人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
見滝原総合病院での失態や雪野かなえ達に住まいを発見された事でアリナ達は引っ越しする。
現在の彼女達の生活する場所とは海に浮かぶ大魔王の居城ともいえる豪華客船。
客船の前部である迎賓館エリアでメイド生活を送ることになったようだ。
懲罰を兼ねた奉公生活を余儀なくされたアリナは辟易しながら働かされている。
「ヴァァァァァーーッッ!!部屋数が多過ぎてクリーニングしきれないんですけケド!!」
客室の清掃作業をさせられているアリナは今日も癇癪を起しながら喚いている。
元々女子力が低過ぎるアリナは清掃作業が苦手であり、毎日が苦行ともいえる状況なのだ。
「オーダー18が始まるまでは雑務をやってもらう。この程度の罰で済んで感謝するのだな」
アリナに声をかけてきたのは迎賓館エリアを統括する堕天使ビフロンス。
髑髏めいた仮面を身に着ける執事姿の悪魔を睨んでくるアリナの威圧も涼しい態度である。
「こんなヒラヒラフリルだらけのキュートなメイド服はアリナに似合わないんですケド!!」
スカートを持ち上げてばたつかせる彼女のクラシカルメイド服は他の女悪魔も身に着けている。
これが豪華客船で働く女性達の作業着であるのだろう。
「その服はな、大魔王様の衣装係りを務める堕天使がデザインしたものだ。私の趣味ではない」
「サタンとしても語られてきた大魔王ルシファーの衣装係りを務める堕天使…?」
「アドラメレク。ラバ頭で孔雀のような派手衣装を好む変態であり…私と同じく船の守護者だ」
「酷い言われようなんですケド…その堕天使」
「ここだけの話…エグリゴリの堕天使の中にはな、頭がおかしい制御不能な連中がいるのだ…」
鬼畜外道な堕天使の中でさえ異端視される者に興味を持ったアリナであるが今は仕事中である。
適当に仕事をやりながらもメイド長の目を盗んでは船の内部を色々見て回っているようだ。
「シップの上部はカントリーハウスのような宮殿エリアで、下部の船倉は何なのか疑問なワケ」
宮殿の回廊を歩きながらブツブツ言ってると女子トイレの方から十七夜の声が聞こえてくる。
「ハァ……シップの生活に慣れない貧乏人はまだ苦労してるワケ?」
中に入ってみると酸味のキツイ臭いが立ち込め、便器の前で嘔吐している十七夜がいる。
どうやら船酔いに苦しんでいるようであり、後ろに来たアリナが背中を擦ってくれるのだ。
「ゲホッ!ガハッ!……すまない、君の前でまた醜態を晒してしまったな…」
「アリナは家族旅行でよく海外に行ってたから船酔いしないけど、アナタは慣れないワケ?」
「自分の家は貧乏でな…船旅を楽しませてくれるような裕福な家の者ではなかった…」
「時期に慣れると思うんですケド。けどさぁ…ヴァンパイアなアナタが船酔いって…」
「海のような水場は吸血鬼の弱点だ…海上生活させられたら落ち着かなくて気分も悪くなる…」
「ヴァンパイアはニンニクや銀がウイークポイントなだけじゃなくて、水も苦手なんだっけ?」
「うむっ…吸血鬼の自分は泳げない金槌になってしまった。もし海に落ちたら助けて欲しい」
「日光の弱点を改善出来てもヴァンパイアは色々なウイークポイントがあって大変なワケ」
トイレから出てきた2人が別れていき、それぞれの職場に戻っていく。
クラシカルメイド服を着た十七夜は迎賓館の鏡の回廊を抜けていくと声をかけられる。
キッチンワゴンを押しながら近寄ってくる女悪魔のメイドさんは十七夜の同僚のようだ。
「宮殿の西棟の主であるアドラメレク様のお茶の時間なのだけど、持って行ってくれない?」
「アドラメレク…?その人物もエグリゴリの堕天使なのか?」
「そうよ。あの御方はめんどくさ…じゃなくて、美意識が強い御方だから粗相のないようにね」
別の用事があるからと十七夜に配膳をお願いした悪魔メイドさんは去っていく。
本音を言えば彼女はアドラメレクが苦手であり、面倒ごとを後輩に押し付けたのである。
十七夜はキッチンワゴンを押しながら迎賓館を進み、船の西側である西棟の入口に入るのだ。
「聞かされた話では大魔王の後宮に繋がる東西の棟にはそれぞれ番人がいるそうだな…」
アドラメレクもそのうちの一体なのかと考えていたら西棟の番人の間に辿り着いている。
恐る恐る扉を開けてみると十七夜の目が点になってしまう光景が広がっていたのだ。
「こ……これは……」
豪華なカーペットやシャンデリアで飾られた空間を台無しにしているのは変態マネキンの数々。
彼がデザインした奇抜なファッションをさせられたマネキン空間はまるで衣装部屋のようだ。
豪華な机の上にはファッションデザイナーの職場かと見紛うような道具が並んでいたのである。
「んん~~?見慣れない女悪魔ですね~?貴女は閣下が招き入れた新入り悪魔ですか?」
「その通りだ…じゃない、その通りです…。その…お茶を持ってきたぞ…ご主人…」
机の椅子に座るのはサンバのカーニバル衣装のような変態チックな服装を纏う褐色肌の男悪魔。
黒いラバを彷彿させる男は白い化粧を顔に施し、不気味な笑みを浮かべてくる。
孔雀のトサカ頭のようなモヒカンヘアーが不気味さを醸し出す者こそがアドラメレクであった。
【アドラメレク】
サマリア等で崇拝された太陽神の一種であり、その名はヘブライ語で王を意味する。
バアル神であるモロクと混同される存在であり、バアル・アドラメレクとも呼ばれる王である。
地獄の上院議員にして地獄の宰相、サタンの洋服係りと多岐に渡る職務をこなす存在のようだ。
バアルと結びつくことから子供の生贄を求める悪魔でもあると解釈される存在であった。
「お茶はそこに置いておきなさい。それよりも…フフフフフ……実に整った美しい娘ですね」
立ち上がったアドラメレクが邪悪な笑みを浮かべながら近づいてくる。
目には好奇心の輝きが宿っており、故郷でこれと同じ恐怖を十七夜は経験してきた。
(この怖さ…まるでファッションデザイナーを目指す矢宵君が衣装を用意する時のようだ…!)
尚紀も酷い目に合わされた矢宵かのこと同類の匂いがすると十七夜は感じているのである。
「フゥゥゥゥム……身長は155cm程度、3サイズは……といったところでしょうね?」
「一目見ただけで自分の体のサイズが分かるというのか…?」
「少し待ちなさい、今デザインしている新しいメイド服の試着をして欲しいのですよ」
「自分が新しいメイド服を着るのか…?」
室内には多くの衣装ケースが存在しており、十七夜に試着させるデザイン服を探していく。
鼻歌交じりに衣装を漁る彼の姿はお気に入り人形の着せ替えを楽しむ変態男のようだ。
(もしかして…ここで働く女悪魔達も試着を強制させられてきたのだろうか…?)
「おお、あったあった。さぁ、私の自信作ですよ。胸を張って試着しなさい」
メイド服の新デザイン衣装を見せられた十七夜の頬が赤面していく。
「ぬ…布の面積が小さ過ぎるのではないか?これではまるでサンバカーニバル衣装だ…」
「機能性に優れた上で夏も涼しい衣装です。立派な3サイズをしているのですから着なさい」
「え…ええと…その…自分は他の職務が残っているので…失礼する…」
後ろに振り返ってみると前にいた筈のアドラメレクが立っており、衣装を突き付けてくる。
「更衣室は隣の部屋を使いなさい。さぁさぁ、貴女の美しいボディで私の衣装を輝かせなさい」
目が据わったままジリジリと近寄ってくる変態堕天使に恐怖を覚えた彼女が後ずさっていく。
「これでは物足りないですか?フフ…それでこそです!愉悦はいつもタブーの先にある!!」
もっときわどい変態衣装を着せようと衣装ケースに向かったチャンスを逃さず部屋を出る。
「冗談ではない!あんな変態堕天使の趣味に付き合わされたら何を着せられるか分からん!!」
西棟を走って逃げる十七夜であるが、今の彼女の身体能力は衰えている。
今は日中であり太陽光の弱点を大幅に防げる体でも紫外線によって体が弱体化しているのだ。
「くそ…息が切れる!日中ではスタミナも魔力も回復しないとは…やはり太陽は天敵だ!!」
息が切れながらも走り逃げるのであるが、後ろからは恐ろしい魔力が追いかけてくる。
「待ちなさァァァーーい!!私の楽しみを拒絶するとは…何たる恥ずかしがり屋ですかぁ!!」
後ろを振り向いた十七夜はアドラメレクの真の姿を見たことで叫び返す。
「孔雀の羽を纏ったラバの衣装は遠慮させてもらう!!その紐切れみたいな服など着ない!!」
追いかけてくるアドラメレクの姿は上半身は人型であるがそれ以外は黒いラバである。
縞々ズボンの足はラバの足であり、背中には大きな孔雀の羽が広がる姿をした堕天使なのだ。
片手に持ったマネキンには変態衣装が着せられており、もはやほぼ紐な水着メイド服なのだ。
「そんな衣装を着て仕事をしたら…大事な部分が露出する危険が大き過ぎる!断固反対だ!!」
「やはり貴女は恥ずかしがり屋ですね!立派なボディがあるというのに見せびらかしなさい!」
「貴様のように上半身裸のまま堂々と走り回れる図太い神経など自分はしていない!!」
「教育的指導が必要なようです!頼みを拒絶した罰として…サンバのダンスもしてもらう!!」
「絶対にノーだぁぁぁぁーーーーッッ!!」
大慌てで逃げるメイドと追い回す西棟の主人を見かけた者達は呆然としながらも仕事に戻る。
アドラメレクに追い回される女悪魔の姿はこの船では珍しい光景ではなかったのだ。
息が絶えながらも階段の手摺りの上にお尻を乗せ、滑りながら下の階へと十七夜は逃げる。
「逃がしませんよ!私の焼きごてでお尻をジュージューされたくないなら衣装を着ろ!!」
「楽しそうな競争をしていると聞いてやってきました!私も混ぜてくださいアドラメレク様!」
視線を向ければ走ってきたのはアドラメレクに負けない変態堕天使。
直立して二足歩行しながら駆けてきたのは赤い毛並みの馬人間の如き存在であった。
【オロバス】
ソロモンの七二柱の悪魔の一体であり、馬の頭部を持つ人間として描かれる堕天使。
過去・現在・未来の事物について答え、召喚者には様々な恩恵を与える誠実な悪魔のようだ。
上半身は人型であり頭部と下半身は馬である姿はアドラメレクとよく似た悪魔であった。
「オロバスですか?丁度いい、二手に分かれてあの娘を捕まえますよ」
「自慢の俊足をアドラメレク様にご披露します!それにしても…今日も美しい御体ですな」
「フフ…私は美しさを愛する堕天使。自分の体の美しさを追求する者として努力は惜しまない」
「私もアドラメレク様の御体に近づけるよう毎日筋トレとプロテインを欠かせませんな」
「貴方の体も美しく引き締まったサラブレッド…美を体現する悪魔として誇りを持ちなさい」
互いが自画自賛しながら突然ポーズを取り合い、サンバのダンスの如き光景を生み出していく。
「「フォウ!!フォウ!!我らが美しさを見るがいい皆の衆!!」」
呆気に取られながら見物している擬態姿の悪魔達は絡まれないようそそくさ去っていく。
アドラメレクとオロバスは堕天使界隈でも評判の変な悪魔として知られる存在であった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「この辺がこのシップのハッチエリアなワケ?」
船の貨物やその他を積載する船倉区画を歩いているのは十七夜と別れたアリナである。
彼女は仕事に戻るフリをしながら船の探検を続けていたようだ。
「ハッチの前部は大魔王が所有するスーパーカーの駐車場だけど…後部には何があるワケ?」
船倉を歩きながら進んでいると奇妙な魔力を感じ取ったのか現場に向かう。
立ち止まったアリナが見つけたのは物置に使われているような部屋だった。
<<ウォォォーーッッ!!そこの魔法少女!我を封印から解放してくれぇぇーーっ!!>>
声は部屋の中から聞こえてきたこともあり、アリナは水密扉を開けて中に入る。
「な……何なの……コイツ?」
物置部屋の地面には光る五芒星が描かれており、五芒星内には悪魔が閉じ込められている。
地面に固定されたまま機械アームで殴られ続けていたのはヒトデのような堕天使なのだ。
「魔法少女が閣下の船に乗り込むとは珍妙だが…この際だ!我の封印を解いてくれぇ!!」
「アナタは誰なワケ?」
「我は船の東棟の主人を務めていた堕天使なのだが…見ての通り現在は折檻中である…」
「そんな偉い堕天使がお仕置きされてるって…一体何をやらかしたってワケなのさ?」
「我の名は堕天使デカラビア…それを話せば長くなるのだ…」
【デカラビア】
ソロモンの七二柱の悪魔であり五芒星の形をした堕天使。
序列69番の地獄の大侯爵であり悪魔の偽王国では伯爵や王として残る存在である。
植物や鉱物に詳しく鳥の姿をした使い魔を扱い、頼まれたら人の姿やアスタリスクの姿となる。
五芒星と同じ星形で現われることからブエルとも同一視される悪魔であった。
「我はサッカーが好きでな…東棟の屋上に集めた悪魔達でサッカー大会をしていた時のこと…」
……………。
「フハハハハハ!我のトリッキーなドリブルにはついてこれまい!!」
豪華客船の東棟にはスポーツ施設が揃っており、屋上には大きなサッカー場も整備されている。
ここでサッカーを楽しんでいる者こそ頭部に5本脚が生えたブエルのようなデカラビアなのだ。
ヒトデ悪魔の華麗なドリブルで守りを超えた後、サッカーゴールに目掛けてシュートを放つ。
「我とサッカーボールは盟友だ!行くぞ友よ!必殺のメギドシュゥゥゥーッ!!」
ブエルと同一視されるデカラビアもまた五体を足のように扱うヒトデ悪魔。
サッカーのように手を使わないスポーツとは相性が良く、今日も楽しくボールを蹴る。
豪快なシュートが迫るのだがキーパーを務める悪魔の前でボールが急カーブしていく。
「おやっ?」
ゴールキーパーが向いた方角に飛んでいったボールは船の中庭エリアへと落下したようだ。
王の庭と呼ばれる船の中央エリアは庭園となっており、そこにいたのは大魔王とバアル神。
「ぐふっ!?」
「あらあら?」
探偵事務所は休日なので船に戻って客人と酒を飲んでいた瑠偉の上からボールが落ちてくる。
ボールがぶつかってしまったのは客人として訪れていたモロクの黄金の牛兜なのだ。
兜のお陰で怪我はないのだが、バアル神にサッカーボールをぶつける無礼を許す者ではない。
「誰だ…?我にボールをぶつけてくるとは……よほど死にたいらしいな!!」
「東棟の屋上からサッカーボールが落ちてきたみたいよ」
「東棟の上で馬鹿騒ぎをしている悪魔共の仕業か…許さんぞぉ!!責任者は出てこい!!」
悲鳴を上げながら逃げていくサッカー場の悪魔達を逃がすまいとバアル神が跳躍する。
残されてしまった瑠偉は両手を広げながらデカラビアの無事を願うことしか出来なかった。
……………。
「バアル様の逆鱗に触れた我は東棟の主の地位を剥奪され…こうして折檻中なわけなのだ…」
「それはまぁ…バットタイミングだったヨネ」
「今の東棟の主は閣下の秘書をやってるゴモリーが兼任している…どうにか名誉挽回せねば…」
「それでアリナにヘルプを頼むワケ?んー……どうしよっかシンキングタイムなんですケド」
「くそぉ!ボルテクス界でフォルネウスと出会えず…こちらに召喚されても悪い事だらけだ!」
そう言われた瞬間、アリナの体に宿る千晶が何かを思い出したようにして語り掛けてくる。
「あなた…もしかしてシブヤのハチ公前で待ちぼうけしていたデカラビアなの?」
「なんと!ボルテクス時代の我を知っているとは…それにこの娘には二つの魂を感じるぞ!?」
「妙なところでボルテクスで見かけた悪魔と再会するものね…私は弱者が嫌いなの、分かる?」
「我の力を試そうというのか…?よし、こうしよう。我を助けてくれたら汝の力となろう」
「私はどうでもいいけど、アリナが連れていくなら構わないわ。あなたの力を見せてみなさい」
勝手にしゃしゃり出てきた千晶にイラっとするアリナであるが、ヒトデ悪魔に向き直る。
「オーケー、解放してあげる。アリナはダークサマナーだし、アナタも使役してあげるカラ」
右手に攻撃用キューブを生み出し、ルービックキューブのように分解しながら光弾と化す。
複数の光弾が五芒星封印の起点を破壊し、ついでにデカラビアをボコる機械と拘束具も壊す。
五芒星の光が消えて立ち上がろうとするのだがヒトデの胴体にある単眼はグルグル状態である。
「や…やっと解放されたが…我は何日…機械にしばかれていた…?流石の我もグロッキー…」
空き缶がベコベコになっているようにひん曲がったヒトデ悪魔の体が再び倒れ込んでしまう。
「こんなコンディションで大丈夫なワケ……コイツ?」
先に不安を感じていた時、走ってくる足音に気が付いたため身を隠す。
「この魔力は十七夜なんですケド……なんでハッチエリアに来てるワケ?」
一方、船倉にまで逃げ込んだ十七夜はアドラメレクとオロバスから執拗な追跡を受けている。
「船倉に逃げ込んで陽の光を遮ったのはいいのだが…道が分からん!ここはどの辺なのだ!?」
「どうやら彼女は吸血鬼悪魔だったようですね。船倉に逃げ込んだ途端に動きが良くなった」
「しかし!この俊足を誇るオロバスと優雅を誇るアドラメレク様から逃げられると思うなよ!」
アリナ達が潜んでいる部屋を超えていく者達が通り過ぎた後、アリナはゆっくりと扉を開く。
「丁度いいんですケド。アナタの力を試す絶好の機会なワケ」
変態悪魔に追われる十七夜を助けるためにアリナはデカラビアをけしかけようと企んでいる。
しかし視線を向けた先にいる目を回したヒトデ悪魔を見た途端、不安が滲むのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
海に浮かぶ城ともいえる豪華客船の下層部にある機関室はとても巨大である。
三階構造の中央には大型のエンジンが稼働しており、船を動かし続けているのだ。
「チッ…吸血鬼は小賢しい変化が上手くて嫌になりますね。見失ってしまいましたよ」
「そう遠くには行ってないはずです。手分けして探しましょうか」
アドラメレクとオロバスは機関室を歩き回っていく。
十七夜はというと、霧化を用いてダクトに入り込んだ後に実体化して息を殺している。
(まずい…こんな場所では身動きがとれん…。捕まったら何をされるか分からんぞ…)
人間に擬態している彼女は魔力を隠せているが、それでも体臭までは隠せない。
機関室にそぐわない女の子の匂いを隠しきれるほどラバと馬悪魔の鼻は甘くないのだ。
鼻をひくひくさせながら十七夜を探すオロバスであるが、物音に気が付いた方に振り向く。
巨大なディーゼルエンジンを動かす機関室にあったボイラーの影に人影を見つけたのだ。
「そこに隠れていたのか!観念しろ小娘吸血鬼!」
メイド服を着て蹲りながら泣いている十七夜らしき人物の肩を掴んだ時、オロバスが仰天する。
「き……貴様はッッ!?」
「シクシク…私の股間のイチモツが見当たらない…女になった私のイチモツ見ませんでした?」
振り返った者とは十七夜ではなく、メイド服を着せられているアティスである。
「貴様のイチモツなど知らんわぁ!!一体何処から入ってきた悪魔なのだぁ!?」
「わ!わ!ワタシは何も知らないアルよ!そんなことより後ろがお留守だぜ、コラァ!!」
「そんな古典的な方法で私の注意を逸らせると……ンゴォォォアアアアアッッ!!?」
刹那、体に電撃とお尻に地獄の激痛が迸る。
「尖った星にえぐられた先にある地獄の未来を見てみるか?オロバスよ!!」
浮遊したヒトデ悪魔の先端が刺さっているのはオロバスの肛門である。
「き…貴様はデカラビア!!?誰が貴様の封印を……アギャァァァァァーーッッ!!!」
浮遊したまま高速回転することによって肛門に刺さった先端もまた高速回転していく。
「アスタリスクアスタリスク!!堕天と昇天を同時に味わう刺激に悶絶するがいい!!」
刺さった部位から与えられる地獄の刺激に耐え切れず悶絶しながらオロバスが倒れ込む。
泡を吹きながら白目をむいて気絶した者の尻から離れたデカラビアが勝ち誇るのだ。
「流石はデカラビア…アスタリスクになる悪魔は肛門さえも制するということですな」
「我の突撃はある意味地獄突き!これを喰らえば悪魔だろうが何だろうが絶叫するのだ!」
アスタリスクは小さな星という意味があるが同時に肛門を表すとも言われている。
小さな星の尖った部位で肛門を刺されればどんな悪魔もイチコロだと自慢する状況が続く。
しかし突然周りが暗くなったのに気が付き、二体の悪魔が上を向くと驚愕してしまう。
「「ヒョエェェェーーーッッ!!?」」
上から落ちてきたのは熱せられた巨大な焼きごてであり、デカラビアは緊急脱出を行う。
「アバババババババーーーーッッ!!?」
間に合わなかったアティスは巨大な焼きごてに潰されてしまい、地面でグリグリされるのだ。
『地獄の焼きごて』を放ってきたのは機関室の三階部分で睨んでくるラバ悪魔である。
「一体いつの間に折檻部屋から抜け出したというのです!?我々に仕返しするつもりですか!」
「フン!我は我の自由を体現するのみ!我の力を示し、汚名を返上させてもらう!!」
「貴方は汚名に塗れている姿こそお似合いな肛門悪魔です!自分の頭を見るがいい!!」
ヒトデ胴体の単眼を上に向ければ何やら酷い悪臭を感じてしまう。
馬の肛門にぶっ刺したヒトデの先端は汚れており、ウ〇コの臭いが染みついているのだ。
「あの馬悪魔め……トイレで肛門を綺麗に拭いておらなんだな!?」
「馬糞塗れのヒトデにはお仕置きが必要なようです。私が仕置きした後、もう一度封印する!」
「ええい!ちょこざいな!ロバかも馬かも分からん見た目の雑種悪魔如きに負けはせん!」
宙に浮いたデカラビアが空中戦を仕掛ける構えを見せたのでアドラメレクもまた羽を広げる。
孔雀の羽を羽ばたかせて広い機関室の中で悪魔の戦いを始めていくのだ。
そんな中、ダクトから脱出した十七夜はここぞとばかりに現場から逃げ出そうとしている。
「何だか分からんが逃げさせてもらう…ここが機関室だとすれば位置的に周りは海の中だ…」
金槌悪魔な吸血鬼である十七夜は怯えながら抜き足差し足で逃げていると声をかけられる。
「ヘイ、十七夜」
「うおわぁ!?な…なんだ、アリナか?ビックリさせられるな…君が助けに来てくれたのか?」
「イグザクトリー。拾ったデビルのパフォーマンスを試すついでにアナタもヘルプするワケ」
「ヒトデはアリナが拾った悪魔だったのだな?何でもいいから逃げよう…ここは海の中だ…」
「ハンマーなヴァンパイアなら落ち着かない場所だヨネ。巻き込まれる前に逃げるんですケド」
炎魔法がぶつかり合う赤熱した空間からコソコソ抜け出そうとした2人が立ち止まる。
「ま…不味いんですケド……」
開いた水密扉の向こう側から走ってくるのは機関室職員から連絡を受けたビフロンスのようだ。
「貴様らーッッ!!仕事をサボってこんな場所まで探検ごっこかぁぁぁーッッ!!」
装飾杖を振り回しながらやってくるビフロンスから逃げ出したアリナ達も機関室を走り回る。
てんやわんやな状況となってしまったが機関室の空中では堕天使達がなおも戦い続けていく。
「私の愛の鉄拳で粉砕してくれる!!」
魔力を右拳に集めたアドラメレクが拳を放ち、巨大な闘気の拳が放たれる。
「ヌォォォォーーーーッッ!!」
『マッスルパンチ』を浴びたデカラビアが吹っ飛び、機関室の壁に激突してしまう。
障壁を貫いたデカラビアに目掛けてトドメを浴びせんとアドラメレクが接近を仕掛けていく。
絶体絶命かと思われたがデカラビアの単眼は怪しく笑うように歪むのだ。
「馬鹿なラバ悪魔め!!かかりおったな!!」
デカラビアの前で光が集まり、光玉となった一撃が炸裂する。
「ヌゥ!!?」
閃光手榴弾が爆発する程の光に飲まれたアドラメレクが目を開ければデカラビアが消えている。
戦闘から必ず逃げれる魔法の『トラフーリ』を用いて回避行動をとった悪魔が背中をとるのだ。
「我が魔眼の一撃!受けてみろーーーッッ!!」
アドラメレクの背中に目掛けて単眼から発射されたのは万能属性魔法のメギドラである。
「グワァァァァァーーーーッッ!!?」
メギドラビームを浴びたアドラメレクが障壁を貫き、海の中にまで叩きだされていく。
「ワハハハハ!!西棟の番人如きに負ける東棟の番人ではないぞぉ!!」
勝ち誇るデカラビアであるが状況は理解出来ていないのである。
「ゲェェェェーーーッッ!!?な…なんてことをしでかしてくれたぁ!!」
悲鳴を上げるビフロンスの目の前に広がっているのは開いた穴から海水が大量に流れ込む光景。
「あのヒトデデビルのパワーは拝見させてもらったけど……これってデンジャーだヨネ?」
「当たり前だ!!は…早く逃げねば機関室が浸水して…自分達はどざえもんになるぞぉ!!」
大急ぎで逃げ出すアリナと悪魔達であるのだが水密扉が閉められてしまう。
「開けろーーッッ!!まだ私が中にいるのだぞーーッッ!!?」
向こう側でギャーギャー騒いでいる迎賓館の番人に対して機関室の職員が不安そうにしている。
「…構いません。監督不行き届きによって閣下の船が傷つけられたのです。折檻しなければ」
職員と共にいたのはルシファーの秘書のゴモリーであり的確な判断である。
船の浸水は出来る限り抑え込む必要があり、押し留められなければ船が沈没してしまうのだ。
去っていくゴモリー達の後ろの機関室では既に三階に迫る勢いで海水が入り込んでいる。
「うわーっ!!革命も果たせずに溺死するなんて嫌だーっ!自慢の仲魔で何とかしてくれ!!」
アリナの背中に抱き着きながら浮いている十七夜はパニックになりながら喚き散らす。
吸血鬼は流水が弱点であり、海水に沈められたら死ぬしかないのだ。
「アイノウッッ!!ちょっとヒトデデビル!アナタが招いたんだし何とかするワケ!!」
浮かびながらバシャバシャと慌てているビフロンス達の横では海水に浮かぶヒトデがいる。
体の汚れを海水で洗ったデカラビアは水を得たヒトデのようになっていた時、何かが迫りくる。
「むぅ!?あ……あの者はまさか……ッッ!!?」
開いた穴からやってきた大きな影がデカラビアに近寄っていく。
浮かび上がったデカラビアはウェルカムな態度でヒトデ体を広げながら涙を浮かべるのだ。
「おお…やっと出会えたなフォルネウス!!ようやく再会出来たぞぉぉぉぉーーッッ!!」
単眼をウルウルさせていると海からやってきた存在が海面に浮かび上がってくる。
姿を確認出来たデカラビアの単眼が点となり、激おこぷんぷん丸と化す。
現れた存在とは海の魔物であり堕天使のフォルネウスではなく、大きなアカエイだった。
「イソラじゃねーかぁぁぁぁぁーーーーッッ!!!」
アカエイである。
「海産物と戯れてないで何とかして欲しいんですケドォォォォーーッッ!!」
「ウアァァァァーーッッ!!フォルネウスは何処に行ってしまったのだぁぁぁーーッッ!!」
こうして、アリナ達は助けがこないまま機関室ごと海の藻屑となるのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「あらまぁ?そんなことがあったの~……そっちは大変だったみたいね?」
携帯電話片手に通話中なのは今日の事務仕事を終えた瑠偉である。
通話相手はゴモリーであり、ルシファーの居城で起こった出来事を城主に報告していく。
処罰について尋ねるのだが、瑠偉は思わせぶりに悩んだ後にこう告げてくる。
「船はドックで直せばいいし、私のコレクションの酒や車も無事だし、対処は任せるわ」
「では、キツイ仕置きを喰らわせておきます。あと、デカラビアはどういたしましょう?」
「アリナが封印を解いちゃったんでしょ?あの子に面倒を押し付けちゃえばいいわ♪」
「ハァ……では、そのように致します」
「私は船が直るまでホテル暮らしをさせてもらうわ。それじゃ、後はお願いね~♪」
通話を終えたゴモリーが視線を向ける先とは、電気ショックを与えられている堕天使達の姿。
<<アバババババババーーーーッッ!!!>>
拘束機械に囚われている堕天使達は大魔王の留守を守るゴモリーに折檻されているようだ。
「なんで私まで処罰されるのだぁぁぁーーーーッッ!!?」
「元はと言えば迎賓館のメイドを管理する貴方の監督不行き届きのせいよ。罰を受けなさい」
「そんなぁ!?後生ですから勘弁してくださーーーいッッ!!!」
「フフフ…旅は道連れ世は情けと言いますからね、ビフロンス。アババババッッ!!?」
まだ元気が良さそうなので電圧を上げられてしまい、堕天使達は悲鳴を上げていく。
ビフロンス、アドラメレク、オロバス、デカラビア、そしてアティスまで捕まっているようだ。
「どうして私までこんな目に合わされ……アギャァァァァァーーッッ!!?」
「口答えをするでない!フフフ…粋が良さそうな捕虜を手に入れられたし可愛がってあげるわ」
上機嫌に折檻するゴモリーが纏っているのはSMの女王様をイメージさせるボンテージ衣装。
セクシー女王の衣装もアドラメレクがデザインしたものであり、意外と感性が通じ合うようだ。
「アフゥ!!もっと痛みを与えて下さい!!ボクの女王様ァァァーーッッ!!」
「貴方はマゾヒストのようね?なら、悪い子にはもっとキツイ鞭を与えてあげないとねぇ!!」
鞭でアティスをしばき続けるゴモリーの姿を見惚れているのはアドラメレクである。
自分がデザインした衣装が似合う女性を見るのはこの上ない喜びなのであった。
「フフフ…手違いはあったがあの娘達にも私の衣装を着せる罰が与えられて私は満足ですよ」
「アドラメレク様……お尻が痛いままなんですが、どうにかなりませんかねぇ…?」
「私に言われても回復魔法はかけてあげられませんねぇ。他の女悪魔に頼みなさい」
絶叫が木霊する豪華客船は機関室が浸水したため大型の曳船に牽引されている。
このまま専用ドックで修理が施されるのだろうが、それでもメイド達の仕事に終わりはない。
「ヴァァァーッッ!!こんな恥ずかしい服を着せられるワークなんて出来ないんですケド!!」
回廊の拭き掃除をやらされているメイドのアリナが着ているのはアドラメレクの自信作。
破廉恥なメイド衣装とサンバのカーニバル衣装を掛け合わせた変態メイド服なのだ。
ほぼ水着でしかない衣装を着せられて仕事をやらされるアリナは羞恥心が爆発中である。
「見た目は恥ずかしいのだが、着てみると思ったよりも快適に仕事が出来るな」
隣で働く十七夜もまた同じ衣装を着せられて仕事をさせられる罰を受けているのである。
彼女達が生き残れたのは苦肉の策としてアリナが用いた脱出手段。
機関室にいた者達を自分ごとキューブの中に取り込み、固有魔法を用いて海に出たようだ。
しかし魔力で見つけられてしまったためなのか、再びメイドの仕事をやらされている。
「アナタ…裸族に目覚めたワケ?周りの視線が気にならないなんてクレイジーなんですケド…」
「自分はメイドのなぎたんをやってた者だ。恥ずかしかったが慣れればどうということはない」
「この調子でいけばアナタも世界のヌーディストビーチでデビュー出来る気がするんだヨネ…」
回廊を通るバトラーの男悪魔達からはニヤニヤされ、女悪魔のメイドからも笑われてしまう。
そんな屈辱に耐えられなくなったアリナは涙目になりながら喚き散らすことになるだろう。
「これも全部…ぜんぶ……フールな堕天使共のせいなんだカラァァァーーッッ!!!」
関わればろくでもない目に合わされる堕天使との付き合いはこれからも続くだろう。
デカラビアはアリナに押し付けられ、これからも彼女の仲魔としてこき使われることになる。
アリナ・グレイの受難は終わらないのだが、これも美の高みに昇るため我慢するのであった。
ずっと登場させたいと思ってたメガテン人気悪魔のデカラビアもアリナの仲魔となり、シリアス展開を癒す清涼剤として活躍させたいですね。
真女神転生5のデカラビアもCHAOS勢力のくせに堕天使達に迷惑かけまくりな困ったキャラだったのでハッチャケさせました(汗)