人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
あれはまどか達が神浜で暮らす尚紀の家に泊まり込んでいた時期の最後の夜。
夜中に目を覚ましたまどかと話し合った尚紀は彼女を監視していたほむらを地下に呼ぶ。
自分が寝ていたソファーに腰かけた後、一人掛けソファーに座ったほむらに語り掛けてくる。
「俺は神浜に訪れたまどかを見てきた。その上で…あの子の内面は極めて危険だと判断したんだ」
「それは…自分よりも全体を優先してしまう、あの子の無鉄砲なまでの優しさだと言いたいの?」
「お前も同じ部分を危険視していたようだな?だからこそ俺が生きたボルテクス時代を語りたい」
「貴方が悪魔として放り出されたかつての世界の話が…今のまどかと繋がる部分があるの?」
人修羅としてボルテクス時代を生きた尚紀が語るのはボルテクスで生まれたマネカタ達のことだ。
とくにマネカタを導こうとしたリーダーであったフトミミという人物について語ってくれる。
「カブキチョウで俺が助けたフトミミは予知能力を生かして他のマネカタ達を救おうとしたんだ」
フトミミと呼ばれたマネカタは我々もまたボルテクス界で救われるべき存在だと皆に説いた。
悪魔達に搾取されずマネカタ達で独立し、コトワリを啓いて自分達の世界を築くと皆を喜ばせた。
誰もが彼のことを賞賛して彼の理想の救済に沿うように文句も言わずに努力し続ける。
しかしフトミミもまたマネカタであり、死んだ人間の強い感情が宿った土くれ人間。
東京受胎に巻き込まれて死んだフトミミの生前とは、人々を救済するような人物ではなかった。
「アマラ深界で俺は本当のフトミミと出会った。思念体姿のあいつの正体は…冷酷な殺人鬼さ」
子供を殺しても何とも思わない冷酷な殺人鬼として生きた少年こそがフトミミの正体。
そんな人物がどうして人々を救済しようとしたのか理解に苦しむ表情をほむらは浮かべてしまう。
「フトミミは殺人鬼としてしか生きれなかったが…本当のあいつは誰かから必要とされたかった」
その強い欲望を抱えたまま東京受胎で死んだ少年の感情がフトミミというマネカタを生む。
彼は生前の欲望を果たすため、ボルテクス界で抑圧され続けたマネカタ達を救おうとしたようだ。
「俺はフトミミを尊敬して彼を助けてきた…だけど、政治の歴史を勉強してようやく気が付いた」
「何に気が付いたのよ…?」
「フトミミがやろうとしていた事はあまりにも恐ろしい扇動だ。人々を操りたかっただけなのさ」
冷酷な殺人鬼として生前を生きたフトミミは学のありそうな少年姿だったと人修羅は覚えている。
だからこそ彼は生前の知識を生かし、自分の欲望を叶えるために人々を操ろうとした。
道徳こそが人々の生きるべき道だとして皆に説き、助け合いこそが我々の在るべき姿だとする。
彼は崇高な人格者なのだとマネカタ達は勝手に賞賛し、彼の理想に沿うように在ろうとしていく。
気が付けばマネカタ達はフトミミの理想を守る尖兵のようになっていたと人修羅は語るのだ。
「フトミミがやったのはマネカタ達から個を喪失させること。全体主義を刷り込みやがったんだ」
「道徳という全体主義を刷り込まれたマネカタ達は…どうなってしまったの?」
「…俺の親友だった千晶に虐殺された。逃げ出せば良かったのにフトミミの理想に従って死んだ」
個を喪失させる全体主義に汚染されてしまった者達がどうなるのかをほむらは知ることになる。
政治的扇動の恐ろしさに震え上がっている彼女のためにこそ、今の人修羅は教えてくれるのだ。
「千晶を救えなかった俺は失意に暮れてアサクサの街を歩いていると…思念体が語り掛けてきた」
フトミミの理想の街として再建されていたアサクサにおいて、とある思念体が語り掛けてくる。
この思念体は虐殺されていくマネカタ達を目撃した者としてこんな言葉を人修羅に送るのだ。
――皆の理想の世界なんてフトミミが理想とする世界だったのに。
――それに踊らされたマネカタは自滅した。
――ムスビじゃないが
「その時の俺は語り掛けてきた奴の言葉なんて考えなかったが…今の俺だからこそ本質が分かる」
個が喪失した助け合い社会にされたらそれに異を唱える者は悪にされ、制裁が叫ばれる。
権威ある専門家のように立派な人物の言葉が間違っているはずがないと悪を排除しようとする。
全体が優先されれば、おかしい!どうして?と発言しただけで白い目で見られて孤立していく。
悪にされた人々は逆らう余力がなくなり、周りに流されていくだけの付和雷同に成り果てるのだ。
「その場の勢いで物事を決めてしまう愚民を操るフトミミの手口こそが…リベラル全体主義だ」
「リベラル全体主義……?」
「戦前の秘密警察のような物理的な強制力がなくても人々を全体主義に流し込む扇動手口なんだ」
「それによって…どんな弊害が巻き起こっていくの?」
「自分と違う意見を言う者を許さない社会状態にされる。この手口の恐ろしさが…分かるか?」
それを問われた時、赤い眼鏡をかけていた魔法少女時代の頃を思い出す。
キュウベぇの嘘を叫び続けてもマミ達はほむらに対して冷たい態度を向けてきた過去があった。
皆の和を乱す者、頭のおかしい陰謀論者の如く馬鹿にされ、悪者にされる経験を積んできたのだ。
「ええ……分かるわ。私の言葉は誰にも届かなかった…邪険に扱われて邪魔者扱いされてきたわ」
「疑って調べた上で発言している者でさえ全体圧力で潰される…これがリベラル全体主義なんだ」
「自分達の安全を守りたい一心で異なる考え方で判断した者を悪にする…なんて恐ろしい状況よ」
「管理された異常精神を操り社会正義という大きな嘘で騙す。これがフトミミの手口だったんだ」
「インキュベーターも魔女の脅威と社会正義を会話の中で強調してきた…あれは扇動だったのね」
「お前達は辛い経験を積んできた魔法少女だったな…辛い記憶を思い出させてしまってすまない」
顔を俯けたまま震えている彼女から視線を逸らし、遠い眼差しをしながら壁に視線を向けていく。
善人を演じたが中身は独裁者でしかなかったフトミミを思い出す程に自分と重なってしまう。
「魔法少女の虐殺者として生きた頃や、人権宣言を叫んだ頃の俺の姿はな……フトミミなんだよ」
彼もまた独裁者として魔法少女達に道徳主義を植え付けて全体主義者に落とし込もうとした。
その在り方はフトミミと同じであり、正義の殺人鬼としての狂気まで人修羅は備えている。
そんな自分の姿はフトミミの生き写しのようにも思えてくると人修羅は語ってくれたのだ。
「俺の中身はフトミミそのものだ…だからこそ殺人鬼としての奴は本当の気持ちを伝えてくれた」
「フトミミは貴方の本性を見抜いていたというわけね…だからこそ真実を伝えてくれたのよ」
「自分の過ちを俺に経験させたくなかったのだと信じたい。だからこそ、お前にも伝えたいんだ」
「まどか達を止める日が来た時のために…道徳や全体主義の恐ろしさを私に伝えてくれるのね?」
「俺を含めて皆が失敗の経験を積まなければ学べないが…
「ありがとう…尚紀。貴方達が残してくれた歴史こそがまどか達を救う…そのために学びたいわ」
「フッ…今夜は遅くまで語り合う事になりそうだな?帰りの電車の中で居眠りでもするといいさ」
「フフッ♪貴方とはもっと早く出会いたかったわ。もし出会えていれば…私はきっと救われてた」
社会の事を考えろと周りに同調を強いる連中ほど、自分達の都合の良さしか考えていない。
そんな者達でパワーバランスを作られたら誰もが社会正義の中身など調べなくなってしまう。
かつての世界のマネカタ達だけでなく、魔法少女達もまたそれをなぞろうとしていく。
人間は見たいものしか見ないし、拾わないし、信じない。
そんな連中を止めるためにこそ、言論の自由というものが生み出されたのであった。
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封印されていた記憶がついに破られてしまった事により、まどかは本当の自分を思い出す。
ほむらの家にまで避難させられたがほむらを追うようにして商業区を目指していく。
本当の自分を思い出せた事により円環のコトワリとして力を取り戻しつつあるようだ。
それよりも彼女にとって恐ろしいのはもう一人の自分自身であるアラディアが表に出たこと。
一心同体であったまどかだからこそ、アラディアの恐ろしさは誰よりも知っているのだ。
「お願い…間に合って!アラディアは本当に恐ろしい神なの……私だけど…私じゃないの!!」
走りながら淡いピンク色の光を全身から放ち、魔法少女として生きた頃の姿となる。
もう一人の自分の力が高まったことでアラディアの口元には不気味な笑みが浮かんでいく。
「封印されてきた鹿目まどかの力が我と繋がっていく。我との同化現象はもう抑えられんぞ」
まどかとコネクトするようにしてアラディアもまた全身から魔力が噴き上がっていく。
夜空の上で高みの見物をしてから回収するつもりであった彼女だが、悪魔の戦場に飛んでいく。
自分を引き裂いた悪魔の目の前でまどかと再び融合してやろうという意趣返しを狙うのだ。
その頃、商業区と隣接した国際博覧会跡地では杏子とマミが円環の軍勢を相手に戦っている。
整備された博覧会跡地には巨大な額縁の形をした建造物が見える中、死闘が繰り広げられていく。
「「ハァァァァァァーーーーッッ!!!」」
巨大な額縁の形をした建造物の下では杏子とガンヒルトがあまりにも早い剣戟を繰り返す。
ガンヒルトが操る巨大な斧の質量攻撃をまともに受ければ両断されるため斬撃を受け流し続ける。
それでも全身切り傷塗れであり、重い一撃一撃を受け流してきた両手にも痺れが走っていく。
両手斧サイズもある重い斧を二刀流で振り回す者の姿はまるで北欧神話の巨人族のようだった。
「流石はヴァイキング魔法少女だ!北欧神話の霜の巨人、ヨトゥン共を思わせる強さだぜ!!」
「現代のひ弱な魔法少女にしてはお前も大した実力よ!私を相手にここまで戦えるのだから!!」
「毎日戦場だったヴァイキングと比べられるのはキツイけど、あたし達だって戦ってきたんだ!」
「お前も攻め込んでこい!!小さなヨトゥンと恐れられた私に一太刀浴びせてみせなさいよ!!」
「だったら、ご期待に沿えないとなぁ!!」
竜巻の如き剣戟の中で一歩踏み込み、両刃のパルチザンの形に似た魔法槍を用いて斬撃を放つ。
前足を引いたガンヒルトは一回転しながら杏子の刃を弾き、なおも苛烈な二刀流を操る。
激しい剣舞を繰り返すしかないのは杏子が完全包囲されているため逃げ出す隙間もない証拠。
彼女達の周りは円環に存在する数々のヴァイキング魔法少女達で固められている状況なのだ。
それでも生粋の戦士である彼女達でさえガンヒルトの加勢に踏み込む度胸を示せない。
「なんて戦いなのよ…あの2人の戦いに踏み込んだら…私達までミンチにされかねない…」
戦々恐々している者達の横では北欧神話のヴァルキリー姿に似た魔法少女のオルガもいる。
彼女の心はほむらの叫びによって迷いが植え付けられており、加勢に加わることが出来ないのだ。
「あたしは……あたしの夢をガンヒルトに語ってきたせいで…あの子を悲惨な死に追いやった…」
円環の魔法少女達の王女様ともいえる鹿目まどかをガンヒルトと同じ生贄にしようとしている。
そんな風に今の自分を客観視出来たオルガであったが、他の者達はそう考えないだろう。
「何やってるのよ!近づくことが出来ないなら弓で射ればいいだけじゃない!!」
「あっ……そうだった!」
ヴァイキング魔法少女達はガンヒルトを援護するために隊列を組み、魔法の弓を生み出す。
杏子は両手持ちの槍を振るう者であり矢の雨を防ぐ盾は持ち合わせてはいないからこそ通用する。
そう判断した者達から送られる念話を合図にしてガンヒルトが大きく後方に跳躍するのだ。
「まずい!!?」
ヴァイキング魔法少女達の一斉射撃が杏子に向けて放たれようとした時、援軍が現れる。
<<キャァァァァーーーーッッ!!?>>
上空から降り注いできたのは巴マミが放つ無限の魔弾であり、急所を外した一撃を浴びせられる。
「援護にきたわよ!!」
一回転しながら着地したマミであるが、魔法少女衣装は無数に切り裂かれ血を大量に流している。
戦国時代の魔法少女の軍勢を相手に独りで戦っていたが杏子のために強行突破してきたようだ。
息を切らせたマミに走り寄ってきた杏子は背中を向け合いながら武器を同時に構える。
「へへ…圧倒的な状況不利だな。黙示録の騎士が率いていた軍勢さえも上回る数が相手なんだ…」
「それでもやるしかないわ…正義に流される恐ろしさを知った私達だからこそ…負けられないの」
「その通りだな。魔法少女コンビ復活の相手としては厳し過ぎるけど…やってやるさぁ!!」
「暁美さんも戦ってくれている…だからこそ、私達も彼女の背中に続くわよ!!」
ヴァイキング魔法少女軍勢と合流するようにしてやってくるのは水名露と千鶴が率いる侍の軍勢。
侍大将を務める水名露が刀をマミ達に向け、侍魔法少女達に号令をかける。
「我らが大儀を妨げる逆賊共を討ち果たす!これは正義の戦いであるぞ!!」
<<我らが武勇を見せる時!!逆賊共の首級をアラディア様に献上する!!>>
戦国武将の娘として侍であろうとし続けるその姿は父であった水名正綱と重なる程のカリスマ性。
露に鼓舞された侍魔法少女達と共に武器を構えていくのは傷つきながらも戦士の誇りを貫く者達。
「私達もサムライに続くわよ!!ヴァイキングとしての誇りをみせろ!!」
<<ゲルマン民族の誇りを示す!!敵の首を跳ね落とし!!アラディア様に乾杯する!!>>
銃弾を体に浴びようが痛覚麻痺でびくともしない狂戦士達が魔法の片手斧で円盾を叩いていく。
左腕の円盾を叩く音と共に掛け声を上げ続ける姿こそヴァイキング・チャントの光景であろう。
「盾の姉妹よ!我らはヴァルハラに導かれた名誉ある戦士!その魂はラグナロクのためにある!」
<<ラグナロクのために我らは戦う!!悪魔との戦争こそが我らのラグナロクだ!!>>
ヴァイキングもまた侍と同じく全体主義民族であり、全体の同調圧力で正義が決められてしまう。
全体を疑う者は盾の兄弟姉妹を裏切る者であり、家族ごとリンチが施されて破滅するしかない。
全体主義こそが自分達の在り方であり正義なのだと民族アイデンティティを叫ぶ光景が続くのだ。
「私達に全体圧力をぶつけてくる人達の姿こそが……
「個が消滅しちまえばな……自分達が何をやってるのか客観視することなんて不可能なんだよ」
「それでも私は叫び続けるわ。私は皆と一緒に生きたい…自分の我儘を信じて戦い抜いてみせる」
「あたしもさやかと一緒に生きたい。だからこそ…こいつらに負けるわけにはいかねーのさ!」
個人の尊厳や人権という概念が存在しなかった過去の魔法少女達は人間の尊厳など考えない。
円環の全体利益こそが全てであり、円環のコトワリ神に逆らう者達は全体利益の敵だと叫ぶ。
そんな者達に個人の尊厳を叫ぼうとも殆ど通じるはずがないだろう。
それでもごく僅かな者達には届いてくれるかもしれない。
<<かかれーーーーーッッ!!!>>
水名露とガンヒルトの叫びを合図にして侍魔法少女軍団とヴァイキング魔法少女軍団が迫りくる。
大勢がマミと杏子に襲い掛かりに行くのだが、オルガだけは顔を俯けたまま立ち尽くしている。
民族としての誇りに身を委ねたい気持ちと悪魔ほむらが叫んだ人間の尊厳との間で揺れ動く。
そんな彼女の肩に手を置いてくれた人物に気が付き顔を上げてくれたようだ。
「あんたは…エボニーさん?それにヘルカちゃんにトヨちゃんにアマリュリスちゃん…?」
オルガと同じ気持ちでいてくれたのはさやかの前に現れたエボニーと他の円環魔法少女達。
彼女達もまた悪魔ほむらの叫びが胸に響いたのか立ち止まってくれているようだ。
「私は幼い頃からエジプト王朝に絶対服従の人生を生きてきました。全体主義民族の者なんです」
「なら…どうしてガンヒルト達に続いていかないのさ?アラディア様の意思を疑うわけ?」
「それでも…私は本当にファラオに尽くすだけが全てなのかと疑ってきた者。考える者なんです」
「神や国といった全体に奉仕する正義だけが全てなのかを考える者だったの……?」
「考えることをやめてはいけません。それに気が付かせてくれたのが…悪魔の言葉でした」
エボニーの言葉で自分の迷いに気が付けたのかオルガの目が見開いていく。
彼女と同じ意思を示すモンゴル魔法少女と弥生時代の魔法少女とローマ魔法少女も頷いてくれる。
「ガンヒルトさん達を止めなければならない…ですが、それは女神様への裏切り行為となる…」
「あたし達だって無事じゃすまないよ…?かなえさん達のように裏切り者扱いされちゃう…」
「それでもやるんです。誰かが前に踏み出さなければ…この流れを止めることなんて出来ない」
覚悟を問われた時、自分の夢の犠牲にしてしまったガンヒルトの事が思い浮かぶ。
アラディアに忠誠を誓い続けても悪魔が守り抜こうとしているまどかを全体の生贄にしてしまう。
それはガンヒルトの末路と同じように感じられた彼女はランスを握り締める力が増していく。
「うん……あたしは覚悟が出来たよ。たとえ裏切り者扱いされたって…過ちは繰り返したくない」
全体を優先する者達の中にも全体利益、全体正義を疑う者達もごく僅かだがいてくれる。
そんな少数派もまた悪魔ほむらと同じく異端視され、敵視される全体圧力が向けられるだろう。
悪魔の如く忌み嫌われ、罵倒されたり嘲笑われようとも譲れない意思を多数派に示し続ける。
それこそがかつて美雨が語ったことがある
人間独自の在り方を認め、事物存在と同視してしまう自己疎外を自覚し、他人の自由を認める。
大勢が誰かを変人扱いして揶揄と嘲笑を与えていても私はその人が正しいと言える覚悟を示す。
全体を批判する自由を示すためにこそ悪者にされ続けたほむらのために戦ってくれるのであった。
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「悪魔なんかに……負けてたまるかぁぁぁぁーーーーッッ!!」
博覧会跡地にそびえ立つ巨大額縁の形をした建造物の上ではほむらとさやかが激戦を繰り広げる。
巨大額縁の上層部は蛇のように楽譜の道が絡みつき、なぎさの足場として利用されていたのだ。
「私を悪者にしたいのは…自分達の正しさの担保にしたいだけでしょ!!美樹さやか!!」
次々と投的されるさやかの剣に対してブルパップ方式のポンプアクション散弾銃で反撃を行う。
バックショットを放つKSGが投的された剣を弾き落とし、手動でバードショットに切り替える。
二種類の弾を使い分けれる散弾銃が次に狙うのは横から放たれるなぎさの攻撃。
モベホーンというラッパから放たれるシャボン玉攻撃に細かい散弾がぶつかり合う。
撃ち落としたとしても強烈な衝撃波が発生して巨大額縁建造物にひび割れが生じていくのだ。
「尚紀と同じ手口を貴女は使ってる!善悪二元論を用いて問題を相手に擦り付けようとしてる!」
「黙れ!!まどかを引き裂いた悪魔こそが……悪者こそが全ての悪の元凶なんだぁ!!」
「私の劣等性を強調すれば自分の指摘された問題を相手にすり替えられる!卑怯者の手口よ!!」
「悪魔の惑わしなんて…あたしにはもう通用しない!!正義の剣を受けてみろぉ!!」
「貴女こそ…卑怯者でないというのなら!!私の追及を受け止めてみせなさい!!」
接近戦に弱い悪魔に踏み込むため、クラウチングスタートの構えから一気に跳躍斬りを仕掛ける。
高速で迫りくるさやかに狙いをつけるよりも先にさやかの逆袈裟斬りが散弾銃を切り落とす。
続く左薙ぎに対してほむらは踏み込み、魔法盾を用いてパリィを狙う。
腕を盾で弾かれた事で隙が生まれたさやかに対して、魔法盾から素早くリボルバー拳銃を抜く。
小さなショットシェルを放てるトーラス・ジャッジが狙いをつけるがさやかは一気に跳躍。
ほむらの頭を片手で掴み、背後に向けて捻り込みを行いながら着地する。
背中をとられたほむらが振り向くよりも先に袈裟斬りの一撃が背中に浴びせられるのだ。
「くっ!!」
長髪の一部が舞い落ち、前のめりに倒れそうになる彼女の背中にはおびただしい血が流れ落ちる。
それでも両断されなかったのは反応が早かったために回避が間に合ったのだろう。
振り向きざまに射撃しようとするが素早く振り抜かれた剣によって銃身が両断されてしまう。
「がはっ!!」
そのまま踏み込んできたさやかはナックルガード付きの剣を握り込んだ状態で顔面パンチを放つ。
大きく殴り飛ばされたほむらの体は巨大額縁のガラス橋の端まで転がっていったようだ。
「悪魔の力を使わないというよりは使えないって状況のようだね?このチャンス…逃さないよ」
円環のさやかの力は生前のさやかを遥かに凌駕しているとほむらは痛感しているはずだ。
それでも感情的で浅慮過ぎる思考までは変わらないため、立ち上がっていくほむらは叫ぶのだ。
「二元論に支配された貴女の理屈には根拠がないの!一つの正しさに縛られているだけなのよ!」
「根拠ならあるよ!!まどかはあたし達を救済したいから円環のコトワリになったんだ!!」
「本当にそう思うわけ!?あの子だってね…なりたくて神様になったわけじゃないの!!」
優しい両親の元で生まれ金銭的にも困らず、裕福な家の子として幸福にまどかは生きてこれた。
しかし魔法少女の真実を知り、自分以外に救うことが出来ないと知った時に彼女は決断を下す。
幸福に生きられた個人の幸せよりも全体に奉仕する正義の味方として人間の人生を終わらせる。
だが本当にそれが平凡な人間として生きた鹿目まどかの望みであったのだろうか?
「私はまどかを見てきた!家族を愛し…友達を愛し…人生を愛する人間のまどかを見てきた!!」
まどかという人物を知り尽くしている彼女だからこそ、さやかの根拠は論証に値しないと分かる。
「あの子だって人生を生きたかったの!何にだってなれた人生を謳歌したかったのよ!!」
その気持ちならまどかの幼馴染として生きてきた美樹さやかならば分かるはずだ。
彼女もまた幼い頃からまどかと共に生きてきた人物であり、まどかを大事にする者の1人。
そんな自分がまどかの人生を殺そうとしている。
そう突きつけられているのが恐ろしくなり、怒りの感情を爆発させてくるのだ。
「転校生のお前なんかがまどかを語るな!!あたしの方がまどかの事を誰よりも知ってる!!」
自分に目を向けられない連中はいつだって問題を相手に擦り付け、他責の安心感に浸ろうとする。
自分が見たい都合の良さだけに意識を集中させ、都合の悪さは何処までも有耶無耶にしていく。
気持ちよく騙されていたい手品思考を楽しんでいるだけでしかない愚かな人間がここにあるのだ。
「まどかは人助けこそが自分の誇りだって小さい頃から言ってた!それがあの子の望みなの!」
「他人を助けられたって…あの子はあの子を救えていない!それでは搾取されてるだけよ!!」
「あんたの被害妄想がまどかの気持ちを踏みにじる!!まどかは全体に尽くしたい子なの!!」
「
「だまれぇぇぇぇーーーーッッ!!!」
自分の劣等性は絶対に許さないエゴを爆発させたさやかがついに魔女の力を解放する。
天に向けて剣をかざし、自分の本体である巨大な人魚の魔女を召喚して攻撃を行うのだ。
最大火力の一撃として放つ両手持ちの巨大な剣が振り落とされていく。
ほむらが立つ巨大額縁建造物の片方を全壊させる程の一撃が迫る中、ほむらが魔法盾を掲げる。
刹那、巨大な刃が頭に振り落とされるよりも早く世界の時間が停止したようだ。
「傷を治す魔力を時間停止のために残してくれてありがとう…クロノス。これで決めてみせる」
最後の時間停止を行使した彼女が走りながら跳躍する。
時が動き出し、振り落とされた一撃によって国際博覧会跡地の象徴が崩れ落ちていく。
片方が崩れたことで支えを失ったガラス橋もまた崩れていき、さやかは後方に大きく跳躍する。
150メートルもある巨大な建造物の半分が倒壊したことによって地上にまで被害をもたらす。
倒壊を免れた足場から地上を見下ろし、円環の軍勢に被害が出ていないか確認している時だった。
<<他人の心配ばかりしてないで、
「えっ!?」
声がした方に振り向けば楽譜の道の上で悲鳴を上げるなぎさの姿がいる。
「アバババババババーーーーッッ!!?」
スタンガンの一種であるテーザー銃の一撃がなぎさの首裏に刺さっており体が感電している。
テーザー銃を投げ捨てたほむらはぐったりした彼女の体を右手で掴み、左手を持ち上げていく。
手に持たれていたのは無線式の起爆装置であり、それを見たさやかの目が大きく見開く。
数多の世界の記憶をもつ彼女だからこそ、自分の魔女がどのように倒されたか知っているのだ。
「ま……まずい!!!」
上空に浮かぶ本体に視線を向ければ上半身鎧のいたるところに点滅しているものが見える。
赤く点滅していたのはC4爆弾の数々であり、張り付けられた爆弾を一斉に爆発させるのだ。
「何でも前提にする悪癖と…問題を相手にすり替える悪癖を治しなさい、美樹さやか」
起爆装置のボタンが押された瞬間、人魚の魔女が大爆発を起こす。
燃え上がる人魚の魔女の断末魔が叫ばれながら地上に向けて落下していく。
「さ…さやか!!?」
ヴァイキング魔法少女と戦っていた杏子が叫ぶが、地上に落ちた人魚の魔女は原型を保っている。
爆弾の威力が調整されていたことで完全破壊される程の被害規模にはならなかったようだ。
「あ…あんた……あたしに手心を加えてきたっていうの!?」
楽譜の道から跳躍して着地したほむらが歩いてきて掴んだままのなぎさを持ち上げてくる。
「私は貴女と殺し合いがしたかったわけじゃない、論戦がしたかっただけなのよ」
「論戦……?」
「相手を殺すのは話しても分かり合えない時だけよ。貴女だって話せば分かる子だと思ったの」
「ほむら……本気のあたしに殺される覚悟で論戦だけを挑んできたっていうわけなの…?」
「そうよ。私はね…貴女と過ごせた中学二年生時代が好きよ。中学三年だって一緒に生きたいの」
友達のように過ごせた日々が愛しいからこそ、友達の命を終わらせたくないと言ってくれる。
そんな友達を悪魔として悪者扱いしていたのかとさやかは酷く後悔してしまう。
グルグル目のままぐったりしているなぎさを預けるようにしてさやかに渡してくれたようだ。
「貴女との戦いはここまでにしましょう。私の最大の敵となる存在は既に…空の上にいるのよ」
上空を見上げればワルプルギスの夜など比べ物にならない程の脅威が君臨している。
全身から冷や汗が吹き出す程のプレッシャーを与えてくる恐ろしい女神が重い口を開いていく。
「…貴様らを試した我が愚かであった。それに地上にいる者達の中にも裏切り者が混じっている」
ミアズマで覆われた霧の夜空に君臨する神こそ、かつてまどかを剥ぎ取られた円環のコトワリ神。
まどかと同じ顔を持ち、まどかと同じ声で喋りながらも恐ろしいまでの冷たさを感じさせてくる。
「まぁいい、貴様らの不手際は後で追及する。それよりも……」
ほむら達が立つ建築物に近づくように降下してくるアラディアが剥き出しの殺意を放つ。
視線を逸らした瞬間に命を終わらせられる程のプレッシャーを放つ存在が悪魔に語り掛ける。
その言葉はまさに宣戦布告の意思が宿っている恐ろしさであった。
「よくも我を引き裂いてくれたな…悪魔め。貴様の体も細切れになるまで引き裂いてくれよう」
「…やってみなさい。私は後悔などしていない…お前にまどかは渡さない……渡すものですか」
「宇宙の秩序である我に弓引く悪魔よ、楽には殺さん。我の手で嬲り殺しにしてくれる」
白き心をもつ鹿目まどかと黒き心をもつ円環のコトワリ神。
同じ存在が同時にいるこの舞台こそ、白鳥の湖を構成する舞台役者といえるだろう。
何も知らない白鳥はついに自分を思い出し、本当の姿に戻ろうとしている。
白鳥達に呪いを与えた悪魔役の人物はこの緊急事態をどうするのであろうか?
その答えを示すためにこそ、悪魔ほむらは命を懸けた戦いを始めていくことになる。
白鳥の人生を救いたい暁美ほむらの姿はあまりにも悪魔に似つかわしくないように映るだろう。
その在り様はまるで白鳥の王女様に誓った愛を守り抜きたい王子様のようにも思えるのであった。
ヴァイキング魔法少女を描いているとゲームのスカイリムが頭に浮かぶし、侍魔法少女と組ませたらゲームのフォーオナーが浮かびました。
侍とヴァイキングが揃うならフランスナイトな魔法少女も登場させなければ!(使命感)