人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
261話 カインとカナンの呪い
アラディアと人修羅達の戦いを遠くの海で見物していたのは大魔王ルシファーである。
海上で停泊していた居城の如き豪華客船内で彼女達の戦いを固唾を飲んで見守っていたようだ。
「混沌王殿であってもアラディアに勝てるかどうか…それでも、勝ってくれねば我らが危うい」
薄暗い回廊を歩くのは仮面の下で冷や汗をかくビフロンスであり、宮殿の後宮へと進んでいく。
船の上の宮殿ともいえる大きな城の回廊を超え、大魔王の後宮へと入ったようだ。
「混沌王殿が負けたなら手負いのアラディアを総力で倒さねばならん。既に態勢は整えている」
見滝原市から離れた海上には大魔王の船だけでなく、多くの艦船がひしめき合っている。
米国海軍の空母艦隊だけでなく、在日米軍や自衛隊を動かす用意もしていたようだ。
後は大魔王の号令一つで米軍と自衛隊、それに悪魔の軍勢が見滝原市に攻撃を仕掛けられる。
「失礼します」
執務室を開けてみるがスライドした書斎の奥に見えるモニターの光しか見えない様子。
いつも座っている執務机の椅子には誰もいなかったようだ。
「閣下はおられないのか?どちらに行かれたのだ…?」
総司令官ともいえる立場の者が消えた事に不安を感じたビフロンスは魔力を探ってみる。
魔力を探り続けていると大魔王の魔力を感じたのか速足で後宮内を歩いていく。
立ち止まった場所とは後宮内にある美術館のような巨大ギャラリースペースだったようだ。
「閣下!!?」
ギャラリースペースの扉を開けて中を見ると片膝をつきながら息を切らせる大魔王を見つける。
慌てて駆け寄るビフロンスであったが、片手を上げながら彼を制止させてきたようだ。
「ハァ…ハァ……私は大丈夫だ」
「で、ですが…どちらに行かれていたというのです?船内で魔力を感じませんでしたが…?」
「お前が気にする必要はない。それよりもアラディアとの決着はついた。軍を撤収させるぞ」
「では、混沌王殿はアラディアを打ち倒したということですね?安心致しました」
ギャラリースペースから出ていく音が聞こえた後、ルシファーが立ち上がる。
息を整えた彼の顔は驚愕に包まれており、恐怖を感じているような表情を浮かべているのだ。
「まさか…私の方が奴に取り込まれてしまうとはな。人修羅に主導権を奪われるところだった」
大魔王は落ち着きを取り戻すためにギャラリースペース内を歩いていく。
美術館内部には様々な巨大絵画が並んでおり、その中の一つの前で立ち止まる。
顔を向けた先にあったのは旧約聖書の創世記の一部分を描いた絵画であったようだ。
「君の望み通り…我々堕天使とカナン族は人類を堕落させた。きっと喜んでくれただろう」
絵画に描かれていたのは、銀髪の青年が青髪の青年を石で殴り殺す凄惨な光景。
絵画を見つめた後、隣に飾られたアダムとエヴァの楽園追放の絵に視線を向ける彼はこう語る。
「エヴァは私から知恵の種を授かった女。種は芽吹き…
意味深な言葉を残したルシファーが歩き去った後、彼の美術館は静寂に包まれるのであった。
……………。
「悪魔崇拝のルーツを知りたいのかい?」
書斎で仕事中であった里見太助の前には娘の那由他が立っている。
悪魔や悪魔崇拝組織と関わるようになったことから彼女は悪魔の歴史が知りたくなったのだ。
「悪魔崇拝組織が生まれるキッカケは何だったのですの?私は何も知らないんですの…」
「その話は長くなる…そして、とても恐ろしい話となるだろう。それでも…聞きたいか?」
恐怖を感じながらも頷いてくれた娘のために父親はノートPCを閉じてくれる。
電動車椅子を操作しながらソファーの前に移動した後、娘にも座るように促してくれる。
ソファーに座った那由他の顔を真剣に見つめた後、遠い眼差しを浮かべながら語っていくのだ。
「悪魔崇拝の原点を語るなら…先ずは旧約聖書の創世記から語っておこう」
「旧約聖書の創世記…?」
「ここから始まるんだ…唯一神を憎む者が地上で誕生した原点こそが…創世記の登場人物」
――アダムとエヴァから生まれた最初の子供……
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旧約聖書の創世記第四章においてはアダムとエヴァから生まれた兄弟の物語が描かれている。
楽園から追放された最初の男女は協力しながら強く生きていくことになるだろう。
そして妻となったエヴァから最初に生まれた子供こそが銀の髪をもつカインと呼ばれる者。
後に弟として青い髪をもつアベルが生まれ、二人の兄弟はすくすく成長していくことになる。
やがて子供達は大きくなり両親の元から一人立ちすることとなるが、弟は兄と共に生きていく。
兄弟の仲はとてもよく、兄を慕う弟は共に生きようとしたようだ。
2人とも美しい青年になった頃、両親から離れていった兄弟は農業と牧畜で生活をしていく。
兄は農業を行い、弟は羊飼いをしながら生活していくのだ。
「兄さん、今年の作物はどうだい?」
「アベルか?見ろ、今年の小麦はとても美しい出来栄えになってくれた。主も喜んでくださる」
毛皮の服を纏う兄は自信たっぷりの表情で作物の出来栄えを弟に自慢する。
「凄い豊作だね。虫の被害も出なかったし、主は兄さんを愛している証拠だよ」
「今年は主に初めて作物を捧げる年だ。一人立ちした我々の努力が実を結んでくれるだろう」
2人の兄弟は唯一神へ捧げものをするために作物の中から最高のものを選んだ後、運んでいく。
カインは小麦や野菜の中から出来のいいものを選び、アベルは子羊を縛って運んだようだ。
住んでいる地域で一番天に近い山の頂上にまで来た兄弟は簡素な祭壇に捧げものをする。
平伏しながら主の御言葉を待ち続けていると、太陽の如き光が雲の隙間から現れる。
同時に並ぶ者無き天空の神が捧げものを送った兄弟に念話を送ってくれたようだ。
<<アベルよ。素晴らしい子羊の捧げものだ。我が光を与えよう>>
「主よ、有難う御座います。兄さんの捧げものも受け取って下さい、凄く出来のいいものです」
<<それは必要ない>>
驚愕した表情を浮かべたカインが顔を上げ、動揺したまま天空の神に叫んでしまう。
「主よ…何故ですか!?俺が育てた作物は弟の子羊に負けない程の出来栄えだというのに!!」
<<黙れ!!>>
主の怒りに触れたと感じたカインは顔を下げたまま再び平伏する。
しかし下げた顔には何が浮かんでいるのかなら唯一神は見抜いているのだ。
<<カインよ、何ゆえ憤る?何ゆえ顔を伏せたままにする?>>
横の兄を心配するアベルが顔を向ければガタガタと震え続ける兄のカインがいる。
その震えは唯一神に対する恐怖なのか憤りなのかは弟には分からないようだ。
結局今年の捧げものはアベルの子羊だけとなり、失意に暮れたままカインは帰路につく。
受け取らなかった兄の捧げものを抱える弟は兄の横にまで来て慰めてくれる。
「兄さん…元気を出して。来年の捧げものならきっとお気に召してくれるはずだから」
「……そうだといいな」
落胆していたが可愛い弟が元気づけてくれた事で立ち直ったカインは再び労働に勤しんでいく。
今度こそ気に入る捧げものを作ろうと雨にも負けず、風にも負けず、カインは努力する。
そんな兄の姿を見守っていた弟は兄の努力が実を結んでくれるよう主に祈りを捧げる。
しかし、兄弟の祈りなど無視するような態度を唯一神は繰り返してきたのだ。
<<カインよ、顔を上げよ。正しいことをしているのなら顔を上げられるはずだ>>
五年目の捧げものすら受け取ってくれなかったカインは平伏したまま震えている。
捧げものを受け取ってくれた弟まで震えているが、唯一神が恐ろしいからではない。
隣で震える兄の感情は恐怖心ではなく、明らかに怒りの感情なのだと伝わるからなのだ。
<<正しいことをしていないなら罪の門口が待ち受ける。汝はそれを治めねばならぬ>>
ついに口も聴いてくれなくなった兄を心配し続ける弟であるが、来年の捧げものがある。
六年目の捧げものを用意した兄弟に待っていたのは変わらぬ残酷さであった。
「ふざけるな……ふざけるなぁぁぁぁぁーーーーッッ!!!」
六度目の捧げものすら受け取らない唯一神に対して、ついにカインは憎しみをぶちまける。
「俺の穀物の何が気に入らない!?どんな困難にも耐え抜いた俺の穀物が弟に劣るのかぁ!?」
<<我が子よ、その通りだ>>
「何だとぉ!?絞めた子羊のような血生臭い捧げものしか気に入らないというのかぁ!!」
<<捧げものの問題ではない。汝の内側に宿る獣こそが、アベルに劣るものなのだ>>
「俺自身が気に入らないから捧げものを受け取らなかったのか…?俺が大嫌いだから…?」
<<我は汝らを愛している。だからこそ、我は汝に試練を課すのだ…カインよ>>
「何が試練だ!!俺が気に入らないくせに……愛しているだなんて二度と口にするなぁ!!」
激怒したカインは弟と唯一神を捨て去るようにして消えていく。
失意に暮れながら兄を心配していると畑の方から焦げ臭い匂いがしたため慌てて家を出る。
「そ……そんな……」
アベルが見た光景とは、丹精込めて育てた畑の作物を焼き尽くす兄の姿。
気がふれた表情を浮かべながら怒りの松明を握っている兄の元へと弟は駆け寄るのだ。
「兄さん…なんてことをしたんだよ!?この畑は兄さんの大切な畑だろ!!」
狂った笑い声を上げ続けているカインであったが、弟の声がした方に顔を向けていく。
「もうこんな畑に用はない……それよりもアベル、野原へ行こう」
「野原…?もう夜中だというのに野原に何の用事があるというの…?」
「行けば……分かるさ」
内密の話でもあるのかと弟は渋々と野原に向かって歩いていく。
弟の後ろを歩いていく兄は周囲に視線を向けながら何かを探しているようだ。
探し物を見つけた兄は松明を捨て、後ろの明かりが投げ捨てられた事に気づいた弟が振り向く。
「えっ……?」
弟が振り向いた瞬間、頭部に激痛が走る。
大きな石を両手で抱えたカインが突然襲い掛かってきて頭部を殴りつけてきたのだ。
「に…兄さん……ッッ!!?」
激痛に耐えられず血を流しながら倒れ込むアベルに馬乗りとなり、カインはさらに殴りつける。
「貴様のせいだ!!貴様なんかがいたせいで……俺は主から愛されなかったぁ!!」
何度も何度も殴りつけ、頭部全体が血塗れとなる中、弟は最後の言葉を兄に伝えようとする。
「やめて…よ……主が兄さんを嫌っても……ボクは兄さんを……愛してる……」
「俺が欲しかったのは主の愛だ!!お前の愛じゃない……お前の愛じゃなかったんだぁ!!」
最後の一撃を放とうとするカインの目には大粒の涙が浮かんでいる。
同じように涙を流し続ける最愛の弟に目掛けてトドメの一撃を放つ時がきてしまう。
「ガッ……アァ……」
ついに力尽きて死んでしまったアベルの血濡れた姿は松明の明かりで見えているはず。
突然我に返ったカインの体がガタガタと震えだし、目にはとめどなく涙が溢れ出すのだ。
「どうして…こんな事になった…?俺は弟を…アベルを…殺したくなんて…なかったのに…」
人類で最初の殺人が行われた凄惨な現場の中で兄のカインは泣き崩れてしまう。
弟を土葬し終えたカインは牧場や家にも火を放ち、兄弟が暮らした思い出の地を去っていく。
日が昇る中、カインの脳内に唯一神の念話が響いてくるのだ。
<<アベルは何処にいる?>>
「俺に話しかけるな……俺は弟の番人などではない……」
<<貴様は何をした?貴様の弟の血が土の中から我に叫びを上げ続けているのだぞ>>
「知ったことか……俺はもう、貴様の愛など求めない。独りで…生きていくさ…」
<<カインよ、貴様を呪ってやる。最初の殺人が行われたこの地より去れ>>
「言われなくても出て行ってやる……俺はもう……こんな場所に未練などない」
唯一神から呪われてしまったカインは二度と農業を行うことは出来ない罰が与えられるだろう。
一生を放浪者として終わらせるしかなくなったカインであるが、それでも強く生き抜いていく。
報復されるなら望んで受けてやるというが、誰もカインを殺せない呪いもまた与えられている。
最初の人類は現代人よりも遥かに長生きであり、長い時間の中を死ぬまで悔いろというのだ。
その後のカインはエデンの東、ノドの地に定住することになっていく。
アベルを殺して数十年後になった頃には人類の数も徐々に増えているのだ。
「父と母は俺達兄弟以外の子孫も残したか…まぁいい、俺はもう両親の元に帰るつもりはない」
親族ともいえる者の中で見つけた1人の女性から一目惚れされたカインは彼女と添い遂げる。
そして生まれたカインの息子こそが、
失った愛する弟の代わりとして息子を溺愛したカインは大工となり、息子の街を築き上げる。
エノクもまた大きくなっていき多くの子供達を生み出す頃にはカインの姿も年老いている。
年老いた老人になろうとも唯一神への憎しみが消えることはなかった時、悲劇が起こるのだ。
「そんな……そんなバカな……」
年老いたカインが見た光景とは、息子のエノクが天に昇天していく光景である。
「唯一神は俺から全てを奪うつもりか!?弟だけでなく…愛する息子まで奪うというのか!?」
両膝が崩れ落ちた老人は天に向かって憎しみの叫びを上げ続けるだろう。
その声は息子のエノクにも聞こえており、地球から遠く離れようとした時に振り向く。
エノクの背後の宙域には天国へと迎えに来たミカエル達がいる中、彼は光の天使になるのだ。
地球よりも大きい巨体はサンダルフォンと同じく上るのに500年かかると言われるだろう。
<<……父さん>>
<<行くぞ、メタトロンよ。これより汝は契約の天使として宇宙を支える任務が与えられる>>
<<……承知しました>>
無機質な巨大ロボのような機械天使と成り果てたが、その目には人間の温もりが残っている。
機械の目を閉じながら家族を残して天に昇ることを許して欲しいと彼は願うばかり。
そして大天使メタトロンは遠い未来の世界のボルテクス界において人修羅と戦うことになろう。
一方、息子を唯一神に奪われたと怒り狂うカインは狂った笑い声を上げながらこう呟くのだ。
「ククク…いいだろう、そこまでするなら俺も覚悟が決まった。俺は未来永劫貴様を呪おう…」
立ち上がったカインは悪魔のような形相を浮かべながら天を睨んで宣言する。
「俺は命尽きるまで呪いの種を女に撒く農夫に戻る…俺の種は未来へと呪いをばら撒くだろう」
その後のカインは生涯をかけて唯一神を呪うための子種を撒く農夫人生となるだろう。
街を建設して手に入れた権力で搔き集めた女とセックスし続け子を産ませ、悪魔学を刷り込む。
彼が考えた悪魔学とは、唯一神が生み出した世界を真逆に変えて貶めること。
神の教えを真逆にしろ、自然を愛せと言われたら焼き払え、隣人を愛せと言われたら貶めろ。
神の血であるワインの代わりに子供達の生き血を飲めと狂い笑いながらセックスし続ける。
セックス狂いとなった老人は最後の瞬間まで呪いの種を撒き続けるだろう。
唯一神を呪ったカインが死んだ死亡原因とは、セックス中に死ぬ腹上死であったのだ。
<<貴様は試練に打ち勝てず我を呪いながら堕落した……我は怨みをおくぞ、カインよ!!>>
最初の殺人の罪と唯一神を呪う罪を犯した罪人に与えられたのは聖丈二を超える程の罰である。
丈二も生前、唯一神に逆らう罪を犯したために転生して形を変える権利を剥奪された者。
転生を繰り返しても罪人と同じ姿にされ続けるが、救いがあるとすれば罪の記憶がないこと。
しかし、カインは丈二と同じ罰を受けながらも生前の記憶を転生先でも与え続けられた者。
彼はどんな時代、どんな並行世界に生まれてもカインとして生き続けるしかなくなったのだ。
そんな彼もまた光と闇の戦いに身を投じるために魔法少女がいない世界に転生を果たすだろう。
21世紀の東京で生まれた彼は
ナオヤは唯一神に復讐するため、唯一神が愛した弟のアベルを
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「カインは努力し続けたからこそエゴに飲まれ、献身に応えなかった唯一神を憎んだんだ」
旧約聖書時代のカインの哀れな人生を聞かされた娘の目には涙が浮かんでいる。
結婚を夢見る年ごろの女の子として、努力が報われない人間の姿に共感したのだろう。
「カインが可哀想ですの…夫婦関係だって報われないと…きっと喧嘩になりますの…」
「その通りだね…夫婦の契約は神と人間との契約と同じだ。相互利益が無ければ破綻する」
「あんなに一緒にいられた愛する弟でさえ…殺せるものなんですの?エゴという感情は…?」
「自分の優越性しかいらない、劣等性は許さない。
「魔法少女だってエゴは持ってますの…だから神浜の魔法少女達は過ちを犯したのですね…」
「本来なら心を通わせ合える存在でさえ殺し合える…人間の感情の中から悪魔が生まれるのさ」
長い話になったために小休止として娘がコーヒーを淹れに行ってくれる。
コーヒーを飲んで一息ついた後、那由他はカインの子孫について父親に聞いたようだ。
「彼の呪いは子孫の中へと受け継がれ…その中で最も強い呪いを継承したのがカナンだった」
太助が語り始めたのは、カインが死んだ後の物語であった。
……………。
「ようやく箱舟が完成した…これで主が世界にお与えになられる洪水から生命は生き残れる」
いとすぎの木で作られた巨大な箱舟を見上げるのはノアと呼ばれる人物である。
アブラハム、モーセ、ノア、イエス、ムハンマドは五大預言者と呼ばれており彼もその一人。
「この世界は主の怒りをかってしまった…滅びは避けられない。それでも主は私に言われた」
唯一神が選んだ選民と生物のつがいをそれぞれ二体ずつ箱舟に載せて生き残れと命じらている。
神の命令を果たすため、600歳となる老人のノアは己の全てをかけて箱舟を建造したのだ。
「世界はカインがばら撒いた悪魔崇拝者で穢し尽くされた…滅びは我々の自業自得だったのだ」
タリム盆地で暮らしてきたノアに導かれた選民達は存亡をかけた船出に旅立っていくだろう。
唯一神は地上に増えた人類が犯す罪を嘆き、怒り、全てを飲み込む大雨を世界に与え続ける。
川は氾濫し、海は津波を起こし、世界の大部分が水の中に沈もうとしているのだ。
この洪水によって悪魔と人間との間から生まれたというネフィリムの大部分も死ぬだろう。
巨人でありカニバルの化け物でさえ天空を司る唯一神の洪水に逆らえる力など無かったのだ。
大洪水は40日40夜続き、地上に生きていたもの全てを滅ぼし尽くす。
水は150日の間増え続け、その後箱舟はアララト山の上に止まったのである。
唯一神の天罰から生き残れた人類はノアを含めたたったの8人。
しかし、この8人の中にカインの呪いをもっとも深く受け継ぐ忌み子が乗船していたのだ。
「このたわけがぁぁぁぁぁーーーーッッ!!!」
怒り狂うノアが手に持った杖を振るい、めった打ちにしていた者とはノアの次男である。
名はハムであり、そして彼の息子のカナンこそがカナン族の始祖となる人物であった。
「貴様は主が禁止した性行為を箱舟内で行った!!貴様のせいで我らは呪われる!!」
「性欲を我慢出来なかったんだ!!許してくれ父さん…許してくれぇぇぇぇ……」
「私が許しても主は絶対に許されん!!終わりだ…我らはもう…終わりだぁぁぁぁ……」
箱舟によって生き残れたノアであるが、息子が背信行為をしたことに絶望していく。
浴びる程の葡萄酒を飲むようになり、裸のまま寝るような堕落した日々を送るようになる。
そんな時、裸のノアの姿に気が付いたハムの息子のカナンは裸体を見て興奮していく。
「あぁ…お爺様……老齢を感じさせない程の……美しい体だ……」
彼は男であるのだが、同じ男であり家族に向けて欲情しようとしているのだ。
その光景こそがカインの呪いが凝縮した堕落であり、世界の在り方を真逆にする行為。
男女が生み出す正しい愛情ではない、
カナンの背信行為に気が付いたノアは我を忘れる程にまで激怒する。
父親と同じように杖でめった打ちにした後、吐き捨てるようにしてカナンにこう告げる。
「カナンは呪われろ!!奴隷の奴隷となり、セムとヤフェトに仕えろ!!」
「どうして僕がそこまでの事を言われないとならないんだ!?男の裸に欲情しただけだろ!?」
「所詮貴様は混血種だ!!アダムの子孫の厳格なモラルに束縛されない背信者だ!!」
アダムの純粋なる血統であるノアは混ざりものであるカナンを許さず罵倒し続けてしまう。
「同性に欲情して何が悪い!!世界はもっと自由であるべきだ…混沌であるべきだ!!」
「快楽主義に狂いおって…出ていけ悪魔め!!二度と私の前に姿を見せるでないぞ!!」
「ああ…出て行ってやる!!そして僕の血は生み出してみせる…混沌が支配する世界をな!!」
こうしてノアの元を出て行ったカナンは生き残りの人類はいないか探す旅へと出かけていく。
洪水が引いた地上へと歩いていく時、朝焼けの美しさが広がるのだが彼は視線を逸らす。
太陽を表す唯一神に視線を向けるのではなく、彼は金星の方角に視線を向けながら呟くのだ。
「僕はもう唯一神などいらない…僕の主となるべきは…金星や木星の神様であるべきだ…」
旅を続けるカナンは現在のパレスチナ地域辺りで生き残りを見つけた末に子孫を残していく。
こうして生まれたのがカナン族であり、この地域こそが後のイスラエルとなるのであった。
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「あの地域がカナンが残した呪いの民が暮らす国だ」
現在でいうエルサレム旧市街の南西隅にあるシオンの山の丘に潜むのは悪魔の軍勢。
空に浮かんでいるのは光り輝く天使の六枚翼と天女の羽衣のような布を纏う大魔王ルシファー。
下には200体の堕天使達が佇み、丘の上からカナン地域の集落に目を向けている。
後にエグリゴリの堕天使と呼ばれる悪魔の代表ともいえる者達は不気味な笑みを浮かべるのだ。
「閣下が授けた知恵の種は芽吹いてカインとなり、カインの呪いはハムに継がれて今がある」
口を開いたのは悪魔姿となっているシェムハザであり、隣にも悪魔姿になったアザゼルがいる。
「この呪いの民こそが世界支配の鍵となる。箱舟で生き残った者の血が世界を堕落させるのだ」
未来を見通す眼をもつ大魔王が練り上げたのは、人類誕生から何千年にも及ぶ途方もない陰謀。
それを達成するために利用されるのが快楽だけしか頭にない堕落した人々なのだ。
「いずれこの地にはエジプトから脱出したヘブライの民が訪れる。その前にお前達は中で潜め」
「洪水で大部分が死んだネフィリムを再び増やさなければならない…この地は最適でしょうな」
「我ら悪魔の血脈と知恵をこの地に残す。いずれ閣下とバアル様を崇める地域となるでしょう」
「金星と木星の神を欲したカナンよ…私が望みを叶えてあげよう。そしてカインの望みもな」
200体の堕天使達の姿が邪悪な光を放ち、全員が人間の姿に擬態していく。
「行ってこい。この地に根差し、妻を娶って悪魔の血を残し続けるがいい」
大魔王の命令を受けた堕天使達はヘブライの民よりも先にカナンに定住することになるだろう。
始祖カナンより継がれてきた堕落の思想をもつ住民達は悪魔達を喜んで迎え入れるのだ。
その光景を陰で隠れながら見ている存在とは契約の天使であるインキュベーター。
感情がないながらも最大の危機感を感じているのだが、大いなる意思の如き声が響いてくる。
<<捨て置くがいい。これは宇宙延命の熱を手に入れるために必要な犠牲なのだ>>
「その声はメタトロン様!?どうしてですか…悪魔が人間を支配しようとしてるのですよ!?」
<<我らが主にとって、これは人類を試す試練。そのためにルシファーがそこにいるのだ>>
「では…アダムとエヴァを創造された時より始まっていたというのですね…?」
<<我が父に呪いを与えたのもこれを生み出すため。世界は退廃し、多くの絶望が生まれる>>
「その絶望から宇宙を温める熱を生み出す計画だったのですか…?」
<<全ては我らが主の掌の上。案ずるな…汝は契約の天使としての本懐を果たせ>>
「仰せの通りに…我らが主の宇宙に永遠の熱が与えられますよう、僕達は励んでいきます」
契約の天使にとっては最高責任者であるメタトロンからの指令を受け取った者が去っていく。
それに気が付いているルシファーの口元には不気味な笑みが浮かんでいるようだ。
「今は主の掌の上で踊ってやろう…だが、悪魔の庭になったこの星の家畜共は私達のものだ」
これより後の時代こそ、箱舟で生き残ったハムの血が起こす反逆の物語が始まっていくだろう。
ハムには四人の子供がおり、それぞれがノアから見捨てられ新天地へと移動するのだ。
カナン地方だけでなく、クシュはエチオピア、ミツライムはエジプト、プトはリビアに根差す。
ハムは箱舟で禁忌を犯したために肌が黒くなり、黒人の祖となったとタルムードに記される。
クシュの息子は
フリーメイソンは二ムロデを崇拝するようになり、彼の思想を自分達の教義に取り入れるのだ。
伝説の塔を建造した偉大なる建築王として建築ギルドから崇拝され、悪魔教義も受け継がれる。
二ムロデの野望は
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「イルミナティの目標とは、バベルの塔の如く天を目指すこと。それが神秘主義なんだよ」
「唯一神のような存在になって地上を支配する現人神になるのが目的だったんですのね…」
「彼らの中には悪魔の血が流れている。だからこそ先祖の文化崇拝を誰よりも行ってきたんだ」
「悪魔は…魔法少女の魂だけでなく、体まで食肉にしますの…本当に…恐ろしい存在ですの…」
「魔法少女だけじゃない、カナンが残したバアル崇拝によって普通の子供まで生贄にされる…」
「私達は…恐ろし過ぎるカルト金融マフィアに支配され続けるしか…ないんですの…?」
娘は震えながら助けを乞うような表情を父親に向けてくる。
それでも現実は厳しいと分かっている太助は眼鏡を指で押し上げた後、残酷な現実を語るのだ。
「残念ながら彼らに対抗出来る国など存在しない。資本主義国家を支配するものこそが金融だ」
「世界の銀行組織を築ける程の大財閥に勝てる国は…本当に存在しないんですの…?」
「想像してごらん。車はガソリンがないなら…どうやって動けばいいんだい?」
「そ……それは……その……」
「国だけでなく企業だって銀行から融資が受けられないならどうやって事業を続けるんだい?」
「え……えっと……」
「冒険家だって融資が必要だし、全てのことにいえる。金が無ければ…
カナン人であったユダヤをここまで巨大にした存在とはキリスト教だと太助は語ってくれる。
キリスト教の教義では利子を取ることが許されず、金融は汚れた仕事だと蔑まれてきた。
しかし経済活動ではそれを必要としたことでユダヤの需要が生まれることになっていく。
ユダヤ教では利子取りは禁止されていなかったため、ユダヤ人は金融業に従事することになる。
他の多くの職業がユダヤ人に閉ざされていたため、金融業は彼らにとって天の恵みだったのだ。
ユダヤ人の見解が変わる一方で、彼らの政治権力を危惧する反ユダヤ主義が生まれたのである。
「ユダヤの教義で利息を取ることが合法なのはね…
「そ……そんなことって……」
「異教徒を
「酷過ぎますの…そんな連中のせいで…私達は死ぬまで搾取されるだなんて……」
「日本の中央銀行創設にはフランスのロスチャイルドが関わってる…日本も支配されてるんだ」
呪われたカナン人はヘブライのユダ族に吸収されるが、彼らは逆にユダ族を乗っ取ってしまう。
ソロモン王は彼らを擁護したことでヘブライ民族は南北に分断される程の内戦と化す。
結果は歴史が示す通りイスラエルの崩壊であったが、ユダ族化したカナン族は不滅だった。
白人であるセム族と激しく争いながらも交易で財を成し、フェニキア人と呼ばれることになる。
外国でも溶け込める
彼らは十字軍を通して世界に膨大な交易路を築きながらカナン文化の腐敗も持ち込んだのだ。
「白人のセム族とは違う肌が浅黒い中東貴族こそがイルミナティを築き上げた黒の貴族なのさ」
「中二病っぽいネーミングでしたけど…肌が黒い中東貴族だったということなんですのね…」
「彼らの黒さは見た目だけじゃない…その内側に宿した
彼らはカナンの遺言に従い、あらゆる地域で悪魔崇拝をばら撒いていくだろう。
同胞に対してしか秘密を漏らさず、秘密裏に盗みや姦淫、そして儀式殺人を繰り返す。
彼らの腐敗に気が付いた者には容赦せず虐殺の限りを尽くす
「白人であるセム族は個人主義を尊びながら争いを繰り返したせいで彼らの天下となったのさ」
「欧米はユダヤ帝国だとパパが言ってた理由は…そういうことだったのですね…」
「足を引っ張り合う白人の横で財を成し、ついに世界を支配出来る程の銀行家となったんだ」
「私はそんな恐ろしい連中から命を狙われてるんですの…?私達魔法少女は…どうしたら……」
「那由他……」
震えが止まらず大泣きしてしまいそうになった娘が立ち上がり、駆け足で部屋から出て行く。
娘を怖がらせてしまった自責の念を感じる太助であるが、娘を追いかける姿は見せない。
隠していても現実は変わらないのなら、娘にも現実を知る権利があると感じているのだろう。
「カインから始まった悪魔崇拝こそが世界の羅針盤だ。だからこそ…君の力が必要なんだよ」
背もたれに背中を預けた太助は目を瞑り、人修羅として生きる尚紀の姿を思い出す。
彼から語られた中庸(NEUTRAL)を求めたいという信念を信じて未来を託すのだ。
一方、家の外にまで出てきた娘は息を切らせながら左手を持ち上げる。
ソウルジェムを生み出してみれば絶望の気持ちによって濁りが強まっているのに気が付くのだ。
「ももこさんに吸い出してもらわないと…だけど私は…これからどう生きればいいんですの?」
絶望の感情を纏いながらも、那由他は足早にももこの家へと目指していく。
そんな彼女を見守っていたのは電柱の上で佇んでいるハクトウワシの姿なのだ。
「ラビと共に長くいたせいなのか…?私もまたこの世の事象に未練が生まれたのだろうか…?」
別行動をしていたサンダーバードであったが、彼はラビの親友である那由他を気にしている。
彼女もまたラビと同じく世界に絶望出来る存在だと感じているようだ。
「この世の事象に未練が在れど…滅びるなら結末は同じ。最後は…親友と共にいたいのかもな」
那由他と共に生きた頃の感情が残っているラビの気持ちに触れてくれた仲魔は去っていく。
いずれ彼女が世界に絶望した時こそ、迎えに来てくれる存在になるのやもしれない。
彼女を絶望の底へと導く概念こそがカインとカナンの呪い。
そして絶望の種を撒いた者こそが唯一神であり、芽吹いた絶望を収穫するのが大魔王であった。
今回のメガテンカメオ出演枠はデビルサバイバーのカインとアベルです。
イザ・ベルだけじゃ寂しいと思って主人公兄弟も突っ込んでみました。
メガテンのシミュレーションゲームはデビサバしかしたことありませんが、とても面白くてお勧めしたいですね。
ドリーは推しのヒロインでした。