人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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30話 魔法の拳法家

東京大空襲再びとメディアは六本木ヒルズ通りの惨劇を連日報道するため国内は騒然とする。

 

死者5367人、重軽傷者8325人。

 

戦後最悪の犠牲者を出した事件に対して国民は怒りに燃え上がっているようだ。

 

政府の記者会見では爆発規模から見て爆撃機による空爆が東京で行われたと発表していく。

 

非難の的となったのは政府と自衛隊なのは言うまでもないだろう。

 

左翼政党と左翼メディアは一斉に政権攻撃に移っていく。

 

防衛省の記者会見ではステルス爆撃機の地上空爆の可能性が大きいと発表したようだ。

 

「ステルス爆撃機を配備している国は限られている。米国には説明責任がある」

 

そう防衛大臣は記者会見の場で口にする。

 

昭和時代の悪夢が蘇り、世論は一気に反米へと転化。

 

東京の駐日アメリカ合衆国大使館前には連日のようにして人々の怒号が飛び交う。

 

「このような惨事を日本は絶対に受け入れられない!空爆を行った国には制裁が必要だ!」

 

国会において矢部総理はそう怒号を放つ。

 

アメリカも日本での惨事について、ホワイトハウス報道官を通じて発表が行われるだろう。

 

米国大統領は日本メディアに対して流暢な日本語で次のように語る。

 

「東京空爆を行ったのは日米同盟を破壊する事を目的にした、中国人民解放軍による空爆だ」

 

「ステルス爆撃機を中国が保有しているのですか?」

 

「B2ステルス爆撃機と形が似た新型ステルス爆撃機、H20が使われた可能性が大きい」

 

「その根拠は何でしょう?」

 

「B2が配備されたホワイトマン空軍基地があるミズーリ州から東京までの航空距離は?」

 

「たしか…片道6369マイルですね。往復で12738マイルかと」

 

「B2の航続距離は11100km。燃料は持たず、B2爆撃機が東京を空爆する能力は無い」

 

「空中給油の可能性は?」

 

「沖縄のアメリカ空軍嘉手納基地の当日において空中給油機が飛び立った記録は無い」

 

「今回の事件により、日米同盟は極めて深刻な打撃を受けました。それについては?」

 

「米国と日本は日米安全保障条約により同盟を結ぶ国々だ」

 

「ですが…今回の空爆については……」

 

「中国共産党に対して共に戦い続ける、それが米国の意志だ。以上、会見を終わらせてもらう」

 

「お待ち下さい大統領!まだ記者達の質問が…」

 

「失礼する」

 

これを受け、中国共産党政府側は猛反発する。

 

国家主席は強い口調で次のように非難したようだ。

 

这是美国破坏中国的一个阴谋!(米国による中国を貶める陰謀だ)我们不能让这一问题得不到解决!(断じて看過する事は出来ん)

 

東京大空襲事件は米中双方の擦り付け合いとなり、国際問題にまで発展していく。

 

これについては国連安全保障理事会に持ち越される事となっていった。

 

 

自宅のTV中継を見つめるのは尚紀の姿である。

 

世界を混乱の渦に巻き込んでしまった事に苛立ちを隠せない。

 

日常でさえ異常な殺気を放つようになった飼い主に対してケットシーとネコマタも不安な表情。

 

(…体が熱い…心が煮えたぎる…)

 

何を思い立ったのか、魔法少女狩りを行う黒衣を纏い出す。

 

「尚紀、落ち着くニャ…。そんな姿でどこに行くかは…何となく分かるニャ…」

 

「そうよ…。ニュクスからの情報を待っていた方が…」

 

「……発散してくる」

 

心配する仲魔達の言葉を無視する彼は家から出ていく。

 

「…今の尚紀、明らかにおかしいニャ…」

 

「そうね…。今の彼はまるで魔法少女の血に飢えた悪魔そのものに見えてくるわ…」

 

「今の尚紀みたいな姿が…もしかして…オイラ達の祖先の姿なのかニャ…?」

 

「獰猛な悪魔…それも私達の一側面である事は確かよ…」

 

「尚紀…オイラ、このまま尚紀が元に戻らない気がして怖いニャ…」

 

「私達悪魔に祈る神はいないわ。だから…彼を信じるしかないのよ、ケットシー」

 

その夜、誰でもいいから糞魔法少女を殺したいと悪魔は狩りを始めてしまう。

 

「やめてぇ!!」

 

路地裏では一人の魔法少女の断末魔が木霊する。

 

「く、来るなぁーっ!!」

 

また一人の断末魔が木霊する。

 

「あたしらが何したってんだよーっ!!?」

 

次々と死が撒き散らされていく殺戮の日となってしまう。

 

目を見張らせていた魔法少女犯罪グループのメンバー達の死が重ねられたようだ。

 

その日、彼女達は犯罪行為を行ってはいないというのに悪魔は皆殺しにしてしまう。

 

「ハァ!ハァ!来ないで…来ないでぇ!!」

 

涙を流しながら怯えて逃げ惑う魔法少女はビルの屋上で追い詰められる。

 

魔法少女の命を刈り取る者が近寄ってくる。

 

「待って!もう魔法を使って悪事なんてやめる!だから命だけは…」

 

「……嫌だね」

 

魔法少女の脳天に怒りの刃が振り下ろされる。

 

唐竹割りにより肉体ごとソウルジェムも真っ二つとなるだろう。

 

悪魔の体は既に返り血塗れ。

 

「……どこだ?」

 

悪魔は求めている。

 

「どこにいるんだ……外道ども?」

 

無力な人間を傷つける罪人共の血に飢えている。

 

その吐息は地獄に突き落とす魔法少女達の命に飢えているのだ。

 

今の尚紀の姿はまるで罪人に刑罰を与え続ける地獄の鬼神そのものであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

12月31日。

 

今年も終わりを迎える大晦日の頃、ニュクスから連絡が舞い込んでくる。

 

ペンタグラムのアジトの場所が特定されたという極めて有力な情報だったようだ。

 

「ニュクスは情報源においては信頼出来るようだ」

 

「…ケリをつけてくるのね」

 

「止めはしないニャ。必ず無事に帰ってきてくれたら…それでいいニャ」

 

「……行ってくる」

 

黒衣の悪魔は突き動かされるように走り出す。

 

「気取られて逃げられる訳にはいかない」

 

昼間であろうが悪魔化し、ビルの上を飛び移っていく。

 

空は曇天であり、この時期にしては珍しく雨も振りそうな気配。

 

「この高級マンションか…」

 

マンションの最上階を見上げながら玄関フロアに視線を戻す。

 

「玄関はダブルオートロックシステム…迂闊に入れないな」

 

マンションの目立たない壁際を探してみる。

 

「ここの位置なら人目につかない。屋上まで行けそうだな」

 

雷魔法の応用で足元が放電していき、左右の足を壁に付けながら昇っていく。

 

屋上のスカイデッキに侵入し、辺りを警戒する。

 

「マンション住人の憩いの場か…下に下りられる入り口は……あそこか」

 

通路を進み、ペンタグラムのアジトと思われる部屋番号の前に立つ。

 

「…内部からは魔法少女の魔力を感じない。一足遅かったが…それでも痕跡があるはずだ」

 

こじ開けようとするが、天井にある小型防犯カメラに気がつく。

 

「警備会社に通報される訳にもいかない、スカイデッキからこの部屋に上がり込むしかないな」

 

スカイガーデンに戻り、部屋番号と一致するベランダを探す。

 

「この下だな……」

 

屋上から飛び降りてベランダに侵入して肘打ちで窓ガラスを割り、内側の鍵を開けて内に入る。

 

リビングダイニングが広がるが、そこには誰もいない。

 

「もぬけの殻だが、次の潜伏先に繋がる手がかりがないか調べてみるか」

 

魔法の罠が仕掛けられている可能性もあり、慎重に捜査を開始。

 

アジトを入念に調べていた時、魔法少女の魔力を感じ取ったようだ。

 

「……屋上に現れたこの魔力は」

 

悪魔の顔が怒りの形相に変わっていく。

 

「……ついに見つけたぞぉ!!」

 

屋上に現れた魔力とは二人のペンタグラムメンバー。

 

一人はアイラ、そしてもう一人こそ探し求めた仇。

 

ベランダから上に跳躍して屋上まで登る。

 

曇天の空はいつの間にか積乱雲となり、雷の光と音が轟く。

 

空はまるで龍の巣と思える程に濁り、荒れ狂う光の様は雷を纏う龍が舞う光景であろう。

 

屋上に立ち、現れた魔法少女達を恐ろしい形相で睨む。

 

「我々の拠点を突き止めたか」

 

隣接したビルの避雷針に豪雷が落ち、憎き仇の姿を照らす。

 

「少女の部屋を物色か?随分といい趣味を持っているようだな…悪魔よ?」

 

全身に広がる憤怒が駆け巡る事で体中が震えていく。

 

呪い殺してもまだ足りぬ程、憎き存在の名を叫ぶのだ。

 

「チェンシィィィーーーーーーーッッ!!!!」

 

悪魔の雄叫びが周囲の空間を揺るがす。

 

巨大な叫び声を涼しそうな表情で見つめるのはペンタグラムのリーダー。

 

二年前と変わらぬ憎き顔を向けながら悪魔を嘲笑う笑みを浮かべてくるのだ。

 

「この場所を見つけた情報網は侮れないが、我々にも信頼出来る情報網がある」

 

「なぜ…なぜ人間達を殺す!?俺が目的ならば…俺を直接殺しにくればいい!!」

 

「我々はお前を傷つけなければならない。体だけでなく…心も引き裂かなければならない」

 

これから始まる壮絶な二人の戦いに巻き込まれぬようにアイラは後ろに下がっていく。

 

「俺を傷つけるためだけに…人間を巻き込み、殺戮の限りを尽くしてきたというわけかよ…」

 

睨み合う悪魔と黒龍の如き魔法少女は互いに歩み寄っていく。

 

「嘆き、叫び、苦しみ、慟哭、そして絶望を与えてやろう…全ては我々の理想のためにな」

 

互いの殺気がぶつかり合う空間を見つめるアイラも息を飲み込んでしまう。

 

「スゴイ、サッキ……イキスルノモ、クルシイ……」

 

アイラは二人の戦いに対して手出しする余裕は無いと判断したようだ。

 

「ペンタグラムを手引している奴は誰だ…?魔法少女は魔女や魔法少女と戦うものだろう?」

 

「答える義務も義理もない。どの道お前は苦痛にのたうち回った果に…我らに殺されるのだ」

 

「やってみろ…俺がお前達全てを殺し、終わりにしてやる」

 

互いの拳が届く距離まで歩み寄った二人が立ち止まる。

 

チェンシーは右手に魔法武器を生み出す。

 

三国志の英雄である関羽が振るった青龍偃月刀と酷似した武器に見える。

 

偃月刀に巻き付く黄龍の装飾、刃に刻まれた黄龍の舞う姿は黄龍偃月刀とも呼べるだろう。

 

しかし彼女は己の魔法武器を投げ捨ててしまう。

 

「……何のつもりだ?」

 

「フッ…戦えば分かる」

 

空の積乱雲から雨粒が落ちてくる。

 

雨が体を濡らす中、互いに右拳を固めていく。

 

避雷針に雷がさらに落ちた瞬間、光に照らされた二人の姿が一気に動く。

 

世界が鈍化し、雨粒一つ一つがゆっくり動く世界。

 

顔面に至る突きを互いに頭部を左に反らしながら避ける。

 

拳の風圧によって一気に雨粒が放射状に弾け飛ぶ。

 

悪魔と黒龍の戦いの第2ラウンドが始まった瞬間であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

互いが伸ばした右腕を払い合う。

 

膝蹴り、膝関節蹴りから足刀を放つ悪魔の二連撃を捌き、跳躍蹴りをバックステップで回避。

 

悪魔の追撃が迫り、左右の突き、顎への掌打、膝蹴り、肘打ち、斧刃脚と続くが彼女は捌く。

 

怒りの拳打に対して体勢を保ちながら後方に下がり続ける。

 

追撃の旋風脚を身を低めて避ける彼女だが、さらに迫る後ろ回し蹴りを右肘で受け止める。

 

だが威力も大きく、距離をとって構え直す。

 

「…砲弾の至近弾を受けても痛みすら感じない私に…痛みを与えてくるか」

 

「お前の魔力がどんな防護を与えているのかは知らないが、俺の力は()()()()()()()!」

 

全てとは神や悪魔さえ貫く力なのであろう。

 

人修羅を最強の悪魔足らしめる能力の一つである『貫通』スキルと呼ばれる能力である。

 

大いなる神と戦うことが出来る悪魔の究極能力といえるだろう。

 

「全てを貫く拳打か……侮れないな」

 

「ハァァァーーーッ!!」

 

悪魔は跳躍しながら両腕を大きく広げる飛び蹴りであるドラゴンキックを放つ。

 

「甘いな」

 

飛び蹴りはサイドに避けられ、カウンターの右肘が悪魔の腹部に決まる。

 

「ガッ!!?」

 

倒れ込んだ悪魔に対して追い打ちの踏み蹴りが迫る。

 

蹴り上がる勢いで片手倒立を行い、回転の勢いで立ち上がって悪魔は踏み蹴りを避ける。

 

「隙が生まれていない私に対して大技を使うのか?怒りで我を忘れたか?」

 

「黙れぇぇ!!!」

 

悪魔は激昂し、その目は金色の瞳ではなく真紅の瞳。

 

憤怒の感情によって悪魔の技は知らぬ内に曇ってしまっている。

 

「お前を…殺してやる!!」

 

「フフ、もっと怒れ」

 

互いに拳打の応酬と捌き合いが繰り返されていく。

 

手刀打ちを回避し、互いの右肘と膝蹴りがぶつかり、ローキックを跳躍し、上から拳打を放つ。

 

それら全てを彼女に捌かれてしまい、拳打の応酬が続く。

 

「くっ!!」

 

チェンシーの左肘打ちが悪魔の肩に打ち込まれて怯む。

 

悪魔の黒衣を掴みながら引き倒し、さらに肘打を悪魔に打つ。

 

地面に倒れ込みそうになるのだが悪魔は堪える。

 

「チッ!」

 

手を地につけて一気に体を回転させて跳躍蹴りを放つ。

 

縦からの浴びせ蹴りを悪魔は放つが、彼女の両腕で受け止められてしまう。

 

地面を支える悪魔の腕に斧刃脚の一撃が迫り、右手を地面につけながら側転回避する。

 

距離を取るが不安定な状態の悪魔に対して追撃の後ろ回し蹴りが迫りくる。

 

高い位置の蹴り足に対して上半身を大きく後ろに仰け反らせて悪魔は避けきったようだ。

 

片手を地面につけて両足蹴りを放つが捌かれ、勢いのまま片足蹴りを浴びせるが防がれる。

 

「どうした?守りが甘いぞ!」

 

「それがどうしたぁ!!」

 

様々な拳打を放つ悪魔に対して腕を掴み、捻じり上げながら組み伏せる。

 

拗じられたままローキックを放ち、彼の体勢を崩す。

 

互いが掴み合いの組打ちとなっていく中、悪魔の掴みかかる右腕を掴んで背負投げを行う。

 

地面に叩きつけられる前に悪魔は両足で着地を行い、ブリッジ状態で堪えきる。

 

「ふん!」

 

「グッ!!」

 

さらに続く右拳が腹部に決まり、呻き声を上げる悪魔を無理やり掴んで起こしてくる。

 

取っ組み合いのまま膝蹴り、ローキック、肘打ちと組み付いたままの攻防を繰り返す。

 

悪魔を押し込みながら跳躍し、膝蹴りと飛び蹴りの連続蹴りが決まってしまう。

 

顎を打ち上げられた悪魔が下がり、顔を下に向けた時には強烈な一撃が側面から迫るのだ。

 

「がぁっ!!」

 

飛び後ろ回し蹴りの一閃を浴びる中、信じられない強さを示す魔法少女に驚愕していく。

 

(一撃一撃が凄まじい威力だ!まるで破城槌だ!)

 

彼女が武器を捨てた理由をようやく悪魔は理解するだろう。

 

(こいつに武器などいらない……自分自身が最強の武器か!)

 

倒れ込んだ悪魔に対して袖に両腕を入れる形で腕を組みながらチェンシーは見下ろしてくる。

 

「理解出来たか?私に魔法の武器など必要ではないということが?」

 

「くっ…これ程の力を俺に叩き込めば、拳だって無事じゃ済まないはず…」

 

「私も最初は武器で戦った。だが破壊力が有り過ぎる為に消耗も激しい。非効率だと判断した」

 

「それが…今のお前の戦い方か…」

 

「因果の魔力は私に鋼の体を与えた。それを用いて拳打を打つ…威力はお前が証明するだろう」

 

「防御に優れた体を武器に変える…そこにお前のクンフーが合わさったら…」

 

「無論、今まで敵無しさ」

 

「それがどうしたぁ!!お前が武器を使わないのなら、俺は全てを使ってでも殺してやる!!」

 

怒り狂った悪魔の両手から光剣が放出される。

 

「……愚かな選択肢をしたな」

 

「周りなどどうでもいい…眼の前のお前を滅殺してやるっ!!」

 

我を忘れた怒りの猛撃が迫るのに対して、チェンシーは愚者を見る眼差しを悪魔に向けてくる。

 

「行くぞぉ!!」

 

剣撃の猛攻に対して彼女が一気に踏み込む。

 

悪魔の内側に入り込み、振り下ろされる斬撃をインファイトで捌き切る。

 

手首、腕、膝、蹴りを制し、次々と斬撃運動を止めていく。

 

(くっ!!剣を振り切れない!)

 

「武器を持ったら勝てる気にでもなれたか?」

 

距離を取ろうとするが相手も踏み込む。

 

反撃が受け止められ、連続した拳打がヒットしてしまう。

 

悪魔は側転で距離をとるが、相手も側転しながら猛追してくる。

 

二人の間合いは常に剣が振り切れないワンインチで合わせられてしまうのだ。

 

(なんて粘連黏随だ!?離れられない!!)

 

「飲み込みが悪い奴め!武術家らしく拳で応えてみせろ!!」

 

「うるせえええぇぇぇぇーーーッッ!!」

 

灼熱のブレスを吐き出すよりも早く掌打が顎に放たれて決まる。

 

「うっ!!」

 

鈍化した一瞬、顎を跳ね上げられた悪魔が見たもの、その一撃こそ龍の爪。

 

「グアァァーーーッッ!!?」

 

額を引き裂く爪撃が龍の爪の如く決まり、指に引き裂かれた頭部から出血して両目に入り込む。

 

「どこだ!?」

 

落ち着いていれば肌感覚や魔力探知で動きを探れるが、怒れる感情がそれを行使出来なくする。

 

「どうした、私はここだぞ?」

 

「目の見えない俺に…余裕の態度か!」

 

「目が見えていようとも、今のお前になら負ける気がしない」

 

「舐めるなぁ!!」

 

右腕を大きく振りかぶりながら声が聞こえた方角にアイアンクロウを放ってくる。

 

「…先程も言ったはずだぞ」

 

加速が乗るよりも先に踏み込まれてしまい、彼女の左腕で止められてしまう。

 

「隙が生まれていない私に大技は通用しないとな」

 

腰に構えた右手に力が込められ、龍の爪と化す。

 

「爪撃とは…こうするのだ!」

 

鍛え抜かれた指の剛力と魔力強化によって放たれるのは両手の爪撃である。

 

「グガァァーーッ!!?」

 

両脇腹が抉られ、深く抉られながら掻き毟る。

 

魔法少女ならば両脇腹の肉を千切られる一撃だが、悪魔の強靭な肉体が耐え抜いてみせる。

 

だが激痛によって顔は苦悶の表情となるだろう。

 

「お前の穢らわしい指が…風華の命を奪った…」

 

「ならば、どうする?」

 

雨に濡れた額から血が洗い流された事で悪魔の獰猛な両目が開く。

 

「殺すだけだ!!」

 

彼女を振り払って右ストレートを放つが左腕で払われた後、彼女の体が一回転する。

 

「うっ!!?」

 

豪雨によって水分を含んだ彼女の三編みの後ろ髪が両目に当たって目潰しとなってしまう。

 

そのまま回転の勢いを用いて左の肘打ち、続く右の肘打ちが悪魔の側頭部に襲い掛かる。

 

「ハイーッ!!」

 

後ずさる悪魔に対して追い打ちを放つためにチェンシーは跳躍するだろう。

 

「ぐあっ!!」

 

二回転の勢いをつけながらの旋風脚を浴びせられた事で悪魔は大きく蹴り倒されるのだ。

 

「くそっ!!」

 

左腕を構えながら破邪の光弾を放つ構えを見せるが、守護者の矜持が彼の体を縛り上げる。

 

「後ろが気になるか?」

 

直線状に見えるビルには恐らく大勢の人々が生活している。

 

強大な一撃を放てば守るべき命を自らが奪ってしまう。

 

「だからお前は勝てない!!」

 

蹴り技の二起脚によって悪魔は顎を蹴り上げられる。

 

続く連続蹴りを上下に体を動かして避けるが、起き上がりに合わせた旋風脚が決まっていく。

 

「人間の命が大事か?私を殺すのを躊躇う程に?」

 

「俺は……貴様を!!」

 

後ろに手を組みながら周囲を歩く魔法少女に挑発されながらも悪魔は立ち上がってくる。

 

「殺す…ッッ!!!」

 

その意志はもはや殺意そのものとなってしまい、居合の構えを作りながら光剣に魔力を収束。

 

「ほう?周りの人間も気にならないほど…怒りに飲まれたか?」

 

「俺は……悪魔だぁ!!!」

 

人間の守護者である事を捨てる一撃が放たれようとした瞬間、光剣を振り抜けていない。

 

右手首は一瞬で踏み込んできた彼女の腕で制止させられていたようだ。

 

悪魔の右手を掴み、左足を踏み入れ、腕を引きながら背折靠の体当たりを彼女は行う。

 

引き込まれるようにして倒れ込んだ悪魔に対して追い撃ちの拳打が打たれる。

 

「ぐっ!!!」

 

倒れたままの状態で左足を蹴り上げる反撃を行うが左腕で受け止められ、さらに拳が打たれる。

 

殴られ続けながらも悪魔の怒りは燃え上がり続けてしまうだろう。

 

「オオオオオーーッ!!!」

 

「なんだ!?」

 

掴まれた腕が燃え上がった事で彼女は咄嗟に手を離して距離を取る。

 

左腕からも炎が噴き上がり、彼の周囲が燃え上がる。

 

「…尋常ではない魔法を行使するようだな」

 

彼女は腰を落として歩幅を広げ、手を開いて左手を上に、右手を下に向けるように構える。

 

「殺す……」

 

悪魔もまた燃え上がる両腕を頭上に掲げていく。

 

「殺す…殺す…殺す……」

 

彼女も右拳を左脇腹に抱え込むようにして跳躍攻撃を放つだろう。

 

「殺してやるぅぅーーーッッ!!!!」

 

放たれるマグマ・アクシスの一撃であるのだが、豪熱放射が放たれる前に拳が決まる。

 

「あっ……?」

 

炎の渦を飛び超えて先に決まっていたのは黒き龍の縦拳。

 

箭疾歩と呼ばれる飛び突きが決まり、流血を撒き散らしながら悪魔の体が弾き飛ぶ。

 

屋上の手すりを突き破って落下しかけるが、垂れ下がった手すりを左手で掴む。

 

「がぁっ!!」

 

容赦の無い踵蹴りが左手を襲い、悪魔は苦悶の叫び声を上げてしまう。

 

「どんな気分だ?女に為す術もなく踏み躙られる男の気分は?」

 

「……貴様ぁ!!」

 

潰された左手の代わりに右手で手すりを掴むが、さらに踵蹴りが襲う。

 

「だが褒めてやろう…ここまで私に殴られて原型を保っていたヤツなどいなかった」

 

「貴様は…どれだけの人間を殺した!そしてこれから…どれだけ殺す!?」

 

「私にとって…戦いはつまらないものだった」

 

人間も、魔女も、魔法少女も、全てが弱者だとチェンシーは吐き捨ててくる。

 

「私に退屈しか与えてくれなかったよ」

 

「強者を求める飢えのために…大勢を殺したというのか!」

 

「もっと強い敵を求め、大勢殺した末に……ようやくお前のような好敵手と巡り会えた」

 

「バトルジャンキーな女め…ッッ!!」

 

「血が沸き立つ程の戦いがしたい…それを与えてくれる可能性があるお前を今殺すのは惜しい」

 

「俺は逃げない!!俺と戦えッ!!」

 

「もう暫くお前に命を与えてやる。次はこのような無様な戦いは許さない」

 

手すりを握る手の力が緩んでいく。

 

「お前にいい情報をやろう。我々が決起を行う日が決まった」

 

「決起だと!?」

 

「そうだ。我々魔法少女が人類の支配者となる祝福された日となるだろうな…」

 

――決行日は、1月28日だ。

 

その日を悪魔は忘れた事など一度もない。

 

「奇しくも…お前の大切な人が私に無様に殺された二周年の日というわけだ」

 

さらに踏みつけられ、掴む余力が無くなってしまう。

 

「決起を行う場所は、東京湾メガフロート都市計画地区のシンボルタワー……()()()()だ」

 

屋上を掴んだ右手が蹴り落とされる。

 

雨が降りしきる宙を舞う中、呪わしい女の挑戦状じみた声が耳に響いてくる。

 

「悪魔よ、忘れるな。我々ペンタグラム一同は悪魔との因縁が終わる日を心待ちにしているぞ」

 

憎い仇の姿を目に焼き付けながら悪魔の体は地面へと落下して叩きつけられるのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「コノママコロシテモ、ヨカタキガスルケド?」

 

「それではつまらない。あの悪魔をもっと苦しめた方が…サイファー様もお喜びになられる」

 

「マダタリナイ?タクサンヒトヲ、コロシタノニ?」

 

「あの男が守ろうとしている存在がことごとく殺されていく姿を…あの悪魔に刻み込もう」

 

「モウスグ、カーストガ…カンセイスル」

 

「我々魔法少女が霊長類の頂点に立つ。新たな世界のカーストが始まるのだ」

 

「フフ……タノシミ」

 

二人は来たるべき決起の日に備えるために転送魔法陣へと消えていく。

 

いっぽう、高所から地上に叩きつけられた悪魔であるが一命は取り留めている。

 

「うっ……うぅ……」

 

しかし受け身をとったが地面に叩きつけられたダメージは大きい。

 

「為す術も無く女に倒された…今の俺の姿を…セイテンタイセイが見たら…なんて言うかな…」

 

薄れゆく意識の中、人修羅として生きる尚紀を鍛えてくれたかつての武神の悪魔を思い出す。

 

――いいか、尚紀。テメーは魔力は優れてる、それは認める。けどなぁ…テメーは()()()()()

 

――でかい図体して神や魔王を気取る愚鈍な敵を相手にするならお前でも倒せる。

 

――だが俺様や犬っころ、それにダンテみたいに武芸に秀でたヤツには通用しねーよ。

 

無念を極めた憤怒の感情が体に鞭を打ち、うつ伏せに倒れた悪魔が起き上がっていく。

 

体を起こしていたが力も入らず、座り込むようにして膝をついてしまう。

 

降りしきる冷たい雨の中、空を見上げながら冷静になろうとする。

 

同時に体が爆ぜる程の無念の怒りも噴き上がり、思考を掻き乱す。

 

何故なら心のどこかで弱者だと舐め切っていた魔法少女という存在に人修羅は負けたのだから。

 

「おおおおぉぉぉぉーーーーーーッッ!!!!」

 

生き残ってはいるが、二度目の敗北となるだろう。

 

悔しさと無念の感情が爆発し、降りしきる雨雲に対して悪魔は吠え続ける。

 

怒り、憎しみ、殺意、これらは聖書でいうところの人類が犯してきた原罪の一つ。

 

初めて人殺しの罪を行った最初の人間の子、カインが犯した罪なのだ。

 

原罪は人間の心が生み出すもの。

 

それによって身を滅ぼす罪こそ大いなる神が人間に与えた宿業であろう。

 

それを容易く制御する事など誰にも出来なかったのであった。

 




読んで頂き、有難うございます。
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