人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
体が弱り切っている尚紀は村に一晩泊まる事となり、涼子が暮らす寺までやってくる。
アスラ王は多神教連合の者達が去っても人修羅の護衛を務め抜くために同行するのだろう。
「ありがたや…未来の無い日本に見切りをつけて訪れた地で…大日如来様と巡り合えるとは!」
「住職よ、世話になるぞ。この者も我と同じアスラ神族に属する男だ…休ませてやってくれ」
「涼子から聞かされた嘉嶋殿ですな?その献身の在り方はまさにミロク菩薩…どうぞどうぞ!」
寺の中に案内された尚紀は肩を貸している静香と共に寺の居間に訪れる。
昔ながらの和風な雰囲気の旅館めいた居間には気絶した涼子も寝かされており、座椅子に座る。
「…敵地で工作員として生きていると、日常の有難さを痛感する。失って初めて気が付くな…」
「嘉嶋さんを襲う敵は村にはいないから安心して♪ちゃる達も連れてくるわ♪」
「コラ、静香さん。容態が悪い彼の元に騒がしい若者達を連れてきたら彼も疲れがとれんぞ?」
「構わないよ、住職さん。安心出来る奴らと一緒にいられる…それだけで俺の心は癒される」
静香は仲間達を呼びに行き、住職はお茶を淹れに行き、尚紀は黒のトレンチコートを脱ぐ。
黒のベスト姿のまま赤いネクタイを緩め、口からマサカドゥスを吐き出すようだ。
「少しの間…お前も休め、スパーダ。敵地にいた時から常に全力戦闘が出来る状態だったんだ」
<<……そうさせてもらおう>>
最強のマガタマに宿ったスパーダの分霊は彼の右手の中に収納されるように消えていく。
暫くするとちはる達やティターニアが訪れたようであり、積もる話を語っていくようだ。
「静香殿から色々と聞かされてきましたが…想像を絶する程の苦しみに耐えてきたのですね…」
「三浦旭だったな?お前だって霧峰村を焼かれてからの逃避行人生は地獄の苦しみだっただろ」
「そうでありますが…我は自分を殺してでも工作員になる辛さは…耐えられないでありますね」
「そう言うな、お前だって十分強い。魔法少女の真実を皆に伝えようとするぐらい勇気がある」
「勇気だけでは…真実は伝わらない。だから霧峰村に逃げた我は…臆病者であります…」
「出過ぎた杭になってでも戦おうとしたお前を臆病者だと言う奴がいるなら…俺が許さないさ」
「嘉嶋殿……その御言葉が聞けただけで本当に嬉しいです。もっと早くに…出会いたかった…」
故郷で差別されてきた記憶を思い出した彼女が顔を俯けてしまうからこそこう言ってくれる。
「神浜で暮らす常盤ななかもお前と同じ苦しみを宿す女だ。だからこそ俺は世界に真実を残す」
世界革命を成し遂げた後、彼は秘密結社連中が世界にもたらした悪事を公表するつもりである。
世界中に緊急放送を行う場の中であらゆる秘密を暴露し、そして悪魔と魔法少女の真実も残す。
「お前の言葉が通じなかった原因は民衆が権威主義だからだ。ならば俺達が世界の権威となる」
「嘉嶋殿は…我々が成し遂げられなかった真実を残すことを…本気でやり遂げるのですか!?」
「金融資本家共は権威主義を民衆に刷り込んで洗脳してきた…だからこそ俺もそれを利用する」
毒を以て毒を制す、それこそがヴェノムスネークとなった人修羅の道。
御上至上主義に成り果てた愚民が相手なら、革命を成して官軍となった自分達が権威を使う。
「旭…お前の苦しみは絶対に無駄にはさせない。魔法少女達の存在を必ず世界に認めさせよう」
そう伝えられた瞬間、体を震わせる旭の目から大粒の涙が零れ落ちていく。
「グスッ…ヒック…氷室殿について行かなくてよかった…希望を信じて…本当によかった!!」
泣き崩れてしまう旭の体をちかが抱きしめて上げる光景の中、彼の隣に座るちはるがこう言う。
「尚紀先輩は本当に頼りになるよぉ…もう探偵というよりは…政治家さんみたいだよね!」
「元々俺はな…贖罪のために政治家を目指そうとした。全ては魔法少女への償いなんだ…」
「そんな嘉嶋さんだからこそ私達の為に動いてくれる。私…貴方に出会えた運命に感謝します」
「政治家になろうとしたら今度は探偵を続けられなくなる…だからちはるに謝りたかったんだ」
「ううん、私は誇りに思うから!人々の未来のために働く…その在り方こそが私の先輩だよ!」
大好きな先輩の変わらない在り方に感激した後輩が笑顔を浮かべながら片腕に抱き着く。
そんな彼女と再会出来るチャンスだったからこそ尚紀はトレンチコートから何かを取り出す。
ポケットの中に入ってたのは聖探偵事務所に預けてあった探偵グッズだったようだ。
「未来の職場を守れなくて…本当にすまない。これを預けてくれてたが…お前に返すよ」
「えっ…?だけど…私……」
「丈二は犯罪者として刑務所行き…残された職場は俺が維持費を払ってるが…先は分からない」
「ううん…この虫眼鏡はやっぱり預けておく。きっと所長だって…帰ってきてくれるから!」
「そうか…そうだな。日本のディープステートの悪事を暴くことが出来れば…丈二も救えるな」
「そしたらさ…また皆で探偵として生きていこうよ!神浜の魔法少女達も喜んでくれるから!」
笑顔を浮かべてくれる後輩を見つめる尚紀であったが、それが叶わないのは分かっている。
それでも先のことを伝えることも出来ない彼はそれ以上何も伝えなかったようだ。
「この世に正解はないか…お前さん達が行う極悪な道もまた…誰かを救える薬にもなるんだね」
「…革命なんてそんなもんさ、涼子。俺の仲魔だったほむらの道もまた…同じようなもんだな」
気絶から目覚めていた涼子が起き上がりながら尚紀に質問してくる。
「それでもね…聞きたいんだ。破壊の果てに生み出す新たな世界のビジョンについてね」
悪行もまた善行になるという歴史根拠はあっても、肝心の新世界の在り方が見えない。
尚紀達や多神教連合の神々はいったいどんな世界の在り方を求めているのか聞きたいのだ。
「いい質問だ…長い話になるだろう。政治の話になるだろうが…どうか聞いてくれないか?」
尚紀の隣の席にいる静香の横に座り込んだ涼子も交えつつ、時女一族の面々に語っていく。
その内容とは国の自立である自給自足という概念であった。
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「お前達は5Kという言葉を聞いたことがあるか?」
「きつい、汚い、カッコ悪い、稼げない、結婚出来ないという不人気職を表す意味ですか?」
「そうだな…そんな悪いイメージが張り付けられた一次産業こそが…本物の国防だったんだよ」
先進国では国防と同じ考えで一次産業の農業を過保護な規模で守られるのが当然である。
農家の所得の8割は国の補助金なんて普通なくらいだ。
だから農地の価格は上がり続けて農家も儲けて人気の職業となり、国の食料自給率が保てる。
ところが日本は農地の価格は下がり続け、農業従事者の平均年齢も70歳にまで落ち込む。
農家も後継者も不足する原因とは、労働と所得があってないからだろう。
「食料自給率が国のスタンスを決める重要なファクターとなるのはな…
欧米において食料とは戦略物資として捉えられている。
世界最大の農産物輸出国はアメリカだからこそ、他国の関税を撤廃させて食料を売りつけたい。
そのため環太平洋パートナーシップ協定や経済連携協定に日本を無理やり巻き込んでしまう。
そうなれば自給自足率が低過ぎる日本はどうなってしまう?
「兵站を外国に依存するようになり、生殺与奪権を奪われる。この恐ろしさが…分かるか?」
「分かります…私の霧峰村だって神子柴の経済力に依存したせいで…完全支配を受けました…」
「神子柴が外貨で用意する品で溢れれば溢れる程、霧峰村の自給率が下がっていったはずだ」
「そのせいで神子柴の発言力は飛躍的に高まって…母様ですら逆らえない状況になりました…」
我が家の食料が全て隣の家からの供給で賄われていた場合、食料の供給を停止すると脅される。
DV親が子供に対して言う事を聞かなければ飯を食わさんぞ!と変わらない事態になるだろう。
「貿易品を武器に他国を支配出来る。関税を撤廃された日本の食料自給率は全滅だな…」
昔から農家は生かさず殺さずが売国政権与党の方針。
金と票にならない農家には政権与党は見向きもせず、外資化した経団連に尻尾を振ってきた。
「政権与党はTPPの時も選挙が終わると平気で農業を裏切りやがった…政権与党が国を亡ぼす」
米は自給率97%でも日本有事により海上封鎖、制空権をとられれば兵糧攻めと空爆の嵐。
農薬や肥料は殆ど輸入、農業機械は油がなければ動かない、農耕用牛馬も姿を消している。
さらには農業従事者の大半は高齢者、担い手はわずか、数年前のウンカが流行すれば全滅だ。
そしてトドメはTPPやEPAによる関税撤廃のせいで外国食料が安い、日本の食料品は高過ぎる。
これで日本の台所事情は滅び、主権を取り戻す戦争を起こす余力もない状態に出来るのだ。
「黙示録の四騎士の中にどうして飢饉を司る奴がいたのか理解した…食料こそ戦略だったんだ」
食料やエネルギーなど多くを外国依存にされたならば、どんな魔法少女であっても逆らえない。
彼女達だって御飯を食べたりエネルギーとなる光熱費を消費しなければ生活さえ維持出来ない。
それが分かる魔法少女達の顔が青ざめていき、5Kと馬鹿にした一次産業の価値を見出すのだ。
「織莉子という静香と同じく元魔法少女が部下にいる。彼女もTPPとEPAの脅威を叫んできた」
「一次産業は…国家の自立の問題になるぐらい…大切な職業だったんだね…」
「軍事戦略上で大変重要な意味を持っていたなんて…両親ですら教えてくれませんでした…」
「自立とは他に頼らないで政治、家庭生活、人生が成り立つ状態だ。これが俺の望む国作りさ」
「食料袋の紐を他人に握られていては自立はありえない…それが神子柴問題だったんですね…」
「ミリタリー趣味だった我はなんと愚かだったのでしょう…最新兵器にしか興味がなかった…」
「軍事も立派な国防だ。たとえ国が自立出来ていても外国は容赦なく攻め込む…黒船のように」
たとえアメリカの軍事産業を儲けさせるために売れ残りを日本人の税金で買わされても必要だ。
大切なのは外国から兵器を買うのではなく、自国の軍事産業の活性化なのだと語ってくれる。
「霧峰村の魔法少女達は有事の際は他の地域の魔法少女戦力に頼る一族だったのか?」
「いいえ、頼らなかった。外敵が現れたのなら時女一族本家の者達は自分の命を盾にしたわ」
「その気持ちが大切なんだ。他の地域を信用するな…自分の地域は自分達で守るのが基本さ」
「だけど現実は残酷です…時女本家の戦力だけでは米軍と自衛隊の連合軍には勝てなかった…」
「それも現実…だからこその外交なんだ。自国で作った製品を武器として外国を味方につけろ」
「食料は戦略になるなら製品も戦略として生かせる…国の生産力こそが国の宝なのですね…?」
「その通りだ、旭。島国でしか生み出せない力を売りにして外交するしか…未来はないだろう」
信用出来ない他の地域国家であろうと、利害関係を結ぶことならば出来る。
会社も国も変わらず人の集合体である以上、動かすのは人間であり人間関係の延長線だ。
時女一族が尚紀を助けてくれるなら尚紀も時女一族を助ける、それが理想の外交の形である。
「俺が望む自立とは
「海上封鎖されて兵糧攻めされても耐え抜く…城のような国を嘉嶋さんは築きたいんですね…」
「時女一族の代表として私もそんな村作りがしたかった…。私…嘉嶋さんからもっと学びたい」
「俺が学んだ存在とはな…日本神話の主神であるアマテラスだ。あいつは何を日本に残した?」
「ええと…草薙の剣と…八尺瓊勾玉と…八咫の鏡でありますか?」
「重要なのは草薙の剣だ。草を刈り、田畑を開墾し、自給自足を促すための神器だったんだ」
「国の一次産業を象徴する神器だったのですね…アマテラスが残した草薙の剣は…」
(俺の中にはアマテラスの願いも宿っている…だからこそ俺の望みも彼と同じになったか…)
長い話となったことで住職が淹れてくれたお茶を一口飲む。
顔を向け合いながら迷いを抱えた表情を浮かべていたのだが、何かを決断したちかが口を開く。
「もしこの戦いに生き残れたら…私は一次産業に就職したい。林業に従事したいわ」
「ちか殿…また思い切ったことを思いつきましたね?」
「昔から自然と一緒に生きるのが好きだったし、自然界に働きかける職業に憧れてたの♪」
「自然ガイドだけじゃ食っていけないし、それもいいんじゃねーか?あたしも応援するよ♪」
「フフッ♪ちかが林業で働くのなら職場は森になるんでしょ?また妖精郷に遊びに来なさい♪」
「我も狩猟だけでは生きていけないし…一次産業は未来の職場候補として考えたいですね♪」
「オイオイ、未来の国の宝がいてくれるじゃねーか?日本の未来も捨てたもんじゃねーな」
<<アハハハハハハハハ♪>>
気心が触れられる仲間達と国の未来について談笑出来る。
ズタズタとなった尚紀の心がどれだけ癒されたのかは彼女達は分からないだろう。
(こいつらが生きられる国の未来を…俺が必ず守り抜く。そのためにこそ俺は…命を使い切る)
時女一族と出会えた運命を彼は心から感謝してくれる。
彼女達のような存在こそが日の本の未来を築く礎となってくれると彼は確信したのであった。
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その後は住職の寺で静香達と夕餉を囲むのだが、食事を前にしても尚紀は手を付けない。
「尚紀先輩……どうしたの?お腹痛いの…?」
「深刻なストレスが原因で重度の胃潰瘍を患ってる…悪魔の体でも胃の再生が追いつかない…」
「そ、そんな状態になってたなんて……嘉嶋さんは無理をしないで、残してもいいから…」
「すまない…静香、すなお、ちか…お前達が腕によりをかけて作ってくれた料理なのに…」
せめて味噌汁ぐらいは飲んであげようと具を取り除いてもらった後、汁を飲む。
それでも彼の表情には苦悶が浮かび、汁の熱さが胃を痛めていることに気が付いてくれる。
「こんなに痩せちまうぐらいだからなぁ…無理はするなよ、尚紀。風呂に入って今日は休め」
「……そうさせてもらうよ、涼子」
案内してもらったのは村にある温泉であり、誰も入浴していないようなので貸し切りとなる。
「こんなにゆっくり風呂に入れるのは…神浜で暮らせていた頃以来か…懐かしいな…」
星空を眺めながらも思い出すのは残してきた神浜の魔法少女達の姿である。
「時女一族だけじゃない、あいつらにも未来を残したい…だからこそ…俺は…」
湯船に浸けていた両手を持ち上げた時、ノイズのような錯覚が浮かぶ。
彼に見えたのは返り血塗れの己の手であり、幻聴として魔法少女達の断末魔まで聞こえてくる。
「魔法少女達を守りたいのに…また殺していく…本当に俺は…矛盾を極めた存在だな…」
湯船の色も真紅に染まり、浮かんでいくのは殺してきた魔法少女達の腐肉。
そして再び聞こえてきたのはかつてのボルテクス界で戦った怨念悪魔の最後の言葉である。
――ウォレハ、ワカッタンダ。
――ジブンノ、モクテキノ、タメナラ、ダレデモ、コロス。
――オマエハ、ウォレト、オナジダ。
おぞましい錯覚と幻聴に対して首を横に振った後、元の景色に戻ってくれたようだ。
「……嘉嶋さん、大丈夫?」
「えっ……ええっ!!?」
後ろを振り向いた彼がビックリ仰天してしまう。
現れたのはバスタオルを体に巻いた静香であったようだ。
「お…お前……なんで入ってくる!?ここは混浴だったっけ…!?」
「湯船は一つしかないから時間制なんだけど…嘉嶋さんが心配だから来ちゃったわ」
「どういう神経してんだ!?異性が入浴してるってのに…年頃の女が普通に入って来るか!?」
「あら?私は霧峰村にあった秘湯にだって入浴したわよ?お爺さんが入ってても気にしないし」
「そうか…お前はド田舎で暮らしてきた女だったな…都会人の俺とはどこか違うのだろう…」
赤面しながら顔を背ける彼の横に入り込む形で入浴してくる。
公衆浴場であるため尚紀は湯船にタオルはつけておらず、それは静香も同じだろう。
恥ずかしいからさっさと出て行けと手を振って追い払おうとするのだが、反応がない。
顔を背けたままどうしたのかを聞いてみると、弱々しい声が聞こえてきたようだ。
「私ね……怖いの。凄く怖くて……今でも押し潰されそうなの……」
三角座りしながら湯船に浸かっている静香が思い出すのは霧峰村での惨劇の記憶。
それに大国村に辿り着いた時にアビヒコから伝えられた言葉の数々も浮かんでくるのだ。
「憂国の烈士として覚悟を決めたはずなのに…私は人殺しになっていく自分が…怖いの……」
今でも自分の手に宿っているのは霧峰村を襲った米軍兵士達を殺してしまった感触。
悪鬼と戦う一族として魔物は多く殺してきても、人殺しになったのはあの時が初めてなのだ。
「国を救ったって…私の手は血で汚れてる…多くの人から罵られるでしょうね……」
「…自由とは責任の道だ、そうなっていくだろう。俺だって多くの魔法少女から呪われてきた」
「霧峰村を襲った連中なら村を焼いた悪人として自分の所業を正当化出来る…だけど今度は…」
「…革命を果たすなら綺麗事は許されない。罪無き公務員達でも…切り捨てる必要があるな…」
「私は正義のために戦ってきた魔法少女なのよ…?なのに私は…ミイラになってしまう…!!」
裸の自分の体を抱きしめる形で震えていく静香の姿は顔を背けていても分かってしまう。
自分も同じであり、人間の守護者として生きてきたはずなのに人間を殺す者になったのだから。
「混沌の悪魔達の元に潜入した俺は…多くの無垢な命を殺してきた。お前も俺になっていくな」
「嘉嶋さんですらそんな姿になるまで苦しんでるんでしょ…?私は…耐えられるのかしら…?」
「お前も俺も…ついて来てくれる者達がいる。そいつらの前で弱さを見せる事は許されない…」
「ええ…分かってる。だけど…私について来てくれる皆の手まで…血染めにするのは私なの!」
「お前の苦しみは俺の苦しみそのものだ…俺だってな…十七夜達の手を血で汚したくない…」
「それでも皆を率いて戦い続けてこれた嘉嶋さんの覚悟は何なの…?お願いだから聞かせて…」
尚紀の容態を心配してくれた気持ちもあるだろうが、本当は心の弱さを聞いて欲しい。
誰も近寄らない二人きりになれる場所を静香は探していたからこそ入浴に付き合ってくれる。
そんな彼女の気持ちを察した尚紀は顔を夜空に向けながら自分の覚悟を語ってくれるのだ。
「東京で戦った時…俺は自分の在り方の矛盾に耐えられなくなったが…受け入れることにした」
心が怪物になったのはお互い様だと人修羅は言われている。
目的のためなら殺戮を尽くせる者達であり、何かを守るためと虐殺を正当化したのも同じ。
お互いに殺戮を正当化してきた者同士であり、相手だけを悪者にしてはならないと気が付く。
「俺達も啓明結社連中も同じ穴の狢に過ぎない…俺達は皆…自分達だけを正当化していくんだ」
「そうかもしれない…霧峰村を襲った連中だって正当化しただろうし…私達も同じだったわ…」
「暴力は許されない概念だ…それでも互いに暴力を用いなければならない…これが現実なんだ」
誰かを守ろうとすれば誰かを殺してしまう呪われた道。
ジャンヌ・ダルクのような英雄魔法少女達も同じであり、エリート主義を掲げる者達も同じ。
どちらも自分達だけ救いたいという傲慢者共でしかないのだと尚紀は認めてくれたのだ。
「ヒーローだろうがヴィランだろうが、やっていることは変わらない。どちらも殺戮者さ…」
「そうね…悪の魔法少女は何かを果たすために誰かを殺し…正義の魔法少女も同じように殺す」
「立場がすり替わっても根っこは同じでしかない…それが世界の陰陽構造なんだよ」
「光と闇は表裏一体…それに気がつけないのは自分が正しい行いをしてると考える偏見なのね」
「俺と神浜の魔法少女達が殺し合った光景を見ただろ…あの光景こそが…ソレなんだよ」
「本当に恐ろしいわ…偏見という思考の偏りは…どちらも正しいと流されるから殺し合う…」
「偏見という呪いを世界に生んだ存在こそがゾロアスター教さ。世界を善悪で認識する呪縛だ」
ユダヤ教ですら唯一神を崇拝するだけの教義であったが、ゾロアスター教の呪いを受ける。
それによって生み出された概念こそが悪魔であり、世界を善悪で認識する教義と化すのだ。
「自分が正義側ならあらゆる暴力が許される…その価値観こそがユダヤの選民主義の根幹だ」
「世界を金融支配してきた連中は異教徒を悪にする事で正義側になり、虐殺を正当化する…」
「俺が正義という概念を呪ったのはこれが原因だろう…正義宗教こそが…この世の呪縛だった」
「私達魔法少女は…そんな呪いを信じながら…正義の味方になろうとしてきたのね…」
ユダヤ、キリスト、イスラム、仏教、ヒンズー教、あらゆる宗教が世界を善悪化してしまう。
それによって地域間で摩擦が起き、正義を懸けた戦いを勝手におっぱじめていく。
宗教だけでなく政治思想でも同じであり、サブカルでも好みに良し悪しを作って潰し合う。
「
「私も…自己批判をし続けられるかしら…?そうでなければ私は…正義の暴走を起こすわ…」
「その恐怖は俺も承知している…自己批判を繰り返さなければ…俺達はただの虐殺者で終わる」
目を瞑って思い出すのは燃え盛る調整屋の光景であり、みたまと月咲を殺そうとした自分の姿。
あの時も自分は正しいと信じ込み、虐殺行為は正しいと何の罪悪感も感じない状態だった。
「自分は正しい…それを押し殺す唯一の対抗手段こそが…愛という名の…自己犠牲なんだ」
自分が間違っているなど許さない、劣等性などありはしないと意固地になる。
そうなればどんな批判も許さない状態と化すのはエリートだけでなく一般の人々も起こすのだ。
「エゴは誰の心にも宿る獣だ…でもな、エゴはあるのが自然だから無理に抑え込もうとするな」
「難しい理屈ね…自己犠牲もやり過ぎたら自分は正しいというエゴになっちゃうのね…」
「中庸を保つのは一生の課題だ…
人間性を高めるには頭でっかちになるのではなく、感情に振り回されるのでもない。
善悪を見分け、物事を多角的に捉える言葉や行動が大切になってくるだろう。
知恵がないと物事を理解して判断出来ないし、他人にも騙されるし、勝手な正義を押し付ける。
感情がないと他人との共感を得ることが出来ないし、自分勝手になっていく。
善悪が分かっても己だけが儲かればよいと悪の道に進んでしまい、破壊を正当化していく。
感情が暴走すれば冷静さを欠き、知恵さえも都合のいいように歪めるものなのだ。
「知と情があってこそ、正しい心で正しい行いをすることが出来る。自分を理解することさ」
「なら…最後の意思というのは何なの…?」
「意思はな…生きることさ。辛いこと、大変なことが沢山起きても乗り越える力となるんだ」
暴走爆弾である人間の感情は知恵さえも歪めるものであり、制御するには意思が必要。
どんなに嫌いな人から批判や提案が来ても冷静な心で見るためには強い意志が必要なのだ。
「意思が強ければどんな努力も出来る…自分を殺す程の試練にだって…立ち向かえるんだよ」
「ボロボロになってでも嘉嶋さんを突き動かすのは…意思の力だったのね…」
「俺はな…愛した魔法少女と交わした約束がある。今でも俺は…彼女との約束を果たす男だ」
人修羅の力を風華が守ろうとした大切な人達のために使う約束。
それこそが今でも彼の羅針盤となっている。
「人間も魔法少女も守りたい…だけど俺の手はこんなにも小さい…どんどん取り零していく…」
両手を持ち上げながら握り込む彼の手は震えており、今まで取り零した命の温かさを思い出す。
「それでも俺は…守りたいんだ。せめて俺の小さな手で掬い取れる命と未来だけは守りたい…」
――その人達に光の未来を残せるのなら……俺は燃え尽きるまで走り続ける。
「……ゴルゴダの丘で十字架に磔にされて処刑される…その日まで」
胸にある十字架のネックレスを握り込む彼の横では湯船から立ち上がった静香がいる。
「お……おいっ!!?」
あろうことか体を隠さないまま彼の前で立つ彼女が抱き着いてくるのだ。
「……イザナミ様が仰られていた太陽を…私は…見つけることが出来ました…」
「し…静香……?」
「貴方こそが…私達魔法少女を救う者なのよ。私達魔法少女の…男神になってくれる御方なの」
「俺なんかが……魔法少女達の男神になる……?」
「男の貴方を誰も信奉しなくても…私だけは貴方を崇拝するわ。貴方こそ私達の太陽神なのよ」
「俺なんかが……魔法少女達の……太陽……」
「どうか…共にいさせて欲しい。私を貴方のために忠誠を尽くす
心から尚紀を敬愛してくれる女の体を尚紀は抱きしめてくれる。
裸の男女の体が熱くなろうとしたようだが、ジト目を向けてくる悪魔の気配がしたようだ。
「ヌゥゥゥゥゥ……人修羅よ、お主が飛び込みたい穴とは女子の穴だったのか?」
「「へっ?」」
茂みに隠れていたのはアラハバキであり、落胆したような表情を浮かべてしまう。
「お主の冒険心が枯れてしまうとは情けない!女子にうつつを抜かすよりも洞窟探検に……」
体をクルクル回転させるアラハバキであったが、頭部が前に向いた時に戦慄する。
怒りの形相を浮かべながら両手をポキポキ鳴らしてくる男の姿が目の前にいたようだ。
「何べんも言わせるなよ……俺は穴狂いなんかじゃ……ねーんだよぉぉぉーーッッ!!」
「ま、まま待て待て待て!!誤解があったのなら謝るから…貫通殴りはやめるのだーっ!!」
逃げるアラハバキを裸のまま追いかけていくと、心配してやってきた魔法少女達と出くわす。
乙女の悲鳴が聞こえてきたと思ったらバタバタ暴れる脱衣所の声が聞こえてきたようだ。
「クスッ♪嘉嶋さんの一番巫女になれるかと思ったけど…ライバルは多いみたいね♪」
次の日、尚紀は村を去ることになっていく。
「ど…どうしたのだ…人修羅よ?その腫れ上がった顔は…?」
「……何も聞くな」
全裸のままちはる達の前に現れたもんだから張り手の嵐を受けたことで顔が腫れあがっている。
ふらつきながらオルクスの門に向かう尚紀の背中を見送るのは時女一族の魔法少女達。
手を振る女達の横に突き立てられていたのは覗き魔悪魔と書かれた悪魔の串刺し光景であった。
いっぺんに書ききってしまったので遅い時間ですが投稿しておきます。
仕方なかったんや…あまりにシリアス一点張りだからエロを描け!とボクの中の獣が叫んでしまったせいなんや…(確信犯)
まぁそれでも、アルカナ目当てにヒロインと見境なくおせっせするペルソナ主役にはなれないメガテン主役の人修羅であった(汗)