人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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335話 何かを果たす代償

最高機密区画での諜報活動がいつバレるか分からないため、クレオパトラは警戒している。

 

「まだ機密を吸い出しきれないの…?早くなさい!!」

 

「注文を増やされたんだ…時間がかかるのは当然だ!多くを求めるなら相応の代償を払え!!」

 

「くっ…仕方がない…何かを果たす規模が大きくなればなる程…代償も大きいのは自然よね…」

 

等価交換こそがこの世のルールであり、唯一神ですら逆らえない世界のコトワリ。

 

人間や魔法少女、それに悪魔も等価交換原則に従うしかない者として責任を果たす者となる。

 

ようやく機密の大部分を吸い出せた頃、セイテンタイセイ達が異界を破壊して戻ってくる。

 

しかし彼らは生体MAGを大幅に搾取されてしまった事により弱り切っていたようだ。

 

「チッ…術者共を倒して石化が解けても…奪われたMAGまでは戻ってこないか…」

 

横に振りむけばスカディの暴走を抑え込んで元の姿に戻れているリズがいる。

 

「私も…力を使い過ぎたみたい。余力はもうあまり残っていないわ…」

 

「無事だったようね、良かったわ。失ったMAGは帰還を果たしてから食せばいい」

 

「魔法少女を拷問死させて絞ったMAGを喰らおうとは思わねーよ…サマナー共から頂戴するさ」

 

「啓明結社には多くのダークサマナー達がいるようね…彼らから十分MAGを搾取すればいいわ」

 

息も絶え絶えになりながら立ち上がる者達に対してビットボールを操る者が語り掛けてくる。

 

「ようやく機密を吸い終えた。膨大なデータはその山羊の杖に収まっているから忘れずにね」

 

促されたリズが尚紀の杖をソケットから抜き、影の中に仕舞い込む。

 

急いで地上に戻るために最高機密区画から出られるエレベーターの中に乗り込んでいく。

 

しかし地上から感じさせてくる恐ろしい魔力と殺気を悪魔達は感じ取ったようだ。

 

「……不味いわね」

 

「ああ…ヤバイぜ。強大な悪魔共の魔力が数体…それに大勢の人間共の気配も感じるぞ」

 

「何処で潜入がバレたというの…?」

 

「分からねーが…腹を括った方が良さそうだな…」

 

地上に到着したエレベーターが開いた時、彼らは戦慄する。

 

大きなエレベーターフロアの奥で陣形を作りながら銃を構えているのはPMC兵士達の群れ。

 

そして彼らの指揮を執る悪魔達が仁王立ちしていたようだ。

 

「これはこれは…どんな侵入者かと思えば…混沌王様に仕える悪魔共ではないですか…?」

 

中央に佇むのは白いスーツ姿をしたエグリゴリの堕天使男であり、隣にも堕天使男がいる。

 

「混沌王様を信用しておられないバアル様の直感は正しかった…やはり工作員だったのだな?」

 

「見かけない堕天使共だな…テメェらもエグリゴリの堕天使なのかよ?」

 

「如何にも。私の名はアムドゥシアス、隣の老人はバラムだ」

 

「ワシを年寄り扱いするでない!このような裏切り者などワシだけで十分滅ぼせるわ!!」

 

バイキング髭を生やす老人悪魔がアムドゥシアスに怒り出すが、彼はオーバーに両手を広げる。

 

【アムドゥシアス】

 

ソロモン王が使役した72柱の悪魔の一体であり、序列は67番目に当たる堕天使。

 

地獄の公爵であり、29の軍隊を率いるユニコーン姿や人間の姿をした悪魔である。

 

ヴァイオリンやトランペット等の楽器を奏でることを得意とし、音楽を支配する悪魔の代表。

 

その音色は人々を狂わせ魅了する逸話は作曲家タルティーニの悪魔のトリルからきていた。

 

【バラム】

 

ソロモン王が使役した72柱の悪魔の一体であり、三つの頭を持ち、熊に跨った堕天使。

 

牡牛と人間と牡羊の頭、ヘビの尾、燃え上がる眼を持ち、手首に鷹を止まらせているという。

 

過去と未来の知識を召喚者に授ける悪魔であった。

 

「ベリアル様の宮廷で演奏会を行った帰りでしたが…バラムの未来予知が危険を教えてくれた」

 

「大魔王様の聖域に族共が入り込む未来が視えたものでのぉ…成敗するため馳せ参じたのじゃ」

 

「この地は知恵を司る金星の聖域であるブラックキューブ…林檎の聖域を荒らした罪は重いぞ」

 

ビルの形そのものがブラックキューブだったことをリズ達は思い出す。

 

アムドゥシアスが語った通り、この企業も林檎を企業名にする程にまで暁の星を崇拝する団体。

 

林檎とは知恵の蛇であるルシファーを表し、アナトやクババの起源であるイナンナまでも表す。

 

全面ガラス張りの透明なブラックビルとはメッカの黒いベールに包まれたカーバと対を成す。

 

キューブは自由の体現であり、障壁のないコミュニケーションの象徴。

 

しかしその透明性は実際にはデジタル全体主義という形をとっている支配権力の一形態。

 

新支配力とは完全なコミュニケーションを燃料とする超資本主義であり、完全な監視を伴う。

 

グラスキューブはあらゆるものに浸透し、探査し、貨幣価値に変換するコミュニケーション。

 

カーバは一般市民に閉ざされ、聖職者だけが最奥の聖域にアクセスすることが出来るのだ。

 

「何が透明性よ…黒い建築は透明性を欠き、超資本主義とは対極にある神学的秩序よ!」

 

「その通り。超資本主義などオマケに過ぎない…ここは大魔王様を象徴する神の権威の場所だ」

 

「人類全てを貨幣価値に置き換える神殿こそがブラックキューブであり…大魔王様の権威じゃ」

 

アリナだけでなく大魔王もまたブラックキューブを所有する者であり、この地がそうだという。

 

それを荒らす者ならばアリナだけでなくルシファーとて激怒する程の聖域なのだ。

 

「御二方、微力ながらわたくしめもご尽力させては頂けませんか?」

 

横から現れたのはこの企業の警備部隊に所属するダークサマナーである。

 

黒スーツ姿の男は懐から召喚管を抜くのだが、その管は怒りに打ち震えるように振動している。

 

「わたくしが使役する悪魔の一体めが憤怒に打ち震えている…余程殺したい者がいるようです」

 

「いいだろう、私の代わりに戦うがいい。私は此度の問題を閣下に報告に向かわねばならん」

 

「音楽家はさっさと消えよ!兵士を鼓舞する音楽など今は要らん!生贄の悲鳴が聞きたい!!」

 

PMC兵士達の間を超えながらアムドゥシアスは去り、前に立った者達が真の姿を晒す。

 

異界が構築される中でバラムは悪魔化し、ダークサマナーは召喚管を振り抜く。

 

「いでよセイオウボ…飽くなき不死への欲望をたぎらせ、生贄のエナジーを吸い尽くせ!!」

 

その名を叫ばれた事でセイテンタイセイの目が見開いていく。

 

「なんてこった…またコイツを相手にしなきゃならねーとはなぁ…」

 

現れた悪魔は斉天大聖とは因縁深い女神であり、西の仙界である崑崙山(こんろんさん)の最高位の仙女である。

 

【セイオウボ】

 

道教における天の女帝である崑崙山の最高位の仙女であり、封神演義では娘に竜吉公主をもつ。

 

戦いを守護するともされ、黄帝がシュウと戦った際には黄帝に勝利の策を授けたという。

 

不老不死の桃園を管理してるとされ、皇帝や孫悟空が不死を求める逸話に登場する仙女だった。

 

「この盗人猿…よくも蟠桃園(ばんとうえ)の桃を喰い尽くし、太上老君の宮殿の金丹まで喰い尽くしたな!」

 

美しい着物を纏う黒髪長髪のセイオウボが怒りを表すようにして片目を金色に光らせる。

 

「……悟空?」

 

ジト目を向けてくるリズとクレオパトラに対して冷や汗が吹き出す彼が言い訳を並べてしまう。

 

「わらわの大切な仙桃は六千年に一度しか実を成さん!それを貴様は喰い尽くした!!」

 

「だ、だってよぉ…斉天大聖である俺様を差し置いて蟠桃会を行うのは許せねーし…」

 

「貴様を招待したら暴れまくるのは分かっておった!妖術まで用いて蟠桃会を荒らすとはな!」

 

女仲魔達からさらにジト目を向けられるセイテンタイセイは縮こまってしまう。

 

「お陰でわらわの不死性が損なわれた…だからこそ…わらわは人々の精気を吸うようになった」

 

不気味な笑みを浮かべるセイオウボが獰猛な顔つきとなり、舌なめずりを行ってくる。

 

文献の山海経(せんがいきょう)では自然の驚異を表現しており、豹や虎で描かれる程の獰猛さも宿すのだ。

 

「ここにいる連中は生かしておくわけにはいかないわ。皆殺しにしましょう」

 

「そうするしかないわね…私達の諜報活動がバレた以上…尚紀の責任問題になってしまう…」

 

「せっかく潜り込んだんだ…悪の限りを尽くしてまで工作してきた努力を無駄にはさせねぇ!」

 

両手で素早く印を結び続ける悟空が定身の法と呼ばれる魔法を行使。

 

悪魔達には通用しないがPMC兵士達が術によって拘束されていく。

 

しかしセイオウボが握った扇子を振り抜けば『メパトラ』が行使され、緊縛状態を解く。

 

「同じ手口で出し抜けると思うなよ…盗人猿め!!死ぬまでMAGを吸い尽くしてやる!!」

 

「オウオウ、威勢がいい仙女じゃ!ワシも負けんように暴れてやらんとのぉ!!」

 

巨大クマに乗ったバラムが号令をかければPMC兵士達が一斉に発砲してくる。

 

逃した堕天使を追撃しなければ諜報活動が漏洩して人修羅達も窮地に立たされるだろう。

 

激戦を繰り広げるセイテンタイセイ達の表情にはかつてない程の焦りが生まれていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ヌゥゥゥゥゥーーーーッッ!!!」

 

如意棒を高速回転させながら銃弾を弾き続けるセイテンタイセイだが動きを拘束される。

 

それに対してセイオウボは容赦なく魔法を行使。

 

「グワァァァァァーーーーッッ!!?」

 

放たれたジオダインが直撃したセイテンタイセイが倒れ込み、さらに雷魔法が放たれる。

 

兵士達も前進しようとするのだが、自身の影に潜り込んだリズが側面から斬り込んでくる。

 

<<ギャァァァァァーーッッ!!!>>

 

両手に握られた影の曲刀を用いて次々と人間達を殺戮していく姿こそ猛将としての彼女の姿。

 

百年戦争時代においては伝説の傭兵一族の者と恐れられたリズ・ホークウッドの戦いの光景だ。

 

「貴方達にも家族がいるでしょう…それでも殺すわ。悪を背負ってでも私は彼のために尽くす」

 

主人と認めた人修羅のためなら彼女は人間の虐殺者になれる程の覚悟を宿す者である。

 

「きっと貴方達の家族もタルトと同じ憎しみを宿すのでしょうね…復讐ならいつでも受けるわ」

 

目的のためなら敵を殺すが、その道もまたタルトの村の人々や妹を殺した略奪者共と同じ所業。

 

ミイラ取りがミイラに成り果てる矛盾を背負おうが、彼女もまた主人と同じく矛盾を超えた者。

 

それはクレオパトラも同じなのだが、バラムの容赦ない攻撃のせいで防戦状態となっている。

 

「くっ!?コイツには魅了魔法が通じない!!」

 

「ワシを色仕掛けで倒そうというなら無駄な足掻きじゃ!!」

 

獰猛なクマに乗るのは人と牛と羊の頭部を持ち、蛇の尻尾と腕には鷹を留まらせた堕天使。

 

太った腹にはドクロマークが描かれる悪魔が巨大クマを自在に操りながら襲い掛かってくる。

 

押し潰しや暴れまくりを行ってくる攻撃に対して、浮遊するクレオパトラが回避を行う。

 

右腕を複数のコブラの鞭に変えた彼女の一撃を浴びるクマはビクともしない強度を誇るのだ。

 

「だったらこれならどう!!」

 

左手を掲げて放つのは『ハマバリオン』であり、破魔属性の光がバラムの体を飲み込む。

 

破魔の光が通じたのか光が収まれば体が焼け焦げた堕天使が現れ、息を切らしている。

 

「精神攻撃以外は普通に効きそうね。色仕掛けだけの女だと私を思ってるなら大間違いよ!!」

 

「おのれぇぇぇ!!だったらワシも魔法戦を仕掛けてやろう!!」

 

魔法戦に長けたクレオパトラが攻勢に出た事でバラムも魔法戦を仕掛けてくる。

 

雷魔法と風魔法が吹き荒れる中、倒れ込んだセイテンタイセイが起き上がっていく。

 

「ほう…?わらわの暴食を浴び続けているというのにまだ立てるか?それでこそ暴れ猿よのぉ」

 

倒れ込んだセイテンタイセイに仕掛けていたのは『女王の暴食』である。

 

万能属性で攻撃し、ダメージ量の半量だけ体力を回復する攻撃と回復を同時にこなす魔法だ。

 

「へっ…悪さを続けたら…いずれ罰が当たる。俺様もそうだし…啓明結社もそうあるべきだ…」

 

万能属性魔法で焼かれた上に追い打ちをかけるMAG吸いまで仕掛けられている。

 

既にセイテンタイセイは限界が近く、だからこそ女達に叫んでくれるのだ。

 

「ここは俺様に任せろ!!テメェらはここから脱出して逃げた堕天使を見つけ出して殺せ!!」

 

「だ、だけど悟空…貴方だって限界なんでしょ!?私も残って戦うわ!!」

 

「バカ野郎!!テメェの影の中に仕舞ったもんが尚紀には必要なんだ!命懸けで届けやがれ!」

 

「出来ない!!貴方は尚紀にとって大切な師匠なのよ!?貴方を死なせるわけにはいかない!」

 

「バカ弟子にはもう…俺様の全てを伝え終えてる。立派に成長してくれた…悔いはないぜ…」

 

「悟空……」

 

今にも泣きそうな表情を浮かべる女仲魔のためにこそ、男悪魔は最後の笑みを浮かべてくれる。

 

「男って生き物はな…女子供のためなら死ねるんだ。最後ぐらい…カッコつけさせろよ…」

 

獲物を逃すまいとセイオウボが雷魔法を放とうとするが、バラムの断末魔に反応してしまう。

 

「チッ!!情けない堕天使め!!連れの奴を帰らせるからそんな末路になるのだ!!」

 

再びトドメを放とうとした時、クレオパトラが飛翔しながらリズの手を左手で掴む。

 

「は、放して!!悟空が死んでしまう…私達の大切な仲魔が死んじゃうの……ッッ!!」

 

「女なら男の覚悟を受け止めてあげなさい!戦場に行く男達を見送った女達のようにね!!」

 

そう叫ばれた瞬間、魔法少女リズ・ホークウッドが経験してきた記憶がフラッシュバックする。

 

百年戦争時代においても男達は女子供を守るために戦場に行き、命を散らしていく。

 

傭兵一族としてその光景を誰よりも見てきた魔法少女だからこそ細胞にまで焼き付いている。

 

その記憶は21世紀を生きる造魔リズ・ホークウッドにまで届いてくれたようだ。

 

二丁拳銃を構えながら行く手を遮るダークサマナーに対して蛇の鞭を振り抜く。

 

頭部が破壊されて死んだサマナーを超えながらセキュリティゲートを破壊する魔法を放つのだ。

 

「し、しまったぁ!!?」

 

召喚者を失ったセイオウボはMAG供給者を失ったことで焦りを浮かべてしまう。

 

「貪欲に喰らう事しか頭にない程にまで堕ちた仙女なんぞが…俺様を悪く言う資格はねぇよ…」

 

振り返れば如意棒を振りかぶりながら最後の一撃を放とうとするセイテンタイセイがいる。

 

気合をかけて攻撃力を上げ、タルカジャを最大まで用いて最高火力にまで引き上げていく。

 

リズとクレオパトラは外に出た時点で影移動を用いて施設から離れているのは確認済み。

 

そして外には襲撃の知らせを受けた増援部隊が迫ってくるのも感じ取っているだろう。

 

「夫唱婦随って言うだろ…俺様も散々悪さをしてきたんだ…地獄まで付き合ってやらぁ!!」

 

如意棒を振り抜いて放つ一撃とは最高火力となった八相発破である。

 

巨大にまで広がっていく衝撃波に飲み込まれるセイオウボが呪いの叫びを上げてしまう。

 

「お…恐ろしや……命の……足掻き……よ……」

 

砕け散るセイオウボだけの被害規模では済まないだろう。

 

ブラックキューブの形をしたビルの側面が一気に崩壊していき、衝撃波はさらに広がっていく。

 

施設の大部分を削り取る程の火力によって増援部隊まで皆殺しにすることが出来たようだ。

 

力尽きるように両膝が崩れたセイテンタイセイであるが、懐から煙草を取り出す。

 

葉巻を吸うようになった尚紀が以前まで吸っていた煙草であり、吸いながら弟子の姿を思う。

 

「……この施設を放置するわけにはいかない。君も早く逃げてくれ」

 

近寄るのは隠れていたビットボールであり、モニター画面の太助が切り札を伝えてくれる。

 

「その中にメギドラの石を搭載してたってのかよ…その威力なら施設を消滅させられるな…」

 

「我々の痕跡を消滅させ、人々の自由意志を奪うビッグデータ企業を消滅させるためなんだ」

 

「やってくれ…俺様はもう…動けねーよ。俺様の全部をぶちかましてやったんだからな…」

 

彼の覚悟を聞かされた里見太助はモニターの光に照らされる眼鏡を指で押し上げる。

 

「君の最後は必ず尚紀君に伝えよう…同じ男として誇らしい程にまで君は輝いていたとね…」

 

それを伝えた後、モニター画面が赤く点灯しながらカウントダウンを開始する。

 

その光景を見守りながら最後を迎えるセイテンタイセイは微笑みながらこう呟くのだ。

 

「青は藍より出でて藍より青し…弟子が師を超えてくれるってのは…嬉しいもんだな…」

 

――俺様の一番弟子として…必ずルシファーと…牛魔王(バアル)を…倒して…みせろ……よ。

 

次の瞬間、大魔王の権威でありデジタル全体主義の総本山は光の中に飲み込まれてしまう。

 

核爆発規模のメギドラオン程でなくとも、メギドラの威力は凄まじく施設を完全消滅させる。

 

地底まで消滅させる程の凄惨な光景の中にはセイテンタイセイの姿は何処にも見えなかった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

戦場から離れる白の高級セダンの後部座席にはアムドゥシアスが座っている。

 

彼はビジネス用のスマホを用いてルシファーに連絡しようとするのだが繋がらない様子である。

 

「どういうことだ…何ゆえ連絡が出来ない?それにネットまで利用出来なくなっているだと…」

 

「だとすれば…何者かが電子妨害装置を用いて電子攻撃を仕掛けているのでしょうか…?」

 

運転手が指摘する通り、現在のジュネーブでは大規模通信障害が起きている。

 

動いていたのはアタバクの部下を務める十二神将達であり、電子戦を展開しているようだ。

 

移動式地上ベースの電波妨害装置が至る所に展開されており、情報通信を遮断している。

 

ケーブルを用いた通信さえ出来ない状況に追い込んだのも先を見越した人修羅の判断だろう。

 

「な、なんだぁ!!?」

 

突然夜が昼間の如き光に包まれたため、慌てた運転手が車を停めてしまう。

 

「こ…この光はメギドの光か…!?」

 

アムドゥシアスも慌てながら車から降りて遠くに見える戦場に視線を向けた時、愕然とする。

 

「そ…そ…そんな……まさかぁ!!?」

 

見えたのはメギドラによって消滅していく大魔王のブラックキューブであり、両膝が崩れる。

 

「こんな事態になるだなんて…私の責任だ…私がバラムの力を…過信し過ぎたから…ッッ!!」

 

ガクガク震えるしかない彼の脳裏に浮かぶのは憤怒に歪んだ大魔王の姿である。

 

いったいどんな地獄の処罰で殺されるかを想像しただけで心臓が止まりそうになるだろう。

 

「先の心配をするよりも…今の心配をした方がいいのではないか?堕天使よ…」

 

恐ろしい魔力が近寄って来るのに気づいた堕天使が見たのは人間に擬態したアタバクの姿。

 

右手には不動明王利剣、左手には三又の槍を持つ彼の表情は鬼神の如く恐ろしい。

 

アタバクの異界に飲み込まれた事でアムドゥシアスは悪魔化する。

 

白と星の道化衣装の上には一本角が生えたプロレスマスクを纏う者が魔法のサックスを構える。

 

運転手を務める擬態した悪魔は恐れをなして逃げ出すが、アタバクが投げた槍に貫かれるのだ。

 

「貴様らを生きて返すわけにはいかん…今回の襲撃は多神教連合が行ったものとする」

 

「奴らに罪を擦り付けて謀反を企てるか!?獅子身中の虫共め…我が音色で滅ぶがいい!!」

 

『魔界のしらべ』を奏でるアムドゥシアスの攻撃によってアタバクは魔封状態となってしまう。

 

「耳障りな騒音を鳴らす堕天使如き…我が憤怒をもって粉砕圧砕してくれるわぁ!!」

 

格上の悪魔を下手に傷つけたこともあり、激怒させてしまった堕天使は恐れおののく。

 

3mはある彼が見上げる存在の影に飲み込まれてしまう中、己の死期を悟るだろう。

 

「我が主たる大日如来の命により…煩悩と悪行をもたらす堕天使を滅ぼす!カーン!!」

 

アムドゥシアスの10倍である30mの巨体の足が持ち上がり、地上に天罰を下す。

 

震え上がったままの堕天使は逃げ出すことも出来ずに踏み潰され、足の隙間から光を漏らす。

 

MAGの光が空に昇るのを見送るのは顔が三つ存在するアタバクの頭部。

 

緑の肌をもつ上半身の背中には6本の腕と武器が備わり、肩から伸びる両腕が合唱してくれる。

 

「空に昇っていく光の中にセイテンタイセイ殿を感じる…彼の魂に幸在らんことを願おう…」

 

人間姿に戻ったアタバクが異界構築を解いた後、十二神将達から念話が送られてくる。

 

<此度の作戦は完了だ。我らは急ぎ撤退するぞ>

 

こうしてジュネーブでの作戦は終了するのだが、払った代償は余りにも大き過ぎるのだった。

 

……………。

 

「……そうか。破壊の痕跡から多神教連合のものと思われる武器の数々が見つかったか」

 

バベルの塔のケテル城に存在する均衡の城では忌々しい表情をした大魔王がいる。

 

自分の権威を完全破壊されたことでいつも穏和な顔だが何処か不気味な彼の表情も憤怒で歪む。

 

怒りに打ち震えるようにして拳を震わせる大魔王の前には怯えるゴモリーもいるようだ。

 

「不幸中の幸いは…閣下がリスクヘッジをしていた事ですね。バベル内のデータは無事です」

 

「そのような問題ではない…私の権威を完全破壊する逆賊共がのさばっている現実なのだ…」

 

「も、申し訳ありません…多神教連合の勢いは益々強まり、各地で反抗に及んでおります…」

 

「シェムハザまで殺されている…ここまで被害を被った以上…天使よりも先に奴らを滅ぼす」

 

報復心を燃やすケテル城もあれば、悲しみに包まれるケテル城もある。

 

人修羅が治める慈悲の城では報告を行う者達がいるようだ。

 

「……俺のマスターは…最後に何か…言葉を残したか…?」

 

「……彼の一番弟子である君のためにこう言った。大魔王とバアル神を必ず倒してみせろと…」

 

無念を極めた表情を浮かべながら機密の数々が詰まった山羊頭の杖を持つのは悟空の弟子の姿。

 

報告を行う太助の横には涙を流し続けるリズが立っており、クレオパトラも顔を俯けてしまう。

 

「ごめんなさい…私がついていながら…本当に…ごめんなさいぃぃぃぃ……ッッ!!」

 

泣き崩れてしまいそうなリズをクレオパトラが支えてあげ、彼女を送ってくれと人修羅は頼む。

 

両膝が崩れそうな彼女に肩を貸しながら歩くクレオパトラは悔しそうな顔のままこう呟く。

 

「女の為に命を捧げる程の男の愛…それ程までの愛を得られる機会は…私にはなかったわね…」

 

政略結婚を繰り返し、好きでもない男の子供まで産まされたクレオパトラもまた愛に飢える者。

 

そんな彼女は無償の愛を捧げる男の最後を見せられたことで男の愛に飢えるようになっていく。

 

「手筈通り犯行は多神教連合の所業として擦り付ける痕跡は残した…上手くいけばいいが…」

 

「そうか…分かった。すまないが……独りにしてくれないか…」

 

「……そうしよう」

 

電動車椅子を動かしながら人修羅の執務室から去った太助を見送った後、彼の体が震えていく。

 

思い出すのはジャックフロストが死んだ光景やもう一人の師匠となってくれた蒼海幇の長の姿。

 

尚紀を残して死んでいく仲魔達の無念を思う程、自責の念に駆られてしまう。

 

「すまない……本当なら俺がやるべき任務だったのに……お前達にばかり頼ってしまって……」

 

今の彼は混沌王として皇帝として、外交を重視する姿勢を崩すわけにはいかない立場である。

 

それにバアルや他の魔王達からもしつような付き合いを強制され、悪逆行為をやらされていく。

 

今は迂闊な行為が許されない時期だからこそ、自分が囮となって周囲の意識を操る立場だった。

 

「斉天大聖孫悟空か…思えばボルテクスの頃に初めて出会えた時から…頼りっぱなしだった…」

 

まだ力が弱かった頃、オベリスクの塔で出会えた猿悪魔のオンコットが最初の出会い。

 

オンコットと共に旅をするうちにハヌマーンに進化し、そしてセイテンタイセイとなっていく。

 

武神にまで進化した彼の力は絶大であり、彼の力に頼りきりになってしまう。

 

そんな尚紀に活を入れてくれたのも師匠であり、彼を強くしてくれる存在になってくれた恩人。

 

師匠のことを心から尊敬していた人修羅の心は張り裂けんばかりの悔しさが溢れ出す。

 

「悟空やクーフーリンがいてくれなかったら…俺なんて何も成せない…本当に俺は弱いんだ…」

 

「……ソンナコトハナイ、汝ハ強クナッタ。ダカラコソ奴ハ託シタノダロウ…」

 

隣に控えたケルベロスも仲魔の一員として悲しみは同じであり、それでも言える言葉がある。

 

「フロストモセイテンタイセイモ人修羅ダカラコソツイテキタ…尚紀ダカラコソツイテキタ…」

 

「俺には……それ程の価値があるというのか……?」

 

「ドンナ在リ方ニナロウト、コノ者ナラ()()()()()()()()()()…我々ハソウ信ジテキタンダ…」

 

自分のためなら命も張ってくれる仲魔達の思いを受け止める人修羅の目頭が熱くなる。

 

涙が溢れ出す彼であるが、ついてきてくれる仲魔達のために言える言葉があるだろう。

 

「俺を信じてくれる者達よ…お前達の期待は裏切らない…そのためにこそ…俺は修羅となろう」

 

溢れ出す感情が表れるようにして山羊頭の杖を持つ両手も震えていく。

 

それでもこの杖は師匠が命を懸けて託してくれた成果であり、だからこそ彼は杖を行使する。

 

「あまりにも重い代償を支払ってでも手に入れた…これより俺達は…フェーズ2に移行する」

 

ついに人修羅は次の段階に踏み込む決断を行ってくれる。

 

このためにダボス階級の者達やフリーメイソン内部の者達との関係を強化してきたのだろう。

 

フェーズ2こそが最大の山場であり、これを失敗すれば彼らの計画は頓挫する程であった。

 




メガテン的にマイナー堕天使も可能な限り登場させたいとは思ってますが、尺の都合でどれだけ登場させられるか分からないんですよねぇ(汗)
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