人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
太古の時代から温泉は人々から愛され、古代ローマでは大衆浴場が整備されるほどである。
火山国である日本も温泉資源が豊富であり、様々な場所で愛されてきた。
癒しの湯と呼ばれる程心身ともに温めてくれる露天風呂を利用するのは心の癒しを求める者達。
キャンプ場の露天風呂は一つしかないため、尚紀と槍一郎が先に温泉を済ませたようだ。
「ふぅ……銭湯もいいが、やはり温泉が一番だ。こんなに癒された気分は何年ぶりだろうな」
「気に入ってもらえたなら幸いだ」
時計を見れば20時近くであり、最後の入浴時間が迫っている。
「女達には私が伝えに行こう。尚紀はそこいらで休んでいるといい」
「そうさせてもらおうかな。入浴時間を分けられていたのが残念だよ」
「なんだ?女共の入浴シーンでも見に行きたかったのか?」
「誰がそんなこと望むか!!一緒に風呂を済ませられたら効率がいいと言いたかっただけだ!」
「そういう意味か。アホ猿のスケベ心がお前にも感染したのかと心配したぞ」
「マスターを連れてこなかったのは正解だったな…アイツがいたら確実に覗きに行ってたろう」
槍一郎から連絡をもらった女性達が露天風呂に入れる施設へと入っていく。
ロビー空間は和風となっており、風呂から出た人達がくつろげる場所が設けられているのだ。
「いいお湯だった?っていうか…尚紀さんはまだ飲み足りないの?」
先頭を歩くももこが見つけたのは古風な囲炉裏の前で冷酒を飲む尚紀の姿である。
「まぁな。風呂は源泉かけ流しというわけではないが、やはり露天風呂の解放感は格別だった」
「露天風呂に入れる機会なんてなかったし、少しだけ…楽しみかも」
「レナちゃん、ここは公衆浴場だから湯船にタオルをつけちゃダメだよ」
「えっ!?じゃ、じゃあ…バスタオルで体を隠して入浴もダメなわけ!?」
「タオルは綺麗に洗っても石鹸カスや雑菌が隠れてるんだよ。そんなことも知らないの?」
「うっ…それは本当に知らなかったわ。参ったわね…裸のまま入浴だなんて…レナ恥ずかしい」
「恥ずかしがり屋なレナちゃんは冷水で濡らしたタオルを頭に巻いて入浴するといいよ」
「恥ずかしいからって、ゆでだこみたいになってのぼせることにはレナはならないわよ!!」
「12人も押しかけてきたけど、露天風呂に入りきれるかしら?」
「その点は問題ない大きさだったぞ、やちよ。入浴時間も最後だし他の客も多くはないだろう」
「それじゃあ、キャンプの最後の楽しみだった露天風呂にレッツゴ~~~♪」
ウキウキ気分なみたまに先導された者達が更衣室へと入っていく。
残された尚紀は冷酒を一口飲んだ後、ほっとした表情を浮かべている。
「…マスターを連れてこなくて本当に良かった。それにしても…あいつらの全裸入浴か……」
酔いが回ってきているせいか考えたくもない妄想が頭を過ってしまう。
頬が赤くなってしまう尚紀であったが、横から声を掛けられたためにビクッと震えるのだ。
「どうした?驚かせてしまったようだが?」
「槍一郎かよ……いや、驚いてなんてないぞ?俺は冷静そのものだ」
「……やはり覗きに行く気だったのでは?」
「しつこいぞ!!俺はそんな下心丸出しの男じゃない!まだ飲み足りないから付き合えよ!」
慌てている尚紀の態度が可笑しいのか、笑顔を浮かべた槍一郎は囲炉裏の横に座ったようだ。
一方、露天風呂に入ってくる少女達が目にしたのは和風に整備された露天風呂の光景である。
「うわーっ!ライトアップされた夜の露天風呂って雰囲気あって素敵だな~♪」
「本当よね~♪こんな素敵な場所で過ごせちゃうなんて、ミィに自慢しちゃお♪」
先頭を歩くのは全裸になったももことみたまであるが、湯船の湯気で微妙に体が隠れている。
女性の大事な部位は湯気で隠されているようだが、レナはタオルで前を隠しながら入ってくる。
「うぅ……どうしてももことみたまさんは裸が気にならないのよ?神経が太いのかしら?」
「レナちゃんって…学校の水泳でも水着に着替えるのが恥ずかしくて縮こまってた人でしょ?」
「うぐっ!?かえではどうしてうるさいことばっかレナに言ってくるのよ!?」
「フフッ♪こんなにズケズケ色々言える関係なのは、レナちゃんとももこちゃんだけだよ♪」
みふゆや鶴乃やかなえ、それに敗北者の表情をしたやちよ達も露天風呂へと入ってくる。
日本の温泉に馴染みがないタルトとリズは令とメルから作法を色々聞きながら入ってくるのだ。
体を洗い終えた全裸少女達が湯船の中に入ったり、サウナに入ったりしていく。
濡れたタオルを頭に巻き付けて髪の毛を湯船に下ろさない女性達は癒された表情をしている。
「ふぅ……全裸で入浴は恥ずかしいけどテルマエはいいわね。古代ローマ市民気分よ」
「日本もローマと同じぐらい温泉を愛する気持ちに溢れた国だと思います♪」
外国人からも日本の温泉を魅力に感じてくれているのが嬉しい表情をしているのは令である。
隣に座っている鶴乃は何やら気になる様子をしているようだ。
「それにしても…リズさんもオッパイ大きいよね」
「鶴乃ちゃんだってそこまで小さいほうじゃないと思うけど?」
「そうなんだよね…オッパイ大きいのに戦闘で体を動かすでしょ?痛くないのかなって思って」
「スポーツ娘な鶴乃ちゃんらしい発想だね…」
「大きさ的に…あたしも大きいほうじゃないけど、鶴乃や令と同じサイズぐらいだと思う」
「ボクはかなえさんより少し小さい方だと思いますよ」
「メルはまだ14歳でしょ?これから大きくなるんだよ」
「そうだといいんですけど…悪魔なボク達の体が何処まで成長するかは未知数なんですよねぇ」
胸の話ばかり出てくる光景の中にはやちよの姿は見えない。
こうなることを見越していた彼女はサウナに入り込んだまま出てこないのだ。
「どいつもこいつもオッパイオッパイ…全員オッパイ星人よ!貧乳の良さを語りなさいよ!」
鬼みたいな角を生やしてプンスコしている彼女は腕を組みながらサウナの熱さに耐えていく。
サウナの熱気と己の劣等感の責め苦によって彼女の全身はどんどん赤くなってしまうのだ。
「まぁまぁ、胸が大きいと肩こりに苦労するし、戦闘の時だってクーパー靭帯に負荷が……」
「やかましいわよ!!勝者の戯言なんて聞きたくないわ!!」
突然胸を掴んできたやちよのアイアンクローによってみふゆが悲鳴を上げていく。
「痛い痛い!!落ち着いてやっちゃん!揉むならもっと優しく揉んでください~~っ!!」
「どうして私の胸部には脂肪がつかないのよ!?ガッツリ食べてきたはずなのにーっ!!」
サウナの方が騒がしい光景を心配そうに見つめるももこであるが、隣のみたまが振り向く。
「こうやって皆で温泉に来るのもいいけど、ももこは恋人と一緒に来たいとは思わないの?」
「えっ!?いきなり恋愛の話題かよ…アタシは万年恋人募集中だから今は語れないかな…」
「フフッ♪いつか恋人が出来るとして、一緒に旅行に行ったら何処まで関係を進めたい?」
「ど……何処まで関係を進めたいって……どういう意味なのさ?」
「いやん♡私の口からそういうのを言わせないで、恥ずかしいから♪」
「みたまの方から話題を振っておいてそれはないだろ…でも、そんな日が来るのかな…?」
顔を半分湯船に浸けながらブクブクさせているももこの心配なら同じ悪魔のみたまには分かる。
「私達は悪魔になった。だけど悪魔は自由を求める者よ。魔法少女時代とは状況が違うわ」
「だけど…アタシは吸血鬼共から命を狙われる立場だ。彼氏が出来ても…命が心配なんだ…」
「恋は理屈じゃないってやちよさんから教わったわ。だからね…後悔しない人生を生きてね」
「みたま……」
「たった一度の人生なんですもの。やちよさんも後悔してきた……同じようにはならないでね」
「やちよさんも辛い恋愛経験があったんだね…。アタシの彼氏かぁ…強い人がいいよなぁ…」
「この世界にはデビルサマナーの男の人だっているんだし、悪魔の男性もいる。望みはあるわ」
「どうせ付き合うなら、ライドウさんみたいなデビルサマナーがいいなぁ♪」
「ももこはああいう大正浪漫が似合うイケメンが好きなのね?立派なモミアゲしてるし♪」
「ほんと…どうやったらあんな風に突き刺さるぐらいのモミアゲの形になるんだろうね…」
「あの鋭さなら悪魔化した尚紀さんの首裏にある一本角とチャンバラ出来ちゃうわ♪」
恋愛の話題から脱線して葛葉ライドウのモミアゲの話題になっていく2人である。
一方、話題に出された尚紀の方は酒を飲み過ぎたせいか尿意を催し連れション中のようだ。
フゥーと溜息が出る彼であったが、視線が隣の槍一郎に向いてしまう。
見えたのは外国人に相応しいサイズのイチモツであり、強烈な劣等感に苛まれてしまう。
(どうして俺の周りには…俺に劣等感しか与えてこない奴らばかりなんだ…?)
やちよと同じように悔しさで体が震えていた時、窓を見つめる槍一郎が声をかけてくる。
「お……おい、尚紀。夜空を見ろ……」
「夜空に何が見えるんだ?月の兎でも見えた……か……?」
開いた口が塞がらない2人が見たものとは月の光に照らされた軟骨魚類の姿である。
その姿を知っている人修羅の脳裏にはボルテクス界の新宿衛生病院の光景が浮かぶのであった。
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「ここが魔界で噂になっとった魔法少女の世界か!ワシも召喚されて出張ってこれたわ!」
夜空を飛んでいるのは何処かのサマナーに召喚された堕天使の姿である。
まだら模様をした大きなエイの背中に二本角が生えた悪魔が融合したような見た目である。
何処かのサマナーの隙をついて逃げ出してきた堕天使こそデカラビアの探し悪魔であった。
【フォルネウス】
ソロモン王の七二柱の悪魔の一体であり、地獄の29個軍団の指揮者。
その姿は海の怪物として描かれ、言語学、修辞学に通じているという。
また敵の愛や憎しみを反転させる力を持つとも言われていた。
「こちらでワシ以外の堕天使と閣下達は活動しているそうじゃな…お目通りを願わねば…」
年寄り堕天使のフォルネウスはルシファーの実働部隊には選ばれなかった留守番組の者。
慢性の腰痛に悩んでおり、現役部隊を退いていたが腰の調子が戻ってきたのが幸いしたようだ。
「ワシは若造堕天使共にはまだまだ負けんぞ!と言いたいところだが…体が乾く…苦しい……」
海の魔物であるフォルネウスの体がぐらついていき、露天風呂の方へと落ちてくる。
早く水分で体を濡らしたい老人の老眼には少女達の姿は見えていないのだ。
空から現れた悪魔の存在に気が付いた少女達の目が大きく見開きながら叫ぶ。
<<エエェェェェェーーーーッッ!!?>>
強引に着水してきた巨大なエイにビックリした少女達の目が飛び出しそうなぐらいの仰天ぶり。
エイの体が温泉に沈み、匍匐前進のような形で融合している堕天使の頭部が湯船に浮くのだ。
「大きな水たまりかと思ったら温泉だったようじゃのぉ…おや?オヌシ達は……?」
空から突然現れた大きなエイの着水によって風呂場の湯気が全て吹き飛んでいる。
残されたのは女の大事な部分が丸見えになってしまった赤面中の乙女達なのだから大変だ。
<<キャァァァァーーーーッッ!!>>
「なんじゃぁぁぁーーーっ!!?」
風呂桶が次々とフォルネウスの頭部にぶつかっていき、いきなりの攻撃で泡を食う堕天使。
「ご、誤解じゃ!!ワシは体を濡らしにきただけであって女子の裸を覗きにきたわけでは…!」
「いきなり乗り込んでくるとか覗き魔以前の問題ですよーっ!!この変態悪魔!!」
「これはもう明日の観鳥報に載せれるぐらいの暴挙っぷりだよ!!」
「この変態悪魔!!レナの裸を見た罪は重いわよ!!」
「ふみゃみゃ……悪魔っていうか…海産物っていうか…とにかく出て行ってよぉ!!」
風呂桶だけでなく石鹸だのタオルだの次々とぶつけられたために流石の老人も激怒する。
「いい加減にしろ小娘共!悪魔みたいな人間と魔法少女共め…ワシはフォルネウスであるぞ!」
<<だから何よ!!女の入浴に土足で上がり込む変態にはキツイお仕置きが必要のようね!>>
サウナの方から叫び声が聞こえたので背中に張り付いた頭部の視線を向けてみる。
立っていたのはゆでだこみたいに真っ赤になったやちよであり、目がグルグルしているのだ。
「や…やっちゃってください!!女の裸を覗きに来る変態なんて……あぁ、ダメ。冷水冷水…」
付き合っていたみふゆの目もグルグルであり、冷水の方に顔を向けていたら何かが飛来する。
「ゴフッ!!?」
魔力で生み出した槍を回転させるやちよの一撃が誤って顔面に直撃したみふゆが倒れ込む。
マギア魔法の突進を行おうとするのだが、グルグル目なので飛んできた石鹸に気が付かない。
「アラァァァァーーーッッ!!?」
濡れた石鹸を踏んだやちよが盛大にすっ転び、俯けに倒れたまま一気に滑ってくる。
「ぐふっ!!?」
温泉を囲う浴槽の石に頭をぶつけたやちよが白目を剥いて失神する末路となってしまう。
「やちよ…胸が平らなばかりにブレーキが利かなかったんだね…」
「鶴乃……それは容赦ない言葉だよ……」
無礼な小娘共を氷漬けにしようと飛び上がろうとするフォルネウスであるが尻尾を掴まれる。
「扉は開けてあるか閉まっているかのどちらかです。中途半端な制裁では許されませんよ」
笑顔を浮かべているタルトであるが、怒りマークが頭に浮かんでいる。
「大きなエイの悪魔など…黒バター添えにして食べてあげましょう!!」
聖女パワーで尻尾を一気に振り抜き、巨大なエイの体が地面に叩きつけられる。
「グォォォォォ!!やめろ!やめんか小娘!!腰がァァァーーーーッッ!!!」
ビターンビターンと、次々と地面に打ち付けられる巨体を遠くで見守るのは尚紀達である。
「…姿はフォルネウスで間違いないようだが…なんで老人みたいな性格になってるんだ?」
「ボルテクス界で人修羅として生きた尚紀が倒したあの悪魔は別の人格だったのか?」
「まぁな…悪魔らしいチンピラ性格をしていたような記憶だったが…どうなってんだ?」
「ボルテクス界で見かけたフォルネウスは分霊なのだろう。概念存在は様々な形となるからな」
「そんなもんか…。ところで、これは助太刀に行くべきなのか?」
「……行けば我らもフォルネウスと同じ末路だ」
露天風呂の外で向こう側の様子を見守っていたのだが、タルトがトドメの一撃を放つ時がくる。
「エイのバターソテーもいいですけど…エイの炭火焼も美味しそうですぅぅーーッッ!!」
「ワシは食い物ではなぁぁぁーーーーいッッ!!!」
ジャイアントスイングから放たれたフォルネウスの巨体が温泉を囲う竹フェンスに激突する。
フェンスを突き破ったフォルネウスに驚く暇もなく、男達は巨体の下敷きとなってしまう。
「こ……腰……がァァァーーーー…………ッッ」
エイは軟骨であるため全身の骨をバキバキに壊されたフォルネウスが砕けてMAGの光と化す。
「とばっちり……ばかりだよな……俺って……」
「そう言うな……我らが出るまでもなく脅威は消えたのだから……」
踏んだり蹴ったりな尚紀達が立ち上がるのだが、背後から肩を叩く存在に気が付く。
「ちょっと…困るんですよ、お客さん。ここは皆が利用する施設なんだから」
「えっ……?」
背後に振り向けば筋肉ムキムキマッチョマンの変態のような管理人が仁王立ちしている。
「いや……その……俺が暴れたわけでは……」
「露天風呂を利用してるのはお宅のところの人達でしょ?保護者なら責任とらなきゃね?」
「アッ……ハイ……」
タルトが派手に暴れたこともあり、露天風呂の敷地内は酷い有様である。
とばっちりを受け続ける運命にある尚紀は高額の修繕費用を後日払うことになったのだ。
ところ変わって海上を航海している豪華客船の甲板に景色が移る。
船の甲板で夜空を見上げていたのはアリナと新しい仲魔となったデカラビアのようだ。
「おお、夜空を見るがいいアリナ!流れ星が堕ちていくぞ!」
「それがどうかしたワケ?」
「きっと吉兆に違いない!これはフォルネウスと出会える兆しとみて間違いないだろうな」
「フォルネウスと待ち合わせしてたって千晶も言ってたけどさ…どんな関係だったの?」
「普通にゲーマー仲魔だっただけなのだが?」
「そ……そんだけの関係でボルテクス界とかいう場所でずっと待ちぼうけしてたワケ…?」
「例のパズルゲームをようやくクリア出来たのだ!クリアするところを見せねばならんのだ!」
言っている意味が分からないアリナはオーバーに両手を広げながら隣に顔を向ける。
横では船酔いに苦しみ続ける十七夜が倒れており、干からびた魚のような顔をしているのだ。
手のかかる仲魔ばかりで辟易する毎日のアリナが動く時もいずれ訪れよう。
しかしデカラビアとフォルネウスの再会については、この世界で訪れる日はこなかった。
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ドタバタした風呂であったが、少女達はツリーハウスに戻って就寝する時間を迎える。
尚紀や槍一郎、それにタルト達はツリーハウスとは違うコテージに戻って就寝したようだ。
ペアを組んでいるももことみたまも就寝しているのだが、みたまが体を起こす。
彼女が見つめる場所では机の上で作業をしたまま眠ってしまったももこがいたようだ。
「ももこ……十七夜を止めるために戦う準備をしているようね」
机の上には木の削りカスが多く、ホームセンターで買った白木を刃物で加工していたようだ。
「十七夜が動く日はアリナが語った言葉通りだとしたら……来週の東京になる」
ベッドスローの布かけを熟睡したももこの肩に羽織らせた後、みたまは時計に目を向ける。
時刻は0時を超えており、都会の神浜とは違った静か過ぎる夜を感じさせてくるようだ。
「私は尚紀さんやももこを支えたい…そして十七夜を止めたい。私も覚悟を決めなきゃね…」
吸血鬼悪魔と成り果てた親友と殺し合うことになるだろう未来が怖くて彼女は震えてしまう。
気が高ぶって眠れなくなると困ると思った彼女はツリーハウスから出て外に向かっていく。
少し散歩するつもりであったが、階段を下りていた時に誰かを見つけたようだ。
「あれは……尚紀さん?こんな夜更けに何処に行くのかしら…?」
心配になったみたまは尚紀の後ろをこっそりと尾行していく。
どんどん先を進んでいく彼はキャンプ場の敷地内を超えていき、整備されてない森に入る。
鬱蒼とした森の中で尚紀の背中を追う彼女は明かりさえ使わずに歩く。
どれだけ歩いたか分からなくなった頃、キャンプ場から大きく離れた場所で彼が立ち止まる。
開けた場所で立つ尚紀は満天の星空に顔を向けながら声を出すのだ。
「いるんだろ?隠れてないで出てこいよ」
気が付かれていたみたまはバツが悪い表情を浮かべながら近寄ってくる。
何をしにこんな場所まで来たのかを問う彼女に対して彼は地面に顔を向けながらこう呟く。
「……俺はここから始まったんだ」
「えっ……?どういう意味なの…?」
「ボルテクス界を超え、神霊を打ち倒し、完全なる悪魔に成り果てた末に…ここで倒れていた」
この場所こそ人修羅が魔法少女の世界に辿り着いた原点の場所。
ここに戻ってきたのは流れ着いた自分の原点を振り返りたい気持ちがあったからだ。
「ここで起き上がった時から新しい道が始まった。だからこそやりたかった事を振り返るんだ」
戦いで傷ついた体が治るまで待ち、立ち上がった彼が先ずやりたかったことは人生の巻き戻し。
金さえ持っていない尚紀は自分の足で東京に帰り、そして最初の挫折を経験させられる。
「親だと信じていた人達は俺のことを知らなかった…俺はこの世界で生まれた男じゃないんだ」
東京で居場所を失った彼は逃げるようにして出て行きながら風見野市に流れ着く。
路地裏で座り込みながら全ての理不尽に怒りを爆発させていた時、手を差し伸べる者が現れた。
「この世界で最初に出会った魔法少女に導かれた俺が辿り着いたのは神の家である教会なんだ」
佐倉牧師の一家と出会い、魔法少女と共に戦った末に新しい道を見出していく。
「俺は導いてくれた魔法少女に恋をしながら夢見てた。悪魔と魔法少女が支え合える未来をな」
その夢は理不尽な運命によって砕かれたことで二度目の挫折を経験させられる。
復讐に燃える尚紀であったが、交わした約束のために生きる道を与えられた者でもあった。
「東京で探偵として生き、復讐を果たし終えた時…俺は新しい秩序を求めるようになった…」
独裁を敷いてでも魔法少女社会を取り締まりたい感情が生み出した思想こそが人間社会主義。
社会主義の名のもとに全体主義が敷かれた魔法少女社会は地獄そのものに成り果てるのだ。
「全体のために生きるのが正解だと信じたが……それはお前達との出会いで壊れてしまった」
唯一神を心の底から憎んだ悪魔が唯一神と変わらない独裁者に成り果てている。
そう突きつけられてしまった尚紀は三度目の挫折を味わうことになってしまった。
「結果論に縛られ過ぎていたと猛省した俺は…原因の解決こそが魔法少女を救うと考えたんだ」
「その原因の解決方法が……政治で社会問題を救う国政出馬だったのね?」
「そうだ…今の俺が縋りついているやりたいことが国政出馬。だけど現実はあまりにも残酷だ」
美国織莉子や里見太助から突きつけられた現実によって尚紀の心は挫折の苦しみを感じている。
このまま進んだところで四度目の挫折が待っているだけだと感じているからこそ怖くなる。
「ここに流れ着いた俺は…救ってくれた魔法少女を助けたい気持ちを望んだ。今も望んでいる」
「そんな尚紀さんだからこそ私達は救われたのよ。本当に感謝してる…貴方はやり遂げてるわ」
「そうだと…いいんだけどな……」
俯いたまま震えている彼の心労を分かってあげられなくても背負いたい彼女が手を握ってくる。
顔を向けた尚紀が目にしたのは潤んだ瞳のまま頬を染めるみたまの顔。
「自信を持って…尚紀さん。貴方は残酷な運命に負けない信念を貫く男だって…私は思ってる」
「みたま……」
「貴方の道は挫折ばかりであっても正しいの。貴方に救われた私だからこそ言えるのよ」
「挫折ばかりでも……正しい道……」
「誰だって人生を転ぶわ…私だって同じだもの。だからね…本当はみんな弱いって分かったの」
「社会を救おうとしている俺もまた……弱くてもいいのか……?」
「強がらなくていい…カッコつけなくていい…私はどんな尚紀さんでも心から愛せるわ」
左胸に愛情の象徴である赤い薔薇が咲いたみたまだからこそ、自己犠牲を示そうとしてくれる。
今の彼女を押し倒したところで、恋する女として喜んで彼を受け入れてくれるだろう。
それでも彼はみたまを押し倒すことはない。
そんな資格などない男に成り果てる道もまた、彼は選ばなければならない時がくるからだ。
「……どんな俺でも愛せるか。なら聞きたいんだ……みたま」
掴んだ手を振りほどいた尚紀が向けてくる顔を見た彼女の表情が変わっていく。
恐怖に怯えた者のような顔になってしまったのは、虐殺者時代の尚紀の顔に戻っているからだ。
「
――愛せるか?
「な……尚紀さん……?」
恐怖で震えてしまうみたまの心は燃え上がる調整屋で断罪者に追い詰められた時と同じとなる。
拒絶とも思える反応を示すみたまを見た彼は顔を俯けていき、もう一度顔を上げてくれる。
彼の表情は元の尚紀に戻ってくれていたことで彼女は安堵の顔を浮かべたようだ。
「……さっき言った言葉は忘れてくれ。そうならないよう努力はするが…俺もまた弱者なんだ」
「一体何をやろうと考えているの…尚紀さん?貴方を支えたい私にだけは教えてちょうだい…」
「…お前は贖罪の道を選んだ女だろ?そんなお前では俺の道に付き合わせるわけにはいかない」
歩き去ろうとする尚紀の背中に向けて待って欲しいと懇願してくる。
自分に縋りつこうとする八雲みたまの態度を背中で感じている彼は顔も向けずにこう語る。
「俺は希望の光なんかじゃない…呪いの炎を纏う悪魔だ。盲目的に飛び込めば焼け死ぬだけだ」
「そんなことない!貴方は私の…いいえ、皆の希望の光よ!どうか…ずっとそうであって!!」
「
振り向いてくれた彼が片手を胸に当てながら人生の教訓を与えてくれる。
「俺を追いかけるんじゃない…自分だけの道を突き進め。それこそが…俺の求める個の確立だ」
あなたの時間は限られている。
だから他人の人生を生きたりして無駄に過ごしてはいけない。
常識、既存の理論であるドグマに囚われるな。
それは
「最も重要なのは自分の心と直感を信じる勇気をもつこと。俺もまたそれを試す者になりたい」
みたまだけでなく自分にも言い聞かせたかった言葉を残した尚紀が歩き去っていく。
両膝が崩れてしまったみたまは未だに行かないで欲しいと涙を流している。
そんな彼女に振り返ることもなくなった彼が立ち止まり、横に顔も向けずに言い放つ。
「……ももこ、みたまを送ってやれ。今のアイツに必要なのは俺じゃない……お前の方だ」
それだけを言い残した尚紀の姿が鬱蒼とした森の中から消えていく。
隠れるようにして木の後ろにいたのはみたまの後ろをついてきていたももこであった。
「尚紀さん……どうしちゃったんだよ?何をそんなに思い詰めてるんだ……?」
尚紀のことが心配で堪らないが、みたまを放置することも出来ない。
言われた通りみたまの元に向かったももこが泣いている彼女を元気づけてくれるだろう。
みんなのお陰で前に進む気力を取り戻せたからこそ、嘉嶋尚紀は決断しなければならない。
原点の場所に帰ってきた気持ちとは、自分のやりたかったことへの覚悟を決めるためであった。
硬派な物語の日常シーンは話の腰を折るから必要ないとよく言われるので意味を持たせる日常話にどうにか落とし込めましたね。
なろう系批判動画でもよく言われてますが、主人公が何をしたいのか分からんという指摘どうりにならないよう主人公自身が自分の目的を再確認する話にしておきました。
百合の間に男を挟み込む僕の作風ですが、本当は百合カップリングを侵害する気なんて欠片もない最後にするお膳立てを積み重ねていきますね。