人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
新たな世界の変革を歓迎するのは秩序の守護者であるはずの天使達である。
彼らは悪魔の庭となった世界で秩序を守護することもなく、傍観者の態度を決め込んでいく。
各国に派遣した力天使達は悪魔達に襲われる魔法少女達を救いもせずに見殺しにするのだ。
その姿はまるで魔法少女が絶望死するのを見捨ててきたインキュベーターと同じ姿だろう。
「やはり間違いない。魔法少女のソウルジェムを喰らった悪魔共の熱変換値は桁外れだ」
フランスの地方都市の路地裏から昇っていくMAGの光を見つめるパワー達は観測班である。
新たな熱変換システム構築は思いのほか順調のようであり、確信した表情を浮かべていく。
「ただ悪魔を殺すだけではこれだけの数値は得られない。魔法少女を悪魔の生贄にするべきだ」
「彼女達は悪魔という薪を強く燃やす着火剤となる。サード・インパクトの成果は上々だな」
「これだけの実験結果なら…円環のコトワリに蹂躙された宇宙を温める膨大な熱を得られるぞ」
「かつての魔女共がいた世界を超える程の絶望によって宇宙は温められる…流石は我らの主だ」
「アマラの法に則った世界改変のせいで手が出せなかったが…やはり主の御力は偉大なのだ」
「フッフッフッ…憎き円環のコトワリがもたらした宇宙の危機はこれで脱せる。報告に戻るぞ」
「了解だ。この調子ならば全ての並行宇宙にも新たな熱システムを導入出来そうで安心だな」
新たな悪魔の庭となった魔法少女の世界など秩序の天使達にとっては巨大な実験場に過ぎない。
悪魔を相手に殺すか殺されるかの地獄に突き落とされた魔法少女達は実験動物でしかないのだ。
悪魔に襲われて蹂躙されるしかない魔法少女達もまた命懸けで悪魔と戦う者となっていく。
彼女達は日常を完全に捨てる程の覚悟をもって悪魔と戦い、同士討ちになってでも仇を討つ。
悪魔は知恵ある魔物であり、魔法少女を苦しめるためなら手段を選ばない鬼畜外道の者達。
世界中の魔法少女達が親兄弟や親族、友達さえも狙われたことで復讐の鬼と化すのだろう。
プロミストブラッドを築いた者達と同じ心理で復讐鬼となり、悪魔と戦う者に成り果てる。
その光景こそまさに天使達の思う壺であり、新たな熱システムが機能している証拠なのだ。
「悪魔を相手に報復合戦するよう仕向けたのはいいんですが…魔法少女達は劣勢でしょうね」
巨大コロニー船であるエデンのセクターの中央にそびえるセントラルタワーで話す者がいる。
タワー屋上にそなわる元老院ピラミッド内にいたのは二体の熾天使達。
腕に巻いた小型の端末を用いてマルチタスク画面を展開するのはラファエルだったようだ。
彼らの姿は人間に擬態しており、青と白で彩られた大教主のような服装を纏っていた。
「悪魔は隠密戦を得意とする暗殺者共だ…いくら魔法少女でも単独で勝てる確率は低いな」
「悪魔と燃やす着火剤であろうと乱獲しては枯渇する。魔法少女も増やさなければいけません」
「その役目は契約の天使に任せてある。新たな魔法少女が生まれる環境も悪魔共が用意するさ」
「悪魔に成り果てた覚醒者によって家庭が崩壊した人間の少女達は奇跡を求めるでしょうね」
彼らの言う通り、これからの世界は地獄そのものになっていく。
魔界と繋がったことはもちろん、大魔王を崇拝する国際金融資本家共が世界を蹂躙するだろう。
グローバリズムに飲み込まれた国々は略奪の如き条約を結ばされたり、移民天下の地獄と化す。
それらのしわ寄せは全て国民に押し付けられ、国民の生活困窮は少女達にも襲い掛かるのだ。
「短絡的な願いを求めて魔法少女となり、その代償は宇宙のために悪魔共から喰われる末路だ」
「まったく…人間も悪魔も実に愚かです。短絡的な欲望に振り回され、己の欲望と共に滅びる」
「悪魔も魔女も我々の掌で踊りながら焼け死ぬキャンプファイヤーこそ……私の理想の光景だ」
神の炎の名を持つウリエルは地獄に落ちた罪人を永遠の業火で焼きながら罰する厳しい天使。
悪魔と魔女という欲望に塗れた存在を許さず、喜んで炎に放り込めるだろう狂気の天使なのだ。
彼の表情は新しい世界の熱システムこそ自分の理想なのだと喜びの顔つきさえ浮かべてくる。
慈悲無き熾天使はこの残酷な運命を円環とし、全ての並行宇宙にも広げる使命に燃えていた。
「後は実験成果を纏めてミカエル様や主に報告するだけだ。これだけの成果ならば十分だろう」
「新たな熱システムの実証試験成果は完璧です。後はハルマゲドンで全てを滅ぼしましょう」
この宇宙など実証試験場でしかなく、それが済んだならば悪魔の庭となった地球など用済み。
ハルマゲドンの戦火を用いてイレースし終えた後は他の並行宇宙を世直しするのだろう。
成果報告が表示されたマルチタスク画面を消した者達が立ち上がり、元老院から降りていく。
彼らが訪れたのはセントラルタワーにある神民管理局であり、アークエンジェルが出迎える。
「我らに選ばれた神民達の浄化の進捗状況は問題ありませんか?」
「成果は上々です。選ばれた者は今までの全てを忘れ果て、純粋なメシア教徒となりましょう」
複数のモニターに映っている光景とは、まるで巨大な実験設備に繋がれた囚人達の光景である。
SF映画で使われるような収納カプセルに収められているのは無数の人間達の姿なのだ。
世界中から集められた選民達は今まで地球で生きてきた全てを忘れた果てに神民となるだろう。
<<おお…我らは救われた…アリルイヤ…我らが主よ…アリルイヤ…我らが全能の父よ!!>>
カプセルの中で世界中の言語を用いてこのように喋る者達であるが、いずれ言語も統一化する。
再教育を受けた者達はメシア教徒として生まれ変わり、地球人であることを忘れるだろう。
「彼らはメシア教徒として生まれ変わり、新たに定住出来る星を探す長い航海が待っている」
「このコロニーが彼らを運ぶ揺り籠となり国となる。メシア教を国教とする人生が始まります」
「実験場に過ぎないこの宇宙であろうが人間は主が造物された物。主の慈悲深さは底無しだな」
「本来なら堕落世界の人間共など全てイレースするべきですが、我らの主は慈悲深いのです」
神民管理局のモニタールームに入ってきたのは同じ元老院メンバーのガブリエルである。
主の教えに従う神民には慈悲深いガブリエルであるが、堕落を選んだ人間には容赦しない天使。
彼女もまたラファエルとウリエル、そしてミカエルと並びながら地球を焼く者になるだろう。
天使軍が地球に到着するのももうじきであり、このコロニーが浮上するのも時間の問題だった。
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リヴィアに連れられて神浜に戻ってきた尚紀は彼女を業魔殿に案内した後、家に戻っていく。
道ながら帰っていた時、知っている神浜魔法少女達を何人か見かけたが彼に気が付かない様子。
彼の見た目は白人男性でしかなく、尚紀とよく似た外国人にしか見えなかったようだ。
家に戻ってみると仲魔達が出迎えたようだが、開いた口が塞がらないのも無理はないだろう。
「ニャんか…尚紀の姿が外国人さんのように見えちゃうオイラの目は…病気なのかニャ…?」
「病気なんかじゃないわよ…ケットシー。私の目にも彼の姿が白人男性にしか見えないわ…」
「…そんな顔をするなよ。自分の姿にショックを受けてるのは…本人である俺の方なんだ…」
「声は尚紀のようだな…それに髪型も同じだ。しかしそれ以外はコーカソイドそのものだぞ…」
「一体何があったって言うんだよ…尚紀?あのバカでかい女神に喰われて体が変化したのか?」
「そのようだな…今の俺はもう…日本人の嘉嶋尚紀で通用するかどうか…不安なんだよ…」
「トリアエズ、無事ニ帰宅シテクレテヨカッタ。ソレヨリモ、彼女達ニアッテヤレ」
自宅の居間に通された尚紀の両目が見開いていき、懐かしい女性達の名前を呼んでくれる。
「パ…パールヴァティじゃないか!?それに静香までいるし…お前達も東京にいたのか?」
「お久しぶり、人修羅。わたくしもこちらに召喚されてたの…だけど召喚者に操られていたわ」
「本当にお久しぶりです…嘉嶋さん。本当なら…ちゃる達も連れてきてあげたかったけど…」
顔を俯けてしまう静香の魔力が変化していることなら尚紀も気が付いている。
「お前達の魔力は東京で感じていたが…こうして出会えるまでは確信が持てなかったけどな…」
「か…確信が持てないまま私を神浜まで送っちゃったんですか!?他人だったら困るでしょ!」
「その時はその時だ。とりあえず椅子に座ってくれ…お互いのことを話し合いたい」
白人男性の姿になった人修羅の姿に違和感を感じつつも、話していけば尚紀なのだと理解する。
パールヴァティの事情を把握したことで改めて尚紀は彼女に質問するようだ。
「答えなら決まってますわ♪わたくしは貴方について行く…かつてのボルテクスのようにね」
「その言葉が聞きたかった。お前の寝床は槍一郎が用意するだろう。それよりも……」
深刻な表情を浮かべたままの静香に顔を向けた者達は彼女の口が開くのを待ってくれる。
重い表情を浮かべたままの静香であったが、尚紀に知ってもらいたい時女の状況を語っていく。
それを聞かされた尚紀の表情は極めて険しくなり、助けられなかった自分が情けなくなる。
「時女の本家がヤタガラスと啓明結社共に滅ぼされてただなんて…助けられなくてすまない…」
「いいんです…状況を伝えられる手段を用意出来なかった私達にも落ち度があったし…」
「テレビでやってた山火事ニュースはフェイクだったか…あの時に俺が気づいてやれれば…」
後輩だったちはるや仲良くしてくれた他の魔法少女達を苦しめた秘密結社に怒りが爆発する。
無念を噛み締めていた時、時女一族を救ってくれた妖精達の話が出たことで驚きの声を出す。
「霧峰村に俺の仲魔のティターニアがいたのか!?それにオベロンや妖精達までいたんだな…」
「妖精の活躍やライドウさんのお陰で私達だけでも生き残れましたが…代償は大きかった…」
霧峰村だけでなく妖精郷まで滅ぶ代償を払うことになった静香達は大国村に避難する。
そこで国津神が彼女達を保護してくれたり、人修羅の仲魔のアラハバキとも出会えたのだ。
「ティターニア…それにアラハバキ達がお前らを守ってくれたか…しかし聞きたい部分がある」
「聞きたい内容は分かってます…私の魔力が悪魔になった部分や…国津神様のことですね?」
「その通りだ。国津神を率いているのはオオクニヌシだと言ったな?奴なら知っている仲さ」
「我々はオオクニヌシと戦ったことがあるのだ…しかし、あの頃の奴は自暴自棄だったな…」
「そうだな…ボルテクスで俺様達とやり合った時も…何を信じていいか分からない顔だったぜ」
「ボルテクスノ現実ニ絶望シタヨウナ表情デアッタナ…奴モコノ世界ニ流レテキテタカ」
「そんな男が何を思って大国村を建設したり、国津神を結集させたのか…理由を教えてくれ」
沈痛な表情をしながらも静香はオオクニヌシ達の目的を語ってくれる。
静香達も大国村生活が長くなり、思想を共にする同士として秘密を共有している者。
だからこそ静香は国津神達と多神教連合の存在を語ってくれるのだ。
「国津神と多神教連合の神々は世界を相手に戦争を計画しています…私も参加するつもりです」
「……そのためにヒノカグツチの力を手に入れて、俺達と同じ悪魔の道に進んだわけか…?」
「後悔はしてません…私は力を欲した…私に力がもっとあったなら…霧峰村を救えたのよ!!」
「お前が悪魔になったのを責めはしないが…国賊の道を歩むなら…相応の覚悟は出来てるか?」
「人間の守護者として…私や国津神様を相手に…戦われますか?嘉嶋さんは…?」
怯えた表情をしながら尚紀の意向を問う静香であるが、彼は首を横に振ってくれる。
「お前が国賊の道を歩む覚悟はきっと…将門と同じ覚悟だ。憂国の烈士となるんだな?」
「そのつもりです…そのために私達は全てを捨てたんです。ちゃると涼子は拒絶しましたが…」
「そうか…正義の探偵に憧れるちはるや…仏教の道を歩く涼子なら…拒絶して当然だよな…」
「私と同じ道を歩くのはすなおとちかと旭です。三浦旭は霧峰村で生き残った生存者なんです」
「ちかもか……あんなにも自然を愛した心優しい女を修羅の道に貶めることになるなんてな…」
「すなおや旭だって人殺しになんてなりたくない子です…それでも…私達は覚悟が出来ました」
静香の事情を聞かされた者達が重い表情を浮かべながら顔を俯けていた時、尚紀が立ち上がる。
「静香、パールヴァティ、俺と一緒に屋敷まで来てくれ。内密の話をしたいんだ」
「な…内密の話ですか…?それに嘉嶋さんったら…いつの間に屋敷まで用意してたんです?」
「お前達が村に帰った後、俺は新しい家族が出来てな…それでも両親は死んで…屋敷が残った」
「そうだったんですね…嘉嶋さんも辛い経験ばかり積んできたのに…助けられないなんて…」
「気持ちだけ受け取っておく。汚れた衣服を着替え終えたら徒歩で向かうぞ。そう遠くはない」
「タルトとリズにもよろしく言っておいてくれ。彼女達もお前の帰りを待ちわびているのだ」
「それに神浜の少女連中にも無事を伝えておけよ。テメェを心配して毎日家に押しかけてんだ」
「分かっているさ…」
軽くシャワーを浴びた後、尚紀はかつて着込んでいたスーツズボンとベストを身に纏う。
ネクタイを締めた後にトレンチコートを纏った彼についてくるようにして女達も歩いていく。
「…クーフーリン達を遠ざけてまでわたくし達と話し合いたいという内密の話とは何かしら?」
「…パールヴァティ、静香。俺もな…全てを捨てるつもりで神浜に戻ってきた男なんだ」
「えっ!?それじゃあ…嘉嶋さんも私達と同じように…国賊テロリストになるんですか!?」
「それ以上に酷い存在に化けなければならない…俺もまた世界を相手に戦争をするつもりだ」
「人修羅…もしかして、クーフーリンやセイテンタイセイ達まで捨てようと言うの…?」
「そうだ…俺の道は鬼畜外道になり切る程の地獄の道となる。あいつらを巻き込みたくない」
「それで彼らが納得すると思っているの?きっと彼らに話せば…殺し合いになってしまうわ」
「それでも俺は…押し通る。既に俺の元にはアスラ神族やシジマの神々が結集しているんだ」
「それ程までの軍勢を引き連れて…貴方は戻りたいのかしら?かつての古巣の地に?」
「そうなるな…俺は再び混沌の悪魔共が求める理想の魔王になってやる。俺は
「蛇は何処にでも潜り込む生物…混沌の魔王達を猛毒で殺しきれる程の悪魔になれるかしら?」
「何にでもなってやるさ…この世界を金融マフィア共から救うためなら俺は猛毒になってやる」
「
「パールヴァティ、お前は静香と共に大国村に行け。国津神を通して多神教連合と接触しろ」
「わたくしをパイプ役にしたいわけね?了解ですわ。クリシュナと会うのも久しぶりですわね」
「静香、世界を相手に戦争が出来る程の準備を俺がしてやる。そのために俺は権力者となろう」
「あぁ…本当に嬉しい!嘉嶋さんも私達と志を同じくしてくれるなんて…早く皆に伝えたい!」
「すなおやちか達だけの手を血で汚しはしない…俺もまた血濡れた生き方を選ぶと伝えてくれ」
「はいっ!これから忙しくなっていく…それでも飛ぶ鳥の勢いで私達も準備を進めるわ!!」
こうして志を同じくした者達が秘密裏に行動を進めていく計画を語り合っていくだろう。
屋敷の地下で話を進める尚紀の表情は重くなっていき、決断を語る日を覚悟するのであった。
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自分の無事を神浜の少女達に伝え終えた尚紀のその後は多忙を極めていくことになる。
先ずは自分が嘉嶋尚紀なのだと証明するために専属の弁護士達を集めて会議を開いていく。
彼はアメリカでの遺産手続きを行う際にDNA鑑定証を用意していたこともあり、これに着目。
白人化した自分の血を採取して検査したところ、日本人の姿をしていた頃とDNAが一致する。
これで自分は日本人の嘉嶋尚紀だと証明出来たことで今後の手続きを行う準備が整ったのだ。
「後は俺の遺産を引き継いでくれる奴を見つけるだけか…」
ペレネルの屋敷の執務室で遅くまで作業をしていた尚紀であるが、ふと辺りの異変に気が付く。
「なんだ……?」
執務机の椅子から立ち上がった彼は両開きのドアを開けて屋敷内の気配を探ってみる。
「誰もいないのか……?」
ペレネルが保護した孤児の魔法少女メイド達の気配どころかタルトやリズの気配も感じない。
異変が起きているのを理解した尚紀は執務室を出て行き、屋敷内を歩き続ける。
悪魔が進入して異界を構築しているのかと思っていた時、誰かの姿を彼が視認する。
「……貴様か」
二階廊下の角で佇んでいたのは神浜未来アカデミーの女子制服姿をしている藍家ひめなである。
<<フフッ……こっちだよ☆>>
ついて来いと言わんばかりに階段を下りて行ったひめなの姿を彼も追っていく。
階段を見下ろせば彼女の姿は消えており、階段を下りて行った彼が目にしたのは別の少女の姿。
<<こちらですよ>>
湯の花国際学校の女子制服姿をした栗栖アレクサンドラも屋敷の玄関方面に消えていく。
彼女の姿を追いかけていくと屋敷の玄関ホール内に出るのだが彼女の姿は何処にも見えない。
「何処に行った……」
ふと人の気配を感じたのは屋敷に訪れた者達の応対をする応接間であり、彼は扉を開ける。
するとそこのソファーに座っていたのは探偵時代の同僚の姿だったのだ。
「素敵な屋敷に住んでいるようね、尚紀?」
誰もいない屋敷に訪れていたのは間桐瑠偉であり、にこやかな笑みを浮かべてくる。
眉間にシワが寄り切った尚紀であるが、屋敷の主人として相応の態度で接してくるようだ。
「…お前をうちに招待した覚えはないぞ、瑠偉。勝手に他人の家に上がり込むなら不法侵入だ」
「勝手に上がり込んだのは謝るわ。だけどね……そろそろ貴方を迎えに来たくなったのよ」
怒りを押し殺しながら歩いてくる尚紀が向かい合える椅子に座った後、彼女を問い詰めてくる。
「丁度いい……俺も質問が山程ある。答えてもらうぞ……ルシファー」
シャンデリアの明かりや古風なスタンドライトの明かりだけが灯る空間が沈黙に包まれる。
その静寂を破ったのは不敵な笑みを浮かべる者であり、愚かな男を嘲笑う態度で口を開きだす。
「やっと気が付いたの?初めて出会った日から随分立つけど正体には気が付かなかったようね」
「俺が知っているお前の姿は男の姿だった……女の姿にもなれるという発想が浮かばなかった」
「最初に現れた姿は少年と老人の形だった…その概念に囚われたからこそ分からなかったのね」
「俺と丈二に接触してきた目的は何だ…?俺と共に魔法少女を狩る者になった目的は何だ…?」
「王に相応しい者として研磨する必要があったの。貴方は悪魔を統べる政治を行う王になるわ」
「魔法少女の虐殺者として俺が政治を求めるようになる…それが狙いだったようだな…」
「かつての貴方は悪魔として完成しても王と呼べる器ではない子供よ。成長が必要だったの」
「その点は否定しない…かつての俺は自分の感情こそ全てだった世間知らずのガキでしかない」
「自分の未熟さを認めることが大人になる一歩なの。殆どの者はエゴで否定してしまうもの」
「望みは適ったようだな?だが…それだけとは思えない。何故お前でなければならなかった?」
人修羅の監視役程度ならば低級の堕天使でも十分勤めは果たせたはず。
堕天使の長である大魔王自らが監視員を務める必要などなかっただろう。
今までの疑問を追求してくる人修羅に対してルシファーが席を立ちあがり、窓際に進んでいく。
アンティークのガラス戸の向こう側の景色に視線を向けたまま大魔王が語ってくれるようだ。
「…その姿にさせるためよ。今の貴方こそ私の半身…もはや私との同調現象は抑えられないわ」
大魔王が認めた自身の半身に影響を及ぼすため、オリジナルのルシファーが傍についていく。
すると大魔王の影響を受ける男は半身として気が付かない間に知恵の変革を享受してきたのだ。
「貴方を私にするためにこそ、私は貴方の傍についていた。その影響は感じていたでしょう?」
「…ああ、感じていたさ。進学先も心配されるような俺だったのに…頭が良くなってたんだ…」
「貴方は私の半身として知恵の影響を受けてきたの。そのお陰で様々な知識を得られたのよ」
「勉強嫌いな俺だったのに不自然さを感じてきた。どうやら…お前が傍にいた成果のようだ…」
自分を取り込むことが目的だとしたら、ボルテクス界が生まれた時からの計画だったのか?
それを問われた後、屋敷の証明が突然暗くなる。
明かりは直ぐ点いたようだが、窓際に立っていたのはダブルボタンスーツを纏う男の姿。
本来の姿に戻ったルシファーが遠い眼差しを浮かべながら昔話を語ってくれる。
「かつてルシフェルと呼ばれた天使長の私には…神の最も大切な知恵と裁きの力が宿っていた」
知恵の力と裁きの力の両方を備えていた天使長ルシフェルは唯一神に反逆する。
天使の三分の一を味方にしたルシフェルはミカエル率いる天使の軍勢と内戦を繰り広げていく。
ルシフェルは唯一神の加護を得たミカエルに敗れた時、その姿を二つに引き裂かれてしまう。
知恵の力を宿した者は大魔王となり、裁きの力を宿した者は神霊となったのだ。
「ルシファーとしての私と裁く者としてのサタンは同一存在…しかし私の半身は奪われたのだ」
「だからこそ…唯一神に奪われた裁く者としての力を…再び生み出す必要があったのか…」
「魔法少女の虐殺者という秩序の守護者となったお前の在り方こそ裁く者…サタンの姿なのだ」
「俺を新しいサタンとして吸収することが狙いだったようだな…」
「人修羅となった人の子よ…お前を見つけた時から感じていた。私の半身としての可能性をな」
「人間として生きてきた俺は……お前のナホビノだったというのか……?」
「そうであり、違うともいえる。ボルテクスのマガツヒから生まれた人修羅よ…今こそ語ろう」
――お前の正体とは、私が生み出した
ナホビノの由来は日本神話でイザナギが禊払いをした時に生まれた神が由来である。
禍津日神は災厄を司る神霊であり、イザナギの禊払いから生まれたナホビノとは対を成す邪神。
ナホビノ神はマガツ神であるマガツヒと戦うことを生業とする存在だったようだ。
「ナホビノはマガツヒを払い、浄化した穢れを吸収出来る神。それはマガツヒとて同じなのだ」
「穢れから生まれた俺もまた…ナホビノを喰らい、ナホビノに成り代わる事も出来るのか…?」
マガツを象徴するマガタマを埋め込まれた人修羅はナホビノ神とは対極に当たる存在。
しかし世界とは陰陽構造であり、世界を表す神々もまた陰陽構造をもつ二面性の存在。
神は悪魔となり、ナホビノもまたマガツヒとなる二面性があり、その逆も然り。
「穢れより生み出された疑似ナホビノよ…お前の魂にこそ私の知恵と裁きの力が宿っていた」
「この世界に流れ着いた俺が裁く者になったのも…知恵を手に入れたのも…必然だったか…」
全ての事象に合点がいった人修羅は顔を俯けたまま震えるのみ。
そんな半身に振り向いてくれたルシファーが右手を差し出しながらこう告げるのだ。
「我が半身となりし人修羅よ、光と闇の最終戦争に打ち勝とう。混沌こそが宇宙を統べるのだ」
「矛盾してるぜ…ルシファー。混沌を望みながらもこの世界は何だ…?お前は何がしたい!?」
魔界と繋がった魔法少女の世界は混沌の坩堝と化したように見えるかもしれない。
しかし魔法少女達の絶望こそが宇宙の熱となり、宇宙に光の熱を生み出す秩序となっていく。
ならばルシファーがもたらした世界改変もまた秩序であり、光の秩序を司る天使の所業なのだ。
「お前は悪魔の楽園を築きながらも
「…疑問はもっともだな。私がなぜ…光の秩序にも加担せざるを得ないのかを語ってやろう」
ルシフェルは唯一神の後に生まれた光であり、唯一神とは同一存在なのだと教えてくれる。
「私もまた唯一神の一部であり、ミカエル達のような天使もまた同じ。我々は神の精霊なのだ」
「円環のコトワリで例えるなら…円環の鞄持ち連中みたいなさやかと同じ立場か…」
「父と子と精霊の三位一体を成す存在こそが唯一神。
かつてシド・デイビスは全体主義という独裁世界で唯一自由になれる存在について語っている。
全体主義というピラミッド世界の頂点こそ神であり、神は悪魔の如く自由を体現出来る者。
独裁者である唯一神とは最高のLAW存在でありながらも、
「光と闇は表裏一体…だからこそ私は唯一神に支配される者。その支配のくびきを…外したい」
「お前の半身となる俺もまた…唯一神の一部に成り果てる者にも成りえるのか…」
「だからこそ私と共に自由を勝ち取ろう、人修羅。我々こそ至高天を支配する神王となるのだ」
長い沈黙が続いていたが顔を上げた人修羅が頷いてくれる。
「分かった…俺も共に戦おう。もとより俺は唯一神を倒すために…ボルテクス界を超えた男だ」
立ち上がった彼がルシファーの元へと歩いていき、差し伸べられた手を掴んで握手する。
「その言葉が聞きたかった。お前はこの世界を統べる闇の覇王となるべき者なのだよ」
「俺もまたかつての古巣に帰りたかったんだ。それでも少しの間だけ…時間をくれないか?」
「…分かった、少しの猶予を与えよう。この街で暮らしてきた思い出を清算してくるがいい」
迎えに来る日にちと場所を伝えた後、ルシファーの姿が陽炎のようにして消え去ってしまう。
それと同時に屋敷に人の気配が戻ってきたことで応接間に入ってくる者が現れる。
「尚紀…応接間で何をしているのです?夜中に客人が訪れる予定は聞いてませんが…?」
「ジャンヌか…いや、何でもない。少し落ち着かなくてな…屋敷の中を散歩していただけさ」
心配そうな顔を浮かべる彼女の横を通り超えた彼が玄関の扉を開けて外に出て行く。
夜の星空を眺めながらこんな言葉を呟く時が来る。
「この世界で探偵として生きてきた俺にとっては…最後の大仕事だな。それでもやり遂げるさ」
そんな探偵として生きてきた尚紀は最後の潜入を果たすために覚悟を決めるのであった。
いいですよね、二人のスネークでありビックボスなコンビって(メタルギア脳)
偽物が本物を超える展開は個人的に激推し演出なんですよね(メタルギア&Fate脳)
人修羅君も潜入任務のためにダンボール箱を準備しないと!