人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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329話 立場固定バイアス

これは体が変化した尚紀が神浜に戻ってきた頃の出来事である。

 

尚紀を運んだリヴィア・メディロスは知り合いのヴィクトルを頼るために神浜に来ている。

 

イメチェンした彼に対して若干引き気味な表情を浮かべるリヴィアであるが世話になるようだ。

 

ヴィクトルの厚意によってホテルの駐車場を提供してもらい、車は駐車料金要らずである。

 

風呂なしキャンピングカー生活のためホテル部屋も提供してくれたリヴィアは大喜びするのだ。

 

「ごめんやで…ヴィクトル。身を隠す場所の提供だけでいいのに部屋まで用意してもらって…」

 

「気にするな。外の駐車場生活だけでは寝込みを悪魔に襲ってくれと言ってるようなものだぞ」

 

「それもそうやね…ヨズルやすだちだけでなく、私もホテル暮らしさせてもらえて感謝するわ」

 

「このホテルには匿ってるデビルサマナーもいる。傷が癒えた彼はホテル警備をしてるんだ」

 

「デビルサマナーがいてくれるなら私も安心して寝られそうや。地獄に仏やで…ほんまにね」

 

「安心するのは早いぞ?吾輩は調整屋のみたま君を失ってソウルジェム情報不足になっている」

 

「あぁ…そういうこと?また私を以前のように利用したいわけなんやね…?」

 

「その通り。みたま君が来る前は君からソウルジェム情報のレポートを送ってもらってたのだ」

 

「以前の私は車を購入するための資金が必要やったし…ヴィクトルの世話になったもんや…」

 

「渡る世間はGive and take!これはみたま君にも教えた商売人の教訓だよ」

 

「はいはい、同じ商売人として私も重々承知してるで。ほな、以前と同じくビジネス関係やね」

 

ホテルの応接室で商談成立していた時、弟子のヨズル達が慌てて入り込んでくる。

 

「ふんむ!!ふんむむむ~~♪」

 

「やっぱり先生じゃないですか!先生の魔力を感じたので慌てて地下から出てきました!」

 

大喜びしながらリヴィアの元にやってきた可愛い弟子達の頭を師匠は優しく撫でてくれる。

 

「外の世界も物騒極まりない世の中になってしもうたし…私も暫く神浜で商売していくで」

 

「悪魔が跋扈する世界になったとヴィクトルさんから聞かされています…困りましたよね…」

 

「ふむむむぅ……ふむっ!ふんむふんむ!!」

 

「すだちも強くなる努力をするようです。調整屋だからといって…もう甘えは許されない…」

 

「その通りやね…そのための準備もしてきたつもりや。力の無い調整屋とは言わせへんで」

 

「君達も御霊合体を経験しておくかね?そうすれば悪魔の魔法の力を行使出来るようになる」

 

「もし私達の力が足りないと感じた時には…お願いするわ。それまでは勘弁やで」

 

「むぅ…残念だ。今な、ちょうど粋のいい悪魔を召喚していてクランケを探してたのだが…」

 

不気味な笑みを浮かべながら両手をワキワキさせてくるヴィクトルを見た者達の顔が青くなる。

 

隅に移動してヒソヒソ話を始めるのは彼が恐ろしいからだろう。

 

(先生…私達は本当にここで世話になってていいんですか…?)

 

(イメチェンしたってのはホンマやね…マッドな性格に一層磨きがかかっとる…)

 

(ふむぅ……ふむっ!!)

 

(いざとなったらドツキ倒すとすだちも言ってますが…どうします?)

 

(反対は無いで。私らを悪魔研究の生贄にするつもりなら性格を矯正出来るまでタコ殴りやね)

 

振り返った彼女達も不気味な笑みを浮かべてくるため、ヴィクトルも恐ろしくなったようだ。

 

こうしてリヴィア達は神浜で調整仕事をするようになり、地元の魔法少女とも交流が生まれる。

 

出張調整屋のピュエラケアとして知られるようになり、悪魔化した弟子の代わりに調整を施す。

 

代金はグリーフキューブの代わりとなる魔石となり、仕事も軌道に乗った頃に事件が起きる。

 

里見那由他や嘉嶋尚紀達が行方不明となったことで神浜魔法少女達も元気がなくなったのだ。

 

そして月日がさらに過ぎた頃に移る。

 

「グスッ…ヒック…フロスト君…なゆたん…なおたん…みんながミィを置いていく…」

 

業魔殿の調整屋スペースに来ていたみかげは寂しくて堪らないのか隅の席で泣いている。

 

他に訪れていた者達は先に帰ったようであり、彼女だけが独りぼっちで残っていたようだ。

 

仲良くなってくれた弟分の仲魔に死なれ、親友になってくれた人や大好きな人も去っていく。

 

中学一年生の少女の心にのしかかる悲しみは重く、明るい性格のみかげも暗くなっていくのだ。

 

そんな彼女のもとに来てくれたのは調整仕事を終えて手が空いていた佐和月出里(すだち)だった。

 

「え…えっと……」

 

失語症のせいで会話もままならない調整屋としてしか認識されてないため、みかげも困り顔。

 

そんな彼女にどう接するべきか、すだちも悩んでしまうようだ。

 

(…どうしよう?この子も大切な人達がいなくなって…寂しいんだよね…?)

 

心の中では普通に会話が出来る彼女は愛嬌を浮かべながら身振り手振りで元気づけてくれる。

 

それでも顔を俯けた彼女は黙して語らずであったため、すだちは何かを取りに行く。

 

持ってきたのは十代少女のファッションを掲載したテラピチであり、今月号のようだ。

 

テラピチを愛読しているみかげの目が見開き、すだちに対して色々質問してくれる。

 

失語症の彼女でも可愛いファッションが掲載された雑誌についてアレコレ頷く事は出来る。

 

(わたしって…こうして同じぐらいの歳の子と遊ぶなんて…久しぶりかも…)

 

服の好みについて色々話していたのだが、寂しかったのか一方的な会話となってしまう。

 

(凄い…ずっと一人で喋り続けてる…というより考えてる事が漏れてるだけかも…)

 

自分の好きなファッションについて共感してくれる人と出会えたのが嬉しいのか笑顔を見せる。

 

そんなみかげが嬉しかったのか、すだちまで笑顔を浮かべてくれるのだ。

 

(なんだろう…凄く振り回されっぱなしなのに…この子が喋ってるだけなのに…凄く…温かい)

 

歳の離れたリヴィアやヨズルと一緒に生きるしかなかった彼女は同年代の友達がいない。

 

だからこそ友達になれるかもと淡い期待を寄せていた時、緊急事態が訪れるのだ。

 

「た、たたた大変だァァァーッッ!!魔法少女共が地上でカチコミをかけに来たぞーッッ!!」

 

調整屋スペースに飛び込んできたのは人間に擬態した姿のイッポンダタラメイドである。

 

それを聞かされたすだちは地上のキャンピングカーに私物を取りに行ったリヴィアを思い出す。

 

<ヨ、ヨズル!!リヴィアさんが危ない!!>

 

人見知りのすだちが唯一念話相手に選んだヨズルに語り掛けるよりも先に彼女は飛び出す。

 

ヨズルも地上に向かったリヴィアの事には気づいており、彼女の身を案じているのだ。

 

「何が起きているんですか…神浜の魔法少女社会に!?無事でいてください…先生!!」

 

物資搬入エレベーター方面に向かったヨズルを追うためにみかげとすだちも動いてくれる。

 

「う、うぉれはヴィクトルに報告するゥゥゥーッッ!!うぉまえらはどうするゥゥーッッ!?」

 

「ミィ達も追いかけるよ!眼鏡の調整屋さんが怪我させられたら大変だよぉ!!」

 

「ふんむ!!ふんむむむーーーーッッ!!」

 

みかげとすだちも慌てながらヨズルを追うのだが、エレベーターは物資搬入用しかない。

 

ヨズルに先に使われてしまったため、彼女達は階段を使って昇るしかなかったのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「そこをどきなさいよ!!流れの調整屋さんには関係ないでしょ!!」

 

「関係あるわ!私らは業魔殿に身を寄せとるんやで!住処を壊しに来た奴らを見過ごせるか!」

 

物資搬入用エレベーターが隠された倉庫の前で仁王立ちするのはリヴィア・メディロス。

 

彼女の前には徒党を組んでやってきた新入り魔法少女達の群れがいる。

 

全員が魔法少女姿に変身しており、その手には魔法武器が握り締められている。

 

明らかに業魔殿を破壊しにやってきた者達だと誰でも分かる光景なのだ。

 

「アンタも悪魔の味方がしたいんでしょ!!業魔殿は悪魔研究所なのよ!!」

 

「悪魔を研究してるからってなんや!!あんたらに危害を加えたわけじゃないやろ!!」

 

ヴィクトルの世話になり、新しい魔法の力まで授けてくれているはずだと彼女は言ってくれる。

 

それでも自分達の味方にならない者に対して酷い同調圧力を仕掛けてくるのだ。

 

どうにかなだめようとリヴィアも努力していた時、倉庫の扉を開けて現れる者がいる。

 

「無事ですか、先生!!」

 

慌てたヨズルも加勢に現れたことでカチコミをかけにきた魔法少女達も武器をちらつかせる。

 

「アンタらは流れの調整屋なんだし、さっさと神浜から去りなさいよ!!」

 

「あたし達の街の問題にまで首を突っ込むつもりなら…容赦しないんだからね!」

 

「落ち着いてください!これは明らかに刑事事件ですよ!通報されたいんですか!?」

 

「通報?されて困るのは業魔殿の方だと思うけど~…ヨズル?」

 

「そうそう、こんな怪しい研究所を地下にこしらえてる時点で犯罪行為そのものよ!」

 

「貴女達も目を覚まして!業魔殿は私達に対して非人道的行為を行う悪魔の施設なの!!」

 

「あのマッドサイエンティストは半分吸血鬼なんでしょ?私達をモルモットにしたいのよ!」

 

そう言われたことでリヴィアの顔が俯いて黙り込んでしまう。

 

彼女達の言う通り、調整を施しながらも彼女達のソウルジェム情報を横流ししている。

 

それを一体どのように利用しているのかは詮索しないのがリヴィアのモットーなのだろう。

 

「どうしたの、急に黙り込んで?やっぱり思い当たるところがあるんでしょ?」

 

「いい加減にしてください!証拠もないのに報復行為だなんて…ただのレッテル張りです!」

 

「いい子ぶってんじゃないわよ!どうせアンタも業魔殿からの報酬が欲しいだけの守銭奴よ!」

 

「点数稼ぎ出来たら吸血鬼からお駄賃貰えるの?でもね、どうせ貴女の末路も生贄なのよ!!」

 

フェミニズム騒動の時の話をみたまから聞かされているリヴィアは共通点を見出していく。

 

(あかん…この子らは偏見に支配されとる。自分達の大前提を疑わずに他責の安心感に浸る…)

 

怒れる魔法少女達を止められないと考えていた時、隣のヨズルの異変に気が付く。

 

いつもポーカーフェイスを崩さないヨズルの体が怒りに震えており、眉間にシワが寄っている。

 

「……誰がいい子ぶってるだって?誰がご褒美欲しさに尻尾を振る生贄だって……?」

 

ヨズルが右手に生み出したのは魔法武器である貴族風の装飾杖であり、左掌に叩きつけていく。

 

「私は奴隷じゃない…生贄なんかじゃない…ご褒美欲しさに頑張るだけのロボットじゃない!」

 

「な、何よ…コイツ?突然怒り出しちゃって…」

 

「アンタらは人を勝手に測りやがる!測りと少しでも違えば悪にする!この偏見生物がぁ!!」

 

ヨズルが抱える過去のトラウマに触れたために彼女は激怒してしまう。

 

彼女は母子家庭であり、母親は彼女に優れた教育を与え、成果が出なければ体罰までした女。

 

しかしそれも歪んだ愛情だったが、ヨズルは深く傷つく幼少期を生きてしまう。

 

中学生になれば反抗期となり、母と激しく喧嘩ばかりするようになっていく。

 

それが原因で母親は自信を失い、彷徨っていたところで車に引かれて死亡したようだ。

 

自分のせいで母を死なせた時、母子手帳を見つけた女は歪みながらも子を愛する母の心を見る。

 

本当は娘を愛していたのだと知った時、ヨズルも母も偏見に支配されていたのを知ったのだ。

 

「あかんでヨズル…落ち着くんや!!私達は中立者なんやで!!」

 

「もう遅いわよ!武器を抜いた以上は中立じゃない…敵として相手させてもらうわ!!」

 

戦いは避けられないと判断したヨズルが先に仕掛ける。

 

装飾杖を掲げて固有魔法の心を切り捨てるを行使しようとする。

 

願いによって生まれた弊害で優しさが切り捨てられたが、相手の心の一部も切り捨てられる。

 

しかしヨズルよりも先に動いたのは御霊合体で強化された魔法少女であり、悪魔の魔法を行使。

 

魔封効果をもたらすマカジャマを用いられたことでヨズルの固有魔法が封印されるのだ。

 

「私の固有魔法が成立しない!?こ…これが悪魔の魔法の力!?」

 

「その通りよ!魔法を仕掛けてきたんだし…こっちも仕掛けさせてもらうわよ!!」

 

「くっ!!私の教育もまだまだやったようやね……」

 

魔封状態となったヨズルの前に立ったリヴィアも魔法武器のシルクハットを生み出す。

 

「す…すいません…先生…。私のせいで…中立を破る真似をさせてしまって…」

 

「説教は後…先ずはこの場を切り抜けることだけに集中するんや!!」

 

魔力で強化したシルクハットから魔力の塊を生み出そうとした時、みかげが大声を上げる。

 

「眼鏡の調整屋さん達に喧嘩を売ったのはそっちが先だよ!正当防衛なんだからーっ!!」

 

「ふんむーーーーッッ!!!」

 

慌ててリヴィア達の前まで駆けてきた魔法少女姿の彼女達が魔法武器を構えていく。

 

「みかげ!アンタまで悪魔の味方をしようっていうの!?」

 

「悪魔だから魔法少女の敵だなんて偏見だよ!フロスト君も姉ちゃもなおたんも敵じゃない!」

 

「そう思いたいだけでしょ?みかげの姉ちゃんだってね…アンタを美味しそうに見てるわよ!」

 

「ね…姉ちゃが…ミィを美味しそうに見ている…?」

 

「同じ大東区のマンション暮らしだから見てきたのよ…アンタの指輪を眺めるみたまの姿をね」

 

まるでゴチソウを見るような目つきだったと言われたことで妹の体に震えが走ってしまう。

 

恐怖状態になったみかげに代わり、すだちが前に出て叫ぶのだが失語症のため要領を得ない。

 

「すだちは引っ込んでなよ、何言ってるか分からないし。それとも…アタシ達とやる気なの?」

 

「もうさぁ…ハッキリして欲しいのよ。ピュエラケアは悪魔の味方なの?敵なの?選択してよ」

 

選択という言葉を聞いた瞬間、すだちまでヨズルのように激しい動揺を起こしてしまう。

 

「ふ…ふむ……」

 

恐怖でがんじがらめになってしまう原因とは、彼女が経験した凄惨なトラウマが理由であろう。

 

彼女は小学生時代に武装した担任教師の立てこもり事件に巻き込まれた経験がある。

 

クラスメイトまで巻き込まれた末に殺されそうになった時、願いの力で生き延びてしまう。

 

奇跡の力で犯人の目標が変わったことで他のクラスメイト全員が殺される末路を遂げるのだ。

 

己の願いが殺戮を引き起こしてしまい、独り生き残ったことを激しく悔やみ、トラウマ化する。

 

今でもPTSDに苦しむすだちは選択させられる事を酷く恐怖する魔法少女だったのだろう。

 

(いや……いやぁぁぁ……いやぁぁぁぁぁーーーーッッ!!!)

 

泣き叫ぶ程のパニックを引き起こしてしまったすだちの体を取り押さえるリヴィアとヨズル。

 

悪魔化した姉に不信感を感じてしまったみかげまで恐怖状態になっている。

 

もはや武装した魔法少女を止める者はいないと思われた時、倉庫のシャッターが開いていく。

 

開くと同時にバインドボイスを浴びせられたことで武装した魔法少女達が倒れ込んでしまう。

 

<<キャァァァァーーーーッッ!!?>>

 

中から現れたのは業魔殿の警備を任されているウラベであり、召喚された悪魔もいる。

 

「全く…相変わらず正義バカな気質が抜けないか?これだから正しさの押し売りは嫌いなんだ」

 

「正義という正しさがどんな根拠に裏付けられてるかも考えない状態こそが独善という偏見だ」

 

刀を持ち、仮面劇の衣装を纏う悪魔の頭部は第三の目を持つ金色の象頭人である。

 

【プルキシ】

 

ネパールのカトマンズで行われる仮面劇インドラ・ジャートラーに登場する象頭の神。

 

プルキシとはネパール語で象であり、インドラの乗騎である白い象であると伝わっている。

 

物語では投獄されたインドラを捜し回りながら歩行者に触れてからかったりする道化役だった。

 

「ウラベ君、吾輩に話をさせてくれ」

 

「おいおいヴィクトル…まだ夕方だぞ?今外に出たらお前は…」

 

「……構わん。吾輩も誠意を持って対応したい」

 

緊縛状態で倒れ込んでいる魔法少女達の元まで杖をつきながら近寄るのはヴィクトルの姿。

 

「ぐぅ!!」

 

彼は半分吸血鬼であるため、日が昇っている状態で外に出れば無事では済まない。

 

皮膚がどんどん焼け爛れていく中、ヴィクトルは彼女達に対してこう告げるのだ。

 

「吾輩もリヴィア君も口外出来ない商売をする者…不信感を持たれても責める事は出来ん」

 

「アンタ…アタシ達魔法少女を悪魔の生贄にしたいんでしょ!?悪魔の味方なんでしょ!?」

 

「確かに悪魔は魔法少女の魂を求める存在だ…しかし吾輩は違う。吾輩は研究者でしかない」

 

「嘘よ!!マッドサイエンティストなら…魔法少女の魂を悪用するに決まってるわ!」

 

「その可能性を考えるならばリヴィア君の調整とて信用出来ないはず。なのに利用してきた」

 

「そ、それは……」

 

「そこには君達の利益があったからだ。吾輩達がいつ…君達に不利益を与えたのだ?」

 

それを問われた魔法少女達は押し黙ってしまう。

 

街の外から流されてきた情報しか頼りが無く、彼女達自身で悪魔脅威を経験したわけではない。

 

「吾輩達を信用しないのは自由だ。それでもな…吾輩達は君達に不利益を与えていない」

 

「ヴィクトルの言う通りやで。私らは調整屋であり商売人…お客様第一を考える者達や」

 

「癇癪を起した事は謝ります…それでも商売人だって傷つけられる時は抵抗するものですよ」

 

「せめて吾輩達が君達に害を成したという証拠を手にするまでは…信じてくれないかね?」

 

バインドボイスの緊縛効果が解けた者達が立ち上がっていく。

 

迷いに支配された者達であったが頷き合い、握った魔法武器を消してくれたようだ。

 

「そうだね…証拠を掴むまではアンタ達は利用してあげる。それだけの恩恵は感じてたし…」

 

「それでも…悪魔になった女達は狩らせてもらう。新しい世界の悪魔は魔法少女の敵だから」

 

「そ…そんなこと…ないもん…」

 

「みかげ…アンタもいつか分かる時がくるよ。その時になって後悔しても遅いんだからね…」

 

歩き去っていく者達を見送った後、ヴィクトルが倒れ込んでしまう。

 

「ヴィクトル!!あんたは無茶し過ぎやで!!」

 

「構わん…信用ならない商売をする者として…誠意だけは示さなければ…信頼してくれん…」

 

「そうやね…信用は出来なくても…せめて信頼ぐらいはしてくれる商売人にはなりたいで…」

 

リヴィアに起こしてもらったヴィクトルは体が発火する前にプルキシに連れられていく。

 

見送ることしか出来ない者達ではあるが、恐怖状態が収まらない者達のために語ってくれる。

 

「みかげちゃんは……みたまが怖い?」

 

「そ、それは……その……」

 

「私もね…神浜に来る前に悪魔と出会ったんよ。みたまを救った嘉嶋尚紀とね」

 

「えっ…?眼鏡の調整屋さんはなおたんと一緒に神浜に来てたんだ…?」

 

「あの男と接して感じられたのは…悪魔にも自由があるって部分やと思う」

 

自由とは選択が出来る状態であり、独裁秩序は人々の選択の自由を奪う行為。

 

自由の権化である悪魔は自由を体現するからこそ魔法少女を愛する自由もあると言ってくれる。

 

「あの男悪魔はね…魔法少女を守れなかった事を嘆いていた。魔法少女と一緒に生きたかった」

 

「な…なおたん……」

 

「魔法少女を守れなかった負け犬…そう言った男が…魔法少女を襲う怪物になるはずがない」

 

尚紀は魔法少女を愛することが出来る悪魔であり、それはみたま達も同じだと言ってくれる。

 

そう言ってもらえた事で世話になった悪魔達を思い出すことが出来たのだ。

 

「そうだね…タルト姉ちゃやリズ姉ちゃ…それに姉ちゃ達も…ミィを守ってくれたもん」

 

「だからこそ信じてあげるんや。口ではいくらでも嘘はつける…だからこそ行動を信じるんや」

 

「みかげさん、みたまさんが貴女の魂を食べたいならもう食べられてます。守りたいんですよ」

 

「嘉嶋尚紀が去ったのは聞いとる…きっとあの男悪魔は…今度こそ守りたいんやろね…」

 

みかげを抱きしめながら八雲姉妹や東の人々の生活を守ってくれると言ってくれた男がいた。

 

それを思い出せただけで悪魔を信じる気持ちが強くなってくれる。

 

「ミィ…姉ちゃを探してくる!絶対に…殺させなんて…させないから!!」

 

元気よく駆けだしていったみかげを見送った後、眼鏡を押し上げた後に溜息をつくリヴィア。

 

それでも微笑んでくれた彼女が遠い夕日の空を見つめながらこう言ってくれるのだ。

 

「悪魔と魔法少女は共生出来る…そういう風に信じてみたくなる。あの男と出会えたお陰やな」

 

「嘉嶋尚紀さんですか…私も出会ってみたかったです。きっとまた…神浜に帰ってきますよね」

 

パニック状態のまま気を失ったすだちを抱えたリヴィアは悪魔を信じる者となってくれる。

 

それでも悪魔を信じられない者達は神浜に潜む女悪魔達を狩るために戦うのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

大東区に向かったももこ達はみたまとメルを見つけ出して合流してくれる。

 

しかし神浜の古参魔法少女達を除いた全ての新入り魔法少女達は未だに追撃を仕掛けてくる。

 

「令ちゃんとは合流出来なかったのか!?」

 

「彼女の家まで行ったんだけど…外出してたみたいなの…。きっと孤立して襲われてるかも…」

 

「大変です!こんな時こそボクの予知能力を用いて令さんの居場所を突き止めないと…!」

 

「メル、深呼吸して。慌ててたんじゃ…予知の光景も上手く視えてこないよ…」

 

「りょ、了解ですよ…かなえさん…」

 

工匠区の廃工場に隠れている彼女達ではあるが、合流出来なかった令を心配している。

 

予知能力をもつメルは両手の人差し指を側頭部に当てつつガニ股状態で予知モードに入る。

 

しかし危機が迫ってる状態では落ち着かず、上手く予知をひねり出せないでいるようだ。

 

「う~~ん……上手く予知の光景が視えてきません…」

 

「メルちゃん、そういう時は気分を落ち着かせる飲み物でも飲むといいわ。落ち着くわよ」

 

サイドバックを身に着けているみたまが水筒を取り出し、何かを注いでくれる。

 

スポーツドリンクでも持参していたのかと警戒せず飲んだのが運の尽き。

 

「ゴハァ!!?」

 

突然ぶっ倒れてしまったメルに対して慌てた者達が駆け寄ってくれる。

 

抱き起されたメルの顔は虹色であり、この光景は神浜の調整屋を利用してきたももこは分かる。

 

「み、みたま…お前まさか……」

 

「久しぶりに私特性のポーションを作ってみたの♪暑い季節だから水分補給は大事だし♪」

 

「お前なぁ…やっぱり悪魔になっても味覚障害残ってるだろ!?」

 

「や~ね~ももこったら?私の味覚は悪魔化した時点で治療出来てるわよ~」

 

「つまり…最初から狂ってたってことだろうがぁ!!」

 

「いや~ん、こんな時に怒らないでったら~ももこ~……」

 

プンスコしたももこに追いかけられるみたまの光景を見つめるかなえも微笑んでくれる。

 

「みたまの奴…空元気を出して皆に心配させないようにしているみたいだ…」

 

尚紀を失って一番辛い立場の彼女であるが、それでも彼の帰りを信じてくれている。

 

だからこそ、その時までは悲嘆に暮れたまま何も出来ない女ではいたくなかったようだ。

 

「う~…何やら視えてはいけないものが視える…ゼウス…オーディン…最終戦争待った無し…」

 

「メル、大丈夫?エチケット袋は持参してないから…吐く時は草むらで吐いてね…」

 

容態が悪いままのメルを背中に背負ったかなえであるが、スマホの着信音が響く。

 

かなえのポケットからスマホを取り出してくれたももこが彼女の耳に当ててくれるのだ。

 

「令…無事だったか!えっ…避難場所がある?尚紀の屋敷に向かえだって…?」

 

「用事があって新西区に行ってた時に襲われてね…その時に屋敷まで駆けこんだんだよ…」

 

尚紀の意思を託されたクーフーリンとタルト達がいてくれる屋敷なら守ってくれる。

 

そう伝えられたことでももこ達も避難場所を見つけられたため、急ぎ移動を開始する。

 

<<いたぞーーっ!!逃げられると思うなよーーーーッッ!!>>

 

「くそっ!!なんてしつこい連中だ!みたま…あいつらにもお前のドリンク飲ませてやれよ」

 

「それってどういう意味?私のお手製ドリンクは毒の類じゃないんだからね~!」

 

「いたたたた!!逃げてる最中に耳を引っ張るなって~~!!」

 

「漫才をやってる場合じゃない、奴らも御霊合体で強化されてるんだ…急ごう!!」

 

「了解、かなえさん!!」

 

尚紀が去っても残された悪魔少女達は強く生きてくれている。

 

それでも悪魔を信じられなくなった者達はどんな説得を行使しても自分の前提世界しか見ない。

 

その状態こそが立場固定というバイアス状態であり、偏った自分の信念だけを信じるだろう。

 

彼女達は悪いことをしている自覚などなく、むしろ魔法少女を救う善行をしてると思っている。

 

いつの世も偏見こそが争いを生み、地獄への道は善意によって敷き詰められていた。

 




そういやピュエラケア連中の話を描いてないな~……と思ったので描いてみました。
と言ってもそれほど活躍機会を考えてなかったのでサブキャラ枠で留まると思いますね(汗)
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