人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
5月1日に入る前に東京に向かう尚紀達は4月30日の夕方には集まってきている。
覚悟を決めた悪魔少女や魔法少女達の姿を見つめる尚紀は彼女達に声を掛けていくのだ。
「こんなご時世に東京に向かわせることになってすまない…家族には俺から説明している」
パンデミックによってロックダウン中の東京に子供達を向かわせるカバーストーリーはこうだ。
東京の探偵事務所に残っている荷物を運ぶのに人手が大勢いるためバイトとして雇いたい。
そう伝えてはみたが彼女達の両親がいい顔をするはずがないだろう。
ワクチン接種が進んでも未だにテレビは感染拡大を連日報道し続けているからだ。
ワクチン接種を頑なに拒否する子供達がもし感染したらと不安に駆られるのも自然な話。
感染を防ぐうがい手洗いやマスクの着用を厳重に守らせるとしてどうにか了承を得たようだ。
「嘘も方便というが…こうでもしないとお前達の家族が東京行きを認めてくれないはずだ…」
「お陰様で助かったよ、尚紀さん。アタシだけだったら上手く言い訳出来なかったと思う…」
「レナもそれは同じよ…下手したら大喧嘩になって家族との関係も険悪になってたわ…」
「嘘をつく後ろめたさはあるけど…それでもかりんちゃんを救いたい!大切な仲間なの!」
「ももこ…レナ…かえで…気持ちは分かるが早まった行動だけは起こすな。最悪の事態もある」
この戦いは東京で起こった空爆事件や1・28事件を超える戦場となると尚紀は語っていく。
暴力革命を起こせる規模の大軍団が東京で暴れ回る事態を想定しろというのだ。
「多くの人々が犠牲となる戦場となるだろう…多くの人々が戦場で助けを求めてくるだろう」
「だったら助けますよ!ボク達は悪魔になっても…正義の魔法少女の矜持だけは捨てません!」
「メル…俺達にだって限界はある。俺だって1・28事件の時は…誰も救えなかったんだ…」
集まった者達の中で最強の実力がある人修羅でさえ東京で多くの人達を死なせている。
どれだけ力があろうが自分達の手はあまりにも小さいものであり、多くの命を取り零す。
どんなに優れた武将であっても救えない者達は救えないのだと将門に代わって伝えるのだ。
「お前達の両親は俺にお前達の命を託してくれた…保護者としてお前達を死なせたくはない」
「だ…だからって…助けを求める人達を見捨てないといけないなんて…正義の味方失格です!」
後ろのかなえと令に振り返るメルが彼女達にも同意を求めるが、2人は首を横に振ってしまう。
「メル…尚紀の言葉を重く受け止めるんだ。彼だって…助けたかったのに助けられなかった…」
「悪魔になった観鳥さん達だって万能なんかじゃない…全てを救う全能の力なんてないんだ…」
「そ……そんな……」
「あたしに出来ることは…十七夜とかりんを救うだけ。そして…目の前の敵を可能な限り倒す」
「観鳥さんはジャーナリストとして戦場の記録を残したい…多くの人達に真実を知らせたい…」
冷酷な仲魔の態度にショックを受けるメルであるが、みたまが肩に手を置きながらこう告げる。
「私達に出来ることは限られているわ…革命が起こるという証拠さえ用意出来てないもの…」
「証拠も用意出来ないなら観鳥さん達の言葉なんて誰も信じない…嘲笑いしか与えられない…」
「それは……そうですね。ボクの未来予知だって…証拠物になんてなりませんし…」
「十七夜とかりんちゃんを救い出し、革命部隊を出来る限り倒す…それしか出来ないわ…」
「戦いはチームワークだよ、メル。助けを求める人達は消防隊に任せるしかないよ…」
「ももこさん……はい、分かりました。我儘を言っちゃって……ごめんなさいです」
それぞれ戦場に赴く理由が出来た者達を見回した後、尚紀はジャックランタンに振り向く。
「俺はアリナを追うホ。かりんはアリナを追いかけていった…ならアリナの近くにいるはずホ」
「分かった…そうしろ。俺達も人員が不足している…手助けに向かう余裕はないかもしれない」
「構わないホ。たとえ殺されたとしても…これは善行だホ。今度こそあの世に逝きたいホ」
「そうならないようにしろ。かりんはお前を愛してくれている…彼女のためにも足掻き続けろ」
「難しい注文だホ…それでも、出来る限りのことはするホ」
ランタンの覚悟を受け取った尚紀は再び留守番を任せることになった猫悪魔達に振り向く。
「尚紀…オイラはあの時と同じように帰りを待ち続けるニャ。尚紀の家がオイラの家ニャ」
「私も1・28事件の時と同じ気持ちよ。たとえ飢え死にしようとも…貴方の帰りを待つわ」
「お前達……」
「心配するな、尚紀には私達がついている」
「そうだぜ、心配すんなよ。俺様と犬っころ、それにもう一匹の犬っころがいれば千人力さ」
「任セテオケ。クリスヲ連レテイケナカッタノハ残念ダッタナ」
「深夜のレース勝負で爆発したアイツは後続から来たレッカー車に見つかっちまったからな…」
ヘルズエンジェルとの戦いで爆発させられたがクリスは不死身の再生力を持つ車悪魔。
ほっとけば自然治癒するのだが傍から見れば交通事故であり放置は出来ない。
レッカー車から降りてきた作業員達との話し合いの末、彼女は連れ出されていったのだ。
「隙を見つけて逃げるとアイツの念話を聞いている。待ってたら家に帰って来るさ」
タルトとリズにも視線を送り、そろそろ出発すると告げる。
キャンプの時に用意したリズのバンに乗り込んだ後、タルトが皆に出発を促してくれる。
「皆さん乗って下さい。最低限の荷物鞄はこちらの車で預かります」
リズのバンに乗り込むのは魔法少女達であり、ももことみたまも続くように乗り込んでいく。
クーフーリンが運転するバンには尚紀の仲魔となった悪魔達が乗り込むことになるのだ。
東京へと出発する尚紀であるが、みたまは尚紀の車に乗り込まずにリズの車を選んでいる。
今の彼女は尚紀にかけてやれる言葉が見つからず、言い知れぬ恐怖を感じたままであった。
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東京の一角にある目立たないビジネスホテルには葛葉キョウジの姿が見える。
彼は持ち込んだ武器や道具の数々を手入れしながら最終チェックを行っているようだ。
「東京での大規模作戦を長期間行うとは思えない…ならばクーデターと同じく速さが命だな」
ベッドの方に視線を向ければ東京の地図が広がっており、攻撃目標の予測が行われている。
「国の中枢である内閣府や各省庁、それに国会やメディア…国賊を裁判する裁判所も候補か…」
煙草を吸いながら地図を見つめるのだがシドがどこで作戦活動を行うのか見当がつかない。
「今は動けないな…的を絞った地域だけでなく手広く式神を放っておく必要があるだろう」
道具を詰め込んだトランクケースから取り出したのは膨大な数の霊符である。
それを持ったままビジネスホテルの屋上にまで昇り、彼は沢山の霊符に念を注ぎ込んでいく。
「行け、東京を監視する俺の目になるがいい」
勢いよく空中にばら撒いた霊符が形を変えていき、巨大な目玉を持った黒鳥の姿に変化する。
飛んでいった黒鳥達が偵察ドローンの役目を担い、シドの居所を割り出すのだろう。
陰陽師系のサマナーが得意とする式神使役であるが、陰陽師の力は神道系には及ばない。
数をそろえた式神であろうがダークサマナー達の敵にはなりえず、あくまでも偵察道具なのだ。
部屋に戻った彼を出迎える者はおらず、レイ・レイホゥはキョウジと共に東京に来ていない。
長年連れ添ったアマテラスを失ったレイは戦力外だと突き放されたようだ。
「ナオミを雇っていれば使ってやれたかもしれんが…アイツを雇ったら雇ったで色々不味い…」
ウラベは重傷で倒れたため孤軍奮闘を強いられるキョウジであるが、元々彼は1人で戦う者。
ダークサマナー最強のシドを相手に戦いを挑んだところで勝てる保証は何処にもないのだ。
「何処で野垂れ死にしようが俺の自業自得…それだけの生き方をしている自覚ぐらいはある」
自分が死んで帰ることが出来なくてもレイはナオミが支えてくれる。
そんな風に考える自分に驚いてしまうが、それでもいつもの不愛想な表情に戻ってしまう。
「フン…かつての俺ならレイのことなど知ったことではなかったが……おかしなもんだな」
色々な人々と出会ううちに殺伐とした自分の内面が変わってきている。
そんな風に感じてしまうキョウジは優しさという概念に戸惑ってしまうのであった。
……………。
決戦の地である東京に向かうのは尚紀達だけではなく葛葉ライドウも同じである。
コウリュウの頭部に立ちながら東京を目指す彼の足元にいるゴウトが話しかけてきたようだ。
「コウリュウと共に移動するのも懐かしいものだ…アバドン王事件の時にも世話になったな」
「自分はアバドン王事件をまだ経験していない…あまり先の事は語らないでくれ」
「そうだな…すまない。しかし…思った以上に足並みが揃わなかったな…」
ライドウ達は葛葉一族以外の退魔師一族に赴きながらヤタガラスの裏切りを知らせていく。
しかし裏切りを証明する証拠を持ち出そうとも他の退魔師一族との足並みは揃わない。
先ほど向かった
「ヤタガラスが我々を切り捨てるはずがない!!こんな証拠は葛葉のでっち上げだぁ!!」
激怒するのは壬生一族の長老であり、正座しているライドウに目掛けて証拠を投げつける。
顔に当たってしまったがライドウは微動だにしないまま事実を語っていくようだ。
「信じたくない気持ちは大いに分かる…自分達とてヤタガラスに忠義を示してきた一族だ…」
「その忠義の精神をどうして捨てた!?我々退魔師一族とヤタガラスは運命共同体なのだ!」
「自分だってそう信じてきた!それでも…これだけの証拠が出ては考えを変えるしかない!」
「いいや、我々壬生一族は信じない!!ヤタガラスが壬生を捨てるなど…ありえない!!」
息を切らせながら激怒する長老が視線を向けるのは大広間に集まった壬生の退魔師達。
その中には少女達の姿も存在しており、長老は壬生を支えてきた悪魔と契約した少女を見る。
動揺を浮かべている彼女のためにこそ、長老はライドウの証拠を認めるわけにはいかないのだ。
「壬生を支えてきた女召喚師達はな…
【ヤトノカミ】
夜刀神と呼ばれるまつろわぬ神であり、常陸国風土記に記される荒神。
頭に角を持つ蛇神であり、大和朝廷の支配が及ぶ前の土着の神とされている。
谷や沢、葦原などの湿地に棲み、その姿を見た者の一族は滅んでしまうと言われている。
継体天皇期の
「ヤトノカミと契約する女は神の一部を体に埋め込み、神と深く繋がることで荒神を使役する」
ヤトノカミと出会ったことがないライドウではあるが、隣のゴウトは知っている。
コドクノマレビト事件の当事者としてヤトノカミを使役した女の末路は悲惨だと分かるのだ。
「荒神を使役するのは容易ではない…壬生の女達は命を懸けて一族に尽くしてきたのだ…」
「彼女達の献身のためにも…ヤタガラスを裏切るわけにはいかないというのか…?」
「その通りだ…葛葉一族よ。壬生の女達のためにも我々壬生一族は…ヤタガラス側につく」
「現実を見ろ!!我々の献身を踏み躙ったのはヤタガラスの方が先だ!見返りなどないのだ!」
「我々に自由は許されん!全体に尽くしてきた者達のためにも…我々は今までの秩序を選ぶ!」
「献身には正当な見返りが必要だ!それを与えない飼い主ならば逆らうのが自然であろう!?」
まるでブラック企業に繋がれた労働者達と同じ心理状態に陥っているのが壬生一族である。
彼らの一族もまた侍精神を重視する一族であり、個ではなく全体に忠義を尽くす存在。
だからこそ個の価値が消滅してしまい、自分達が社畜に成り果てていることにも気が付かない。
その末路は過労死するだけであり、それは独裁国家のために死にに行った兵士達も同じである。
「理想と共に溺死する必要はない!我々一人一人にだって…譲れない尊厳があるべきだ!!」
「いいや、必要ないよ」
発言したのは長老が目を向けた少女であり、発言を許可して欲しいと長老に願い出る。
それを了承した長老の隣に移動してきた白い着物姿の少女が正座して語り掛けてくるのだ。
「私はヤトノカミと契約したことに後悔などしていない。私達は壬生…譲れない誇りがある」
彼女の姿を見たゴウトの目が見開いていき、大正時代に出会った壬生の女を思い出す。
黒髪の長髪が美しい少女の姿が
「自分にだってあった…それを踏み躙ったのがヤタガラスだ!それでも君はついて行くのか!」
「私情は交えず任務を果たす。それが壬生の女達が掲げてきた矜持なのさ」
「君だってこの世に生まれてくれた命なんだ!その命を自由に使っていい権利があるんだ!」
「自由など知らない、知りたくもない。あるのは誇り……壬生の女としての…誇りのみ」
「偽りの自分を演じて好かれるよりも…在りのままの自分でいて憎まれる方が遥かにマシだ!」
彼女を止めようとするライドウであったがゴウトに諫められたために沈黙してしまう。
梃子でも動かぬ態度を示す壬生一族との交渉が決裂した時、ゴウトが彼女に質問してくる。
「うぬ達の幸福の定義を我らが測るわけにもいかん。忠義を尽くす女よ…名は何という?」
「私の名は
……………。
「宗教でも修行でも努力すればするほど己のエゴが強くなる…献身とて同じことだろうな…」
「自分達は間違っていない、間違ってるのは指摘する側だと問題をすり替えて擦り付けるか…」
「SNSの光景と変わらん。どいつもこいつも自分達の優越性と都合の良さしかいらんのだ…」
「えすえぬえす…というのは分からないが、いつの時代も人は都合の良さしかいらんのだな…」
「客観性のない主観性は成り立たないか…自己批判が出来ない者達を止めることは出来ん…」
「交渉を続けてきたが…ヤタガラスに逆らおうとする退魔師一族は多くはなかったな…」
空を飛ぶコウリュウの上で途方に暮れてしまうライドウであったが魔力を感じ取る。
「この魔力は霧峰村で感じた魔法少女?いや…似ているが違う?これは…悪魔の魔力か!!」
コウリュウよりも空から現れるのは巨大な霊鳥の御姿であり、高速で飛来してくる。
何者かを見極めるために迎撃しようとする仲魔を止めたライドウが前方の空に鋭い目を向ける。
羽ばたきながらホバリングするのはホウオウであり、背中に乗った少女が声を掛けてくるのだ。
「ライドウさん!?やっぱりライドウさんなのね!!」
「君は確か……見た目は変わっているが、霧峰村で見かけた魔法少女の1人か?」
「そうよ!あぁ……こんなところでライドウさんと再会出来るだなんて!」
ホウオウと共に現れたのは時女一族の分家の村を回っていた時期の時女静香である。
「静香よ…この強風の中でホバリングし続けるのは私でも辛い…話があるなら向こうに移れ」
「分かったわ!話が終わったらちゃんと回収してくれるわよね?」
「コウリュウの隣を飛んでいくから念話を送るといい」
コウリュウの巨大頭部に飛び移った静香が駆け寄ってきて微笑んでくれる。
ライドウもまた微笑み、無事だった魔法少女との再会を心から喜んでくれたのであった。
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地上にある神浜市より遥か下の地下空間にはザイオンと呼ばれる秘密都市が建造されている。
そこはSF世界のビルディングが広がる摩天楼都市であり、新しい日本の都市国家となるだろう。
郊外には人工的に作られた山々が存在しており、そこに構築されたのが神道組織の総本山。
ヤタガラスの自治区としてイルミナティ勢力の庇護の元でも活動出来る新拠点なのだ。
葛葉一族の裏切りにあったヤタガラスは地上の総本山を失ったために地下に潜伏している。
元々は引っ越しをする予定であったため人員移動が済めば新拠点として機能出来たようだ。
<<そうか…葛葉一族は我々に反旗を翻すために他の退魔師一族と交渉しておるか…>>
奥の院にある大広間の神前すだれの前では正座した女性がいる。
ヤタガラスの使者を務める黒い着物女性は葛葉一族の動きを報告しにきたというわけだ。
「あの事件の時に情報部から持ち出した機密情報を証拠として用いて交渉しているようです」
<<して…我々が見捨てようとしている退魔師一族の反応は如何様だ?>>
「殆どの一族が葛葉と共に反旗を翻す意思を示せてません。我々への帰順を求めてます」
<<見捨てないでくれと我々に縋りつくか…それでこそ侍精神に縛られた民族の者達だ>>
「ごく一部ですが不穏な動きを示す一族もいるようです…その最たるものが時女一族でしょう」
<<時女一族と葛葉一族、それに不穏な動きを示す一族との合流は阻止するべきだな…>>
内偵を進めさせている鞍馬集には引き続き調略工作を続けるように指示を出す。
そしてヤタガラスの使者には特命を与えようとしている。
<<オーダー18はもう直ぐだ…啓明結社の作戦を利用する時がきた>>
「では……表の天皇を務めていたあの偽物連中は……」
<<東京の混乱に乗じて始末せよ。啓明結社の作戦に沿う行動である…奴らも文句は言わん>>
「でしょうね…奴らの目的は自作自演によって独裁政府を築くこと。天皇崩御は利用出来ます」
<<天皇を殺すテロを起こした売国奴は許されん。愛国心によって再び政体再編が起こる>>
「戦前の大日本帝国時代に返り咲くことでしょう。我々にはうってつけの政治体制となります」
<<独裁によって得られる強権を手にするのは我々だ。これを用いて偽日本人を始末する>>
「内閣に送り込んでいる工作員も直に動く時がくるでしょう。ザイオン政府は我々が手にする」
深々とお辞儀を行った後、ヤタガラスの使者は与えられた特命を果たすために去っていく。
誰もいなくなった空間ではあるが、隠し身の技術を用いて姿を消した神々が出現する。
「表の天皇が消え、空位となった皇帝の地位に座らせる存在を取り戻さねばならん」
「あの時に人修羅を取り逃したのは不味かったが…奴は必ず東京に現れるだろう」
「然り。奴は我々が見捨てた東京を守護してきた者だ…東京の混乱を見捨てる者ではない」
現れたのはタケミカヅチとフツヌシであり、タケミカヅチの手には如意宝珠が持たれている。
<<今度こそ逃さん。天津神族の威信にかけて…絶対に手に入れなければならんのだ>>
神前すだれの奥で正座している三羽鳥の真ん中の者が懐から召喚管を抜く。
神道の祝詞と共に召喚管の蓋が開いていき、すだれが風で揺れ動いていく。
振り抜かれた光がすだれの向こう側へと広がっていき、小さい天津神の姿を構築するのだ。
「思い巡りてオモイカネ、知を司りて幾星霜…知をもって国に報いれば…国防の霊を成さん」
召喚されたのはヤタガラスが所有する霊的国防兵器であり、天津神族の神の一体でもあった。
【オモイカネ】
多くの知恵や分別に優れるとされる日本神話の神。
天照の知恵袋として国家運営や天岩戸事件の解決策立案など思索に基づく業績を残している。
他の自然神達とは異なり、人間の観念や霊の働きを象徴する観念神でもあった。
「行くぞ、オモイカネよ。あの時は留守番をさせられて不満であったろう?」
「愚問なり。我の感情など些細な問題、我は知を血肉として護国守護を担えれば良い」
「フン、相変わらず頭でっかちな知将だな」
その姿は人間の男と変わらない大きさだがあまりにも醜悪な見た目である。
大きな二本角を生やした奇怪な頭部の下側は触手や巻物で無理やり人型を構築しているだけ。
二股に分かれた杖を持ち、二本角の間には知恵を司る球体が浮かんでいる姿なのだ。
<<地上にアメノトリフネを待たせてある。東京に向かい、人修羅を再び捕縛せよ>>
「「「御意」」」
姿を消した三体の天津神族もまた東京で暗躍することになっていくのだろう。
東京を守護するべき神々はそこにはなく、野望だけを求める堕落した神々がそこにはあった。
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東京で予約してあったホテルに入った尚紀達は彼の部屋に集まって作戦を練っていく。
「連中の目的は日本の首都で武力革命を引き起こすことだ。ならば目標は決まってくる」
用意した東京の全域地図に印をつけていき、それぞれが担当する地域を決めていく。
それでも人員の数は全然足りておらず、戦力が分散して各個撃破される危険性が大きいのだ。
「いいか、絶対に無茶だけはするな。戦力的に対処出来ないと判断したなら必ず逃げろ」
「に…逃げるといったって…どうするわけよ?もし暴力革命が起きたら大混乱になるでしょ?」
「恐らくは地上からの脱出は難しいだろう…だから銀子に頼んで大型船をチャーターしたんだ」
「船の運転は私に任せなさい。こう見えてアメリカでも大型クルーザーを運転してたのよ」
「マスターが所有していたクルーザーはリズが運転してたんです。信頼してくれていいですよ」
大型のクルーザーを江東区にある船着き場に停泊させていると尚紀は皆に伝えてくれる。
船着き場は彼が東京で働いていた旧探偵事務所からそう遠くはなく、合流地点としたようだ。
「ホテルに来る前に俺の昔の職場に案内したのは合流地点を教えるためだ。場所は覚えておけ」
「ふみゃみゃ…私は東京に来るのは初めてだから…一度行っただけじゃ覚えきれないよぉ…」
「そこはまぁ…一晩中地図アプリを見ながら東京地理を無理やり詰め込むしかないかも…」
「ももこちゃんは自信ある…?」
「うっ…それを問われるのは辛いよなぁ。アタシだって頭がいい方じゃないんだよ…かえで」
それぞれの役割分担を決めた者達が解散となるのだが、尚紀はホテルの屋上に向かっていく。
夜の東京景色を見つめる彼は東京の守護者としての苦しみを抱えているようだ。
「東京を守るのは俺の役目…それなのに彼女達を巻き込んでいる。いざとなれば俺だけでも…」
脳裏に浮かぶのはクリスマスの空爆で死んだ人々や1・28事件で死んだ人々の光景。
あの時の尚紀も必死になって助けようとしたが誰も助けられなかった悲惨な末路を遂げている。
「今度も…ああなってしまうのか?ボルテクス時代から俺は…誰も守れない存在なのか…?」
自分を信じて戦おうとしても先を信じる気持ちになれず、心が折れそうになってしまう。
その絶望感こそが何度もまどかを救おうとしては救えなかった暁美ほむらの苦しみなのだ。
「失敗は終わりじゃない…辞めたら終わり…ほむらだって乗り越えたんだ…俺だって……」
今度こそ命を掬い取ろうと両手を持ち上げた時、一瞬見えてしまったのは血濡れた両手。
その手は救えた命の温もりを感じられるものではない、命を終わらす温もりに満ちている。
「俺は…奪うだけの者じゃない…壊すだけの者じゃない…俺は……俺は……」
自分を信じられなくなっていく尚紀を心配そうに見つめているのは陰で隠れる八雲みたま。
彼の傍に駆け寄ってあげたい気持ちではあるが、どうしてもキャンプの夜を思い出してしまう。
(尚紀さんは…私に追いかけられるのは嫌なの…?だから…遠ざけようとしているの…?)
自分が嫌われているんじゃないかと心配していた時、尚紀の様子に変化が生まれるのに気づく。
(な……何を喋ってるの…尚紀さん…?誰と喋ってるの……?)
みたまが見た異様な光景とは誰もいない空間に目掛けて叫んでいる尚紀の姿なのだ。
「貴様ら……性懲りもなくまた俺の前に現れる!!東京で何をやらかす……答えろぉ!!」
みたまから見れば誰もいない空間ではあるが、尚紀の目には2人の少女の姿が映っている。
幻覚として現れたのは藍家ひめなと栗栖アレクサンドラの姿なのだ。
「1・28事件の時に私はこう言いました。伝説を取り戻して来いと」
「混沌王の頃に戻れたって私チャンも期待してたんだけどさ~…メンディーよね~アナタって」
「答えろルシファー……どうして東京の人々を身勝手に殺していく!何を望んでいるんだ!?」
「私の望みとは……
「世界の収束……?複数のものを一点に集中させることだと……?」
「だけど、それだけでは終わりたくないの。私チャンはね…使い捨ての道具で終わりたくない」
2人の少女の姿が消失したかと思えば人修羅の背後に現れてくる。
振り向けば次は横側に出現したりと次々と幻覚が増していく。
自分は認知症でも患っているのかと夢と現の区別がつかなくなった時、こんな言葉が聞こえる。
<<アナタは私になる>>
<<私チャンはアナタになる>>
「俺が……何に……?」
次の瞬間、ひめなとアレクサンドラが伸ばしてきた手に首を掴まれながら叫ばれる。
<<私の知恵として…ナホビノとして……私と一つになれ!!!>>
「ぐっ……がっ……あぁぁぁぁ……ッッ!!?」
少女達の力とは思えない腕力で持ち上げられる人修羅が息も絶え絶えになりながら叫ぶ。
「俺は……貴様の人形なんかじゃ……ない……ッッ!!!」
<<私と共に混沌を照らす光となれ、人修羅よ!!!>>
「嫌だァァァァーーーーッッ!!!」
藻掻き苦しむ尚紀であったが駆け寄ってきたみたまの声で状況を理解する。
「やめて尚紀さん!!一体どうしちゃったのよ……自分で自分を傷つけるなんて!!?」
「なん……だと……?」
気が付いた時、彼は自分がどんな愚かな行為をしているのかに気が付くだろう。
あろうことか尚紀は自分で自分の首を両手で締め上げ続けていたのだ。
慌てて両手を首から放した彼は自分自身が制御出来ていない現実に恐怖していく。
「キャンプの夜の時から変よ…一体何が尚紀さんを追い詰めようとしているの…?」
心配してくれる彼女に言い訳一つ用意する余裕さえない彼は歩き去ろうとする。
そんな彼を呼び止める彼女に対して顔も向けないままこう告げるのだ。
「俺を心配してくれる気持ちは嬉しい…だけどな……俺はもう……きっと長くはない」
「えっ……それはどういう意味……?」
「明日に差し支えるから…お前も休め。俺も休んで……出来る限り……足掻いてみる」
そう言い残した彼はホテルの部屋へと戻っていく。
高鳴る心音がまるで別人の鼓動のように感じている尚紀は恐怖している。
(俺は別の何かになろうとしている……。もし俺がルシファーに成り果てるなら……)
その先を考えることが怖くてたまらない尚紀は重い足取りのまま進んでいく。
いつまでこの体を自分が制御出来るのか分からない歩みは自分の歩みと思えなかった。
これでお膳立ては終わったと思うので、次回からは東京崩壊編の話を描いていきますね。