人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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308話 悪魔もまた人間

東京黙示録事件によって世界中が絶望の坩堝と化していく。

 

未知の病魔のワクチンを世界規模で接種した筈なのに違う病魔がどんどん溢れているのだ。

 

()()()()()()と呼ばれる症状であり、ワクチンによって自己免疫が自分の細胞を攻撃する。

 

それによって人々は本来なら患うはずのなかった病気によって自滅していくのだろう。

 

健康だったはずの人々は突然の重病に苦しみ、その原因は全て反ワクチン派の仕業だと叫ぶ。

 

彼ら、彼女がワクチン接種しないせいで我々は未知の病魔で重篤になるのだと勘違いするのだ。

 

そんなワクチン推進派の者達の見当違いな憎しみと善意によって怨念のMAGが蓄積される。

 

それを媒介にされた人々は魔界から流れてくる悪霊に取り憑かれてしまい、()()()()()()

 

悪魔に覚醒した者達は手近にいるだろう反ワクチン派のような魔法少女達に憎しみを向ける。

 

魔法の力でズルをしているせいで反ワクチン派にされてしまった彼女達は襲われ続けるのだ。

 

「いや……お願いだからやめてよパパ!ママ!元の優しいパパとママに戻ってぇ!!」

 

泣き叫ぶ者とは佐倉杏子の古巣である風見野市で魔法少女リーダーを務める人見リナ。

 

彼女は歴戦の魔法少女であるが両親が悪魔化したことに驚愕したことで穢れが深刻化する。

 

自己免疫疾患で仕事も家庭も崩壊した家で暮らす彼女は覚醒者となった両親に襲われるのだ。

 

「グギ……グギギッッ!!貴様ノセイダ…貴様ノセイデ…我々ハクルシメラレルンダ……」

 

「ナンテ悪イ子ナンデショウ…反ワクチン派ニナルナンテ…日本ト世界ノ敵ジャナイ!!」

 

「娘ガ世界ノ敵ニナッテシマウダナンテ…成敗シナケレバ……コレハ正義執行ナノダ!!」

 

「正義執行ヨ!!両親トシテ娘ノ罪ニ罰ヲ与エナイト……コレハ親ノ責任ナノヨ!!」

 

仕事や健康な体を失った者達は飢える者となり、飢える怨念が食人鬼として覚醒させてしまう。

 

【ピシャーチャ】

 

インドにおける餓鬼の一種であり、食屍鬼として生きた人間に襲い掛かる存在。

 

死の前兆として現れ、これを見た人間は九ヶ月以内に死んでしまうという。

 

<<オレサマ、オマエ、マルカジリ!!!>>

 

「イヤァァァァーーーッッ!!来ないでぇぇぇーーーーッッ!!!」

 

グロテスクに爛れた皮膚に目玉は大きく垂れ下がった餓鬼共が跳躍してくる。

 

上顎から下は股下まで繋がる程の口となっており、鋭い牙が娘に襲い掛かっていく。

 

<<ギャァァァァァーーッッ!!!!>>

 

魔法少女に変身することも出来ない程パニックになっていた人見リナの体が喰われてしまう。

 

実の娘をソウルジェム指輪ごと食べていく両親の意識は完全に悪魔と成り果てるだろう。

 

いずれは人語も解さない程にまで知能が低下し、飢えの本能に突き動かされる魔物と化す。

 

社会に貢献するためにワクチン接種を進んで行った者達の善意は悲惨なものになるだろう。

 

彼らはワクチンの副反応で病死するか、憎しみを募らせた末に悪魔化するかの末路なのだ。

 

この惨劇は街のあちこちで起きており、喰われるか逃げるかしか魔法少女達の選択は残らない。

 

ワクチン接種者は爆弾を埋め込まれたも同然であり、接種するたびに悪魔化する確率が上がる。

 

地獄への道は無知な善意で舗装されており、戦前と同じく善意によって滅びていくのであった。

 

……………。

 

「チッ……シケたニュースしかやってねーな」

 

「悟空、深夜ダトイウノニ、クダランテレビナド消シテシマエ」

 

「他にすることねーからいいんだよ…」

 

尚紀の力で神浜まで戻されていったセイテンタイセイ達は自宅待機状態が続いている。

 

切り取った映像だけでテロは反ワクチン派の仕業だとプロパガンダを流すテレビを見るばかり。

 

隣ではコウリュウが運んでくれたパールヴァティも座っており、槍一郎から説明を受けている。

 

この世界に流れ着いた人修羅や自分達がどのような生き方をしてきたのかを理解したようだ。

 

応接間の隣にある台所の椅子には静香も座っており、集まった魔法少女のために説明を続ける。

 

東京テロから生き残った者達であるが彼女達の親は心配して目を離さない状況に置かれている。

 

そのため親が寝静まる深夜にしか集まることが出来ない状況となっているようだ。

 

「静香さん…なんという惨い人生にされてしまったんですか。私は…胸が張り裂けそうです…」

 

魔王モトとの戦いの傷が癒えた常盤ななかは思想を共にした時女静香の末路を嘆いてしまう。

 

「こんな形で再会するなんてね…常盤さん。ちゃる達と一緒に笑顔で再会したかったわ…」

 

「それは私達も同じ気持ちよ…尚紀のお陰で変われた神浜の魔法少女達を見せたかったわ…」

 

「やちよさん…貴女達だって大変な状況に追い込まれたんでしょ?国を敵に回した者同士よ…」

 

常盤ななか達と共にやってきたみかづき荘組の魔法少女達も言葉が詰まってしまう。

 

ヤタガラスの使者だった静香達と仲良くしてくれたネコマタとケットシーも辛い表情になる。

 

猫姿に擬態しているネコマタを撫でる夏目かこの手も震えており、先が恐ろしいのだろう。

 

静香の膝に座る猫姿のケットシーも震えているのが分かるのか、彼女が撫でてくれていた。

 

「私も…私も悪魔になる!!かなえやメル…それに静香ちゃんも悪魔になれるなら私だって!」

 

「ダメよ由比さん!!悪魔になる道はね…二度と戻れない道に進むことになるのよ!」

 

「それでも…私には力が必要なの!恐ろしい売国政府から皆を守れる力が欲しいの…!!」

 

興奮して立ち上がる鶴乃の肩を掴んで座らせたのはかなえとメルである。

 

真剣な表情を浮かべながら鶴乃を諭す言葉を2人は語ってくれるようだ。

 

「鶴乃…悪魔になったあたしとメルはもう…年齢を重ねられない。いずれは誤魔化せなくなる」

 

「三十路になってもボクは14歳の姿のままですよ…?そんな状況で生きていけますか…?」

 

「そ…それは……その……」

 

「令やももこ…それにみたまや十七夜も同じ末路だ。いずれ社会はあたし達を化け物にする…」

 

「鶴乃さんは家族団欒を求めてるんでしょ?家族と一緒に歳をとってから円環に逝って下さい」

 

人間としての幸せを残せと悪魔少女達から伝えられた彼女は顔を俯けながら黙り込む。

 

悪魔になった静香達では二度と手に入らない人の幸せを魔法少女達に残したいのだろう。

 

「私も悪魔になろうかと悩んだこともありましたけど…やっちゃんと一緒に歳を重ねたいです」

 

「私もよ…みふゆ。悪魔として一緒に生きてくれるのは嬉しいけど…もしもの時は逃げなさい」

 

「その時は大国村に逃げ込むといいわ。私がアビヒコ様達と相談してあげるから!」

 

「気持ちは嬉しいけど…あたし達はやちよ達が人間として死ぬまで神浜にいるつもりだ」

 

「化け物扱いされながら隠れ生きることになりますけど…それでも魔法少女を支えていきます」

 

「その時は尚紀を頼るといい。ペレネル達の遺産がお前達の悪魔人生を守ってくれるだろう」

 

台所までやってきた槍一郎の提案を受けたかなえ達が少しだけ笑みを浮かべてくれる。

 

そんな中、一言も喋らずにいるのは応接間にあった大きなクッションに座るあきらと美雨。

 

台所の椅子は他の者達が利用しているため台所の隅に座り込んでいたようだ。

 

「尚紀さん……東京から戻ってきてないんでしょ?生きてるのかな……?」

 

「…ナオキの実力を知らぬとは言わせないヨ、あきら。一緒に朝稽古してきた仲だたはずネ」

 

「彼の実力を疑ったことは一度もないけど…それでも皆を神浜に送った後…行方不明でしょ?」

 

「ナオキは生きてる…死ぬようなヤワな鍛え方してきた奴じゃないヨ。他の連中を心配するネ」

 

「皆が心配を抱えているのは同じだよね…特に東のリーダーだった十七夜さんも辛い立場だ…」

 

「令とももこ達は和泉十七夜を心配して一緒についている…上手く日常に戻れることを願うヨ」

 

「行方不明だった十七夜さんだって帰ってきてくれたんだ…尚紀さんだって…帰ってくるよ…」

 

不安で圧し潰されそうな心を互いに支え合っていた時、玄関のブザーが鳴り響く。

 

家主である尚紀が玄関のブザーを鳴らすはずがないと分かる者達が警戒心を示しだす。

 

槍一郎が出ようとしたが暇を持て余していた悟空が代わりに玄関を開けてくれる。

 

「テメェだったか…お付きの魔法少女共はいないようだが、何で独りで来たんだ?」

 

深夜遅くに現れた者とは美国織莉子であり、深々とお辞儀をしてくる。

 

彼女の表情は決断したように重く、これから先の人生を捨ててもいい程の覚悟に満ちていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「なぎたぁぁぁーーーん!!無事でいてくれて本当に嬉しいわぁぁぁーーーーッッ!!」

 

誰もいないメイド喫茶に顔を見せにきた十七夜達を出迎えたのはオネェな店長を務める男。

 

マスクを身に着けるのも忘れて十七夜に飛びついた彼は声を大にしながら泣いてしまう。

 

「オネェサマ……本当に……すまなかった」

 

「雪のように肌が白くなるまで弱ってしまったのね…だけどアタシがついてるから安心して!」

 

自分は吸血鬼悪魔になってしまったとは言えない十七夜も言葉に詰まってしまう。

 

それでもバイト店員だったのに、こんなにも心配してくれる男の優しさが嬉しいのだろう。

 

両手を後ろに回しながら抱きしめ合う十七夜の目にも薄っすら涙が浮かんだようだ。

 

「湿っぽい歓迎はやめときましょう…神浜テロの時から行方不明だった人が帰ってきたんだし」

 

「そ、その…オネェサマ…?店の様子が随分と静かなようだが…今日は臨時休業なのか…?」

 

「そうね…色々と話し合わないといけない状況なの。貴女達は席に座って、紅茶を淹れるわ」

 

「えっ…?観鳥さん達は十七夜さんの付き添いで訪れただけなんだけど……」

 

「いいのいいの、アタシの奢りだから♪他の御主人様やメイドさんはいないから貸し切りね」

 

「フフッ♪なんだか悪い気がするけど、メイド喫茶を貸し切りに出来るなんてラッキーね」

 

「まぁ…去年だったら大喜びしたと思うけど…今のご時世だとね……」

 

付き添いで訪れていた令とみたまとももこ達は十七夜が座った対面式の席に座っていく。

 

紅茶を淹れて持ってきてくれた店長も席に座って向かい合い、お互いの状況を語っていく。

 

「家族も温かく迎えてくれたようね…本当に良かったわ。学校も病気療養が認められたようね」

 

「うむっ…自分は神浜テロの時に誘拐されてしまってな…心身ともに壊れてしまった……」

 

「本当に酷い状況だったのね…だけど戻ってこられるチャンスが出来て本当に良かったわ…」

 

「高校に復学するのはいつになるか分からないのだが…それより、この店の状況は一体…?」

 

誰もいない店内は酷く不気味な光景であり、元店員だった十七夜は気になる様子。

 

極めて重い表情を浮かべてしまう店長であるが、オーナーだからこそ決断を語ってくれるのだ。

 

「…なぎたん、残念だけど……このメイド喫茶は閉店することになるわ」

 

「そ……そんな!?あんなに人気店だったのに…どうして閉店にまで追い込まれたのだ!?」

 

「全部未知の病魔騒ぎのせいよ…密になる場所は避けろと行政とメディアが恐怖を煽るから…」

 

「ご主人達は店に来てくれなくなったというのだな…」

 

「病魔騒ぎがいつ収まるのか不透明な状況で赤字続きじゃねぇ…だから決断することにしたの」

 

ショックを隠せない十七夜が俯いてしまうが、隣に座るみたまが肩に手を置いてくれる。

 

「十七夜にとって…ここは東の者を受け入れてくれた大切な店…ショックが大きいわよね…」

 

「観鳥さんもね…未知の病魔騒ぎが始まればこうなっていくって…予想はしてたけど…」

 

「学校の新聞部に所属してると隠れて聞いてたけど…賢い子ね。貴女の予想通りになったのよ」

 

「感染拡大を防ぐのは大事だよ…だけど経済は人の助けがなかったら…生き残れないんだね…」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…一部だけが儲ければ他は滅ぶわ…」

 

「仕事も会社も病魔騒ぎで変革させられてる…こんなんじゃ日本の中小零細企業は大打撃だ…」

 

「負担に耐えられる外資系大企業と株主だけが肥え太るのよ…そして弱いアタシ達は滅ぶの…」

 

「外資系企業とその株主だけが儲けられる地獄の世界になったのね…この病魔地獄の日本は…」

 

「一体どれだけの個人店や中小零細企業が潰れるのかしら…神浜の経済は地獄になったのよ…」

 

人の移動が制限されれば仕事はリモートワークになるし、買い物はネット通販になっていく。

 

それに対応出来ない個人店は潰されていく光景はまるで神浜東のシャッター街の光景である。

 

かこの家が営む古本屋さんも苦しい立場であり、夏目一家は夜逃げする危険が大きいだろう。

 

それでなくとも外国資本が運営する巨大なウェブサイトが買い物客を独占する世の中なのだ。

 

「店に行けないなら商品が売れない、商品が売れないなら生産も生まれない、工業区も地獄よ」

 

「私の家族も工業区の派遣社員なんです…いつ首を切られるかって…怯えてるんです…」

 

「経団連共が雇用の調整弁として派遣法を改悪したせいで…派遣社員は守ってくれないわね…」

 

「自分の母も工業区で働いている派遣だ…雇い止めされたら…自分の家族も滅んでしまう…」

 

「それもこれも経団連に飼われた政権与党が推し進めた地獄…野党だけが悪なんかじゃないの」

 

「与野党グルなんだ…野党だけ悪を演じさせて国民の意識を持っていき…与党が国を売るんだ」

 

「SNSの似非保守便衣兵は不自然に野党だけバッシングしてるでしょ?あれも手品誘導なのよ」

 

「与党が用意したネットサポーターズクラブの扇動に騙される者は多い…敵は外国資本なんだ」

 

十七夜だけでなく、みたままで顔を俯けながら震えていく。

 

令の家も大東区であり、大東の経済は工業区の工匠区に依存してるため同じ地獄を背負うのだ。

 

そんな東の者達に手を差し伸べてやる事も出来ない西側のももこも辛い表情を浮かべてしまう。

 

深刻な表情をしながら少女達を見つめる店長は彼女達の未来を憂いていく。

 

(アタシはもういい…でも金で政治が買える地獄の日本で生きるこの子達に未来を残したい…)

 

外国資本に支配された経団連は()()()()()()()()を用いて自分達の飼い犬なのかを見極める。

 

主要政党の政策評価を達成すれば国会議員は多額の献金を貰えるため民意などゴミ箱に捨てる。

 

消費税増税、TPPやFTAの加盟、移民の解禁、派遣労働強化や憲法改正も経済界の仕業なのだ。

 

政治と金の癒着は極限にまで達し、もはや日本の政治はコーポレートクラシー(企業利益優先主義)となっていた。

 

(国民の代表共がグローバル資本の飼い犬に成り果てるなんて……金の犬共がぁ!!!)

 

心の中で義憤の怨念が爆発した時、突然の動悸に襲われた店長が心臓を抑え込んでしまう。

 

「オネェサマ!?」

 

苦しみながら机に倒れる店長を心配する少女達が立ち上がるのだが、彼は顔を持ち上げる。

 

「大丈夫…ワクチン接種を受けた日から体の調子がおかしくて…だけどきっと乗り越えれる…」

 

彼女達に心配かけさせまいと気丈な態度を見せる店長が彼女達を見送ってくれる。

 

「本当に強い人だよ…あの人は。ヘイト条例の時だって十七夜さんを守るために戦った人だ…」

 

「オネェサマは自分にとって恩人なんだ…あの人なら不況を乗り越えられると信じたい…」

 

いつかまた彼の元で働きたいと思う十七夜であるが、稼ぎ頭の自分が職を失った事に恐怖する。

 

悪魔崇拝組織に飼われていた頃の方が稼ぎは潤沢であり、理不尽な現実に彼女は絶望するのだ。

 

独り店内で座り込んだ店長は遠い眼差しを浮かべつつも目には大粒の涙が溜まっていく。

 

「ここで働いてくれたメイドさん達を守ってあげられなくて…ごめんなさいィィィ…ッッ!!」

 

大人として子供達の前で醜態を晒すまいと堪えたようだが、独りになれば無念が爆発する。

 

和泉十七夜の良き理解者として守り抜いてくれた大人の心は今、儚く砕けたのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

自分の家族を心配させてでもついてきてくれたももこと令に礼を言った後、十七夜は家に帰る。

 

みたまとは同じ団地街で暮らしている事もあり、十七夜の日傘で相傘しながら帰路につく。

 

「…私ね、お正月の時に尚紀さんとデートしたの。その時に彼はこう言ってくれたわ…」

 

ももこがいて十七夜もいる。

 

それに他の魔法少女達とも楽しく過ごせる。

 

そうしてみせる。

 

愛する人々と生きたいと言った女のために尚紀は元の生活に戻れると励ましてくれているのだ。

 

彼の語った言葉通り十七夜は帰ってきてくれたが、今度は尚紀が行方不明となってしまう。

 

「軽はずみな大口を叩く男は頼りにならないかもしれない…だけど尚紀さんは偉大な男よ」

 

「うむっ…自分もな、神浜人権宣言をテレビで見た時は泣き崩れた…きっと団地街もそうだろ」

 

「ええ……私も泣き崩れたし、団地街が喜びの歓声で震える程の光景だったわ…」

 

「自分は人修羅様に付いて行きたいと願った…しかし…その彼まで行方不明になるなんてな…」

 

「その人修羅様って敬称をつけるのは止めといた方がいいわよ、十七夜」

 

「どうしてだ?神浜の東を救ってくれたメシア様だというのに…?」

 

「彼はね…神様扱いだとか、英雄扱いされるのを嫌がる人なの。お尻が痒くなるって怒るわよ」

 

「むぅ…嘉嶋尚紀さんと長く付き合っていただけに、彼の事をよく知っているようだな、八雲」

 

「私は彼のことを心から愛してるわ。あの人のためなら私は死ねる…あの人こそが希望なのよ」

 

「や…八雲…随分と大胆だな?惚れている男がいると包み隠さず言えるだなんて…」

 

「フフッ♪私が大胆になれたのはきっと…自分に嘘を付かない大人な梨花ちゃんのお陰ね♪」

 

「綾野君も知らない間に成長していたんだな…。自分もその…年頃の女だし、成長したいな」

 

「あららぁ?もしかしてぇ…十七夜も尚紀さんを狙っちゃったりしてるのかしらぁ?」

 

恋路の話は蜜の味であり、意地悪な笑みを浮かべるみたまがからかってくる。

 

そう言われた彼女も赤面してしまう中、気が付けば団地街の入口まで辿り着いていたようだ。

 

「恋のライバルは私以外にも大勢いるわよぉ♪それじゃ、また明日会いましょうね、十七夜」

 

「うむっ、また明日な……八雲」

 

明日は業魔殿を紹介する流れになったことで彼女達はそれぞれの家路についていく。

 

自分の住まいがある棟に向かう時間帯はもう夕暮れであり、自然と足が止まってしまう。

 

「…暫く離れていたからだろうな、団地街の様子まで様変わりしているのがよく分かる…」

 

団地街に備わっていた公園の遊具場は大勢の子供達と迎えに来た親達がいてくれたはず。

 

しかし現在の団地街は未知の病魔の感染を恐れた行政によって立ち入り禁止にされているのだ。

 

「子供達も辛い立場だ…社会の安全を守るためとはいえ…一度しかない人生を台無しにされる」

 

立ち入り禁止のテープで覆われた寂しい公園から幻聴として聞こえてくるのは日常の声。

 

お母さん、カレーが食べたいという子供達のおねだりなら何回聞いたか分からないぐらいだ。

 

「自分が子供だったら…きっと泣き崩れていただろうな。なんて時代にされてしまったんだ…」

 

世界中に病魔の不安を煽り、ワクチンを強制接種させる連中の片棒を担いだ者として怖くなる。

 

持ち上げた左手は震えており、自分のせいで子供達の未来を壊してしまったと嘆いてしまう。

 

「平等という…この世に在りもしない概念を求めたばかりに……本当に…すまなかった…」

 

団地の棟から聞こえてくるのは密になるのを防ぐため軟禁状態にされた子供達の泣き声の数々。

 

親は我儘ばかり言う子供の顔を引っぱたき、さらに大声で泣かせていくのが聞こえてくるのだ。

 

「秩序とは何なんだ…?人々を守るためにあるのだろう…?これでは…()()()()()()()()()…」

 

欲しがりません、勝つまでは。

 

大日本帝国時代から変わらず、日本人は自由も民主主義も欠片も分からない社会全体主義民族。

 

自由(CHAOS)の価値を知らず、自分から保身に走って自由をゴミ箱に捨てていく。

 

そんな日本人など独裁国家の中国や北朝鮮で虐げられながら生きる民衆と変わらないのだ。

 

「御上に迎合するだけでは救われないからこそ…東の魔法少女達は…自分に逆らったのだな…」

 

自分に足りなかったものが何なのかに気が付いた時、肩に手を置く人物が現れる。

 

「…姉ちゃん、黄昏てるけど大丈夫?」

 

現れたのは彼女の弟である和泉壮月であり、心配そうな顔を浮かべている。

 

「壮月か…ここを離れていた時期が長くなったせいかもな…団地街の変化がよく分かるんだ…」

 

「こんなご時世だからな…本当なら外に出歩くのは止めて欲しいけど…職場も大事だからな…」

 

「その職場なんだがな…その……閉店することになるそうだ」

 

「……そっか。密になるってんで…何処もかしこも封鎖されていく。家だけしか残らないか…」

 

学生服を纏った彼が家路につこうとする中、ついてこない姉を心配したのか振り向いてくれる。

 

「何だよ、姉ちゃん?自分の家なのに帰るのが怖いのか?それとも…恥ずかしいとか?」

 

「そ、そういうわけでは…」

 

「隠すなよ、生真面目な姉ちゃんの嘘は直ぐ分かる。後ろめたいなら俺と一緒に帰ろうぜ」

 

渋々弟と一緒に帰ることになった十七夜が自宅がある棟の扉を開けて中に入る。

 

不器用な弟の優しさなのか、手を引っ張られながら居間にくれば両親が出迎えてくれたようだ。

 

「ただいまー…」

 

「…十七夜も一緒か、おかえり」

 

「おかえりなさい」

 

「……ただいま」

 

勝手に行方不明になって何処の誰と働いていたのかも語らない娘は辛そうな顔を浮かべる。

 

そんな娘の気持ちに触れないよう、両親は努めて普通に接してくれるようだ。

 

「外に出歩いて大丈夫なの?テロのショックで体も心も弱ったせいで陽射しが辛いんでしょ?」

 

「だ…大丈夫だ、日傘もあるし……」

 

口の中にある吸血鬼の牙を見せないよう小声で喋る娘ではあるが、父親がこう言ってくれる。

 

「…ほら、早く手を洗っておいで。少し早いけど夕飯にしよう、腹減ってるだろ?」

 

「今日はね、お父さんがカレーを作ってくれたのよ」

 

(父さんのカレー…か。なんだか懐かしいな…)

 

言われた通り手を洗ってきた娘と弟が台所の机の椅子に座った後、手を合わせる。

 

腹を空かせた弟はガツガツ食べる中、家族に吸血鬼の牙が見えないかと怖い娘は手を付けない。

 

「あら、食べないの?」

 

「い、いや……」

 

その時、腹の虫が盛大に鳴り響く。

 

吸血鬼になろうと腹は空くので吸血鬼悪魔達は人の血液だけでなく食事も必要なのだろう。

 

クドラクから指導を受けていた頃は襲った人間の血肉を喰えと言われたが、彼女は拒絶する。

 

未だに人間の食事を続けてきたのは人の道を捨てたくない彼女なりの意地なのだろう。

 

「その…自分も体が色々と壊れてしまってて…好き嫌いも出来たんだ。ニンニクとか…無理だ」

 

「安心しろ、父さんのカレーはニンニクを使わないカレーだから。だけど注意しておくよ」

 

「ニンニクを使うカレーなんて聞いたことないっつーの」

 

「お前は腹が減ってたら何でも食う男だからなぁ。十七夜も女だし、口臭は気になるんだよ」

 

「い、いや……口臭が気になってニンニクがダメになったわけでは……」

 

他愛のない話題を続ける光景こそ悪魔になった和泉十七夜が憧れた家族団欒の光景である。

 

家に戻ってからというもの、ろくに食事も取らなかったせいで腹の虫が鳴ってしまうのだ。

 

(罪悪感のせいで腹も空かなかったのに…今になって…そうか……自分も()()()()()()()()

 

渋々スプーンを握った彼女が口を大きく開き切らないようにしながらカレーを食べる。

 

その途端、忘れて久しかった心からの笑顔が浮かんでしまう。

 

「……うまい」

 

「良かった。昔、母さんが出産で家にいなかった頃、あの時に美味いと言ってくれたカレーだ」

 

「そんな昔のこと……自分だってもうよく覚えていないのに…」

 

「だから姉ちゃんが帰ってくるまではカレー三昧だったってわけ。いつ帰ってもいいように」

 

「こ、こら!それは言わない約束だろ!!」

 

家出同然のように別れの手紙まで送りつけてきて、怪しい連中と関り大金まで送金してくる。

 

そんな身勝手極まりない娘であろうと大事な家族であり、彼女の事情を尊重してくれる。

 

そしていつ帰ってきてもいいように家族の味を用意してくれていた家族の姿。

 

「……っ!!」

 

堪らず涙を零してしまう十七夜はようやく家族というものが何なのかを理解してくれるだろう。

 

(そうか……自分はこの日常ごと…東京を消し去ろうとしていたのか…)

 

幼い頃に一度好きだと言ったカレーの味を覚えてくれている親達は東京に大勢いただろう。

 

なのに彼女は平等を喚き散らしながら東京を破壊しようとした者。

 

自分の家族の温かさに触れたからこそ、奪うことの罪深さを深く理解出来るのだ。

 

(自分はこのカレーの味が好きだった…東京の人々だってそれぞれのカレーが好きだった…)

 

家族の中では自分は人間だった小さな時代の頃と変わらない。

 

迷いながらも自由に生きられた時代を思い出した彼女は自由の大切さを知る事になる。

 

(自分は守りたい…人々の家族団欒を守りたい…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…)

 

自分の罪深さを噛み締めるようにしてカレーを夢中で食べていく娘の姿を見守る家族。

 

その表情は未知の病魔で不安におののきながら全体秩序の奴隷になる者達の顔ではなかった。

 




人修羅君の話を描く前に忘れたらいかんので、なぎたんと織莉子ちゃんの話を描いておきますね。
最終章はジェットコースター展開です、下がったり持ち上がったり、持ち上がった分だけ落っこちる。
次回、なぎたん再び地獄行きをお楽しみください。
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