人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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334話 シギント

国家機密という概念は知られているだろうが、機密という概念は何なのか?

 

一般的に認識されているものは国や企業の防衛的な目的によるものであろう。

 

しかし防衛という安全確保を逆にすれば悪事の漏洩を防衛する権能にも利用出来る。

 

機密に関与する存在とは国家、国民、悪意ある第三者等である。

 

政府が国の安全を守るために政府が保有、または生成する情報を外部に対して非公開にする。

 

それを逆に利用すれば売国政府が国民に知らせたくない悪事を守る権能にも応用出来るのだ。

 

安全という化けの皮で武装すればこうも民衆を騙すことが正当化出来てしまうものなのだろう。

 

透明性の無い組織が生む機密ほど信頼出来ないものはなく、悪事の温床として利用されるもの。

 

これはブラック企業やカルト宗教も同じであり、透明性が無いから悪事の温床にされるのだ。

 

その光景こそ古来からの秘密結社の在り様であり、彼らは透明性の無い場所で悪事を働く。

 

誰にも知られてない洞窟の奥深くで生贄儀式を行う連中のように秘密とは悪事の温床である。

 

秘密という概念は防衛面で必要な概念であっても、悪人が利用すればこうも真逆にされていく。

 

この世の全てが陰陽構造であり、どんな職業や権能も行使する人間次第で凶器に出来るのだ。

 

これに対抗するには国家権力規模の強権で令状捜査を行うか、エージェントを送るしかない。

 

そのために動いてくれたのが人修羅の覚悟であり、それに続く仲魔達も覚悟を決めていた。

 

……………。

 

「大魔王が行ってきた秘密会議の議事録が残されたデータベースはスイスで管理されてたか…」

 

「そのようね。議事録は会議を振り返るためにも必要不可欠なもの…だからこそ記録するの」

 

「それが連中の落とし穴になる可能性があるからこそ…厳重な管理体制が敷かれてるわけか…」

 

スイスのジュネーブに訪れているセイテンタイセイ達は車の中で遠くの景色に視線を向ける。

 

見えたのは世界中の国民データを収集するビッグデータを統括するシステム会社群のようだ。

 

「国家機密ですら民間委託されて管理支配されるか…もう世界の国々に主権なんてないぜ…」

 

「あそこに収められる人々の個人情報という()()()()()()こそが()()()()()()()()の総本山よ」

 

リズが語るのは魔王達の前で人修羅が望んだデジタル全体主義内容である。

 

ビッグデータはいかにして全ての国民の自由意志を殺すのか?

 

人間はアルゴリズムに基づく評価の対象となり、市場で売られる存在にまで堕落している。

 

この搾取的なハイパーキャピタリズム(超資本主義)の形態こそがデジタル全体主義を完成させる要素なのだ。

 

顧客生涯価値という人間の命の商業的価値を商業的関係のネットワークに還元する。

 

私達の生活の中で商業的有用性を免れている側面など一つもない事を認識しなければならない。

 

「私達の社会のデジタル化は人間生活の商業的搾取を容易にして拡大し、加速し続けてきたの」

 

「難しい話は勘弁してくれ。俺様はそれを理解する前提知識がないんだよ」

 

「簡単に言えば経済的搾取対象になり得なかった人々でさえ商業主義の支配下に置かれるわけ」

 

アメリカの個人情報収集会社は360度の顧客像を提供する事を宣伝文句にしている。

 

消費者の行動、配偶者の有無、仕事、趣味、生活水準、収入などのデータを収集する。

 

適用されるアルゴリズムは国家安全保障局のものとそれほど変わらない規模なのだ。

 

経済的パラメーターだけで人々を70のカテゴリーに分類し、価値が無い存在は無駄とする。

 

「ビッグデータは人間の反応を予測し、未来を予測する事を可能にする。操作する事も出来る」

 

「つまり…勝手に人様の情報を搔き集めてきた連中から完全支配を受けるってことだよな…?」

 

「その通りよ。ビッグデータは人を操り人形に出来る…支配力を可能にする知識を生み出すの」

 

「恐ろしい世の中だぜ…通販だって買い物をしたらオススメで好みがバレるのもそのせいか…」

 

影響を受けた本人が意識することなく人間の精神にアクセスし、誘導によって操る事が出来る。

 

ビッグデータは本質的に()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

「優れた科学は魔法と見分けがつかないもんだ…織莉子の未来予知魔法と変わらねぇ規模だな」

 

「人を経済的に評価する考えは人間の尊厳に反するわ。アルゴリズム評価で淘汰が生まれるの」

 

「これが啓明結社が望んだ選民主義世界の仕組みか…無駄にされた連中は殺されちまうぞ…」

 

「国と企業は信頼を根絶し、支配に置き換えたわ…これこそが啓明結社の千年王国なのよ…」

 

信頼とは他人について全てを知るわけではないが良好な関係を維持したい気持ちの表れ。

 

もし他人の全てをビックデータで把握出来るなら、信頼は余計なものに成り果てる。

 

信頼に基づいた社会であるのならビックデータ収集企業など必要ない。

 

政官財が結託して全ての民衆を電子管理したいという傲慢極まりない独裁行為でしかなかった。

 

「私のような為政者側から見れば夢に見た理想の支配構造だけど…民衆は望まないでしょうね」

 

黒塗りセダンの後部座席に座る女性の言葉に反応したリズとセイテンタイセイ達が後ろを向く。

 

白と黒の上品なスーツを纏うクレオパトラが座っていたようだ。

 

「尚紀の頼みだからテメェを加えてやっているが…俺様達はテメェを信用したわけじゃねーぞ」

 

「仲良しごっこがしたくてカエサル様の元に訪れたわけじゃないわ、構わなくてよ」

 

「私達は多くの敵に囲まれている状態なの…信頼を得たいのなら実力と成果で示してもらうわ」

 

「望むところよ。私の価値を示し、カエサル様が私を愛してくれるなら…地獄にだって行くわ」

 

「話が逸れたわね。私達の目標はあのシステム企業のデータベースで管理されている議事録よ」

 

「俺様はデータベースの操作なんぞ出来ねーが…後ろの機械に任せても大丈夫なのか?」

 

「里見太助教授を信頼するしかないわね…彼が改良を加えた遠隔機動端末を信頼しましょう」

 

黒塗りセダンの後ろに積まれているのは生体エナジー協会で見かけたビットボールである。

 

エコモーターによって長時間浮遊することが可能な監視マシンを入手して改良を加えている。

 

通信用ターミナルとしてだけでなく、情報収集や端末へのハッキング及び操作も出来るようだ。

 

彼らとは別行動をしている里見太助もジュネーブに訪れており、業務用パネルバンの中にいる。

 

後部は様々な電子機器が固定されており、電動車椅子に座った太助が作戦指揮を執るようだ。

 

「スイスは世界の大金庫であり金融の総本山…だからこそ、この地こそが啓明結社のお膝元だ」

 

「ヒトラーですら攻め落とす事が許されない程の中立地帯こそ世界支配の基盤だったのだろう」

 

「ここは世界支配に必要なあらゆるモノが保管される…だからこそスイスの制圧が必要なんだ」

 

「犯罪者の金庫番と呼ばれる程の邪悪な国の腸の中に我々はいる…警戒を怠るなよ」

 

運転手兼護衛を務める男とは人間に擬態した姿のアタバクである。

 

モニターから浴びせられる光に照らされる眼鏡を押し上げた後、作戦開始を伝えるのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

情報こそ戦略支配の要であるにも関わらず、人々は民間企業に対して情報を惜しげもなく渡す。

 

誰がいつ、どんな状況で、何にアクセス出来るかを知る事なく個人データをネットに公開する。

 

自分に関する何千ものデータ記録が収集、保存、共有、販売されている事にも気が付かない。

 

率先して提供するのだから大手検索サイトやSNSに対して大規模抗議をすることもないだろう。

 

今や我々は政官財が行う監視の犠牲者であるだけでなく、監視システムを自ら利用する囚人達。

 

今まで人々が保とうとした安全な距離は失われ、全てが融合しながら合成されるだろう。

 

ハイパーキャピタリズムが支持し、利用するものこそが()()()()()()()()()()()()

 

情報支配と個の消失こそがワンワールドであり、大魔王や藍家ひめなの如き合成現象だった。

 

……………。

 

<物々しい警備ね…まるでアメリカの国家安全保障局規模の厳重な警備体制だと思うわ…>

 

敷地内を見れば広大な駐車場と奥に見える巨大ビルディングが目立つだろう。

 

周囲は民間軍事会社から派遣された完全武装のPMC兵士達が巡回しているようだ。

 

上を見ればプログラム飛行型ドローンも飛んでおり、監視カメラと合わせて周囲を監視する。

 

ブラックキューブのような形をした立方体ビルディングにデータベースがあるのは掴んでいる。

 

それを提供してくれた存在とは魔王アスモデウスであり、タクシス一族からの情報提供だった。

 

<こういう時、リズがいてくれると助かるな。影の中で移動すれば誰にも発見されねーよ>

 

<器用な真似が出来る造魔ね…まるで影の国の女王みたいよ>

 

<造魔である私の元となった悪魔はスカアハなの。だから影の国の女王であってるのよ>

 

広大な敷地内に生み出される様々な暗闇の影を利用しながら移動していく。

 

敷地内は監視用のサーチライトが多く備わり、だからこそ影移動が捗るようだ。

 

声を出さず念話で会話を行いながら彼女達は立方体ビルディングへと進んでいく。

 

<CIAのような組織はスパイで情報収集する組織だけど…こういう企業は()()()()よね…>

 

<なんだよ、そのシギントってのは?>

 

<電子機器を使う情報収集活動と分析、集積、報告を行う組織よ。21世紀はシギント戦なの>

 

<なるほど…デジタル全体主義もまた啓明結社共のシギント戦だったってわけか…>

 

<そんなことよりビルの中にはどう潜り込むつもり?内部は明るいから影移動は出来ないわよ>

 

痛いところを突いてくるクレオパトラに対して黙り込むリズの反応を見た彼女が溜息をつく。

 

<なるほど…カエサル様が私も遣わされた理由も分かったわ。ここは私に任せなさい>

 

<何か考えがあるのなら…貴女の手腕を拝見させてもらうわ>

 

<俺様は暴れることが専門だから…まぁ…女悪魔共に任せるさ>

 

ビルディングの入口近くにある影の中に留まり、暫くは張り込みを続けていく。

 

すると帰宅時間となったことでシステム会社の重役が秘書を連れて出てきたようだ。

 

<見るからに重役といった見た目だし…あの男を利用させてもらおうかしら>

 

リズが生み出す影空間から外に出てきたクレオパトラが入口付近に近寄っていく。

 

彼女の存在に気が付いた秘書が悲鳴を上げてしまい、隣の重役男も驚愕した顔つきになる。

 

Wer Sie sind!(君は何者だ!)

 

Guten Abend, gute Nacht.(こんばんわ、いい夜ね)

 

スイスドイツ語を話しながら笑顔を浮かべるクレオパトラであるが、警備兵達がやってくる。

 

明らかに不審な者であり、手荒く対処しようとするのだが、彼らは甘い香りを感じてしまう。

 

Wir sind auf Ihrer Seite, keine Sorge.(私達は味方よ、安心して)

 

クレオパトラが放つ魅了魔法の餌食となった者達は心を捉えられた表情となっていく。

 

女秘書も含めて骨抜きにされた者達に対して彼女はカバーストーリーを語ってくれる。

 

後ろから現れるリズ達も含めて自分達はエグリゴリから派遣された警備担当の悪魔だとする。

 

手違いがあって報告が遅れていたと聞かされたため、重役男は平謝りしてくれたようだ。

 

施設を案内する役目を頼まれた重役男は女秘書を下がらせ、護衛の者達と共に去っていく。

 

ビルに入るため重役男がICカードや暗証番号を用いて厳重なセキュリティを解除するのだ。

 

<流石はクレオパトラね。為政者として魔法だけでなく詐術も心得ているようで安心したわ>

 

<彼は私の駒として利用出来るわ。目的地まで案内させましょう>

 

<それまでは…後ろのコイツは隠しておいたままで良さそうだ>

 

カンフー着姿のセイテンタイセイはリュックを背負っており、中にはビットボールがいる。

 

レベル10の機密区画に入るまでは隠しておくことにしたようだ。

 

エレベーターに乗り込んだ後、彼らは地下に下りていく。

 

世界中のビックデータが収まったサーバールームは上の階だが、エグリゴリ関連は地下にある。

 

CHAOS勢力の最重要機密データが収まった最高クラスの機密エリアに入っていく。

 

その道中、重役男から聞きだしたのはこのエリアを守護する管理悪魔達の存在だったようだ。

 

<情報生命体となった雷霊達がデータベース内に入り込んで護衛を務めているというの…?>

 

<そのようね…私は見た事ないけど…マニトゥと呼ばれる大悪魔が生み出した眷属みたい…>

 

<…そいつとは戦ったことがある。厄介な奴から生み落とされた悪魔のようだな…>

 

<私達悪魔は概念存在であり情報存在。コンピューター理論と魔術理論には共通性があるのよ>

 

<そう遠くない未来…俺様達悪魔は…スマホから召喚されるようになっちまうかもなぁ…>

 

生体認証装置の前にまで来た者達が重役の生体データを認証させた後、扉を開かせる。

 

中に入って扉が閉まった後、用済みとなった男に対してセイテンタイセイが当身を打つ。

 

首裏を強打された事で倒れ込み、失神した男に視線を向けることなく悪魔達は奥に進む。

 

「私の魅了にかかった男は甘い夢の記憶しか残らないわ。私達の事も覚えてないでしょう」

 

「そんなら、そろそろコイツを出させてもらおうかなっと…」

 

リュックを下ろして中から取り出したのはビットボールであり、モニター画面が開く。

 

映像に映っているのは里見太助であり、にこやかな笑顔を浮かべてくれたようだ。

 

「戦闘もなくここまで入り込める君達の手腕には脱帽するよ。後は任せてくれ」

 

「通信は良好のようだな…そんで?テメェはどうする気なんだよ?」

 

「機密エリアを管理している端末まで先ずは行こう。監視カメラに偽の映像を送り込むのさ」

 

「そうしてくれると助かるわ。私の魅了魔法はデジタル媒体にまで通じるものではないし」

 

宙に浮かび上がったビットボールを守る布陣を敷きながら彼らは奥に進んでいく。

 

両開きの扉の向こう側にあったのは膨大なサーバーを管理する巨大端末ルームである。

 

浮遊しながら端末に近寄ったビットボールが触手めいた端末コネクターを伸ばして接続。

 

作業が行われる間、巨大ガラスの向こう側に見えるサーバー群を彼らは見つめてしまう。

 

「膨大に並んだ棺桶じみた機械の中に…数千年間の悪事の記録が記されているのか…」

 

「だからこそここはCHAOS勢力最大の要所よ。アクセスキーだってこの世に3個しかないわ」

 

「尚紀から預かってきたその杖か…」

 

薄暗い端末ルームの影の中から取り出したのは人修羅から与えられた銀の山羊頭の杖。

 

大魔王が所有していた杖であり、ここにアクセスする資格があるのは大魔王クラスしかいない。

 

人修羅は一番信頼出来る仲魔達に大魔王の権限を表す杖を託してくれていたようだ。

 

<<……何者だ……貴様らは……?>>

 

恐ろしい念話が聞こえてきた事でセイテンタイセイ達が悪魔化して武器を構える。

 

「おいおい……これが雷霊とかいう悪魔なのかよぉ!?」

 

端末ルームに備わる多くの端末から光が迸り、雷霊の姿を具現化させていく。

 

その姿はあまりに醜悪であり、醜悪極まりないマニトゥが生み出した悪魔に相応しい姿だ。

 

「まるで……機械仕掛けのゴーレムね……」

 

「急ぎなさい!里見太助!!」

 

「分かっている!」

 

巨大端末ルームの天井付近で具現化した存在こそ、雷霊ウインペだった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

【ウインペ】

 

原典はネイティブアメリカン・アルゴンキン族に伝わる伝承に登場する魔物である。

 

創世間もない頃の世界にいた怪物であり、人々に様々な害を与えていたという。

 

善神グルースカップと対決し、天の星に届く程に巨大化した一撃によって退治されていた。

 

「我はウインペ……雷異の海に生まれし者…侵入者共め…ここは闇の聖域なるぞ……」

 

巨大な上半身しかもたない鋼鉄巨人であり、下半身からは機械の内臓じみたケーブルが伸びる。

 

上半身のあちこちにもケーブルが差し込まれ、天井に吊り下がったような姿で威嚇してくる。

 

「私達は新たに警備任務を任された悪魔達よ…同僚に対して敵意を向けないでくれない…?」

 

「そのような知らせは…受けていない…やはり貴様らは…聖域を荒らす…族共か…」

 

「この杖が見えないの?この山羊の杖は本物よ…大魔王の権威を託された私達を信じないの?」

 

「たとえそれが本物でも…何ゆえ大魔王様は傍におられんのだ…?ここは大魔王様の聖域だ…」

 

「そ…それは……」

 

「大魔王様の権威の象徴を盗み出し…大魔王様の聖域まで荒らす族共め…万死に値する…!!」

 

肘から先はガントレットを装備したように肥大化した両腕を向けてくる。

 

被害をいたずらに出せない責任者として異界に引きずり込もうとするのだ。

 

「コイツは俺様が戦う!テメェらは議事録情報だけでなく…ありったけの機密を盗み出せ!!」

 

「相手は今まで見た事もない悪魔よ…悟空だけでは荷が重いわね。私も一緒に戦うわ!!」

 

山羊頭の杖を投げ渡されたクレオパトラが受け取った瞬間、リズから踏み込み蹴りを浴びる。

 

「ぐふっ!?」

 

壁の端まで蹴り飛ばされたことで異界に飲み込まれずに残されたようだ。

 

「乱暴な女ね…だけど奴の相手をしてくれると助かるわ。魅了魔法はマシンには通じないし…」

 

「監視カメラの細工は終わった。本命の仕事に取り掛かりたい、あの端末に杖を差し込むんだ」

 

言われた通り端末ルームの中央にあった大型端末に備わるソケットに杖を接続。

 

するとアクセスキーとして認証されていく山羊頭の杖の両目が真紅に光り出す。

 

この杖は記録媒体としても使えるシロモノであり、膨大なデータを収めることが出来る。

 

そのため多くの時間がかかることからクレオパトラも焦りの表情を浮かべるしかなかった。

 

一方、ウインペの異界に飲み込まれた者達が周囲に視線を向ける。

 

まるでロボットアニメの格納庫のような異界であり、ロボットアニメに出てそうなメカも並ぶ。

 

「ま…まさかとは思うが、あれも動くってことはないよな……?」

 

「……そのまさかのようね」

 

巨大格納庫の天井に吊り下がるウインペの両目が真紅に光った瞬間、ロボ達の目も光り出す。

 

「行くがいい…我と同じ雷霊達よ…大魔王様の聖域を荒らす族共を…粉微塵にしろ…!」

 

次々と機動していくロボット悪魔こそウインペと同じくマニトゥから生まれた雷霊達である。

 

【ムーウィス】

 

原典はネイティブアメリカン・アルゴンキン族に伝わる失恋物語に登場する雪の精霊。

 

偉丈夫なる者と呼ばれる若い戦士が惚れた女に言い寄るのだが、彼は断られ続けてしまう。

 

他の男に盗られまいと彼は精霊に働きかけ、雪だるまを美男子ムーウィスに変えている。

 

女はムーウィスに惚れ込むが、雪だるまとして滅びたため女は悲しんだ失恋物語があった。

 

<<ググッ…侵入者ヲ発見シタ。コレヨリ攻撃ヲ開始スル>>

 

雷をイメージしたような機体であり、右腕はクローアームとなっている。

 

消防車や建設機械が変形してロボットになるようなアニメに出てきそうな存在達が動き出す。

 

赤熱化したクローアームを向けてくるムーウィス達が放つのは『ダイナブラスト』の一撃。

 

爆風で大ダメージを与える魔法が20体のムーウィスから放たれたことで格納庫が崩壊する。

 

浮遊するウインペと地響きと共に歩いてくるムーウィスの前にいたのは影移動した者達。

 

「上等だ…マシン共!!このセイテンタイセイ様がスクラップに変えてやるぜ!!」

 

<<マシンデハナイ!私達ハ雷霊デアル!!>>

 

「知った事ではないわ!!私と悟空を相手に戦うことを後悔させてあげる!!」

 

片手で印を結んだセイテンタイセイがタルカジャを用いて味方の攻撃力を上げる。

 

しかし上空のウインペもタルカジャをデカジャで相殺してくるのだ。

 

それでも果敢に跳躍して15mサイズのムーウィス達を相手に善戦を繰り広げていく。

 

「我々は搾取する者…情報を搾取し…定命の者共の自由を搾取する…貴様らも搾取しよう…」

 

半数のムーウィスがやられたことで上空のウインペが口を開き、禍々しい雄叫びを上げる。

 

悪魔の産声の如き恐ろしさを周囲に与え、怯ませた隙をウインペは逃さない。

 

両目が光った彼の上半身から放たれるのは『生体MAG抜き』である。

 

「こ、これは何だよ!?」

 

「私達のMAGが……搾取されていく!?」

 

悪魔の肉体を構成するMAGを吸い上げられた事で大ダメージを受けるセイテンタイセイ達。

 

悪魔の体も人間の体も情報の塊であるからこそ、シギントを司る悪魔が搾取してくる。

 

手足の先も石化していく中、残りのムーウィス達がクローアームを掲げていく。

 

放たれる一撃とはメギドであり、絶体絶命の状況となっていくのだ。

 

「我らはデジタルデビルであり…デジタル全体主義を敷く者達…愚民共の自由を滅ぼす…!!」

 

<<便()()()()()()()()()()()!ソレニ気ガツカナイ愚者ダカラコソ、シギント戦ハ成セル!!>

 

雷霊達が語る言葉通り、便利な機械道具には常に裏があるもの。

 

スマホの音声アシスタント機能に話しかけた内容もまたビックデータとして収集されていく。

 

それらはIT系の多国籍企業に集積されていき、個人情報が保存されてしまう。

 

我々がスマホを用いて入力したプライバシー内容の全てが多国籍企業に貯蔵されていく。

 

それによって信用スコアリング企業等が民衆を裁定し、優劣を創り出す差別機関となっていく。

 

欧州議会の議長はデジタル時代の基本権憲章を策定する必要があるとまで述べている。

 

しかし権利憲章だけではデータの全体主義を防ぐことなど出来ないのが現実なのだ。

 

民衆の中身が詰まったプライバシーを搾取する兵器こそが便利道具とシギント戦であった。

 

「……族共が滅びたか」

 

複数のメギドが炸裂して大きなクレーターが掘られた爆心地を見下ろすのはウインペ。

 

背中からブースターを展開させて飛行している10体のムーウィス達も地上に下りてくる。

 

しかし彼らが視線を横に向けると遠くで倒れ込んでいる者達を見つけたようだ。

 

「チッ…石化が止まらねぇ…おい、リズ?石化を回復するペトラディを使えないか…?」

 

「残念だけど…私はタルトのように回復魔法が得意な造魔ではないのよ…」

 

「参ったな…回復魔法は俺様も専門外だぞ…ジャンヌを連れてこなかったのは辛いとこだ…」

 

「あの子を殺戮者に変えたくない…本物のタルトと同じく地獄に落すわけにはいかないの…」

 

「その気持ちは俺様も同じさ…地獄に堕ちていいのは…俺様達のような…修羅だけでいい…」

 

トドメを刺そうと迫りくる雷霊達に対して必死に起き上がるセイテンタイセイ達。

 

しかし彼らの両手足は完全に石化しており、武器を持つことも自由に動く事もままならない。

 

いずれは腕や足全体に石化が広がっていき、動く力も残らないだろう。

 

「しぶとい族共だ…ならば死ぬまで…搾取し尽くしてやろうではないか…」

 

上空からはウインペ、地上からはムーウィス達が迫ってくる中、リズが叫んでくる。

 

「シギントなんてプライバシーの侵害よ!他国だけでなく自国民までスパイしてるじゃない!」

 

「現代の戦争を理解しておらんな…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…」

 

ジャーナリストのジョージ・オーウェルの言葉の中にはこんなものがある。

 

――現代の戦争とは支配集団が自国民に対して仕掛けるもの。

 

――戦争の目的は領土の征服やその阻止ではなく、支配構造を保つことなのだ。

 

「戦争経済とて愚民を扇動する事によって生み出され…独裁支配もまた情報支配で完成する…」

 

戦争だろうが経済だろうが政治だろうが、全ては政官財が生み出す詐欺から発生するもの。

 

情報を管理し、国民のプライバシーまで管理することで牧場主は完全なる独裁権を得るのだ。

 

「シギント戦が展開されているなど…誰も信じない。だからこそ容易く詐欺に引っ掛かる…」

 

詐欺に引っ掛かる人は止めてもやめない欲深き存在。

 

詐欺に引っ掛かる人は自分が特別だと思い込んでいる。

 

詐欺に引っ掛かる人は都合がいい部分しか見ない。

 

詐欺に引っ掛かる人は調べないで直ぐ相手に聞く。

 

詐欺に引っ掛かる人は知識を教えても学ぼうとしない。

 

詐欺に引っ掛かる人は正しい情報さえ疑った目で見る。

 

詐欺に引っ掛かる人は最後まで詐欺だと信じない。

 

詐欺に引っ掛かる人は案件でなく社会的権威を用意出来る人物や組織の言葉を信用している。

 

これらは心理学の確証バイアスであり、偏見を信じたい気持ちに流される魔法少女は多い。

 

企業の代表者も確証バイアスに陥った末に他の企業に後れをとる大失態を犯す例は数多くある。

 

良いと思う情報だけ受け入れ、悪い情報をシャットアウトするでは決断する時に破滅する。

 

それこそがキュウベぇに騙された者達の心理であり、社会権威に騙される者達の心理なのだ。

 

「権威が生む常識世界だけに盲従し…常識を疑う者を勝手に潰す…情報管理こそ支配なのだ…」

 

「諜報のような秘密作戦は安全保障を達成する対外政策の道具…独裁者の安全さえ守るのね…」

 

「道具とは使い手次第で凶器に出来る…この世は陰陽構造…相反するものが同時に存在する…」

 

世界を蝕むパンデミック情報もまた体制側が用意した情報であり、民衆はそれに屈服する。

 

それがどのように正しいのかの判断を全て体制側に丸投げし、民衆は御上の判断に従うのみ。

 

ならば体制側が放火魔であった場合、丸投げ民衆はどう対処するつもりなのだろうか?

 

「情報戦とは()()()()()()()()()()()()()()()…その中身を誰も検証しない…全て上任せだ…」

 

<<人ハ過チヲクリカエス!!ソノ原因コソ怠惰デアリ、権威ニ盲従スル偏見思考ナノダ!>>

 

ウインペとムーウィス達がトドメを刺そうと再び生体MAG抜きやメギドを狙ってくる。

 

「リズ…コイツらだけは生かしておけねぇ…人々を家畜扱いする牧師気取りの屑共はなぁ…」

 

「同じ気持ちよ…悟空。羊だって追い詰められたら…飼い主の手を食い千切ってみせるわ!!」

 

怒りの形相と化したリズの長い黒髪が白髪に染まっていく。

 

膨大な魔力を発生させていき、体も宙に浮かび上がっていく。

 

影の体と成り果てたその者は真の力を解放して迎え撃とうとするのだろう。

 

「見下げ果てた屑共じゃ…わらわの体に傷をつけた愚行…死を持って償わせてやろう!!」

 

スカディ化したリズの白髪が膨大な魔力で揺れ動き、異界が大地震に包まれていく。

 

「こ…この者の力は何だ…!?まるで…大地の地母神の如き力だ…!?」

 

死の女神であり冥界の女王と化したリズがついにその力を解放する。

 

大地が激しく砕けていき、大クレバスから膨大な光の奔流が生まれていく。

 

まるで人修羅が放つ地母の晩餐の如き力こそ、スカディの『大地震』である。

 

<<ヌォォォォーーーーッッ!!?>>

 

冬の雪山の闇と死の恐ろしさを内包し、亡骸を飲み込む大地の人格神である力の顕現。

 

その光景は凄まじく、雷霊達の異界を完全崩壊させる程の眩い地獄と化すのだ。

 

たとえ雷霊達を倒すことは出来たとしても、情報を操る金融資本力を倒さない限りは無意味。

 

それを理解しているスカディは光の中で黄昏を感じるような表情を浮かべていたのであった。

 




拙作の作風にはまどマギやメガテンだけでなくFateやメタルギアネタも多く含まれるので、メタルギアネタのシギントも使うんですよね(汗)
メタルギア3リメイクは気になってるんですけど、シギント役の藤原啓治さんがお亡くなりになられたのが辛過ぎて触れてないんですよねぇ(汗)
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