人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

333 / 398
332話 傲慢な愛

アラディアとの戦いを乗り越えた見滝原市の魔法少女達はどうなったのだろうか?

 

彼女達もまた他の魔法少女達同様、魔獣が消滅した悪魔の庭を生きるしかない者達である。

 

キュウベぇから悪魔の脅威を伝えられはするのだが、彼女達は悪魔の尚紀達と接した者達。

 

契約の天使もそれを知る者として、彼女達の誘導効果は高くないだろうと判断している。

 

そのため悪魔の脅威をしつこく煽るような真似もせず、彼女達任せにしているようだ。

 

「人は何処までも経験の生き物…彼女達の経験によって悪魔に偏見を生まないレアな者達だ」

 

見滝原で活動するキュウベぇの個体が見下ろす光景とは悪魔の異界で戦う魔法少女達の姿。

 

見滝原湾の船着き場で戦う魔法少女達は覚醒者達が生み出した悪魔と戦闘を繰り返す。

 

「チッ!気持ち悪い海産物悪魔共だが…魔獣と違って魔法を行使してきやがるのが厄介だぜ…」

 

「これも嘉嶋さんと同じ悪魔なのよね…?本当に魔獣達は消滅して…悪魔の庭になったのね…」

 

杏子とマミを相手に戦う悪魔とは海藻で編まれた体の頭部に逆向きになった人面を纏う存在。

 

【ピアレイ】

 

スコットランドの水辺に現れるとされる危険な精霊であり、名はもじゃもじゃな者を意味する。

 

毛深い人間の上半身に山羊か鹿の下半身を持つウリシュクと呼ばれる精霊の一種のようだ。

 

悪意は無いが仲間を求めて人間を海底まで引きずり込むため、恐れられる存在であった。

 

「邪魔をするな魔法少女共!私達は孤独な精霊…仲魔を求めて何が悪い!!」

 

人間の形を構築する海藻の悪魔達がプンスコしながら逆向き人面を震わせて怒りを表す。

 

「人間はな、海底に沈められたら死んじまうんだよ!そんなことも理解出来ねーのかよ!?」

 

「魔法少女ならば海底でも耐えられるか?なんなら…お前達を引きずり込んでもいいのだぞ?」

 

「遠慮させてもらうわ。こうして悪魔会話が出来る分、何だか倒すのも気が引けてくるわね…」

 

「魔獣は会話出来る存在じゃなかったしなぁ…まぁ、悪魔が相手でもやる事は決まってる!」

 

「その通りね。海の方でも美樹さんが戦ってくれている…私達も遅れは取らないわ!」

 

「我々は寂しがっている仲魔のために人間を海に招待しているだけなのに…許さんぞぉ!!」

 

ピアレイの群れが仰け反りながら後頭部を地面に打ち付けると地面から海藻が溢れ出る。

 

『絡まる緑毛』攻撃に対して杏子とマミは跳躍しながら拘束を避け、武器を構えていく。

 

一方、人魚の魔女でもある美樹さやかは海の中に潜む悪魔を相手に奮戦している。

 

<あたし以外にも人魚はいて当然だよね…そうじゃなきゃ人魚の伝承も残らないし…>

 

海の中で念話を送る相手とは悪魔の人魚であり、尾ビレを用いて高速戦闘を仕掛けてくる。

 

<貴女もアタシと同じ雰囲気を感じる…愛する人と離れ離れになる事に苦しむ女なんでしょ?>

 

緑の長髪を持つ美しい人魚の念話が聞こえてきたさやかは辛い表情を浮かべてしまう。

 

【マーメイド】

 

水中に生息する女性の人魚であり、猟師にとっては嵐や不漁の象徴として恐れられる。

 

その歌声で航海者を魅了し、船を難破させる存在として知られる海の魔物であった。

 

<アタシはね…もう一度人間と恋をしたい。だからアタシの世界に人間を連れてきて欲しいの>

 

<あんたも失恋経験者なんだね…気持ちは分かるよ。だけどね…住み分けなきゃいけないんだ>

 

<どうして…?貴女だって寂しいはずよ…愛する男の人が傍にいてくれたら幸せじゃない…?>

 

<あたし達は魔なる者なんだ…いくら大好きな男の人がいても…命を危険に晒してしまう!!>

 

<だから恋を諦めるの?人魚のような雰囲気を感じる魔法少女だけど…アタシとは違う女ね!>

 

<寂しいからって傲慢になっちゃダメだよ…そんな愛情だと…()()()()()()()()()()()()()!>

 

仲魔になれるかもと思ったマーメイドであったが、さやかの意思を聞かされたことで拒絶する。

 

膝上からは尾ビレとなっているマーメイドが一気に急加速しながらさやかの周囲を周っていく。

 

大水流を生み出す彼女の周りには鬼火も生み出されていき、犠牲となった男達の頭蓋骨となる。

 

水流に流されまいと足の下に魔法陣を生み出したさやかが蹴り込んで大きく上昇するのだ。

 

<逃がさない!アタシの恋路の邪魔をする魔法少女は…水の世界で滅んでしまえ!!>

 

悲壮な顔を浮かべながら雄叫びを上げる振動によって海水が氷結していき、氷の槍を生む。

 

『嵐からの歌声』によって放たれた無数の氷結ミサイルに対してさやかは円環の力を行使。

 

<こ、これは!?やっぱり貴女も…アタシと同じ人魚だったのね!?>

 

氷結ミサイルを全弾防いだのはオクタヴィアの分厚い鎧であり、人魚の魔女も力を行使。

 

<失恋仲魔な上で…あたしと同じ人魚さんを倒すのは気が引けるけど…それでも戦う!!>

 

水中世界に放たれた無数の車輪攻撃の一つがマーメイドの背中を強打し、彼女は沈んでしまう。

 

そんなマーメイドの体を受け止めてくれたのは同じ人魚の魔女の掌であり、彼女が振り向く。

 

見えたのは掌の上に立っているさやかの姿であり、彼女を抱き起しながら海面まで飛び出す。

 

海面で顔を出した2人であるが、さやかは苦笑いしながらこう言ってくれたようだ。

 

「男の愛からはぐれたのはあたしも同じ…それでも寂しくないよ。あたしには仲間がいるから」

 

「仲魔がいるだけで…貴女は耐えられるの…?アタシはこんなにも寂しいのに…」

 

「寂しいからって愛する人まで海に引きずり込んだら不幸だよ…()()()()()()()()()()()()()

 

「貴女は幸せなの…愛する人を他の女に奪われても…?アタシは…耐えられない…」

 

()()()()()()()()…分かるよ。それでもアタシは恭介が幸せだったら…遠くに行ってもいい」

 

円環のコトワリに導かれた景色を思い出したさやかの目にも薄っすらと涙が浮かぶ。

 

彼女の恋は本物だと感じられたマーメイドに対して、失恋仲間はこう言ってくれるのだ。

 

「近くにいなくても出来る愛情表現はある…そんな気がする。男女は支え合うものだってね…」

 

「男女は支え合う存在…それが…本当の愛の形なの…?」

 

「あたし達の元から去った尚紀さんも…もしかしたらそんな愛を求めた人かもしれないね…」

 

今にも泣きそうなさやかの体を抱きしめてくれたマーメイドの目にも薄っすら涙が浮かぶ。

 

悲恋を経験した人魚は同じ人魚を理解し、仲魔として認めてくれたようだ。

 

波止場で戦うピアレイ達にもマーメイドの念話が届き、矛を収めてくれる。

 

「アタシはマーメイド…貴女の名前も聞かせて。アタシ達は…いい仲魔関係になれると思う…」

 

「あたしの名前は美樹さやか!大丈夫、悪魔の人生は長いんだからいい人がまた見つかるよ!」

 

「美樹さやか…素敵な名前ね♪きっとまた会えると思う…だからこれを受け取って欲しい…」

 

さやかに渡されたのは魔力を回復させられる魔石であり、地上のピアレイ達も魔石を渡す。

 

海の世界に戻っていった悪魔達を見送る魔法少女達であるが、その表情は晴れやかだ。

 

「魔獣は殺さなければ回復道具を手に入れられなかったけど…悪魔はこうして話し合えるのね」

 

「こんな風に話し合って潰し合いを回避出来た上で回復道具まで貰えるなら…悪くはないよね」

 

「だけどな、悪魔は規格統一された存在じゃねぇ。話し合えるのなら…騙す事だって出来るぞ」

 

「それを見極めるのは本当に難しいわ…それでも私は悪魔を差別しない…分かり合えると思う」

 

「尚紀さん達のような悪魔もいるし、マーメイドさんのような悪魔もいる。あたしも信じるよ」

 

離れていくマーメイドが手を振ってくれたため、笑顔を浮かべたさやかも大きく手を振る。

 

そんな彼女達の姿をガントリークレーンの上から見下ろすキュウベぇは去っていくのだ。

 

「君達もいずれ気が付くだろう。悪魔の世界は君達が考えているよりも…ずっと残酷だとね」

 

悪魔と触れ合ったことで魔法少女の一部には悪魔に対する偏見を持たない少女達もいるだろう。

 

それでもそれは運が良かっただけであり、悪魔の殆どは残酷極まりない鬼畜存在である。

 

信じることも大事だが、疑うことも大事であり、NEUTRALを保つのは極めて困難であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

見滝原市もまた未知の病魔騒ぎや東京崩壊、それに天皇一族の死去によって荒れている。

 

街中には神浜市で見かけるようなマスク自警団が闊歩しており、人々の自由を破壊していく。

 

まるで戦前の日本に逆戻りしたような街の光景を不安そうに見つめるのは女子学生達の姿。

 

「本当に…どうなっちゃうんだろうね…この国はさ…怖くて怖くてたまらないよ…」

 

「あたしだって分からねーよ…国の未来も心配でたまらねーけど…一番心配な存在もいるぞ…」

 

いつも通り見滝原中学校に通うマスク姿の杏子とさやかであるが、心配そうに後ろを振り向く。

 

後ろの道を同じように通学しているのはマスクを身に着けた鹿目まどかと志筑仁美である。

 

不安そうにしているのは彼女達も同じだが、さやか達にとって一番の心配事がまどかなのだ。

 

「どうしてまどかは…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…?」

 

「分からねぇ…尚紀の家に泊まりに行った記憶すらないんだぞ?ほむらの仕業なのか…?」

 

今の鹿目まどかの記憶の中には嘉嶋尚紀や仲魔の男悪魔達の存在は消えている。

 

正確に言えば消されてしまっており、触れ合った記憶そのものが残っていないようだ。

 

「確かにあいつは記憶操作魔法が使える悪魔…だけどそんな事をする理由が思いつかないよ…」

 

「そうだよな…ほむらにとっても尚紀は大切な仲魔なんだし…害を与えて何になるんだよ…?」

 

「尚紀さんがいなかったらほむらはアラディアに殺されてる…心から感謝しているはずだよ…」

 

「なのに…尚紀達の存在をまどかから奪うなんて考え辛いよな…恩を仇で返す行為だし…」

 

「きっと他の悪魔達が見滝原に潜伏していてまどかを襲ってるんだよ…必ず見つけ出してやる」

 

「そうだな、そう考えた方がしっくりくる。あたし達も気合入れてパトロールしようや」

 

彼女達は暁美ほむらが嫉妬に狂った末に凶行に及んでいることを知らない者達。

 

まどかから敬愛される男の存在は百合を求める暁美ほむらの脅威であり、仲魔でも許さない。

 

だからこそ彼女の心に強固な鍵がかかる程にまで厳重な記憶封印を施してしまっているのだ。

 

宇宙を覆う程の魔力行使を行う負担が消えたため、かつて以上の記憶操作が行われていた。

 

「あら…?あの車列は何なのかしら…?」

 

「えっ?豪華な車の車列だし…仁美ちゃんの家の車じゃないの?」

 

「私の送迎を行うための車じゃなさそうですね…そもそも送迎なんて私は頼みませんし…」

 

前後を護衛車で囲まれた高級リムジンがまどかの横で停止する。

 

運転手が後部座席を開き、中から現れたのはお嬢様扱いされる暁美ほむらの姿のようだ。

 

「おはよう、まどか。私も多忙になってきてね…送迎用の車を用意してもらう事にしたの」

 

「あ…暁美さんって…お嬢様だったのですか…?私は存じておりませんでした…」

 

「志筑仁美、私は元々お嬢様生活を送ってきた者なの。東京生活だとこれが普通だったわ」

 

「す…凄い車で送迎してもらえるんだね…護衛の車までついて来ているし…」

 

「この程度の豪華さで驚いてもらっては困るわ。なんなら石油王クラスの送迎が見たい?」

 

「石油王クラス!?もしかしなくても…暁美さんは私の家よりもずっと裕福だったのですね…」

 

「その通りよ。私は貴女以上に優れた女だったという事なの…言いたい事は分かるわね?」

 

上流階級に身を置く生活を送ってきた仁美だが、相手は世界のダボス階級の者達を従える魔王。

 

総資産は天文学的な大財閥達を率いる悪魔ほむらにとって、仁美の財力など虫けらだろう。

 

「その…私はさやかさん達と一緒に通学しますわ。まどかさんは…暁美さんにお願いします…」

 

「えっ…?ちょ、ちょっと…仁美ちゃん!?」

 

格の違いを見せつけられた女が前を歩くさやか達の横にまで逃げていく。

 

勝ち誇った顔つきを浮かべるほむらはまどかに対して手を差し伸べてくるようだ。

 

「私は頼れる女なの。これから先、この国がどんな方向に向かっても貴女を守れる力があるわ」

 

「ほむらちゃんが頼りになるのは知ってたけど…これ程だったなんて…思わなかったなぁ…」

 

「学校まで送っていってあげる。未知の病魔が蔓延する時代だし、車で通学した方が安全よ」

 

「そこまで言ってくれるなら…その…お言葉に甘えちゃおうかな…って…」

 

まるで豪華な馬車でシンデレラを迎えに来た王子のような態度でまどかをエスコートしていく。

 

走り去っていく車列を見送ることしか出来ないさやか達は眉をひそめる態度でこう呟く。

 

「なんかほむらの奴…感じ悪くない…?」

 

「そうだな…あからさまに格の違いをまどかに見せつけにやってきたようにしか見えねーぞ…」

 

「あんなリッチウーマンだったのは知らなかったけど…この分じゃ…まどかも困るだろうね…」

 

「そうだろうなぁ…あんなお嬢様ほむらと接してたんじゃ…他の男も気後れして近寄れねーよ」

 

「そうですわね…私でさえ住む世界が違い過ぎて気後れしちゃいましたから…逃げて来ました」

 

「あれってさ…もしかしなくてもアニメや漫画で登場する嫌味な金持ちポジションだよね~…」

 

鹿目まどかを独占するようにして豪華絢爛な世界に彼女を連れて行こうとする暁美ほむら。

 

一時期は生活そのものを大魔王達から奪われかけたが、協力する事で再び財力を与えてくれる。

 

これは彼女の嫉妬心であり、ペレネルの財閥グループの代表を務める男に対抗したい気持ち。

 

自分は尚紀になど負けない、男になんて負けない程にまで価値ある女であり、人生の勝ち組。

 

そうアピールしてまどかを独占したいという嫉妬心の顕れなのだろう。

 

そんな悪魔ほむらに対して、まどかは普通に接しているようだが彼女の内側に宿る女神は違う。

 

(奴め…我の半身から記憶を再び奪い取るとはな。やはり信用したのが間違いであったか…)

 

まどかと再び融合したアラディアであるが、滅びたわけではなくまどかそのものとなっている。

 

受肉した神の肉体を滅ぼされてしまったため、現在はまどかの体で共生関係となっているのだ。

 

(愛する父上に対する無礼は許さんぞ…暁美ほむら。奪った記憶は必ず取り戻してやる…)

 

固く締められた心の鍵の向こう側で虎視眈々と報復の機会を狙うアラディア神。

 

それでも今の彼女はまどかに取り込まれた女神として身動きがとれない状況である。

 

そのため、アラディアは自分の軍勢である円環の魔法少女達を用いて情報収集に努めていく。

 

前を走る車の中にいる護衛達の中には周囲の認識を操る魔法少女、アマリュリスの姿があった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

お嬢様生活を手に入れた悪魔ほむらは大勢の使用人達を再び抱えた生活となっていく。

 

しかし彼女はクリフォトで新たな居城を手にした事もあり、見滝原との往復生活となる。

 

魔法少女時代の頃からまどかの事で頭がいっぱいだった彼女は家の掃除もままならない。

 

そのため自分がバベルのクリフォトまで出張している時は使用人達に家の管理をやらせている。

 

それを利用するのはアラディアであり、彼女は使用人の中にスパイを放っていたようだ。

 

かつて円環の魔法少女として地上に現れたアマリュリスの固有魔法とは、なりすましである。

 

メタモルフォセスによって別人に転身してなりすます力があるからこそスパイに適任だった。

 

「それじゃあ、私はバベルのクリフォトに行ってくるから留守をしっかり守るのよ」

 

<<行ってらっしゃいませ、お嬢様>>

 

洗練されたメイド服を着こむ使用人達が深々と頭を下げながら発進する車列を見送る。

 

そのメイド達の中にはアマリュリスも存在しており、メイド服のままほむらの家を捜査する。

 

他のメイド達の目を盗みながらほむらの私室に入り込み、CHAOS勢力の情報を漁るのだ。

 

「このノートパソコンは暁美ほむらのものよね…?これの中に情報が入ってるのかしら…?」

 

西暦70年代のポンペイ出身の彼女であるが、現代知識を所有している。

 

円環の仲間達から色々な情報を共有してきたため、未来の時代で活動する事も出来るようだ。

 

「とはいうものの…機械音痴なのよね…。エリーから教えてもらっても飲み込めなかったし…」

 

パソコンの基本操作ぐらいは理解している彼女が椅子に座り込み、電源を点ける。

 

しかしパスワード画面から先に進めず、困り顔を浮かべながらキーをポチポチ押すばかりだ。

 

「パスワードが分からないわ…エリーならパスワード解除とかも出来ちゃうのかしら…?」

 

「私のプライベートを勝手に漁るのは貴女ね?躾のなってない泥棒猫だわ」

 

「えっ!!?」

 

慌てて椅子から立ち上がったアマリュリスが振り向けば悪魔ほむらとクロノスが立っている。

 

眉間にシワを寄せながら銃を握っているほむらに対して彼女は魔法武器を生み出そうとする。

 

しかし突然時間が停止した事によってアマリュリスは魔法武器のサイコロを奪われてしまう。

 

「大きなサイコロを武器にして戦うようじゃが…ワシの前では赤子同然の力じゃ」

 

「か、返して……あぐっ!!?」

 

クロノスが生み出した三日月鎌で両足を切り裂かれていた事に気が付いた彼女が倒れ込む。

 

出血が酷い彼女に近寄ってきた悪魔ほむらが胸倉を掴みながら持ち上げ、銃を突きつける。

 

デザートイーグルの銃口を顎に押し付けられている彼女は血の気が引いた表情で震えるばかり。

 

「貴女…円環の魔法少女ね?何日か前から私の使用人達の中に紛れていたのは気づいていたわ」

 

「ど…どうしてバレたの…?わたしの幻惑魔法を打ち破れる力があるというの…!?」

 

「人間や魔法少女、それに低級悪魔程度なら騙せても…私と同じ魔王クラスには通用しないわ」

 

悪魔ほむらもまたイナンナ化したアリナに負けないぐらい強力な悪魔耐性をもつ魔王である。

 

魔封や幻惑、毒や麻痺、それに即死魔法程度ならば無効化出来る程の力を所有していたようだ。

 

「もしかして…出かけるフリをしながら…私がスパイ行為を行うのを待ち構えていたの…!?」

 

「その通りよ、観念することね」

 

ほむらの指が引き金にかけられた時、最後の抵抗とばかりにアマリュリスが叫んでくる。

 

「鹿目さんの記憶封印を解除しなさい!こんな真似をしでかすなんて…どうかしてるわ!!」

 

「貴女には関係ないわ。それよりも…どうして私がまどかに魔法をかけているのが分かるの?」

 

「鹿目さんは気が付かなくてもアラディア様は気が付いてる!傲慢な貴女に凄く怒ってるわ!」

 

「チッ…まどかを支配出来たと思ったけど…アラディアまで支配する事は出来なかったようね」

 

「今ならまだ間に合うわ…鹿目さんの記憶を返してあげて!それにアラディア様にも謝って!」

 

「黙りなさい!!私はまどかを守りたいだけなのよ!!」

 

逆上したほむらが銃床を用いてアマリュリスの側頭部を殴りつける。

 

悲鳴を上げながら倒れ込む彼女に対して銃口を向けてくるほむらは怒りの表情のまま叫ぶのだ。

 

「私にとって男の存在は脅威よ!まどかの心を奪い…私のまどかを盗む危険を排除したいの!」

 

「そんな…それじゃあ鹿目さんの記憶を奪い取ったのは彼女が敬愛する男を遠ざけるため…?」

 

「貴女も魔法少女なら…恋愛観は私と同じはずよ。男は邪魔者よ…魔法少女同士の愛を奪うわ」

 

「そんなの卑劣です…恋の盤上ゲームから逃げ出す行為です!卑怯者として恥ずべき行為よ!」

 

恋愛をすごろくゲームで例えるなら相手よりも先にゴールを果たすために勝負を行おうとする。

 

しかしゲームを始めて不利になれば、魔法の力を用いて相手が必ず負ける仕組みを生み出す。

 

ユダヤの格言通り、必ず勝つ仕組みを用意した者だけがすごろくゲームで勝利出来るだろう。

 

しかし、そんな卑劣な恋愛勝利に何の価値があるのかとアマリュリスが言ってくるのだ。

 

「随分と盤上ゲームに拘りがある魔法少女のようね…貴女の魔法武器もそういうことなの…?」

 

「貴女に具申します!勝負は正々堂々行うべきです!それがゲームに参加する者の義務です!」

 

「貴女も魔法少女になったのなら…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()よ」

 

「そ…それは…その……」

 

「なのに馬鹿正直に挑んで絶望だけ経験させられ…だからこそインキュベーターに縋ったはず」

 

アマリュリスが生きた時代において、ヴェスヴィオ山の噴火が起きてしまう。

 

それによってポンペイが飲み込まれて滅ぶ運命を経験させられた時、キュウベぇに縋っている。

 

多くの人々が犠牲になる歴史を変えるために3年前の時間に戻りたいと契約したのだ。

 

しかし彼女がいくら叫んでも3年後に火山が噴火するという情報は民衆に伝わらない。

 

そのため街の避難を遅らせた原因である有力者に対して魔法を用いた工作活動を行った者だ。

 

そんな彼女が正々堂々とした行動で結果を残せと誰かに説教出来る立場なのか?

 

「言い返せない…わたしだって火山の噴火被害を抑えるために魔法で工作活動をした女です…」

 

「なのに私に対して説教?私は魔法でズルをしたらダメで、自分はOK?卑劣なダブスタ女め」

 

「恋のゲームと人々の救済を同列に考えないで!魔法でズルをしないと助けられなかったの!」

 

「魔法でズルをする行為に貴賤を作りたいの?だけど本質は同じ穴の狢でしかない言い訳よ」

 

暁美ほむらもまた奇跡と魔法に縋らなければ鹿目まどかを救えなかった女。

 

魔法の力で盗みを働いたのも全てはまどかの命を守るため。

 

彼女が魔法の力でズルをしてきたのはアマリュリスと同じく誰かを守りたい気持ち。

 

「私はまどかを守りたいだけの女…その気持ちは貴女と同じよ。大切な誰かを守りたいだけよ」

 

「嘘です!!貴女が守りたい本当の存在とは…自分の劣等性を認められない…エゴです!!」

 

そう叫ばれた瞬間、認めたくない己の感情を刺激した女に対して殺意が芽生える。

 

「だ…だ……黙りなさい!!このダブスタ女めぇぇぇぇーーーーッッ!!」

 

鬼の形相で引き金を引こうとした瞬間、窓ガラスを破る鎖の一撃が迫ってくる。

 

アマリュリスの腕に絡みついた鎖分銅が一気に引っ張られ、撃たれた銃弾を回避するのだ。

 

「やっぱり助太刀が必要だったようだな…アマリュリスさんよぉ」

 

「ち…千鶴さん!?」

 

ほむらの家の前に存在する建物の屋上でアマリュリスを抱きしめているのは千鶴である。

 

戦国魔法少女の一人である彼女をバックアップとしてアラディアは送っていたようだ。

 

「話は後だ!敵陣内で密偵行為が見つかったなら…一目散に逃げ帰るだけだぁ!!」

 

肩に担いだ仲間の命を守るために千鶴は全力で跳躍移動を行っていく。

 

逃げ帰ろうとする中、悔しそうな表情を浮かべるアマリュリスが愚痴を零してしまうのだ。

 

「正々堂々と挑んでも…克服出来ない問題もある…現実は盤上ゲームのようにはいかない…」

 

悪魔ほむらから語られた言葉が頭から離れない彼女であったが、時間停止現象が起きる。

 

「「アァァァァーーーーッッ!!?」」

 

気が付いた時にはクロノスによって後頭部を掴まれながら持ち上げられている。

 

機械仕掛けの握力によって頭が砕かれる程の激痛を彼女達は浴びせられているようだ。

 

「魔法少女共、覚えておくがいい。死を司る魔人から逃れる術はないのじゃ」

 

苦しみ悶える彼女達の前に下り立ったのは悪魔の両翼を羽ばたかせて飛んできた者。

 

未だに怒りの形相を浮かべる悪魔ほむらが銃を構えた時、諦めの表情を浮かべた者がこう呟く。

 

「私も貴女も…()()()()()()()()()()()()()()()女…傲慢な愛を貫きたいなら…すればいい…」

 

ほむらの我儘な愛を認める発言をしたアマリュリスに対して、彼女の顔から怒りが消える。

 

何を思ったのか彼女は銃を捨て、両手を持ち上げながら手を叩く。

 

「「あっ……?」」

 

記憶操作魔法によって彼女達の記憶が支配されてしまい、何が起こってるのかも分からない。

 

そんな彼女達を下ろせと命じられたクロノスが頭を放した後、武器庫から何かを取り出す。

 

ほむらに投げ渡された武器とは電磁警棒であり、スタンモードで殴りつける。

 

感電したアマリュリスと千鶴が意識を失った後、悪魔ほむらはこう言ってくれたようだ。

 

「今はアラディアを相手する余裕はない…スパイ共は嘘の情報を流させる役目を与えましょう」

 

「賢明な判断じゃな」

 

「傷ついたこの子は回復魔法で治療してあげなさい…そうしないと失血死してしまうから…」

 

悪魔の翼を羽ばたかせて消え去るほむらをクロノスは見送ってくれる。

 

空を飛ぶ彼女の表情には無力さが宿っており、魔法に頼るしかない自分に劣等感を感じている。

 

「傲慢な愛でいいじゃない…私達魔法少女は傲慢にならなければ…()()()()()()()()()()()…」

 

真っ当に生きようとしても現実はあまりに理不尽であり、巨大な力で少女達の現実を壊す。

 

だからこそ彼女達は奇跡や魔法に縋りつく事でしか何も成せない程にまでちっぽけなのだ。

 

そんな魔法少女の善行など魔法でズルをしたものばかりであり、正々堂々とは真逆な行為。

 

魔法でズルをする行為が認められるなら、スポーツのドーピングだって認められるべきだろう。

 

正しさなど人々の主観で生み出されるものであり、だからこそ自分の行為に気がつけない。

 

自分では正しい事をしていると思っても、それは他の人から見ればズルをしているだけなのだ。

 

それでも魔法少女達はズルを認めず、ズルを善行にしてでも何かを求めてしまう。

 

傲慢になってでも成し遂げたい理想があったからこそ、彼女達は戦ってきた()()()であった。

 




人魚なさやかちゃんとメガテンの人魚ちゃんをどうしても絡ませたいという誘惑に抗えなくて描いてみました。
恋愛観に関しては悪魔ほむらちゃんはさやかちゃん以下になっとりゃせんか…(汗)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。