人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
――私は、ペテン師だ。
<<今の時代を救うには、新しい信仰が必要なのです!>>
<<皆さんの欲望を、捨てて下さい!!そうすれば迷いは晴れる!!>>
<<人間を救うのは神ではない!!人間なのです!!>>
『ヒとビトがイキルノニヒつヨウな、アタらシイシンコうガ、ヒツよウダッた』
<<人間の心に目を向けて欲しい!人間の言葉で語りかけるのです!>>
<<人々を救えるものは古い伝統ではない…今を生きる希望なのです!>>
『せイショハまチガッテイタ。コンナかミキレ、なンノヤクニモたタナイ』
<<困っている人がいたら、苦しむ心に目を向けてあげてほしい!手を差し伸べてほしい!>>
<<他人が救われればまた、あなた方の心も同時に救済される!>>
<<それこそが、人類皆の心が救われる新しい信仰……希望なのです!!>>
『ニンげンヲスクえルノハ、ニンゲんダケダ。さクラぼクシハ、たダシい』
――私は、不徳漢だ。
<<皆さん!先ずは苦しむ私達家族の心に目を向けて欲しい!>>
<<私達は今…教会から破門され、毎日の食事にさえ満足にありつけない!!>>
『アあ、ナンてカワいソウ。テをサシノべナケれバナラなイ』
<<どうかお願いします!私の家族に慈悲の手を差し伸べて下さい!>>
『サくラボクしノ、かゾクを、スクわナケれバナらナい』
<<有難う!!皆さんの差し伸べてくれた慈悲によって、私達家族の心は救われた!>>
<<そして、あなた方の心も同時に救われたのです!>>
――私は、傲慢だ。
<<この救いの環を、多くの人々にも円のように繋げていかなければならない!>>
<<どうか皆さんの友人、隣人の方々にも私の教会に足を向けて欲しいとお伝え下さい!>>
『サくラぼクシノ、きュウさイを、ヒロめナケれバナらナイ』
<<これこそが、希望を繋いでいく円環の世界!!>>
<<私が提唱する、新しい信仰による救済の世界そのものなのです!!>>
『つナガなケレばナラナい、エンかンヲ、つナガなケレバなラナい』
――私は、彼らにとって真実でない事を信じさせようとした。
――私のやってきた事は……悪魔の如きトリックスターでしかなかった。
♦
「……杏子。これはどういう事なのか、説明しなさい」
礼拝堂には、無数に倒れた信者達が倒れている。
それにかつて信仰していた聖書が山のように置かれている。
聖書の山から感じるのは鼻を突く臭いはガソリン。
恐らくは狂った信者達の集団自殺現場であろう。
「杏子、答えるんだ。お前のその姿は何だ?なぜこの人達は自殺をしようとしていたのだ?」
「父さん…よく聞いて欲しいの。あたし…あたしね、魔法少女なの……」
「…魔法?」
「魔法少女は契約を結んで魔女と戦う運命となる代わりに、願いを一つだけ叶えてもらえるの」
「…魔女、だって?詳しく…聞かせなさい」
娘から聞かされる魔女という存在、そして魔法少女という存在。
魔法少女は人々に呪いを与えて死に追いやる、魔法少女はそれを救う存在なのだと聞かされる。
(…そんな話を誰が信じられる?漫画の世界じゃないか…)
それでも娘が父親に嘘を語るとも思えない。
「魔法少女は一つの願いを叶えて契約すると言ったな?その願いの内容はなんだ?」
「それは……」
「なぜ黙っている?まさか、人に言えないような事なのか?そんな邪悪な事なのか?」
「ち、違うよ!あたしは自分の願いに誇りを持ってる!」
「誇りに思うのならば隠す必要はない。堂々とその願いを答えるんだ……杏子」
俯いていたが顔を上げ、真剣な眼差しで語ってしまう。
「あたしは、みんなに父さんの話を真剣に聞いて欲しかった」
夜の礼拝堂で明かりは少ない。
影の世界に映る佐倉牧師の顔は恐ろしく歪んでいる。
「……ハハ…ハハハ、そうかそうか。私は……ただの
「違うよ父さん!みんな真剣に聞いてくれたんだよ!だから、賛同してくれたの!!」
「ならば、明日試してみよう」
「えっ……?」
「お前の言う事が正しいかどうか…必ず明日、その目で見ていなさい」
「試す?一体何を試すというの…父さん!」
冷静さを保とうと足掻くが、佐倉牧師の眉間にはシワが寄り切っている。
(心が煮えたぎる…膝が崩れ落ちてしまいそうだ…)
「……今日はもう休みなさい。私は明日の演説内容を一人で考えたい」
「父さん……」
震えながらも父の後ろを歩く娘は歩いていく。
部屋に戻る途中、娘達の部屋の扉が開いてモモが出てきたようだ。
「おねぇちゃんどこー…?パパ?それに…お姉ちゃん?」
眠そうな顔をしたモモの対して、さび付いたゼンマイのようにゆっくりと顔を振り向ける。
「…どうしたの?パパ」
どんな顔をしていいのか佐倉牧師には分からない。
それでも心配をかけさせまいとモモの頭を優しく撫でてくれる。
「起こしてしまってすまないね、モモ。何でもないんだよ、お前は寝ていなさい」
「は~い…お休みなさい、パパ、お姉ちゃん」
素直に部屋に帰るモモの後ろ姿に対して二人は力なく見つめる事しか出来なかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
風見野市繁華街。
昼間のこの時間ならば大勢の人間達に声が届くだろう。
実験をするには好都合な場所である。
(私は願う…私の言葉を皆が真剣に聞き…私を罵ってくれる事を…願おう)
「皆さん!たとえ忙しかろうと、それは無視して私の話を今直ぐ聞いて欲しい!!」
佐倉牧師の響き渡る言葉を聞いた周囲の人々の表情が虚ろとなっていく。
「私は訂正する!迷いが絶望を生む憎むべき悪であるという考えは…まったくの嘘だ!!」
『ソウだ、ゼつボウは、アくデハなカッた』
「希望など持って生きても無駄だ!既にこの世は生き地獄なのだから!!」
『そウダ、コのヨはイキじゴクだ』
「他人に目を向ける必要などはない!欲望に塗れた己の心を見つめなさい!それが救済だ!!」
『そウダ、よクぼウコソが、ワレわレノきュウサいダ』
「人の世に環など不要!円を作ってはならぬ!」
『ソウだ、エンカンは、マチガッテいる』
「私利私欲を満たし!弱者を淘汰する弱肉強食の世界こそ人間らしく生きられる幸福な世界!」
『わレワレは、じブンだケガあレバいイ。りコしュギ、リベラルが、わレワレをスクう』
「この世は神に見放された!欲望、迷い、そして絶望による破滅!これこそ人間の正しい姿!」
『カみハシんダ!!ぜツボうコソがニンゲんシャカイのスクイ!』
「弱肉強食の資本主義社会の理こそが…唯一の道標だ!!」
『じャクシャのトウタだ!!じャクしャハシね!ジャくシャハしネ!!』
(そんなバカな!?どうして…どうしてみんな、父さんのこんな酷い話を肯定するの!?)
興奮しながら喚き散らした佐倉牧師であるが最後の望みを断たれた事で膝が崩れ落ちる。
「なんということだ……これでは、
恐ろしい光景が広がっている。
まるで人間から思考を奪って骨抜きにし、民を惑わして洗脳する悪魔の言葉だ。
それを与えてしまった現実を直視した彼は完全に絶望してしまう。
「信じた信仰など…誰も見てくれなかった!私の言葉は人々を惑わす…
――これが
『うばエ!!ウバえ!!カネをうばエ!!」
『キュウリョウないンダ!モツやつカらウバうケンりがあル!!」
集まった人間達が一斉に街で暴れだす。
ショーウィンドを割り、欲しい物を奪い、抵抗する人間は集団で襲いかかって暴力を振るう。
佐倉牧師の言葉が暴徒の群れを生んでしまった事でついに彼の心は壊れるのであった。
♦
「…あれから一ヶ月が過ぎたか?三ヶ月?……どうでもいいか…」
荒れ果てた住居のリビングには酒の臭いと空き瓶が撒き散らされ、タバコの臭いも染み渡る。
「ハハ……酷い光景だな。悪魔にたぶらかされた私には相応しいだろう…」
佐倉牧師の脳裏に浮かぶのは、かつての夕餉や聖書朗読が続いていた光景。
「全てがどうでもいい…もう私には何もない…あの忌まわしい魔女が…全てを壊した」
あの日より佐倉牧師の家族は崩壊する。
妻とは毎日夫婦喧嘩をし、ついには暴力を毎日振るうまでに堕ちていく。
妻は夫を恐れ、部屋から出てこなくなってしまう。
毎日泣くモモに対しては酒瓶を投げつけて追い出してしまう始末。
「もう家族を支える自信は無い…魔女に与えられた力に頼りたくなんてない……」
杏子が与えた洗脳の力で犠牲になってしまった人々の金で家族を育てたくないと彼は呟く。
自問自答ばかりの日々を佐倉牧師は繰り返し、どうしてこうなったのかと嘆いていく。
「私は…迷い苦しむ人間を導く為に牧師になったのに…どうして…こうなった?」
そこにいるのは神の教えを説いていた頃の彼ではない。
ただのやくたたずでしかない佐倉牧師がそこにいる。
「役に立たなかった私の理想…それでも、
恨み言を呟く後ろには魔法少女姿の杏子が立っている。
彼にとっては聞きたくもない言い訳ばかりが魔女の口から漏れてくる。
「何が魔女を倒して自殺しそうな人を救っただ?世の不幸や悲しみを魔法少女達が救うだ?」
「聞いてよ、父さん!あたしは今でも父さんの言葉が好きだよ!報われた笑顔が好きだった!」
「全部……お前が生み出した幻じゃないか」
「そ…それは…」
「私の元に訪れた人々は信仰の為ではなく、魔女の力に惑わされた人々だ」
「そんなこと……」
「お前は彼らを手に掛けるつもりだったのだろう?集団自殺に見せかけて?」
「違うっ!!」
「あれが悪魔と交わした契約の生贄か?教会の娘が悪魔に魂を売り飛ばすとはな…」
「だから!何度も言ってるだろ!魔女と魔法少女は違うんだ!」
「何が違う?どこが違う?」
「あたしは誰の命も奪ったりなんかしない!あたしは魔女なんかじゃ…」
「お前は最初から私の話など聞く耳持たれなくて当然、救いにならない戯言だと思ってたか?」
「そんなことない……こんなつもりじゃなかったんだよ!」
「ハハハ!全く、その通りだ!私に世の中を救う力が無いから悪魔などに付け入る隙を与えた」
「なんで……なんでそんなに自分ばかり責めるのさ!?」
「杏子が悪いんじゃない…全て私の無能さの責任だと言ってしまえ」
「違うよ父さん……違っ…」
「何が違うんだ?魔法少女の力さえあれば、世の中の不幸や悲しみを着実に摘める?」
「そうだよ…そう信じてあたしは魔法少女に…」
「当てつけがましい言い訳を並び立てるぐらいなら、いっそ無能極まりないゴミだと私を罵れ」
「父さん……」
「今のお前がやってる事はなんだ?私などいなくても世の中を救えると言ってるようなものだ」
――それすら自覚も無く嬉々として語るのか……
「ッッ!!!」
実の父に魔女と罵られた娘が去っていく。
「もう……私の一家はお終いだな」
これからの事を考える必要がある佐倉牧師は立ち上がり、棚から一枚の名刺を取り出す。
それは尚紀が手渡した職場の名刺なのだ。
「…尚紀君に謝るしかない。せっかく私の理解者になってくれたのに……」
こんな事ならキリスト教牧師を続けていればと後悔するが、もう遅い。
「彼は優しい男だ…頼み込めば、家族の面倒ぐらい見てくれるかもしれない…」
名刺を握る手が震えていく。
悲惨な一家に巻き込みたくないという最後の良心が邪魔をして踏み切れない。
「彼は過酷な道に進んだ……私も自分の道に進む覚悟を示すしかない」
尚紀が渡した優しさの形が棚に仕舞われる。
名刺の裏には彼が連絡して欲しいと貼り付けた硬貨が張られていたのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
ペンタグラム決起まで残すところあと10日。
探偵事務所の仕事を終わらせ帰宅しようとしていた時、電話が鳴る。
「誰からだ?」
トレンチコートのポケットからスマホを取り出し、通話ボタンをスライドさせる。
「……尚紀君、久しぶりだね」
「どうした…佐倉牧師?景気のいい新興宗教の長にしては…随分と元気がない声じゃないか?」
「君から貰った名刺の100円硬貨…使うべきではないと考えていたが…使わせてもらったよ」
それは佐倉牧師の最後の命綱であり、この電話内容がただ事ではないという証拠だろう。
「……何があった、佐倉牧師?」
「聞いて欲しい…尚紀君。これは、君にしか話す事が出来ない……私の懺悔だ」
(悪魔の俺に懺悔?一体佐倉牧師は何をやったんだ…)
「新興宗教の成功はね…魔法少女になった杏子が生み出した…虚飾でしかなかったのだ…」
その一言で自体がどんなに不味い事になっているのかを尚紀は理解する。
「…あんたの言いたい事は大体分かった。早まるな……杏子に罪はない」
「全ての罪は…愚かな道を追求し、自惚れていたが無能だった……私にある」
「あんたの言葉はたしかに杏子が生み出したものだ。信者達を願いによって支配してな…」
「流石は探偵さんだ…この前訪れていた時に、そこまで気がついていたとはね」
「新興宗教を辞めたいというのなら、お前達の生活費なら俺が……」
「もう十分過ぎるぐらい世話になった…東京に行っても私達を支えてくれる家族だった…」
「バカ言え!この程度であんた達に世話になった恩返しが出来たなんて…考えてねぇよ!!」
「君は優しい男だ…私の側にそんな優しい声をかけてくれる者は…もういなくなってしまった」
「何をするつもりだ!?今のあんたの声には…危うさしか感じられない!!」
「自堕落に溺れ、娘を魔女と罵り、家族に暴力を振るった。私はもう君の知ってる私ではない」
「あんたの家族があんたを責めても…俺はあんたを責めない!!」
「尚紀君……」
「あんたは…どこの誰かも分からないこの俺を拾ってくれた、ただ一人の恩人だ!!」
「君という…男は……」
尚紀の心が宿った叫びを聞いた佐倉牧師の声に熱が籠もっていく。
「お前の言葉は嘘なんかじゃない!風華の墓の前で語ってくれた言葉だけが…俺を救った!」
――あんたの
「……うっ…ガッ…ぐっ……うぅぅ!!」
嗚咽を堪らえようとする声が響く中、佐倉牧師の最後の言葉が聞こえてくる。
「ありがとう…尚紀君。君のその言葉で…私の心は最後に…救われたよ」
――この100円硬貨は…私の心を救済してくれた。
「今直ぐそっちに行く!!だから…だから頼むから…早まらないでくれぇ!!」
「さようなら…尚紀君。君を連れてきてくれた風華ちゃんに…心から感謝する」
受話器を下ろした佐倉牧師が電話ボックスから出ていく。
その横には二つのガソリンタンクが置かれている。
佐倉牧師にとっては最後になるだろう道のりをガソリンと共に歩いていった。
♦
妻の部屋前でノックの音が響いてくる。
「…私だ。大丈夫…今日は酒を飲んでいない。暴力は振るわないよ」
少しだけ扉を開けた先には震え上がる妻の姿が見える。
「…私が悪かった、懺悔がしたい。昔…神様がいてくれた場所に赴こう」
「……何をしに?」
「罪を告白し、聖書をもう一度読んでやり直そう……」
安堵したのか、固く閉めた扉を開けてくれる。
怯えたモモも妻が説得した事で三人は礼拝堂へと赴くが、そこに杏子の姿は見えない。
(魔法少女となった杏子には逆らえない…だからもう、私達だけで終わらせる)
かつて十字架があった薄暗い礼拝堂の演説台の前に三人は訪れる。
「二人共、聞いてくれるか?これが牧師だった私が語る……最後のデボーションだ」
「最後の…?」
「パパ…?」
怪訝な表情を向ける妻と娘に対して夫は最後の笑顔を向けながら聖書をめくっていく。
旧約聖書・エゼキエル書・28章15節~19節を語っていくのだろう。
あなたは造られた日から、あなたの中に悪が見いだされた日までそのおこないが完全であった。
あなたの商売が盛んになると、あなたの中に暴虐が満ちて、あなたは罪を犯した。
わたしはあなたを神の山から汚れたものとして投げ出し、ケルブは火の石の間から追い出す。
あなたは自分の美しさのために心高ぶり、その輝きのために自分の知恵を汚した。
ゆえに、わたしはあなたを地に投げうち、王たちの前に置いて見せ物とした。
あなたは不正な交易をして犯した多くの罪によってあなたの聖所を汚した。
わたしはあなたの中から火を出してあなたを焼く。
あなたを見るすべての者の前で
もろもろの民のうちであなたを知る者は皆あなたについて驚く。
あなたは恐るべき終りを遂げ、
「その一節はまさか……大魔王ルシファーの堕天!?」
「どんなに完璧な存在であっても、傲慢によって罪を犯し、滅びの道へと進んでいく」
「パパー?難しい話だけど…どういう意味なのー?」
「モモ、悪魔という罪人はね…神の山から追い出され、地に投げうたれ……」
――無様に笑われながら、
「あなた…どういうつもりでそんな一節を読んだの!?」
「私もそうなる。人間社会から追い出され、地に投げうたれ、大衆から笑われながら灰になる」
牧師としての表情をしているが目の奥には暗い闇が蠢いている。
隠された果物ナイフが光る時、佐倉一家の破滅が訪れるだろう。
「どう…し…て……?」
妻の心臓は神の秘密が記された聖なるリンゴを剥く道具で貫かれている。
「ママァァァーーーーーッッ!!?」
倒れ込んで即死した母に絶叫しながら泣くモモは喚きながら妻の死体に覆い被さる。
続いて娘の背中から心臓に目掛けて血塗れた刃が振り落とされるだろう。
「あっ……パ……パ……?」
苦しまないようにと愛する者達の心臓が刃によって赤く染められてしまう。
「……こうするしか、なかった」
これが魔法少女によって破滅させられた人物が出した答え。
死を持って終わりを迎える光景なのだ。
「…家族全員に罪があった。杏子を呪われた悪魔の如き魔法少女にするのを止められなかった」
踵を返した佐倉牧師は横に隠してあるガソリンタンクを取りに行く。
「これからも魔法少女達は…その傲慢な願いを用いて…多くの人間達を苦しめるのだろうか?」
それを止める事は無力な人間には出来ない。
「魔法少女などに関わってしまったが故に…私達家族は破滅を迎えた……
最後に他の宗教である仏教思想の因果を語ってしまった自分に彼は苦笑してしまう。
「これなら、牧師ではなく僧侶にでもなってた方がマシだったな…」
礼拝堂から住居にいたるまでガソリンをばら撒いていく。
演説台の上には絞首刑用の太い縄。
佐倉牧師は虚飾に塗れた演説を行った上に立つ。
「人を惑わす嘘を語った場所で処刑されるのならば……まさに因果応報だな」
最後に
刑務所の罪人達と同じ罪人となり、ようやく彼は理解する。
「やはり罪人には、神の名のもとに……罰が必要だ」
彼らにも、こうなる因果をもたらした運命があったのだと理解出来たようだ。
「父なる神よ、貴方は本当に酷い御方だ…私の家族に敷いた理不尽な運命…永遠に…呪います」
足場である演説台を蹴り倒すと首に体重が伸し掛かり、首をへし折ろうと圧力がかかる。
しかし人間の体は思った以上に頑丈であり、長い苦しみを背負う事になろう。
(絞首刑に処された者達は…この長い苦しみの果に…死んでいったのか……)
最後の力を振り絞り、ポケットからマッチを取り出す。
礼拝堂は気化したガソリンで満たされている。
空気が導火線となった礼拝堂において、罰を下す火が点けられるのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
風見野市に向けて高速道路を走行してくるのは一台のスーパーカーである。
「急いでくれ、瑠偉!!」
「十分急いでるわよ!!全く…人使いが荒いんだから!」
風見野市は田舎都市であるが故に高速道路は直通していない。
一旦高速道路から降り、一般道を移動する必要があったようだ。
「……何だよ、あれは!?」
遠くの街で火の手が昇り、夜空を照らす。
「佐倉牧師……あんた一体、何をやらかしたぁ!?」
高速道路を降り、風見野市に向かって走行し続ける。
風見野市郊外に入り、赤い火の手が何なのかはっきり分かったようだ。
「佐倉牧師の教会が……燃えているのか!?」
森を走行しながら開けた場所で急停止した時、ついに尚紀は絶叫するだろう。
「あぁ……あぁぁぁぁーーッッ!!!!!」
この世界で我が家となってくれた神の家が燃えているのだから。
「みんなぁぁーーーッッ!!!」
我を忘れたようにして車から飛び出していく。
瑠偉は消防署に連絡してくれているようだ。
住居のドアを蹴破り、中に侵入するがそこは既に火の海である。
「杏子ぉぉぉーーーッ!!!モモォォォーーーーッ!!!」
燃え盛る業火と煙に塗れた家の中を走り、生きている人がいないか探し続ける。
部屋を開けては炎が燃え盛り、業火が飛び出す。
泣き喚きながら業火の世界で叫び続けていくだろう。
誰も返事を返してくれる人などいないのに。
彼が初めて眠りにつけた時に見た悪夢の光景が生み出されているのだ。
「くそっ!!もう天井が持ちそうにない!」
礼拝堂へと向かうが、窓が炎で壊されて業火が噴き上がり続けている。
「俺の大切なモノが…炎で破壊されていく…!!」
黒煙と炎が噴き上がる礼拝堂の入り口に入り込むと尚紀は愕然とするだろう
「……悪夢だ」
燃え盛る大聖堂の光景に対して彼は膝が崩れてしまう。
十字架の代わりにシャンデリアからぶら下がっている者も見えるだろう。
首が吊られ、燃え上がる佐倉牧師の遺体である。
その下には炎に包まれた女性と少女の遺体も存在している。
――心せよ、かつて人であった悪魔よ。
――我が消えても、お前が安息を迎える事はないのだ。
「ああ……っっ!!ああぁーーーーッッ!!!!!」
彼が叫びたかった声を代わりに発している存在が見える。
家族が焼かれる光景の前で膝が崩れ落ちているのは杏子の姿のようだ。
「どうして……どうしてこの一家が破滅を迎えてしまう!?」
杏子は家族を含めた人間を守る為に魔法少女になったはず。
なのに、なぜこんな事になってしまった?
「なぜこんな事をする!?なぜ俺だけに裁きを下さないッ!!?」
悪魔である尚紀にしか聞こえない大いなる言霊がその答えを返すようにして響いてくる。
――お前が、
「くそぉぉーーーーッッ!!!!!」
鈍化した世界。
立ち上がりながら走る彼は膝が崩れた杏子を肩に担ぎ上げた後、入り口に向かって走り出す。
背後に落ちてきたのは燃え上がるシャンデリア。
業火の海に手を伸ばし、声にならない叫びを上げ続ける杏子。
入り口に見える消防隊員達の姿であり、尚紀達が業火の世界から飛び出すよう誘導する。
業火の世界から飛び出し、家族の命を救えたのだが杏子が暴れ狂う。
「離せぇ!!離せぇぇぇーーッッ!!!」
「落ち着きなさい!早く救急車に!!」
「黙れぇ!!」
杏子は暴れ狂いながら消防士達に暴力を振るい、そのまま礼拝堂に向かって走り出す。
「よせッッ!!!」
尚紀は杏子の背後から飛びかかりながら押し倒し、藻掻く彼女を押し倒して制する。
「離せぇーーッッ!!あたしの家族が…家族が……」
「燃えていく…風華との思い出が…俺達の…家族が……」
「……ちくしょう………ちくしょう………」
倒れ込みながら泣き続ける二人の姿を尻目に消防隊の者達が消火活動を始めていく。
神の家であり二人の我が家が崩壊していく。
「なんでぇ!!?何でこうなるんだよぉーーーッッ!!!!」
手を伸ばしても、燃え尽きていく大切な者達は帰らない。
神に呪われし悪魔と神の御使いと契約を交わした魔法少女だけが残されてしまう。
二人の思い出は焼き尽くされ、今ここに運命という名の神罰が下されるのであった。
♦
夜を徹した消火活動によって火事はどうにか消し止められる。
石造りの大聖堂の外観は残ったが、住居は燃え尽きているようだ。
雪が降り始める中、消防隊員によってブルーシートに包まれた遺体が運び出されていく。
「……………」
一晩中泣いていた杏子は放心状態のまま家族の遺体を見つめる事しか出来ない。
他の者達も彼女にかけてやれる言葉などないだろう。
「親族の方でしょうか?」
「……そうだ」
「病院に搬送します、乗って下さい」
「私が車で病院に送っていくわ。救急車の後をついていけばいいのね?」
「分かりました、それでは移動します」
杏子を残した尚紀と瑠偉は車で病院へと向かっていく。
火災原因調査班が現場検証を始めていく光景の中、杏子だけが時間が止まったように残される。
病院に搬送された遺体の状況から見て、事件性があると医者は判断してくれる。
刑事訴訟法第229条のもと、検察官同伴の検視が行われる形となったようだ。
司法解剖の必要性があると認められ、大学の法医学教室に移されていく。
司法解剖の結果、家族の無理心中という結論へと至った。
♦
死体安置所の椅子に座る人物達とは尚紀と瑠偉である。
佐倉一家の親族が訪れるのを待っているようだ。
遺体安置所に訪れる担当医に対して項垂れた尚紀が顔を上げて声をかける。
「……まだ、親族は来ないのか?」
怒気を含む低い声に対して担当医の者も顔を俯けながら返事に応えてくれる
「親族との連絡はとれましたが……」
「……どうした?」
「……親族全員に、遺体の引き取りを拒否されました」
「馬鹿な!?どうしてそうなる!!」
「それどころか…葬儀さえ行いたくないと言われました」
「ふざけるなぁ!!」
激怒した尚紀が医者の胸ぐらを掴むのだが、担当医は現実を直視しろと言ってくる。
「残念ですが…これが現実なんです…」
諦めた表情を向ける医者に対して尚紀は怒りのまま振り上げた拳を下ろしていく。
「薄情な親族達ね…」
「…俺の家族達は…このままどうなっていく…?」
「行政による簡易葬儀の後に火葬されて、遺骨は一年後に無縁仏として寺院に送られるわ」
「…無縁仏だと?」
「でもね、無縁仏を管理するコストは高いのよ…」
霊園自体が経営難で廃業に追い込まれた場合、墓が自治体に整理される事もあると聞かされる。
「無縁仏達は……どうなるんだ?」
「遺骨は全て砕かれるし、墓石も撤去される。後は名無しの合祀墓に収められて終わりよ」
――まるでゴミを処分するかのようにね。
「理不尽過ぎるだろ!親族の電話番号を教えろ…俺が直接文句を言う!!」
「出来ません!個人情報保護法があるのです!」
「まだこの家族には娘がいるんだぞ!残された娘はどうなる!?」
「自治体によって児童養護施設に移される手続きになると思いますが…」
「児童養護施設に預けられるだと…?」
脳裏には風華が語った児童養護施設の現実が過り、杏子が同じ末路になる姿が浮かぶ。
「風華と同じ状況に…杏子はなってしまったのか…」
佐倉一家を襲った理不尽、社会の理不尽さえ重くのしかかるだろう。
「救わなければならない……佐倉一家は、俺が救わなければならない…」
「貴方は親族の方ですよね?」
「……そうだ」
「死体の受け取りはどうしましょうか?」
「……俺が受取人になる」
「では、書類にサインをお願いします」
「クソ親族共が俺の家族を見捨てるなら……俺が喪主になってやる」
その後の手続は全て尚紀が引き受け、高い費用も彼が負担してくれる。
喪主として葬儀を執り行う中、出席者の中には丈二の姿もいるようだ。
「悪いな、丈二……来てくれて感謝する」
「いいんだ、尚紀。お前が世話になった人達の葬儀なら、俺も出席させてもらう」
「……私たち三人しか出席者はいないわね」
「ああ……本当に薄情な親族共だったんだな」
「……そうだな」
その後、火葬された遺骨は風見野霊園に収められる。
全ての手続を終えた頃には8日分の時間が過ぎている。
ペンタグラムが決起を行うまで、あと二日の日であった。
♦
「…こんな形で、恩を返すつもりはなかった」
墓の前に佇むのは喪服スーツを着た尚紀の姿である。
「もっと違う形で……返したかった」
手に持った花を献花し、佐倉牧師に渡された思い出の写真を取り出す。
写し出された大切な人達に目を向けながら目頭を熱くする。
「残されたのは……俺と杏子だけか」
写真を持つ手が震えていくが、彼の心には決意が宿っている。
「杏子を救う…あの子を風華と同じ目には合わさない。杏子だけでも…救ってみせる」
風見野を探してみるが杏子の姿は見つからない中、彼女の行方を推測していく。
「杏子の行方を考えるとしたら……」
巴マミの存在が頭に浮かび上がり、急ぎ足で見滝原市に向かう。
これがさらなる神罰をもたらす結果となろうとは今の尚紀では考える事も出来ないのであった。
読んで頂き、有難うございます。