人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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282話 絶対の正解などない

皆でキャンプに行った尚紀達が神浜に戻った頃、セイテンタイセイ達から状況を伝えられる。

 

ダークサマナー達を尾行していった御園かりんと仲魔の一体が行方不明だというのだ。

 

家でじっとしているのが辛いジャックランタンは尚紀の家で預かることになっている。

 

これは今にも主人を探しに行きそうな彼を押し留める役目を尚紀達が担っているのだろう。

 

「落ち着け…ランタン。気持ちは分かるが当てもなく飛び出したところで見つからないぞ」

 

「それは分かってるんだけど…かりんにもしものことがあったら…俺は死にきれないホ…」

 

「リパーもついてくれている…一番近くにいたお前が仲魔を信頼してやらなくてどうする?」

 

「アイツは覗き魔の変態だけど…手癖が悪くてすばしっこいホ。上手くやれてたらいいけど…」

 

「俺様達ももう直ぐ東京に出発するんだ。俺様達と一緒に向かえばいい」

 

「そうだぞ。私達も捜索してやれるし、魔法少女達も御園かりんを心配してくれているんだ」

 

キャンプから戻った魔法少女達にも状況は伝えられており、心配をしたのはももこ達である。

 

ももことレナとかえではかりんと組んでいた魔法少女達であり、仲間の安否に怯えてしまう。

 

レナとかえではももことみたまの制止を拒否して仲間のために東京に行くことになったようだ。

 

「我々も捜索に協力してやれる。だから今は堪えるんだ、ランタン」

 

「わ…分かったホ……お前達の協力に感謝するホ……」

 

こうして残された数日は出来る限りの準備を行うことで悪魔達と魔法少女達の意見は一致する。

 

腕が鈍っていると痛感している尚紀は師匠と共に散打を繰り返してクンフーを磨き直す。

 

クーフーリンも師匠であるスカアハを宿したリズやタルトと共に修行を重ねていく。

 

魔法少女達も東京に向かうメンバーを選んでいくことになるようだ。

 

十七夜とかりんの捜索に向かうことになったのは彼女達と縁深いメンバー達であった。

 

「心配しないで…やちよ、みふゆ、鶴乃。十七夜とかりんは必ずあたしが連れて帰るから」

 

「大船に乗ったつもりでいいですよ!かなえさんのサポートはボクと令さんで行いますから!」

 

「かなえ…私とみふゆもついて行ってあげたいけど…きっと足手纏いになると思うわ…」

 

「そうですね…私達はもう魔力減退が抑えられない…。経験だけではカバーしきれないです…」

 

「鶴乃ちゃんも信じて待ってて。観鳥さん達が必ず十七夜さんとかりんちゃんを連れ戻すから」

 

「ごめん…任せる。私は魔法少女達の傍にいてあげたい…いつ暗殺者が来るか分からないし…」

 

「鶴乃、責任を背負って独りで無茶をするのはダメよ。私達だって彼女達のサポートを行うわ」

 

「そうです。秘密を共有した者として貴女を支えたいです。きっとみんなも同じ気持ちですよ」

 

「ごめん…本当にごめんね…みんな。だけど……ありがとう」

 

ももことみたまも十七夜と戦うことを想定して準備を進めていく。

 

アリナから聞かされた作戦決行日はゴールデンウイークであり飛び石連休なのは分かっている。

 

最初の祝日である29日には東京で待ち構える手筈となっていくのだ。

 

「今年のゴールデンウイークといっても数日ある…どの日に作戦が決行される?」

 

暗い自室でカレンダーを見つめる尚紀であるが正確な作戦決行日を見いだせていない。

 

先に到着してから広い布陣を敷いて対処するしかないと結論づけた彼は明日に備えようとする。

 

しかしベットに入っても気が高ぶって眠れない尚紀は再び机の椅子に座り込んでしまう。

 

座り込んだまま考えていたのは里見太助から語られた言葉であった。

 

「この世の現象は正解であり不正解か…確かに、人間の人生に正解なんてなかったな…」

 

人類が誕生してから約400万年とも700万年とも言われている。

 

その歴史の中で幾度となく争いは繰り返されてきた。

 

戦争や紛争が起きていない時期であろうと我々人間は常に大小様々な争いを繰り返している。

 

学校、職場、地域、宗教、思想、娯楽、そういった枠組みの中で他者との確執が起こるのだ。

 

「どこかに決められた正解がある……それこそが人類の大きな勘違いなのかもしれねーな」

 

人間は自分の主観で模範的な生き方を勝手に作ろうとする生き物。

 

あらゆるメディアや教育、文化等によって刷り込まれた価値観が生み出す正解が誕生する。

 

しかし正解とは国や民族が変われば全く違う正解に化けてしまう。

 

愛する恋人は1人だと言えばハーレムを認めるべきだと言われたり、同性愛が正解ともいう。

 

食べ物でも同じであり、から揚げにはレモンが正解と勝手にかけたら争いが起きてしまう。

 

「正解という概念の正体は…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…」

 

様々な地域、様々な人々が生み出す正解同士がぶつかり合う現象こそが戦争の歴史。

 

戦争や争いとは正解と正解のぶつかり合いであり、善と善のぶつかり合いでしかない。

 

お互いが自分達の考えを正解だと信じ、善行だと思い込むからブレーキがかからなくなる。

 

自分達が正解なら自動的に相手の正解は不正解にしてしまう現象こそがこの世の争いであった。

 

「これを利用したのが戦争プロパガンダだ…だから常に正義と悪の対立構造を演出する…」

 

正義という正解を作ってしまえば最後、それを選ばない者は自動的に悪にされてしまう。

 

悪を成敗するのは社会貢献だと身勝手な正義を振りかざす者達によって他人の正解は潰される。

 

アラディアが使った扇動手口や右翼や左翼政党の扇動手口も突き詰めればこれなのだ。

 

「正解は常に変わっていく…状況や人々の圧力で反転する…ケースバイケースでしかない…」

 

正解は後からコロコロ変わっていくもの。

 

独身貴族最高!と思ってたら家族を作る大切さに気が付いた時に正解が真逆になってしまう。

 

天動説と地動説ですら唱えられた時代では人々からバカにされ、天動説という正解は潰される。

 

しかし現代人は地球は周るものだと考えており、当時の正解は現代の正解には繋がらない。

 

絶対的な視点は存在しないというニーチェの言葉の根拠とはこういうことなのだ。

 

「人間の守護者として生きる道が正解だと今でも俺は思ってる…それでも…それだけでは……」

 

大きな迷いを抱え込みそうになった尚紀は立ち上がり、部屋を出て行く。

 

夜中の庭に立ち、カンフー着のまま演舞を行う姿を見せる。

 

「拳法は陰陽理論…攻めの中に守りがあり、守りが次の攻めに繋がる…正解はどちらでもない」

 

人間の守護者として在った自分の姿は拳法で例えれば守りに徹する状態と表現出来るだろう。

 

しかし守っているだけでは攻められず、一方的に攻め込んでくる相手の攻撃で潰されていく。

 

社会ルールを守りながら選挙に出馬しようが、相手は容赦ない不正手口で攻め込んでくるのだ。

 

流れるような腕と手の動きで相手の突きを捌く動きを行っていたが拳を固める。

 

踏み込む動きと共に縦拳を放つ尚紀であったが、突きを放った状態で動きが止まってしまう。

 

「俺の方から攻め込むのか…?それではまるで…暴力団と同じじゃないか…」

 

自分達の目的を果たすために攻め込んでいく光景こそが暴力革命で誕生した国の歴史である。

 

しかし傍から見れば邪悪な姿であり、不良が暴力で金を巻き上げようとする光景と変わらない。

 

「俺はそんな連中から人間を守りたかった…それこそが俺と風華の在り方だったはずなのに…」

 

拳を下ろした尚紀であったが、人間社会主義を啓いた時期の自分の姿を思い返す。

 

あの時の尚紀は自分の要求を暴力行為で魔法少女達に押し付けている。

 

その姿は守ろうとする者の姿ではない、魔法少女の自由を奪いに攻め込んだ者の姿だった。

 

「魔法少女の自由を奪えば社会は平和になる…それが正解だと思ったが…間違っていた…」

 

それでも人間社会主義によって東京社会に秩序を築き上げた実績を無視することは出来ない。

 

それは暴力革命で誕生した民衆国家だって同じことだった。

 

「攻めることも守ることも…どちらも正解であって正解ではない…それが…秩序と自由か…」

 

守る秩序、攻める自由、守る自由、攻める秩序、どれも正解であり不正解。

 

この世の現象は陰陽太極図の如く回転し続けるし、正解だって回転し続けるもの。

 

里見太助が何を伝えたかったのかを理解した尚紀であったが、それでも迷ってしまう。

 

気分が晴れない尚紀は家の中へと戻っていき、彼の様子を見守っていた者に顔を向ける。

 

「少し夜風を浴びに行ってくる」

 

「明日の早朝は東京に向かうのだぞ…?休まなくていいのか?」

 

「クリスを運転しながら近場をドライブするだけさ。心配はいらない…」

 

「そうか…クリスが傍にいてやれば大丈夫そうだな。いいか、早まった行動は許さないからな」

 

「分かっているさ…」

 

黒のライダースパンツと白と青のラインが入った革ジャケットを纏う尚紀がクリスに乗り込む。

 

「ダーリン……」

 

心配そうに声を掛けるクリスであったが、その言葉を受け止める余裕は彼にはなかった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「噓も方便って言うじゃない?悪いイメージの中にだって人々を救う可能性があるものよ」

 

クリスを運転する尚紀は窓を開きながら夜風を浴びている。

 

悩み事を抱えていると思った彼女は彼の悩みを色々聞いてくれているようだ。

 

「俺達悪魔は悪いイメージそのものだ…そんな俺達でも…人々を救える可能性があるのか?」

 

「モチのロンよ~!殆どの悪魔は悪いイメージ通りだけど、悪魔は自由を求めていいのよ」

 

「自由の中には秩序を求める自由もあると俺は信じてる…悪いものにも可能性があるな…」

 

「偏見は良くないって言葉こそこれを表すものよ。世の中の正しさは状況次第で移り変わるわ」

 

「ライドウが持ってたあの陰陽の刀も偏見を排除したいという信念の形なのかもな…」

 

葛葉ライドウが振るう陰陽葛葉を象徴するものこそ刀の鍔に描かれた陰陽の形。

 

その形は刀の刀身で両断されたものではない、円を描きながら調和して鍔となったものなのだ。

 

「サマナーは悪魔を使役する者よ。だからこそ善悪という概念だけで全てを見てはいけないの」

 

「多様な悪魔を使役する者として中庸を心構えるか…これは多くの共同体でも通じる概念だな」

 

「多様な価値観はあって当たり前。それを否定せずに共存を目指す道こそが本当の平和なのよ」

 

「一つの正しさを作れば争いしか生まない…そんな俺だったから多くの仲魔に去られていった」

 

「ダーリンはダーリンの正しさがあっていい。その正しさについてくる仲魔だからこそ尊いの」

 

「俺の正しさを持ちながらもそれに縛られず…他の正しさもまた尊重して調和させるか…」

 

人修羅として生きる尚紀が思い出すのは価値観のすれ違いで殺し合った千晶と勇の姿である。

 

そしてこの世界で出会った末に殺し合った様々な魔法少女達も思い出してしまうようだ。

 

「アリナ……千晶……」

 

2人きりのナイトドライブなのに他の女の名前を口にする尚紀の反応でクリスが拗ねたようだ。

 

郊外の夜道を走行していたのだが何を思ったのか尚紀は高速道路に進路を向けていく。

 

「ダーリン……?」

 

「東京の手前にまで向かいたい…様子がおかしい状況になっていないか確認しに行くだけだ」

 

「無茶だけはしないでよ?もし異常事態が発生していたら直ぐクーフーリン達を呼ぶのよ」

 

「分かってるよ」

 

高速道路に入り込んだ尚紀達は深夜ともあり交通量の少ない道路を進んでいく。

 

すると尚紀の耳にけたたましいマフラー音が聞こえてきたことでサイドミラーに視線を向ける。

 

「クリス……どうやら厄介な魔人が現れたようだ」

 

「そのようね……アイツとの決着をつけるいい機会だわ」

 

後ろの道から迫ってくるのは燃え上がる車輪で高速道路の道を焼きながら迫るハーレーバイク。

 

<<ハッハァァァーーッッ!!見ツケタゼ人修羅ァァァーーッッ!!>>

 

現れたのはボルテクス界や見滝原市でスピード勝負を挑んできたヘルズエンジェルの姿。

 

並走するようにして横側についた魔人が髑髏顔の口をカタカタ動かしながら話しかけてくる。

 

「イイトコロデデアエタジャネーカ!!チョウドイイ、決着ヲツケヨウゼ!!」

 

「貴様と決着をつけることには不満はない。まどかの母親が働く街を焼いた報いを与えてやる」

 

「アレニ怒ッテルノカ?ケドヨォ…アノ地獄ノ光景デスラ、人々ハ望ム時ダッテアルンダゼ」

 

「何だと……?」

 

「ヒエラルキーヲ敷ク連中ヲ憎ム人間ハ破壊ヲ求メルンダヨ。ソノ歴史コソガ革命ノ地獄サ」

 

ヒエラルキーとはピラミッドであり、頂点の命令が広がって末端にまで届くトップダウン構造。

 

ピラミッド型組織図はイルミナティだけでなく様々に採用され、末端は労働者を表す。

 

この構造こそカースト制度そのものであり、生まれが下の者は死ぬまで搾取される立場だ。

 

「ヒエラルキーッテノハ元々ハ王権宗教ヲ表ス。ソシテ人々ハ、ヒエラルキーノ破壊ヲ求メタ」

 

絶対王政時代は王と貴族、それに聖職者階級の者達がピラミッドを築いて民衆を搾取する。

 

平民でしかない民衆は飢饉で苦しもうが重税を国から課されて死ぬまで搾取されるのみ。

 

それらの税金は上流階級の贅沢や無駄な戦争に使われて還元してくれない。

 

飢えに塗れた少女は売春しなければ生きられないし、少年はドブネズミを食料として奪い合う。

 

そんな地獄が地上に現れた光景を呪ってヒエラルキーを憎む政治思想が生み出されたのだ。

 

「歪ンダ社会デ社会ルールニ縛ラレナガラ生キテイタトシテモ…国ニ殺サレルシカネーナ」

 

「今の時代だって同じだ…政官財がグルになって民衆達の税金を好き勝手に使いやがる…」

 

「階級権力ノ再興コソガ資本主義国家ノ現実ダ。ソンナ連中ガ強イタ法律ニ従ッテドウスル?」

 

「そ……それは……」

 

「フランス革命前ノヨウニ子供達ヲ飢エ死ニサセルカ?愛スル少女達ヲ娼婦ニ貶メルカ?」

 

佐倉杏子や八雲姉妹や静海このは姉妹、それに多くの魔法少女達の姿が脳裏に過っていく。

 

貧乏人が増える→犯罪が増える。

 

貧乏人が増える→独身が増える。

 

貧乏人が増える→売春が増える。

 

貧乏人が増える→収賄が増える。

 

貧乏人が増える→詐欺が増える。

 

貧乏人が増える→少子化が加速する。

 

社会が飢えれば飢える程、尚紀が愛する魔法少女達の未来は絶望のどん底へと落ちていく。

 

日本の政治家や官僚や学者はこれをわざと行っている。

 

数十年間日本の政府をやってきた政権与党は毎回似たような経済政策ばかりで成果もない。

 

原因の検証すら行わず、同じことの繰り返しを30年間続けたから日本は貧しくなった。

 

野党政権は僅かな期間でしかなく、諸悪の根源は政権与党とその飼い主である経済界と金融界。

 

スポンサーは外資企業、国の道筋の脚本は官僚、国会議員は言われた通りに演じるだけの駒。

 

日米安保体制、自由貿易協定に寄りかかり、国民資産や国有財産を収穫しては各々に分配する。

 

裏の支配者達の利権分野は肥え太り、そんな日本は政官財がグルの無法地帯。

 

それを知っている彼だからこそ、社会ルールに縛られたままでは未来がないと分かってしまう。

 

()()()()()()()()()()ガ21世紀ノ時代ニ蘇ッテルノニ…未ダニ平和ボケシタママカ?」

 

「ヘルズエンジェル…お前はシドの仲魔だろ?イルミナティ側なのにどうしてそこまで…」

 

「シドナンゾ捨テテキタサ。俺ノ怒リハ社会主義ノ炎…強欲ナエリートヲ焼キ尽クス炎ダ」

 

「法で社会が救われるなんて幻想…フランス革命前と同じく国に略奪され尽くして殺される…」

 

「ヨウヤク分カッテキタヨウダナ?ナラ聞カセテクレ……国ノ秩序(LAW)ニ盲従スルカ?」

 

顔を俯けたまま無言の態度を見せる尚紀のためにヘルズエンジェルは言葉を送ってくれる。

 

その言葉はスペインの哲学者であるホセ・オルテガ・イ・ガセットの言葉だった。

 

――慧眼(けいがん)(本質を見抜く目)の人は自分が愚か者と紙一重であることを知っている。

 

――これに対し、愚か者は自分を疑うことがなく、思慮分別があるとさえ思っている。

 

「秩序ニ盲従スルコトガ分別カ?未来ニ訪レル貧困地獄ニ子供ヲ突キ落トスコトガ道理カ?」

 

走行しながら長話をしていた時、背後の道路からけたたましいマフラー音が響いてくる。

 

「チッ…巻イタト思ッタンダガナ…追手ガ追イツイテキヤガッタ」

 

裏切り者のヘルズエンジェルを追跡してきたのは武装したスピードデーモンの群れである。

 

「……いいだろう、ヘルズエンジェル。俺の答えを見せてやる」

 

顔を上げた尚紀の顔に発光する入れ墨が浮かび、首裏から一本角が伸びていく。

 

ギアを素早く操作して一気にアクセルを踏み込むのだ。

 

()()()()()()()()()!!正解の道とは……()()()()()()()()()()()()()だぁーーッッ!!」

 

時代や社会の変化によって正解と思われていたことが変わることがある。

 

仏教ではこれを諸行無常と表し、正解ですら移り変わっていくものだと言葉を残している。

 

人生は思う通りにならない一切皆苦であるのなら柔軟な思考の切り替えが必要なのだ。

 

「ソノ言葉ガ聞キタカッタゼ、ブラザー!!サァ行コウゼ…俺達ノ正解ノ道ヘトナァァ!!」

 

キャノンボールと化した怒れるダブルファイアが法定速度を無視する程の加速を生んでいく。

 

正解主義に縛られていては救えない人々がいる。

 

時には地獄の悪魔の姿になってでも戦わなければならない時がある。

 

そんな風に考える二体の悪魔の姿はまるで地獄からやってきた天使(ヘルズエンジェル)のようにも見えた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

問い抜く力の大切さ、それこそが正解と不正解という対立構図を解決する唯一の力。

 

現代人の心の脆さの一因である正解主義を乗り越えるための戦いが始まっていく。

 

この戦いは禅問答であり、正解と不正解という善悪二元論を乗り越えるための戦場なのだ。

 

「ヘルズエンジェル!!お前は見滝原市で何人殺した!!何人の人間を死なせたんだ!!」

 

「数エテネーナ!!ソウイウテメェコソ、自分ノ信念ノタメニ何人魔法少女ヲ殺セタ!!」

 

追手であるスピードデーモン達が構築した異界のハイウェイを爆走していく魔人達。

 

後方から撃ってくるマシンガン射撃を蛇行運転しながら避けつつ激しい禅問答を繰り返す。

 

「殺さなければ守れなかった命があった!!それこそが俺を虐殺者の道に進めたんだ!!」

 

「革命ダッテソレハ同ジダシ、登山デ遭難シタ連中ヲ見捨テナケレバナラナイ状況モ同ジサ!」

 

二次被害を防ぐためにこそ人は他人の命を見捨てる決断を下さなければならない時がある。

 

これこそがコラテラルダメージであり、()()()()()()としても知られるもの。

 

そしてボルテクス界を生み出した唯一神が決断した東京の人々の犠牲でもあったのだ。

 

「テメェハ結果論ニ縛ラレテキタンダロ?ソノセイデ犠牲スラ許サズニ喚キ散ラスンダ!!」

 

「そうだ…俺は唯一神が行った犠牲の世界を許さなかった!悪の魔法少女を許さなかった!!」

 

「ぶつくさ言い合ってんじゃねーぞテメェら!!大人しく死んどけやァァァーーッッ!!」

 

大きな大剣を背中に背負ったスピードデーモンの一体が剣を抜いて迫りくる。

 

ヘルズエンジェルのハーレーに仕掛ける横薙ぎを後輪ウイリー体勢で避ける。

 

蛇行運転しながら体勢を戻すバイク悪魔に目掛けてさらに横薙ぎを放つが相手が消えるのだ。

 

「なんだとぉ!?」

 

ヘルズスピン体勢で横薙ぎを潜り抜けた魔人が背中側をとり、前輪ウイリー体勢で迫りくる。

 

「グワァァァァァーーーーッッ!!!」

 

燃え上がる前輪ウイリー攻撃の直撃を浴びたスピードデーモンの一体が焼き尽くされるのだ。

 

「舐めてんじゃねーぞォォォォーーーーッッ!!!」

 

クリスを運転する人修羅にも仕掛けるためにスピードデーモンの一体が前方に出てくる。

 

高速でUターンした悪魔が前方から迫るクリスに仕掛けるために大剣を地面に叩きつける。

 

火花が撒き散らされる中、車体ごと大きく跳ね上がったバイク悪魔が回転斬撃を仕掛けていく。

 

素早くドリフト操作を行った人修羅が車の体勢を一回転させながら斬撃を避け切るのだ。

 

「ヘッ!ケツヲシッカリ振レルカワイコチャンダナ!俺モ欲シイグライダ!!」

 

スピンしながら着地したスピードデーモンが目にしたのはラリアットの一撃。

 

「ゴフッ!!?」

 

ヘルズエンジェルのラリアットを浴びたバイク悪魔は横転しながら倒れ込みMAGの光となる。

 

<<逃がさんぞぉ!!裏切り者めぇぇぇーーーーッッ!!>>

 

後方の空から迫ってくるのは悪魔の航空部隊である。

 

高速で飛翔してくるのはデカラビアと同じ星型の姿をした悪魔であった。

 

【キウン】

 

旧約聖書アモス書に語られるアッシリアの宮殿を意味する名をもつ星神。

 

イスラエルの民はこうした異教神を崇め、主への信仰を踏み外した為に捕囚されてしまう。

 

後のバビロン捕囚であり、ヘブライ人はかくも誘惑に弱い民族なのだと証明した悪魔であった。

 

「チッ!!異界の光景が変わっていきやがる!!」

 

ヒトデのような五芒星の体の中央に備わる年寄り顔の口が咆哮を上げれば異界が変質していく。

 

SF都市のハイウェイ空間のように捻じ曲がった道路を疾走していく車とバイクが駆け抜ける。

 

側面から次々と仕掛けてくるキウンに対して二体の悪魔は迎撃しながら叫ぶのだ。

 

「結果ダケヲ切リ取レバテメェモ俺ト変ワラネェ!!怒リノ炎デ人々ヲ焼ク悪魔ソノモノダ!」

 

「ならばどうすればいいというんだ!?話し合えば分かり合えたとでも言うのか!?」

 

「ソンナワケネーダロ!!俺ト同ジヨウニ殺シマクッテイケバイインダヨ!!」

 

「俺もまた…お前と同じでしかなかったんだな……」

 

「ウジウジ悩ンデンジャネェ!!テメェモ拳法家ナラ……()()()()()()()()()()!!」

 

攻めも守りも必要に応じて使い分けてこそ武術であり、それは状況判断も同じである。

 

守るべき時には守り、見捨てるべき時には容赦なく誰かの命を奪え。

 

ダメージコントロールとはそういう概念であり、非常事態においては決断が迫られるのだ。

 

「被害を拡大させないようにするには…助けを求める人々ですら…殺す必要がある…」

 

脳裏に浮かぶのは東京で起こったペンタグラム決起の時に犠牲にした米軍兵士達の姿。

 

操られている兵士達を相手に彼は容赦なくその命を奪わなければならない状況もあったのだ。

 

後方から迫りくるバイク悪魔を互いに撃退していた時、前方の道が坂道となっていく。

 

「「チィ!!」」

 

互いにニトロ加速を用いて一気に飛び出し、上空を飛びながら次の道路に移ろうとする。

 

しかし彼らを追うキウンの群れが迫る中、ヘルズエンジェルが一気に仕掛けていく。

 

「俺達ノ道ヲ塞グ連中ハ容赦シネェ!!」

 

燃え上がる後輪で前方のキウンの顔面を引きながら飛び、次のキウンの顔面に飛びつく。

 

「ウォォォォーーーーッッ!!?」

 

キウンを敷いたまま向こう側の道路に着地したバイク魔人は業火を放ちながらキウンを焼く。

 

道路で磨り潰されながら業火の車輪にまで磨り潰されるキウンは爆発してMAGの光と化すのだ。

 

「合ワセロヨ、カワイコチャン!!」

 

「アンタとタンデムなんて癪だけど…乗ってやろうじゃない!!」

 

後方から次々と現れるスピードデーモンの群れに対して全体攻撃魔法を仕掛けていく。

 

<<グワァァァァァーーーッッ!!!>>

 

ヘルズエンジェルのヘルバーナとクリスのマハジオダインによって悪魔の群れが炎上していく。

 

バイク悪魔部隊は撃退出来たが上空のキウンの群れが追手として未だに追撃してくるようだ。

 

前方に見えるのは巨大なトンネル空間であり、人修羅とヘルズエンジェルが入り込んでいく。

 

<<ここから先には進ませんぞーーーッッ!!>>

 

急加速しながら人修羅達の前に出たキウン達がUターンして呪殺魔法陣を展開していく。

 

前方道路にマハムドオンの魔法陣が構築される中、人修羅とヘルズエンジェルは一気に動く。

 

<<なんだとぉぉぉぉぉぉーーーッッ!!?>>

 

丸みを帯びた側面に目掛けてバレルロールするかのようにしながら車とバイクが走行する。

 

互いに一回転しながらキウン達を超えて地面に着地した時、互いにドリフト停車を行う。

 

窓を開けた人修羅の左手からは破邪の光弾が光り、ヘルズエンジェルは風魔法を行使する。

 

<<グワァァァァァーーーッッ!!!>>

 

破邪の光弾とヘルエキゾーストの直撃を浴びたキウン部隊も消滅することとなったのだ。

 

再び走り出した車とバイクは追手が構築した異界を超えていき通常空間に戻っていく。

 

「シドカラMAGヲ供給サレナイ俺ノ力モ限ラレテイル…ソシテ、テメェニ炎ハ通ジネェ」

 

マガタマのゲヘナを飲み込んだ人修羅が横に向けば革ジャンの襟元から取り出す武器が見える。

 

ソードオフ・ショットガンを構えたままヘルズエンジェルが最後の挑戦を仕掛けようとする。

 

「勝テナクテモ戦ワナキャ守レナイモノモアル…ソレニ気ガ付ケナイナラ民衆ハオシマイダ」

 

「ヘルズエンジェル……お前……」

 

「キナ……最後ノケリヲツケヨウゼ。一発デ十分ダ」

 

彼の覚悟を受け取った人修羅は気合を溜め込み、最大出力の破邪の光弾を放つ構え。

 

対するヘルズエンジェルは右手で銃を持ち上げたままだ。

 

「最後ニ聞キタイ。正解トハナンダ?」

 

「そんなものは……自分達で作っていけばいい」

 

「フッ……イイ答エダ」

 

人修羅が先に破邪の光弾を放つ。

 

迫りくる光弾であるが意に介さず狙いをつけたショットガンが放たれる。

 

発射されたショットシェルからばら撒かれたコインショットが狙うのはガソリン給油口。

 

ガソリン給油口をコインで貫かれた瞬間、クリスの車体が大爆発しながら一回転する。

 

「ガッ……ハッ……」

 

最大威力の破邪の光弾はハーレーごとヘルズエンジェルの体を貫き上半身が道路に倒れる。

 

破壊された地獄のバイクは道路に倒れながら砕け散り、MAGの光となったのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ヘッ…ザマァネーゼ。マタドールヤ大僧正ノヨウニ…新シイダアトニ行クベキダッタカ…?」

 

上半身だけではあるが生きているヘルズエンジェルではあるが全身がひび割れていく。

 

もう長くはないのだが近づいてくる者の気配ぐらいは分かる。

 

「……トドメが欲しいか?」

 

彼の横に立ったのは人修羅であり、敗者となった魔人を見下ろす。

 

「イイヤ…コノママ野垂レ死ニスルサ。自業自得ノ末路ダカラナ……強イテ頼ムナラ……」

 

震える右手で革ジャンの内ポケットから取り出したのは葉巻ケース。

 

もう左腕は動かない彼が最後の一服がしたいのだと察した人修羅が葉巻ケースを手に取る。

 

中から取り出した葉巻の端を噛み千切って指先で火を点し、口に咥えて一服する。

 

吸い込んだ息で葉巻の先がほどよく焦げた後、ヘルズエンジェルの髑髏の口に咥えさせるのだ。

 

「バハマ産ノ上モノハ最高ダゼ…ブラザー。残リハテメェニヤルヨ…」

 

「ヘルズエンジェル……」

 

「炎ノ最後ハ……煙トナッテ消エルノミ。俺モテメェモ……キット同ジ末路ニナルゼ……」

 

「……そうかもな。せめて最後ぐらいは……俺もバハマ産の上もので終わらせたいな」

 

「ソレト最後ニ伝エテオクゼ……オーダー18ノ決行日ハ……5月1日ダソウダ……」

 

「……伝えてくれて感謝する」

 

砕け散っていくヘルズエンジェルではあるが、同じ炎を宿す人修羅のために言葉を送る。

 

その言葉は人修羅が信じた社会主義の価値とは何なのかを表すもの。

 

「答エハヒトツナンカジャネェ……答エガヒトツダケナラ……未ダニ世界ハ絶対王政ダ……」

 

「暴力革命という最悪のテロリズムを引き起こしたとしても……価値ある歴史だったか?」

 

「ソウジャナキャ…アメリカモ生マレテナイシ…フランスダッテ…生マレテネーヨ……」

 

「生みの苦しみは……味わうのは必然か……」

 

「ソノ考エ方ハ…俺達男ヨリモ…子供ヲ産ムタメニ腹ヲ傷メル女ノ方ガ…伝ワリヤスイサ…」

 

砕け散っていく戦友のような悪魔のために片膝をつき、倒しこんだ右手から離れた葉巻を持つ。

 

もう一度葉巻の煙を吸い込んで吐き出した人修羅は友を見るような目を向けてくれる。

 

「…煙草はやめだ。これからはお前と同じ葉巻を吸わせてもらうぜ」

 

「気ニ入ッテクレテ……ナニヨリダゼ……アディオス……ブラ……ザー……」

 

砕け散ったヘルズエンジェルが膨大なMAGの光となり、煙のように夜空に昇っていく。

 

それを見送る人修羅は彼の姿が未来の自分の姿のように思えてならない。

 

「子供を産んでくれる女達のために男の俺が出来ることは……希望が持てる未来を残す……」

 

ヘルズエンジェルの魂とも呼べる社会主義の炎を受け継いだ人修羅は赤き旗の道を進むだろう。

 

血塗られた歴史をなぞることになったとしても、その痛みを背負う覚悟を示す者になろう。

 

正解は一つだけと学校のテストで刷り込まれてきた男であるが、それだけでは足りないと知る。

 

状況の変化や複雑な問題に直面した時、単純な正解や不正解では導きだせない答えがある。

 

遠くに見える東京に視線を送る彼はこの戦いが終わった後のことを考えていく。

 

もし東京を今の自分で守れないのであれば、今の生き方を捨ててもいいと決断するのであった。

 




ゲーマーな僕なりに昔から思ってたんですよね。
FF7の主人公共はテロリストだし、何で正義の味方ズラしてるの?とか、ロックマンZEROの主役はどうして主人である人間を殺せるの?とか。
秩序を敷く体制側の独裁者を止めるには社会悪になる必要もあったんでしょうね。
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