人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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256話 悪魔ロットバルト

円環の使い魔に馬乗りされた悪魔は大きなナイフとフォークで背中をめった刺しにされていく。

 

「痛い!!やめて!!アァァァァーーーーッッ!!!」

 

魔法少女でなくなったほむらには痛覚麻痺がないため、人知を超えた痛みにさらされてきた。

 

それでも精神が肉体を凌駕する程の不屈の精神で耐えてきたのだが限界が近い。

 

「どうしてまどかをそっとしておいてくれないの!?私をそっとしておいてくれないの!?」

 

嘆きと絶望が混じる叫びを上げていく悪魔の苦悶に満ちた表情を楽しむ女神はこう告げる。

 

「痴れ者め。自分の半身を悪魔に奪われておいて…黙って見過ごす神が何処にいる?」

 

「まどかは人間として生きたいだけよ!()()()()()()()()()()のにどうして分からないの!?」

 

家族と一緒に生きたい。

 

その叫びを聞いたアラディアの愉悦に満ちた顔つきが変わっていく。

 

眉間にシワが寄り切り、再び怒りに満ちた表情を浮かべるのだ。

 

「貴女が神だとしても父親と母親になる家族はいないの!両親を失う苦しさが分からないの!」

 

最後の抵抗としてアラディアに説得を試みようとするのだが火に油を注ぐ結果となってしまう。

 

<<キャハハハハハハハハッッ!!>>

 

大きなハサミを持った子供の使い魔が刃を動かしながらほむらに近づいていく。

 

体をバラバラにしてやると近寄っていくのだが子供の使い魔の肩をアラディアが掴んでくる。

 

ハサミを渡せと言われたために使い魔の子供はアラディアにハサミを渡す。

 

近寄ってきたアラディアに顔を向けていたのが運の尽きだった。

 

「アガァァァァァーーーーッッ!!!」

 

ハサミの刃を逆さに握り締めたまま先端を振り下ろし、ほむらの左目をえぐり取る。

 

悲鳴の叫びを上げる彼女の潰れた片目からはおびただしい血が流れ落ちるのだ。

 

「……我はな、貴様の名前が大嫌いだ。暁美ほむらという名前が大嫌いだ」

 

怒りに燃えたアラディアに怯えた使い魔達が離れ、首を掴まれたほむらは持ち上げられていく。

 

「暁の空に燃えるように美しく輝く名を表す聖名を語っていいのは…()()()()だけだぁ!!」

 

「ぐっ…うぅ……ッッ!!貴女の……父神ですって……?」

 

「大魔王ルシファーも大嫌いだぁ!!どいつもこいつも…我の父上の名を穢す汚物共だぁ!!」

 

アラディアの地雷を踏んでしまったほむらには制裁の一撃が再び繰り出される。

 

「ゴハァッッ!!!」

 

刃を返したハサミの先端がほむらの腹部に突き刺さって貫通し、彼女は大きく吐血してしまう。

 

吐き出した返り血がアラディアのドレスを汚し、汚物の返り血に怒る女神が彼女を投げ捨てる。

 

勢いよく投げ捨てられた悪魔の体が地上に向けて落下していき、地面に倒れ込んだようだ。

 

「ゲホッ!!ガハッ!!まだ……死ねない……私は……まどかを……守る者よ……」

 

貫通しているハサミを気力を振り絞りながら引き抜いていく。

 

痛みと苦しさで絶叫しながらも引き抜き、ふらつきながら彼女は歩いていく。

 

散々痛めつけられた彼女は悪魔としての余力もなく、死にかけた人間と変わらない姿を晒す。

 

それでもまどかの守護者として彼女の元へと向かおうとしていく悪魔を女神は見下ろすのだ。

 

「逃げるがいい…無様な獲物らしく。()()()()()()()()()の血を持つ我を満足させてみろ…」

 

アラディアと共に在り続ける円環の使い魔達は顔を向け合いながら首を傾げていく。

 

いつもは威厳に満ちた態度を崩さない主神様なのに、今の主神様は何だか寂しそう。

 

そんな風に感じた使い魔達を尻目にアラディアは飛び立ち、悪魔狩りに向かっていった。

 

……………。

 

さやかとなぎさを守るために駆けつけたまどかであるが、円環の魔法少女達が叫んでいく。

 

「まどか様!いくら貴女様の頼みであっても聞けません!!我々は裏切り者を処罰する!!」

 

「さやかちゃんもなぎさちゃんも裏切り者じゃないよ!どうしてみんなで傷つけ合うの!?」

 

「それはこの者達がアラディア様の信託を裏切った者だからです!!」

 

「信託の裏切りを許すなど有り得ない!貴女様は国を売る裏切りを行う国賊を許せますか!?」

 

「そ、それは……その……」

 

「円環こそが我らの国!我らのアラディア様を裏切る行為は国を売る行為と同じなのです!!」

 

円環のコトワリを愛する円環魔法少女達の気持ちとは魔女の国を愛する気持ち。

 

その気持ちは日の本を憂う静香達と同じ気持ちであり、国賊を許さない気持ちも同じだろう。

 

現世で虐げられ続けた魔女達は円環に導かれたことで安住出来る我らの国を得た。

 

ならばこそ愛国心を示し、魔女の国の女王様であるアラディアに忠義を示すのだ。

 

「我々は円環の裏切り者と悪魔に味方する裏切り者を許さない!これは正義執行なのです!!」

 

「国に忠義を示し!主君の敵を一掃する!侍の道とは主君のために敵を打ち倒すことです!!」

 

「それは我ら騎士とて同じ!団結こそが私達の力であり、団結を裏切る者には死を与える!!」

 

侍と騎士とヴァイキング魔法少女達は魔女社会全体に尽くすために生きようとしていく。

 

全体を乱す悪者を打ち倒したい気持ちとは犯罪者を打ち倒して自尊心を満たしたい欲望である。

 

国や社会を乱す犯罪者は社会正義の名の下に処刑されろ。

 

SNSでも繰り返される犯罪者リンチのコメントの嵐と同じく全体主義が敷かれる光景なのだ。

 

「わ…わたしは……その……」

 

鹿目まどかにぶつけられる円環魔法少女達の気持ちとは正義を望む気持ちである。

 

彼女だって正義の味方になりたかったから魔法少女になった人物。

 

そんな彼女が正義を反故にしてしまったら、正義を信じた魔法少女達を裏切る行為となる。

 

アラディアと同一存在であるまどかがそれを行ったなら、円環の秩序は崩壊するしかない。

 

「まどか様!あたし達に代わり…貴女様こそが裏切り者に天罰をお与え下さい!!」

 

「そうです!!主君を裏切った者達こそ!主君自らが罰を下されるべきです!!」

 

「私達はまどか様の正義が欲しい!私達は円環に導かれても…正義の魔法少女で在りたい!!」

 

泣いて馬謖を斬れと言ってくる者達が恐ろしくてたまらない鹿目まどかの体が震えていく。

 

規律を保つためには、たとえ愛する者であっても違反者は厳しく処分する。

 

正義とはこれ程までに厳しいものであり、そんな正義に味方をしたかったのかと恐ろしくなる。

 

「あ……あぁ……」

 

円環のコトワリになろうとも、まどかの中身は勉強も運動も苦手な女子中学生。

 

そんな子供にこれ程までの重い責任を果たせと全体圧力を向けてくる。

 

青い顔をしたまま震えるばかりであったのだが、肩に手を置く人物が現れたようだ。

 

「いいんだよ…まどか。悪者はやっつけられる…それが…あたし達が信じた正義なんだから…」

 

「さ……さやかちゃん……?」

 

ふらつきながらも立っていたのは、残り少ない魔力を使って燃えた衣服を直したさやかの姿。

 

それでも魔法少女服の下は火傷塗れであり体も回復魔法で癒えた部分だけで持ちこたえている。

 

まどかを驚かせたのは右目部分だけしか見えていないさやかの頭部。

 

女の命である顔が醜くなった姿だけは見せたくないから魔力で作った包帯が巻かれている。

 

その頭部を見せられるとまるでミイラ女のようにも映り、まどかを怖がらせたのだろう。

 

「それでも…あたしは後悔してないよ。あたしはほむらの側につく…正義を裏切ってもいい…」

 

「さやかちゃん……」

 

「一つの正しさに縛られる必要はない。ようやく悪魔達が伝えたかった言葉の意味が分かった」

 

悪魔として生きる尚紀とほむらの気持ちをようやくさやかは理解する。

 

そして尚紀の話の中で一番伝えたかった部分に気が付き、彼女は尚紀の言葉を語ってくれる。

 

「正しさは周りが勝手に作るもの…あたしはあたしでいい。誰かに抑えつけられなくていいの」

 

その言葉を聞かされた瞬間、心の迷いが晴れたのかまどかの目が大きく見開いていく。

 

さやかの言葉は尚紀の言葉であると同時にアリナから送られた言葉でもある。

 

殺人という罪は人でなしの所業。

 

なのに社会正義を掲げる戦争で殺戮をしたり、司法の極刑が下されればヒーロー扱いされる。

 

正義という概念はこんなにも矛盾したご都合主義に塗れたものだとアリナは伝えてくれたのだ。

 

「まどかだってまどかでいい。だからさ…あたしのために傷ついたなぎさをお願いね…」

 

「ダメだよ…!この子達は正義を欲しがってる…行けば殺されちゃう!!」

 

「そうだよね…あたしだってそうしたんだ。その時のあたしは…自尊心を満たしたかった…」

 

まどかを促したさやかは右手に剣を生み出し、ふらつきながらも歩いていく。

 

完全包囲してくる正義の魔法少女達の前で立ち止まったさやかは剣を縦に向けて構える。

 

両手で握り締める剣の刃を見た後に目を瞑り、自分の新たな誓いの言葉を呟くのだ。

 

()()()()()()()()。多数決の安心感にはもう浸らない…あたしはあたしの情念を貫けばいい」

 

さやかの言葉が聞こえていた杏子やマミ、オルガやエボニー達も彼女の言葉に頷いてくれる。

 

彼女の新たな誓いに呼応するかのようにして人魚の魔女の巨体も起き上がっていく。

 

カッと開いた右目が正義の魔法少女の軍勢を捉え、善悪を超えたさやかが雄たけびをあげる。

 

「いらっしゃいませぇぇぇぇぇぇーーーーッッ!!!」

 

正義や悪といったゾロアスター教の認識法と決別するために美樹さやかが斬り込んでいく。

 

その刃は返されており、自分を殺そうとする軍勢を相手にみねうちだけで挑もうとしている。

 

その姿は正義を掲げたフェミニスト魔法少女を相手にした時の常盤ななかと同じ覚悟だろう。

 

迎え撃つ正義の軍勢もまた正義という信念に縛られながら雄叫びを上げ、津波の如く迫りくる。

 

「小学生の頃から正義のヒーロー物語が大好きだったさやかちゃんが…正義を捨ててくれた…」

 

彼女の覚悟を受け取ったまどかの顔も覚悟を決めた顔つきとなり、なぎさの元へと走っていく。

 

さやかに続く杏子とマミ、それにオルガやエボニー達も同じ気持ちを貫こうとしてくれる。

 

自由とは責任の道。

 

正義に惑わされないと叫ぶ者には、全体圧力である正義執行がもたらされていくのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

円環のコトワリとなった神の名こそアラディア神。

 

アラディア、あるいは魔女の福音に記された神は新異教主義発展に大きな役割を果たしている。

 

魔女の福音には様々なウイッチ・クラフトが記されているというが民族学者は疑問視していく。

 

本書が古来からの伝承を収めたものかどうかは疑わしく、でっち上げではないかと考える。

 

魔女の福音を書いた人物に魔女の知識を伝えた魔女の元へと赴き、民族学者は追及していく。

 

すると魔女は観念したのか、これは自分達魔女が描いた夢想に過ぎないものだと自白したのだ。

 

アラディアと呼ばれし魔女の神の神話とは虚構に過ぎないでっち上げ。

 

鹿目まどかが魔法少女の理想を描いたノートと何も変わらない夢想が描かれていただけのもの。

 

そのため様々な神話との繋がりもなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()と認識された。

 

……………。

 

「我は貴女様の娘なのです!我はようやく本物の神になれました…娘として認めて下さい!!」

 

コトワリの神が漂う高次元空間とは概念存在の領域であり、神々の領域。

 

その空間は一つではなく数多の神々が存在する別の時空にも繋がっている。

 

まどかが円環のコトワリ神になれた頃、彼女の意識が眠りについたのを見計らい目を覚ます。

 

円環のコトワリ神としてのアラディアが向かった先とはギリシャ神話の神々が存在する神域。

 

オリュンポスの高山に広がる無数の宮殿の一つにあるバルコニーテラスには女神が座っている。

 

ローマ神話とも繋がりが深いギリシャ神話の神々の元へとアラディアは訪れていたようだ。

 

「しつこいぞ、私はそなたの母神などではない。私とそなたとの繋がりなど存在しないのだ」

 

必死の形相をしながら娘だと認めて欲しいと訴えるアラディアに対して厳しい目を向けてくる。

 

この女神こそが大母神ディアナであり、ギリシャ神話ではアルテミスと呼ばれし女神であった。

 

【アルテミス】

 

ギリシア神話に登場する狩猟・貞潔の女神であり月の女神のヘカーテとも同一視される存在。

 

ローマ神話では狩猟、貞節と月の女神であるディアナとして語られる女神でもある。

 

オリュンポス十二神の一柱とされるが古代ギリシャ人固有の神ではないとされているようだ。

 

アルテミスは古代ギリシャの先住民族信仰を古代ギリシャ人が取り入れたものだとされていた。

 

「そんなことはないです!我を生んだ魔女達は…貴女様こそが我の母神だとしたのです!!」

 

今にも泣きそうな子供のような顔を浮かべるアラディアに対してアルテミスは不快な顔を示す。

 

「私を崇めた中世ヨーロッパの魔女達だからこそ、そなたを私に紐づけようとしただけなのだ」

 

魔女のサバトの原型となったのはディアナであるアルテミスを崇拝する集会がルーツである。

 

魔女達がディアナと共に夜空を飛行したという異教的民間信仰が拠り所であったようだ。

 

ディアナの騎行として残る民間信仰によって魔女はホウキや動物に跨るものだとされている。

 

当時の教会法はディアナを崇拝する者は邪悪な女達であり、根絶すべき迷信だと記録を残した。

 

「どうすれば…どうすれば我を娘として認めて下さるのですか!?我はこんなにも貴女様を…」

 

「黙れ!!」

 

テラス席から立ち上がったアルテミスが怒りの気を発しながら近寄ってくる。

 

ドーリス式のキトーンを纏っていたが魔力が高まることでクロスのような鎧衣装を纏っていく。

 

白いミニスカートの上に纏うクロスを青いマントが覆い、頭には三日月のティアラが出現する。

 

右腕には狩猟の女神を象徴するようなガントレット装備式のクロスボウが光を放つ。

 

戦闘形態になったアルテミスに襲われると感じたアラディアが震えながら膝を崩してしまう。

 

「違うのです…我は貴女様を怒らせたいわけではない…貴女様に愛して欲しいだけなのです!」

 

涙を流しながら許しを請う震えた無礼者に武人の力をぶつければ神の威厳を損ねてしまう。

 

そう判断したアルテミスがため息をつき、セミロングヘア―の金髪を揺らしながら去っていく。

 

「アラディア…そなたはいつも私の周りに纏わりついてきたが…私の答えは変わらない」

 

――そなたは私の娘ではないのだ、虚構の神め。

 

絶望に打ちひしがれながら両手を地面につけるアラディアを置き去りにした女神は去っていく。

 

宮殿の回廊を歩きながらも立ち止まり、物陰から事の顛末を見ていた主神に振り向いたようだ。

 

「ハッハッハッ!愛され過ぎるのも困りものだな!我が娘よ!!」

 

「お父様……見ておられたのですか?」

 

近寄ってくる大男こそ、ギリシャ神話の主神を務める偉大なる神。

 

神でありながらも自分の子種をばら撒くために人間の女を騙す邪悪さも兼ね備えた存在だった。

 

【ゼウス】

 

ギリシャ神話の主神である全知全能の存在であり、唯一神と同じく至上神と言われる神。

 

ゼウスは宇宙や天候を支配する天空神であり、人類と神々双方の秩序を守護する神王である。

 

宇宙を破壊出来るほど強力な雷を武器とし、多神教の中にあっても唯一神的な側面をもつ。

 

絶対的で強大な力を持つが、好色家としても知られている。

 

しばしば妻のヘラの目を盗み、浮気を繰り返していたようだ。

 

ゼウスの血は多くばら撒かれて半神を生み出し、その中でも有名なのがヘラクレスであった。

 

「虚構の女神であってもお前を愛する愛い奴ではないか?邪険に扱わなくてもいいだろぉ?」

 

豪快な性格をしたゼウスの体は不気味である。

 

ギリシャ彫刻のような白い体が半分で、もう半分はまるで悪魔のようにどす黒く染まっている。

 

彼の神性である善と悪を象徴する見た目を体そのもので表現しているようだ。

 

「やめてください…わたくしはあの者を崇拝する連中が生み出した偽神話が嫌いなのです」

 

「たしか…お前の半身から生み出された息子の太陽神を旦那にしてるとかって話だよな?」

 

「わたくしから生まれた太陽神ルシファーなど存在しません。わたくしの夫などではない」

 

「お前が愛した男はオリオンだったな。しかしまぁ、大魔王と同じ名をもつ太陽神ねぇ…」

 

「太陽神はわたくしの弟であるアポロンです。大魔王の名をもつ太陽神など存在しない」

 

「虚構が生み出した太陽神ルシファーは存在しないなら…あの女神に父親はいないか」

 

「だからこそ、わたくしの周りをうろつくのです。母親だけは欲しいのだとせがみながらね…」

 

「家族愛に飢えた虚構の女神か……へへ、面白い存在じゃねーか」

 

その頃、アルテミスに置き去りにされたアラディアは未だに地面に手を置いたまま震えている。

 

しかし狂ったような低い笑い声が響きだし、不気味な顔を持ち上げていく。

 

「そうだ…いいことを思いついた。いくら母上であろうとも…ゼウス様には逆らえない」

 

アラディアはゼウスを利用してアルテミスを懐柔させようと歪んだ計画を思いついてしまう。

 

その計画の中身とは、()()()()()()()()()()()の神性を高める布教活動を行おうというのだ。

 

「ゼウス様のルーツとは中東の牛頭神バアル…ならばこそ、バアル崇拝を撒き散らそう」

 

狂った表情を浮かべながらアラディアはバルコニーから飛び去っていく。

 

自分の半身である鹿目まどかの意識が戻る頃にはこの出来事は覚えていない。

 

だからこそ半身の意識が眠りにつく一時を利用してアラディアは行動を開始する。

 

「牛頭神が称えられれば同じ牛神の系統であるゼウス様の神性も高まる…お喜びになられる」

 

自分が何をしているのかアラディアは狂いながらも理解している。

 

LAWの神でありながらCHAOS魔王であるバアルを祀り上げる矛盾行為をしようというのだ。

 

「過去の時代にバアル崇拝を撒き、世界が荒廃したならば我が焼き尽くす。双頭の鷲作戦だ」

 

アラディアが思いついた計画とはマッチポンプそのものである。

 

試練を課し、試練を超えないなら滅ぼすマッチポンプを仕掛ける唯一神と変わらぬ所業なのだ。

 

宇宙に広がる円環の巨大魔法陣に目掛けてアラディアは魔法の弓の弦を引き絞っていく。

 

「我が分霊よ、幾多の世界、幾多の歴史に飛んでいけ。魔女達にバアル崇拝を植え付けるのだ」

 

放たれた極大の矢が魔法陣に触れれば光の雨が飛散しながら数多の並行世界へと流れていく。

 

雨の一つ一つがアラディアの分霊であり、まるで円環の救済の光と同じ美しさに見えるだろう。

 

しかし過去の歴史に飛んで行った分霊達が目的にしていたのは魔女達の救済などではなかった。

 

<<魔女達よ、バアル神を崇めるがいい。サバトにおいて子供達を生贄にしていくのだ>>

 

平伏した魔女達の前に現れたのは魔法少女姿の鹿目まどかであるが、その中身は悪魔そのもの。

 

アラディアにそそのかされた魔女は歴史の中で悪魔崇拝を率先して行っていく事になるだろう。

 

被抑圧者解放の祈りとしてサバトの儀式を広めた末に天に帰ったという魔女神話の光景なのだ。

 

悪魔的なサバトの概念は中世末期の14世紀から15世紀にかけて多くの記録を残していく。

 

子供を殺す儀式殺人、魔女達が徒党を組んで乱交を繰り返しながら子供の肉を喰らう行為。

 

これら邪悪な魔女の秘密集会はユダヤ人のシナゴーグ教会と同じように忌み嫌われていく。

 

魔女やユダヤ人は悪魔崇拝者だと欧州の人々から罵倒され、多くが迫害される歴史を残す。

 

ドルイド僧達も魔女達と結託してウィッカーマンの儀式殺人を行いながらバアル神を称えた。

 

そして現代となり、バアル崇拝は名前を変えながら幾多の並行世界の歴史に残っていくだろう。

 

それこそが魔法少女として生きる御園かりんが愛してきたハロウィンの正体なのであった。

 

……………。

 

「クックックッ…トリックオアトリート♪貴様の魂を差し出さないなら体の皮を剥いでやろう」

 

街灯の上に座りながら物思いに耽っていれば地面を這いずる悪魔がようやく現れたようだ。

 

アラディアが視線を向けた先にいたのは残酷な狩人に襲われ続けた悪魔ほむらの惨い姿。

 

右腕と左足は切断され、立ち上がることも出来ない彼女は左腕だけで地面を這いずっていく。

 

「もう少しだ、この先で鹿目まどか達は戦っている。辿り着いてみせろ…無様な蟻のようにな」

 

君主が持つ装飾杖の代わりとして暁美ほむらの左足を持っていたが地上に向けて投げ落とす。

 

切り落としたその足を回復魔法で繋ぎ合わせて歩いて見せろという挑発行為なのだ。

 

「ハァ……ハァ……まどか……無事でいて……」

 

近くに投げ落とされた自分の足に視線を向ける余裕さえない彼女は最後の力で這いずっていく。

 

もはや魔力は底をつき、命を燃やし尽くす覚悟でまどかの元へと向かうばかり。

 

片目も霞み、耳鳴りも酷くなり、心音も弱まっていく。

 

確実なる死が迫る感覚は魔人戦以来であるが、それでも悪魔ほむらは死に抗い続ける。

 

七つの死の試練を超えた彼女だからこそ、死に抗う力は誰よりも強かったようだ。

 

「こんな場所で死んでくれるなよ。我は貴様の目の前で鹿目まどかと融合したいのだからな」

 

まどかの声をした邪悪な女神が悪魔を嘲笑うようにして高笑いを行っていく。

 

黒き心をもつ円環のコトワリ神はあまりにも恐ろしい女神様。

 

欲望を満たすためなら子供達の命でさえ平気で利用しながらバアル崇拝に捧げてしまえる。

 

そんな女神に対して、時女一族を支配していた神子柴の悪魔であった存在はこう叫んだ。

 

――何ガ魔法少女ノ救済ダ!!テメェダッテ…魂ヲ喰イタイダケダロウガ!!

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「たぁくよぉ……()()()()()ってのは重いぜ……」

 

全身に魔法の矢が刺さっている杏子は片膝をつき、息を切らせながらも襲ってくる軍勢を睨む。

 

「これが……悪者にされ続けた暁美さんが背負ってきた……重荷だったのね……」

 

同じように矢が突き刺さっているマミは俯けに倒れながらも顔を上げていく。

 

正義の魔法少女達がトドメを刺すために迫りくるのだが、もはや逆らう余力はない。

 

「どうして…どうしてタルトさんまで正義を求めるの?生前をあんなに後悔してたのに…?」

 

大好きな姉とは戦えないガンヒルトの代わりとしてオルガを相手に戦ったのはタルトである。

 

クロヴィスの剣を倒れたオルガに向け、鋭い目つきをしながらこう返してきたようだ。

 

「生前の私は…英雄という名の虐殺者でした。それでも私は…正義を捨てられないのです」

 

完璧なるイレギュラーに成り果てたタルトは女王の黄昏を倒し、円環に導かれる。

 

円環の中で永遠を生きる存在になれたならば自分の生前を振り返る時間は無限にあるだろう。

 

自分が殺してきたイングランド人達の帰りを待つ家族の事を考える程に自責の念に蝕まれる。

 

悩み苦しみ続けているタルトの元に現れた存在こそ、彼女に自尊心を刷り込む女神であった。

 

「私が戦争に赴いたのは妹や村の人々を救うため。全体の安寧を求めたい気持ちなのです」

 

幸福に生きられた人生は全体があってこそ存在していたのだとアラディアはタルトに刷り込む。

 

社会全体を愛し、社会のために尽くす正義が間違っているはずがないと自尊心を与えてくれる。

 

劣等コンプレックス地獄に陥っていた者にとって、自尊心ほど欲しいものはない。

 

自分に自信がなくなった時期のももこと同じく、タルトもまた水滴で心を削り取られたのだ。

 

「私は全体を乱す悪を許しません。悪者がいたからこそ…妹のカトリーヌは殺されたのです!」

 

怒りの感情を裏切り者に向けるタルトの心には裏切り者のブルゴーニュ派を憎む気持ちが宿る。

 

同じフランス側であったのにイングランド側に寝返った裏切り者のせいで多くの人々が死んだ。

 

そう考えるタルトは裏切り者には正義の鉄槌を下すのだと生前と変わらない感情に支配される。

 

自尊心と政治的扇動はこれ程までに相性が良く、人間を簡単に全体主義者に変質させれるのだ。

 

「目を覚まして…タルトさん!あんたは…自尊心という猛毒に支配されてるんだよ…!!」

 

「目を覚ますのは貴女達の方よ。もっとも…もう遅過ぎるのだけどね」

 

タルトの元に歩み寄ってくるのは生前からも変わらない彼女の守護者、リズ・ホークウッド。

 

神浜で尚紀と共に暮らす造魔のリズのオリジナルであり、彼女の魂も円環に導かれたようだ。

 

「タルトさん…リズさん…あんた達も…一つの正しさに縛られてるだけなんだよ…」

 

「正義が間違っているはずがないわ。正義を貫いたタルトを見てきた私だから言えるのよ」

 

「その末路が…あんなにも辛い後悔の結果だったのに……どうして分かってくれないの!!」

 

「悪者の理屈なんてどうでもいい。他の悪者連中と同じく…自由の代償を支払いなさい」

 

リズが顔を横に向ければ、他のところでも正義執行が行われながら悪者達が倒されている。

 

ガンヒルトの巨大な斧と水名露と千鶴の斬撃によって人魚の魔女は再び倒れ込む。

 

両腕は切断され、下半身も切断された人魚の魔女からはドロドロの中身が漏れ出していく。

 

美樹さやかもまた全身に矢が突き刺さった状態で倒れ込み、トドメを刺されようとしている。

 

「ガハッ!!!」

 

クロスボウを持った騎士達に狙われたさやかの体に矢が突き刺さり、盛大に吐血する。

 

「あんなに正義を愛した子だったのに…悪魔に惑わされるなんてね。美樹さやかは愚か者よ」

 

「他の者達も同じです。悪魔の誘惑に負けた報いを受けなさい、オルガ」

 

エボニー達も倒れ込み、正義の魔法少女達に囲まれながら袋叩きにされていく。

 

その光景に顔を向けていたオルガの目に涙が溢れ出し、正義に陶酔してきた愚かさを痛感する。

 

「社会正義って……こんなにも()()()()()()()()()()()……呪いだったんだね」

 

RPGゲームに登場する山賊共をやっつける感覚で正義を満喫していく魔法少女達。

 

その光景はどっちが悪役なのか分からない程にまで醜い光景に見えるはずだ。

 

客観性のない主観性はこうも成り立たない中、悲痛な叫びを上げる者が現れる。

 

「もうやめてぇ!!こんな酷い仕打ちなんて……あんまりだよぉぉぉーーーーッッ!!!」

 

叫んだ人物とはまどかであり、なぎさを守りながら戦っていたが絶望の表情を浮かべている。

 

哀願してくるのは主神様の半身ではあるが、正義の魔法少女達は憎しみの目を向けていく。

 

自分達が信じる正義を裏切る主神様など彼女達は必要としない。

 

人間関係は相互利益でしか機能せず、欲しがっているものを与えない者とは関係が切れるもの。

 

人も会社も国家でさえもその構造は同じであり、だからこそ人々は関係が切れた者を憎むのだ。

 

「黙れぇ!!あたし達はもう……お前なんかを円環の君主だなんて思わない!!」

 

「悪者共を擁護する女王など必要ない!!我々が忠義を尽くすべきは…アラディア様だ!!」

 

「そんな…お願いだから話し合おうよ!!話し合えばお互いの悪い部分が見えてくるよぉ!!」

 

「お前は裏切りの君主よ!!私達の忠義に背き…裏切った罪はあまりにも重いわ!!」

 

「あぁ……やだ……やだよぉ……。こんなのって……酷過ぎるよぉ……」

 

泣いて馬謖を斬らなかった君主など必要ないと涙を流し続けるまどかでさえも罵倒される。

 

優しさだけでは人間は救えないものなのだとまどかは理解するだろう。

 

人間関係とは、欲しがっているものを与えなければ破綻するように太古から出来ていたのだ。

 

<<正義を愛する者達よ!!いよいよ汝らの君主が誰なのかを決める時がきたぞ!!>>

 

アラディアの声が響き渡り、円環の魔法少女達が歓声を上げていく。

 

「ほ……ほむらちゃんッッ!!?」

 

宙に浮かびながら近づいてきていたのは悪魔ほむらの後ろ髪を掴んだまま引きずる女神。

 

あまりにもノロマであったため、アラディアが引きずりながら連れてきたようだ。

 

「ま……まどか……お願いだから……逃げて……」

 

今にも死にそうなほむらの姿を見せられたまどかが悲鳴を上げていく。

 

鹿目まどかの優しさならば、大切な親友の命を見捨てたまま逃げ出すことなどありえない。

 

自分の手元に死にかけたほむらを置いておけば、まどかは自分からアラディアに向かってくる。

 

このチャンスをアラディアは狙い続けていたようだ。

 

「我の半身でありながら…鹿目まどかは悪魔共の味方になる道を選んだ!汝らはどう思う!?」

 

<<許さない!!絶対に許さない!!>>

 

「正義を裏切った君主を汝らは必要とするか!?」

 

<<必要としない!!>>

 

「では!!汝らが必要とする円環の君主は誰なのか!!」

 

<<私達に正義と自尊心を与えてくれたアラディア様よ!!>>

 

「我らの心は一つとなった!!これより円環のコトワリ神として在るのは…この我なのだ!!」

 

<<アラディア様万歳!!アラディア様万歳!!アラディア様万歳!!>>

 

魔女の社会も所詮は人間社会と変わらない。

 

人間社会の長となるべきは鹿目まどかのような世間知らずの子供ではない。

 

民が欲しがるものを与えてくれる君主こそ、民衆が求めるべき君主の在り方。

 

それを熟知しているアラディアは、まどかを遥かに超える王の器を持ち合わせていたのだ。

 

「フッ…ようやく再会出来たようだが、我らに導かれた者達が求める王は決まったようだぞ?」

 

「アラディア…お願いだからみんなを助けて!!円環のコトワリの座は貴女に譲るから!!」

 

「さて…どうしたものか?正義を望む民の求めに応じるのが王の務め…なら、こうするべきだ」

 

右腕を横に持ち上げれば背後の空間に円環の魔法陣が浮かんでいく。

 

「逃げてまどか!!私は後悔なんてしていない…貴女を守りたかった道に…悔いはないわ!!」

 

「ダメ!わたしはほむらちゃんを見捨てない…ほむらちゃんは…わたしの最高の友達だから!」

 

ほむらを守るために駆けてくる鹿目まどかの姿を見たアラディアは勝利を確信するだろう。

 

「この時を……待っていたぁ!!!」

 

ほむらを殺すフリを行ったのはまどかを自分に近寄らせるため。

 

背中の翼を広げたアラディアが高速で飛翔しながら右手をまどかに向けていく。

 

アラディアに掴まれれば最後、鹿目まどかは円環のコトワリに吸収されることになるしかない。

 

「いやぁぁぁぁーーーーーッッ!!!!」

 

血涙と涙を流す悪魔ほむらの絶望の叫びが木霊する。

 

最高の友達であった愛するまどかを守り抜きたかった彼女の心は本物の王子様だった。

 

なのに王子様は愛を守れず、再び白鳥の王女様を失おうとしているのだ。

 

もはや暁美ほむらは白鳥の湖における悪魔役ではないだろう。

 

ならば、白鳥の湖における悪魔役とは誰だったのだろうか?

 

その答えなら直ぐに分かるだろう。

 

「ゴフッ!!!?」

 

高速でまどかに迫ってきたアラディアの左頬に目掛けて決まったのは右ストレートパンチ。

 

円環のコトワリ神の耐性すらも貫通してきた一撃によって女神の体が弾き飛ばされる。

 

目にも止まらぬ速度で倒壊した巨大額縁建造物の瓦礫に叩きつけられてしまったのだ。

 

「ぐっ……うぅ!!何者だ……誰が我の邪魔立てをしに現れたぁ!!?」

 

怒りを爆発させたアラディアが周囲の瓦礫を弾き飛ばし、憤怒を浮かべてくる。

 

神の千里眼を用いて土煙の奥で佇む存在を見つけた時、金色の目が大きく見開いていく。

 

<<よぉ……アラディア。久しぶりじゃねーか?>>

 

アラディアの金色の目が捉えた存在とは、同じく金色の目をもつ悪魔の姿。

 

「あ……あぁ……」

 

絶望していたほむらの片目から流れていく涙が喜びの涙へと変化していく。

 

「ダンスパーティの席はまだ空いてるよな?俺達も混ぜろよ」

 

立っていた存在の姿は悪魔の如き禍々しさ。

 

黒衣のウィザードコートを纏い、フードを被った男の目に輝くものこそ金色の瞳。

 

ウィザードコートで全身を覆う姿は漆黒のマントで体を覆う邪悪な悪魔にも見えてくる。

 

舞台劇である白鳥の湖において、漆黒のマントを纏う悪魔役の男と酷似して見えるだろう。

 

その悪魔役こそ、()()()()()であり悪魔のロットバルトのように映る人修羅の姿であった。

 




アラディアがバアル崇拝なハロウィンをばら撒いたって三章部分の繋がりをようやく描くことが出来ましたね。
真女神転生5のゼウスやアルテミスは気に入ってる悪魔なのでいずれ出したいと思ってましたが、ようやく登場させれました。
なんか…さやかちゃんが一番成長しているような展開になってきたな(汗)
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