人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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293話 禁断の果実

アリナが空爆を続けていた港区の下側には品川区が存在しており、ここも戦場となっている。

 

この地域はアリナと十七夜が坂東宮攻略戦で訪れた地域であり、牛頭天王ともゆかりがある。

 

この場所が海だった時代に牛頭天王のお面が海中から引き上げられたという故事があるのだ。

 

牛神と縁深い品川区の駅周辺を見下ろせる高層マンションの屋上で佇むのはバアル神の姿。

 

彼が期待を寄せるアリナの活躍を見物していたようだが彼女は渋谷区方面に飛んでいく。

 

「かつての過去を清算してこい。全てを切り捨てて高みに昇れる者こそ…ヨスガの王なのだ」

 

邪悪な眼差しが赤く光る黄金の牛兜を纏う魔王の背後に浮かび上がる存在こそ力の求道者。

 

かつてのボルテクス界においてマントラ軍を結成して代表となったゴズテンノウの姿なのだ。

 

シジマに破れたゴズテンノウが最後の力を託した者こそが千晶であり、ヨスガを啓く者となる。

 

弱肉強食思想であるヨスガ思想は選民主義であり、ゴズテンノウが望んだ世界の在り様なのだ。

 

ゴズテンノウの力を授かった千晶はバアルの化身となり、バアルの巫女とも呼べる神となる。

 

だからこそアリナもまたバアル神をルーツにもつゴズテンノウが導くことになるだろう。

 

かつての橘千晶と同じように。

 

「やめて…くれ……僕が生きた街を…人々を…焼かないで…くれ……」

 

バアル神モロクの胸元から響いてくる声とは暁美ほむらに警告を残した少年の声。

 

牛神が纏う衣服の裏に隠れた胸元には少女のような少年が頭半分埋まる形で備わっている。

 

少年の体はモロクと一体化しているため頭部の半分しか露出していない姿にされたようだ。

 

「服の下で見えなくとも東京の人々が死に絶える悲鳴は聞こえるようだな?」

 

「頼む…お願いだ…品川区の人々を…僕が生きた縄(・)印(・)学(・)園(・)の友達を…殺さないで…くれ……」

 

涙を流して服を濡らす少年の頭部が語った縄印学園が存在する品川駅西口方面に顔を向ける。

 

見えたのは燃え上がる縄印学園の光景であり、学ランやブレザーを纏う学生が焼かれる光景だ。

 

「思い出すな…この世界に召喚されて間もない頃を。そして貴様をいの一番に手に入れた日を」

 

黄金の牛兜の中に備わるバアルの顔が目を瞑り、かつての記憶を思い出す。

 

その記憶の光景とは暁美ほむらが悪魔転生して間もない頃の出来事であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

一年前の四月頃の東京はパンデミックの騒ぎもなく平和な光景が続いている。

 

そんな頃の東京の南に位置する品川区で生きてきたとある少年がいたようだ。

 

「いいか、よく聞け。先日配布された端末にまだ登録していない者がいるようだ」

 

担任教師の声が聞こえたことでとある少年が起き上がる。

 

机の上で眠りこけていた少年が纏うのは青の学ランであり、白い百合が刺繍されている。

 

「そろそろ仮アカウントの期間が終了するから、今のうちに登録を済ませておけ」

 

担任教師に促された少年が下の机に顔を向ければタブレット端末が置かれている。

 

教師がいう登録を済ませていなかった者とはこの少年のことだったようだ。

 

促されたため慌てて登録を済ませた少年が電子黒板の方に振り向く。

 

「それからもう一つ、最近物騒だから必ず集団で寮まで帰るんだぞ」

 

教師がいう物騒な出来事とは東京のギャング魔法少女達が起こす事件のことだ。

 

しかしその物騒な事件ですら五月から静まっていくことになる。

 

原因は東京の守護者である人修羅が行う魔法少女殺戮によって恐怖政治が敷かれたからだろう。

 

そんな社会の裏側とは何の関係もない少年はボーっとしながら授業を受けていく。

 

気が付けば夕暮れになっており、今日の学業を終わらせた少年が帰路につくことになるのだ。

 

教師から推奨されたこともあり、寮に帰るなら集団下校が望ましいと周りに声をかけてみる。

 

しかし声をかけた女子生徒達は先約があったようで断られたため独りで帰ることになるのだ。

 

「ねぇ、彼ってさ…暗い雰囲気の文学少年だけど…凄く美少年だよね!」

 

「うんうん!男っていうよりは美女って雰囲気だし!彼女いないなら私が立候補しようかな?」

 

「あんたは前も彼氏がいたのにまた新しいの探すの?」

 

「いいじゃん別に!それよりさ、担任が言ってた物騒な事件って……」

 

女子生徒が絶賛する通り、少年の見た目は男というよりは女に近い中性的な印象をしている。

 

黒髪ショートヘアに灰緑色の目、前髪の左側は切り揃えている。

 

華奢な体つきは少女のようであり、女装させられたら誰も男だとは気が付かない姿だった。

 

縄印学園高等科から出てきた少年が歩きながらも鞄の中から何かを取り出す。

 

それは人修羅が夏目書房で買った文庫本と同じ失楽園であり、立ち読みしながら家路を急ぐ。

 

そんな時、恐ろしい囁き声が少年の耳の奥に聞こえてきたのだ。

 

「えっ……?」

 

品川駅西口に入ろうとしていた時、何かが聞こえたのか少年が周囲を見回す。

 

しかし誰も声を掛けてきた様子もなく、空耳かと再び駅を目指そうとする。

 

<<こっちだ……来い……>>

 

再び足を止めた少年は空耳ではないと感じたため声が聞こえる方角に歩いていく。

 

辿り着いた場所とは品川駅西口から離れていない高輪橋架道橋下区道だったようだ。

 

<<そうだ……もっと奥へ……>>

 

耳の奥に聞こえる言葉が大きくなったため、不気味に思いながらも少年は高輪トンネルに入る。

 

頭をぶつけてしまいそうなぐらい天井が低いトンネルを歩いていた時、それは起こるのだ。

 

「なっ……ッッ!!?」

 

突然周囲が変質していき、少年は異界に飲み込まれてしまう。

 

眩い光が収まったため少年が目を開ければ絶句する光景が現れるのだ。

 

「な……何なんだ……コレ……?夢……なのか……?」

 

少年が見た異界光景とはボルテクス界のマントラ軍の拠点ビルとよく似ている。

 

そびえ立つのはゴズテンノウの像ではなくモロク像であり、かがり火に照らされているのだ。

 

「……見つけたぞ、我の知恵よ」

 

モロク像の下に立っていたのは黄金の牛兜を纏う褐色肌の全裸男であり、少年は恐怖する。

 

「な……何なんだ……お前は!?どうして服を着ていないんだぁ!!?」

 

「それはな……今から貴(・)様(・)と(・)一(・)つ(・)に(・)な(・)る(・)た(・)め(・)だ」

 

全裸姿でお前と一つになりたいなどと言われたため、震えながらも少年は赤面してしまう。

 

黄金の牛兜を纏う変態から逃げようとするが片手を持ち上げた瞬間体が動かない。

 

超能力魔法で体を拘束された少年の元へと全裸の大男が迫ってくるのだ。

 

「悪魔となった暁美ほむらの感情エネルギーだけでも有難いのに…ナホビノまで手に入るか」

 

「う……動けない……っ!!僕に何をする気だ……僕は男なんだぞぉ!!?」

 

「関係ない。我は貴様が欲しい…欲しくて欲しくてたまらない…何故なら貴様は禁(・)断(・)の(・)果(・)実(・)だ」

 

「禁断の……果実……?」

 

禁断の果実はメタファーとしても用いられて性的にも受け取られるが、牛神が語る意味は違う。

 

「ぐっ!!!」

 

少年の頭さえ掴める大きな左手で首を掴まれた少年の体が持ち上げられてしまう。

 

持っていた失楽園の文庫本を落とした少年に目線を合わせたバアル神が語ってくれるのだ。

 

「我の名はモロク…かつては至高天の玉座に座った創造主であったが…貶められた神でもある」

 

「貶められた……神だって……?」

 

「我の次に至高天の玉座を手に入れた唯一神は支配欲に駆られた末に神(・)々(・)か(・)ら(・)知(・)恵(・)を(・)剥(・)奪(・)し(・)た(・)」

 

バアル神が語るのはアラディアが語ったナホビノのことであり、全ての神はナホビノだった。

 

しかし唯一神から知恵を剥奪された神々は貶められ、悪魔と呼ばれる存在に成り果てたのだ。

 

「世界を創世するには知恵と永遠の命を持つナホビノでなければならない。我はそれを欲する」

 

「僕を手に入れたら……ナホビノになれるというのか……?」

 

「人間よ、貴様らの中にこそ我々神々が失った知恵が宿っているのだ。だからこそ一つとなる」

 

何を思ったのか右手で学ランを掴み、一気に引き剝がす。

 

「み、見るなぁぁぁぁーーッッ!!!」

 

全裸にひん剥かれてしまった少年の顔が真っ赤になりながら両足をバタつかせる。

 

同性愛者でない彼は同性に無理やり犯されたくないとモロクの胸板を蹴りつけていく。

 

しかしビクともしない牛神に対して勢いをつけたドロップキックを放った時、それは起こる。

 

「うわぁぁぁぁぁーーーーッッ!!?」

 

あろうことか少年の両足がモロクの胸板に取り込まれていき、取り込まれた足の感覚が消える。

 

「神(・)と(・)悪(・)魔(・)の(・)戦(・)い(・)と(・)は(・)人(・)間(・)を(・)巡(・)る(・)戦(・)い(・)。人間を支配するのは唯一神ではない……我々悪魔だ」

 

「やめろぉ!!やめてくれぇぇぇぇーーーーッッ!!!」

 

どんどん吸収されていき、下半身が全て取り込まれてしまう。

 

泣き喚く少年の表情を心底楽しむ牛神は最後にこんな言葉を送るのだ。

 

「ナホビノの魂よ…案ずるな。我の知恵を内包した貴様は至高の神格を持ち合わせた男なのだ」

 

「そんなものはいらない!!助けて……誰か助けてェェェェーーッッ!!!」

 

「我と同じ牛神を祖に持つ神々に貴様をくれてやるわけにはいかん。貴様はバアルが独占する」

 

「たす……け…………ッッ」

 

ついには全身を吸収されてしまった少年が消えた時、おびただしい魔力が噴き上がっていく。

 

「クックックッ…やはり馴染む!馴染むぞぉ!かつての創世神としての力が戻ってきたぁ!!」

 

狂ったように笑うバアルの全身から放たれる極大の魔力によって異界が破壊されていく。

 

「今の我ならばナホビノを失ったルシファーを超えている!我こそがCHAOSのトップだ!!」

 

星さえも破壊しかねない大出力の魔力を噴き上がらせていた時、突然胸が苦しくなる。

 

「ウグッ!!?な…なんだ…?この…喉に刺さった骨のような異物感は……?」

 

片膝をついたバアルが片手で胸を押さえながら苦しんでいく。

 

その苦しみの原因とは馴染むはずだった知恵の果実が体に溶け切っていない現象であった。

 

……………。

 

かつての記憶の世界に浸っていても胸元の少年の哀願が聞こえるため、片手を胸に押し付ける。

 

一気に押し込む形で少年の頭部を完全に埋没させてしまうのだ。

 

「創造主は奪った知恵をエデンの園にある樹の実に封じた。それに手を付けたのが人間だ」

 

アダムとエヴァは蛇に誘惑されたことで神々の知恵を宿した禁断の果実を食してしまう。

 

すると善悪を知ることとなり、感情と知恵を手にすることになってしまうのだ。

 

「知恵は人の魂に融合し、その子々孫々へと受け継がれてきた。人(・)間(・)と(・)は(・)神(・)の(・)半(・)身(・)な(・)の(・)だ(・)」

 

アラディアも鹿目まどかを半身として必要とした存在であり、彼女があってナホビノとなる。

 

悪魔に貶められた神々は人間を必要とし、人間を食す存在となるだろう。

 

奪われた自分達の知恵を勝手に食べた人類を今度は悪魔となった神々が喰らう番なのだ。

 

<<遥か昔、神により創られた秩序の世は神の僕たる天使達によって、正しく導かれていた>>

 

女性の声が空から響いてきたことでバアル神が後ろに振り向き、夜空を見上げる。

 

<<その世の中で人々は幸せを感じ、健やかに繁栄していった。だが神の世も永遠ではない>>

 

バアルの元へと下りてくる存在こそ、古代アナトリア半島のフリュギアで崇拝されてきた女神。

 

<<神の生み出した清らかなる流れも人の営みの中でいつしか淀み、世を腐らせる毒となる>>

 

目隠れする長い黒の長髪、青白い肌、後ろに流れるように生えた二本角をもっている。

 

<<そして狂った秩序は混沌となり、過ぎた混沌もまた秩序によって飲み込まれていく>>

 

両手には戦を表す二本の剣、そして体を覆うように備わる刃の円環を三つ纏う姿なのだ。

 

<<諸行無常なるこの世の中で知恵を得た人間達がいかに歩み、そして骸となるか……>>

 

浮遊する女神が着地して不敵な笑みを浮かべてくる。

 

「わらわも興味が湧いたぞ……バアルよ」

 

「フッ…ようやくか。では、決心がついたと判断して良いのか、キュベレ?いや……ク(・)バ(・)バ(・)よ」

 

その名をもつ神こそ死と再生を司る存在であり、欧州神話でも崇拝された大地母神であった。

 

【キュベレ】

 

古代ギリシャ、古代ローマにも信仰が広がった大地母神であり、その名の意味は知識の保護者。

 

ギリシャに取り入れられる前のフリュギアでの呼び名はクババであり、大いなる母と呼ばれる。

 

熱狂的な崇拝者は自らを聖なる儀式で去勢して女性となった男性達であったという。

 

これはキュベレの息子であるアティス崇拝とも繋がり、去勢とは死と再生を表すのだ。

 

クババのクバとは立方体を意味する語源であり、ここから英語のキューブが生まれる。

 

古代アナトリアでは隕石や立方体の石が神体として祀られ、ブ(・)ラ(・)ッ(・)ク(・)キ(・)ュ(・)ー(・)ブ(・)信(・)仰(・)が生まれた。

 

「アリナという娘とわらわが融合する話か?断ってきたのだが……其方もしつこい男だからな」

 

「我の説得に応じて本人を視察に来るぐらいには懐柔出来たようで何よりだ」

 

バアルの元まで歩いてきたキュベレが渋谷区方面に視線を向ける。

 

上位の神の領域に立つキュベレに距離は関係なく、千里眼を用いてアリナの姿を視認するのだ。

 

「ほう…?あの娘はキューブを魔法武器にして戦う魔法少女か?実に興味深いではないか?」

 

「それだけではない。あの娘もまたヨスガの道を生きる女…だからこそバアルが金星に導く」

 

「バアルである其方とバアルの化身となった女の魂に導かれる魔法少女が金星となるか……」

 

「だからこそ汝が必要なのだ、クババ。エジプトのイシスと同じくシ(・)リ(・)ウ(・)ス(・)星(・)を(・)司(・)る(・)女(・)神(・)よ」

 

知恵を司るクババの手にはザクロ、または林檎が持たれており、林檎を切れば五芒星となる。

 

林檎の五芒星は人体を表す知恵の象徴と言われており、シリウス星を表すとも言われている。

 

シリウスは明けの明星とも呼ばれる星であり、エジプトではイシスの星として信仰された。

 

「知恵を司る女神だからこそアリナを導いてやって欲しい。美を司る金星となるべき女だ」

 

「わらわという禁断の果実を再び女は食すか……かつてのエヴァと同じように」

 

知恵を司る女神として知恵を求める女を誘惑してみるのも一興かと感じたキュベレが動く。

 

浮遊しながら渋谷を目指す彼女を見送ったバアルの姿が消えていき、その場から消え去る。

 

彼もまた準備を行う必要があるのだ。

 

キュベレが動く程の決意を固めたならば後押しなどしなくとも決断してくれると考えていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ぐはぁ!!」

 

燃え上がるスクランブル交差点が一望出来るガラスの壁に叩きつけられたのはジャックリパー。

 

倒れ込んだ小さな体に向かって歩いてくるのはアリナが召喚したアティスのようだ。

 

「髭剃り刃の扱いが上手い程度でオレに勝てると思っているアルか!修行が足りんで御座る!」

 

「ちくしょう…こんな口調も安定しないマッド悪魔に手も足も出ないのかよ…オレ様は…?」

 

全身包帯巻きで切断された四肢を浮遊させながら人型を保つアティスの手にも刃物が握られる。

 

アラビアンナイフを器用に回転させながら迫っていたが逆手に持ちかえて振り下ろす。

 

「チッ!!」

 

横っ飛びで避けたリパーはナイフを構えながら混乱魔法を行使。

 

しかし混乱に耐性をもつアティスは混乱魔法を無効化してきたようだ。

 

「最初から狂神の私に混乱が通用すると思うのですか?俺様はいつだってマッドだぜぇぇ!!」

 

「だったら張り付いてその首を切り落としてやる!!」

 

「五体バラバラ!?それも素敵だが…されるなら僕の女王様にされたいぃぃーーッッ!!」

 

「うるせぇ変態悪魔!!アリナの悪魔選びのセンスはどうかしてるぜ!!」

 

刃物でチャンバラを繰り返す上空ではジャックランタンとフルフルが魔法勝負を行っていく。

 

「ヒホホーーーッッ!!?」

 

ジオンガの一撃を浴びたランタンが屋上広場のステージの屋根に倒れ込む。

 

「ホッホッホッ、カボチャの悪魔よ、その程度か?へそで茶が湧くのぉ」

 

「こいつ…年寄り悪魔のくせして元気がいいホ……」

 

「今日は腰の調子がいいのでのぉ、さまなぁさんに迷惑をかけずに済めたらいいのじゃが」

 

「年配者なら子供の凶行を止めやがれホ……」

 

「何故じゃ?アリナは間違ったことなどしとらんよ。彼女には彼女の正しさがあるのじゃ」

 

「アリナにとって正しくても!社会に害を成した時点でそれは許されない行為だホ!!」

 

「社会不適合者だと言いたいのか?しかしのぉ…それは社会に隷属させられた者の戯言じゃ」

 

「社会に隷属させられているホ……?」

 

「周りの正しさに縛られては悪魔失格じゃ。いつから人と悪魔が他人の奴隷に成り果てた?」

 

禅問答を仕掛けられる前にランタンが火球を放てばフルフルは雷魔法を放射してくる。

 

上空でぶつかり合う下側の屋上スペースではアリナとかりんの激闘が繰り広げられていく。

 

「自分のために生きてこそエモーショナルな人生を生きられるんですケド!!」

 

「社会は皆のものなの!!自分勝手なマネを貫きたいなら無人島にでも行くしかないの!!」

 

斬り込んでくるかりんに対して屋上スペースに備わった机や椅子を駆使して避けていく。

 

アリナが椅子を蹴飛ばして飛ばしてくればかりんは椅子を叩き斬って接近戦を挑もうとする。

 

「それじゃあ、周りが間違っていた時でもアナタは周りに合わせて迎合するワケ?」

 

「えっ……?」

 

「そんな事も想像出来ないの?そんなんだからフールガールなワケ!!」

 

机を蹴り飛ばしてかりんに放てば袈裟斬りの角度で机を叩き斬る。

 

しかし向こう側にアリナの姿は見えず、突然頭に強い衝撃が与えられてしまう。

 

「あぐっ!!!」

 

机を蹴り飛ばした後アリナは跳躍して体を横倒しに回転しながら浴びせ蹴りを放っている。

 

蹴り足をまともに受けたかりんが倒れ込み、脳震盪によって景色が歪んで見えるようだ。

 

「この世は常にケースバイケース。絶対に正しい状況なんてない…正しさは常に移り変わる」

 

「そ…そんなことないの!!漫画のヒロイン達の正しさはいつだって一つなの!!」

 

「コミックも消費者が求める以上は時代のニーズが反映されて移り変わる。諸行無常なワケ」

 

そう言われたかりんにも思い当たる部分があるのか何も言えなくなってしまう。

 

彼女は古本屋で最近流行っている異世界系漫画を読んだことがあるが体調が悪くなってしまう。

 

描かれた主人公のイキリっぷりや承認欲求を満たすためだけの舞台装置なキャラに嫌悪する。

 

体調が悪くなるぐらい不快な漫画が時代に必要とされてしまうほど日本人は病んでいるのだ。

 

如何にムカつく勇者を残酷に報復するか競い合う漫画内容は18世紀英国の処刑を彷彿させる。

 

死(・)刑(・)よ(・)り(・)も(・)恐(・)ろ(・)し(・)い(・)死(・)刑(・)と(・)い(・)う(・)見(・)世(・)物(・)処(・)刑(・)が横行した暗黒時代と同じ需要を満たす漫画だった。

 

「アナタも社会の奴隷で終わるの?ブラック企業社会で擦り切れて心が壊れた人達みたいに?」

 

「確かに自由も必要かもしれない……だけど人殺しはダメなの!!それは社会悪なの!!」

 

「社会悪?周りに隷属しないで自分を貫いた時点で…そいつは立派な社会悪なんですケド!!」

 

腹に蹴りを浴びたかりんがきりもみしながら飛ばされていき、ステージ近くで倒れ込む。

 

大鎌を杖にしながら立ち上がる彼女はアリナの言葉によって迷いが植え付けられるのだ。

 

「スクール時代…アリナは周りに合わさなかった。間違いを指摘したら…アリナは虐められた」

 

「アリナ先輩……」

 

「出過ぎた杭は打たれる、それが村社会な上で同調圧力社会のジャパン。反吐が出るヨネ…」

 

アリナなりに社会に抑圧されて苦しんできたと後輩は感じるようだが、それでも止めてくる。

 

マギア魔法のキャンディーデススコールを狙うがアリナは攻撃キューブを生み出して構える。

 

キューブを分解して放ち、次々とぶつかるキューブの破片とお菓子の魔弾。

 

「そ……そんな……」

 

かりんが放った魔弾はアリナの固有魔法によってアトリエ空間に消し去られてしまうのだ。

 

「アナタの魔法なんてアリナには通用しない。さぁ、どうしたい……ジャスティスガール?」

 

分解したキューブの破片がアリナの周囲を飛び交い、あらゆる飛び道具を無効化してくる。

 

その気になれば後輩そのものをアトリエ空間に封印して死ぬまで幽閉することも出来るのだ。

 

「だったらこれでどうだホー!!」

 

フルフルの隙をついたランタンが急降下して魔眼の力を解放する。

 

「ワッツ!?」

 

放たれた魔法はパララアイであり、物質的な飛び道具ではない魔法を防ぐことは出来ない。

 

体が麻痺して倒れ込むアリナの援護をするフルフルもまた魔法を行使。

 

パララディによって状態異常を回復したアリナが立ち上がるのだが隙が生まれる。

 

その隙を見逃さなかったかりんが一気に駆けてくるのだ。

 

「フールガール!?」

 

アリナの背中を超える形で一気に踏み込んだかりんが彼女に振り向き、両手を持ち上げていく。

 

「アリナ先輩の魔法武器は危険なの」

 

かりんの手にはアリナのキューブの破片が握られており、一瞬の隙をついて全て盗まれている。

 

正義の怪盗になりたいと願った彼女の固有魔法は『窃盗』であり、彼女に盗めないものはない。

 

「だけど…私が使えばこういう使い方だって出来るの!!」

 

アリナのキューブに魔力を込めたかりんが再びキャンディーデススコールを放つ。

 

自分の魔法武器を敵の攻撃道具にされたことは初めてだったアリナが驚き、側転回避する。

 

飛んでいったキューブの破片はイベントステージを破壊しながら消えていったようだ。

 

「アリナ先輩のマギア魔法程にはならなくても……私だって真似ぐらいは出来るの!」

 

「アハハ……そうだったんですケド。アナタはいつだってアリナの真似をしてきたヨネ…」

 

「真似を極めたら本物になれるってアリナ先輩から教わったの!だから真似するの!!」

 

「イグザクトリー。アリナだって真似たいクソマスターがいた…だからアリナも真似てきた」

 

新たな攻撃武器を生み出さないアリナがフットワークを駆使してかりんの周囲を周っていく。

 

踊るようなステップ移動を刻むアリナの姿を初めて見たかりんは驚きを隠せない。

 

「カモン、ベイビー。アナタが知らないアリナのファイトスタイルを教えてあげるカラ」

 

「なんだか知らないけど…私は負けない!だって私は…正義の怪盗だから!!」

 

大鎌を生み出したかりんが踏み込み、連続斬りを放っていくがジンガステップで避けられる。

 

「ぐふっ!!?」

 

逆袈裟斬りを潜り抜ける形で放った後ろ回し蹴りが顎に決まったことでかりんが倒れ込む。

 

脳が激しく揺さぶられて立ち上がれない彼女に目掛けて一回転を用いた浴びせ蹴りを放つ。

 

「がはっ!!!」

 

腹部に決まった浴びせ蹴りの衝撃で口から吐瀉物を撒き散らすかりんが転げながら苦しみ抜く。

 

「負けない…の…私は正義の怪盗…それに…アリナ先輩を…止めなきゃ……」

 

「そのガッツだけは褒めてあげる。だけど…アリナはアナタになんて負けてられないんだヨネ」

 

不屈の精神で立ち上がっていく彼女に目掛けてアリナは一気に踏み込む。

 

低い体勢から後ろ回し蹴りを豪快に放つがかりんは体がぐらついた勢いで避けることが出来る。

 

だが後ろに下がった瞬間、本命の一撃が決まることになるのだ。

 

「あっ……?」

 

バチンと凄い音が響く程の強烈な一撃が顎に決まったことでかりんの体が倒れ込む。

 

放たれた一撃とはアルマーダと呼ばれる後ろ回し蹴りであり、かりんは起き上がれない。

 

連続して放った猛禽類の如き足技の一撃が直撃した後輩は失神する程の状態なのだ。

 

「アリナはね…スターワールドを目指す。全てのしがらみを断ち切るパワーロードを進むカラ」

 

もはや立つことも出来ない後輩にトドメを刺すことなら造作もないだろう。

 

それでも倒れたかりんを見下ろすだけのアリナに対して体に宿った千晶が念話を送ってくる。

 

<<大切な友達を殺すことが出来ないの?楽しかった過去を切り捨てることが出来ないの?>>

 

「そ……それは……」

 

<<切り捨てる事は失うこと、それは悲しい。だけどそれを飲み下せば無限の可能性がある>>

 

「アリナは……アリナは……」

 

<<この子は学生として生きていた頃の象徴。だけど、貴女が求めたものはそこにあった?>>

 

沢山のものがあって、沢山の人がいたけど、もう作り出すものはない。

 

何も生み出さず何もない時間だけが無意味に過ぎていくだけの腐り切った日々。

 

嘉嶋尚紀や橘千晶が人として生きていた頃と変わらず、力を失った毎日だけがそこにはあった。

 

<<絆なんて聞こえのいい言葉の中身を貴女は知っている。その正体は怠(・)惰(・)だってことをね>>

 

「周りに依存しながら享楽だけを求める社会しかなかった…だからアリナはスクールを捨てた」

 

<<貴女と世界が必要としているものはなかった。だからこそ貴女は怠惰の象徴を殺すのよ>>

 

千晶の導きによってアリナの右手に攻撃キューブが生み出される。

 

「…バイバイ、御園かりん。アリナは禁断の果実を手に入れて…知恵を司るガッデスになる」

 

人修羅と決別した千晶と同じ覚悟を示すためにかりんを殺そうとした時、仲魔が駆けつける。

 

「姐さんはやらせねーぞ!!ゴラァァァァァーーーーッッ!!!」

 

飛び掛かってきたのはジャックリパーであり、不意を突かれたアリナが押し倒される。

 

「くっ!!」

 

ナイフを顔面に突き立てようとするリパーの一撃を両手で抑え込みながら彼女が叫ぶ。

 

「アティス!!こんなチビデビル一体でさえ抑えられなかったワケ!?」

 

仲魔の不手際を怒るアリナであったが、顔を横に向ければ震え上がっているアティスが見える。

 

「あっ…あぁぁぁぁ…気配がする…ママンの…恐ろしい僕のママンの気配がする…ッッ!!」

 

「ママン……?」

 

怖くて震えているように見えるが包帯で隠れたアティスの顔は高揚としている。

 

一体どんな残酷なお仕置きを母親からされるのか楽しみであり怖くもある気持ちが表れるのだ。

 

そんな時、強大な魔力を感じ取った現場の者達が上空に視線を向ける。

 

「マ、ママン!!?……じゃねぇ!!テメェは誰だぁぁぁぁーーッッ!!?」

 

渋谷109ビルを空の上から見下ろすのは無数の光を生み出す悪魔ほむらの姿。

 

「そのまま消えなさい」

 

魔法盾の武器庫から放たれたのは無数の空対地ミサイルであり、即座に反応した者達が動く。

 

ランタンとリパーは倒れたかりんを抱えながらビルから飛び降りる。

 

フルフルはアリナを抱え込みながら空に飛び上がる。

 

「あ、あれ?誰か忘れてませんかぁぁぁぁーーッッ!!?」

 

迫りくる空対地ミサイルに晒されたままのアティスは直撃したビルの瓦解に飲み込まれるのだ。

 

<<なんで私だけこうなるゥゥゥゥーーーッッ!!?>>

 

瓦礫の下敷きになったアティスに目を向けることもなくアリナはほむらに視線を向ける。

 

「……暁美ほむら」

 

忌々しい表情を浮かべながらも冷や汗が顔に伝っていく。

 

対峙する今の暁美ほむらはかつての彼女以上の殺意を感じさせてくるからだ。

 

「あのまま死んでいれば楽だったのに。生き残った以上は…覚悟は出来ているわよね?」

 

邪魔者の全てを殺す殺意を感じさせてくる悪魔ほむらの目が金色の輝きを生む。

 

その瞳を見た時、アリナに変わって千晶が口を開くことになるのだ。

 

「どういうことなの…?貴女の中に勇君を感じる…彼は人修羅としての尚紀君に殺されたはず」

 

「あの女らしからぬ雰囲気を貴女から感じるわね…そして新田勇の記憶が正体を教えてくれた」

 

睨み合う両雄の背後に浮かぶのは新田勇と橘千晶の幻影。

 

憎しみに飲まれたまま殺意を向け合う光景はまるでボルテクス界でのコトワリ戦の再現だろう。

 

世界を超えて今、ヨスガとムスビの戦いが再び幕を開くことになるのであった。

 




真女神転生5主人公のナホビノ君はバアル神に取り込まれる末路で描いてますけど、これは最終章バトルのために必要なんですよね。
牛神と蛇神は殺し合うものだって真5で語られた通りの展開を描きたいので。
それにしてもナホビノ君は牛神連中からモテモテですなぁ、まさに禁断の果実(性的な意味で)
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