人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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318話 混沌王の帰還

失楽園とは旧約聖書の創世記における第3章の挿話である。

 

蛇に唆されたアダムとエヴァが神の禁を破って禁断の果実を食べた末に楽園を追放される。

 

ジョン・ミルトンの失楽園では大魔王ルシファーに誘惑された男女の再起を描いていく。

 

大魔王の謀略で楽園追放に至るもその罪を自覚して甘受し、楽園を去る人間の偉大さを描く。

 

この世界に流れ着いた人修羅もまた大魔王の謀略の果てに楽園を追放されることになるだろう。

 

しかし彼は己が犯した罪を自覚して甘受し、自らの意思で楽園を捨てようというのだ。

 

ミルトンの失楽園は後のキリスト教にも影響を与え、ルシファーの逸話に影響を与えていく。

 

ルシファーは唯一神の偉大さを知りつつも、服従よりも自由のために戦う者として敗北する。

 

その解釈変更によって大魔王ルシファーの在り方は一種の()()()()()さえ持つようになった。

 

……………。

 

「尚紀さん…一体何処に消えたんだよ…お願いだから行かないでくれ…ッッ!!」

 

夜空を飛ぶのは白鳥に変化した姿のももこであり、クルースニクの力を用いて捜索を続ける。

 

彼女を含めた悪魔少女はネコマタから哀願される程の連絡を受けたために捜索してくれるのだ。

 

空だけでなく地上ではみたま達が夜通し捜索活動を行い、みかづき荘組も協力している。

 

それだけでなくももことレナとかえでも動き、天音姉妹達も懸命な捜索活動を続けてくれる。

 

しかし尚紀達の足取りは全く掴めず、無駄な時間ばかりが過ぎていくしかないようだ。

 

「メルちゃん…お願いだから尚紀さんの行方を予知して!貴女だけが頼りなの!!」

 

「そんなこと言われたって…ボク…心が乱れ過ぎてて…予知の光景が上手く視えないんです…」

 

「姉ちゃ!!こんな場所でジッとしていたくないよ!今直ぐなおたんを探しに行こうよ!!」

 

「ダメよ、ミィ!!闇雲に探しても見つからないわ…だからこそ予知に頼るしかないの!!」

 

「みたま…みかげ…気持ちは分かるけど落ち着くんだ…。やちよ達も懸命に探してくれてる…」

 

「だけどかなえさん…私達…怖くて堪らないの…!尚紀さんが永遠にいなくなるかもって…!」

 

「なおたんと会えなくなるなんて…ミィは絶対に嫌!なおたんのお陰で今の皆がいるんだよ!」

 

必死の形相を浮かべるみたま達の気持ちはかなえも承知しており、彼女も沈痛な表情となる。

 

「あたしだって怖くて怖くて堪らない…それはメルも同じだ。彼女に無理はさせられないよ…」

 

かなえに促された八雲姉妹はメルに顔を向けた時、心が乱れ過ぎて膝を崩すメルが映る。

 

「行かないで…尚紀さん…あぁ…こんな時に役立たないボクなんて…ただの役立たずです!!」

 

「ご…ごめんなさい…メルちゃん…。私達も焦り過ぎてて…無理をさせちゃったわ…」

 

「とにかく今は足で彼を捜索するしかない…探偵捜査の基本は足だって…彼から教わったんだ」

 

集まっていた者達も捜索の輪に加わりながら神浜の街に広い布陣を敷きながら捜索していく。

 

一方、行方をくらましている尚紀達一行は大魔王勢力の神浜拠点ともいえる場所にいる。

 

彼らが潜伏している場所とは神浜中央区にあるセントラルタワー内だったようだ。

 

今夜の0時に迎えのヘリを送るとルシファーから伝えられており、彼らは屋上にいる。

 

擬態姿の者達はヘリポートで地上の街を見下ろしながら物思いに耽っていたのだ。

 

高層ビルのヘリポートで佇む尚紀の視線は街ではなく地平線の彼方に向いている。

 

彼に見えている景色は神浜の街ではなく、違う思い出の世界の景色が見えていた。

 

「……コノ臭イハ吸血鬼共カ?デテコイ、イルノハワカッテイルゾ」

 

ケルベロスの嗅覚を誤魔化せなかった悪魔少女達がヘリポートフロアに飛んでくる。

 

その姿は大きな蝙蝠であり、黒い蝙蝠と白い蝙蝠がヘリポートの上で実体化していく。

 

実体を表したのは黒き吸血鬼少女と白き吸血鬼少女達の姿だったのだ。

 

「君は確か…美国君かい?随分と見た目が変わったようだが…もしかして君は…」

 

「…お久しぶりです、里見教授。お察しの通り…今の私は魔法少女ではありません…」

 

「美国君は自分と同じく魔法少女であることを捨てた者。今の彼女は吸血鬼悪魔だ」

 

片目が隠れる程にまで前髪が伸びた織莉子の新たな姿は変化している。

 

衣装の胸から下は大きなコルセットベルトを纏い、左肩には刺繍入りの黒マントを纏う。

 

ドレス風衣装の一部も黒く染まり、頭部には大きな白黒カチューシャハットを被る。

 

吸血鬼クドラクのどす黒い血を体内に入れた者だが、それでも彼女の純白は穢しきれない。

 

美国織莉子を示す色とは純白であり、白とは死に装束を表す死と再生の衣服であった。

 

「…彼女達は私の部下となった悪魔よ。この子達もまた…自分の人生を清算してきたわ」

 

遅れてヘリポートに現れたのは銀子であり、黒スーツ姿の彼女が十七夜達の肩を掴む。

 

「無理を頼む事は承知よ…それでも彼女達も連れて行って欲しい。彼女達の覚悟を受け止めて」

 

顔も向けずに無言の態度を決め込む尚紀に対して銀子は心からの嘆願を願い出る。

 

遠い景色に視線を向けたままの尚紀は黒のトレンチコートを夜風で揺らすばかりのようだ。

 

そんな彼の元に近寄ってくるのは十七夜であり、背後に立った彼女が跪いてくる。

 

「…ようやく貴方と出会えた。自分は神浜の東で生きた者として…貴方に心からの礼を…」

 

「…俺に跪く必要などない。俺とお前の間に格差も溝も存在しない…不快だから今直ぐ立て」

 

「も…申し訳ありません…嘉嶋さん…」

 

「その敬語もやめろ。俺を崇拝したいようだが…俺は英雄でもメシアでもない…ただの男だ」

 

彼は神だのメシアだのとチヤホヤされるのを嫌う男だとみたまから伝えられた言葉を思い出す。

 

配慮が足りなかったと立ち上がった彼女の姿を見るために尚紀も後ろに振り向いてくれる。

 

「…お前を見たのはメイド喫茶に行った時が初めてだったが…変わり果てたな、和泉十七夜」

 

「十七夜でいい。それよりも自分が働いていたメイド喫茶に来店したことがあったのか…?」

 

「思い出せないか?お前の後輩のイッポンダタラが粗相を起こした日の出来事を?」

 

「あっ…!?あの時に訪れていた人だったのか!?あの時は本当にすまなかった…」

 

「それよりも十七夜…本当にいいのか?お前はメイド服を着ていた頃の方が似合っていたぞ?」

 

「自分が働いた店はもう…閉店した。オネエサマすら悪魔に成り果てた末に……自分が殺した」

 

「そうか…聞いて悪かった。それでも聞かせてくれ…俺と共に来るのなら…覚悟はあるのか?」

 

「覚悟なら出来ている。自分は罪人だ…罪人だからこそ…贖罪を求めるために全てを捨てる…」

 

「みたまと共に贖罪をする道だってあるんだぞ?それでも俺と共に行きたいというのか?」

 

常闇に堕ちた十七夜とみたまであるが、それでも十七夜の道はみたまとは違う道となっていく。

 

冷たい鉄仮面の奥に隠れた真紅の瞳には断罪の炎が宿っており、自分を焼く覚悟がある者だ。

 

「自分の贖罪の道は八雲とは違う…自分は罪人として…戦場の矢面に立つ罰を受けたい者だ…」

 

「ならば聞こう…十七夜、織莉子。お前達は己の人間性を絶対零度の世界に捨てられる者か?」

 

覚悟を問う尚紀の恐ろしい表情を見た彼女達の体が震えていく。

 

今の彼の心は既にコキュートス最奥に閉じ込められたルシファーの逸話そのものになったのだ。

 

氷結を司る水の覚悟が宿った人修羅に試される悪魔少女達であったが、彼は断言してくる。

 

「俺の脅しで体が震えてしまう程度の軟弱な女など必要ない。俺が行く道は紛れもない地獄だ」

 

「魔界ノ魔王達ガツドウ地ニムカウノダ…ソコニアルノハ弱肉強食…コノ世ノ地獄ソノモノダ」

 

「罪無き子供すら嘲笑いながら殺せる鬼畜さを俺は要求する。それが出来ない者なら用はない」

 

覚悟を試される者達であったが、それでも織莉子が大きく息を吸い込んだ後にこう語る。

 

「私の命は貴方のものです。大事な恩人達の未来を守れるというのなら…喜んで悪魔になるわ」

 

迷い無き意思を宿せた織莉子の体からは震えが止まっている。

 

今の織莉子の覚悟ならば世界を守るために罪無き鹿目まどかすら殺せる程の女になれるだろう。

 

そして血を分けた妹の覚悟に続きたい十七夜もまた大きく息を吸い込んだ後、震えを収める。

 

「自分も美国君と同じ気持ちだ。この命を嘉嶋さんに託す…罪人として墓に入る覚悟は出来た」

 

「俺と共に()()()()()()()()覚悟があるというならば…止めるつもりはない。好きにしろ」

 

「尚紀さん…貴方こそがカエサルのように()()()()()()なんです。背水の陣で私達も続きます」

 

ルビコン川を渡るという言葉は後戻りのきかない道へと歩み出す覚悟を表現するもの。

 

一線を超える程の決断が出来た者達が決死の覚悟で渡る道こそがルビコン川なのだ。

 

カエサルは軍隊を率いて元老院側に宣戦布告をするために賽を投げたローマ皇帝だった。

 

「よく言った…ならばお前達にはコキュートスの最奥まで付き合ってもらう。罪人としてな」

 

「嘆きの川の最奥にあるジュデッカに堕ちようとも…尚紀さんと一緒なら…怖くないです」

 

「そのために自分達は全てを清算してきた…全ては愛しい者達の未来のために…共に逝こう」

 

彼女達の覚悟を認めた尚紀も頷いてくれた時、悪魔化したケルベロスが上空を見上げる。

 

「ヤツメ…ヤハリ決着ヲツケナケレバキガスマナイ暴レ猿ダッタヨウダ」

 

ヘリポートに目掛けて高速で飛来してきたのは筋斗雲に乗ったセイテンタイセイの姿である。

 

雲から飛び降りてきた元仲魔が担いでいた如意棒を回転させた後、尚紀に向けてくるのだ。

 

突然現れた存在に対して次々と悪魔化する者達が同時に構えていく。

 

銀子と里見太助、それに尚紀は微動だにしない態度でセイテンタイセイを見つめるのみ。

 

「…最後に聞いておきたい事があって舞い戻ってきたぜ」

 

「…言ってみろ」

 

「テメェの求める世界変革とは何だ?強者が弱者を食い物にする…今まで通りの世界なのか?」

 

それを問われた尚紀は今にも襲い掛かってきそうな師匠を相手に背を向ける。

 

再び地平線の彼方に視線を向けるような態度をしていた時、彼の重い口が開く時が来るのだ。

 

「権力とは力の中にある。資本やメディア、軍事、あらゆる力の中にあるが…そこに愛は無い」

 

金融資本家もメディアも軍隊も支配者共であり、ひたすら弱者達から奪うことしか行わない。

 

税金を奪い、知る権利を奪い、平和に生きる権利すら奪い取るのが弱肉強食資本主義世界構造。

 

そこには愛という名の自己犠牲は存在せず、ただひたすら奪うばかりの略奪世界しかないのだ。

 

「世界は代償を払う等価交換で出来ている。なら俺もまた世界に何かを求めるなら代償を払う」

 

「等価交換のコトワリに従い…テメェは何を代償にして世界の変革を望む?」

 

「俺の全てを投げ捨てたところで俺の求める要求には程遠い。多くの人々も巻き添えになるな」

 

「テメェは大勢に迷惑をかけ、悲劇と憎悪をばら撒き、呪われた悪魔になっても…何を望む?」

 

「俺が求めるのは自然…自然とは天災としての脅威だけでなく…豊穣の恵みも与える存在だ」

 

「テメェは世界を焼く天災となってでも世界の人々に与えたいのか?まだ見ぬ世界の豊穣を?」

 

「自然の力は凄まじいものだ…俺はその偉大な光景を…風見野市に帰った頃に見てきたんだ」

 

風見野の教会に戻る時、彼は風華達と過ごした思い出の草原にも顔を見せに行った者。

 

そこはかつて人修羅自身が二度と帰らないと決めた末に焼き払った草原だった場所。

 

しかし彼が再びそこに戻ってみると驚愕する程の光景が生まれていたようだ。

 

「かつて俺が焼き払った草原は…見渡す限りのオオアマナが咲き誇った景色があった…」

 

焼け果てた世界にすら自然は新しい命を芽吹かせることが出来るのだと人修羅は知るだろう。

 

優しい風が運んできた実りの種が芽吹かせたオオアマナの景色を見た時、風華の姿を思い出す。

 

風が実りを運び、風が華を咲かせる名を持った少女のような景色こそが偉大なる自然の力。

 

その偉大な光景は男の目に焼き付き、今もなお地平線の彼方に自然の偉大さが浮かんでしまう。

 

この光景こそ人修羅が求めてきた理想の光景なのだと理解した瞬間、彼の覚悟は決まっていた。

 

「俺は世界を焼き払う者となる…それが俺の限界だ。そこから先は…魔法少女達が世界を耕せ」

 

偉大なる自然の如き豊穣をもたらす存在こそ、()()()()()()()()()()()()()()()に当たるもの。

 

そう理解出来たからこそ、彼は炎となって世界を焼き尽くす魔王に戻る覚悟をした男なのだ。

 

「俺は炎を運ぶ者となろう…ルシファーの如く。そして水を運ぶ者達こそ…未来の女達なんだ」

 

「女達がもたらす新世界を残すために…テメェは魔王になるんだな?自己犠牲を払ってでも?」

 

「魔王に戻る俺だけでなく…全ての金融資本家共も炎に放り込む。奴らにも代償を払わせるさ」

 

己の全てを犠牲にしてでも世界に変革をもたらそうとする弟子の姿を見た師匠が武器を下ろす。

 

豪快に頭を掻いた後、オーバーに両手を持ち上げながらこう言ってくれる。

 

「しゃーねーな…元よりテメェはこういう男だった。一度決めたら最後まで突っ走っていく…」

 

笑みを浮かべる師匠に振り向いた尚紀のためにこそ、セイテンタイセイがこう言ってくれる。

 

「豊穣を司る存在こそが女の本質だ…だったら…男の俺様も女達に未来を残す道を生きてやる」

 

「幸福になるのは女と産まれる子供達で十分だ…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「へっ!!言ってくれるじゃねーか…尚紀?それでこそ俺様の弟子であり……」

 

――()()()()()()よな!!

 

右手を持ち上げながら弟子に近寄る師匠が豪快なハイタッチをしてくれる。

 

師匠の覚悟を受け取った弟子の顔も微笑みを見せ、周囲の者達の表情も安堵してくれるのだ。

 

「……どうやら迎えが来たみたいね?」

 

遠くから聞こえてくるヘリの音に気が付いた銀子が遠くの夜空に視線を向ける。

 

飛来するのは米軍のVH92ペトリオットであり、次期合衆国大統領専用機が飛んでくるのだ。

 

新たな故郷とも言える街となってくれた神浜市との別れの時間がくる。

 

しかしそれを止めようとする少女達がついに尚紀達を見つけ出し、屋上に参上したのであった。

 

────────────────────────────────

 

「チッ……悪魔化シタセイデ我ラノ魔力ニ感ヅカレタヨウダ」

 

大統領輸送ヘリがヘリポートに着陸する中、強風によって髪を揺らすのは魔法少女達である。

 

八雲姉妹にかなえとメル、みかづき荘組やももこ達、それに天音姉妹が悲痛な表情で叫ぶのだ。

 

「これはどういう事よ…十七夜!?貴女は銀子さんと一緒に海外で働くんじゃないの!?」

 

「八雲……これは……その……」

 

「それに美国さんまでいるじゃない!?やっぱり貴女達は影で繋がり合ってたのね!?」

 

「どんな理由があっても構いません!!お願いです…行かないで!尚紀さん!十七夜さん!」

 

「ミィはこんなお別れは嫌だよぉ!!また昔に戻ろうよ…楽しく過ごせた昔に戻ろうよ!!」

 

皆がヘリポートに向かって駆けてくる中、尚紀から念話を送られた十七夜と織莉子が動く。

 

右手を前に掲げた吸血鬼姉妹達は広域に放つ超能力魔法を行使するのだ。

 

「な、何よ……この魔法は!?」

 

「う……動けないよぉ!?」

 

「ウチらの笛魔法のようなものをかけられたの……!?」

 

「違いますわ!この魔法はきっと……超能力の類で御座います!!」

 

レナとかえで、それに天音姉妹やみかげ達の体がサイによって拘束されてしまう。

 

やちよとみふゆ、それに鶴乃まで拘束されて身動きがとれないようだが悪魔少女達は違う。

 

彼女達は悪魔であり、悪魔が用いる超能力魔法の念波を知覚出来る存在。

 

彼女達は魔法武器を生み出し、迫りくる念波を魔力がこもった武器で断ち切ったようだ。

 

「どうしてアンタは独りで抱え込むんだ!せっかく神浜に戻ってきたのに…いい加減にしろ!」

 

「そうだよ!こんなお別れなんて観鳥さんは許さない…苦労は皆で背負うべきなんだ!!」

 

「ももこと令の言う通りだ…たとえ力づくであっても…貴女達を止めてやる!!」

 

「拘束魔法はボクが解除します!お願いですから尚紀さんや十七夜さんを…止めてください!」

 

ももこと令、それにかなえとメルが動く時、リズの体から不気味な魔力が噴き上がる。

 

<<な、なんだぁ!!?>>

 

ライトアップされたヘリポートの屋上では影が沢山生まれているため、それを彼女は利用する。

 

影から伸びてきたのは巨大な影の手であり、影の手に掴まれた悪魔少女達が倒れ込んでいく。

 

「…そこで大人しくしていなさい。分かってくれとは言わない…それでも私達は旅立つわ」

 

「八雲…安名…観鳥君…七海…梓…由比君…それに皆…騙してすまない。それでも自分は行く」

 

「やめなさい…十七夜!!家族や私達を騙してまで…何を求めに行こうと言うのよ!?」

 

「やっちゃんの言う通りです!それに美国さん…貴女だって帰りを待つ仲間がいるんですよ!」

 

「私も和泉お姉様と同じ覚悟で別れてきた…キリカと小巻さんには悪いけど…私も行きます」

 

「それにケルベロスや悟空まで行っちゃうの!?お願いだから…尚紀達を止めてよぉ!!」

 

「悪い、鶴乃。俺様も弟子の最後を見届けたくなった…もうテメェの稽古をつけてやれないな」

 

「我ラハ死地ニ赴ク覚悟ヲ決メタ者達ダ。汝ラニ希望ヲ残スタメニ…我ラハ完全ナ修羅トナル」

 

別れが辛かろうとも決心した者達が迎えのヘリに乗り込んでいく。

 

そんな中、体を震わしながら目に涙を溜め込むばかりのみたまが力の限り叫んでくれる。

 

「行かないで…尚紀さん!皆が貴方を愛してるのよ…彼女達の気持ちが分からないの…!?」

 

無言でヘリに乗り込もうとする男の背中が止まる中、魔法少女達の叫びが聞こえてくる。

 

「尚紀のお陰で…私は過去の苦しみから救われたのよ!それだけでなく今さえも救われてる!」

 

「やっちゃんや私の大切な人を生き返らせてくれたのは貴方です!貴方こそが希望なんです!」

 

「私の店も救ってくれた人だよ!貴方がいてくれたから…私は自分の呪縛から解放されたの!」

 

「アンタがいてくれたお陰で…皆が助かったの!レナだってね…尚紀さんと離れたくないの!」

 

「尚紀さんを憎んだこともあったけど許してくれた…そんな男の人だからこそいて欲しいの!」

 

「ウチだって尚紀さんがいてくれなかったら…家を守れずに自殺してた…貴方は救い主だよ!」

 

「わたくしの月咲ちゃんの今があるのは…尚紀さんのお陰です!どうかわたくし達を導いて!」

 

「なおたん…ミィはね…なおたんが好き!姉ちゃに負けないぐらい好き…だから一緒にいて!」

 

やちよ、みふゆ、鶴乃、レナ、かえで、月咲、月夜、みかげが涙を流しながら叫んでくる。

 

それは悪魔少女達も同じであり、大切な人と別れたくない気持ちが涙として溢れるのだろう。

 

「アタシも過ちを犯した女…だから尚紀さんを罪人だとは思わない!一緒に罪を背負おうよ!」

 

「観鳥さんに夢を残してくれたのは尚紀さんのお陰だよ!そんな貴方が大好き…ずっといて!」

 

「あたし達はね…尚紀のお陰で第二の人生を残せてる…この幸せは貴方がいてくれたからだ!」

 

「ボクとかなえさんのメシアは貴方なんです!だからお願いです…ボクの傍にいてください!」

 

悲痛な叫びが木霊する中、拳を震わせるばかりの男が振り返ってくれる。

 

屋上に降りてくる男に向かって駆けだしたのはみたまであり、喪服のトーク帽を投げ捨てる。

 

素顔を晒しながら駆けてきた彼女は愛する男を止めようと抱き着いてくるのだ。

 

「尚紀さん…グスッ…私も連れてって…私も常闇に堕ちた身よ…いくらでも罪人になるわ…!」

 

常闇の淑女の姿をしたみたまを抱きしめてもくれず、連れていくとも言ってくれない。

 

機械のような無機質な表情を無理やり浮かべるだけの男は最後にこんな言葉を残すのだ。

 

「みたま…俺は言ったはずだ。何かに縋りついた時…人は自由とかけ離れるとな…」

 

「自由なんていらないわ…私が欲しいのは尚紀さんなの!尚紀さんと生きられる人生なの!!」

 

八雲みたまは神浜を滅ぼす願いを求めて魔法少女になった存在。

 

最初はそれが原因で険悪になったが、そんな彼女を救ったのが尚紀の覚悟が籠った演説だった。

 

世界を呪った調整屋を救える程の輝きを彼に見出した彼女は心から尚紀を愛する女となった。

 

だからこそ、行かないでくれと尚紀に縋りつくのだろう。

 

「俺は魔法少女の虐殺者…お前も殺そうとした男だ。でもな…今度こそ魔法少女を守りたい…」

 

「一緒にいてくれる事が私達の救いなの!貴方を憎む魔法少女はもういない…怖がらないで!」

 

「それではお前達の未来を救ってやれない…一時の幸福に逃げたって…現実逃避になるだけだ」

 

「何をやろうとしているの…?私達から遠ざかる程の事をしないとならないの…?」

 

「俺達はな…これから究極の悪行を行いに向かう。俺達の在り方こそ悪魔だと言える程にな…」

 

「だったら私もそうなる…私だって死神を宿した女悪魔よ…十七夜と一緒に悪魔になるわ…!」

 

「みたま…お前の償いの道は何なんだ?傷つけた人達のために…一生罪を行わない道だろう?」

 

「そ…それは…その……」

 

「その道を選んだお前が罪の上塗りの果てに極悪人に戻るだって?死んだ者が浮かばれないぞ」

 

八雲みたまの願いのせいで神浜テロが生まれるキッカケを起こし、多くの住民が死んでしまう。

 

残された遺族は悲しみと憎しみに支配され、そんな遺族を救うために彼女は悪魔になった女だ。

 

それを知っている男だからこそ、愛してくれる女でさえ遠ざける男の愛がそこにあるのだろう。

 

ゆっくりと持ち上げる両手がみたまの肩を掴んだ後、優しく引き剥がしていく。

 

「みたま…こんな俺を好きになってくれて有難う。お前と結ばれる未来もあったが…俺は行く」

 

今生の別れになると悟ったみたまの両膝が崩れ落ち、目には大粒の涙が溢れていく。

 

踵を返して去ろうとした時、男の右手を掴む女が泣き喚きながら縋りついてくるのだ。

 

「行っちゃ嫌ぁ!!私…わたし…貴方を心から愛してる!!貴方がいないと生きてけない!!」

 

全ての罪を背負う覚悟を宿した男に縋りつく女こそ、キリストに縋りついた女の姿と酷似する。

 

新約聖書の福音書に登場する聖人、()()()()()()()()の姿そのものに見えるだろう。

 

マリアは聖書の外典においてイエスと親密になり、磔刑の際にはイエスに縋りついたとある。

 

ヨハネによる福音書20章17節。

 

――イエスは自分に触れようとするマグダラのマリアに言った。

 

――父である神のもとへ上る前であるため、触れないようにと言われた。

 

「お前は天国に昇れる道を行け。俺もまた天に昇る日がくるだろうが…()()()()()()()()()

 

縋りついた手を振り払った男が彼女に向き直った後、左手に何かを生み出す。

 

持たれていたのは夏目書房で買った失楽園の文庫本であり、みたまに渡そうとする。

 

「こ…この文庫本は確か…尚紀さんが読んでいた本でしょ…?」

 

「お前にやるよ。この本には自由の大切さが記されている…だからこそ、お前のために残そう」

 

心の自由とは唯一神や金融独裁者、腐敗政府であっても侵害してはならないもの。

 

人々は命を懸けてでも自由を守り抜き、戦う意思が必要なのだと尚紀は言葉を残してくれる。

 

「個の確立こそ楽園を出て行った男女の在り方だ。()()()()()()()()()()()…強く在れ…女よ」

 

震える手を伸ばすみたまが失楽園の文庫本を受け取ってくれる。

 

彼女の心まで楽園を失うエヴァのような気持ちとなる中、彼は己の左胸に手を置く姿を見せる。

 

「常闇のお前の胸に咲いてくれた赤い薔薇こそが自己犠牲の象徴だ…だからこそ…耐えてくれ」

 

「いや…いや…そんなのいやぁ!!私…わたし…貴方がいないと…私なんて…ッッ!!」

 

「お前の心にも人間社会を重んじる精神が宿っている…()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

悪魔の力を解放した人修羅の背中に伸びるのは悪魔の二枚翼と天使の二枚翼。

 

それらを広げる形とは逆五芒星であり、堕天の道を進む男の覚悟を示す形となるだろう。

 

「な、何なの!?」

 

「これは一体!?」

 

魔法少女達や悪魔少女達の体が光の球体に包まれていく。

 

静香達を東京から避難させた力を用いて愛する女達を遠ざけようとするのだろう。

 

「ありがとう…女達よ。こんなにも俺を愛してくれる人達と出会えて…俺は…幸せ者だった…」

 

大泣きしながら光の球体を叩く事しか出来ない女達を見つめる男の手が持ち上げられていく。

 

光の球体も浮かび上がっていく中、ももこに向けて念話が送られてくる。

 

<ももこ…みたまとずっと一緒にいてくれ。俺を失った彼女のために…一生支えてやってくれ>

 

<馬鹿…バカ!!みたまを愛してるならアンタが支えろよ!アタシだって…支えて欲しいよ!>

 

<俺はみたまを縛る者にはならない…()()()()()()()()()()()()。そしてお前達のために…>

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()

 

持ち上げた手が開かれた瞬間、光の球体に包まれた女達が一気に弾き飛ばされていく。

 

新西区に向けて飛んでいった光の球体を見守るのはヘリの中にいる里見太助の姿なのだ。

 

「誘惑の蛇から与えられた知恵の実があったからこそ…楽園を失った男女は生きられたんだよ」

 

ヘリもまた上昇していき、翼を羽ばたかせた人修羅もヘリに乗り込んでいく。

 

扉も締めずに掴まる男は遠ざかっていく神浜を見つめながらも、ついには涙を零してしまう。

 

「俺…おれ…この街の人々と出会えて良かった…。だからこそ俺は……地獄に行ってくる!!」

 

決断を下した男を乗せたヘリは見滝原在日米軍基地に向かっていく。

 

そこを経由して彼らはイルミナティ勢力の本拠地である欧米に向かうことになっていくだろう。

 

嘉嶋尚紀の魂の故郷ともいえる神浜市は既に遠く。

 

この物語は全てを捨てて神皇となる道を選んだ男の空白の二カ月間に起きた出来事となった。

 




百合カップリングを侵害した男は去ることになり、百合(リリス)は尊重されたという落としどころにしておきます。
クロスオーバーなスパロボでもアムロが他のガンダムヒロインをベットでNTRことなんてないのと同じような配慮ですね。
まぁ彼女達の心は男が盗んでいったんですけどね、ブヘヘヘヘ(カリオストロのとっつぁんのセリフ)
次回からは悪魔の政略闘争編となり、それが終わった次のハルマゲドン編で最終章は終わりの流れです。
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