人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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269話 献身と搾取

<<錠平……お前の名前は……錠平……>>

 

暗い意識世界の中で聞こえてくるのは懐かしい両親の声。

 

<<私のお腹で産まれてくれてありがとう……錠平>>

 

今は亡き両親だった人物の声が響く中、ライドウの意識が暗闇の中で目を覚ましていく。

 

<……ここは?>

 

ライドウが目を覚ました空間とは現実世界ではない。

 

そこは個が存在しない宇宙空間であり、黒い学ラン姿のライドウは漂いながら浮かぶばかり。

 

このまま宇宙を漂い続ければ自我すら維持出来ない程にまで宇宙という全体の一部となる。

 

そんな風に考えてしまったライドウは宇宙という全体の一部になることに恐怖を感じたのだ。

 

<<どうしたんだい、ライドウ君?君は個を捨てて全体に忠義を尽くす男じゃないのかい?>>

 

ライドウの目の前の宙域に光の粒子が集まり出して形を成していく。

 

<……君は、誰だ?>

 

形を成した存在とはライドウと同じく弓月の君高等師範学校制服姿の少年である。

 

長めの前髪を右側に流して眼鏡をかけた少年が笑顔を向けるのだが、ライドウは彼を知らない。

 

<<そうだね…僕を知らなくて当然だ。僕の存在は君にとって…明日出会う存在になるんだ>>

 

<自分の意識を宇宙に閉じ込めているのはお前なのか…?>

 

<<ここは夢と現の狭間の領域。時期に目を覚ますだろうけど…その前に聞いてみたいんだ>>

 

右手で眼鏡を押し上げた後、謎の少年は葛葉ライドウに問いかけてくる。

 

<<君は何者なんだい?>>

 

<自分が……何者なのかだと……?>

 

<<君はこの世に生まれてくれた人間かい?それとも…全体のために生まれた虫けらかい?>>

 

<自分は……葛葉ライドウ。14代目を襲名した…葛葉ライドウだ>

 

<<それだよ、その固執している部分こそが…君を虫けらに変えているんだ>>

 

<どういう……意味だ?>

 

謎の少年が語るのは全体主義民族日本人が民族アイデンティティとして引き継いできた侍精神。

 

個ではなく全体に尽くすことこそが侍の在り方であり、御家のために自己犠牲となるのが美徳。

 

そんな風に洗脳されてきた者達には自由や人権、尊厳すら存在しないのだと語ってくれる。

 

<<退魔一族という全体に尽くさせるために与えられた名前など個ではない…虫けらなんだ>>

 

<葛葉一族を支えてきた四天王の名を継いだ者達は…ただの働き蟻だと言いたいのか…?>

 

<<全体に尽くさせるだけの存在ならロボットと同じさ。ナンバーで呼ばれたら十分だ>>

 

<黙れ…護国守護のために散っていった葛葉四天王の者達を侮辱することは…許さない…>

 

<<御国を守るために散った?名誉ある死を演出されても…()()()()()()()()()()()()さ>>

 

時代劇の忠臣蔵など、侍的な道徳精神を重んじれば重んじるほど個の価値が消失していく。

 

個人として我慢する、我儘を言わない、自己抑制、自己犠牲、法や国や全体を優先してしまう。

 

自由の価値を知らず、自己抑制や自己犠牲ばかりを美化し、国や全体に奉仕する。

 

その末路こそが全体主義の元で虫けらに成り果て、名誉のために死ねと命を搾取される。

 

()()()()()()()()()()()()()()であり、鹿目まどかの献身的自己犠牲もまた搾取でしかない。

 

献身という搾取を求めるのは強欲な人間共であり、真の平等など望まないご都合主義者なのだ。

 

これを表す存在こそ国や企業であり、また円環に救済された者達の汚れた本音でもあった。

 

<<()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…君は遊郭で働く花魁を見て何を感じた?>>

 

<帝都の千寿区にある遊郭で働かされてきた花魁達のことか…?>

 

<<生きるため女性達は自分の体を売り物とし、使えなくなるまで搾取され…捨てられる>>

 

<自分達もまた花魁という労働者と同じく…用済みとなれば捨てられる運命だというのか…?>

 

<<この社会構造は21世紀でも変わらない。ブラック企業も社員を部品のように酷使する>>

 

労働者達の社会構造とは黒人奴隷時代から欠片も変わっていない株式会社構造だ。

 

奴隷が労働者に変わり、鞭を打つ現場監督が社長や役員に変わり、利益は全てオーナーのもの。

 

資本家こそが全てを搾取出来る独裁者となり、働く者は独裁者の利益のために摩耗するのみ。

 

<<御国のために死なせたり企業のために過労死させていいなら名誉ぐらいは与えてくれる>>

 

名誉だの正義だのは戦争や経済活動で人間を消費するために用意されたもの。

 

名誉を与えれば御国を救うために死ぬべき、企業を救うために過労死するべきに誘導出来る。

 

このような手口の元で人々は気持ちよく騙されながら全体を守るために人生を搾取される。

 

<<蟻の巣のような全体主義社会構造に対して…君は個人の幸福を感じられるかい?>>

 

<そ……それは……>

 

<<幸福の定義は難しい。名誉のため全体のために搾取されたいなら…尊重はするよ>>

 

<自分は……>

 

<<人修羅も魔法少女達に全体主義を敷こうとしたけど…魔法少女達は個人の尊厳を選んだ>>

 

<選べというのか…?ヤタガラスという全体に尽くすべきか…個人の尊厳かを…?>

 

無言で頷く謎の少年に対してライドウは重い沈黙に支配されてしまう。

 

それでもライドウは帝都の守護者としての譲れない矜持を体現し続けた者。

 

今更それを捨てろと突然言われようが、ヤタガラスのサマナーとして誇りを持った男なのだ。

 

<個を捨て…人々を護らんとする強い意思。只一振り…研ぎ澄まされた刃となるのが…自分だ>

 

<<…それが14代目葛葉ライドウに求められたものかい?だとしたら…()()()()()()()()>>

 

哀れな生き物を見るような目を向けてきた謎の少年の背後に巨大な悪魔の影が浮かんでいく。

 

それと同時に胸から下の感覚が無くなったことに違和感を感じたライドウが視線を下に向ける。

 

<こ……これはッッ!?>

 

ライドウの胸から下が崩れていき、臓腑も骨も消失していく。

 

<<個がいらんというのならば……我の一部となるがいい>>

 

謎の少年の背後に出現した悪魔とは巨大な触手で編まれた超巨大な人の頭部を思わせる存在。

 

それはコドクノマレビト事件において未来のライドウが打ち倒したコドクノマレビトなのだ。

 

<や……やめろぉ!!!>

 

恐怖に怯えた表情を浮かべるライドウに対して謎の少年は不思議そうな顔を向けてくる。

 

<<どうしてだい?君は全体の一部になりたいって、さっき言ったじゃないか?>>

 

<自分は……悪魔の一部になど……なりたく……ない!!>

 

<<矛盾してるね。ヤタガラスという全体の一部は良くて、悪魔という全体の一部はダメ?>>

 

体の全ての感覚が消失していく恐怖こそ宇宙という全体に取り込まれると感じた恐怖心。

 

その恐怖心こそが自我という個を守り抜こうとした人間としての本能である。

 

宇宙という全体の一部にされる恐怖を味わう状況こそ鹿目まどかに背負わされた苦しみだった。

 

<<生前の僕は君に聞けなかったことがある…それは君の本当の名前だ>>

 

<自分の……本当の……名前……?>

 

<<それこそが誰のものでもない、君だけの個だ。親が与えてくれた…君だけの個なんだ>>

 

<自分だけの……個……>

 

<<人々の絆こそ何よりも強い力…君はそう教えてくれた。だからこそ…個を捨てないで>>

 

<君は……誰……なん……だ……?>

 

<<皆を守りたい君の気持ちとは皆の尊厳を守りたい気持ち。その尊厳は勿論…君にもある>>

 

薄れゆく意識の中で謎の少年が見せた表情とは親友を見るような微笑み。

 

優しい顔を向けてくれる謎の少年はきっと何処かでまた出会うような気がする。

 

そんな予感を感じながらライドウの意識も体も消失していき、宇宙の世界から消えたのだ。

 

<<悪魔となった僕には未来が観える…人修羅もまた…生前の僕と同じ道を進むだろう>>

 

眠るライドウの深層意識に干渉してきた存在だが限界がきたようだ。

 

光の粒子になりながら消えていく巨大悪魔と少年こそ、大正時代のライドウが出会う存在。

 

陰陽師結社を結成した首領であり、コドクノマレビトに取り込まれた哀れな少年。

 

その人物こそが未来の14代目葛葉ライドウにとっては友と呼べた()()()()であった。

 

────────────────────────────────

 

<<…14代目葛葉ライドウの力を持ってしても、人修羅封印任務は困難と見えるな>>

 

ここは超國家機関ヤタガラスの総本山であり、ライドウは裏天皇達が座す手前で正座している。

 

神前すだれの前にいるライドウはサマナーとしての装備は持ち込んでいないようだ。

 

「……申し訳ありません。奴の力は強い…仰られていた通り、一筋縄ではいきません」

 

ライドウは淡々とした口調で今の状況を伝えていく。

 

今日の彼はヤタガラスから呼び出しを受け、任務状況を報告しにきているようだ。

 

しかし今のライドウはヤタガラスに不信感を持つ者。

 

報告する内容も伝えていい部分だけに留めており、本心を悟らせまいとしているのだ。

 

<<既に状況は予断を許さない程にまで切迫している。これ以上…悠長には待てない>>

 

「予断を許さない状況とは一体…?」

 

<<それは汝が気にする必要はないものだ。汝は人修羅を捕まえることだけを考えるがいい>>

 

神前すだれの奥から手を叩く音が聞こえると謁見の間に誰かが入ってくる。

 

ライドウの元まで歩いてきたのは両手で三宝台を持ったヤタガラスの使者を務める女性。

 

ライドウの横で正座した彼女が裏天皇達に向けて深々とお辞儀を行った後、体を横に向ける。

 

彼女が差し出してきた三宝台の上に置かれた品を見たライドウの目が大きく見開いたようだ。

 

「こ…これはもしかして……如意宝珠!!?」

 

ライドウの前に持ち出された品こそ、レイ・レイホゥが香港から持ち帰った品。

 

ナオミの家族を殺してでも奪い取らせてきた龍神を支配出来る神具なのだ。

 

<<神通力の高い者が用いれば願いを意のままに叶える力を発揮出来る宝珠を汝に託す>>

 

「如意宝珠…如意輪観音が手に持ち、願いを成就させる力を持つと聞いた事があります」

 

<<その通り。如意宝珠は己の敵を貧窮(ひんきゅう)させる呪詛を悪魔に与える力を持つものでもある>>

 

「つまりは…悪魔達の力の源さえも貧窮させられると仰られるのですか?」

 

<<この力を用いれば神霊を打ち倒せる程の人修羅であっても…屈服させられよう>>

 

「ヤタガラスにとっては切り札とも呼べるものを自分に託して頂けるのですか…?」

 

<<汝には期待をしている。宝珠は龍を従える力を持つ龍玉でもある…奴にも通じるだろう>>

 

如意宝珠とは龍玉であり、ドラゴンボールとしても名高いもの。

 

宝珠は龍神の体内から摘出するものであり、天に昇る龍は宝珠を求めて天に昇るという。

 

人と龍が契約を行う時にも用いられるものであり、龍を使役する者に必要なのが宝珠であった。

 

<<人修羅こそ黙示録に記されし赤き竜。ドラゴンはナーガであり、宝珠に支配される者だ>>

 

「……黙示録の赤き竜にも宝珠の力が通じるのかどうかを、見極めて参ります」

 

<<誉れある葛葉ライドウの名を襲名した者よ。汝の名誉のためにこそ任務をやり遂げよ>>

 

ライドウとヤタガラスの使者は深々と頭を下げた後に立ち上がり、謁見の間を後にする。

 

彼らが立ち去った後、護衛のサマナー達は裏天皇である三羽鳥に促されて部屋を出て行く。

 

残された三羽鳥達であるが、彼女達の手が強く握り込まれながら無念を語り出すのだ。

 

<<天の御使い達は我々ヘブライの民を見捨てられてしまわれた…全ては我らの自業自得…>>

 

ヤタガラスもまた天から現れた熾天使達の存在には気が付いており救済を望んでいる。

 

しかしガブリエル達はヤタガラスを構成する秦氏一族の元に現れることはなかったのだ。

 

<<我らの祖がカナン族を滅ぼさなかったから…我らは主に見放された…もう後がない…>>

 

全てはカナンに流れ着いたヘブライ民族が唯一神の命令であった民族浄化を行わなかった報い。

 

ソロモン王がカナン族を擁護した末にヘブライ民族の国イスラエルは崩壊したのも自業自得。

 

カナン族を受け入れた末に乗っ取られたユダ族を祖にもつユダヤ民族への憎しみが噴き上がる。

 

<<貴様らのせいだ…貴様らのせいで他のヘブライ民族も主の救済から見捨てられたのだ!>>

 

怒りに震える三羽鳥達の体から怨恨の如き感情エネルギーが噴き上がっていく。

 

もはや21世紀に残されたヘブライ民族が救われるには唯一神を見限る以外に方法はない。

 

大魔王と呪わしいカナン族の主神であるバアルに土下座しながら救いを乞うしかない。

 

<<それでも…虐げられし我らは理想郷を築く…そのためにこそ…必ず独立してやる>>

 

混沌王としての権威をもつ人修羅を利用して大魔王とバアル神から譲歩を引きずり出す。

 

そのためにナオミの家族を殺し、レイとライドウを利用し、人修羅さえも利用するのだ。

 

<<我らは月の民として生きていく…我らが崇めていいのは……もう月神だけだ>>

 

怨恨の感情エネルギーが練り上げられた光は謁見の間を超えながら空に漂っていく。

 

膨大な怨恨が形を成した姿こそ、弓月の君と呼ばれし秦氏を導いてきた月神の姿であった。

 

────────────────────────────────

 

ヤタガラスの本拠地から神浜に戻ってきたライドウの前に現れたのはナオミである。

 

彼女は付いてくるようにライドウとゴウトを促し、カラオケボックスの個室に入っていく。

 

向かい合ったライドウはナオミに頼んでおいた依頼についての情報を聞かされたようだ。

 

「どうやらヤタガラスが日の本の民を見捨てているのは真実のようだな…信じたくなかった…」

 

レイ・レイホゥから得た情報を聞いたゴウトは俯けていた顔を横のライドウに向けてみる。

 

彼の体は震えており、膝の上の両手も強く握り締められながら無言の態度を示す。

 

「ヤタガラスの狙いは日本のザイオンの独立…そのために人修羅を利用する必要があったのよ」

 

「地下都市ザイオンか…神浜の地下に選民が生き残るための大都市が建造されていたとはな…」

 

「全ての国民をザイオンに定住させることは不可能…だからこそ東京は見捨てられてきたのよ」

 

「帝都である東京を見捨ててきた理由もそれで納得がいく…だが、それだけではないだろう?」

 

「ヤタガラスは全ての退魔師一族を救う余裕はない…葛葉一族も見捨てられるわ」

 

今まで信じてきたもの全てが音を立てて崩れていく感覚に襲われるライドウとゴウト達。

 

護国守護のために忠義を尽くしてきた日々は何だったのかと茫然自失の姿を晒しているのだ。

 

押し黙ったまま震えていたライドウであるが、それでも絞り出すような声で口を開いてくれる。

 

「これが……こんなものが……()()()()()だったのか?これでは……搾取されただけだ……」

 

ライドウの頭に浮かんでいくのは悪夢の世界で出会った謎の少年が語り掛けてきた言葉の数々。

 

侍的な道徳精神に酔いしれながら献身を繰り返してきても、待っていたのは御上の裏切り。

 

今まで命を懸けて働いてきた忠義の精神を踏み躙られた彼の目には悔し涙まで浮かんでいく。

 

「ミスターライドウ…貴方の悔しい感情こそ全ての労働者や夫婦が背負ってきた悔しさなのよ」

 

国や企業や家庭という全体を支えるためにこそ、人々は献身という自己犠牲が求められてきた。

 

それなのに献身を続けてきた者達に待っていたのは最低の裏切り行為だったなら許せるのか?

 

心ある人間ならば許せるはずがないだろう。

 

「人間はロボットになんてなれない…献身には見返りが必要よ。だけど独裁者共は与えない」

 

「我ら葛葉一族の献身を踏み躙り…葛葉一族の命を搾取してきたヤタガラス…これが現実か…」

 

「そんな連中に仕えるべきだと…まだ思う?それなら貴方達はただのロボットではなくて?」

 

「許せるはずがない…これ程までの仕打ちを与えられたならば…葛葉の宗家とて動くはずだ」

 

ゴウトはヤタガラスを捨てる決断を下し、急ぎ葛葉一族の里に帰ることを進言してくる。

 

しかしライドウはゴウトに対して待ったをかけるのだ。

 

「レイ・レイホゥが情報を記録する媒体を持ち出せなかったのが不味い…物的証拠が必要だ」

 

「物的証拠か…我らの言葉だけではヤタガラスを信じ続けてきた葛葉宗家を説得出来ないか…」

 

「レイはヤタガラスの総本山の内部にある情報部に所属していた者よ。まだそこにあるかも…」

 

「だとすれば…ヤタガラスの総本山を捜査する必要があるな。しかし……」

 

今のライドウはヤタガラスの長から人修羅封印任務を託されている者。

 

それを反故にするような動きを行ってはヤタガラスに謀反の意思を悟られてしまうだろう。

 

それを察してくれたナオミが立ち上がりながら微笑んでくれる。

 

「どう?ここはひとつ、大芝居を行ってみるのは?」

 

「大芝居だと……?」

 

「この大芝居を行うには人修羅として生きるナオキの協力やレイ達の協力も必要だと思うわ」

 

ナオミが何を狙っているのか理解したライドウも立ち上がり、片手を差し伸べてくる。

 

「ありがとう…ナオミ。貴女がいなかったら…自分達は道化のままで終わるところだった」

 

「大正時代から訪れた伝説のサマナーと同じ考えの元で働ける…嬉しいのはこちらも同じよ」

 

「貴女もまたヤタガラスから苦しみを与えられた者だ…その無念、自分が晴らしてみせる」

 

固い握手を交わし合った両者の口元が微笑みを浮かべてくれる。

 

全ての手筈を整えるためにナオミはライドウ達に先んじて店から出て行く。

 

後から出てきたライドウは陽が沈んでいく光景を見ながら自分の人生を振り返っていくのだ。

 

(ヤタガラスが求めた14代目葛葉ライドウではなく…自分が信じた葛葉ライドウとなろう)

 

トンネル内部の戦いで人修羅から授かった言葉こそ葛葉ライドウの在るべき姿だと彼は信じる。

 

彼こそが人々を護らんとする刃となりし14代目葛葉ライドウ。

 

その刃の柄を握り締めるのはヤタガラスという独裁者ではなく、()()()()()()と心に決めた。

 

────────────────────────────────

 

深夜になろうとする時刻の頃、神浜の道を進んでいくのは人修羅達が乗るフルサイズバン。

 

助手席には黒のライダースパンツと白と青のラインが入った革ジャケットを纏う尚紀がいる。

 

運転手の槍一郎が目指しているのは葛葉ライドウから送られてきた挑戦状の指定場所なのだ。

 

「いよいよ決着をつける時がきたようだな…」

 

「……ああ。今夜こそ奴との因縁にケリをつける」

 

「短イ関係デアッタガ…我ガ弟トトモニ在レタ時間ハ悪クナカッタ…シカシ、コレモサダメダ」

 

「ヨシツネの野郎とケリをつけられなかったのが癪だが仕方ねぇ。ライドウを相手してやるさ」

 

後ろの席にいるセイテンタイセイとケルベロスもまたライドウ達との因縁の決着を望んでいる。

 

彼らが向かう決闘場とは見滝原に現れた円環魔法少女の水名露が住まいとして暮らした地。

 

彼女の父である水名正綱の居城が構えられていた場所だったのだ。

 

「神浜テロにおいて東側の革命テロリスト共が最後まで抵抗した場所を選ぶとはな…」

 

「城も派手に燃やされて瓦礫の城になっている場所だし、遠慮はいらないということか」

 

水名城にアクセス出来る駐車場に車を停めてから尚紀達が扉を開けて降りてくる。

 

既に異界が構築されており民衆の気配は感じない空間のようだ。

 

「この異界は大きいな…まるで神浜の街を丸ごと再現している規模に思えるぞ」

 

「それに周りからは大勢のサマナー達の魔力を感じさせてくる…袋叩きにしようってか?」

 

「ライドウがそういう姑息な手口を使うとは思えない。隠れてる奴らは監視員だろうな」

 

「モシクハ騒ギニ気ガツイタ魔法少女ヲ排除スル連中カモシレンガ…我ラノ相手ハ一人ダ」

 

悪魔化した者達が歩いていき、入場ゲートを超えながら城内に入り込んでいく。

 

天守閣と並ぶ本丸が見える中庭辺りにまで訪れた人修羅達が本丸を見上げながら口を開くのだ。

 

「おいでなさったようだな…」

 

業火で焼かれてボロボロになった本丸の屋根の上に立つ者こそヤタガラスの切り札となる男。

 

異界の月に照らされながらハイカラマントを揺らす者こそ人修羅の宿敵になりえる男なのだ。

 

「……逃げずによく訪れたな」

 

マントの中で腕を組むライドウを睨む人修羅が右手に光剣を放出させながら刃を向けてくる。

 

「ヤタガラスに飼われた狐め…やはり俺を諦められないか。だったらケリをつけるだけだ」

 

「俺様達もケリをつけたくて来てやったぜ。出し惜しみせず悪魔を使役するこったな」

 

「ソウイウワケダ。出テコイ、オルトロス!!直々ニ引導ヲワタシテクレル!!」

 

魔力を解放した悪魔達を見据えるライドウが両手でマントを払いながら素早く召喚管を抜く。

 

「いいだろう…出し惜しみはしない。お前達程の実力者だからこそ…本気を出させてもらう」

 

ライドウの意思に呼応するようにして召喚管の蓋が開いていき、膨大なMAGを放出していく。

 

振り抜かれた召喚管の光が地上に向けて降下していき、巨大な御姿を形作る。

 

現れた存在を見上げる人修羅の仲魔達でさえ、ぎょっとする表情を浮かべる程の魔王なのだ。

 

「グワーハハハッ!!ボルテクス界で見かけた人修羅の仲魔共よ!久しいではないか!!」

 

現れた存在こそ魔王マーラであり、ギンギンにそそり立つ御姿を見せつけてくる。

 

「オイオイオイ……随分と鍛え直したな……」

 

「ボルテクス界ではフニャフニャだったくせに…劣等感を感じさせてくる程の力強さだ…」

 

「そうじゃろう!そうじゃろう!貴様らの槍や棒で敵う程度のモノではないのがワシじゃ!!」

 

「魔王ヲ出シテクルトハナ…ダガ、オモシロイ!!魔王ヲ倒シテ我ガ愚弟ヲ引キズリダス!」

 

「マーラだけに注意を払うな。ライドウはまだもう一体を召喚出来るんだぞ」

 

人修羅はライドウを見据えたままであり、次に召喚してくるだろう悪魔に警戒心を向けている。

 

そんな人修羅の期待に応えるかの如くもう一つの召喚管を抜いたライドウが管を構える。

 

足元に立つゴウトはライドウを見上げながらこう告げてきたようだ。

 

「異界を構築しているヤタガラスの監視員共はそこら中にいる。上手くやれよ…ライドウ」

 

「……ああ、分かっている」

 

左手で印を結びながら交差して構えるライドウが神道の祝詞を詠唱として呟いていく。

 

ライドウのMAGに呼応するようにしながら右手の召喚管の蓋が開いていき、夜空が蠢く。

 

異界の空が曇天に飲まれ、轟雷を放ち続ける中から生まれる神こそ皇帝権威を表す存在。

 

「気高き瑞獣よ…四神の長よ!今こそ我に…力を貸し与えたまえッッ!!」

 

天に向けて構えた召喚管から膨大なMAGが曇天の空に目掛けて放たれる。

 

ライドウの上空の曇天が渦を巻き、特大の雷が周囲に落ちていく。

 

轟雷の光が収まった時、人修羅は曇天の変化に気が付くだろう。

 

「……これ程の龍神を使役するとはな。ボルテクス界ですら見た事が無い…」

 

ライドウが立っていた場所には彼の姿は見えず、代わりに現れたのは龍雲海。

 

黄金の体を持つ龍が蛇のように雲海の中で蠢きながらその姿を晒していく。

 

曇天の中から現れるその爪には中国の五行思想を象徴する四つの龍玉が握られているのだ。

 

「来るか……ッッ!!」

 

曇天の空から降りてくる黄金の頭部こそ、四神の長を務める龍神の威厳を表す。

 

雄々しき三本角と二本髭を持つ龍神の頭部に立つのは召喚者である葛葉ライドウであった。

 

<<我が名はコウリュウ!!四神の長を務める者なり!!>>

 

【コウリュウ】

 

中国の伝承における五行思想において東西南北の中央に配される霊獣として名高い龍神。

 

黄竜は皇帝の権威を象徴するとされたが後に麒麟と置き換えられたり同一視されたともいう。

 

東西南北を司る四神の中心的存在、あるいは四神の長とも呼ばれている存在。

 

五行説で黄は土行であり、土行に割り当てられた方角は中央であった。

 

「コウリュウか……四神を仲魔にしていた時に聞かされたことがある。会えて嬉しいぜ」

 

「我も光栄に思うぞ…人修羅。貴様の話は青龍達から聞かされてきた…その可能性をな」

 

「俺の可能性だと……?」

 

「貴様こそ黙示録の赤き獣に至る者やもしれぬと四神達は語ってきた…だからこそ試そう」

 

コウリュウの三本角の真ん中辺りに立つライドウは体の負担に耐えられず息が切れてきている。

 

いくらライドウであっても魔王とそれに匹敵する龍神を使役し続けるのは堪えるのだろう。

 

ナオミ程のサマナーであっても二体召喚は負担であり、強大な悪魔使役であれば猶更だった。

 

「未来の自分が残してくれた悪魔全書に記録されてきたコウリュウよ…共に戦おう」

 

「再び共に戦うのはコドクノマレビト事件以来…今の貴様があの頃の輝きなのかを見せてみろ」

 

「フッ…人修羅だけでなく自分もまた試されるということか。いいだろう…」

 

陰陽葛葉を抜刀する動きに呼応するかのようにしてコウリュウが雄たけびを上げていく。

 

「お前達はマーラを頼む!!俺はライドウとコウリュウを相手にする!!」

 

「マロガレの力はアラディアとの戦いで再び眠りについているのだぞ!負担が大き過ぎる!!」

 

「今のマーラをボルテクス時代と同じものだと思うな!俺は大丈夫だからそっちを任せる!!」

 

「尚紀を信じてやれ犬っころ!!こっちもこっちで…殺すか殺されるかの戦いになりそうだ!」

 

「行クゾ、マーラ!!ソノゴリッパナ棒ヲヘシ折ッテヤル!!」

 

ついに人修羅対葛葉ライドウの戦いの火蓋が切って落とされようとしている。

 

迫りくる人修羅を迎え撃つライドウであるが脳裏に過ったのは金髪の外国人から語られた言葉。

 

――彼が私の手に余る程の存在となるならば…君が討つんだ。

 

迷いを払うようにして首を振ったライドウは刀を構えながらコウリュウを操る。

 

ボルテクス界を超えた悪魔達と大正時代のデビルサマナーとの戦いは激戦を強いられていった。

 




こうやって忠義の弊害を描いてみると、真女神転生4のサムライ達が如何に全体主義(LAW)と相性が良かったのかが実感出来ますな。
メガテンのLAW側に行ったキャラ達もまた献身という名の搾取がこれでもかと描かれておりました(汗)
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