人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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311話 太陽神の継承

帝政期ローマで皇帝崇拝が行われており、その際に皇帝が太陽神とされたとある。

 

考古学的証拠はないが、歴史根拠としては以下のようなものがあるのだ。

 

共和制期に入ると太陽神崇拝の痕跡が認められるようになるが、人気はそれ程でもない。

 

イタリアのその他の都市に比べるとローマでの太陽神の存在感は薄いものだったようだ。

 

しかし共和制末期の混乱期において、伝統的な祭儀の存在感が低下してしまう。

 

その際にバビロニアの占星術(太陽は星々を支配する)が流入してくるのだ。

 

東方の専制君主制度(王は神の化身)との接触機会が増大すると太陽神は人気を増す。

 

既存の太陽神崇拝が強化され、ローマの有力者と太陽が結びつけられはじめるのだ。

 

帝政期に入り、初代皇帝アウグストゥスは太陽神に重きをおく。

 

太陽神と月神はセットでしかなかったが独立した神格として崇拝されるようになったのだ。

 

2世紀の五賢帝時代以降、不敗の太陽神信仰である東方の太陽神が導入されていく。

 

ハドリアヌス帝のように太陽に擬されることを好む皇帝も現れるようになっていくのだ。

 

その後はセプティミウス帝とシリアの太陽神神殿の大神官の娘が結婚することになる。

 

彼のシリアを重視する政策と妻とその姉妹によってシリアの太陽神導入政策も実現するのだ。

 

こうして太陽信仰はローマの国家的最高祭儀となっていき、太陽と皇帝は結びついていく。

 

日本の皇帝もまた太陽神アマテラスの血族という神格を用いたように、太陽とは皇帝だった。

 

……………。

 

「……同じ太陽神共が二体も揃って現れるか。して……何用か?」

 

サン・クレメンテ教会の礼拝堂で浮遊しているのはボルテクス界に現れたミトラ神である。

 

サン・クレメンテ教会は地下にミトラ教の祭壇区画が存在しており、ミトラ教の地だった場所。

 

コロッセオも隣接しているローマにまで極東の地から訪れたのは不動明王とアマテラスなのだ。

 

「…かつてのボルテクス界においてシジマ勢力に与していた太陽神よ、提案があるのだ」

 

「そなたもボルテクス界にいたのだろう…アマテラス?同じ太陽神として存在を感じていた」

 

「如何にも…ボルテクス界での私はゆえあって坂東宮を守る役目を担ったものだ…」

 

「そして隣にいる神仏よ。そんな化身姿をしていても我には分かるぞ…久しいではないか」

 

古代インド・イランのミスラ信仰においては両方の国でミトラは崇拝されている。

 

リグ・ヴェーダにおいてアーディティヤ神群の一柱であり、魔術的なヴァルナ神と対をなす。

 

不動明王は大日如来であり、ゾロアスター教ではアフラ・マズダーと呼ばれている。

 

その起源とはインド・イラン共通時代の神話に登場する最高神であるヴァルナ神なのだ。

 

「久しいな…ミトラ神よ。未だに人々から得られた信仰心を失ったことを憎んでいるのか?」

 

ゾロアスターは宗教の違いからアフラ・マズダーを崇拝すべきとしてミトラを低くみている。

 

インドにおいてもミトラの重要性は低下したが、イランでは高い人気を得た重要な神なのだ。

 

後にゾロアスター教の中級神ヤザタとして取り入れられ、ミトラは欧州にも広げられていく。

 

ゾロアスター教が浸透していたアケメネス朝ペルシャにおいて崇拝が認められているようだ。

 

紀元前5世紀頃のアルタクセルクセス2世はミスラを信仰することを公に許可している。

 

ゾロアスター教がサーサーン朝ペルシャの国教となると英雄神、太陽神として崇拝されていた。

 

「この地を見るがいい。かつては我を崇拝する地であったが…今では唯一神の家とされている」

 

「…やはり恨みを抱いているようだな?この地を滅ぼすために潜伏していたか?」

 

「否…その逆。そなたも気づいているだろう?ローマはキリスト教に飲み込まれていないとな」

 

そう問われた不動明王は頷きながらこう返す。

 

「知っているとも…ローマ・カトリックはキリストの仲間ではない。裏切り者の虫共だとな」

 

「如何にも…彼らはキリストの仲間という皮を被り、我を崇拝してきた。この家と同じくな」

 

「教会など見せかけの信仰心を表すために利用されたもの…カトリックの本質は多神教だ」

 

「我はローマ・カトリックを守護する真の神としてこの地に根差した者…その我に何用だ?」

 

不動明王達は顔を合わせあいながら頷き、遥々ローマに訪れた目的を語ってくれる。

 

「我らと同じく太陽神であり…()()()()()()よ。我らは太陽神の証を継承すべきだ」

 

「その者の名は人修羅であり…かつては汝を打ち倒した者。彼もまたこの世界の日の本にいる」

 

赤い体を持ち、獅子の頭部を持つミトラの両目が閉じられていき、かつての記憶に浸っていく。

 

「…人修羅殿の存在は我も感じていた。ローマから大きく離れた極東の地におられたか」

 

「彼を敬愛しているような口ぶりだな?汝も戦って敗れた時、彼に可能性を見出せていたか?」

 

「かつてのボルテクスで人修羅殿と戦って敗れた時…我は感じた。彼こそが後継者なのだとな」

 

「彼はこの世界においてシジマ思想を体現しようとした者だ…かつての汝と同じようにな」

 

「しかし…それだけでは足りないと彼は知るだろう。この世界の現実を変えるには力も必要だ」

 

「いずれはシジマだけでなく、力のヨスガも必要とするだろう。どちらも秩序であり自由だ」

 

「全体秩序を優先するシジマは法であり、選民主義を掲げるヨスガもまた法…どちらも秩序か」

 

「我らは秩序の守護神として彼にこそ太陽神としての継承を求めたい。汝も同意して欲しい」

 

「しかし…シジマの世界で唯一自由となれるのは独裁者のみ。ヨスガと同じく力の世界だ」

 

「彼もまた独裁者となっていくのだろう…それでも悪いイメージにばかり縛られてはならん」

 

「独裁とは弱き民を第一に考えられる賢王が用いて初めて機能する。使()()()()()なのだ」

 

「この世とは須らく陰陽構造…道具は凶器となり、職業は汚職となり、神は悪魔となるのだ」

 

不動明王とアマテラスの説得が通じたのか、長い沈黙の後に獅子の頭部が頷いてくれる。

 

「陰陽を調和させ、必要に応じて使い分けられる…そんな中庸精神を我も人修羅殿に求めよう」

 

「彼ならばきっとNEUTRALに至れるだろう。光と闇の最終戦争も近い…我らも急ぐぞ」

 

「うむっ…そうしよう。牡牛を屠る神として…人修羅殿に牡牛を屠る使命を託そうではないか」

 

真紅の体を背中の翼で大きく包み込んだ瞬間、ミトラ神が太陽神としての姿に変化する。

 

光の中から出現したのは欧州においてのミトラ神の姿なのだ。

 

【ミトラス】

 

古代アーリア人の契約神であり、その性格から司法神ヴァルナとも関わりが深い。

 

司法神、光明神、軍神、牧畜神と多くの役割を担う神であり、民間での信仰は盛んだった。

 

マニ教やローマのミトラス教といった系譜を継ぐ信仰は隆盛し、キリスト教と覇権を競う。

 

また仏教のマイトレーヤ(ミロク菩薩)はミトラが東方に伝わった姿であった。

 

「人修羅殿ならばきっと牛神を制する者になれる…我が視た可能性とはまさにそれだったのだ」

 

12星座の記号が刻まれた岩から上半身を出した色白の男性姿となったミトラが消えていく。

 

続くように不動明王とアマテラスの姿も消えていき、極東の地に舞い戻るのだろう。

 

ミトラはキリスト教の主神である唯一神を憎み、復讐を望んだ存在である。

 

そんな彼が唯一神に対する憎しみを捨てた人修羅に何を託すのかは誰にも分からなかった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

霧がかかった意識が開けていき、見えてきたのは謎の地下空間。

 

尚紀はこの場所を忘れるはずもなく覚えており、新宿衛生病院の地下空間だと分かるようだ。

 

薄暗い室内には不気味に光るアマラ転輪鼓とそれに繋がれた無数の機械が見える。

 

そしてアマラ転輪鼓を見物するようにして椅子に座る存在が目の前にいるため口を開きだす。

 

「……俺は夢でも見てるのか?お前が生きているはずがない…」

 

この場所に立っていた事がある尚紀であるが、彼もまた前の者と同じようにして椅子に座る。

 

そんな彼の言葉に反応したスーツ姿の男が椅子を回転させながら振り向いてくれた。

 

「…その通り、君は夢を見ている。今の私は君の記憶の世界にいるだけの陽炎に過ぎない」

 

前の席に座っていた者とは、かつてのボルテクス界でシジマ勢力を築き上げた男。

 

表向きは通信会社の重役だがデビルサマナーでもあった氷川の姿であったのだ。

 

「…これで二度目だな。お前の存在を何度も夢で見ちまうなんて…おかしなもんだ」

 

「かつては私を嫌悪していた君にそれだけ覚えられていたのは嬉しい反面、不快でもある」

 

「頼むから夢から覚めろよ…俺。今はもう十分苦しんでるんだ…夢の世界でまで苦しむのか…」

 

顔を俯けながら無言の態度を示していた時、肩に手を置く存在に気が付く。

 

「もう少しだけお話をしましょう、尚紀君。私達はね…貴方に伝えたい言葉があるのよ」

 

肩を掴んだ者を見た尚紀の両目が見開き、大声で叫んでしまう。

 

「ゆ……祐子先生!!?」

 

立っていたのはかつて尚紀達の担任教師を務めた者であり、シジマの巫女だった女教師。

 

優しい微笑みを浮かべてくれる恩師に対して彼は顔を背けてしまう。

 

「…大丈夫、貴方は私が知っている嘉嶋尚紀よ。夢の世界でまで肉体の変化は影響してないわ」

 

両手を持ち上げて見れば日本人らしい肌の色をしており、服装もかつてと同じ衣服。

 

この場にいる自分の姿はかつて新宿衛生病院に訪れた時と同じ姿をしていたようだ。

 

「祐子先生……俺は……俺は……先生を守れなかった……」

 

「……この世界の私は貴方が知っている存在じゃないわ。責任を背負う必要はない」

 

罪の意識で圧し潰れそうな男の肩を優しく叩いた後、氷川の元へと歩いていく。

 

かつては自分を道具として使い潰そうとした男と共に立つ恩師の姿を不気味に感じるようだ。

 

「我々はかつてシジマを掲げた者達。だからこそ君に問おう…君は今でもシジマを求めるか?」

 

そう問われた尚紀は顔を俯けながら黙ってしまう。

 

それでも氷川と再会することが出来たなら語りたい言葉があったようだ。

 

「氷川…かつての俺はあんたを拒絶した。それでも大人の世界を生きてきて…現実を知った」

 

絞り出すような声のまま尚紀は魔法少女の世界で生きてきた記憶と経験を語っていく。

 

その過程で日本の政治や社会どころか世界中の先進国の政治や社会も腐っている現実を知る。

 

「俺が勉強してきた政治の現実こそが…あんたがかつての世界を絶望した…本当の理由か?」

 

質問を質問で返す無礼であったが、それでも大人な態度を見せる氷川は頷いてくれる。

 

「そうだ…我々が生きた世界だけじゃない、全ての並行世界が金融マフィアに支配されている」

 

「資本主義世界構造は何処の並行世界でも同じよ…そしてどの世界でも人々は堕落していた…」

 

通信会社の重役という立場だった者として、氷川は世界の支配構造とは何かを語り出す。

 

「欧米が日本をグローバリズム支配する根底にあるのはな…()()()()()()()()()()()()()()()

 

グローバリズムを理解するにはその背後にあるエートス(慣習)を理解する必要がある。

 

我々は白人も有色人種も同じ人間だという普遍主義で認識し、それが世界認識だと考えてきた。

 

しかし現実は違う。

 

欧米権力者は大航海時代から変わらず権限理論で他国を攻め滅ぼす侵略思想で今も動いている。

 

()()()()()()()()()()()()()の元、グローバリズム侵略は日本に襲い掛かっていたのだ。

 

「世界の本質は中央銀行がもたらした()()()…資本主義で世界を蹂躙するトリックなんだ」

 

アメリカの歴代政権が累積させた三千兆円規模の国債が私企業であるFRBが発行してきた。

 

そうやって寡頭制金融が限りなくゼロコストで天文学的利潤を手にするのが紙幣の正体なのだ。

 

一方、世界中の国民は納税による国債の償還義務を課された末に全員が()()()()()()()()()

 

これこそが資本主義が生んだ世界最大のトリックであり、金融こそが世界支配だった。

 

()()()()()()()()()。世界で最も有力な政策機関(シンクタンク)は上位500社の国際企業が運営するんだ」

 

これらの機関は米国、フランス、ドイツ、スイス等を拠点として銀行家や投資家を儲けさせる。

 

議会に代わる政策方針を決める存在こそがグローバル大企業と金融資本家達だったのだ。

 

「この概念図において政府は民意を反映することは不可能。法律も制度も金融が決めてくる」

 

「それが俺の知った現実だった…各国の政策は議会ではなく民間の政策機関が策定するんだ…」

 

主なものとして国際商業会議所、ビルダーバーグ会議、三極委員会、世界経済フォーラム。

 

外交問題評議会や国際諮問委員会、持続可能な開発のための世界経済人会議もある。

 

国連グローバル・コンパクト、欧州産業人円卓会議等等の団体が政府の政策を決定していく。

 

「政府を超越する意思決定である()()()()()()()()()()()()()()()()()…それに絶望したか?」

 

「……ああ、私は金融支配構造に絶望したよ。そして…それに気が付かない民衆にも絶望した」

 

「氷川…お前はマントラ軍本営の前で俺に語ってくれた言葉があったよな…」

 

ヒトの欲望とは灯火のようなものだ、小さなうちは暖かで心地よい。

 

だが、燃え続ける火はやがて炎となる。

 

全てを焼き尽くすまで止まらぬ怪物にな。

 

「神の権利を実行する金融マフィアの欲望の火と…堕落を求める民の欲望の火は業火となる…」

 

「私が伝えた言葉の意味を理解出来るぐらいまで成長したようだ…もう少年とは呼べないな」

 

「あんたの言葉は正しかったんだ…だからこそ俺は…秩序を守るためにシジマを求めたんだ…」

 

「魔法少女と呼ばれる魔物共の社会を統治するためにシジマを求めた果てに…何があった?」

 

それを問われた時、己の罪に対して圧倒的罪悪感と共にいばらの冠が心に巻き付き締め上げる。

 

苦悶の表情を浮かべながらも、かつての敵に懺悔をするかのようにして尚紀は語っていく。

 

「俺の……独裁だ。世界に静寂を与える全体主義思想で唯一自由だったのは…俺だけだった…」

 

「全体主義の行きつく先は()()()()()()()()()()()()()。私は神という独裁者になりたかった」

 

「お前は神として世界に静寂のコトワリを敷くためにこそ…ボルテクス界を望んだわけか…」

 

「通信会社の重役など何の力もない…国も企業も金融なくして成り立たない奴隷だったのだ…」

 

銀行は軍隊よりも恐ろしいという言葉を残した第三代アメリカ大統領の言葉こそが世界の真実。

 

あまりにも無力だった氷川だからこそ、遥か遠い理想を願ってボルテクス界を求めてしまう。

 

それでも彼の願いは人修羅に打ち砕かれてしまい、思想の同士と信じた堕天使にも見限られる。

 

そんな末路を遂げた氷川の心もまた負け犬同然であり、男達は顔を俯けたまま震えてしまう。

 

そんな男達の姿を見守る女は2人の間に立った後、こんな言葉を男達に残すのだ。

 

「諦めたら全てが終わりよ。かつての貴方では出来なかった理想を残せる可能性がここにいる」

 

「何を言っている…?まさか…嘉嶋尚紀が世界の金融支配を終わらせる者になると言うのか?」

 

「金融マフィア共こそ遥か太古のカナン族をルーツにする者達…だからこそ悪魔を崇拝するわ」

 

「彼を送り込むというのか…?世界の金融を崩壊させるための()()()()()として…?」

 

「その資格は十分あると思う…彼こそが大魔王に代わる新たなる啓蒙の神にしてしまえばいい」

 

「仮にそれが出来たとしても…金融という融資が無ければ世界は壊死する…血液と同じなのだ」

 

「だからこそ()()()()()()()()()()()()()()と…()()()()()()()()()()()()()()()になるわね」

 

氷川と祐子は尚紀に顔を向けた後、改めて質問してくれる。

 

「話が脱線してしまったが…もう一度聞きたい。君は今でも……シジマを求めるか?」

 

重い沈黙に支配される空間であったが、尚紀の表情は覚悟が完了している。

 

「シジマという全体主義こそピラミッドと言ったな?だったら俺はピラミッドの頂点を目指す」

 

「君は神になると言うのだな…?神という独裁者となり…望む世界を築く暴君になるのだな?」

 

「そのために俺は人の心を捨てるつもりだ…かつてのあんたがそうしたように…俺も捨てよう」

 

心が凍り付いた悪魔となれる男の顔は氷川にも負けない程の冷酷さと冷徹さを宿している。

 

そう思えた氷川の口元が微笑みを浮かべた後、自分が出来なかった理想を彼に託すのだ。

 

「嘉嶋尚紀…辛い道を託すことを詫びよう。君とは違う形で出会い…酒を酌み交わしたかった」

 

「その時は私も同席したいものね。こんなにも成長してくれた生徒なんですもの…誇らしいわ」

 

氷川と祐子が微笑んでくれた後、意識がホワイトアウトしていく。

 

「あんた達は虚無に飲まれたというのに俺を激励するために来てくれたんだな…本当に有難う」

 

<<嘉嶋尚紀…私が組織したニヒロ機構をも超える程の組織を築くがいい……君なら出来る>>

 

<<全ての存在は単独では成り立たない…ボルテクスを超えた貴方だからこそ分かるはずよ>>

 

夢の世界が完全に白くなった後、白人男性が目を覚ます。

 

彼が目覚めた場所とは訪れた風見野市ではなく、何処かの海岸で寝そべっていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

もう直ぐ日が昇りそうな海岸で立ち上がった白人男性が踵を返して去ろうとする。

 

その時、背後の海に強大な魔力が顕現したのを感じ取った男が振り返る。

 

「お前達か……一体俺に何の用で来た?」

 

現れたのは三体の太陽神達である。

 

「…その姿から察するに、ルシファーとの同調現象はもはや抑えられんようだな」

 

「汝はルシファーの知恵として吸収されることになるだろう…その前に託したいものがある」

 

「断る…と言いたいところだが、俺に断る権利は無さそうだな…?」

 

海の上で佇む三体の太陽神だけでなく、背後には十三体の神仏達も現れている。

 

「如何にも…これはもはや天命なり。汝は星が定めた運命の元、光の光明神と成らねばならん」

 

「断れば後ろの連中をけしかける気か…不動明王?それにアマテラスと…隣は見ない顔だな?」

 

ボルテクス界では見かけなかった悪魔であるが、その魔力と似た存在ならば覚えている。

 

「この魔力はまさか……お前はもしかして…ミトラなのか?」

 

「…如何にも、我はミトラであるミトラス神。そして仏教においてはミロク菩薩である」

 

岩から上半身を出した色白の男性が美しい金髪ロングを揺らしながら頭を垂れてくる。

 

「お久しゅう御座います…人修羅殿。やはり貴殿もこの世界に流れ着いていたようだ」

 

「気持ち悪い奴だな…かつては俺を裁こうとした裁判官のくせに…今度は取り入る気か?」

 

「ボルテクス界の国会議事堂で語った言葉を覚えておられますかな?それが今日実現する」

 

「…あの時に語った言葉の意味は…こういう未来が視えたからこそ言った言葉だったか」

 

「我は確信している…貴殿こそが…かつての氷川総司令を超える程の存在になるのだと」

 

「俺について来たいというなら無理には止めないが…後ろの連中はどうなんだ?」

 

後ろに振り返ってみると武装した巨大な武神達のリーダーとなる武神が語ってくれる。

 

「我らはアスラ神族であり、我の名はアタバク。我らはアスラ王の臣下である神将達です」

 

【アタバク】

 

太元帥明王として知られる明王の総帥であり、名は荒野の鬼神を表す。

 

人喰いの悪鬼だったものが仏法に触れて改心し、守護者となった存在である。

 

大日如来や観音菩薩等のあらゆる仏や菩薩を習合させたものを起源とするという。

 

国家鎮護といった規模の大きな誓願に霊験があるとされる神仏であった。

 

「我の部下である十二神将達もアスラ王と共に在る。アスラ王が認められるならばお供しよう」

 

【十二神将】

 

大乗仏教・薬師経を守護すべく薬師如来に仕える十二人のヤクシャである武神達。

 

それぞれが七千人ずつ、計八万四千の眷属を率いて薬師如来及び信者達の守護を担うという。

 

経典によって差はあるものの、インド由来の名称と対応する十二支を割り当てられていた。

 

「そうか…なら俺に何かを託した後、不動明王に付いて来るのかどうかを聞いてくれ」

 

「…不動明王という化身の姿をいつまでもされる御方ではない。後ろの御姿を見るがいい」

 

後ろに振り返った時、遠くの海の中に巨大な魔神が屹立している。

 

その姿はあまりに巨大であり、前方空間で佇むアマテラスとミトラスが蟻のように見える程だ。

 

「……この姿こそが、大日如来が仏敵と戦う覚悟を決めた時に顕現させるという…アスラ王か」

 

【アスラ王】

 

アーリア人にとっての光明神であり、ゾロアスター教においての最高神格。

 

仏教においては阿修羅と呼ばれている者達の王であり、帝釈天インドラと戦った存在である。

 

その後の仏教で彼らは神格化され、アスラ族の王は大日如来として崇められるようになる。

 

金剛胎蔵両界に存在し、宇宙の真理を体現すると共に深い慈愛を持ち合わせているとされた。

 

「…ヴァルナでもある我と、火と契約のミトラは共に光明神。我らは汝に()()()()を託す」

 

「私は太陽を支える神鏡を託そう…これが八咫鏡となり、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「人修羅殿、そなたに我らの意思を託したい。太陽の意思を継ぎ…必ずや牡牛を屠ってくれ」

 

牡牛を屠るとは牛神と戦うことを意味し、マルドゥクから派生した牛神と殺し合うもの。

 

バアル、ゼウス、スサノオ、あらゆる牛神の系統と殺し合う定めを背負うことになるだろう。

 

場に佇む者達が息を飲む中、ついに尚紀が決断を下すようにして右手を太陽神達に掲げる。

 

「俺の道は()()()()()()()()()()()()…それでも俺に光を求めるならば…受け止めよう!!」

 

――有翼日輪を俺に寄越すがいい!!太陽神達よ!!

 

彼の叫びに呼応するようにして両手で胸を囲うような構えを太陽神達は同時に行っていく。

 

その瞬間、地平線から昇ってくる太陽の朝日と共に顕現したものこそ有翼日輪と八咫鏡。

 

ヴァルナとミトラの二神の要素がペルシャ方面では合体したことでアフラ・マズダーとなる。

 

彼らは二神で光明神でもあり、そんな者達が生み出した有翼日輪とは光輝く片翼の翼なのだ。

 

アマテラスが生み出した新たなる八咫鏡と合体するようにして光の両翼が備わっていく。

 

八咫鏡とは太陽神アマテラスを模して生まれた神器であり、太陽そのものの権威が宿る。

 

神道とゾロアスター教の光明神達が生み出した神器こそ、太陽神ラーの権威を示せる程だろう。

 

有翼日輪鏡が宙に浮かびながら尚紀の右手に触れた瞬間、彼に宿るようにして消失していく。

 

「右腕がやけに熱いぜ……これが火と光の象徴である……太陽を宿した感覚か……ッッ!!」

 

燃え上がる業火となった右腕の炎を操りながら右手に収束させ、左手には水の力を解放する。

 

水の神エンキの力を宿した人修羅はこうして火と水の神々の力を宿した真の火水(かみ)となったのだ。

 

「間に合ってくれて…良かった…。私はもう形を維持出来ない…後は…頼んだ…ぞ……」

 

天津神との戦いで消耗した上で召喚者のMAG供給もないアマテラスも限界であり、砕けていく。

 

太陽の光に照らされながら砕け散ったアマテラスのMAGが天に昇るのを全員が見守ってくれる。

 

「アマテラスよ…汝の意思、しかと受け止めた。アスラの者達よ!我は人修羅と共に行こう!」

 

アスラ王の決意に触れたアスラ神族の者達が片膝をついていき、人修羅に敬意を示す。

 

「このアタバク…そして十二神将達の命は貴殿と共に在る。なんなりとお申し付け下さい」

 

「アタバク…そして十二神将達よ。俺と共に地獄の底まで堕ちてくれ…それだけの道となろう」

 

人なるアスラである人修羅がアスラ神族の新リーダーとなったことをミトラスも嬉しく思う。

 

「行こう…行こうぞ、人修羅殿!そなたこそが…新たなるシジマのリーダーとなるのだ!」

 

<<ならば我らも共に行こう>>

 

聞き覚えのある念話の声と魔力に反応したミトラスが砂浜の向こう側に視線を向ける。

 

冥界の暗闇が広がるようにして奈落の闇が広がりながら上ってくるのは巨大な石棺。

 

顕現したのは魔王モトであり、かつてはシジマ勢力に与していた強大な魔王であるのだ。

 

「モトではないか…突然現れるとは不躾だな?」

 

「無礼は詫びよう、ミトラよ。そして人修羅…久しいではないか?」

 

「魔王モトか……お前も大魔王とバアル神を相手に一発仕掛けようって腹積もりか?」

 

「如何にも…我はバアルとは因縁深い存在である。奴に組するぐらいなら…汝と組む…」

 

「フン…お前の()()に付き合わされなくて助かった気分だが…我らも共に行くとは何だよ?」

 

現れたのは魔王モト一体だけのように見えるが、石棺が開いたことでモトの左手が伸びる。

 

その巨大な手の上に立っていた女神達こそ、シジマ勢力に組した運命の三女神達の姿なのだ。

 

「彼は本当にいい男神に成長してくれたようですわね♪クロトお姉様?ラケシスお姉様?」

 

「まるで太陽のような輝きね…アトロポス。我ら姉妹の情夫にしてやろうとはもう言えんな…」

 

「彼こそが新たなシジマとなる…我らモイライ三姉妹は再びシジマに組することを宣言する!」

 

多くの悪魔達が新たなる太陽神の元へと参じたことでCHAOS勢力内の一大組織となるだろう。

 

羽毛ある蛇の太陽神となった彼の姿こそ、()()()()()()()()()()()()()()()なのだと叫ぶのだ。

 

彼らは尚紀と共にCHAOS勢力内に潜り込む日が訪れるまで地上で潜伏することになっていく。

 

己の運命を受け入れた嘉嶋尚紀はこの世界を救うためにこそ神浜に戻って全てを清算するのだ。

 

「この世界をかつてのボルテクス界のようにはさせない。そのためなら…俺は全てを捨てよう」

 

徒歩で神浜を目指していた時、後ろの道路から車のクラクションが響いてくる。

 

やってきたのは移動調整屋を運転するリヴィアであり、横に停車した彼女が声を掛けてくれる。

 

「よぉ、リヴィア。また会うとはな…風見野市で商売をするんじゃなかったのか?」

 

「残念やけど…風見野で商売をするのは無理そうやね。あそこの魔法少女達は全滅しとった…」

 

「そうか…この世界は物騒になったし何処か身を隠せる場所に避難した方がいいんじゃないか」

 

「そう思ってね…神浜に行くことにしたんよ。あそこには私の弟子達やヴィクトルもおるし」

 

「だったら向かう場所は同じなんだな?丁度いい、乗せて行ってくれよ」

 

「随分と前向きな態度になったようやね?神浜に何をしに行くかは知らんけど…乗ってええで」

 

こうしてリヴィアと共に神浜に戻ることになった尚紀の心はもう迷いなど欠片も無いだろう。

 

後は残された者達に最後の贈り物を与えた後、彼は嘉嶋尚紀の人生を終わらせるのであった。

 




真女神転生5のイシスの息子のコンスが見たら憤死する光景ですな。
ラーの継承イベントで太陽神になるのはコンスだったけど人修羅君に奪われましたな(汗)
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