人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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321話 人間の守護者失格

天の会議場での会合を終えた魔王達は宮中晩餐会が催される階層へと下りていく。

 

祝宴たる饗宴の儀は新たなる皇帝陛下となられた人修羅を祝う晩餐会となるのだろう。

 

悪魔崇拝ダボス階級の人間達も集まるため、バベルの塔の下層エリアにまで降りてきたのだ。

 

「……待たせたな、お前達」

 

豊穣の間と呼ばれる晩餐会会場の前では人修羅の補佐官を務める悪魔少女達が立っている。

 

黒のタキシードを纏う十七夜と白のイブニングドレスを纏う織莉子が出迎えてくれるのだ。

 

しかし十七夜の眉間にはシワが寄っており、人修羅の隣にいる存在に憎しみを向けていく。

 

「……アナタはどうして帰ってきたワケ?」

 

人修羅と共に下層まで降りてきたのはアリナであり、動揺の表情を浮かべているようだ。

 

「アリナ達に騙されていたってことぐらい…もう知ってるんでしょ?なのにどうして…?」

 

ダークサマナー達からマインドコントロールされてきた十七夜は狂った理想に盲従してきた者。

 

東京テロの首謀者の一人にさせられ、大勢の人間達を殺戮する片棒を担がされてきた。

 

純粋な気持ちは利用され、化けの皮に包まれた正義に酔わされた果てに虐殺者にされた憎悪。

 

その憎しみはあまりに深いものであったのだろうが、それでも彼女は憎悪を押し殺す。

 

「…一番近くにいた君にも騙されてきた。その憎しみは今でも自分の心を燃やし続けている」

 

「…アリナ達にリベンジするためにノコノコ戻ってきたワケ?自殺願望者としか思えないカラ」

 

動揺を浮かべてしまった自分の弱さを恥じたアリナは恐ろしい魔王としての表情を向けてくる。

 

襲い掛かろうものなら一瞬で焼き尽くされかねない程の敵意を向けられる十七夜。

 

顔には冷や汗が吹き出すようだが、それでも憎しみの炎が吹き消されることはないだろう。

 

怒りに燃え上がる拳が震えていたようだが、人修羅の方に顔を向ける。

 

(嘉嶋さんも己を殺して耐えている。自分も……耐えなければならない)

 

氷結した彼の覚悟を見た彼女は氷水を頭から被る気持ちとなり、冷静さを取り戻す。

 

握られた拳も開かれていき、彼女もまた己の心に冷たい鉄仮面を纏わせることにしたようだ。

 

「…今の自分は混沌王陛下の部下として共に在る。自分は何処までも彼に付き従う覚悟だ」

 

「アリナと悪事をするのは嫌だけど、人修羅と一緒に悪事をするのはいいワケ?矛盾だヨネ」

 

「何とでも言え…陛下のお陰で神浜の東は救われたんだ。ならばその恩義…この命で支払う」

 

「自分の全てを彼に捧げたってワケ?安いプライドなんですケド」

 

「プライドか…思えばそんなものに振り回されたから君に操られた。ならば誇りなど捨てよう」

 

「和泉お姉様は()()()()を求めています。この世に変わらないものなど存在しないのです」

 

「空の精神ねぇ…それは確かなんですケド。この世に変わらないものはない……お互いにね」

 

「アリナ…君は君の道を行け、自分は自分の道を行く。混沌王陛下と共にあるのが自分の道だ」

 

「和泉十七夜…精々彼に騙されないよう願うんですケド。アナタは()()()()()()()()()()()()

 

かつては家族のように思えた十七夜と決別するためにアリナは去っていく。

 

彼女の拳は震えており、自分の中に未だ弱さが残っていることが許せない感情が沸き起こる。

 

「切り捨てる事は失うこと、それは悲しい。だけどそれを飲み下せば無限の可能性がある…」

 

力のヨスガを体現する代表者として橘千晶を宿したアリナは魔丞としての道を極めるだろう。

 

もはや涙すら枯れ果てた彼女だからこそ、己の弱さを全て粉砕する道を貫き通すのだ。

 

「空の精神…それは空虚を表す仏教概念。事物は固定されたものにはならない…俺も変わるさ」

 

「世界の本質は相対的、誰かと関わる事で己も変わる。嘉嶋さんと関われた事を誇りに思おう」

 

「その覚悟…見極めさせてもらおう。今から始まるのは悪魔の狂宴…正気では踏み止まれない」

 

ゲストルームから豊穣の間にアクセスするため、人修羅達も移動していく。

 

宮中晩餐会の時間となったことで彼らは巨大な宮中饗宴の間に入ることになるだろう。

 

そして彼らはこの世の地獄を垣間見ることになるのだ。

 

「「ッッッ!!!!」」

 

十七夜と織莉子の両目が一気に開かれ、体中が震えてしまう。

 

彼女達の目の前にあった宮中饗宴とはカナン文化の光景であり、この世の地獄。

 

カナンの食文化である食人、カナンの堕落である性的儀式が繰り返される狂気の宴であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ユダヤ人の歴史を執筆したヨセフ・カスタインはこのように記している。

 

カナン人のカルトは土壌、とりわけ豊穣を導く自然の力の表れと深く結びつくとある。

 

すなわちカナンの主神バアル、その妻である金星のアナト・アシュトレトに繋がるのだ。

 

彼らは神政主義しか認めず、バアルやアナトがもたらすのは()()()()()()宿()()殿()であった。

 

<<今宵はバアル様とルシファー様が催される混沌王陛下を祝う宴!存分に楽しむがいい!>>

 

宴の進行役は人間に擬態したルキフグスであり、フォーマルスーツの上は鹿の頭蓋骨を纏う。

 

鹿の頭蓋骨はバフォメットを表すバアル崇拝の象徴であり、バアルの宴が催されていく。

 

食卓に並ぶのは目を向けることすら憚られる程の狂気の数々。

 

「うぷっ……ッッ!!!」

 

顔面蒼白になった十七夜と織莉子は耐え切れない程の吐き気を堪えるだけで精一杯。

 

食卓に並べられた肉料理の数々とは、悪魔達に美味しく調理された魔法少女達のカニバル料理。

 

血抜きをされて解体され、食卓を彩る皿の上には魔法少女達の肉料理が並べられているのだ。

 

会場の中央には大きなグリル台もあり、バアルを表すゲヘナの炎で調理される肉料理が見える。

 

五体を切断され、内臓も抜かれて開かれた魔法少女達の体がグリル台でクルクル焼かれるのだ。

 

「地獄が……溢れた……ッッ!!!」

 

魔法少女として生きた十七夜と織莉子は耐え切れず、涙目になりながら顔を背けてしまう。

 

同じ魔法少女だった者として耐え難い苦しみを背負っているのは悪魔ほむらも同じである。

 

イブニングドレスに着替えた彼女は隣にいる魔王達の脅しとも言える誘いを浴びるしかない。

 

「さぁ、暁美ほむらよ。先ずは食前酒で乾杯といこうではないか?」

 

ベリアルとネビロス、それに隣にはアリスも座る席にいる彼女はグラスを持てと脅される。

 

子供達の生き血のように赤い酒のグラスには絶望に染まったソウルジェムが沈んでいるのだ。

 

「精神を麻痺させる魔法でソウルジェムを縛ってますが、長く放置すると円環に導かれる」

 

「その前に飲み干すがいい。魔王として子供達を喰らう者に値するかを…我らに示せ」

 

「ほむらお姉ちゃんのいいとこアリス見たい!早く~早くソウルジェムワインを飲み干して♪」

 

必死になって体の震えを抑え込むほむらは錆び付いた音が出そうな鈍さで首を向けてくる。

 

「この宴は何なの…?これが…こんなものが…悪魔文化だというの…?」

 

「貴様は神学校出身ではないのか?聖書を勉強してきたのにカナン地方の文化を知らんとはな」

 

「火中に投じられる幼児は豊穣の神バアル殿への人身御供。イザヤ書57章を思い出しなさい」

 

――お前達、女まじない師の子らよ、姦淫する男と淫行の女との子孫よ、ここに近づくがよい。

 

――お前達は誰を快楽の相手とするのか、誰に向かって大口を開き、舌を出すのか。

 

――お前達は背きの罪が産んだ子ら、偽りの子孫ではないか。

 

――大木の陰、全ての茂る木の下で身を焦がし、谷間や岩の裂け目で子供を屠る者ではないか。

 

「思い出した…イザヤはセムの子孫の目を盗んで行われる恐ろしい儀式の記録を残していた…」

 

「豊穣の神バアル殿の信仰は妻、アシュトレトの淫乱儀式と共に古代世界に根差したのです」

 

「アシュトレトを継ぐのがアリナお姉ちゃんなんだよ♪何せ彼女はアシュトレトの起源だし♪」

 

「イグザクトリー。イナンナとして、アリナはこのパーティを主催する張本人なんですケド」

 

ほむら達の席にやってくるのは邪悪な笑みを浮かべたアリナであり、後ろには給仕達がいる。

 

イブニングドレスに着替えている彼女の後ろには大きなキッチンワゴンが押されてくる。

 

二人がかりで運んできた豪快な肉料理が置かれた皿を机に置かれたほむらは恐怖するのだ。

 

「正気なの…貴女…?同じ女としてこんな残酷な行為をするだなんて…恥ずかしくないの…?」

 

運ばれたのはロースト魔法少女であり、五体が切断された体はレンジでコンガリ焼かれている。

 

腹は開かれて縫われており、中には味付けされたピラフが入り、まるで焼かれた妊婦のようだ。

 

「上等な子羊を調理して運んできただけなのに、何でそんな事を言われないとならないワケ?」

 

「神への供物はカインとアベルの時代より子羊と決まっている。()()()()()()()()()()なのだ」

 

「我々が支配する異教徒(ゴイム)の子供こそが子羊なのです。カナン族ユダヤは神に捧げてきたんです」

 

「ロースト魔法少女よりもジンギスカン魔法少女の方が良かった?それとも…肉料理はダメ?」

 

「もしかしてダイエット中?だったらアリスが食べてもいいよね?」

 

ニヤニヤした表情をしながら暁美ほむらを見つめる者達の脅しの中、彼女が重い口を開きだす。

 

「こんな食文化が…21世紀の今でも…カナン族ユダヤの間で行われてきたの…?」

 

「勿論。金融で権力を得たユダヤ民族とは()()()()()()()()()()()()…歴史と伝統を重んじる」

 

「奴らほど民族アイデンティティが強い人間は地球に存在しない。世界最高の極右民族なのだ」

 

必死になって体の震えを抑え込んでも声が震えているのが魔王達にはバレている。

 

眉間にシワを寄せ、悪魔ほむらに不信感を募らせる中、女魔王のナアマまでやってきたようだ。

 

「豪快な肉料理がダメならこっちはどうかしら~新たなるリリス様?食べやすいわよ~♪」

 

チャイナドレスを着ている彼女が持ってきたのは中国の薬膳スープのような料理である。

 

女性器すら丸見えのロースト魔法少女を見るのも辛い彼女は黙ってスープを受け取ってくれる。

 

「このスープに入ってる肉塊は……まさか……ッッ!!?」

 

「大当たり♪中国の食文化もカナン族に負けてないわよ~♪机と椅子以外は何でも食べるの~」

 

薬膳スープに浸かっていた肉塊とは生まれたばかりの胎児。

 

恐怖のどん底に堕ちたほむらは手に持ったスプーンを落としてしまい、酷い震えが手に走る。

 

「中国共産党の大躍進運動の頃もね、毛沢東の失政で大飢饉が起きた時は人肉が食べられたの」

 

農業理論を無視した毛沢東の失政で大飢饉が巻き起こり、中国人は三千万人の餓死者を生む。

 

その時代では死体すら肉付きがいい部分は切り取られて盗まれ、食されてきたというのだ。

 

「捕らえた魔法少女を強姦して孕ませ、産ませたネフィリムの胎児入りスープ♪健康にいいわ」

 

「共食いをしろって言いたいの…?悪魔とネフィリム同士で共食いをしろって言いたいの!?」

 

「貴女様は百合を司るリリス様を継ぐ御方でしょ?だったら()()()()()()()()()()()よね~?」

 

「アリナもナアマと同じ意見なんですケド。それともレズという快楽だけが欲しかったワケ?」

 

「そんなの私は認めない。リリス様は百合であり子供の虐殺者…継ぐのならそれを体現してよ」

 

もはや絶対に逃げられない地獄であり、そんな場所に来たことを悪魔ほむらは激しく悔やむ。

 

体の震えを抑え込む気力すら生まれず、暗闇を恐れる子供のように震え抜く状態を晒していく。

 

そんな彼女に対して近寄ってきたナアマが左手を顔に回しこみ、ほむらの左目を覆い隠す。

 

単眼となった悪魔ほむらに対してナアマは不気味な笑みを浮かべながら背後から語ってくる。

 

「貴女様は()()()()()()()()()()()()()()…だからこそ悪魔崇拝組織を導く神になって欲しい」

 

背中から顔を向けてくるナアマの左半分が変化していき、醜い悪魔の仮面を纏う状態と化す。

 

そしてアリナもほむらの右肩を掴みながら恐ろしい表情を背後から向けてくるのだ。

 

「単眼こそ鍛冶神を表し、建築ギルドのフリーメイソンを表す。アナタも建築家になるワケ」

 

強力な握力によってほむらの右肩の骨に亀裂が入り、苦悶の表情を浮かべてしまう。

 

「アリナも建築ギルド入りした時は耐え抜いた。アナタの粗削りな石ころはアリナが研磨する」

 

「それが……アーティストとしての……貴女の道なのね……」

 

「優れたアーティスとは建築家でもある。ダ・ヴィンチのようにアリナはなってみせるカラ」

 

魔王の世界に触れることになった悪魔ほむらの意識が遠のいていく。

 

この世の狂気そのものに触れたために精神が幼児化する程にまで追い込まれてしまう。

 

(助けて……助けて……誰か……たすけて……)

 

眼鏡をかけていた頃に帰ってしまったような精神状態であったが、それでも彼女は愛を貫く者。

 

(助けなど呼ぶわけにはいかない…まどかを守る私の道とは…誰も助けてくれない道だった…)

 

愛とは自己犠牲であり、自己犠牲を捧げたい鹿目まどかの未来のためにこそ自分はここにいる。

 

そう思った瞬間、苦しみすら乗り越える程の自己犠牲の覚悟を彼女は示すことになるだろう。

 

「フッ…フフッ……いいわ、私も魔王になった女悪魔として……この宴を楽しむとしましょう」

 

我を忘れる程の行動力を示す彼女が行った狂気とは、ソウルジェムが入った酒を飲み干す行為。

 

何処の誰かも知らない魔法少女のソウルジェムが彼女の体内で絶望し、激しく砕ける。

 

悪魔ほむらの中で孵化した魔女は悪魔に吸収され、悪魔概念の中で永遠を生きる供物となる。

 

「ぐっ!!うぅ……ッッ!!!」

 

吸収した魔法少女の絶望の感情を感じ取った悪魔ほむらが苦悶の表情を浮かべてしまう。

 

それでも()()()()()()()()()()()()と狂気の表情を浮かべながら胎児入りスープを口にする。

 

その光景を見守る魔王達は不敵な笑みを浮かべていき、パチパチと拍手をしてくれるのだ。

 

「豪快な喰らいっぷりだ、それでこそ魔王となる女。新たな魔王の誕生をベリアルが祝福する」

 

「アリナも祝福してあげる。さぁ、どんどん召し上がれ♪弱肉強食こそがデビルロードだカラ」

 

宴を盛り上げるため、ルキフグスが巨大プロジェクターを操作して映像をスクリーンに映す。

 

そこに広がっていたのは強姦される魔法少女達の光景であり、イナンナ崇拝の景色が広がる。

 

彼女達の映像はリアルタイムで届いており、バエルの領域でレイプされているのだ。

 

<<イヤァァァァーーーッッ!!助けてェェェェーーーーッッ!!!>>

 

泣き叫ぶ者達の声は宴会場の横で生演奏を行う音楽隊の激しい音でかき消されていく。

 

ワニ悪魔が群れを成す大池の中に吊り下げられた魔法少女達が落とされる映像光景もある。

 

<<ギャァァァァァーーーーッッ!!!>>

 

次々と体を食い千切られていく悲惨な光景こそバアル崇拝であり、子供を殺す生贄儀式。

 

アスモデウスの領域で行われる生贄儀式の光景もリアルタイムで届いてくるのだ。

 

バアルとイナンナ崇拝が吹き荒れる光景こそ、古代世界から続く悪魔崇拝カナン族の文化光景。

 

その地獄を見つめているのは魔法少女達の未来を守るために古巣に帰ってきた男の姿。

 

沈黙したままの男の目の前では守りたかった少女達が虐殺されていき、肉も魂も喰われていく。

 

誰も守れない者に対して横に座るバアル神モロクが指を鳴らす。

 

彼の元にもバアルが用意させた料理が運ばれていき、覚悟を試される時がきたのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「フン…バアルとアシュトレト神殿は併設され、売春宿とされていたという逸話通りの光景だ」

 

人修羅の側仕えとして控える十七夜と織莉子がガタガタ震える中、主人の男は微動だにしない。

 

彼の姿は両隣りにいる大魔王とバアル神に監視されており、彼もまた魔王の覚悟を試される。

 

「カナン人の神の礼拝は娼婦と男娼という神官によって成り立つ。狂宴こそがバアルの寺院だ」

 

「ヴードゥー教にも片鱗がある。モーセの義父のエテロを通じてエチオピアの儀式となったか」

 

「現在も同じ儀式がカリブ諸島を訪れる観光客を魅了する。バアル崇拝は現代でも生きている」

 

「こんな儀式など飽きてくるだけだ。火に赤子を放り込むのに飽きてカニバルを始めたように」

 

「ほう?飽きる程にまで子供を虐殺してきた守護者は言う事が違うな。ならばこれはどうだ?」

 

バアルの注文通りの料理を運んできた給仕が大きな皿を人修羅の前に置く。

 

生演奏をされていようが泣き叫ぶ声が目の前の皿に置かれた蓋の内側から聞こえてくる。

 

人修羅は動じない態度で料理の蓋を開けると両目が見開いていくのだ。

 

「魔法少女という子供の虐殺者殿ならば調理は必要あるまい?そのまま豪快に喰らうがいい」

 

目の前の皿には裸の赤子が寝かせられており、力の限り泣き喚き続けている。

 

「オギャーーーッッ!!オギャーーーッッ!!」

 

まだ生まれて間もなく、病院の新生児集中治療室の保育器に入れられている程の小さい命。

 

それを豪快に喰らい、生きたまま踊り食いをしろとバアルは要求してくるのだ。

 

狂い過ぎた狂気の世界を直視することが出来ない十七夜と織莉子が彼に念話を送ってくる。

 

<嘉嶋さん…やめてくれ!!こんな大罪は誰も許さない…二度と帰れない罪を犯す事になる!>

 

<尚紀さん…これ程までの罪を背負ってでも…貴方は進めるんですか!?>

 

心から敬愛する人を極悪人にしたくないと縋りつくような念話が聞こえるが、彼は無視する。

 

「その赤子はな、貴様が守れなかった人間の夫婦が新たに生んだ命。その命を糧にするがいい」

 

最初の魔法少女虐殺を行った時、守ってやれなかった人間の夫婦がいた。

 

娘を守れなかった人修羅はその夫婦のために人間社会主義を生んだのに殺せとくる。

 

これこそがバアルが与える人修羅への試練であり、乗り越えられないならば逆賊と判断する。

 

試される者となった人修羅であったが、その口元には邪悪な笑みが浮かんでいくのだ。

 

「クックックッ…思い出すな、ゴズテンノウ?ボルテクス界での決闘裁判の時の記憶をな…」

 

ボルテクス界において力の道を追求し、マントラ軍を結成したのがゴズテンノウ時代のバアル。

 

彼がもたらした力の法とは弱肉強食であり、強い者が弱い者を滅ぼせば正義とされる地獄の法。

 

人修羅は決闘裁判を乗り越えるために三体の悪魔と戦い、打ち倒す結果を残している魔人だ。

 

「我が掲げた力の法とは弱肉強食。それを体現出来る者ならば…我はあらゆる罪を許そうぞ」

 

「ならば再び見ていろ。弱者を喰らい、その血肉を糧にして強くなった…人修羅の在り方をな」

 

机の上に置かれていたナイフを手に取った瞬間、彼の覚悟を示す決断の一撃が放たれる。

 

「ガッ………ッッ!!!」

 

振り落とされた刃の一撃によって赤子の心臓は串刺しにされ、机を貫通する程の一撃となる。

 

一撃で絶命した赤子に対して恐ろしい悪魔と化した人修羅がバアルにオーダーを要求してくる。

 

「弱者の血肉を喰らう盃を用意しろ」

 

「フッ……これを使うがいい」

 

右手に出現させたのはバアルの盃であり、机の上を滑らせるようにして彼の前に置いてくれる。

 

片手を掲げた人修羅が悪魔の力を行使すれば死んだ赤子の体が宙に浮いていく。

 

水の神エンキと融合した彼は超能力魔法まで行使出来るようになり、赤子を空中に固定する。

 

「……フンッ」

 

開かれた手が握り込まれた瞬間、赤子の体が空間ごと圧縮されて潰されてしまう。

 

下に置かれていたバアルの盃の中に赤黒い血肉が絞り出されていき、血肉の酒と化すのだ。

 

大きな盃を手に取った人修羅は勢いよく赤子の酒を飲んでいき、全てを飲み尽くしていく。

 

赤子の肉も内蔵も目玉も髪の毛も全てを平らげる程の恐ろしさを周囲に与えていくのだ。

 

「「あっ……あぁ……」」

 

狂気に耐え切れず、ついにはへたり込んでしまった十七夜と織莉子は目にするだろう。

 

ゴズテンノウから可能性を見出された悪魔となりし人修羅の恐ろしい姿がそこにはあった。

 

「クックックッ……ハーッハッハッハッハッハッ!!」

 

両手を叩きながら人修羅を祝福するバアルは黄金の牛兜の中で愉悦の表情を浮かべている。

 

「それでこそ人修羅だ!マントラ時代から貴様に見出せていた狂気…ようやく垣間見えたぞ!」

 

「今の俺が求める思想とはヨスガであり、力だ。弱肉強食こそが自然の掟であり、悪魔の道だ」

 

「その通りだ!ようやく力の人修羅と巡り合うことが出来た…我らと共に覇道を進もうぞ!」

 

人修羅が行った赤子の虐殺はアリナも目にしており、その口元には不気味な笑みが浮かぶ。

 

「…その覚悟がボルテクス時代の頃にあったなら…私達はヨスガの道を共に生きられたのに…」

 

今のアリナはボルテクス時代の頃の千晶のような気持ちとなり、彼女の心が口調まで変える。

 

アリナの魂と千晶の魂は融合したことで彼女は尚紀の親友として生きた橘千晶にもなれるのだ。

 

覚悟を示したことで満足するバアルであるが、大魔王は沈黙したままである。

 

何を考えているのか周りに悟らせない彼の口元には不敵な笑みだけが浮かぶのだ。

 

魔王達を大喜びさせるのはバアル崇拝とイナンナ崇拝がもたらす地獄の狂宴儀式。

 

それを催されるのは邪悪の樹と呼ばれるクリフォトが内臓された新生バベルの塔の内部である。

 

バベルこそサタニズムを掲げた二ムロデが建築した塔であり、神への反逆意思が形となった樹。

 

バベルの塔は推定90メートルの高さでそびえ立つマルドゥク神殿がモデルにされた塔である。

 

バベルの塔の主こそが牛神の血統であるバアルであり、かれこそがベルの称号を持つ大魔王。

 

サタンの代表格こそが彼であり、ルシファーよりも遥かに恐ろしい悪魔の中の悪魔なのだ。

 

バベルの裂け目と言える領域で催される邪悪な儀式こそ、イザヤ書に記された地獄であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

悪魔の狂宴も終わりを告げ、魔王達はそれぞれの領域へと戻っていく。

 

しかし人修羅は欧米に用事があるようであり、休む間もなく専用飛行機に乗り込む。

 

エアフォースワンとしても使われるVC25に乗り込んだ後、護衛機と共にバベルの塔を去る。

 

空飛ぶホワイトハウスと呼ばれる程の機内のシークレットサービスエリアに座る者達がいる。

 

疲弊しきった顔つきで座るのは吸血鬼姉妹達であり、心の弱さを口に出してしまうのだろう。

 

「覚悟はしていたが…まさかあれ程までの地獄の光景を耐えなければならないなんて…」

 

「私達は耐え切れなかった…それなのに尚紀さんは顔色一つ変えずに赤子を殺せるだなんて…」

 

「あの人の覚悟は尋常じゃない…もう二度と…神浜の魔法少女達の元には帰らないつもりだ…」

 

「それだけの大罪を犯してでも果たしたい目的がある…本当に…強い人ですね…」

 

狂人に成り果ててでも役目を果たそうとする男の強さについて行こうとする者達もいる。

 

だがそれは買いかぶり過ぎであり、嘉嶋尚紀も人間の心を捨てきれない弱さを抱える者。

 

<<ゲホッ!!ガハッ!!ゴハァ……ッッ!!>>

 

大統領執務室として使われるオーバルルームの近くにあるトイレでは酷い咳き込みが聞こえる。

 

中にいたのは尚紀の姿であり、便器の中は盛大に吐血した程の血で溢れ返っているようだ。

 

「この程度で…弱さなど見せられない…俺には果たすべき使命が……ゴハァッッ!!」

 

あまりの苦しみによって胃に大穴が開いてしまった彼は吐血し続けていく。

 

この苦しみこそが潜入任務の痛みであり、自分の全てを真逆にしなければならない精神的地獄。

 

人格が壊れてしまう程の任務を背負ってでも彼は命を使い果たす程の覚悟で戦うのであろう。

 

「俺は誰も守れない…()()()()()()()()()()…それでもな…果たしたい目的がある…」

 

守りたいと思った夫婦の子供すら屠る覚悟を実行した男がトイレから出てくる。

 

手を洗うために洗面台に向かうのだが、足元もおぼつかない程にまで命を消耗している。

 

ふらつく体のまま洗面台を両手で掴んだ後、両手を洗いながら顔も洗っていく。

 

どうにかして冷静さを取り戻そうと洗面台の鏡を覗き込んだ瞬間、そこには弱さが映っている。

 

鏡に映っていたのは心優しい嘉嶋尚紀として生きた人修羅の姿であり、元の姿に戻っている。

 

かつての弱弱しい自分の姿を呆然と見つめるだけであったが、右拳が握り込まれていくのだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。俺はジャックとして…在り続ける!!」

 

弱さを映し出す鏡に対して右拳を叩きつけたことでガラスの半分が砕けてしまう。

 

残された鏡の半分に映っていたのは白人男性の姿であり、誰でもないジャックの姿を映す。

 

「悔いはない…俺の全ては神浜に残せてきた…後はもう…修羅としての人生を…生きるのみ…」

 

誰でもあり、誰でもない、そんな仮面を纏った男は再び絶対零度の心へと戻っていくだろう。

 

今の彼は嘉嶋尚紀であることを捨てた男であり、極悪非道の魔王としての役目を果たす者。

 

全ては自分の罪であり、罪人だからこそ全ての罪を背負う程の覚悟を示す者となる。

 

彼は独善を敷きながら魔法少女という子供達を虐殺した人修羅。

 

だからこそ正義を掲げた者としての責任を果たすため、二度と帰れない地獄を歩くのであった。

 




漫画ベルセルクのガニシュカ大帝ならどんな狂気の宴を生むのか?を妄想しながら描いてみました。
バーキラカの若様の地獄が溢れた!のセリフ通りの光景を生み出そうとカナン文化を調べたら、出るわ出るわ狂気のカルト文化(汗)
真女神転生4のゴズテンノウ(バアル)イベントで表現された天王洲奇譚カニバルイベントは僕の推しイベントで御座います(メガテン脳)
映画ワルプルギスの廻転の新映像の中には単眼を表現された悪魔ほむらも見えたので、拙作にも独自解釈で取り込んでみました。
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