人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
「…そうか。いい就職先を見つけたから…高校は中退することにするんだな?」
和泉十七夜の家では娘に集められた家族の者達が家族会議を行っている。
沈痛な表情をしながら決意を語る十七夜の家族達も複雑な表情を浮かべてしまう。
「うむっ…自分はメイド喫茶で働けなくなったからな…だから新しい就職先に就こうと思う」
「だけど…せめて高校ぐらいは卒業させてもらえないの?それまで待ってはくれないの?」
「グローバルに展開するグループ企業に勤めるために…これから様々な語学を学ぶ必要がある」
「それでもな…高校中退では日本で暮らし辛いぞ。日本は酷過ぎる学歴社会だからな…」
「自分の雇い主になった銀子さんはこう言ってる。学歴よりも一芸に秀でた方が優れてるとな」
「それは…そうよね。学歴なんて所詮は御飾…企業で務めるなら能力や成果こそ全てのはずよ」
「日本の学歴社会は欧米から見れば酷いコンプレックス社会だと言われた…その通りだと思う」
日本の有名な実業家はこんな言葉を残している。
日本社会において東大は卒業してもしなくても特に差はない。
東大に入ったことが大きな信用とブランドになる。
それを僕はもう獲得してきた、東大生ブランドという実利的に得るべきものは得た。
「日本社会はブランド主義…権威に弱い権威主義民族では真の教養は期待出来ないと言われた」
「コンプレックスがそうさせるのね…私達日本人はなんて愚かな価値観に支配されてきたの…」
「能力や人格で大切なのは均衡だと伝えられた…そう思えばコンプレックスを克服出来るとな」
「
「東の者という劣等感に塗れてきたから…平等という虚構に惑わされる操り人形だったわね…」
神浜テロを起こした東の者として自分達が暴徒になった原因に触れた両親は押し黙ってしまう。
その気持ちに支配されたのは娘も同じであり、尚紀と銀子の導きが必要なのだと感じている。
「お陰で自己肯定感を自分は得られた。真の教養とは
日本のシステムが大学卒業ではなく、受験や入学に力を注いでいるのは知られているはず。
このため入口が狭くなる分、教養を学ぶ機会が減ってしまうから自ずと学歴信仰が生まれる。
本来なら好きなことを学べる大学に入って猛勉強してから卒業するという仕組みにするべき。
人間の価値とは学歴や偏差値ではない、
「受験と偏差値が全てだと刷り込まれた価値観は捨てる。自分は真の教養を得た人になりたい」
「…娘にこれ程までの慧眼を与えてくれる御方の下で働けるんだ。こんな幸せなことはないな」
「分かった…高校中退手続きは私達がしてあげる。これからの人生の準備をするといいわ」
「理解してくれて恩に着るぞ…」
織莉子と同じく人生を清算する準備をしていた時、ずっと黙っていた弟が口を開きだす。
「…姉ちゃんだけを働かせて…俺はのうのうと学生をやってる。本当に…恥ずかしい気分だ…」
顔を俯けたまま震えてしまうのは姉にばかり頼り切りな男の自分が情けない気持ちなのだろう。
「こんなことなら就職して働いてたら良かった…姉ちゃんに学生時代の青春を残したかった…」
「壮月……」
悔しくて薄っすら涙が浮かんでいる弟の肩に優しく手を置く姉がこう言ってくれる。
「八雲から聞かされているぞ…東の人々の罪を償うためのボランティアをしてるとな」
「そ…そうだけど…それだって働く姉ちゃんの助けがあったから出来たことだし…」
「罪から逃げずに背負い、償いが出来る者など殆どいない。ましてや他人の罪を背負うのだ」
「俺はテロに参加しなかったけど…あれは東の連中が犯した罪だ…だから他人事じゃないよ…」
「そう思える程にまで責任を背負う東の者など見かけない。八雲と同じぐらい誇らしい弟だ…」
「姉ちゃん……お…俺……」
「弟や家族を支えるためにこそ自分は命を懸けて働きたい。そして…国の未来のために働こう」
優しい微笑みを浮かべてくれる姉に顔を向ける家族のためにこそ、彼女は命を懸けられる者。
八雲みたまと同じ償いの道でなくとも、自分にしか出来ない償いの道があると信じる女なのだ。
「自分なんて単独では生きられなかったちっぽけな女だ…だからこそ皆が暮らす社会を救う…」
――民族や国家社会という家族は支え合い、助け合う……当然のことだ。
たとえムカつく連中であっても社会を支えてくれている人間がいるからこそ自分は生きられる。
もしそんなムカつく赤の他人共などどうでもいいと思うなら、無人島にでも行ったらいい。
資源採取や生産や販売を行う人間がいない場所で消費生活が出来るものならやってみるがいい。
魔法が使えようが停電一つで生活が困るぐらい魔法少女は小さく、社会が彼女達を支えてきた。
人間社会とはそれ程までに価値のあるものであり、だからこそ社会を守るために戦い続ける。
家族、学校、会社、公共、国、民族、あらゆる社会を守るためにこそ和泉十七夜は戦い抜く。
その覚悟を得られた彼女もまた人間社会主義に目覚めた者であり、尚紀と同じ思想を心に宿す。
「ハァ!ハァ…!十七夜さん…本当に…一緒に通ったこの学校を辞めちゃうんですか…!?」
高校を中退するため家族と共に学校に訪れていた十七夜に駆け寄るのはみたまとメルである。
「メルちゃんから知らせを聞いて私も慌てて駆けつけたわ…これは一体どういう事よ!?」
「君達にも話さなければならないな…彼女達と話たいから先に帰っていてくれ」
家族と別れた十七夜に連れられた者達が学校の中庭の椅子に座った後、事情を説明される。
「そういう理由があって…神浜に戻って来てからも忙しそうにしてたんですね…十七夜さん」
「業魔殿の会員制クラブを経営してる人の下で働くのね…だけど中退する必要があるの…?」
「銀子さんはグローバルに仕事を展開する人だ。自分は海外で働くための研修が待っている」
「メイド喫茶が閉店しちゃったせいですか…?だから海外に行っちゃうんですか…?」
「その通り…この街で生まれ育った者として街を去るのは辛い…それでも自分は決めたんだ…」
今にも泣きそうなメルや親友が心配で堪らない表情を浮かべるみたまに対して顔を俯ける。
それでも覚悟を決めた女だからこそ、美国織莉子と同じく別れの言葉を残してくれるのだ。
「八雲…安名…こんな自分の友達になってくれて本当に有難う…絶対に君達を忘れないぞ…」
涙を流しながら顔を上げた十七夜を見た少女達まで涙が溢れ出し、互いが抱きしめ合っていく。
固まりながら抱きしめ合う愛しい者達の未来のためにこそ、優しい嘘を付く女となるだろう。
その決断を示す者は織莉子や十七夜だけではない、尚紀もまた決断を示す日がきたのであった。
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「テメェは……正気なのかよぉぉーーーーッッ!!?」
大声を上げながら叫ぶのは尚紀の師匠を務めてきたセイテンタイセイである。
家に集まった仲魔達も酷く混乱しており、彼がやろうとしている狂気を止めようとするのだ。
「いけません尚紀!!ルシファーの誘いに乗るということは…貴方は魔王に戻るんですよ!?」
「そうだニャ!今までどれだけの惨劇を目にしたのかは聞かされたニャ…なのにどうして!?」
「必要だからだ」
尚紀を止めようとするタルトやケットシー達ではあるが、彼は微動だにせず決意を譲らない。
「俺は世界と戦争してでもこの世界に変革をもたらしたい。それには巨大な権力が必要だ」
家の方から聞こえてくる罵声の叫びはガレージ内にいるクリスにも聞こえている。
愛する主人が鬼畜の魔王になろうというのなら彼女だって気持ちとしてはついて行きたくない。
だからこそ思い直して欲しいと彼を説得し続ける仲魔達を心から応援してしまうのだ。
「テメェも散々見てきたろ!1・28事件!神浜テロ!生体エナジー協会や東京で見たろ!!」
「見てきたさ…だから何だ?連中が鬼畜であろうと世界の権力を牛耳るのなら…奴らは必要だ」
「奴らは魔法少女を消費物としてしか見てない外道共だ!そんな奴らと肩を並べるのかよ!?」
「そうなるな。人間や魔法少女を守ろうとしてきたが…もう俺では無理だ。俺では守れない」
「だから全てを見捨てて古巣に帰り…権力者の仲魔入りを果たして支配者になりたいのか!?」
「その通りだとも」
激怒したセイテンタイセイが彼の胸倉を掴んで強引に立たせた後、力の限り罵倒してくる。
「テメェの道は何だ?アァ!?弱い者を守り抜きたい社会主義者じゃなかったのか…エェ!?」
「社会主義の中身はユダヤの選民主義。所詮この世は弱肉強食…弱い連中は死ぬしかないんだ」
「虐殺の償いとして政治を求めたテメェは何処にいった!?常盤お嬢ちゃんに何て言った!?」
「政治ならルシファーの元に帰ってからやっていくさ。もっとも…その政治は独裁になるがな」
「おい…俺様達だけじゃなく…二匹の犬っころやリズも何とか言えよ!こいつを止めろよ!!」
怒りの形相を送ってくる者に対してクーフーリンとケルベロスとリズの顔が俯いてしまう。
「テメェらはこいつに忠誠を示したんだろ!?主君の暴走を止める諌言をしやがれよ!!」
「…私は主君を守る剣よ。主君が地獄に進みたいというのなら…お供をするだけよ」
「そ…そんな…リズ…貴女まで何てことを言い出すんです!?」
「我ハ人修羅ノ可能性ヲ見極メル為ニ汝ラトトモニイル者ダ。何処ニイコウガ役目ハカワラン」
「テメェらまでそんな態度なのかよ…見損なったぜ!!もう一匹の犬っころは違うよな!?」
セイテンタイセイと共に人修羅を守ってきたクーフーリンならばと彼を問い詰める。
すると彼は首を横に振り、信じられない言葉を言い始めるのだ。
「尚紀を行かせてやれ。他の連中の面倒ならば私が見てやろう」
「な…なんだとぉ!?」
「私はもうその男に愛想が尽きた…何処にでも消えるがいい。弱き者達を守る役目は私が継ぐ」
「テメェまでとち狂いやがって……目を覚ませよ……お前らァァァーーッッ!!!」
尚紀を掴んだ手を離したセイテンタイセイが拳を振り上げながらクーフーリンを殴りつける。
大きく弾き飛ばされた彼の体は台所の方にまで飛んでいき、壁を貫く程の光景を生むのだ。
「もうやめて……お願いだから……もうやめてェェェェーーッッ!!」
泣き喚きながら膝を崩したのはネコマタであり、人修羅に拾われた思い出を語っていく。
「私はね…尚紀の仲魔になれたことが最高の幸せだったのよ…ケットシーだって同じよ…」
「尚紀に拾われなかったら…オイラは雨で凍え死んでた子猫だニャ…ここが居場所だニャ…」
「私達の居場所は尚紀の傍だけよ…私達の居場所を奪わないで…お願いだから行かないでぇ!」
「オイラの飼い主は尚紀だニャ!!それ以外なんて求めない…だから見捨てないでニャ…!!」
涙を零しながら行かないでくれと哀願してくる猫悪魔達を抱きしめるタルトも叫んでくる。
「私は貴方こそがマスターとニコラスさんの後継者だと信じてます!だから…行かないでぇ!」
タルトまで涙を零し始める光景の中、無言を貫く尚紀は背中を向けたまま沈黙している。
しかし彼から恐ろしい気配を感じ取った者達の表情が凍り付き、体も震えてしまうのだ。
「…どいつもこいつも、悪魔の恥晒し共め。俺の道について来れない弱者など…必要ない」
――俺が求めるヨスガとは力の道、弱者を踏み潰す覇道を進めないなら…今すぐ消えろ。
まるでアマラ深界の最奥から戻ってきた頃のような人修羅の言葉に皆が戦慄してしまう。
だが、そんな人修羅の姿を知っている師匠だからこそ止めようとするのだ。
「ぐっ!!?」
悪魔化したセイテンタイセイの如意棒の一撃を後頭部に浴びた尚紀が弾き飛ばされる。
窓ガラスを砕いて外に転がった彼の下へと歩いてくる師匠の体からは殺気が放たれていく。
「…再び堕ちたか、尚紀?今のテメェはアマラの最奥に進んだ果てに心が死んだ頃のようだ」
如意棒を消した師匠が両手をボキボキ鳴らしながら迫ってくる中、尚紀も悪魔化していく。
人修羅の姿と化した彼が首をボキボキ鳴らしながら不敵な笑みを浮かべた後、こう告げる。
「如意棒は使わないのか?舐められたもんだぜ…」
「堕ちたテメェなんぞ拳だけで十分だ。こんな奴を弟子にした俺様が愚かだったぜ…」
「本気で来るんだな…いいだろう。あんたから学んできた全てを使って叩きのめしてやる」
「復讐欲の次は権力欲に狂いやがって…そんなバカ弟子に引導を渡すのも…師匠の務めだな」
互いが両手を持ち上げていき、同時に行うのは抱拳礼である。
彼らが行った抱拳礼は武を司る右手で平和を司る左手の拳を包み込む形。
その礼は武術家同士の決闘を表すものであり、死闘をもって相手の命を奪うと宣言するもの。
この世界で出会った師匠ともいえる関羽と同じく、再び師匠と殺し合いを行う覚悟なのだ。
「へぇ…俺様が教えなかった礼儀作法まで学んだか。いい師匠に出会えたのに…情けない奴だ」
「俺の師となった関羽なら俺が葬った。俺に情けを期待するな…俺を止めるならば貴様も葬る」
「覆水盆に返らず。一度起きたことは戻らない…やはりテメェの心の中には悪魔が潜んでいた」
同時に構える者達の全身から殺意が放出されていく。
止めることも出来ない仲魔達は大切な人達が潰し合う光景を固唾を飲んで見守っていった。
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これは尚紀に呼び出されたクーフーリンとリズとケルベロスに決意を語った日の出来事だ。
屋敷の応接間にやってきた者達に対して沈痛な表情を浮かべながら決断内容を語っていく。
聞かされた者達の顔には動揺が浮かぶのだが、ケルベロスは平然としているようだ。
「…獅子身中ノ虫トシテ、鬼畜外道ニ堕チヨウトモカマワン。我ハ人修羅ニツイテイクゾ」
「…お前はイザナギとイザナミから派遣された者として…最後まで俺を見届けるんだな?」
「ソノトオリダ。彼ラハ完全ナ悪魔ニナッタ人修羅ニサエ未来ヲ託シタ者達…我モオナジダ」
「そうか…ならば覚悟を決めろ、ケルベロス。地獄の番犬らしく振舞うのを忘れるなよ」
「承知シタ…コレヨリ我ハ獰猛ナ獣トシテ在ロウ。弱者共ヲ容赦ナク喰ラウ獣トナロウ」
「それが本来のケルベロス一族の在り方だったな……それで?お前達はどうするんだ?」
顔を俯けたまま震えている師弟であったが、それでも辛い決断を浮かべた師匠が顔を上げる。
その目には覚悟が宿っており、愛する者達と別れる辛さを超えようとする強き眼差しがあった。
「私の中のスカアハはね…貴方と共にボルテクスを超えた者。完全な悪魔の貴方に従った者よ」
「そうだったな…心を失った頃の俺が邪教の館で生み出したスカアハがお前に宿ってたな…」
「そのスカアハはこの世界の百年戦争時代の頃にリズと出会った者よ…もっとも死後だけどね」
イングランドの魔法少女と同士討ちを狙って地獄門に飛び降りたリズの体は滅びてしまう。
ソウルジェムを残した状態で半径百メートルを超えた者として死体となり、影の国に堕ちる。
そこでリズの死体を見つけた存在こそが影の国の女王であったスカアハだったと語るのだ。
「彼女は私のオリジナルを不憫に思い…丁重に埋葬してくれた。それに敵の面倒も見てくれた」
不死の存在となったイングランド魔法少女は影の国の女王に囚われた末に永遠の拷問を受ける。
スカアハとは残酷なスカディでもあり、彼女に囚われた者は永遠の地獄に連れていかれるのだ。
「俺もスカディが生んだ地獄に連れていかれた経験がある…あそこに囚われたら終わりだな…」
「スカアハはリズにもう一度生を与えたいと思った女神よ。だからこそペレネルと出会ったの」
ペレネルに邪教の知恵である悪魔合体知識を授けたスカアハは自らを合体材料にしてくれる。
悪魔合体を用いて生み出された最初の造魔こそが目の前のリズ・ホークウッドだったのだろう。
「スカアハの気持ちを考えれば…お前は連れていけない。ペレネルの気持ちだってあるんだ」
「スカアハとペレネルの気持ちは嬉しい…造魔であったけれど…もう一度人生を生きられた…」
「お前は残るんだ…リズ。お前まで俺と一緒に行ったら…誰がジャンヌを守るんだよ…?」
タルトのことを出された事で胸が締め付けられるリズの手が握り込まれて震えていく。
それでも彼女は人修羅に剣を捧げた臣下としての誇りがあるからこそ、こう言うのだろう。
「タルトはね…生前のタルトと同じ心を手に入れた。もう1人で歩けるわ…私がいなくてもね」
「お前まで…お前まで生前のリズと同じ決断をするのか!?彼女を残して滅びるというのか!」
「それがきっと…私の中に溶けたリズ・ホークウッドの肉塊に宿った…血の意思なのよ…」
「ジャンヌはイレギュラーとなった者だ!造魔の彼女が生んだ穢れを取り除けなくなるぞ!!」
「それだって他の悪魔で代用が出来るわ。彼女は造魔の魔法少女…だからこそ悪魔が支えれる」
「リズ……」
「生前のリズは
――私に本物の英雄となってくれる主君を与えて頂戴……我が主人よ。
生前のリズ・ホークウッドは傭兵一族の生まれであり、忌み嫌われた少女である。
金次第で主君をいくらでも裏切る戦争の犬だったからこそ虐められてきたのだろう。
だからこそ彼女は本物の英雄を生み、英雄と共に活躍出来ることに希望を見出していく。
その思いはジャンヌ・ダルクと出会う運命を与え、そして人修羅と出会う運命となったのだ。
「……私も決断が出来たぞ、尚紀」
重い表情を浮かべていたクーフーリンも顔を上げた後、頷いてくれる。
「師匠…私にジャンヌを託してくれ。私が彼女を人間として死ぬまで生かし続けてみせよう」
「セタンタ…それでいいの?貴方はクランの猛犬と呼ばれる程の武闘派だというのに…」
「私だって…尚紀と共に戦いたい。それでも私は彼の臣下…臣下だからこそ…出来る事がある」
「槍一郎…いや、クーフーリン…俺のために…武功を立てる槍を下ろしてくれるのか…?」
「たとえ腰抜けと蔑まれようとも私は主君に尽くしたい…主君の後顧の憂いを…断ちたいんだ」
握り込まれた拳は震え抜き、武人として断腸の思いで決断を下したのだと分かるだろう。
そんな仲魔の覚悟を与えてくれたことで人修羅の目が見開き、立ち上がって近寄ってくれる。
「お前こそ…お前こそ…俺の最高の仲魔だ。お前がいてくれたからこそ…俺は戦場に行ける…」
「我が主君よ…私の分まで戦ってくれ。私も守りたい者達が出来た…だからこそ神浜に残ろう」
クーフーリンの誓いを受け止めた人修羅も頷き、右手を差し伸ばしてくる。
差し伸べられた主君の右手をハイタッチしてくれる臣下の手が打ち鳴らされていく。
そして互いの右手を掴み合い、友情を示した後に引き寄せられながら抱きしめられるのだ。
「俺の友よ…お前こそが俺の後継者だ。だからこそお前のために…俺の全てを残そう」
「有難う…人修羅…いや、嘉嶋尚紀。お前と出会い…尽くせた人生に…悔いはなかった…」
感極まって泣いてしまうクーフーリンの両肩を優しく叩いた後、尚紀は机に向かっていく。
置かれていたクラフト封筒には膨大な書類が入っており、クーフーリンの前に持ってくる。
「これはリズのために用意していた遺産手続き関連の書類なんだが…書き直させよう」
「セタンタ…貴方こそがペレネルとニコラス、そして尚紀の遺産を受け継ぐ者になるのよ」
「俺は行方不明扱いとなる…行方不明後の7年間は代理人を用意する。後は俺の遺言書を使え」
「承ろう…我が主君よ。残してくれる遺産を引き継ぎ…大事な人達を守るために役立てよう…」
「ケットシー達や神浜の魔法少女達…それに俺が残す嘉嶋会を守ってくれ。頼んだぞ……友よ」
こうしてリズとケルベロスは尚紀と共に神浜を去る決断をし、クーフーリンは残る決断を下す。
彼らはたとえ憎まれ役を演じることになろうとも尚紀に忠義を尽くす者になるだろう。
それこそが臣下の務めと信じ、そんな忠義を示す者達こそ
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「「ハァ……ハァ……ハァ……ッッ!!」」
互いに片膝をつく人修羅とセイテンタイセイ達の体はズタボロであり、実力は互角を示す。
クンフーだけで挑んでくる師匠の覚悟に応えた彼もまた魔法を使わない戦いをしたのだろう。
師匠と並ぶ程の域にまで達したと判断したセイテンタイセイが不敵な笑みを浮かべるのだ。
「へっ…強くなりやがって。どうしてその力を…魔法少女達のために残してやれなかった…」
「言ったはずだ…俺の道はヨスガとなると…。ヨスガの道に弱き者達は必要ないんだ…」
「テメェは本気で言ってんのか…?選民主義を憎んだからこそ唯一神を呪った男だろうが!!」
「そうだ…俺は唯一神を憎んだ男だ…。だからこそ俺は本物の悪魔として…最終戦争に行く…」
「テメェだって唯一神と変わらねぇ!弱者を切り捨てる在り方を憎んだ男がミイラになるか!」
「そうだとも…俺はミイラだ。だからこそ俺はミイラとして…
「お…お前……」
口や態度で傲慢な男を演じていようが、その目はセイテンタイセイと共に在った頃と同じもの。
誰かのために命を懸けてでも戦い抜いた人修羅の強き眼差しが宿っていると感じたのだろう。
大きく溜息をついた後、立ち上がったセイテンタイセイが口笛を大きく吹き鳴らす。
空からやってきたのは筋斗雲であり、飛び乗った師匠が最後にこんな言葉を残すだろう。
「ケッ…やってられねーな。俺様は好きに生きさせてもらう…この街ともおさらばしてやるさ」
「勝手にしろ…俺は止めない。
「へっ…それが悪魔の在り方ってもんだったな。お互いに後悔しないよう…生き抜いてみせろ」
飛び去って行った師匠の姿を見送った後、踵を返した人修羅も去っていく。
7月が近いというのに冷たい夜風が吹き抜け、彼が纏う黒のトレンチコートの裾を揺らす。
痣だらけになった人修羅は迷いのない眼差しを浮かべながら去っていく後ろ姿を残すだろう。
もう二度と会えない男になると悟った仲魔達が大声を上げながら帰って来てくれと叫ぶ。
それでも彼の足は止まらず、二度と帰らないと決めた場所から消えていくだろう。
「……我ラモイクカ、リズ」
「ええ……行きましょう、ケルベロス。二度と帰れない戦場へとね…」
「えっ……ちょっと…リズ!?ケルベロスまで…ッッ!!?」
タルトの制止を振り切ったリズとケルベロスもまた人修羅の背中に続いていく。
「待って…待ってくれだニャ!!こんな別れは嫌だニャ…オイラ達も連れて行ってニャ!!」
「そうよ!!私達の飼い主は貴方以外は嫌だって言ったでしょ!!死ぬまでお供させてよ!!」
クーフーリンの制止を振り切り、ケットシーとネコマタまで駆けだしていく。
そんな者達の進路を塞いだのはガレージから飛び出してきたクリスの車体なのだ。
「ダーリンの邪魔するんじゃないわよ……あんた達!!」
「何言ってるニャ!?クリスだって大事な人が去っていくのに…どうして邪魔するニャ!!」
「ケットシーの言う通りよ!!彼の事を愛してるんでしょ…?だったら止めなさいよ!!」
「愛してる…心からダーリンを愛してる…だからこそ…男の背中を送り出したくなったの!!」
「愛しているからこそ…背中を送り出すですって…?」
「ダーリンは皆の為に自己犠牲を選んだわ!あの人の在り方こそアタシが愛した父性なの!!」
人々の二度とない人生を幸福にしたいと思った男は人生を捨ててでも守る自己犠牲を示す。
そのためなら汚辱も罵倒の雨さえも体を前に向けながら全てを受け止めきる程の道を示す。
その在り方こそ悲しい男の生き様であり、残す者達に幸在れと戦場に消えていく。
それこそが古今東西の戦場で散っていった男達の背中であり、彼も同じ道を生きるだろう。
「彼は皆の人生を守りに行ったの!自分の人生や尊厳さえ捨ててでも…守りに行ったのよ!!」
ついに我慢出来なくなったクリスの叫びによって尚紀がどのような思いで去るのかを理解する。
その言葉で心も体も打ち付けられたタルトが魔法少女姿となり、弾かれるようにして跳躍する。
<<待ってください!!私も…私もお供させてください!!>>
山道を下り終えようとした時、背後からタルトが駆けつけてくる。
背中を向けたまま立ち止まる者達に対して涙ながらにタルトは叫ぶのだ。
「皆を遠ざけてでも死地に赴くのですね?だったら私も行きます…この手を血で染めてでも!」
「ジャンヌ……」
「私の中には百年戦争時代を生きたタルトの血が宿ってます!戦場の悪魔にだってなれます!」
自分も貴方の臣下として命を共にさせて欲しいと哀願してくる。
そんなタルトの悲痛な思いを浴びる男の背中も震えてしまうのだ。
「…出来ない相談だ。お前を生んだペレネルはな…二度とお前に人殺しをやらせないと誓った」
造魔のタルトを生んだペレネルこそ、生前のタルトの死を誰よりも嘆いた者。
戦乱の時代であったせいで彼女も戦争に巻き込まれた末にその手を血で染める悪となる。
救国の英雄だと周りがもてはやそうとも、誰かの英雄は誰かの戦犯。
ジャンヌ・ダルクが殺戮した多くの骸の帰りを待つ者達は彼女を呪い、処刑しろと叫ぶのだ。
人を殺せば穴二つ、
殺戮は殺戮でしかなく、だからこそジャンヌ・ダルクは己の罪と共に焼き殺された者。
そんな人生を二度と彼女に味合わせないと誓ったペレネルの気持ちこそ尚紀の気持ちなのだ。
「お前は人間として生きろ…ジャンヌ。それこそがペレネルの願いであり…俺の望みだ」
「嫌です…私もついて行かせてください!!貴方のためなら私は死ねます!!」
「誰かの犠牲になるのはもう…俺達だけでいい。今度こそお前は…
振り向いてくれた彼の表情は先ほどとは打って変わり、元の尚紀の表情を浮かべている。
きっとこれが最後になるんだと分かっているタルトの目からは涙が止めどなく溢れていく。
「行かないで…私…貴方が大好きです…私だけでなく…魔法少女の皆だって…愛してます!!」
「俺だって愛している…だからこそ…誰かが彼女達を守る必要がある。頼まれてくれないか?」
「えっ…?私なんかが…神浜の魔法少女達の人生を…守る…?」
「お前もまた魔法少女になった造魔だ。だからこそ同じ魔法少女として…共にいてやれ」
「タルト…彼は私が支え切って見せるわ。だからね…これがきっと…今生の別れになるわ…」
「そんな…リズ…貴女まで私の元から去るんですか!?嫌です…そんなの…絶対に嫌ぁ!!」
両膝が崩れたまま泣き崩れるタルトの姿を見つめるリズの顔も悲痛にまで歪んでいく。
今の彼女はリズが死んだ日のタルトのようであり、最愛の妹を失った日のタルトのようである。
リズの記憶をもつ造魔だからこそ心が張り裂けそうになるのだろう。
泣きじゃくることしか出来ないタルトのソウルジェムが絶望の光まで生み出していく。
そんな彼女の元へと近寄ってきた人修羅が片膝をついた後、ソウルジェムに手を近づけるのだ。
「あっ……?」
絶望の穢れを吸い出した事でタルトのソウルジェムが輝きを取り戻す。
そして彼はタルトを抱きしめた後、最後の言葉を送ってくれるのだ。
「俺はペレネルを守れなかった負け犬だ…それでもな…おふくろの願いぐらいは守らせてくれ」
負け犬としてしか生きられなかった人修羅の最後の意地を残したい。
その気持ちが伝わったことで彼もまた最愛の人達を守れなかった者なのだと理解してくれる。
「貴方の気持ちは…生前のタルトが魔法少女になった時のものです…本当に行くんですね…?」
「…行ってくる。ジャンヌ…いや、タルト…。お前と過ごせた俺の日々は…光り輝いていたよ」
最後の笑顔を見せてくれる尚紀の覚悟を受け止めてくれたタルトが片膝立ちとなる。
両手を持ち上げながらその手に生み出すものこそ、百年戦争時代の旗槍なのだ。
「尚紀…いいえ、我が主君よ。せめてこれだけでも…貴方様の御側に置いてください…」
「これはもしかして……?」
「この旗槍は見滝原の騒動の時に出会えた本物のジャンヌ・ダルクが私に託したものです…」
本物の救国の英雄ジャンヌ・ダルクがコピーのジャンヌ・ダルクに託した物こそ本物の魂。
本物の魂の旗槍の中にはコピーに過ぎなくても本物と同じ輝きを宿す造魔の魂さえも宿る。
だからこそ同じ救国の英雄となって欲しいと願いを託すために差し出すのだろう。
彼女の覚悟を受け止めるしかないと思った尚紀は頷いた後、左手で旗槍を掴んでくれる。
「お前を戦場に連れていくことは出来なくても…ジャンヌ・ダルクの魂だけは連れて行こう」
「有難き御言葉…感謝します。主君がいつでも帰ってきていいよう…留守は任せてください…」
「タルト…お前もクーフーリンに負けないぐらい…最高の仲魔だった。俺の留守を託すぞ…」
「身命に懸けてでも…お守りします。ですからどうか…どうか…帰ってきて…ください…」
顔を俯けたまま涙を零し続ける彼女の肩を優しく掴んだ後、尚紀達は夜の闇へと消えていく。
ついには堪え切れずに大泣きしてしまうタルトの横に立ったクーフーリンも肩に手を置く。
「主君の背中を見送ることもまた臣下の務めなのだろう…我々にとっては過ぎた主君だったな」
「グスッ…エッグ…はい…本物のジャンヌでさえ認めるぐらい…最高の…私達の主君でした…」
心から絆を結ぶことが出来る程の仲魔達と巡り合えた幸運を尚紀は感じていく。
口に出さなくても感謝の気持ちでいっぱいになる程、彼は愛する仲魔に恵まれた者だった。
メタルギア2のスネークとオタコンのガチ友情シーンを思い出しながら描いてみました。
蛇はやはり戦場に行くのがよく似合いますなぁ(メタルギア脳)