人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
「そうか…嘉嶋さんも神浜に戻ってくれたんだな。本当に良かった…」
魔法少女社会の元東の長だった十七夜が訪れているのは現在の長である常盤ななかの元である。
明日香の竜真館も未知の病魔の影響もあり閉鎖しているようなので別の場所に集まっている。
神浜魔法少女社会の長達の集合場所として使わせてもらうのはみかづき荘だったようだ。
「無事で良かった…と言いたいところなんですが…彼の体に異変が起きているようなんです…」
ななかから詳しい事情を聞かされる十七夜の顔も困惑するが、それは他の者達も同じである。
十七夜の付き添いをしてくれている令やみたま、それにメルとかなえも不安を隠せていない。
「私もね…尚紀と出会っても誰だか分からなかったわ…。まるで白人男性になったような姿よ」
集まった者達のお茶を用意しに台所からやってくる七海やちよも不安を感じているのだろう。
「話してみれば尚紀さんだと分かりますけど…一体どうしてあんな姿になったんですか…?」
「貴女達は尚紀と共に東京に向かった者達よ。何か原因が分からないかしら…?」
それを問われる悪魔少女達も首を横に振ってしまい、ななかとやちよも察してくれる。
首都が滅びるほどの戦場に立った者達だからこそ、自分の身を守るだけで精一杯だったのだ。
「ごめんなさい…尚紀さんは別動隊として動いていた人だから…一緒にいられなかったの…」
「アタシ達はライドウさんが使役した龍神の背中に乗って逃げるだけで精一杯だったんだよ…」
「みたま、ももこ、貴女達を責めているわけではないの。皆が無事だっただけでも嬉しいもの」
「私もやちよさんと同じ気持ちです。十七夜さんと御園さんを連れ帰っただけでも十分です…」
「すまない…常盤君。自分がいない間に東の魔法少女達の面倒まで押し付けた事を詫びよう…」
「それは大丈夫ですが…いいんですか?神浜の東西魔法少女社会の代表に…私がなっても…?」
「君の評判は東の長だった頃から聞いてきた。君のような聡明な者ならば東の長を任せられる」
「元西の長だった私と元中央の長だった都さんも認めてる。これで全員の賛成を得られたわね」
「混沌極まる時代において魔法少女社会の舵取りを任せる事になるが…どうか頼むぞ、常盤君」
東西の長達から太鼓判を押された常盤ななかが深々とお辞儀をして役目を引き継いでくれる。
そんな光景を見守るかなえとメルであったが、メルはこんな話を持ち出したようだ。
「尚紀さんの体の変化も不安ですけど…十七夜さんの行動も妙なんですよ、かなえさん」
「神浜に戻ってきた十七夜の行動が妙だって…?どういうことなの…?」
彼女に聞こえない場所に移動した2人が内密の話を始めていく。
「病気療養してる十七夜が日中にいなくなっている…?何処に行ったのか聞かされてないの?」
「聞かされてないんです…家族も何も知らないようですし…魔法を使って家族を惑わしてます」
「自分の帰りを待ってくれていた大事な家族に嘘をついてまで何かの行動をする十七夜か…」
強引に問い詰めるべきかを悩んでいた時、玄関のブザーが鳴り響く。
家主のやちよがかなえ達の横を超えながら玄関の扉を開けると驚いた顔を浮かべてしまう。
「あ…貴女達は見滝原の魔法少女達じゃない?どうして私の家に訪れたの…?」
やってきたのは杏子とさやか、そしてキリカと小巻の姿である。
キリカと小巻の表情は焦りを隠せない程に混乱しており、ただ事ではないと分かるだろう。
「ヴィクトルのところに行ったらさ…織莉子の奴を見かけなかったんだ。こっちにいないか?」
「勝手にここに来ちゃって本当にごめんなさい…それでもね…この子達のためなんだ…」
家に上がらせてもらえた彼女達から事情を説明されていく。
「美国さんが行方不明ですって!?つい最近までソウルジェムが安定してなかった子なのよ!」
「美国の家に行ったらね…家の玄関に書置きが張られてたわ。内容はね…別れの手紙だった…」
「グスッ…ヒック…私は織莉子に捨てられたんだ…こんなにも愛してたのに…捨てられたぁ!」
泣きじゃくってしまうキリカを皆が慰めてくれる中、深刻な事情を小巻から説明されていく。
「美国の奴…白羽女学院に退学届けまで出していたの。せっかく高校進学出来たのに中退よ…」
「人生を清算する程の覚悟に思えます…彼女の行方を捜しに神浜まで来られたのですね…?」
「そうなんだ…あたしと杏子はキリカ達の手助けがしたくてついてきているの…」
「人探しは人員が必要だって織莉子を探してた時に痛感してるんだ。また探す羽目になったよ」
「状況は理解しました。神浜の魔法少女達にも彼女を探してもらえないか私が頼んでみます」
「やっぱりななかさんは頼りになるね!尚紀さんから紹介してもらえた幸運に感謝だよ!」
「こんな場所でじっとしている場合じゃない!ここにいないのは分かったから次に行こう!!」
「泣きべそかいたり突然行動を起こしたり、呉も混乱が酷くなってる…気持ちは分かるけどね」
杏子やキリカ達はみかづき荘を後にしながら織莉子捜索を続けるために去っていく。
そんな者達を見送ることしか出来ない十七夜の表情はとても辛そうであった。
……………。
「…せめて手紙でも魔法少女仲間達に送ってやれないのか?彼女達も心配しているだろう…」
みかづき荘を後にした十七夜はみたま達と別れた後、別行動を起こしている。
彼女達がいる場所とは神浜の南凪区にある異人館の一つだったようだ。
「…ディープステート政府に足取りを掴まれる訳にはいかない。今は迂闊な行動は控えます」
日が差さない異人館の一室の椅子に座っていたのはドレス風な普段着を纏う織莉子の姿である。
肩から鎖骨部分まで露出させる色っぽいドレス服のせいで首筋の噛み跡が見えてしまう。
今の彼女はクドラクの血を与えられた吸血鬼であり、既に魔法少女ではない。
その証拠に彼女のソウルジェム指輪は存在せず、その魂は体の内側に取り込み終えたのだ。
「今の私に出来ることは…来るべき日のために悪魔の力を研ぎ澄ますことだけです」
日が差さない部屋の机に置かれているのはタロットカードである。
織莉子は手を置きながら伏せられたタロットカードの絵柄を当てる訓練を行っていく。
「悪魔になった以上…君の固有魔法である予知能力は消失した。しかし吸血鬼は超能力者だ」
「未来予知を行うことも悪魔ならば出来る…その可能性を掴むために今出来ることをします」
「…みかづき荘に行った時にな、君の仲間達がやってきた。酷く混乱した彼女達を見たんだ…」
キリカ達が神浜まで自分を探しにきてたと聞かされた彼女の手が止まり、その手が震えていく。
「彼女達に会いたいのだろう…?君にとって彼女達は大切な仲間であり、命の恩人なんだぞ」
「…和泉お姉様だって尚紀さんに会いたいはずです。それでも来る日のために我慢してます」
「…身体に異常をきたした上でも多忙な毎日を送る人だ。彼の邪魔をしたくはない…」
「お互いに会いたい人がいても今は耐え忍びましょう。今出来ることは力を磨くことだけです」
辛い気持ちを抱え込む吸血鬼達であったが、異人館の敷地内に現れたのは黒塗りのリムジン車。
リアガラスを鉄板で覆ったラグジュアリーリムジンから降りたのはマダム銀子だったようだ。
「この異人館を提供してくれた銀子様がおいで下さった。顔を出しに行こう」
「分かりました。あの御方のお陰で私達は隠れ潜むことが出来ている…地獄に仏ですね」
「業魔殿に運んだ日に声を掛けられた時、彼女の下で働けるとは思わなかったな…」
悪魔種族としては夜魔となった十七夜と織莉子の保護者を務める者こそが夜の女神である。
銀子の姿をしたニュクスに仕えることになった吸血鬼達は夜の女神の僕となったのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
これは十七夜や織莉子達の元に銀子が訪れる前の出来事である。
「無事だった…とも言い切れない姿に成り果てたようだな、人修羅よ…?」
会員制のBARクレティシャスの対面席に座っているのは尚紀とライドウとゴウトである。
ライドウは東京の戦場で力を消耗した後、コウリュウに運ばれながら神浜まで避難した者。
一緒に連れ帰った神浜の少女達が意識を失った彼を業魔殿に運んでくれたようだ。
ヴィクトルのお陰で傷ついた体と消耗したMAGを治療出来た彼はゴウトと共に潜んでいる。
彼は未だにヤタガラスから追われる者であり、裏切り者として命を狙われる立場の者。
業魔殿で保護されているウラベ同様、迂闊に動けないためホテル生活を余儀なくされていた。
「…見た目が変わっただけじゃない。どうやら俺の命はもう…残り少ないようだ…」
沈痛な表情を浮かべながら酒を飲む彼の横にいる者達は驚きを隠せない真実を語られる。
「人修羅と呼ばれるうぬの正体は疑似ナホビノ…大魔王が生み出した闇の半身だったのか…?」
「そう聞かされている…元々人間だった俺を悪魔に作り替えたのはルシファーだったんだ…」
「…その変化した姿はルシファー化の侵食を受けているのだろう。もはや面影を感じないぞ」
「だろうな…鏡を見るたびに…俺とは違う…別人が映っているようにしか見えないんだよ…」
彼の身に起きる異変に対してどうすることも出来ないライドウ達も顔を俯けてしまう。
暫く沈黙が続いていたが今後をどう動くのかを質問した時、ライドウが答えてくれる。
「自分は引き続きヤタガラスと戦うための準備を進める。葛葉一族だけの反旗では分が悪い」
「静香達も同じ目的をしている。彼女は俺の屋敷で保護しているから一緒に動くといい」
「そうさせてもらおう。それにしても尚紀…ルシファーの誘いを本当に受けるのか…?」
「向こうから俺を懐に入れたいと言ってきたんだ…探偵としてこの状況を利用しない手はない」
「そうだな…探偵は忍者と同じく敵陣内部に侵入する密偵だ。敵の懐に入り込んでどうする?」
「あらゆる証拠集めと工作活動を行ってやる。俺という猛毒を受け入れる地獄を味合わせるさ」
「外の敵よりも内の敵の方が遥かに恐ろしいのは歴史が証明している。獅子身中の虫になるか」
「問題は俺が理想の工作員になれるかどうか…潜入捜査は地獄なんだと丈二から聞かされてる」
捜査員が全く別の環境で二重生活を続けることは多くの問題を惹起する。
隠密捜査は特殊な任務を請け負う捜査官といえども非常にストレスの多い捜査なのだろう。
ストレスの最大の原因は捜査員が友人や家族、そして通常の環境から離れて任務を行うこと。
また個人の性格や生活様式を無理やり変更するよう迫られること。
長期間の別居の状態に置かれることは人間関係に悪影響を及ぼして精神を病んでいくのだ。
「俺は…己の人格を真逆にしてでも理想の魔王を演じる必要がある。そうでなければ騙せない」
「いつ終わるかも分からない自己犠牲…そのせいで精神が壊れてしまうケースも多いと聞く…」
「俺はこの地獄を乗り越えるために…全てを清算する。迷いを断ち切れば…己を捨てられる」
「それ程までの覚悟をもって潜入に行くか…人修羅よ。うぬは誇り高き男だったようだな…」
「お前達だって信じてきたヤタガラスを裏切るために決断をした者達だ…俺もそれに続こう」
新しい酒とサイダーを注文した者達の机にグラスが置かれていく。
尚紀はウイスキーが注がれたグラスを持ち、ライドウはサイダーが注がれたグラスを持つ。
「ライドウ…もし俺が俺でなくなった時には……俺の首を跳ねに来い。待っているぞ」
「……錠平だ」
「えっ……錠平だと?」
「その名前こそ…親から与えられた自分の本当の名前だ。錠平として尚紀と盃を交わしたい」
「そうか…分かった。14代目葛葉ライドウとして生きてきた錠平……俺と盃を交わしてくれ」
「尚紀…お前こそ自己犠牲を体現出来る誉れ高き益荒男だ。お前と出会えた事を誇りに思うぞ」
葛葉ライドウという秩序の守護者ではなく、錠平という個人として尚紀と盃を交わしてくれる。
その姿こそ友に送る気持ちであり、友人として盃を交わしたい気持ちなのだろう。
そこにいるのは人修羅や葛葉ライドウではない、ただの人間として接する男達の姿があった。
「部屋に戻る前に業魔殿に下りるぞ。失ったオルトロスの代わりを用意する準備も出来た頃だ」
「分かった、そうしよう」
尚紀との飲み会も切り上げたライドウとゴウトがクレティシャスを去っていく。
まだ高校生の彼に配慮してた事もあり、尚紀は一服するため机の隅に置かれた灰皿を掴む。
黒のトレンチコートから取り出したのはヘルズエンジェルから譲り受けた葉巻ケース。
収められてたのは煙草の代わりに吸うようになった葉巻であり、口に咥えてキャップを千切る。
右手の指で火を灯した後、紫煙が昇り始めていく。
「俺もいずれ…
口の中で煙を燻らせていた時、煙を吐き出した彼が背後に立つ者に声を掛けてくる。
「人払いする必要があるのか?」
いつの間にか人払いをされている店内であるが、近寄ってくる足音が迫ってくる。
現れたのはマダム銀子であり、ライドウが座っていた席に腰かけてきたようだ。
「…尚紀、私も決断するべき時がきているの。だから貴方に…全てを話すわね」
世界中の政官財と繋がりがあるマダム銀子の正体とは、イルミナティを操るエグリゴリ側の者。
遥か太古の時代から黒の貴族達と関わるビジネスを繰り返したことで強固な繋がりを生んだ女。
それが自分のもう一つの正体であり、人修羅を常に監視する者として接触したと語っていく。
それを聞かされた人修羅の眉間のシワが寄り切り、隙あらば首を跳ねる気迫を浮かべてくる。
「…最初から大魔王側だったか。それでもどうしてそれを話す?決断するとは何なんだ?」
「私も貴方と同じくルシファー閣下から招集されているの…私も古巣に帰らなければならない」
「それで…お前はどうしたい?俺に懺悔をした後、その首を俺に差し出す気か?」
「フフッ…それも悪くないわね。だけどこれだけは伝えるわ…私は大魔王を試す者でもあるの」
彼女は自由という混沌思想を愛する者であり、自由とは尊重精神があって初めて機能するもの。
その反対が独裁であり、独裁者とは自分達の独裁支配にとって都合がいい状態を秩序と呼ぶ。
そんな秩序や平和など混沌思想に反するとして銀子を演じるニュクスは猛反発しているのだ。
「この世界の閣下の御姿は…
「国際金融資本家を操る奴がもたらす独裁秩序の世界…それをお前は気に入らない様子だな?」
「彼らがもたらすワンワールド思想こそが極限のLAW状態よ。
「だろうな…ルシファーの中には混沌だけでなく秩序も宿っている。だからこそ独裁者になる」
「それは貴方にも言えることよ、人修羅。貴方もまた虐殺者として独裁者となった者よ」
「…俺とルシファーを試す者として、どちら側につくべきか……その決断をしたいようだな?」
「試す者として私は貴方に問うわ。自由とは何?混沌とは何なの?」
それを問われた人修羅は目を瞑った後、両目を開いた時に銀子の目を見据えてくる。
彼の瑠璃色の瞳に見つめられた瞬間、両目がカッと開いた彼女が彼の姿を別人として認識する。
(ル……ルシファー閣下……?)
銀子を演じるニュクスは人修羅の姿に望むべき大魔王ルシファーの姿を重ねて見てしまう。
「
「自由とは守りぬくもの…世界を混沌の戦場に作り替えてでも…勝ち取らなければならない…」
「独裁者の手下共は社会正義という化けの皮を利用して民衆から自由を奪う。だからこそ戦え」
――自由とは
彼の言葉に胸を打たれた女が立ち上がった後、確信した表情を浮かべながらこう言ってくれる。
「その御言葉こそ私がルシファー閣下に求めていたもの…貴方様こそが…私の求める大魔王よ」
救いの主を得た気持ちのまま机の横に移動した彼女が両手を地面につけながらひれ伏してくる。
「貴方様こそが…私が欲する自由を守りし
「ニュクス……」
神やメシアのような扱いをされるのを嫌う彼が立ち上がった後、ニュクスの両脇を掴む。
「きゃあ!?」
強引に持ち上げて立たせた後、こんな言葉を彼女に送ってくれるようだ。
「自由を愛する女神が格差に支配されてどうする?俺とお前の間に溝などない、自由にしてろ」
「私は今…確信したわ。人修羅…貴方こそCHAOSなのよ…貴方こそが…
「銀子…いや、ニュクス。俺と共に来い…参謀役としてお前の知恵を俺に貸してくれ」
「有難い御言葉よ…私は何処までも混沌王陛下と共にある……失楽園のようにね」
ギリシャ神話の夜の女神であるニュクスはカオスの娘であり、深淵エレボスの兄妹にして妻。
彼女は夜を表し、恐ろしいが活力の源泉たる安らぎをもたらしてくれる大切な時間を与える者。
ミルトンの失楽園において登場する混沌王は夜を僕としていると語られている。
深淵を渡ろうとするルシファーに対して道を示すことから深い因縁を持つ関係性だった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
静香とライドウを合流させるため、リズが運転するロールスロイスが神浜市の夜道を走る。
後部座席には静香と尚紀がおり、自分に相応しくない車内のせいで静香は落ち着かない様子。
「嘉嶋さんは益々お金持ちになったみたいね…。霧峰村のスポンサーになって欲しかったなぁ」
「霧峰村のスポンサーだと?何の話だ?」
「もういいんです…霧峰村が滅ぼされてしまったら…全てが台無しなんですし…」
黙り込んでしまった静香から視線を逸らし、夜道の街並みに視線を向ける。
不穏な気配に包まれる不気味な神浜市を迂回しながら下っていき、新西区から南凪区に入る。
海沿いの道を使いながら南凪区ベイエリアを目指していた時、尚紀が車を止めろと言ってくる。
「どうしたの?」
「……少し外に出てくる。ここで待っていてくれ」
何を目的にして外に出たのかなら、悪魔のリズと静香なら何となく分かるだろう。
海沿いの道の近くには魔法少女達の魔力を感じたことで彼女達に会いに行ったと分かるのだ。
人間の姿に擬態しているため彼らの魔力に気が付かない者達とは杏子とさやかだった。
「やっぱり見つからないね…土日を利用しての捜索だけじゃ時間が足りなさ過ぎるよ…」
「それに人手だって全然足りねぇ…この分じゃ何の成果もないまま明日は帰路につきそうだ…」
「キリカと小巻さんも本当に辛そうだよ…あんなに一生懸命探してやっと見つけた人なのに…」
「書置き内容は聞かされたけど…あの2人のために力を求める旅路に行ったんだろうな…」
「だからこそショックなんだよ…キリカ達では助けにならないって言うようなもんだし…」
「織莉子は悪魔組織に追われてるんだ…あたしらだって…尚紀がいなかったら死んでるよ…」
「俺がどうかしたのか?」
突然声を掛けられた2人がビックリして横に振りむく。
ベンチに腰かけていた杏子とさやかの前に現れたのは白人男性だが、尚紀の姿と重なってくる。
「尚紀……なのか?いや、その見た目は外人だけど…着てる服はいつもと同じだよな…?」
「それに声も尚紀さんだし…髪型だって同じだよ…。一体その姿は何なの!?」
「…声を掛けただけで俺だと気が付いてくれるか。本当に嬉しい気持ちにさせてくれるな…」
驚いて席を立ちあがった者達を座らせた後、尚紀は事情を説明してくれる。
それを聞かされた杏子とさやかは心配で堪らない様子になるが、それでも彼は首を横に振る。
「姿は変わり果ててしまったが…どうにか東京から生き残れた。身元証明の手続きも済んでる」
「大丈夫なの…?だって姿が外国人になっちゃうなんて…悪魔は病気にならないんでしょ?」
「これは俺が背負うべき業の姿だ。それよりもお前達は何で神浜に来てるんだ?2人だけで?」
「キリカと小巻も一緒に来てる…実はな…織莉子の奴がまた行方不明になったんだ…」
杏子から説明を聞かされた尚紀も酷く心配するような顔つきになってしまう。
「書置きを残してるなら誘拐されたケースじゃないな…俺も見かけたら杏子に連絡しよう」
「そうしてくれると助かるよ。やっぱ人探しは探偵に任せるべきだよなぁ」
「…俺はもう探偵じゃない。聖探偵事務所はな…所長が逮捕されたことで…店仕舞いだよ」
尚紀の家に泊まりに来ていた頃とは状況も変化しており、それについて聞かされていく。
困惑するばかりの杏子とさやかであるが、彼女達に伝えたい言葉があったからこそ現れたのだ。
「こんな時に話すべき内容かどうかは分からないが…聞きたいんだ、杏子」
「あたしに何を聞きたいんだよ?」
「さやかと一緒にいられて……今も幸せでいてくれてるか?」
突然そんな質問をされるものだから杏子は頬を染めてしまい、さやかも照れた顔つきになる。
それでも迷いのない顔を浮かべてくれる杏子が頷き、とても幸せだと言ってくれるのだ。
「アラディアとの一件でさやかは円環に帰りそうになった…それでも尚紀のお陰で今がある」
「それにほむらの言葉があったから…あたしは思い止まれた。ここがあたしの居場所なんだよ」
「あたしだけじゃなく、マミだって幸せだろうさ。なぎさも思い止まってくれたんだし…」
「全部尚紀さんとほむらのお陰だよ。悪魔だからって、あたしはもう差別はしないからね」
顔を向け合って頷き合う者達の迷いのない表情を見れた尚紀は目を瞑りながら微笑んでくれる。
「俺がお前達を助けられたのは…風華の助けと佐倉夫婦の助けがあったからだ。感謝してるよ」
「尚紀……突然どうしたんだよ?」
「それに…俺の新しい家族になってくれた杏子やモモがいてくれたから…今の俺がいるんだよ」
「そんなに改まった態度をされると…あたしも…その…あたしだって…尚紀に感謝してるから」
「杏子…覚えているか?焼け果てた俺達の家で……俺が語った言葉をな」
欲望を捨て、迷う自分を受け入れ、納得することだと尚紀は杏子に伝えたことがある。
「風実風華の在り方とは
「尚紀……」
「そして俺は納得したかった。彼女の在り方は無駄ではなく、その人生には意味があったと…」
微笑んでくれる白人男性の表情はたとえ肌の色や髪の色が変わっても尚紀の面影を感じさせる。
そんな彼が送ってくれたのは今の自分の正直な気持ちなのだ。
「杏子やマミの人生を救えるキッカケになれたことを誇りに思う…そして、これが俺の納得だ」
――風華の人生は
まるで尚紀まで織莉子のように旅立つような言葉の数々を送るせいで彼女達は怖くなる。
立ち上がった者達が彼を止めようとするのだが、首を横に振る彼がさやかに顔を向けていく。
「さやか…お前の人生も輝いてる。今を生きてこそ杏子を救えてるんだ…これからも頼んだぞ」
「何を言い出すの…?やめてよ!杏子を一番支えてくれたのは…家族の尚紀さんの方だよ!!」
「探偵を辞めて家族の遺産を引き継いで企業グループの代表になった…もう日本にいられない」
彼には彼なりの事情があって日本を離れることになると伝えるが、それは嘘である。
織莉子と同じく尚紀もまた大切な人々を地獄に巻き込みたくないと思うからこそ嘘を付くのだ。
「これからはさやかこそが杏子を幸せにする者だ。約束してくれ…一生彼女を幸せにするとな」
「そんなこと言わないで…まるで今生の別れみたいじゃない!杏子には尚紀さんが必要だよ!」
今にも泣きそうな顔になるさやかの両肩を優しく掴んだ尚紀が送る言葉は今生の別れになる。
それ程にまで重い言葉を美樹さやかに託したいのだ。
「俺は迷う自分を受け入れた末に答えを出せた…だから行ってくる。後の事は頼んだぞ…」
彼の覚悟を受け止めるしかないと感じたさやかだからこそ、薄っすら浮かんだ涙を拭く。
そして尚紀と杏子のためにこそ、彼女は覚悟を示す言葉を語るのだろう。
「…分かった。あたしが杏子の人生を幸せにしていく…杏子の人生を…最後まで背負うよ!」
その言葉が聞けた尚紀は笑顔となり、右手の小指を伸ばしてくる。
何をしたいのか理解したさやかも小指を伸ばして絡みつけ、指切りげんまんするのだ。
「やめて…くれよ…尚紀…!勝手に話を進めて…あたしの前からいなくならないでくれよ…」
薄っすら涙を浮かべながら震えている杏子に振り向いた彼が右手を伸ばしていく。
「あっ……?」
杏子の頭を優しく撫でてくれる尚紀の笑顔こそ、彼の最後の光景になるかもしれない。
「こんなに大きくなりやがって…
彼の笑顔に触れた時、幸福だった小学生時代の記憶が蘇ってしまう。
父と母がいて、妹がいて、尚紀や風華がいてくれた教会の光景がフラッシュバックする。
「尚紀……やだ……やだよぉ……あたし……あんたがいないと……寂しいよぉ……」
ついに泣き出してしまった杏子であるが、横にはロールスロイスが迎えに来ている。
つい長話をしてしまった尚紀は車に入り込み、そのまま夜道の世界に消えていく。
涙が止まらない杏子をさやかが抱きしめた後、見送りながらもこんな言葉を呟いてしまう。
「尚紀さんは悪魔なんかじゃないよ…あの人は杏子の人生を救ってくれた…
かつてはサタンと杏子から罵られた尚紀のもう一つの可能性に触れたことで理解する。
悪魔とは神にもなれる陰陽存在であり、偏見だけで全てを決めてはいけないと悟るのであった。
ヴェノム・スネークな道を歩く人修羅君にも参謀役が出来たことで新たなシジマは国境なき軍隊になっていくやも(メタルギア脳)