人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
霧で満たされた湖に映る都市のようにされた見滝原市。
街全体が濃霧で覆われた光景の中で睨み合うのは黒い白鳥役を務める者と悪魔役を務める者。
宇宙を飲み込む程の神霊が降臨したことで地上の戦いが停戦状態となる程にまで場が凍り付く。
「あれが……死んだ魔法少女達の前に現れるという……円環のコトワリなの…?」
「なんて恐ろしさだよ……あんな死神みたいな存在があたし達魔法少女を救済するってのか…?」
戦慄したまま体が震えぬくマミと杏子は本能で悟っている。
あの存在にだけは逆らってはならない。
あの存在に歯向かえば最後、魂までも残らず一瞬で消されてしまうかもしれないのだと。
それは他の円環魔法少女達も理解しており、マミと杏子に味方をした者達も体が震えている。
「あ……あぁ……私達……終わりなの……?」
夏目かことよく似た緑髪の少女であるモンゴル魔法少女のヘルカは恐怖で言葉さえ出せない。
「あ……あわわ……われはまちがったことなんて……してない……のだ……」
弥生時代の女王卑弥呼と共にあった天女のような見た目のトヨも震えて言葉が上手く出せない。
「わたし達……ここまでなんですか……?」
英数字が描かれた大きなサイコロを武器とするアマリュリスの顔にも絶望が浮かぶ。
それはエボニーやオルガも同じであり、傷ついた姿のまま天空を見上げるばかり。
額縁建造物ビルの上には天魔の如き主神が自分達に向けた怒りを浮かべておられるからだ。
それをもっとも強く浴びせられているのが女神に見下ろされながら震えている美樹さやかだった。
「あ……あたしは……その……」
悪魔ほむらの首は自分が討ち取ると女神様に大口を叩いておきながら悪魔に懐柔されている。
自分達の主神からそう見られていると恐怖を感じているさやかもまた言葉が上手く出てこない。
悪魔の説得に応じた時点で全ての言葉が言い訳でしかないため、死の恐怖を感じているのだ。
「…百江なぎさを連れて逃げなさい。こいつの狙いは私よ…貴女が襲われる必要なんてないのよ」
「に…逃げられないよ…!だって…だって…円環のコトワリはあたし達が帰る場所なんだもん!」
「一つの正しさに縛られる必要はない。貴女がこの世界を愛してるなら…この世界で生きなさい」
「ほ…ほむら……」
「杏子だって…貴女と一緒に生きたいのよ。帰る場所は円環ではない…杏子と共に生きた家よ」
斬り付けた背中からは未だに血が流れ落ち、顔にも痣を浮かべながらさやかの心配をしてくれる。
そんなほむらの優しさが嬉し過ぎて目にいっぱいの涙を浮かべてしまう。
「貴様らには落胆させられた。懲罰程度で済むと思うなよ…この裏切り者めが」
怒りの感情がこもった恐ろしい言葉を吐き捨ててくる神の意識を逸らすため、悪魔が語り掛ける。
「アラディア…貴女のことは人修羅として生きる男から聞かされている。自由を語った神だとね」
人修羅という名を聞かされたことでアラディアの金色の目が遠い眼差しを浮かべていく。
「人修羅か…あの者もこの世界に流れ着いていたな。かつてと同じく…自由という名の愚か者だ」
「自由という概念を人修羅に伝えた神だというなら…皆の自由を尊重しなさい」
「自由とは奈落を見る影なり、死のかげの谷なり。行く先には墓の勝利が待ち受けるものだ」
「自由を語っておきながら…自由を求めた者達を殺そうというの!?そんなの…理不尽よ!!」
「自由とは責任の道。自由を行使する者はその責任を背負わされて墓場に投げ込まれるべきだ」
「それでも貴女…魔女達の救い神なの!?歴史で虐げられた異教徒達の救い神だというの!?」
魔女狩り被害を受け続けてきた魔女達が希望を望んで生み出した救い神こそがアラディア神。
たとえ夢想から生み出された虚構の神であろうとも、魔女達の希望で在り続けた概念存在。
そんなアラディアが希望を求めた魔女と同じ存在に至るだろう魔法少女達の自由を踏み躙る。
あまりにも矛盾した行為をやろうとしているアラディアに対して悪魔ほむらは罵倒するのだ。
「自らを由とする我儘な道…それが自由。故に人修羅も鹿目まどかもその責任を背負ってきた」
自らを由とする自由という概念を勘違いしている愚か者のためにアラディアは語ってくれる。
「自由という概念は因果であり、選択が原因を生み、滅びの結果がついてくる。自然なことだ」
人修羅はボルテクス界で誰も守れず、全てを憎んで完全なる悪魔になる道を選んだ者。
故に責任として唯一神から永遠に呪われる悪魔概念になる道を進むことになった存在。
鹿目まどかも誰も守れず、自分を変えたかったから全ての魔法少女の末路を救う願いをした者。
故に責任として魔法少女の末路である魔女を救い続ける神になる道を進むことになった存在。
どちらも自然な末路でしかないとアラディアは断言してくるのだ。
「我は自然崇拝を生業とした魔女達が生み出した神の概念。故に我は自然な在り様を望む者だ」
「貴女は魔女の救い神でしょ!?それじゃあ…魔女達は希望を望んだのに見捨てられてるわ!」
「我も鹿目まどかも希望の象徴であり、
かつて魔女が存在した世界において、鹿目まどかは自分の願いをこう表現した。
――全ての魔女を、生まれる前に消し去りたい。
――全ての宇宙、過去と未来の全ての魔女をこの手で。
「鹿目まどかの願いの内容には魔女達の人生を救うという内容は無い。だからこそ魔女は死ぬ」
「そんな……ことって……」
「鹿目まどかは希望を望んだことで魔女の希望である我を守護とした。我らの望みは同じだ」
「まどかはそんな人間なんかじゃない!!あの子は…誰よりも人々を愛してくれる者なのよ!!」
「ならば何故、鹿目まどかは魔女達の人生も救いたいと願わなかった?」
「そ……それは……」
「自らを由として決断した者が…都合が悪くなれば選択を取り下げる?無責任極まりない傲慢だ」
客観的意見を述べてくるアラディアの言葉は事実だと悪魔ほむらは受け止めるしかない。
都合が悪くなれば問題を相手にすり替える善悪二元論を卑怯者の手口だと彼女は罵倒した者。
これもまた自分の理屈を見つめることの大切さを説いた者が背負わなければならない責任なのだ。
「自由の末路とは世界の在り様であり、秩序だ。我は宇宙の秩序を守る神として…自然を守ろう」
「自然を守るですって……?」
「この星は悪魔崇拝者になった金融マフィア共が支配している。奴らは自然を真逆にすり替える」
憎しみの感情が宿った金色の目に映るのは暁美ほむらの新しいカチューシャに刻まれたもの。
それは反キリスト主義である逆十字架であり悪魔学では世界を真逆に解釈しろという意味がある。
それを掲げる悪魔ほむらは悪魔崇拝を掲げるイルミナティを導く神に至る危険性が極めて大きい。
「貴様もまた大魔王ルシファーに惑わされた者…かつての人修羅と変わらない愚か者め!!」
まどかと同じ美しいピンク色の後ろ髪が怒りを表すようにしながら広がっていく。
淡いピンク色に輝く光の四枚翼も広がり、極大の魔力を噴き上げていき悪魔を滅ぼさんとする。
「我に導かれた強き魂達よ!!我らは悪魔と戦うために現世に召喚されたのだ!!」
主神様自らが円環の魔法少女達を鼓舞してくれていると感じた全体主義者達が歓声を上げていく。
「我らはこの星を蝕む悪魔共とその崇拝者に宣戦布告する!誰一人生かしておくつもりはない!」
<<我らのラグナロクはこここにあり!!この星の悪魔共と崇拝者共は全て滅ぼし尽くす!!>>
「先ずは目の前の悪魔から滅ぼす!!マスターテリオンに至る黙示録の獣の一匹を抹殺する!!」
<<大いなる冬を超え!!暴力と不義の時代となった終わりの世界こそ!!我らの戦場だ!!>>
光の羽が次々と地上に舞い落ちていき、そこから現れたのはさらなる魔法少女の軍勢である。
我らが国ともいえる円環のコトワリに逆らう裏切り者共に天罰を下す軍勢ともいえるだろう。
その軍勢を率いる円環の魔法少女こそ、救国の英雄と呼ばれしフランスの英雄なのだ。
「神を信じる者達よ!我らはアラディア様から信託を与えられた騎士団!我らの忠義を見せよ!」
<<宇宙の秩序を守りしは我らの神!!一つの信仰、一つの法、一人の王を我らは望む!!>>
この人物こそ神浜で暮らしている造魔であるタルトのオリジナルであるジャンヌ・ダルク。
フランス百年戦争を魔法少女として戦ってきたタルト本人であったようだ。
彼女が振るう円環の旗のもとに集うのは騎士団ともいえるだろう騎士の姿をした魔法少女達。
侍とヴァイキングに続きナイトの軍勢までも現れたことで杏子達は絶体絶命のピンチとなる。
「早く逃げなさい!!奴は私達を誰一人逃がさないつもりよ……早く逃げて!!」
鬼気迫る表情を浮かべながら叫ぶほむらの意思に突き動かされるようにしてさやかは走り出す。
アラディアの怒りに呼応するようにしながら霧の湖に映るような大都市の光景が変化していく。
美しく輝くベールのように見えたアラディアの結界が変化していき、魔女結界と化していくのだ。
様々なビルの屋上には円環の使い魔達が現れていき、大きな火刑道具が用意されていく。
処刑台には悪魔ほむらや美樹さやかや佐倉杏子達と似た人形が並べられ、火が点けられていく。
<<キャハハハハハハハハッッ!!アーーッハハハハハハハッッ!!>>
燃え上がる悪魔人形と裏切り者人形を見物しながら円環の使い魔達は歌って踊りながら笑い狂う。
まるで悪者の処刑を楽しむ光景にも見えるし、悪が成敗されるエンタメを楽しむ光景にも映る。
その光景はこれから始まる惨劇を象徴するようにも感じられるやもしれない。
そんな者達を高層ビルの屋上から見物している人物こそ、ムスビのコトワリを啓いた少年なのだ。
「へっ…
――これこそが我儘を言えない社会……個が消滅した人間社会の光景だったのさ。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「逃さん!!」
裏切り者達への怒りも根深いアラディアが両手を広げていく。
上空に浮かぶ彼女の周囲に広がっていくのは無数の円が繋がりあった魔法陣。
幾つもの宇宙を希望の糸で繋ぐ円環でありながら一つの思想、一つの正しさしかない形。
魔法陣の如き円環に覆われた者達は逃げる事が出来ずに術者のイデオロギーによって支配される。
そんな恐ろしさもまた込められている円環の魔法陣から放たれたのは複数の属性魔法。
「くっ!!?」
空から降り注ぐ極大の雷魔法に反応したほむらは傷ついた背中から侵食する黒き翼を解放する。
放たれたのは敵全体に特大威力の雷魔法を放つ『マハジオバリオン』の一撃。
それと同時にビルの周囲から噴き上がった地獄の業火まで駆け上ってくる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁーーーーッッ!!!」
額縁建造物ビルを一瞬で燃やし尽くす一撃となったのは『マハラギバリオン』である。
天と地の両方から迫った一撃を空に飛翔しながらほむらはどうにか避けている。
しかし叫び声が聞こえた方に振り向いた彼女の目が大きく見開き、悲痛な叫びを上げてしまう。
「美樹さやか!!?百江なぎさ!!?」
ほむらに促されたさやかはなぎさを抱えながらビルから跳躍して逃げようとした。
しかし裏切り者を許さない女神の天罰の如き火柱が彼女達の体を焼いたのである。
なぎさを抱えるようにしながら燃え落ちていくさやかの姿を見せられた彼女は怒りの形相と化す。
「よくも……よくもまどかの大切な幼馴染を傷つけたわね!?貴女の部下であった者なのに!!」
「裏切り者にかける慈悲など我には無い。あの者は鹿目まどかの友であって…我の友ではない」
「お前がまどかの半身だなんて私は信じたくなかった!!お前の存在は…死神そのものよ!!」
現代火器など通じる相手ではないため悪魔ほむらは左手に魔法の弓を生み出す。
残り少ない悪魔の魔力を最大限にしながら彼女は円環のコトワリ神と対決する意思を示す。
「我を遠ざけた結界行使によって魔力を消耗したようだな?砂粒程度の力で我に勝てるものか!」
アラディアもまた左手に魔法の杖を生み出す。
ヘブライの神官だったアロンの杖のように真っ直ぐ伸びた枝の柄の上には桜のような花が咲く。
今は魔法の杖の形にされているが本来の形は弓であることならほむらは知っている。
本気の力を解放する必要すらないのだと舐めてくる者に一矢報いるため、大空を駆け巡るのだ。
一方、業火で全身を焼かれたさやか達は地上に叩きつけられたまま身動きが取れていない。
「う……うぅ……」
純白のマントは焼かれ、体中が酷過ぎる火傷を負っているさやかであるがまだ息がある。
彼女は業火に焼かれる時、耐火性をもった純白のマントでなぎさを覆いながら焼かれてしまう。
そのため体が燃え尽きることだけは防げたようだ。
しかしそのささやかな抵抗も無意味でしかないのだと彼女の姿を見れば分かるだろう。
「さ……さやか!!?」
意識を取り戻したなぎさが気が付くと彼女のクッションになった者が倒れているのを見つける。
慌てて駆け寄るのだが、なぎさは青い表情を浮かべたままショックが大きい顔を浮かべてしまう。
「酷いのです……こんな姿にされちゃうなんて……あんまりなのです……」
虫の息のさやかの体全体は熱傷指数が80%を超えている。
おまけに150メートルもあるビルの屋上から飛び降りたまま受け身も取れていない。
魔力強化した魔法少女の肉体であっても全身の骨は砕け散り、臓器も破裂している。
いつ死んでもおかしくない姿になっていたのがなぎさの命を救った今のさやかの状態なのだ。
「に……逃げて……あたしはもう……ダメ……だから……」
右目の周囲だけは辛うじて火傷は逃れているが他の顔部分は焼け焦げた醜い顔を晒している。
焼けた人間の酷い異臭が立ち込める中、両膝をついたなぎさは懸命に回復魔法をかけていく。
「喋っちゃダメなのです!今にも死にそうなさやかを見捨てるなんて…出来ないのです!!」
「ゲホッ!ガハッ!早く逃げないと……裏切り者として……円環の仲間達に襲われるよ……」
「お断りなのです!なぎさを救ったさやかを焼いた奴を称える連中なんて仲間じゃねーのです!」
「なぎさ……」
さやかの無事だった右目に見えた光景とは、両目から大粒の涙をこぼし続けるなぎさの姿である。
「なぎさはお母さんに必要とされない子供なのです!だけど…だけどなぎさは必要とされたい!」
周りとの繋がりがなければ生きていけないのが牧場の羊と変わらない人間という群衆生物。
子供であるのなら猶更周りの支えが必要であり、だからこそ誰かから必要とされたいと願うのだ。
「マミやさやか達から必要とされたい!だから…だから…なぎさにさやかを救わせろなのです!」
なぎさの決意は固いようだが、ほむらに焼かれた人魚の魔女と自分の焼かれた体は動かせない。
そんな状態ではすぐそこまで迫ってきているヴァイキング魔法少女達を止められないのだ。
「まだ死んでいなかったのか!!この裏切り者共め!!」
「アラディア様の信託を裏切っておきながら生き恥を晒すより!華々しく殺してあげるわ!!」
丸盾を掲げながら走ってくるヴァイキング魔法少女達もまた円環の力を行使する。
彼女達が解き放ったのは自分のソウルジェムから生まれた魔女であり、狼の形をしている。
狼のマントを纏うガンヒルトの部下を務めるヴァイキング達の正体とは狼の魔女であったようだ。
巨大な狼の魔女達が倒れ込んださやかと回復魔法をかけ続けるなぎさの元へと迫りくる。
顔をさやかに向けたままであったなぎさであるが、狼に負けない獰猛な顔を振り向かせていく。
「うるせぇぇぇのですぅぅぅぅーーーッッ!!!」
ピエロ顔に隠されていた鋭いギザギザの歯を剥き出しにしながら百江なぎさが雄たけびを上げる。
雄たけびと共に口の中から飛び出してきたのは狂暴なお菓子の魔女の巨体。
「「ヒィィィィーーーーッッ!!?」」
鋭い牙を剥き出しにしながら狼の魔女達に喰らいつき、胴体を食いちぎりながら飲み込んでいく。
かつては巴マミの首を食いちぎって喰い殺した獰猛さは健在であったようだが分が悪過ぎる。
「うぐぅ!!?」
お菓子の魔女の巨体に目掛けて次々と魔法の矢が集中砲火されていく。
圧倒的物量を誇る軍勢が相手ではいくら強い魔女がいても一体だけではどうすることも出来ない。
体中に矢が突き刺さったお菓子の魔女は倒れたさやかを守るようにしてとぐろを巻いていく。
体を壁にするなぎさであるが、矢の雨は容赦なく降り注ぎ本体である魔女の命も限界が近い。
「バ…バカ…ッッ!!あたしなんかを守るために…あんたまで犠牲になるだなんて…!!」
「なぎさは…さやかを守りたい…親から必要とされないなぎさなんかを助けてくれたさやかを…」
命が尽きそうななぎさの姿であるが、それでもさやかを癒す回復魔法をかけ続けてくれる。
無事な右目からは涙が零れ落ち、自分を犠牲にしてでも仲間を守る彼女の姿がほむらと重なる。
「貧乏くじを引いてまであたし達を助けてくれたほむらを悪者になんて…するんじゃなかった…」
自業自得の末路で自分が滅びるのなら構わない。
それでもほむらから託されたなぎさの命までは巻き込みたくないとさやかは命を燃やしていく。
必死になって起き上がろうとした時、悪魔が命を懸けて守り抜こうとする者の叫びが聞こえる。
<<みんなやめて!!お願いだから……こんな戦いはやめて欲しいの!!!>>
「ま……まどか……?」
まどかの叫びが聞こえた後、なぎさは力尽きるようにして倒れ込む。
同時にお菓子の魔女の姿も消失していくが殺される寸前で助かったようだ。
さやか達の前に現れた少女を見た円環の軍勢達からどよめきの声が上がり、戦闘が中断していく。
裏切り者として処刑されかけたさやか達の前に現れたのは、もう一人の円環のコトワリであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
巨大な魔女結界のドームに覆われた見滝原の空を高速で飛び交うのはほむらとアラディア。
アラディアの背中をとっているほむらは魔法の弓の弦を引き絞りながら攻撃を仕掛ける。
「行くわよ…アラディア!!」
放たれた魔法の矢が枝分かれしていき、無数のカラスに変化しながら追撃してくる。
「フッ……」
高速飛行を続けるアラディアは戦闘機の空中戦闘機動のように舞いながらカラスを避けていく。
左手に持たれた魔法の杖の先端にある花が淡い光を放ち、彼女はそれを振りぬく。
後方から追ってくるカラスの矢の群れを迎撃したのは連続したメギドラの爆発。
万能属性魔法をフレアとして盛大にばら撒き、カラスの矢の雨を消滅させるのだ。
次々と夜空の上で爆発していく美しい光の中で体をゆっくり捩じりながら舞うアラディア。
光に照らされたその姿は黒鳥の美しさを表現しているかのような女性的な舞いであった。
「チッ!!」
侵食する黒き翼の出力を上げ、アラディアを見失わないためにスピードを上げていく。
白いドレスを纏う彼女を追撃していくのだが突然アラディアの姿を見失ってしまう。
「何ですって!?」
光の羽を撒きながら消えたアラディアの魔力が現れたのはほむらの背後の空。
あの一瞬で瞬間移動してきた円環のコトワリ神がお返しとばかりに魔法攻撃を仕掛けてくる。
「さぁ、細切れになるまで切り刻んでやろう」
不敵な笑みを浮かべたアラディアが魔法の杖を振るい、極大の冷気と風を生み出していく。
同時に大気が渦を巻き、極大の冷気と極大の暴風が夜空の上に生み出されるのだ。
「くぅ!!!」
氷結魔法と疾風魔法を合わせた『 熱りたつ業雹』の一撃がほむらが飛ぶ空間そのものを襲う。
細かい雹そのものが鋭い刃であり、それが暴風とともに豪雨となってほむらに襲い掛かっていく。
これだけの刃の雨を生み出されたならば街の人々とて無事では済まない。
下の街に刃の雹が降り注げば道行く人々は細切れになりながら死んでいくだろう。
だからこそ彼女は全ての刃を受け止める程の覚悟を示してくれるのだ。
「ほう……?避けずに受け止めようというのか?」
急停止したほむらは侵食する黒き翼を最大出力にしながら翼を折りたたみ、翼の盾を生み出す。
翼の盾に覆われたほむらに目掛けて刃の暴風が吹き荒れる中、刃の雹を飲み込んで攻撃を防ぐ。
彼女は自らを盾にして全ての攻撃を浴びながら地上で生きる人間達を守ってくれているのだ。
しかしアラディアの攻撃は遊びであっても今のほむらでは防ぎきれない。
「このままでは……持たない!!」
残り少ない魔力を全て出し切る程の力を発揮していくがあと僅かで力尽きるだろう。
絶体絶命の状況であったが、追い打ちを仕掛ける攻撃が迫っている。
「えっ……?」
全てを飲み込む侵食する黒き翼の盾をメギドの光を放ちながら突き破ってくる魔法の杖が現れる。
目の前から飛んできたのはアラディアであり、力技で盾を突き破った女神が飛び蹴りを放つ。
「アァァァァーーーーッッ!!!」
大きく蹴り飛ばされたほむらは翼をもがれながら地上に蹴り落とされていく。
「まだだぁぁーーーーッッ!!」
背中の羽が光の翼となって後方にブースター噴射させたアラディアが猛追してくる。
高速で落下し続けるほむらの顔面を右手で掴み、迫りくる地上の川に目掛けて激突。
衝撃で川の水が全て跳ね上げられながら大地をえぐり取り、ほむらの体を地中深く埋めていく。
アラディアの怒りが込められた一撃が一直線に進んでいき、川の底が全てえぐり取られるのだ。
「がっ……あぁ……」
魔法少女のままなら原型を留めないほど細切れ肉になっていただろうがほむらはまだ息がある。
悪魔の耐性によってアラディアの攻撃に体が耐えきったようだが虫の息の状態にされているのだ。
かすれた目に映るのは倒れ込んだ自分の体を掴んだまま持ち上げていく恐ろしい女神の姿。
美しい金色の瞳を輝かせながら敵に一切容赦しない攻撃を放つその姿こそがコトワリの神。
人修羅が戦ってきたコトワリ神とはこれ程までの恐ろしさを秘めていたのかと絶望が湧いてくる。
「悪魔になったことでタフになれたようだな?それでこそ…痛めつけ甲斐がある」
えぐり取られた底に海水が大量に流れ込んでくる中、投げられたほむらの顎が蹴り上げられる。
「がふっ!!!」
サマーソルトキックを浴びたほむらの体が大回転しながら空に向けて上っていく。
えぐり取られた地の底から高速で飛んできたアラディアがほむらを超え、魔法の杖を振り上げる。
「ぐふっ!!!」
魔法の杖で殴り飛ばされたほむらの体が海を越え、見滝原の街へと飛んでいく。
工業区の建造物を砕き、住宅区の空を超え、商業区ビルの数々を突き破りながら叩きつけられる。
「あ……あぁ……」
ズタボロになった彼女の体を止めたのはビル屋上の給水タンクであり、ほむらの体が倒れ込む。
地面に倒れた彼女が不屈の意思で顔を持ち上げていくと目が見開いていく。
「こ……これは……?」
ほむらが見たものとは、円環の使い魔達が悪魔人形と裏切り者人形達を火刑にする光景である。
歌って踊りながら狂い笑う使い魔達の姿を見ていると魔法少女時代の頃を思い出す。
「円環に導かれようとも……魔女の使い魔達は邪悪な連中であることに変わりはないのね……」
<<悪者は成敗される。子供でも分かり易い娯楽の光景だとは思わないか、悪魔よ?>>
ビルの屋上に降り立ってきたアラディアの元へと舞い踊る使い魔達が集まってくる。
悪者を懲らしめたから誉めてとせがむ子供達の頭を優しく撫でた後、鋭い目をほむらに向ける。
「悪者なのはそいつよ……そいつは独裁者なのよ……目を覚ましなさいよ貴女達!!」
悪魔の必死の叫びに顔を向ける子供の使い魔達はケラケラ嘲笑いながらほむらをバカにしていく。
無邪気で残酷な一面は偽街の子供達と同じであり、分かり易いものしか見たくない態度を示す。
ほむらの心に悪者にされてきたトラウマが蘇り、悔し涙が滲んでいく。
彼女の苦しみこそ誰にも言葉が届かず、馬鹿にされたり暴力を振るわれた者達の苦しみなのだ。
「…人々を扇動する最も効果的な方法は何か分かるか?」
「人修羅から聞かされたわ…道徳や正義を植え付けることで…人々は簡単に全体主義を望むと…」
「その通り。では、道徳や正義を刷り込まれた人々は何を欲しがっていると思う?」
「何を……欲しがっているのかですって……?」
「それはな……
正義や道徳を達成することで人間の集団は自尊心を満たしていくものだ。
また敵対的な勢力の評価を貶めることによっても自分達の集団の自尊心を高める効果に繋がる。
これを利用した代表例こそがヒトラーであり、ユダヤ人や共産主義者という
悪者を倒すことでアーリア人の優位性が満たされ、人々は自尊感情を満たす利益が得られたのだ。
「正義や道徳を求める者達も結局は損得でしか物事を考えない。得になるものを欲しがっている」
「人修羅から聞かされたフェミニズム騒動の時と同じね…フェミ共も自尊心を満たしたかった…」
「この国も神国だの神民だのと優位性を語り、鬼畜米英という敵を用意して自尊心を与えてきた」
「ナチスや大日本帝国時代のような全体主義社会を完成させる要素こそが…自尊心だったの…?」
「この子達を見るがいい。
子供と同じ無邪気さと残酷さをほむらに向けてくる円環の使い魔達の心理をようやく理解する。
そして円環を裏切った魔法少女達に怒りを爆発させる魔法少女達の心理も理解出来たようだ。
「ま…まさか貴女は……円環の魔法少女達に自尊心を植え付ける言葉を刷り込んでいたの!?」
それを問われた時、アラディアの口元に邪悪な笑みが浮かんでいく。
「これこそが熾天使共も利用してきた
人を操るのに洗脳魔法など必要ない。
神浜テロの時に栗栖アレクサンドラに化けていたルシファーの言葉とはこういう意味なのだ。
LAW勢力の天使達もCHAOS勢力の悪魔達も同じ扇動手口を用いて人々を操ってきた。
LAW勢力に所属する契約の天使であるインキュベーターもまた同じ手口を使っている。
魔女の脅威を強調し、契約して社会貢献することで君達は正義のヒロインになれると刷り込む。
巴マミのような正義の味方になることで君達は自尊心を満たすことが出来ると勧める。
それにまんまと踊らされてきたのがマミやさやかといった正義や道徳を愛する魔法少女なのだ。
「なんてことよ…人々の心理はこんなにも都合のいいものにしか振り向けない構造だったのね…」
人間がこんなにも視野狭窄に陥る偏見生物だったのかと絶望していた時、使い魔達が動き出す。
「さぁ、我の子供達よ…正義執行の時間だ。悪者の体をバラバラにして火刑台に放り込むがいい」
<<キャハハハハハハハハッッ!!アーーッハハハハハハハッッ!!>>
円環の使い魔達が持ち出したのは大きなハサミやナイフとフォークといった鋭利な刃物の数々。
本来の悪魔ほむらの力ならば傷一つつけられるものではないが、弱り切った今ならば違うだろう。
「や…やめなさい貴女達……やめて……やめてぇぇぇぇーーーーッッ!!!」
倒れ込んだほむらに目掛けて飛び掛かっていく使い魔達は正義執行の楽しさを満喫していく。
杏子達に襲い掛かっていた他の円環魔法少女達も同じ心理であり、自尊心を捨てるはずがない。
「人間関係は相互利益でしか機能しない。自尊心という利益を奪う者とは
愉快な表情を浮かべながら悪魔ほむらが襲われていく光景を心から楽しむ円環のコトワリ神。
彼女もまたLAWの神であり、熾天使達と同じく扇動術に長けた者なのだ。
これこそが大衆扇動術の恐ろしさであり、社会正義や全体主義の恐ろしさ。
正義執行を望む者達の中身について、虐殺者だった頃の人修羅はこんな言葉を叫んでいる。
――正義宗教は……人を狂わせる猛毒だッッ!!!
正義の中身を考えない者達は無邪気に、愉快に、悪行を善行だと叫びながら繰り返す。
その姿はまるで麻薬中毒者であり、最高のエンタメを楽しむ者達の光景でもあった。
悪魔ほむらちゃんが円環の女神様に薄い本みたいなことされる!!
というのは冗談で、犬カレー先生が描いた恐ろしい円環の女神様のイメージ絵を元にしながら僕なりに恐ろしさを表現してみました。
ここまで引っ張ったことだし、そろそろヒーローが遅れてやってくる。