人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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315話 文武両道

神浜魔法少女社会の長として正式に認められた常盤ななかは多忙を極める生活を送っていく。

 

ただでさえ忙しい生活環境の中、混沌極まる社会情勢の影響を調査しなければならない。

 

しかし彼女だけの知恵では足りず、かつての長達を相談役にしなければならない状態なのだ。

 

とくに未知の病魔についての対応策を練るため、科学に詳しい都ひなのを頼っていた。

 

「かこさん…慣れないマスク生活のせいで息が苦しそうですけど、大丈夫ですか?」

 

「平気です。歩くぐらい大丈夫ですが…マスクを身に着けて仕事をする人の方が苦しいです…」

 

マスクを身に着けた者達だらけの街を歩く2人であるが、かこは酷く怯えている。

 

去年まであった街の光景がいっぺんに変わってしまった世界の現実に戸惑うばかりなのだ。

 

「ななかさん…苦しい現実は病気の感染だけじゃないんです。経済問題だって深刻なんです…」

 

「行政やメディアは密になる場所を避けろと言い続けている…それでは経済活動が出来ない…」

 

「私の古書店は大打撃です…父はこう言います…このまま続けば来年を待たずに店仕舞いだと」

 

「そんな…かこさんが魔法少女になってまで守った古書店なのに…潰れてしまうなんて…」

 

「ただでさえ電子書籍やコンビニの書籍販売で売り上げが苦しかったのに…トドメなんです…」

 

「資本がある企業だけが生き残る…この病魔騒ぎは()()()()()()()()()()()()()()()ですね…」

 

暗い表情を浮かべていた時、車のクラクションが鳴る音が響く。

 

音の方に顔を向けると車悪魔のクリスを運転する尚紀の姿があったようだ。

 

「何処かに向かっているのか?良かったら乗せて行ってやるぞ」

 

「いいんですか?実は都さんに相談があって向かうところだったんですよ」

 

「俺がそこまで送ってやるよ。車の中ならマスクを外してても睨まれない、早く乗れ」

 

「有難う御座います…やっぱり私…マスク生活には慣れそうにありません…」

 

ななかとかこを後部座席に乗せてあげた尚紀が扉を閉めて車を出す。

 

飛沫感染を恐れる民衆達も密閉された空間にいる者達まで睨んでくることはないようだ。

 

「尚紀さんは何処かに向かわれている最中だったんですか?」

 

「いや…クリスを運転してあげたかった。その…もう運転してやれないような気がしてな…」

 

いつもなら恋敵の魔法少女を乗せるのは反対と叫ぶクリスであるが、今日の彼女は無言の態度。

 

2人きりのドライブを邪魔する存在さえ気にならない程、今のクリスは混乱しているようだ。

 

ドライブ中だったと話すと、まだ時間に余裕があるからとななか達まで付き合ってくれる。

 

ドライブをしながらさっきまで話していた内容を尚紀にも語ってしまうようだ。

 

「ななか…お前の直感は当たってる。パンデミックは巨大な利潤機会をもたらすものなんだ」

 

スイス最大の銀行によると富裕層全体の富の98%を占める二千人の資産は爆増するという。

 

未知の病魔から半年足らずの間に25%も増加して一千兆円を突破する見込みなのだ。

 

アメリカでも富裕層の資産は騒動から僅かな期間で60%も膨張する見込みである。

 

「彼らの儲けは病魔による倒産や廃業で放出した土地や家屋や店や株式を格安で入手する事だ」

 

()()()()…火事場泥棒としか言いようがない連中なんかが世界のトップなんですか…?」

 

「投資信託は年間1%程度の配当で上出来とされることからすれば…桁違いの富を生んでいる」

 

スイス銀行と深い繋がりをもつ彼は病魔によって世界で何が起こるのかを聞かされてきた者。

 

未知の病魔騒ぎの抱き合わせ資産運用がどれ程の富を生む機会なのかを知らされてきたのだ。

 

「91年のソ連崩壊や97年のアジア通貨危機以来となる超絶の投資機会だと聞かされた…」

 

「地球規模の大疾病が富める者をさらに肥えさせるだなんて…尚紀さんも投資したんですか?」

 

「するわけがない。俺はこの儲け話を持ち込んできたスイスの相談役を更迭した男なんだぞ…」

 

「良かった…私が慕う尚紀さんが人の生き血を吸いながら金儲けをする人じゃなくて…」

 

ホッとした表情を浮かべるななかであるが、隣のかこに視線を向ければ体が震えている。

 

俯けた顔は眉間にシワが寄り切っており、憎悪による震えのせいで悔し涙まで浮かぶのだ。

 

「一生懸命働くことしか出来ない私達の人生を食い物にする連中なんかが…富裕層だなんて…」

 

「かこさん……」

 

「本当に悔しいです…。苦しみながら国に従ってたって…金持ちを儲けさせる道具にされる…」

 

「…社会学者のベックはな…こんな言葉を残しているんだ…かこ」

 

一般市民にとってリスクはリスクに過ぎないが、特権層にとっては膨大な利潤を生む機会だ。

 

リスクが拡大するにつれ、損害を被る者と利潤を得る者との対立が激化すると言葉を残す。

 

「未知の病魔に翻弄される世界は…莫大な富を得る特権層達の()()()()()()()()()()()()()…」

 

「そしてかこさん達のように財産を失う市民層とで分かれてしまうのですね…残酷過ぎます…」

 

「ワクチンは緊急用…安全が保障されたものじゃない。製薬会社は副反応の責任をとらないぞ」

 

「国が賠償を肩代わりするべきでしょうけど…それだって私達が払う税金なんですよ…!?」

 

「結局、全ての苦しみは国民が払わされる。政官財にとって…国民など家畜に過ぎないんだ…」

 

製薬会社がワクチンの承認申請した際、安全審査を大幅に簡略化されたと尚紀は話してくれる。

 

特例承認が適用されたことで十分な臨床試験もなく短期で開発することが出来たのだろう。

 

そんなワクチンの安全性など全く無く、そんなものさえ国は率先して国民に打ち込ませるのだ。

 

()()()()()()()()()()()()()…それが日本や世界の政府の本音だ。汚職と不正の坩堝なんだ」

 

「私達国民の未来を守ってくれない政府になんて…私…従いたくないです!!」

 

窓を開けてくれと言ったかこのために運転席側の窓を開けると彼女はマスクを外に投げ捨てる。

 

ななかもかこと同じ気持ちとなり、怒りを込めて彼女もマスクを投げ捨ててしまう。

 

悔しさのせいで泣いてしまう彼女達のためにこそ、尚紀は救いの手を差し伸べようとするのだ。

 

「2028年には書店が消滅すると言われてる…書店の採算分岐点は下回るばかりだからな…」

 

「そうです…書店の利益はコミックを含む雑誌です…平成になってからは下回る一方です…」

 

「ネット書店だろうが書店の需要の全てを代替出来ない…書店が消えれば出版社も消えるか…」

 

「雑誌娯楽でさえネット小説等の代替えが可能なんです…だから個人店の利益が出ません…」

 

「経済とは助け合いなくして成立しない…全ての存在は単独では成り立たないな…」

 

黒のトレンチコートから新しい名刺を取り出した彼がかこに渡してくれる。

 

「もし不渡りを起こす事になったら連絡しろ。俺が国を改革するまで店の寿命を延ばしてやる」

 

「ええっ!?な…尚紀さんは…夏目書房のスポンサーになってくれるんですか…!?」

 

「万々歳の融資だって俺はやってる。たとえ不採算部門になろうが…俺はかこの家を守りたい」

 

彼が語るのは書店の本来の在り様である。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…皆が知識を求めれば高額な書籍も売れる」

 

「そうですね…雑誌コミックから高額書籍に売り上げがシフトすれば大きく変わります…」

 

「それに昭和からの流通慣習が書店を苦しめてる…それを変えるには公正取引委員会も必要だ」

 

「尚紀さんは汚職ばかりする国を動かす程のことをするんですか…?私なんかのために…?」

 

「俺は感謝してると言ったろ?お前の書店が俺に知恵を授けてくれたんだ…その恩返しをする」

 

彼の決意とは知恵を司る本を滅ぼそうとする者達への反逆意思である。

 

極右や極左の独裁国家は退廃芸術だと悪のレッテルを数々の本に貼った末に焚書してきている。

 

それは国民の知る権利を奪う行為であり、盲目で従順な家畜民衆しかいらない独裁行為なのだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だからこそ俺は…知恵を司る書店を守ろう」

 

ナチスによる焚書の儀式で自身の書物を焼かれたハインリヒ・ハイネの言葉を尚紀は語る。

 

知恵があるからこそ選べる権利が生まれ、選べる権利こそ人々が守るべき自由だと語っていく。

 

極右や極左精神と合致しない書物は退廃芸術にされては、いずれサブカル表現まで変えられる。

 

焚書とは表現規制であり、表現とは良し悪しに関わらず公正で公平なものであるべき。

 

たとえエロ同人誌であろうと公平であり、個人出版物であろうが表現規制してはならないのだ。

 

その言葉の数々に胸を打たれたかこの顔が真っ赤になっていた時、目的地に到着。

 

公園ですら密になるから集合場所として使えないため、密かに選んだ路地裏の前だったようだ。

 

「あ…あの…その…有難う御座います…。私…尚紀さんと出会えて…本当に幸運でした…」

 

恋心を爆発させるようにしてモジモジしているかこであるが、尚紀は顔を俯けてしまう。

 

「俺にしてやれることはこれだけだ…お前達にも伝える必要があるだろう」

 

親の遺産とグループ企業を引き継ぐ者として外国に旅立つと言われた彼女達が叫んでくる。

 

「行かないで下さい!私…尚紀さんがいないと店を守れません!ずっと一緒にいて下さい!!」

 

「私だって貴方と離れたくないです!私達を導き…救ってくれるのは貴方だけです!!」

 

「ななか…かこ…気持ちは嬉しい。それでも俺は行く…このは達にもそう伝えてある」

 

「葉月さん達にも別れの言葉を送ったんですか…?彼女達姉妹は何て言ったんです…?」

 

「俺の留守をしっかり守り、俺が残す嘉嶋会を守り抜くと言ってくれた。彼女達は強い姉妹だ」

 

親身にしている魔法少女達でさえ辛い気持ちを乗り越えられたと聞かされた者達が迷い抜く。

 

それでも神浜魔法少女社会を託された女として葉月達の背中に続きたいと決断を下す。

 

「必ず帰ってきて下さい…尚紀さん。貴方がいてくれたからこそ今の私がいるんです…」

 

「ななか…お前も立派になってくれた。俺が望んだ社会主義精神が宿る魔法少女社会を残せよ」

 

「は……はいっ!!」

 

目元が潤んでしまう彼女は眼鏡を外しながらハンカチで涙を拭いていく。

 

それでも止めどなく溢れる涙こそ尚紀を愛する心の気持ちが溢れている光景なのだろう。

 

涙が溢れて止まらないのは夏目かこも同じであり、彼は肩を掴みながらこう言ってくれる。

 

「家に泊まりに来たまどかがな…かこの話を語ってくれた。夏目書房が大好きだと言ったんだ」

 

「グスッ…エッグ…まどかさんが…私の古書店を…そんな風に絶賛してくれたんですか…?」

 

「夏目書房はあの子がまた訪れたい大事な店だ。たとえ遠くに行こうとも俺が必ず守ってやる」

 

「ヒック…グスッ…尚紀さん…ナオキさん…アァァァァーーーー……ッッ!!!」

 

尚紀に抱き着いてくる2人の魔法少女達を優しく彼も抱きしめてくれる。

 

言葉に出来ない程の感謝の叫びを上げていく彼女達の声に引き寄せられた少女達もいるようだ。

 

「…ひなの、衣美里、彼女達を支えてくれ。まだまだ駆け出しの長達なんだ…よろしく頼むぞ」

 

「な…尚紀…本当に…グスッ…本当に遠くに行ってしまうんだな…?」

 

「あーし…やだよ…ヒック…まだまだナオッチとお喋りしたり…遊んだりしたかったのに…」

 

「お前の愛嬌あるニックネームで呼ばれる度に俺の荒んだ心は癒された…これからも皆を頼む」

 

「ちくしょう…エッグ…アタシにばかり頼りやがって…アタシだって尚紀に甘えたかった…!」

 

頼れる男の優しさが欲しかった都ひなのや木崎衣美里も駆け寄ってきて抱き着いてくる。

 

変わり果てた姿になっても今まで通りに接してくれた大事な女達のためにこそ旅立つ時がくる。

 

その決意はクリスにも語られており、帰り道の道中でついに口を開いてしまうのだ。

 

「みんながダーリンの事を愛してる…アタシだって愛してる…行かないでよ…お願いだから…」

 

「…俺だって皆を愛してる。だからこそ俺は自己犠牲を示さなきゃならないんだよ…クリス」

 

「愛しているならみんなの傍でみんなを支えなさいよ!みんな本当に…寂しくて辛いのよ!!」

 

「近くにいなくても出来る愛情表現はある…俺は彼女達に見返りを求めない愛を捧げたいんだ」

 

「見返りを求めない愛ですって…?」

 

「お前が人間だった頃、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そ…それは…そうだけど……」

 

()()()()こそが本物の愛だと俺は信じてる…本当の愛を子供達に教える存在こそが親なんだ」

 

かつてパパラッチに追われた末に事故死した英国のダイアナ妃はこんな言葉を残している。

 

――人に親切にするのに見返りを求めちゃダメ。

 

――あなただってお返しが出来ない親切をこれから沢山受けるんだから。

 

「神浜の魔法少女達と出会えたお陰で俺はやり直せてる…ダイアナ妃の言葉は本当だったんだ」

 

「ダーリンは恩返しがしたいからこそ旅立つのね…自分を捨ててでも…古巣に帰るのね…?」

 

「…最後まで面倒を見てやれなくて本当にすまない。これからはクーフーリンを頼ってくれ…」

 

「ダーリンの言葉で気がつけた…どうしてアタシが男の愛を求めてきたのか…やっと分かった」

 

――アタシを含めた女達がダーリンに求めた気持ちはね……頼れる男の父性だったのよ。

 

物心つく前に父親を亡くした生前のクリスは母子家庭だったからこそ父の愛を求めた存在。

 

他の子は父の愛を得られるのに自分は得られないコンプレックスが男を渇望した原因だった。

 

車体が熱くなる程の感情が溢れたせいで外気温との温度差が表れ、ヘッドライトが結露する。

 

涙を溜め込んだように見えるクリスのためにこそ、尚紀はもう少しだけ彼女を運転してくれた。

 

────────────────────────────────

 

次の日の早朝。

 

まだ朝日が昇るのも前の時間帯の南凪区某所に集まっているのは尚紀が集めた少女達。

 

いつも朝練に付き合ってくれていた美雨、あきら、明日香、ささらの四人組だったようだ。

 

「ナオキが久しぶりに朝練したいて連絡くれたから集またけど…何で私の鍛錬場を使うネ…?」

 

「今のご時世だと公園では集まりづらいし…美雨の個人鍛錬場なら人目もつかない場所だしね」

 

朝早くから彼女達が集まっているのは蒼海幇構成員の美雨がいつも独りで使う鍛錬場である。

 

ガレージ内に鍛錬器具を並べており、広々とした空間だから他の者も鍛錬に使える場所だろう。

 

「それよりもあきらさん…道場は大丈夫ですか?未知の病魔の影響を受けてませんか…?」

 

「うん…こっちも大変なんだ。子供の親も病魔が収まるまで道場には通えないと言ってきた…」

 

「こちらもです…道場経営だけでは生きていけない状況で…どうしていいのか分かりません…」

 

「マスクを身に着けて鍛錬じゃ苦しいもんね…武術道場はリモートワークなんて出来ないよ…」

 

「それに…お父さんの同僚から聞かされてるの…。救急隊の人は出動ばかりで倒れてるって…」

 

「病魔の影響だけなのカ…?私の周りには病魔よりもワクチン接種後に倒れる者が多いヨ…」

 

「世の中完全に狂っちゃったね…これからどうなるのか不安で不安で…ボクも怖いんだ…」

 

皆が不安で怯えてしまい、朝練をする気分にもなれない状況の中で誰かがガレージを開ける。

 

現れたのは家着の黒のカンフー着を纏う尚紀であり、腕まくりをしながら近寄ってくるのだ。

 

「ナオキ…体は大丈夫なのカ…?無理をしなくても私達は大丈夫ネ…我儘は言わないヨ…」

 

「そうだよ…白人な見た目になっちゃう難病を患ったんでしょ…?体を大事にした方が…」

 

「いらん気遣いだ。それよりも…俺が言った通り、ちゃんと武術着を纏っているようだな」

 

尚紀に呼び出された者達は彼の指示通りの姿をしている。

 

あきらは空手着を纏い、美雨は武術着を纏い、明日香は胴着と袴、それに型用の薙刀を使う。

 

「尚紀さん…本当にいいんですか?型用の薙刀を使ったら…当たり所が悪ければ…その…」

 

「構わない、遠慮なく使え。それにあきら、美雨、お前らも武器を用意しろと言っただろ?」

 

「ボクは棒術やトンファーにも精通してるけど、一番信頼してるのは自分の徒手空拳なんだよ」

 

「私もあきらと同じネ。自分が一番信頼しているクンフーを使わせてもらうヨ」

 

「そうか…分かった。ささら、お前は立会人を務めて欲しい。今から決闘を始めるぞ」

 

<<け…決闘!!?>>

 

突然の提案を受けた少女達が驚きのあまり冷や汗が顔から流れ落ちる程にまで混乱してしまう。

 

「俺にはもう時間がない…だからな、今日が俺との最後の鍛錬だと思え。今から本気で戦うぞ」

 

「どういう事なの…?時間がないって…そんなに深刻な難病だったの!?」

 

「俺はな…諸事情があって神浜を去ることになった。だから…お前達との鍛錬も今日が最後だ」

 

「そ…そんな…尚紀さんと鍛錬するのが…私の楽しみだったのに!!」

 

「突然過ぎるネ…ナオキ!!その事情は私達と別れなければならない程のものなのカ!?」

 

「そうだ…その為にななか達やこのは達にも別れを告げた。そしてこれがお前達に送る別れだ」

 

本気となった彼の全身から感じさせてくる気迫は本物であり、武術家同士の決闘を望んでいる。

 

混乱するばかりのあきら達であったが、尚紀との付き合いが一番長い純美雨が前に出てくる。

 

「ナオキ…体に異変が起きてでも私との約束を守てくれるカ…だたら私は…期待に応えるネ!」

 

「フッ…神浜の魔法少女の中では一番長い付き合いをしてきた俺達だ。期待してるぞ、美雨」

 

「私のクンフーはきと…この日のためにあたネ…だからこそ私は…全身全霊を使うヨ!!」

 

決意がこもった尚紀と美雨の両手が持ち上がっていき、構えるのは抱拳礼。

 

平和を司る左手で争いを司る右手を包み込むいつもの形だが、互いが本気の気迫を見せる。

 

「美雨…本気なんだね?だったらボクも空手家として…本気になる!胸を貸してもらうよ!!」

 

「本気で来い、あきら。あの時は親父さんに止められたが今日はいない…とことんやろうぜ」

 

「私だって本気でいきますよ!竜真館の師範代の誇りにかけて…いざ尋常に…勝負です!!」

 

「明日香…お前とも本気でやりあってみたかった。武家の女武者として…技を尽くしてくれ」

 

美雨に続きあきらも十字を切る礼を行う。

 

明日香も気を付け姿勢から礼を行い、ささらは彼女達の覚悟を受け止めてくれるようだ。

 

「騎士道を求める魔法少女として貴方達の覚悟を見届けるわ…決闘罪は容認させてもらうから」

 

「有難う…ささら。お前も親父さんの意思を継げる立派な消防士になれるよう…俺は願うよ」

 

決闘立会人の元、ついに本気となった武術家達が動き出す。

 

舞うような演舞を行いながら同時に構える尚紀と美雨、直線的な演舞の後に構えるあきら。

 

薙刀を頭上で回転させた後に上段の構えを行う明日香、そして固唾を飲んで見守るささら。

 

それぞれの思いが渦巻く中、美雨のガレージ内で武術家達の魂を懸けた戦いが始まっていった。

 

────────────────────────────────

 

一気に踏み込んでくる美雨とあきらは尚紀の本気に応えるために禁じ手の技まで駆使する。

 

貫手や急所打ちの点穴まで狙ってくる中、迎え撃つ彼もまた一気に動く。

 

「「ハァァァァァァーーーーッッ!!!」」

 

突き、蹴り足、貫手、肘打ち等の一撃を腕や足裏で受け止め、スウェーバックで避けていく。

 

あきらの肘打ちを受け止め、肘を脇腹に打ち込んだ瞬間、美雨のミドルキックが腹部に決まる。

 

後退る尚紀に対して踏み込み蹴りを放つあきらの右足刀を体の軸をずらして避けながら掴む。

 

「うわぁぁぁぁーーーーッッ!!?」

 

支える軸足を蹴り込まれ、一回転して倒れ込む中、明日香が放つ薙ぎ払いを身を低めて避ける。

 

「背中に目があるんですか!?」

 

完全な不意打ちの一撃を避けた尚紀に対してさらに追撃を仕掛けるあきらと美雨が迫りくる。

 

美雨の突き、肘打ちを受け止め、彼の突き、肘打ちを美雨が受け止め、あきらに向き直る。

 

打撃を受け流したままあきらに放つ突き、蹴り足を腕刀で受け止め、後方に向けて側転を放つ。

 

明日香が放つ斬撃の刈り取りを側転移動で避けると同時に踏み込むあきらの顎を蹴り足で弾く。

 

側転蹴りが決まったあきらが大きく倒れ込む中、美雨と明日香が果敢に攻め込んでくる。

 

「…攻め込む力だけでは足りない、守りの力もまた必要だ。相反する存在は同様に使いこなせ」

 

美雨の回し蹴りに対して避けると同時に後掃腿を放ち、カウンターを浴びた彼女が倒れ込む。

 

身を低める一撃を放ち終えた尚紀が回転の勢いのまま跳躍し、飛び後ろ回し蹴りを放つ。

 

薙ぎ払いを放つ一撃を飛び越えながら避ける中、蹴り足は空を切り、明日香の頭を超えていく。

 

しかし後ろ回し蹴りは目くらましのフェイントであり、突然の衝撃が側頭部を襲う。

 

「ガハッ!!?」

 

左蹴り足が明日香の頭部の上を通過した瞬間、右足を反転させる蹴り足を側頭部に決める。

 

ガイバーキックが炸裂した明日香の脳が激しく揺さぶられてしまい、両膝が崩れてしまうのだ。

 

着地した尚紀に目掛けて同時に飛び込み蹴りを放つ一撃に対して朴歩の形で避ける。

 

飛び越えていった美雨とあきらが振り向くよりも早く彼が動き、果敢に攻め込んでくるのだ。

 

「守りの力だけでは足りない、攻め込む力は最高の守りにもなる。()()()()()()()()()()()

 

彼の打撃の数々を打ち払った彼女達が次々と回し蹴りを放ち、彼は防戦一方となっていく。

 

彼の言葉通り攻め込む暴力は最高の守りにもなるのだ。

 

「くっ!?」

 

美雨の斧刃脚を膝の裏に浴びた尚紀が片膝をつき、隙が生まれた男に対してあきらが仕掛ける。

 

「ヤァァァーーーッッ!!!」

 

豪快な踵落としが迫る中、両腕を十字に構えて踵蹴りを受け止める。

 

身動きを止められた彼に踏み込み蹴りを放つ美雨に対して受け止める踵落としを受け流す。

 

「ぐあっ!?」

 

受け流されて体勢を美雨側に流されたあきらに目掛けて踏み込み蹴りが決まってしまう。

 

「ご、ごめんヨ!!」

 

誤爆したあきらを気にして隙が生まれた美雨の顎に目掛けて放つのは片手を地につける一撃。

 

「ゴフッ!?」

 

穿弓腿(せんきゅうたい)の真上蹴りで顎を蹴り上げられた美雨が大きく倒れ込む。

 

着地した彼があきらに向き直った瞬間、背後から首に目掛けて薙刀の柄を回しこまれてしまう。

 

「あきらさん!今です!!」

 

脳震盪から回復した明日香に拘束された男が動けない隙をあきらは見逃さない。

 

「一意専心!!この拳にボクの全部を乗せる!!」

 

踏み込んできたあきらが放つ必殺の正拳突きに対し、薙刀の柄を両手で掴む者が動く。

 

腰に明日香を乗せる形で前方に投げ飛ばしたことで明日香の体を盾として使うのだ。

 

「ぐはぁ!!?」

 

明日香の背中に渾身の正拳突きが決まったことで彼女の背骨を砕く程の一撃となってしまう。

 

「あ、明日香ーーッッ!!?」

 

乱戦中であったがささらが割り込んできて倒れ込んだ明日香の背中に回復魔法をかけていく。

 

「む…無念です…それでもこれは武人同士の真剣勝負…恨むつもりはありません…」

 

「明日香はよく頑張ったよ…後はあきらと美雨に任せたらいい…」

 

仲間に誤爆させた自分の未熟さを気にして隙が生まれているあきらに対して一気に踏み込む。

 

「グワァァァァァーーーーッッ!!?」

 

カンフータックルともいえる鉄山靠がヒットしたあきらが壁に向かって弾き飛ばされる。

 

備え付けられていた木人椿にぶつかった事で使い込まれていた鍛錬道具が壊れてしまう。

 

そのまま壁に叩きつけられたあきらの体が倒れ込むのだが不屈の意思で立ち上がろうとする。

 

「まだやれる…これが最後の機会なんだ…ボクの全てを尚紀さんに……?」

 

顔を上げた瞬間、トドメの一撃が彼女の頬を打ち抜いている。

 

跳躍突きを放つ箭疾歩(せんしっぽ)がクリーンヒットした事であきらは失神してしまうのだ。

 

「…本当に強いヨ、ナオキ。一緒に鍛錬出来た日々は私にとて…人生で一番大事な日々だたネ」

 

残された美雨が舞うような演舞を行った後、最後の勝負を挑むために構えてくる。

 

「美雨…お前が架け橋になってくれたからこそ神浜の者達と出会えたんだ。本当に感謝してる」

 

「私も感謝してるネ…勝ても負けても恨みは無し……さぁ、勝負ヨ!!」

 

互いが歩んでいき、間合いに入り込んだ瞬間に激しい拳打の応酬が繰り広げられていく。

 

互いの突き、互いの蹴り足がぶつかり合い、それでも美雨は全てを彼に叩きつける。

 

連続した蹴り足を捌く彼の腹部に蹴り足が決まった事で後退りしていく。

 

その隙を狙う一撃として大きく跳躍した美雨が体を360度回転させる浴びせ蹴りを放つ。

 

「たとえ暴力を振るう側である悪になろうとも…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

鈍化した世界。

 

迫りくる美雨の蹴り足が決まるよりも先に放たれたのは地面を踏み砕く一撃。

 

「アァァァァーーーーッッ!!!」

 

美雨の回転蹴り足が落ちてくるよりも先に腹部に決まったのは縦拳アッパーカット。

 

地面が大きく砕け散る程の沈墜勁を用いた通天砲の一撃が決まった彼女が弾かれてしまう。

 

倒れ込んだあきらの横にまで弾き飛ばされた美雨は吐血をする程にまで内臓を痛めたようだ。

 

「勝負あり!!これ以上は殺し合いになる…騎士道精神に則り、ここまでとするわ!!」

 

立会人の叫びの元、勝負ありと宣言された事で尚紀は構えを解いてくれる。

 

明日香の背骨を治療したささらが美雨達の元にも駆け寄って回復魔法をかけていくのだ。

 

「全く無茶し過ぎよ…貴女達。武術馬鹿になり過ぎると脳味噌まで筋肉になっちゃうの?」

 

「フッ…フフ…私達には私達なりの流儀があるヨ…。ナオキを恨まないでやて欲しいネ…」

 

回復魔法で傷を癒しながらも自分の鍛錬場がボロボロになった光景を見て溜息をついてしまう。

 

意識を取り戻したあきらは姿が見えない尚紀が何処に行ったのかと考えているようだ。

 

そんな時、ガレージの外に出ていた彼が何かを担いでやってくる。

 

「ナ、ナオキ…それは何ネ…?」

 

「お前らが欲しいって駄々こねてたものだよ」

 

右肩に担いでいるのは美雨が欲しがっていた新しい木人椿であり、左手にも袋を抱えている。

 

鍛錬の積み重ねで摩耗した末に壊れた木人椿の横に新しいのを置いた後、彼女達の元にくる。

 

「これってもしかして…ボクが欲しがってた…甘ロリ界で今トレンドの服じゃないか!?」

 

「こういう品を買いに行かされる男の気持ちにもなってみろ…恥ずかしくて堪らなかったぞ」

 

「ボクと美雨のために用意してくれたんだね…尚紀さん…?」

 

「明日香、お前にもある。武家の女もオシャレはしたいって言ってたろ?」

 

「あっ!?これはまさか…私が欲しがってた花びらかんざしですか!?本当にいいんですか?」

 

「貰ってくれ。俺を相手にここまでの勝負をしてくれた魔法少女達への…せめてもの礼だ」

 

別れることになる内容を伝え終えたことで別れが辛い女達の目にも涙が溢れていく。

 

そんな武術家娘達のためにこそ、彼は同じ武術家として最後の言葉を送るのだろう。

 

「いいか…武術とは陰陽理論であり、これは状況判断にも応用が利く。偏見に支配されるなよ」

 

「武の守りは秩序や平和になる…攻めは秩序を破壊する混沌の暴力にもなる…そういうこと?」

 

「秩序を守ってるだけでは独裁者から一方的に攻め込まれて滅ぼされる…攻め込むのも必要だ」

 

「攻撃は最大の防御と言いますからね…ですがそれでは…秩序や平和を破壊する者になる…」

 

「明日香、武家の女だから忠誠を重んじるのは分かる。だが主君が道を外した時…どうする?」

 

「そ、それは…その……」

 

「平和や秩序を守るだけでは独裁者に抵抗出来ない。悪の概念である反逆もまた必要なんだよ」

 

「誰かを守る秩序と…誰かを殺す混沌は表裏一体…そういうことなのカ…ナオキ…?」

 

「真の名君が統治する国が平和な状態ならば秩序を選べ…暗君が統治する地獄なら全力で抗え」

 

「拳法も政治も陰陽理論…常に変化する状況に対応するために…両方が必要になるんだね…?」

 

「水のような心を持て、美雨、あきら、明日香。武を司るお前達だからこそ両方を使いこなせ」

 

水の神を宿した人修羅だからこそ、武人として生きる魔法少女達にも水の心得を伝えてくれる。

 

美雨、あきら、明日香の精神には水の精神を宿らせることが出来ると彼は信じているのだ。

 

「俺が求める世の在り方とは()()()()…だからこそ知恵のななか達だけでなくお前達も必要だ」

 

「知恵と力は表裏一体…どちらが欠けても対応出来ない問題が生まれるんですね…?」

 

「俺が遠くに行っても…ななかとかこを支えてやってくれ。知恵と力が揃って一人前なんだ」

 

最後のインストラクションを託した尚紀が笑顔を浮かべてくれた時、美雨が起き上がる。

 

彼に抱き着く彼女の目には大粒の涙が零れてしまうようだ。

 

「行かないで…ナオキ…!!私にはナオキが必要ネ…私の生きる目標になて欲しいヨ…!!」

 

美雨に突き動かされたあきらや明日香達まで彼に抱き着き、大粒の涙を零していく。

 

そんな武術家娘達を抱きしめてくれる尚紀は男として彼女達を導けたことに誇りを持つだろう。

 

「お前達と出会えて幸運だった…お前達と育んだ武の精神は…俺の中で永遠に生き続けるさ…」

 

彼女達と別れることになった尚紀は駐車場に停めてある車に戻る途中で立ち止まる。

 

右腕の袖を捲り上げると南津涼子からもらった数珠が巻き付けられてあったようだ。

 

「悪いな…涼子。俺は人を傷つけた武の力を解放する…片方だけを封印すればいいではダメだ」

 

魔法少女の虐殺者としての人修羅を封印するために与えられた数珠の拘束を自ら解く。

 

それは再び虐殺者に戻ることを意味しており、涼子との誓いを破ることになるだろう。

 

「仏教においても力は必要だ…本当に仏教が戦う力を否定するなら少林寺の武術は生まれない」

 

中国拳法のルーツと言われる少林寺に拳法を伝えた存在こそがインドから来た達磨大師(だるまたいし)である。

 

座禅を組んで瞑想するだけでは体が弱るし、獰猛な獣や山賊からも身を守れないと彼は考える。

 

だからこそ彼は戦う力である武もまた仏教に必要だと判断し、達磨易筋経を生んだのだ。

 

「唐の建国時期も少林寺の僧兵達が活躍した…だからこそ俺も…僧兵達のようになろう」

 

人修羅が求める文武両道こそが魔法少女達だけでなく、全ての人々の未来を守ると彼は信じる。

 

自由民主主義とは個の確立があって完成するものであり、()()()()()()()()()()()()()()()()

 




マギレコの美雨ちゃんにあきらちゃんにあすきゃんもゲーム内属性は水なんですよね。
だからこんな話を描いてみました。
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