人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
書斎を兼ねた尚紀の自室の机には作業用のノートPCも置かれている。
暗い自室の中で映るモニターの光には白黒映像が流れ続けているようだ。
これは1958年5月18日のアメリカで放送された番組の動画映像であった。
「オルダス・ハクスリー、この世の地獄を恐れる男」
動画に映る番組司会者の前に座る人物こそ著名な科学者を多数輩出したハクスリー家の一員。
小説・エッセイ・詩・旅行記など多数発表して有名となった歴史人物のようだ。
彼が残した小説の中には全世界が独裁体制に置かれることを予言したものがあった。
「彼は恐怖のフィクション世界がもうそこまできていると我々に警鐘を鳴らします」
番組司会者が彼の生い立ちや著作の紹介を手短に済ませた後、本題に入っていく。
問いかける本題とはアメリカの自由を脅かす概要であった。
「アメリカの自由を脅かすのは誰ですか?あるいは、何なのですか?」
「特定の人物が意図的に人々の自由を狙うわけではない、非人間的な力が自由を奪うのです」
「非人間的な力ですか?」
「それらは自由の制限を押し進め、また多くの電子デバイスも関係してくるでしょう」
これらはその意思さえあればこのプロセスを加速させるために利用出来るとオルダスは語る。
誰もが自由を制限し、支配を課すことが電子デバイスを通して出来てしまう。
「貴方がいうデバイスですが…特定のデバイスですか?またはコミュニケーション方法?」
「その様に利用出来るデバイスはあります。デバイスはプロパガンダの最高のツールです」
オルダスが例として語るのはナチスや大日本帝国がプロパガンダとして利用したラジオ放送。
現代でいえばスマホやテレビに当たるものであり、プロパガンダの最高のデバイスとなる。
ヒトラーは効果的にデバイスを活用して自分の意思を大衆に押し付けたと語っていく。
「ヒトラーが利用したプロパガンダをどうアメリカにも適応出来ると言うのですか?」
「肝心なのはそこに手口があるということ。今のデバイスならヒトラー時代よりも効果的だ」
オルダスが感じているのは凄まじい速さで進化するテクノロジーに意表を突かれていること。
テクノロジーが進化することで社会は大きく変わり、人々は予想しない状況に陥る。
望みもしなかった行動を起こし始めるというのだ。
「それは…我々はテレビを開発したのに正しく利用出来てないと仰られるのですか?」
「テレビは今のところ無害ですが、人を紛らわせるために利用されてるように私は感じます」
オルダスが語った部分は戦後の日本を支配する3S政策という衆愚政治手口を表すものだろう。
またデジタル・ゲリマンダー効果も重なり思考の蛸壺現象を生み、狭い世間しか知れなくなる。
オルダスは日本のような社会主義国家にテレビが普及する弊害も語ってくれるようだ。
「テレビはいつも同じことを言う。それは幅広いノイズを生み出すためのものではない」
テレビとは一辺倒の思想を繰り返す全体主義洗脳装置にもなりえると彼は語っていく。
とてつもなく強力な洗脳道具にも化ける弊害があるのだと語りたいようだ。
テクノロジーは中立の立場だが、道具とは使い手次第で凶器にも出来るもの。
これは魔法少女達が握り締めてきた魔法武器という道具にも共通する概念であった。
「無害ながらも人々の意識を変える強力なドラッグであり、精神薬理学革命なのです」
彼の言葉を表した事件こそが神浜人権宣言から生み出されたメディア扇動の光景だろう。
これによって変えようがないと思われた神浜東西差別すら自然に変革することが出来たのだ。
「貴方の新作の小説では、これら自由を破壊する敵が新世界を押し進めるとありますが?」
「それはもう……時間の問題なのです」
「貴方が恐れる素晴らしい新世界(ニューワールドオーダー)の脅威とは何ですか?」
司会の男の質問に対して少し沈黙した後、オルダスは未来の独裁体制について語ってくれる。
それは我々が知る独裁体制である恐怖政治とは違う形になるのだというのだ。
「ヒトラーのような強権政治には限界があります。
支配される者達を騙してでも独裁内容を承諾させることこそが独裁体制を維持する秘訣。
そのためのドラッグとして利用されるのがテクノロジーなのだと語っていくのだ。
「新たなプロパガンダを利用して民衆をなだめ、人間の合理性を潜り抜け深層心理を支配する」
人の本能に結果として隷属状態を好むように仕向けることで恐怖政治は恐怖でなくなる。
独裁体制こそが素晴らしい政治体制なのだと人々の意識を自然に変革させられる。
この手口によって神浜住民達の深層心理は支配され、合理性を無視した融和主義を生んだのだ。
「民衆は独裁体制を受け入れ、幸福を感じるでしょう。この状態こそが最大の危機なのです」
「貴方が仰る世界の危機とは全体主義のようなものですね。未来のアメリカに起こりますか?」
「起こりえます。今からこの問題を考え、テクノロジーに意表を突かれないようにしなければ」
電子デバイスというドラッグについても十分なエビデンスはあるだろう。
そのエビデンスにある程度の想像力を加えることで悪意ある人間達の狙いが見えてくる。
テクノロジープロパガンダを未然に防ぐには予想を立てることが重要なのだ。
「
その後も司会の男から小説に書かれていた選挙運動の弊害についても追及されていく。
オルダスは選挙運動についても思うところがあり、危険視する持論が語られていくだろう。
人々は何も考えずにメディアを鵜呑みにして分かり易いものだけ消費するよう調教されていく。
そして追い込み猟で罠にかかる獲物同然となり、炎に飛び込む蛾の末路に成り果てるのだ。
それこそが自由民主主義国家でさえ全体主義独裁国家に作り替えられる原動力なのだと語った。
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かつて大魔王ルシファーは上手なプロパガンダをこう表現している。
誰も反対しない、誰もが賛成するスローガンを作ること。
貴方達は未知の病魔の危機に晒されているため危険です。
感染予防のため密になるのを避けましょう。
飛沫感染を防ぐためマスクを絶対に着用しましょう。
皆さんの安全を守るためにワクチン接種会場に行きなさい。
安心と社会正義を強調することによって誰もが安心を得るためプロパガンダに賛成する。
そこには本当にそれは正しいのかを判断するための科学的検証作業の過程はあったのか?
インフルよりも低い死亡率だと判明しているのに未知の病魔にワクチンが必要なのか?
そんな疑問を感じることもなく人々はテレビやSNSに扇動されながらワクチンを接種するのだ。
「凄い行列だよね…ワクチン接種会場。一体どれだけの人達が並んでるんだろ…?」
ワクチン接種を受けに来た人々の列を遠く離れて見つめているのは中央区の神浜魔法少女達。
ワクチン接種を押し進める神浜行政はそれぞれの地区に接種会場を用意しているようだ。
「あーしも一応…マスクは用意してるよ。だけど…魔法少女のあーしらって、病気になるの?」
「風邪を引くことはあっても魔法で治療は可能だ。それならアタシ達にワクチンは必要ない…」
「だけど…未知の病魔は飛沫感染しちゃうんでしょ?もし知らない間に拡散してたら…」
重い表情を浮かべながら心配してるのは中央区の元リーダーの都ひなのと友人の木崎衣美里。
後輩の衣美里は社会の人々に迷惑をかけるかもという気持ちに支配され、判断を迷っている。
そんな後輩のためにこそ科学者を目指すひなのは語ってくれるのだ。
「どうしてこんなに早くワクチンが用意出来たんだろって疑問をお前は感じたりしないか?」
「それはまぁ…確かに不自然だよね。ワクチン開発って割と簡単に出来ちゃうものなの?」
「ワクチン開発は最短で4~5年、最長で10年以上かかる。なのに
「じゃ…じゃあ、あそこでワクチン接種をさせられている人達って…」
「恐らく国は…国民を治験に利用している。
それを聞かされた衣美里の顔が真っ青になり、大慌てを始めてしまう。
「た、大変だよぉ!どんな副作用があるのかも分からないものを体に入れるだなんて!!」
「アタシだって止めに行きたいさ……だけど今のテレビ内容なら衣美里も飯時に見てるだろ?」
「うん…毎日同じようにして未知の病魔の危機をニュースで流してるね…」
「だからこそ大勢がパニックになってる…そんな時に周りの行為を止めようとしてみろ…」
「あーし達は…感染を拡散させるバイオテロリスト扱いされちゃうの…?」
爪を噛む程にまで悔しそうな表情を浮かべるひなのは目の前の人々を救うことさえ出来ない。
お前達は国に騙されていると叫んでしまえば最後、頭のおかしい陰謀論者扱いをされるだろう。
揶揄と嘲笑程度で済めばいいが、最悪になれば人々からテロリスト扱いされながら襲われる。
そんな未来を予想してしまう都ひなのは目の前の人々を救えず見捨てることしか出来ないのだ。
「やっぱりさ…あーしは周りの人達の迷惑にはなれないよ。あーしも接種するべきかも…」
大勢の人達が賛成するなら自分も賛成するべきだと衣美里の心は流されそうになってしまう。
彼女を止めようと口を開こうとするひなのの目に映ったのは衣美里の肩に手を置く人物だった。
「周りに流されるな。一般的なワクチンでさえ効果を証明するエビデンスは存在しないんだぞ」
現れたのは黒のトレンチコート姿の尚紀であるが、みやこは奥の人物にも目を向ける。
尚紀と共に歩いてきていたのはかつて里見メディカルグループに勤務していた医者の男だった。
「尚紀か…ワクチンのエビデンスは存在しないだと…?それに隣の怪我した人は誰なんだ?」
「こいつは他の接種会場に訪れていた人達のために叫んでな…大勢から痛めつけられたんだ…」
「彼の言葉は真実だ…
「え…えっと…おじさん大丈夫?凄く血が出てるみたいだけど…」
心配してくれる少女のために元気を見せる男だが額を抑えるハンカチは血が酷く滲んでいる。
どうやら尚紀が駆けつけた時には蹴り倒されたまま袋叩きにされる暴力を振るわれたようだ。
「列に並んでいる連中が睨んできていることだし…場所を変えよう。話したいこともある」
場所を変えるために歩き去る後ろでは次々とワクチン接種会場に入っていく者達が残る。
彼らは自分達の安全と社会正義のために並んでいる者であり、暴力行使も社会正義のため。
社会正義を振りかざせば道理が引っ込み、無理だけが押し通るのが集団社会であった。
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「私はつい最近まで医者だった者なんだ…だからこそ今でも病院関係者と繋がりが残ってる」
人気のない公園のベンチに座った元医者は痛そうな体を擦りながら3人に語り続けてくれる。
医療現場で今も残り続けている者達も現場の対応に動揺を隠せず彼に情報を伝えているようだ。
「病魔騒ぎでぼろ儲け出来るのが今の医療業界だ…ワクチン接種は国策であり巨額の金が動く」
自治体による集団接種が時給2万円、1日8時間バイトすればそれだけで16万円の実入り。
派遣会社経由なら下がるが、これは派遣会社や病院関係者の中抜きが関与しているという。
「助成金受給利益によって医者はワクチンを押し進めたいんだ。ぼろ儲けするためにね…」
「そんなの酷いよ!だって…ワクチン開発は凄く長くなるって…みゃーこ先輩も言ってたよ!」
「その通り…どんな後遺症が残るか分からないワクチンを接種させてるんだ…金儲けのために」
「そこまで腐っていたのか…医療業界は。医療は仁術じゃなくなって…算術にされたんだな…」
「テレビに出演する専門家共も金儲けが狙いだ…製薬会社からの謝礼金が欲しいクズ共なんだ」
「まさにワクチンバブルの到来だな…ワクチン御殿が建てられそうな勢いだ…」
「中小企業もワクチン接種給付金欲しさに社員を接種に行かせてる…全てが金で動かされる…」
「私の同僚だった男も一日百本接種させれば二カ月で約三千万稼げると笑いながら語ってたよ」
「本業そっちのけでワクチンバブルに飛びつく連中って何なの…医者や専門家なんでしょ!?」
「衣美里…これが日本や世界の現実だ。金こそが全てにおいて優先されるのが資本主義世界だ」
絶望の表情を浮かべた衣美里の両膝が崩れて座り込み、放心状態になってしまう。
そんな彼女に声を掛けることも出来ない元医者の男は最大級の警告を与えようとしたようだ。
「いいか…
菌を扱う専門企業も菌の種類を判別するために未知の病魔の検査キットを今まで使ってきた。
検査キットを扱う医療従事者なら知ってて当然の答えとは陽性者はただの陽性者に過ぎないだ。
ウイルスは体の中に入ることで曝露になるが、細胞に入って増殖しているとは限らない。
決して
「ウイルスが細胞に侵入したら感染だが自然免疫で処理出来る。即ち未知の病魔は治療出来る」
「それじゃあ…感染に至っていない人まで陽性反応が出たら感染者にされてしまうのか…?」
「私はこの事実を元医療従事者として接種会場で叫ぼうとしたが…テロリスト扱いされたんだ」
ウイルス感染しても普通は人体のT細胞によって細胞ごとウイルス破壊されて自然治癒される。
キラーT細胞とも呼ばれるものでありウイルスに感染した細胞を殺す力がある自然治癒能力だ。
自然免疫をもつ人間ならばたとえ未知の病魔に感染して風邪に似た症状が出ても治療出来る。
ワクチンを打つ必要などないのだと叫んだ男に待っていたのはバイオテロリスト扱いだった。
接種会場からつまみ出された男は正義を振りかざす者達に襲われる中、尚紀が助けたようだ。
「人間の体には他のどんな機械にもない能力がある…それは
元医者が語った言葉こそ日本や世界の製薬会社を崩壊に導く言葉。
外科医のジョージ・クライル・ジュニアが残した言葉であり、医者を失業させる言葉でもある。
「これを叫んでも人々は私を犯罪者扱いしてきたんだ…誰も私の言葉なんて…聞かなかった!」
医療は仁術だと信じて叫んだ男は社会悪にされ、嘲笑を浴びせられながら暴力を振るわれる。
それが悔しくてたまらない元医者の目からは悔し涙が零れていく。
そんな彼の無念を見つめる尚紀の心の中には暁美ほむらや美国織莉子の無念の気持ちが蘇る。
(この男の無念こそほむらや織莉子が背負ってきた無念だ。誰にも言葉が通じない苦しみだ…)
トレンチコートのポケットからハンカチを取り出して元医者に渡してくれる。
涙を拭った男は尚紀に顔を向けながらこんな言葉を送ってくれるのだ。
「いいかい…君達。医者の言葉を全て鵜呑みにしてはいけない…彼らは
男は肩掛け鞄から一枚の地方新聞を取り出して皆に見せてくる。
書かれている内容は医者が我が子にワクチン接種させた後に死亡したという記事内容のようだ。
「ワクチンの副作用について医学部で教わらなかっただと!?こんな奴が医者だというのか!」
「医学部とは医療マニュアルを刷り込む場所…マニュアル通りに仕事をすればいいだけなんだ」
マニュアルに何故そうするのかまで説明することは不要。
マニュアルを覚えただけで医者と名乗れるのが現代の医者の正体なのだと語ってくれる。
「ワクチン治験で有害事象や有効性をどのように評価するかも知らないのが医者の正体なんだ」
ワクチンの有効性が実証されたことなど今まで一度もないのだと探せば分かるだろう。
副作用の報告なら神経的な後遺症を起こす脳炎など無数にあるのだ。
「私は戦い続ける…この程度で挫けてたまるか。私は医療が仁術であるべきだと叫び続けたい」
立ち上がった男が去ろうとするのだが、同じく立ち上がった衣美里が駆けてくる。
「あーし…絶望しかけたけどさ…おじさんみたいに魂を売らない人がいるって分かって嬉しい」
「君……?」
「だからね、これはサービスだよ」
大きく切れた額の傷に手をかざせば回復魔法の光が生み出されていく。
魔法を見せられた元医者は驚愕するのだが、ひなのと尚紀は止めようとはしない。
このような男こそ本物の医者なのだと心から信じられるからこそ助けたい気持ちは同じだった。
「はい、治ったよ。じゃあね、おじさん!おじさんの知恵のお陰であーし達…救われたから!」
「フッ…やっぱり世の中は秘匿された秘密だらけみたいだね。だが、私は君の存在を信じよう」
魔法少女を化け物扱いせず認めてくれたのが嬉しかったのか衣美里は笑顔で手を振ってくれる。
元医者の姿が見えなくなった時、重苦しい表情を浮かべる尚紀がひなのに語り掛けてくる。
「魔法少女社会のワクチン接種については慎重な対応をするように…ななかに伝えておけ」
「分かっている…ワクチンは安全などではない、あんなものを魔法少女の体に入れさせないさ」
「ワクチン接種に抵抗する以上…お前達もあの男と同じ末路になる。だからこそ伝えておく」
ひなのと衣美里に伝えてくれたのは対洗脳・情報操作に対する十カ条。
1 与えられた情報を鵜呑みにするな、先ずは疑え。
2 自分の頭で考えている気になるな、殆どの場合無意識に誘導されていると思え。
3 数字でも悪意があれば操作することは可能、統計は算出方法次第で操作出来たりする。
4 過去に目を向けろ、必ず今と繋がっている。
5 同じ結論、意見に達した時は情報操作・悪意ある誘導をされていると考えろ。
6 事象、問題点、結果を箇条書きで抜き出せ、そして関連付けろ。
7 耳障りのいい言葉ばかり言う奴は信用するな、そいつは下心を隠している。
8 強硬論をまくし立てる奴は演技をしてるだけだ、後ろにいる誰かが目くらましを狙ってる。
9 正論ばかりを述べる奴には気をつけろ、禅問答になる。
10 やばいと感じたら直ぐ逃げろ、それと逃げ道の確保を忘れるな。
「そして最後に論点のすりかえ手口に気をつけろ。今言った十カ条ですら…すり替えが可能だ」
「鵜呑みにしてるのはお前の方とか…誘導されてるのはお前の方とか…これがすり替え手口?」
「すり替えれば追及された問題を相手の問題として擦り付けられる…卑劣な善悪二元論手口さ」
急いでななか達の元に向かうひなの達を見送る尚紀は夕暮れに染まる空を見上げていく。
これから始まる地獄の世界を憂う男の言葉こそ、魔法少女達の遠くない地獄を表すものになる。
「これから始まる時代は…オルダス・ハクスリーが予言した地獄の時代になるだろうな…」
オルダスを知る者としてメディア扇動で生まれる社会空気によって巻き起こる弊害なら分かる。
「日本人を動かしているのは人じゃなく空気…大日本帝国時代と同じく同調圧力社会になる…」
戦前からも変わらず日本人は周りの空気で動き、空気が行動を先導していく。
結果、責任の所在が不明確になり誰も責任をとらなくなる。
御国を守るため戦争万歳な言動をした民衆が責任など取らなかったように誰も責任を取らない。
「自分達こそ正義だと疑わない奴らは自分の劣等性を認めない…追及する奴だけを悪者にする」
魔法少女達もまた全体主義に逆らう以上は戦前において戦争反対と叫んだ者達と同じ末路。
国を危機に晒す国賊扱いされながら社会リンチを繰り返される末路しか残らない。
戦争でなくともパンデミック脅威を強調すれば戦前と同じく国民を危機に晒す者に出来るのだ。
「リベラル全体主義の脅威こそが…これから始まる魔法少女達の地獄の未来になるんだ…」
国の指導者達が絶対に間違えるはずがないなど歴史を見ればそれこそあり得ないと分かるはず。
間違った指導者について行けば三国志の袁紹や劉備について行った兵隊の末路と同じなのだ。
全体主義を完成させる要素こそが社会空気であり、それに抗うのは地獄の道であった。
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あれからしばらく経った頃。
「私は絶対に反対です!!ワクチン接種キャンペーンイベントに参加なんて嫌です!!」
モデル事務所の社長室で声を荒げているのは所属モデルの七海やちよの姿である。
ななかが長を務める魔法少女社会に在籍する者としてワクチン接種に反対の意思を示している。
目の前の社長は彼女の拒絶の言葉を聞かされたため眉間にシワを寄せながら睨んでくるようだ。
「パンデミックが巻き起こる国難を救うことを拒絶するなら…相応の根拠があるんだろうな?」
「ワクチンの安全性は保障されてません!そんなものを国民に勧める行為は反対です!!」
やちよがワクチン反対の根拠として示すのは
これは元医者の言葉や尚紀の言葉を重く受け止めたななか達が調べたワクチンの危険性なのだ。
2000年5月にポリオワクチンで三歳児が死亡、厚労省は接種を停止。
2005年10月に日本脳炎ワクチンで10歳の男児が死亡、厚労省は接種を停止。
しかし厚労省は2020年に起きた病魔のワクチン接種は停止せず、何の説明もないのだ。
「安全でないものを厚労省が認めるはずがないだろう?頭のおかしい陰謀論者になったか?」
「考えてください!新薬開発には長い年月が必要なんです!なのに僅かな期間で用意出来た!」
「国も馬鹿ではない、あらかじめこのような事態になるのを見越して開発してたのだろう」
「それこそ根拠のない理屈ですよ!貴方は厚労省に勤める官僚でもないのに分かるんですか!」
それを言われた社長は押し黙ってしまうが、やちよは営利団体の長に対して食って掛かる。
「…社長、本当は貴方にとって…何が正しいのかなんて、どうでもいいのでは?」
「な、なんだとぉ!?」
「ワクチン接種を勧める企業は国から給付金を貰えるそうですね?いくら儲かったんです?」
モデル達には秘密にしていた金儲けを知られていたため社長の額には冷や汗が吹き出していく。
彼はモデル事務所の社長として上流階級の者とも交流があり、いい金儲け話を聞かされただけ。
金儲けのため所属事務所のモデル達を利用してワクチン接種推奨をやらせようというのだ。
「私は金儲けのために仕事なんてしません。モデルの私はファンの方々の味方で在りたいです」
「か…金儲けの何が悪い!?企業はな…営利団体なんだよ!!金儲けのための集団なんだ!!」
「それだって株主のためですよね!?社長や役員達の金儲けのためなんでしょ!!」
「いい加減にしろぉ!!物事の分かる大人になりきれないなら…君との契約を解除するぞ!!」
拳を机に叩きつける音と共にやちよの体は恐怖によって再び凍り付く。
ガタガタと震えだす彼女の狼狽ぶりを見た社長は不気味な笑みを浮かべながらこう告げる。
「君は小学生の頃からアイドルやモデルを目指していたよな?夢を叶えた者なのにいいのか?」
反対する気力を失いそうなやちよの脳裏には小学生時代の記憶が巡っていく。
「考え直せやちよ君…君は我が社の売れ筋商品。資本主義世界を生きる者として大人になれ」
今の状況こそ尚紀が助けた元医者の男も経験させられた苦しみ。
医者になる夢を叶えて里見メディカルセンターに勤務出来たのにクビにされそうな恐怖。
かつてのやちよならば震え上がりながら再び頭を下げたのだろうが、今のやちよは違う。
(鶴乃は…私達に勇気を示してくれた。怖くてたまらなかったはずなのに…)
喋れば訪れるだろう破滅のリスクがあったとしても、鶴乃は勇気を示して口を開いてくれた。
それは常盤ななかも同じであり社会から村八分にされる恐怖があっても戦ってくれたのだ。
だからこそ彼女達に続きたい気持ちが七海やちよの心に恐怖を超える熱き炎を点してくれる。
「……私は……人間を守るために……戦ってきた……女です」
恐怖で言葉が上手く出せず涙目になってでも語り出す言葉こそ、尚紀が与えてくれたもの。
魔法少女として生きた七海やちよは何のために戦ってきたのかを命懸けで教えてくれたのだ。
多くの者達から得たものがあるからこそ、七海やちよは決断を下してくれる。
「社長…今まで…本当にお世話になりました。迷惑をかけてでも……私は私の道を生きます」
深々と頭を下げたやちよは踵を返して部屋から出ようとしていく。
想像していた光景ではないため慌てだした社長が呼び止めようとしてくる。
顔を向ける価値も無い拝金主義者に対して彼女は顔を向けることもなく、こんな言葉を残す。
「偽りの自分を演じて好かれるよりも、ありのままの自分でいて憎まれる方が遥かにマシよ」
それだけを言い残した七海やちよは社長室を出て行く。
今の彼女は由比鶴乃や常盤ななかと同じぐらいの勇気を示せる者になってくれたのだろう。
詩人ダンテが残した言葉を実践するため周りの正しさではなく自分の直感を選んでくれた。
しかし、自分の信念を貫く自由の代償は余りにも大きかったのだ。
雨が降り出す中、やちよは夢遊病患者のようになりながら街を彷徨い歩いていく。
歩くたびにアイドルレッスンを学んできた時代やモデルレッスンを学んできた日々が蘇る。
「ごめんなさい……お父さん……お母さん……おばあちゃん……」
元々転勤族で日本各地を転々としていた彼女だがモデルを始めて以来多忙になった。
忙しさの中でみかづき荘に自分の居場所を見出し、両親や祖母が彼女を支えてくれた人生。
それを今、彼女は捨ててきてしまったのだ。
ふらつきながら路地裏を彷徨っていた時、彼女が顔を上げてくれる。
目の前に立っていたのは外回りの仕事中であったのか傘を差した尚紀のようだ。
「どうした……やちよ?随分と暗い表情をしているようだが……?」
尚紀の顔を見た瞬間、堪え切れなくなったのか涙を流し始める。
「グスッ…エッグ……私ね……モデルの仕事を……辞めちゃったの……」
「やちよ……」
「危険なワクチンを接種させる仕事なんてしたくないって…自分の夢を…捨ててしまったの!」
駆けだしてきた彼女が尚紀の胸の中に飛び込んでくる。
子供のように泣き続ける彼女の姿は強がっても泣き虫だった小学生時代の姿と重なっていく。
「わたしはぁぁぁ…ヒック…みんなを守る魔法少女!!だけど……夢も欲しかったッッ!!」
「そうか……俺の言葉を守るために……自分の夢を犠牲にする決断をしたんだな……」
「ごめんなさいぃぃぃぃ……ごめんなさいぃぃぃぃ……おばあちゃぁぁぁーーん……ッッ!!」
泣き喚く彼女の背中に片腕を回しこんで抱きしめてくれる。
「お前の覚悟を無駄にはしない…資本主義がお前の味方をしないなら…俺がお前を守ってやる」
「尚紀……尚紀……ナオキィィィィ……ッッ!!!」
「たとえ周りの者から異常者扱いを受け、孤独になろうと信念を貫くお前こそ…テオーリアだ」
「うああぁぁぁぁぁぁぁーーーーー……ッッ!!!!」
降りしきる雨はまるでやちよの涙のようになりながら勢いを強めていく。
そんな彼女を傘の中に入れてやっている尚紀であるが、視線は曇天の世界に向いたまま。
この雨は他の魔法少女達も流すことになるだろう嘆きと絶望の涙になるのだと彼は知っている。
(全体主義の脅威に逆らえば…多くのものを失う。今まで生きてきた社会が…敵となる…)
人間は常に一つの道しか歩けない生き物。
決断して選んだ道を進んだことによって片方で得られた恩恵は捨てることになるだろう。
群れから外れた者は永遠不変の真理や事物の本質を眺める理性的な認識活動の道に進んでいく。
しかし群れから離れた者は自由の代償として絶対の孤独に支配される弊害を背負うしかない。
一流モデルとして生きた七海やちよの人生は、涙の雨の中に消えながら流されていった。
やちよさんに腰抜け展開を与えてたのが心に引っ掛かってたので名誉挽回の話を考えてみました。
成長物語はキャラをヘタレのままにさせとくわけにはいかんので。