人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
東京で生きた嘉嶋尚紀の人生を支えたものが壊れてしまった尚紀は無職同然となってしまう。
しかし新しい両親となってくれた者の遺産を受け継いだ男として様々な企業を導く者でもある。
それに嘉嶋会を支える屋台骨は自分だけであり、国政出馬の準備だって残っている。
何よりも東京の守護者として最大の戦いまで控えている時期。
まだまだやるべきことは多いはずなのだが、当の本人の心は塞ぎ込んでしまっているのだ。
母の屋敷や嘉嶋会にも顔を出さず、自宅のウッドデッキに座り込みながら煙草を吸うばかり。
濁った瞳のまま空をボーっと眺める彼を見つめるのは仲魔達の姿であった。
「無理もないか…家族を三度失い、蒼海幇の長を失い、東京生活の恩人達まで失ったんだ…」
「この世界にいたジャックフロストのことも聞かされちまったし……同じことの繰り返しだな」
「そうだな…尚紀は失ってばかりだ。大事な戦いが控えている時期でこの精神状態は不味いぞ」
「戦いってのは…ようは気持ちの問題だからな。なんとかしてやりてーけどよ……難しいよな」
「混沌王トタイソウニヨバレヨウトモ……中身ハ歳相応ノ男ナノダロウナ」
ろくに動こうともしない尚紀に代わり、クーフーリンが代わりの買い出しに向かってくれる。
車を運転しながら病魔騒ぎで変わっていく街並みを憂う彼であったが誰かを見つけたようだ。
「あれは……ももこか?」
顔が俯いたまま街を歩いていた彼女の横で車を停車させたクーフーリンが声をかけてくる。
「あっ……槍一郎さん?それともクーフーリンさんって呼んだほうがいい?」
「言い易いほうで構わない。それよりどうしたんだ…暗い表情を浮かべているようだが?」
「尚紀さんから聞かされてないの?実はね……」
ももこの心労の原因とはみかづき荘の管理人である七海やちよの状況のようだ。
「そうか…あの女も自分の信念を貫いたせいで…夢を失う代償を支払ったんだな?」
「自責の念に縛られ続けるやちよさんは塞ぎ込んでる…アタシ達もそれで困ってるんだ…」
「その気持ちは由比鶴乃とて同じはずだ。彼女も自由の代償を支払い、大勢に迷惑をかけた」
「うん…あの2人の心は塞ぎ込んでいる。何も手が付かないぐらいの落ち込みようさ…」
「実はな…うちの尚紀も同じ状況なんだ。多くを失った心労のせいで行動が活性化出来ない…」
「尚紀さんですら鬱病に陥っちゃうんだね…やちよさんですら同じだし、人の心は繊細だね…」
どうしていいか分からない2人が押し黙ってしまうが、事態を重くみたももこがこう告げる。
「アタシ達だけじゃ答えが出てこないし、皆と相談してみるよ」
「何か案が出てきたならうちの家電にかけてこい。尚紀のスマホは通話に出ないだろうしな…」
「うん、分かった!」
尚紀の家電の番号を伝えたクーフーリンが車を発進させていく。
不器用な男達よりも元気だけが取り柄のような少女達の方がいい案を思いつくと信じてくれる。
人修羅として生きる尚紀に忠誠を誓う騎士の生き方とは、仕える王を支えることであった。
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2020年のゴールデンウィークは既に来週の木曜日にまで迫ってきている。
その前の週である土曜日の早朝において尚紀の家では動きがあったようだ。
「それでは行ってくるぞ」
「留守番をちゃんとしておくのよ、悟空」
「行ってこい犬っころ、それにリズとタルト。他の連中の面倒は俺様が見ておいてやる」
「問題児ノ貴様ノ面倒ヲミルノハ我ラノホウダゾ……」
ケルベロスの頭をしばく悟空であるが、視線を助手席の方に向けてみる。
座っていたのはキャンプに向かうのに適したジーンズとシャツを着た尚紀のようだ。
「こんな大事な時期に大勢でキャンプに出掛けるだなんて……気が狂ってるとしか思えないな」
不貞腐れた表情のまま槍一郎が運転するフルサイズバンの後ろ側に視線を向ける。
座っていたのは私服姿のみたま、ももこ、レナ・かえで、令の姿である。
リズが用意したバンの方にはタルト、やちよ、鶴乃、みふゆ、かなえ、メルが座っているのだ。
「そう言うな。今のお前では戦場に行ったところで本来の力を発揮出来ない。休息も必要だ」
「その通りよ。私達は尚紀さんの心を癒せるなら喜んで協力しちゃうから~♪」
「調整屋…じゃない、みたまの提案だったけど悪くないでしょ?レナとかえでも喜んでるし♪」
「病魔騒ぎで密になる場所の利用は制限されてるし…まぁ、それでもレナは外で遊びたいから」
「都会じゃない自然の娯楽施設の方が今は需要が伸びてるんだって。キャンプは丁度いいよ♪」
「偶には観鳥さんも野鳥撮影のような仕事がしたかったんだ。観鳥報にも掲載出来るし♪」
「……気楽なもんだな。付き合いきれねーよ」
「家でじっとしていたところで何も手が付かないんだろ?そういう時はエンジョイするといい」
「精神薬でも飲んでた方がマシ…と言いたいところだが織莉子がいい顔しないな。好きにしろ」
「お前も向かうキャンプ場の近くで用事が出来たんだろ?丁度いい機会なんだ」
「まぁな……いつかこの上着を元の持ち主に返却したいと思ってたんだ」
尚紀が持っている袋の中身とはこの世界に流れ着いた頃に盗んでしまった上着である。
いつかお詫びの品と共に返却したいと考えていたのだが丁度いい機会となったのだ。
発進していく二台の車が向かう先とは倒れ込んでいた尚紀の森の近くにあったキャンプ場。
一泊二日の予定を立てている彼らはキャンプ場のコテージに泊まるようだ。
「急なお願いだったけど…本当にごめんなさい。キャンプ費用まで全額払わせちゃって…」
「気にするな、みたま。学生のお前達に支払わせるわけにもいかないからな」
「ウフフ♪やっぱり尚紀さんはお金持ち♡将来のお嫁さん候補に立候補しちゃいまーす♪」
尚紀を元気づけようと愛嬌を振りまくみたまであるが、聞き捨てならない言葉であった。
「ちょーっと、待った。尚紀さんのお嫁さん候補なら…ここにもいるんだけど…?」
ビキィ!と怒りマークが浮かんでいる笑顔を令がみたまに向けてくる。
同じような怖い笑顔を浮かべてくるみたまは負けられない女の闘志を燃やしていく。
燃え上がる彼女達の背後に浮かんでいくのは生死を司る死神のような怖いオッサン悪魔達。
何とかしろとレナとかえでがももこを突くのだが、乾いた笑いしか出てこないのである。
そんな彼女達に対して前の席に座る尚紀は遠い眼差しを浮かべながら窓の景色を見つめるのみ。
(皆に気をつかわせているのは弱い俺のせいだな……本当にすまない)
自責の念を抱え込むのは後ろを走るバンに乗っているやちよと鶴乃も同じ気持ち。
そんな彼女達を前向きにするためにも二台の車は目的地であるキャンプ場に向かうのであった。
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早朝から出かけたこともあり、朝の9時頃にはキャンプ場に到着する。
このキャンプ場は複合型のリゾートであり、様々な施設を内包するため非常に大きい。
車から降ろしてもらえた少女達は嬉しそうにはしゃぎながら案内板に向かうようだ。
「凄い施設ですよ!ボートハウス!星空テラス!カフェにプールに露天風呂まであります!」
目を輝かせるのはメルであり、はしゃぐ彼女をたしなめる横のみふゆはまるで保護者のようだ。
彼女ほど元気を出すことが出来ないやちよと鶴乃であるが、横のかなえが元気づけてくれる。
「考えを切り替えなきゃダメ。人生は止まってはくれない…だからこそ今日があるんだよ」
「かなえ……家族の期待を裏切った私なんかが……人生を楽しんでもいいのかしら……?」
「私だって同じだよ……大勢の魔法少女達に命の危険を背負わせちゃったのに……」
「本気で怒ってるなら鶴乃と一緒に来たりはしない。大切だからこそ…支えたいんだよ」
かなえに元気づけてもらえたやちよと鶴乃が顔を向け合いながら少しだけ微笑んでくれる。
そんな彼女達の付き添いを任されている尚紀の仲魔達が彼女達を宿泊地に案内するのだ。
「尚紀と槍一郎は後から合流するようです。お昼御飯の材料も買うそうなので少し遅れます」
「今日は楽しんでちょうだい。荷物を宿泊地に置いた後は自由行動にしましょう」
「貴女達の予約してあるコテージはツリーハウスです。素敵なコテージを満喫してください♪」
<<はーいっ!!>>
タルトとリズに先導されながら少女達は今日の宿泊地であるコテージに向かっていく。
ツリーハウスをしているコテージは2人用であり、それぞれがペアを選ぶ。
やちよと鶴乃、ももことみたま、レナとかえで、かなえとみふゆ、令とメルがペアを組むのだ。
荷物を置いた少女達は午後から遊びたい施設の下見に向かっていく。
お昼が近づいた頃、尚紀と槍一郎が沢山のレジ袋を持ちながら炊事場に現れたようだ。
「キャンプといったらやっぱりカレーですよね!こういうのに憧れてたんです♪」
持ち込まれた材料を見ながらウキウキ気分のみふゆであるが、尚紀の顔が青くなってしまう。
「カ……カレーなのか……?」
彼の脳裏に浮かんでしまったのは静海このはから食べさせられた物体Xの記憶である。
未だに何とも言えないブヨブヨした触感を舌が覚えているためトラウマを抱えている。
そんな彼が視線を向けた先にいたのは勿論、神浜魔法少女達の舌を破壊してきた者の姿なのだ。
「失礼しちゃうわねー、私の味覚障害は治ってるわよ。今の私なら皆の舌を満足させれるわ♪」
「お……おい、ももこ?みたまにカレーを作らせても大丈夫なのか…?」
「まぁ…アタシも一応は見張っておくよ。悪魔のみたまの味覚は大丈夫なのかを知りたいし…」
腕まくりをした八雲みたまが作るカレーとは、悪魔専用のカレーだと豪語してくる。
なので彼女のカレーを食べさせられるのは必然的に悪魔達だけとなるのだ。
「フンフンフ~ン♪今日のためにヴィクトル叔父様に頼んでおいた隠し味を用意したのよ~♪」
「みたま……今入れ込んだものって何なんだよ…?おかしなものじゃないだろうな!?」
「や~ね~ももこったら、疑り深いんだから。叔父様は優れた悪魔研究者なのよ~」
「イメチェンしてマッドになったヴィクトルさんだからこそ信用ならないんだよぉ!?」
ニコニコ顔で鍋の具材を掻き混ぜるみたまの周囲は酷い異臭を感じさせてくる。
禍々しい魔力まで体から発する彼女の頭上には踊る死の化身が大鎌を振り回す幻影まで浮かぶ。
これを食べたら確実に死ぬのでは?
そんな恐怖を感じる悪魔達の前に持ってこられたのは物体Xを超えたおぞましい料理なのだ。
「な……なんだよ……コレ?」
よそわれたカレーに目を向けるももこの顔が真っ青になっていく。
具材をよく見るとジャガイモやニンジン等の代わりとして何故か石が入っているからだ。
「悪魔の私達は魔石を食べられるのよ~、なので♪石ころカレーを作ってみたわ~♪」
「発想がどうかしてるよ!!」
それ以外にもおぞましい研究材料をぶちこんだカレーは鼻が捻じ曲がる程の悪臭塗れ。
抜き足差し足で逃げようとする尚紀と槍一郎であるが、みたまは強敵であるため回り込まれる。
「ボス悪魔並みに逃げられないのかよ!?」
「さぁさぁ尚紀さんと槍一郎さんも椅子に座って♪男の子だし、沢山食べれるわよね~♪」
「バレンタインとやらの時からこの娘は恐ろしい悪魔なのだと感じていたのだ……」
かなえやメル、令やタルト達にまで悪魔専用カレーをよそわれたために彼女達は震えている。
青い顔をした悪魔達が顔を向ける隣の席ではやちよ達が調理した普通のカレーが見えるのだ。
「あ……あのさ……やちよ……みふゆ……鶴乃……」
「ダメよ」
「ダメです」
「これも修行だよ」
「観鳥さんもその……小食なんだ。そっちのカレーぐらいの量がいいから交換を……」
「レナ、絶対に交換しないから」
「ふゆぅ……これも運命だよぉ」
「遊びに来る前に占いしてたんですが…運命の輪の逆位置が表す未来はこれだったんですね…」
横の席から視線を逸らせばマカーブルの大鎌を右手に持つみたまが見える。
お残しは許しまへんで!と言わんばかりの死神を見た悪魔達は覚悟を決めるしかない。
取り合えず石ころカレーを一口だけすくって食べてみる。
すると悲劇は起こったのだ。
「「「ホゲェェェェーーッッ!!?」」」
ビターンと後ろに倒れ込んだかなえとメルとクーフーリンの口から魂が漏れそうになっている。
「「「ナンデェェェェーーッッ!!?」」」
突然体が燃え上がった尚紀とももこと令が飛びのきながら地面を転がっていく。
不思議顔を浮かべるみたまであったが、原因が何かを思い出すのだ。
「あらぁ?もしかして持ってきたのは回復用の石じゃなくて…攻撃用の石だったのかしら?」
彼女がカレーにぶち込んでいたのは『呪殺の秘石』と『火炎の秘石』である。
「……手を付けないで正解だったようね」
「すいません…尚紀。ボディガードであっても…その…これだけは付き合いきれませんでした」
周りを見てから食べようとしたタルトとリズの判断は正しい。
八雲みたまが作った悪魔専用カレーの正体とは、ムドラオカレーであった。
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みたまカレーの餌食となった悪魔達は攻撃用の石の効果だけでなく様々なバステ状態である。
どうやらヴィクトルが用意した怪しい品の効果を悪魔で実験させる狙いもあったようだ。
タルトの回復魔法である常世の祈りで回復する事が出来た尚紀達はカフェで昼食を済ませる。
これ以上みたまカレーの攻撃を浴びれば全員パトることになるのは明らかだった。
昼食を終えた尚紀達はそれぞれで考えていた娯楽施設へと向かっていく。
令とかえでとタルトはバードウォッチングに向かうために森の方に向かう。
かなえとメル、槍一郎とリズはボートハウスに向かい、カヌーを漕ぎながら泉の景色を楽しむ。
残された尚紀を引っ張っていく少女達が向かった場所とは屋外プールだったようだ。
「五月が近いとはいえまだ肌寒い季節なのに屋外プールかぁ…大丈夫なのかなぁ」
「今日は快晴だし気温も二十度まで上がってるから大丈夫よ♪」
「まだ肌寒い季節だからレナ達の貸し切りみたいね」
「前もって施設の設備を調べておいて良かったですね♪でも去年の水着が少し小さいような…」
「アハハ♪みふゆさんの胸の成長期はまだ終わってないみたいだね♪」
更衣室で水着に着替えている少女達であるが、少し離れたところで着替えをするやちよがいる。
敗北者のような顔つきで見つめてくる者の目に見えたのは豊満な胸をひけらかす勝者達なのだ。
悔しくて震えているやちよの肩に手を置く鶴乃が首を振り、同情する眼差しを向けてくる。
「超えられない壁もあるんだよ。私も無理やり最強を目指しても辛いだけだと気づいたし…」
「貴女だって十分大きい方でしょうが!!」
怒りのゲンコツを浴びた鶴乃は頭を抱え込みながら悶絶し、その光景を皆が笑っていく。
そんな者達に付き合いきれない尚紀は水着すら持ってこず、プールサイドの椅子に座っていた。
「ウヒャー冷たい!!」
「レ…レナはこの程度の冷たさなんてへっちゃらなんだから!」
「その割には体が震えてますよ?」
「動いていたら体が温まってくるわよ…動いていたらね」
「チャー!だったら水球勝負の始まりだねーっ!!」
「お手柔らかにね~♪」
ももことレナとみたまは去年着ていた水着姿であり、やちよはモデル撮影時代の水着である。
みふゆは白のビキニ姿であり、鶴乃はリボンとひまわりをあしらった可愛いビキニ姿のようだ。
水球勝負を始める少女達の試合時間は尚紀がスマホで見てくれるようだ。
「よーし、行くぞーっ!」
「抜かせないわよ、ももこ!」
壁となるやちよに対して横のレナにパスを回し、ゴールに向かってレナが一気に進んでいく。
「思った以上に水の中だと抵抗が強いわね…でも負けないんだから!」
「そのセリフは最強のディフェンスを超えてから言ってよね!」
立ち塞がる鶴乃の俊敏な上半身運動で前にボールを投げれないレナが後ろにパスを回す。
ボールを受け取ったみふゆに目掛けてやちよが攻め込むが一気にボールをパスしてくる。
相手のゴール前まで人魚の如く素早く泳いできたももこが水から飛び出して受け取るのだ。
「後はゴールを決めるだけ……あ、あれ?」
やちよ達のゴールキーパーを務めていたみたまの姿が何処にも見えない。
だったら構わずゴールを決めると水の中を走っていたのだが、突然胸を掴まれてしまう。
「ひゃぁ!!?」
赤面しながら後ろを振り向けば同じように水の中で姿を隠していたみたまがいたのだ。
「あら~?またオッパイが大きくなったんじゃないの~ももこ♪」
「へ、変なところ触るなよ!!」
「女の子同士なんだし~恥ずかしがることないじゃない♪」
「同性だって恥ずかしいだろ!男だって股間をいきなり掴まれたら恥ずかしいのと同じだ!」
キャッキャッしてるももこ達であるが、手に持っていたボールを落としているのを忘れている。
それを掴んだのは戻ってきた鶴乃であり、やちよに目掛けて一気にパスを回す。
ゴールキーパーのみふゆは慌てて戻るのだが既にやちよは相手のゴール前まで泳いでいる。
「はい、ゴール!」
ゴールまで戻り切れなかったレナとみふゆを超えたやちよが先制点を決めたようだ。
「まったく……元気な連中だよな」
ボーっとしながら水球を楽しむ少女達を見物する尚紀であるが、プールの水が迫ってくる。
激しい競技であるためこちら側にまで水が押し出される中、彼はズボンの裾を捲り上げる。
「裾が膝下ぐらいの革ズボンを履いてきた方が良かったかもな……」
素足を濡らしながら再びスマホの試合時間を見守る尚紀であったがボールが飛んでくるのだ。
「ぐふっ!?」
頭にぶつかってしまった尚紀が横を向けば謝りながらボールを投げてと言ってくる者達がいる。
ボールをプールに投げ返した尚紀であったがスマホをポケットに仕舞ってしまう。
「あの程度のボールに体が反応出来なかったなんて……いつの間にクンフーが衰えたんだ?」
焦った彼は歩いていき、開けた場所で足幅を開きながらカンフーの演舞を行っていく。
家でじっとしていた時は何もする気力がなかったのに、いつの間にか心と体が活性化している。
その感触を感じられたのは八卦掌の演舞を終えた彼の後ろから迫ったボールを掴んだ時だった。
「……よし、聴勁の感覚が徐々に戻っている。サボった分だけ腕が鈍る…恐ろしいもんだな」
プールに投げ返そうとした時にポケットのスマホのタイマーが鳴りだし、小休止となっていく。
温かい缶コーヒーを買ってきた尚紀の差し入れのお陰で冷えた体も温まってきている。
「尚紀さんは泳がないの?」
「俺はいい。泳ぐ気分になんてなれなかったし…水着も買ってないんだ」
「もったいないなぁ、尚紀さんは体を凄く鍛えてるんだし見せても恥ずかしくないでしょ?」
「そういう問題じゃねーよ。それに…俺は戦う時にいつも上半身裸の姿だから今はいいんだ」
「そういえば、このプールは入れ墨をいれた人はお断りって書いてたのをレナは見たわよ」
「……だそうだ。全身入れ墨悪魔の俺はプールを利用出来ないってわけさ」
(そういう問題なのかしら……?)
休憩が終わった水着少女達が再び試合を始めるためにプールの中に入っていく。
その光景をプール際で立ちながら見守っている尚紀であったが、背後に誰かが忍び寄る。
「えいっ♪」
「へっ?おわわぁぁぁぁーーっ!!?」
盛大にドボンとプールに落ちた尚紀の上半身が飛び出してきて上を睨んでくる。
背後から突飛ばした者とは悪戯好きな困ったお姉さんをやってきたみたまだったようだ。
「いきなり何するんだよ!?」
「ウフ♪尚紀さんがプールに入りたくなかったのは恥ずかしかったからなのかな~と思って♪」
「うっ!?そ、それは……その……」
女子とプールでバシャバシャ遊んだ経験など彼は中学生までしか経験したことがない。
気恥ずかしい彼は横で監視員でもやってた方が気が楽だった本音を見抜かれていたようだ。
「男は度胸♪何でもやってみるものよ~♪逃げてばかりじゃ成長なんてしないから♪」
「みたまの言う通りよ。一泊の予定だし着替えぐらいあるんでしょ?」
「フフッ♪尚紀さんは私のチームに入れますからね~」
「あーっ!ずるいずるい!尚紀はこっちのチームに入ってよ~!」
彼の都合などお構いなしで振り回してくる少女達。
そんな彼女達に対して顔を真っ赤にした尚紀が叫んでくる。
「お前ら……大人をからかうのもいい加減にしろぉ!!」
怒った尚紀をからかうようにしながら騒ぐ少女達がプール内を逃げていく。
追いかける尚紀は彼女達に振り回されながらも辛い苦しみを忘れることが出来ている。
てんやわんやだったプール遊びが終われば皆が楽しみにしていたバーベキューの時間のようだ。
<<美味しいーーーーッッ!!>>
バーベキューグリルの前に集まっている少女達は満面の笑顔を浮かべながら料理を楽しむ。
グリルの前では家着のカンフー服を着た尚紀がスペアリブを焼いていき、槍一郎が食材を切る。
「懐かしいな…静香達ともこうやってバーベキューを楽しんだことがあるよ」
「静香ちゃん達ともやってたんだ!?ずるいずるい!その時に呼んで欲しかった~!」
「その時はまだお前達とは関りがなかった時期なんだよ」
「そんな貴方とこうして出会えた幸運があったから…色々なことが好転してくれたのよ」
「そうですね…私達だけではきっと多くを失う結果になってましたね…」
「辛気臭い話はやめようよぉ。今日は尚紀さん達に楽しんでもらいたい集いなんだから」
「かえでの言う通りよ。まぁ、レナはレナが楽しめたらそれでいいんだけど♪」
「レナちゃんは食い意地が満たせる集いだったらホイホイやってきちゃうもんねぇ…」
「だから!!レナは食い意地張った女じゃないわよ!!」
「おデブちゃんになっても私は知らないんだからね~」
「まぁまぁ、こうやって皆で集まって苦楽を共に出来るってさ、本当に素晴らしいことだよ」
「観鳥さんもそう思うよ。神浜の東西が繋がり合って苦楽を共に出来る…尚紀さんのお陰さ」
「私達はね…本当に貴方を必要としているの。だから自分だけで全てを抱え込まないでね」
「お……お前ら……」
彼のことを本気で大切にして必要としてくれる者達の優しさが嬉し過ぎて言葉が詰まっていく。
そんな彼に近寄ってきたのはクーフーリンであり、両手にはウイスキーの酒瓶が持たれている。
「今夜は飲もう、尚紀。魔法少女達だけのバーベキューでは酒の付き合いも出来ないだろう」
「槍一郎……そうだな、今夜は飲もう。飲んで色々と溜め込んだものを流していくさ……」
「私も付き合うわよ。ワインもちゃんと用意してるんでしょうね?」
「ぬかりないぞ、師匠」
「はいはい!お酒飲むなら私も参加したいですーっ!!」
「みふゆ…あと数ヶ月で二十歳なんだからそれまで我慢なさい」
「やっちゃんのけちんぼーっ!!今夜ぐらい無礼講でいいじゃないですかーっ!!」
「ダメよ。酔っぱらった貴女が何しでかすか心配ですもの」
「きっと他のメンバーのコテージに間違って入り込んで、そのまま布団を占拠しちゃうよ」
「長い付き合いの鶴乃がそういうんですもの、きっとそうなるからやめなさい」
「えーん!えーん!みんなが私を虐めますーっ!!助けてかなえさーん!!」
しっかり者に見えてダメな部分はとことんダメなみふゆの姿が可笑しい皆が笑顔を浮かべる。
そんな者達を酒を酌み交わしながら見守る尚紀は忠義を尽くす自慢の仲魔に顔を向けてくれる。
「有難う…クーフーリン。お前のお陰で色々な苦しみから救われた気がする…前に進めるよ」
「気にするな。主君と認めたお前のためなら嫌われ役も引き受けるし、諌言だってする」
「私も貴方に忠義を尽くす者としてセタンタと同じ気持ちよ。どんな汚れ仕事も厭わないわ」
「お前達の自己犠牲精神を重く受け止めるよ…。お前達になら…
「ウィ~~…ヒック。わたしも~~リズにまけないじこぎせいをみせちゃいますよ~~」
呂律が回らない声がした方に顔を向ければ酒の臭いだけで酔っぱらったタルトがいる。
「てったいせんのしんがりだってやっちゃいますよ~~!くらえ、ちゅうぎのひかりパワー!」
「おい!待てってタルトーーッッ!!?」
突然興奮した患者のように変身したタルトがマギア魔法をぶっ放そうとしてしまう。
慌てて彼女を抑え込む尚紀達を横目に乾いた笑いが出てくるばかりの仲魔達である。
「アハハ…みたまとよく似た声をしてるタルトさんも…色々と面倒な部分があるよね…」
「ちょっと…ももこ?それはどういう意味なのかしら~?」
「えっ!?い、いや…みたまをバカにしてるわけじゃないぞ?ちょびっと…いややっぱない!」
「これはコテージに帰った時は色々とお説教コースになっちゃうわね~」
「そ、そんな~!!勘弁してくれよ調整屋ーーっ!!」
「もう調整屋じゃないけど、ももこの偏見だけは強引に調整する必要がありそうね♪」
馬鹿騒ぎを繰り返す者達の夜も更けていく。
仲魔と仲間に支えられた尚紀の心を救ってくれるのはいつだって心を通わせた者達だった。
あまりにもシリアスばかりで日常が足りん!お色気が足りん!
なので最後の機会とばかりに日常話を二話突っ込みますね。
水着があるなら露天風呂も描かにゃならん!