

 

逃げるようにして病院から出てきたなぎさの目には大粒の涙が零れていたのだ。

 

「なぎさは…いい子にしてたのですよ?頑張っていい子にしてたのですよ?なのに…どうして?」

 

余りにも辛い気持ちと共に噴き上がっていくのは、かつての世界の記憶。

 

彼女が不幸な人間の少女として生き、魔法少女となって何処かで絶望に飲まれた頃の記憶。

 

「なぎさは()()()()()()()()()のですか?じゃあ、今まで優しくしてくれたお母さんは……誰?」

 

かつての世界の記憶と今の世界の記憶の隔たりが酷過ぎたために混乱状態となってしまう。

 

泣き喚きながら走り去っていく彼女の背中を見送るのはピンク色のキュウベぇ。

 

無言のまま何の感情も見せない円環のコトワリの一部は百江なぎさの記憶を蘇らせるだろう。

 

その方法とは、かつて呪いを撒き散らす存在に成り果てた百江なぎさの記憶の再現であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「なぎさちゃん……何処に行ったの?晩御飯を食べにくる時間なのに来ないだなんて……」

 

瘴気の霧が地面を覆う夜の見滝原市を駆けていくのは巴マミ。

 

彼女はなぎさの事が心配で家から飛び出し、当てもなく彼女を探し続けたようだ。

 

その頃、誰もいない自宅には帰らなかったなぎさは顔を俯けながら街を歩いている。

 

何処に向かいたいのかも分からない彼女だったが、甘いお菓子の匂いに釣られて顔を上げる。

 

横にあったのはケーキ店のショーウィンドウであり、中にはチーズケーキが並んでいたようだ。

 

「いい子にすれば…お母さんは喜んでくれたのです。あのお母さんはきっと…偽物だったのです」

 

悪魔が改変した世界で触れ合えた優しい母の姿は偽物だったのだと今の彼女には分かってしまう。

 

百江なぎさにかけられた記憶操作魔法の力がそれ程にまで弱まっている。

 

魔法を再びかけようにも、暁美ほむらやクロノスは鹿目まどかを守るために周囲を固めている。

 

使い魔達を全て殲滅されてしまった彼女達は今の百江なぎさを止めることが出来ない有様なのだ。

 

「本当のお母さんは……さっきのお母さんなのです。なぎさはそれを……覚えているのです」

 

本当の記憶の世界にいた母親の残酷な態度こそが本物であり、今までの優しい態度は偽物。

 

そう思えるのに、彼女の心は張り裂けそうにまで偽りに塗れた今までの世界を求めてしまう。

 

「去年の夏頃にお見舞いに行った時に()()()()()()()()()()()()が……一番の幸福なのでした」

 

ショーウィンドウに置かれたチーズケーキから目を逸らした彼女は再び歩き始める。

 

今の彼女がどれだけチーズを求めようとも、母親は喜んでくれないと突きつけられてしまった。

 

百江なぎさにとって、チーズとは()()()()()()()()()()()()()()()

 

もう手に入らないチーズ。

 

自分の力では生み出せなかったチーズ。

 

不幸な少女に与えられたのは、チーズではなく拒絶だった。

 

「なぎさはもうこの世界に居場所なんてないのです。なぎさには…別の居場所があったような…」

 

幽鬼のように歩き去っていくなぎさの姿に気が付いたのはマミである。

 

懸命に走ってなぎさに追いつこうとするのだが、いつの間にか見失ってしまう。

 

「何で私を避けようとするの……?なぎさちゃん、待って!!」

 

走っていく彼女は目当ての人物が暗い路地裏へと入っていくのを見つけることが出来るだろう。

 

だが追いかけていった先で待っていた存在を見た彼女は驚愕した表情を浮かべてしまう。

 

「くっ!?」

 

突然飛んできた鎖分銅の一撃を咄嗟の判断でバク転を用いる回避行動を行う。

 

着地した彼女が見たのは淡く光る羽が舞い落ちる路地裏の世界で佇む2人の魔法少女。

 

「悪いんだけどさぁ、ここから先は通せないよ」

 

「何者なの……貴女達?魔法少女なの!?」

 

「その通りです。もっとも、私達は数百年前の戦国時代で死んでいる魔法少女ですけどね」

 

「戦国時代の魔法少女ですって……?」

 

左に立つのは盗賊を思わせる赤い装束を纏い、鎖鎌を構えるピンク髪の魔法少女。

 

右に立つのは青い侍甲冑を纏い、刀を構える水色の長髪をした魔法少女。

 

どちらも相当の手練れであると判断したマミはソウルジェムを構えて変身を行う。

 

「私は先に進みたいの。邪魔をするというのなら押し通るわ」

 

「巴さん、百江なぎさはこの世界で留まってはいけない少女なのです」

 

「アタシ達と同じく、あの子もこの世の因果から解き放たれた場所に帰るべき存在なんだよ」

 

「そんな話はどうでもいいわ!私にはなぎさちゃんが必要なの…なぎさちゃんに会わせなさい!」

 

先手をとったマミが右手を掲げて複数のマスケット銃を生み出す。

 

即座に動いた円環の使者達は左右に避けながら移動して銃弾の整列射撃を回避する。

 

「千鶴、殺してはダメよ!巴さんが円環に導かれるのは今ではないのだから!」

 

「難しい注文だよ…露。円環にいる平行宇宙のマミの実力から考えて、手を抜いたらやられる!」

 

互いが放つ同時斬撃を側方宙返りを用いて避け、振り向きざまにマスケット銃を構える。

 

円環の使者達は不殺の戦いを強いられるが、本気のマミは殺すつもりで攻めてくる。

 

露と千鶴と名乗った戦国の魔法少女達は激戦を繰り広げながらマミの行く手を遮るのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「昔みたいなお母さんに戻って欲しい……そう願いながら、なぎさは生きてきたのです」

 

いつの間にか辿り着いた場所とは見滝原総合病院の敷地内。

 

この場所は尚紀達が起こした騒動によって一部区画は立ち入り禁止となっている。

 

だがそんなことなどお構いなく彼女は病院の敷地内に無断侵入していたようだ。

 

「でも言えなかった……そんな事を言ったら、今のお母さんが変になっちゃうからなのです」

 

歩き疲れた彼女は病院の建物に寄りかかるようにして座り込んでしまう。

 

彼女が座り込んだ場所とは、奇しくもお菓子の魔女のグリーフシードが刺さっていた場所。

 

ここでかつてのマミはお菓子の魔女となったなぎさの結界に囚われ、命を落とす末路を遂げた。

 

「なぎさはずっと我慢してきた…。だけど、我慢を繰り返したって……救われなかったのです」

 

抑圧され続けた彼女はいつしか自由(CHAOS)を求めるようになってしまう。

 

いい子ちゃんを続けても真に求める幸福を得られないのなら、悪魔のように自由になりたい。

 

自由になって、正しくもない、いい子でもない、そんな悪魔のような百江なぎさになりたい。

 

周りの連中なんて自分勝手な正しさを彼女に押し付けるだけの偏見生物。

 

指摘すれば自分の劣等性は絶対に許さないといった態度で問題を相手にすり替えてくる。

 

自分だけが正しい、自分だけが認められればいいんだという優越性しかいらないとくる。

 

人類なんて、所詮はエゴに塗れた承認欲求モンスターに過ぎないと子供ながらに理解出来た。

 

だからこそ、他人に振り回されない自由な百江なぎさになってみたい。

 

その先にきっと救いがあるのだと信じて彼女は魔法少女の道に進むことになったのだろう。

 

しかし、救いなんてどこにもなかった。

 

そこには()()()()()()()()のだから。

 

彼女もまた自分のエゴを撒き散らす承認欲求モンスターになっただけ。

 

ミイラ取りがミイラに成り果てただけでしかなかったから、そうなっただけ。

 

客観性のない主観性は成り立たないという言葉通りの光景がそこにはあったのだ。

 

「信じたい気持ちなんて…なぎさの理想を信じたいだけ。疑うことは大切なのです」

 

自分を疑い、他人を疑い、世間を疑い、正しさを疑い、全ての事象を疑い続ける。

 

疑うからこそ知る努力に繋がり、愚かな選択をして気持ちよく騙されることもなかっただろう。

 

「今のなぎさに足りなかったものは…疑うこと。今のなぎさを疑い、今の生活を疑うべきでした」

 

この世界に留まってきた生活の全てが偽りに塗れたものだと彼女は理解する。

 

後は確信に至れる何かが必要であり、それを与えてくれる存在が目の前に現れてくれるのだ。

 

「また現れたのですか…?見た目からして、おかしな生き物なのです」

 

目の前に立っていたのはピンク色をしたキュウベぇ。

 

出会った時と変わらず無言のまま見上げてくるが、不思議と拒絶する気分にはならない。

 

立ち上がった彼女が乾いた笑顔を浮かべながらこう告げてくる。

 

「お前もなぎさのような嫌われ者なのです?だったら、なぎさとお前は似た者同士なのです」

 

膝を曲げて屈んだなぎさがピンク色のキュウベぇを両手で掴んで持ち上げてしまう。

 

すると突然彼女の両目がカッと開き、あらゆる並行世界の記憶が流れ込んでくる。

 

「あっ……」

 

悪魔の庭に囚われていた少女はついに円環のコトワリの一部に触れてしまった。

 

かつての自分自身の記憶と力を思い出し、ようやく自分が魔法少女だったのだと認識する。

 

「全部思い出したのです……なぎさは……なぎさは……」

 

立ち上がっていく彼女の姿が輝いていき、円環の使者としての姿に変化していく。

 

大きな光が生まれている光景に気が付き走ってきたのは行く手を阻む者達を退けたマミだった。

 

「なぎさちゃん!!!」

 

今まで認識出来なかったなぎさの魔力に驚愕しながらも、マミは病院敷地内へと入ってくる。

 

すると彼女の目の前で佇んでいた円環の魔法少女の姿を目撃するのだ。

 

「この魔力……そしてその姿……本当になぎさちゃんなの……?」

 

ピンク色のキュウベぇの横に立つ姿こそ、くるみ割り人形の魔女の世界にやってきた円環の使者。

 

魔法少女の姿と魔女の力を併せ持つ円環の魔法少女なのだ。

 

そして彼女と同じく円環の使者である露と千鶴までなぎさの横に飛んできて着地する。

 

「なぎさ達はかつて希望を運び、いつか呪いを振りまいた者。円環のコトワリに導かれた者です」

 

「なぎさちゃんが魔法少女?本当は円環に導かれていた?なら…今までの貴女は何だったの!?」

 

「騙すつもりはなかったのです。なぎさは悪魔の力で支配され、思い出せなくなってたのです」

 

「円環のコトワリに導かれた死者がどうしてこの世にいるのよ!?どうして姿が見えるの!?」

 

「受肉していられるのはMAGの力のお陰。なぎさは概念存在…本当は地上にいたらダメなのです」

 

「貴女が何者だって構わない!私は貴女を必要としてきたわ…騙されていたとしても構わない!」

 

「マミ……」

 

今にも泣きそうな顔を向け、哀願するかのようにして行かないでと懇願してしまう。

 

そんなマミのために精一杯の笑顔を浮かべてくれたなぎさは別れの言葉を送ってくれるのだ。

 

「ありがとう…マミ。なぎさはね、悪魔に騙されてたとしても……今を生きられて幸せでした」

 

円環の使者達の体が光を放ちながら消えていく。

 

舞い落ちるのは光の羽だけであり、残されたマミの両膝は崩れてしまう。

 

「なんで…?どうしてまた…独りぼっちになるの…?お願い…行かないでぇぇぇぇ……ッッ!!」

 

泣き崩れてしまったマミは再び孤独の道へと進むことになるだろう。

 

その道こそが偽りのない過酷な現実であり、今までが優しい嘘の理想世界でしかなかったからだ。

 

それでもマミは優しい嘘の世界を欲する気持ちが強過ぎて泣き叫んでしまう。

 

人間とは善人も悪人も関係なく、どこまでも自分の都合の良さしか求めない偏見生物。

 

気持ち良く騙されていた方が楽しい、だから気持ちよく騙されたままでいたい。

 

悪魔が用いてきたトリックに気持ちよく騙されたい感情こそが偏見であり、感情的判断である。

 

人間はどこまでいったって感情と狭い経験でしか世の中を認識することが出来ない生き物だった。

 

「……我の一部が帰ってきたか。後は美樹さやかの記憶を取り戻すだけだ」

 

夜の電波塔の上で佇んでいる円環のコトワリ神はなぎさが自分の中に帰ってきたのを感じ取る。

 

残された美樹さやかにも追手が差し向けられており、もう直ぐ彼女も記憶を取り戻すだろう。

 

「美樹さやかを回収出来次第、悪魔に戦いを仕掛ける。汝らの善戦を期待しよう」

 

余りにも巨大な力を秘めた女神は不気味な笑みを浮かべながらもう直ぐ始まる戦いに赴くだろう。

 

その時こそ、円環の使者として百江なぎさは再び暁美ほむらと殺し合うことになるのだ。

 

かつてお菓子の魔女に成り果てた末に円環に導かれた少女、百江なぎさ。

 

なぎさは波打ち際を表す言葉であり、女性の名前につけられることも多いだろう。

 

海のような包容力、キラキラ光る波のように輝く子といった願いが込められているのだ。

 

しかし()()()()()()()()から頼りない印象もあり、水害という災いをイメージされることもある。

 

また日本人の死生観には海の向こう側には死者の国があり、不吉さも併せ持つ存在だ。

 

なぎさの名を与えられた少女はキラキラと光り輝き、人々に喜びを与えたかもしれない。

 

しかし波は返るものであり、儚い一瞬の現象に過ぎないだろう。

 

波の彼方にある死者の国ともいえる円環のコトワリへと帰った少女は自分の名前を体現する。

 

波打ち際のなぎさは儚く消える定めを負った魔法少女として、在るべき居場所に帰っていった。

 




まどかを引っこ抜かれた円環のコトワリが無機質で残酷であればあるほど、悪魔ほむらの株が持ち上がると考えながら描きました。
なぎさちゃんの親はマギレコで描かれたのに、ほむらちゃんの両親はいつになっても描かれないですよね(汗)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。