人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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339話 命を咲かせる

東京黙示録事件において暗躍したヤタガラスであるが大失態まで犯している。

 

あろうことか自分達の切り札として用意した如意宝珠を時女静香に砕かれてしまったのだ。

 

これによって人修羅を服従させてCHAOS勢力と交渉する計画は頓挫してしまう。

 

それだけでなく人修羅は鴉結社と組するのを拒んだ末に梟結社に組する道を選ぶのだ。

 

CHAOS勢力の皇帝となった人修羅を懐柔させる道もなく、ヤタガラスは窮地に立たされる。

 

ヤタガラスの長である三羽鳥達が断腸の思いで決断した道とは武力蜂起であった。

 

……………。

 

「ザイオンに運び込まれる物資に偽装して運び込んだデビルサマナー達の数も揃いましたね」

 

「これは越権行為…イルミナティ側に知られれば我らは終わる。だが、それがどうした?」

 

「然り…我らは既に万策尽きている…ならば…奴らが敷いた日本の独裁体制を奪うのみよ…」

 

「地上でハルマゲドンが始まれば選民共がザイオンに流れ込むだろうが…そうはいかんぞ」

 

「奴らを皆殺しにした上でヤタガラスに最後まで組した一族を受け入れる…救われるは我らぞ」

 

怒りと無念の表情を浮かべながら語り合うのは天津神族の面々とヤタガラスの使者である。

 

中央に立つタケミカヅチは己の油断のせいでこんな事態を招いたため、覚悟が完了している。

 

腕を組んで立つ彼の姿はふんどし一丁姿ではなく、古墳時代の衣と袴の上から短甲鎧を纏う。

 

完全武装した姿の頭部にはハチマキが巻かれており、七生報国と書道されているようだ。

 

七生報国とは何度生まれ変わっても国に忠誠を尽くす意味であり、武将の楠木正成の言葉。

 

タケミカヅチの覚悟を表す言葉として相応しく、決死の覚悟で日本のザイオンを手に入れる。

 

その覚悟はザイオンに集ったヤタガラスのサマナー達も同じであり、魂が宿る頭に巻き付ける。

 

「ヤタガラスを最後まで信じてくれた同胞達よ…汝らの覚悟を問う!ヤタガラスに従うか!?」

 

<<我らの魂は護国守護のためにある!!>>

 

ヤタガラス総本山の中にある石畳広場に集まったサマナー達が雄叫びの如き叫びを上げていく。

 

「我ら天津神族と秦氏の同胞達よ!!日の本は誰のものか!?」

 

<<土地を耕した日本人のものであり!!日本人を導いてくれた秦氏のものである!!>>

 

「よくぞ申した!!この地は我々が耕してきた…朝鮮人ではない!ユダヤ共でもないのだ!!」

 

<<この土地は我らのものなり!!憎き支配者共をのさばらせるのはもう耐えられない!!>>

 

「このザイオンこそ新たな日の本とする!!新たな国を作るため…我らは決死隊となる!!」

 

<<我らが総大将タケミカヅチ万歳!!ヤタガラス万歳!!>>

 

歓声を上げていくサマナー達の勇姿に対して天津神族達は感謝を込めて拍手を送る。

 

彼らも憂国の烈士達であるのだが、オオクニヌシ達とは向かう場所を違えた者達でもあった。

 

「愚か者と成り果てた葛葉の連中にも、この光景を見せてやりたいものだな…殺女(あやめ)よ?」

 

「私も同じ事を考えてました、長老。ヤタガラスは我らの味方…我らの忠義は正しかった」

 

「彼らを信じようとしなかった愚か者共には報いを与えねばならん…決着が待ち遠しいのぉ」

 

壬生一族のサマナー達も集まっており、忍者装束めいた姿をした長老の横には女達もいる。

 

黒い着物に黒い帽子、黒いロングブーツの下には黒のガーターベルトを纏う者とは殺女の姿。

 

彼女の先祖が身に纏った衣装姿であり、殺女は同じ名前だった綾女を尊敬しており身に纏う者。

 

着物のスリットから覗くおみ足は16歳の少女とは思えないほど妖艶に見えるだろう。

 

他にも黒スーツ姿をした女サマナーや黒の着物を纏う女サマナー達もいるようだ。

 

黒装束を身に纏う覚悟こそヤタガラスに忠誠を尽くす一族の覚悟の表れなのだろう。

 

「ん……?」

 

黒髪長髪を後頭部で纏めて帽子を被る殺女の片目が後方に向けられる。

 

大勢集まった者達の中から一人抜け出す者がいたのに気づいたことで彼女も列から離れていく。

 

「ようやくヤタガラスの総本山を見つけ出せたというのに…これ程までの戦力があろうとは…」

 

石段を駆け下りていく男は葛葉一族のスパイであり、他のサマナーに紛れて潜入していたのだ。

 

石段を下り終えた時、突然横から飛来してきた武器に反応した男は横っ飛びで避ける。

 

転がりながら起き上がった男が立ち上がって視線を向ければ殺女が迫ってくるのだ。

 

「賊が紛れ込んでいたか…ヤタガラスから背を向けて逃げ出す不届き者など賊以外にいない」

 

着物の袖の中に隠し持っていた暗器とは曲刀の刃を鎖で繋いだ鎖鎌。

 

あと一歩遅ければ鎖鎌の横薙ぎで首を跳ね落とされていただろう。

 

「ヤタガラスを裏切れば賊扱いか…先に裏切ったのは貴様らヤタガラスであろう!?」

 

「その早とちりが愚かなのだ。あの光景を見てまだ疑うか…ヤタガラスは我らの保護者だ!」

 

「我々だってそう信じてきた…なのに切り捨てた!今回だって切り捨てるに決まってる!!」

 

「そのような事があろうはずがない!彼らはこのザイオンを共に築こうと言ってくれたのだ!」

 

「甘言に踊らされているのはどちらなんだ…?何を言っても聞く耳持たないエゴイストめ!!」

 

背中から仕込み刀を抜いた男が武器を構える中、殺目は片目を細めていく。

 

「この殺女に対して悪魔を使役するつもりもない構えのようだが……舐められたものだ」

 

殺女も悪魔を使役せず鎖鎌だけで勝負を行おうとするその油断を利用しようと男が踏み込む。

 

葛葉一族の剣術である的殺を放つ一撃に対して鎖鎌を投げ放つ。

 

蛇の如く伸びる鎖の一撃を避けて高速突きの刃が迫る中、殺女が鎖鎌を放つ手を引く。

 

社殿にあった石の街灯に鎖が引っ掛かり、遠心力を活かしながら刃が戻ってくる。

 

「ガッ……ッッ!!?」

 

円を描くように戻ってきた刃に背中を切りつけられたことで的殺の一撃が崩れる。

 

体をずらしながら刺突を避け、カウンターとして男の顔面に肘打ちが決まり、倒れ込むのだ。

 

「突きの速さは大したものだ。胴体を切断するつもりだったが背中を切られただけで済んだか」

 

「ぐっ……うぅ……」

 

不屈の意思で顔を上げるスパイ男であったが、目の前に突きつけられているのは拳銃である。

 

黒のレース手袋を纏う手が握っていた拳銃とはモーゼルM712であり、引き金に指がかかる。

 

「冥途の土産だ、あの世で鬼共に語るがいい。貴様の命を奪った女の名は殺女なのだとな」

 

「君が…大正時代における壬生一族の綾女を継いだと名高い…壬生の殺女だったか…」

 

「私情は交えず敵を殺す…それこそがかつての綾女の生き方であり…この殺女の生き方だ」

 

「フッ…こんな子供を壬生の生贄にするとはな…さぁ、殺せ…俺の役目は…ここまでだ…」

 

無慈悲な銃声が鳴り響き、スパイを務めてくれた葛葉一族の男が絶命する。

 

騒ぎを聞きつけてやってきたサマナー達に対して殺女は不敵な笑みを浮かべながらこう告げる。

 

「私に睨まれた敵は例外なく死ぬ。ヤタガラスに逆らう者達を根こそぎ殺す女こそが私なのさ」

 

「流石は殺眼の綾女を継いだ女と名高い者だ、期待しているぞ」

 

石段を登りながら去っていく女が被った貴族風の三角帽子には百合の飾りが備わっている。

 

百合の花言葉は純粋であり、ヤタガラスに絶対の忠誠を尽くす彼女の在り方を示す。

 

彼女にとって百合の花は七生報国と同じく国家に絶対の忠誠を尽くす純粋さであった。

 

「アァ…サマナーさんが死んでしまったでありんす!わちきも殺される…早く逃げないと!」

 

慌てながらザイオンの空を飛んでいくのは人面鳥の姿である。

 

【オシチ】

 

八百屋お七と呼ばれる江戸時代の女であり、恋人に会いたい一心で放火事件を起こして死ぬ。

 

江戸時代の浮世草子である好色五人女で取り上げられたことで有名になった幽鬼である。

 

顔は少女、身体は鶏になったとされる妖怪として知られる存在であった。

 

「だけどサマナーさんがいないのならわちきだって…だけど情報だけは届けるでありんす!」

 

江戸時代の遊女のような髪型をした人面鳥はMAG供給が途絶えても懸命に逃げてくれる。

 

そのためにスパイのサマナーは悪魔を召喚せずに戦い、囮となって死んでくれたのだろう。

 

オシチが向かうのは神浜に昇れるエレベーターではなく、物資搬入ステーション方面。

 

鉄道貨物輸送が行われている列車の上に飛び移り、そのままトンネルの奥へと消えていく。

 

神浜とは違う地域で地上に出られたオシチは力の限り葛葉一族の里へと飛んでいった。

 

────────────────────────────────

 

「ついにヤタガラスを追い詰めたわね、ミスターライドウ?ザイオンに逃げ込んでたとはね…」

 

「それを見つけ出してくれたサマナーと…命を懸けて里に情報を届けたオシチに感謝しよう…」

 

葛葉ライドウとゴウトが訪れているのは神浜市の郊外である隣接した都市、宝崎市。

 

ここに訪れた理由とはヤタガラスに恨みをもつレイ・レイホゥとナオミのためのようだ。

 

キョウジとは未だ険悪なため職場には向かわず、ナオミ達に連絡を行い移動してもらっている。

 

集まった場所とは宝崎市にあるという夜景スポットであり、それぞれの車で訪れていた。

 

「払った代償は大きかったが、ヤタガラスの居所を突き止められた…しかし…」

 

「どうしたのよ、ゴウト?」

 

「ザイオンに逃げ込んだヤタガラス共は密かに他の退魔師一族を集めて戦力を固めているのだ」

 

「そ、その規模はどれ程のものなの…?」

 

「……ヤタガラスに所属する退魔師一族の総力規模だと言えば、事態を飲み込めるか?」

 

そう伝えられた女性達の顔が青くなり、行けば殺されると理解してくれる。

 

「ヤタガラスに反旗を翻したのは葛葉一族と僅かな退魔師達のみ…あまりにも戦力さがある…」

 

「なるほど…だから私達の元に訪れに来たというわけね?」

 

「うぬ達を頼りにするのは心苦しい…うぬ達にだって新たな生活があるというのに…」

 

「そうね…私も新しい生活を始めているわ。今はミスターキョウジの事務所で働いているのよ」

 

「ナオミと一緒に働ける日がくるなんて…夢のようよ。今はそれなりに…幸せに暮らしてるわ」

 

「…ゴウト、やはり彼女達に頼るわけにはいかない。ここは我々だけで戦うべきだろう」

 

夜景スポットにあるベンチ席を立ちあがるライドウであるが、マントの裾を掴まれる。

 

掴んできたのはレイであり、首を横に振りながら彼女達の覚悟を伝えてくれるのだろう。

 

「連中が戦力を固める狙いを考えるなら…恐らくはザイオン都市の制圧でしょうね」

 

「我が家の家宝を砕かれたことで連中は切り札を失っている…強硬手段になるでしょう」

 

「それは承知している…それでも我らは戦わなければならん…自由を貫くためにな」

 

「自由を貫きたいのは私だって同じよ。私の自由を奪ったヤタガラスを許すつもりはないの」

 

「私の老師達を殺させる命令を下した連中が生きている限り…私の復讐は終わらないわ」

 

「それで良いのか…?うぬ達が我ら側に参加してくれるのは嬉しいが…キョウジはどうする?」

 

「あいつは金にならない話だとバッサリ切り捨てる奴だからねぇ…期待しない方がいいよ」

 

「そうね…強欲なマリーがこっちに戻ってきたようだし、金欠生活になっちゃうんでしょ?」

 

「あの糞ババアは仕事料の大部分をピンハネしちゃうし…外国で消えてくれた方が良かったわ」

 

「本当にいいのか…?金儲けの戦いにはならないんだぞ…?」

 

「これは金勘定で考える問題じゃないの、私達の人生の汚点を清算するための戦いなのよ」

 

微笑んでくれるレイとナオミの覚悟を受け取ってくれたライドウとゴウトが頷いてくれる。

 

連絡をくれたらいつでも動けるよう準備をしておくと伝えた彼女達が車に乗り込み去っていく。

 

残されたライドウ達であったが、彼は再びベンチ席に座り込む。

 

遠くに見えるのは自然と都市が一体化した摩天楼のような宝崎市の光景である。

 

古めかしさの中に先進的な部分を覗かせる都市の景色を見ていると大正の帝都を思い出すのだ。

 

「ここで死ぬわけにはいかない…自分は大正時代の帝都の守護者…まだやるべき役目がある」

 

「その通りだな。うぬの帰りを待っているだろう鳴海やタヱ、うぬの後輩の女もいるのだから」

 

「後輩がいるのは知らなかったな…その子とも出会ってみたい。だからこそ生き残りたいんだ」

 

「鳴海で思い出した。うぬは大国村で受け取った手紙があるだろう?もう読んだのか?」

 

「いや…まだ読む勇気が持てない。まさか戦後の鳴海さんが大国村に移り住んでたとはな…」

 

「派手な人生を好む奴が世捨て人達が開墾した集落に移り住むぐらいだ…余程の内容なのだな」

 

「そんな鳴海さんが残してくれた手紙なんだ…大正時代の自分が読んでいいのか…迷う…」

 

「…読んでやれ。戦後の日本を見つめてきた鳴海だからこそ…うぬのために残した手紙なんだ」

 

迷いの表情を浮かべていたが決断したのかポケットから手紙を取り出す。

 

大国村で渡されたのは生涯独身を貫いた末に死んだ鳴海と懇意に接した一家に託された手紙。

 

手紙を広げて読んでいくライドウの顔には驚愕する程の内容が記されていたのであった。

 

────────────────────────────────

 

昭和の時代の頃、まだ集落規模しかない大国村での生涯を終えようとする鳴海がいる。

 

大正時代の頃の彼の姿は何処にもいない、死期が近い老人が蝋燭の明かりの前にいるのだ。

 

鉛筆で手紙を書きながらも老人となった鳴海の頭に浮かぶのは輝いていた頃の記憶である。

 

「ライドウ…お前と一緒に帝都を走り回ってた頃が懐かしいよ。お前といると希望が持てた」

 

大正時代からの癖なのか未だに右書きで手紙を綴る鳴海であるが、苦悶の表情となっていく。

 

「お前と過ごせた時代から11年後に大戦が始まり…敗戦してからの日本は地獄になった…」

 

思い出すのは戦後間もない光景であり、GHQの傀儡に成り果て、植民地と変わらない国の光景。

 

「国もヤタガラスも米国ユダヤ財閥の奴隷に成り果てた…俺はなんで生き残っちまったんだ…」

 

日本とヤタガラスに絶望した鳴海はヤタガラスを抜け、放浪の旅に出る。

 

その中で大国村に流れ着き、命の限り村を育てる尽力をしてくれた貢献者なのだろう。

 

「日本人の主権なんて最初からなかったんだ…俺はそれを…帝国陸軍情報部にいた頃に知った」

 

あれは鳴海がまだ二十代だった頃、情報部の軍人として秘密任務を受けることになる。

 

任務内容とは明治から日本を支配してきた偽日本人、長州閥の秘密を暴露したい活動家の暗殺。

 

活動家の家に踏み込んで銃殺し終えた時、若き頃の鳴海は活動家が残した秘密に触れたのだ。

 

「徳川幕府の支配を終わらせるなんて嘘っぱちの維新だった…欧米がでっち上げた偽の歴史だ」

 

手紙に記していく内容とは常盤ななかが古町みくらに語った内容と同じもの。

 

若き頃の鳴海もみくらと同じく信じようとしなかったが、暗殺任務のせいで信憑性を与える。

 

「口封じしなければならない程の秘密だと気が付いた時…俺は自分の国を信じられなくなった」

 

陸軍に入隊して日の本の未来を守るんだと血気盛んだった頃の鳴海は自分を道化に感じていく。

 

ガムシャラに努力したのは長州閥という朝鮮マフィアを守るためじゃない、日本人を守るため。

 

それなのに朝鮮マフィアを動かす欧米の駒にされていたのだと気が付いた時、鳴海は泣き叫ぶ。

 

「あの時の絶望は今でも昨日の事のように思い出せる…天皇陛下ですら偽物だったんだぞ…」

 

天皇陛下のために戦うのが帝国軍人の誇りであったのに、守ろうとしたのは偽日本人。

 

それに気が付いた鳴海は陸軍情報部を捨てる程の絶望を経験させられたのだろう。

 

「己の道を信じて走り続けてきたのに…裏切られた。ライドウ…きっとお前も経験するさ…」

 

信じた人生の道をガムシャラに走り続けた男の努力は無駄となり、彼は腐り果てていく。

 

酒と煙草とギャンブルに溺れ、私立探偵事業を始めても浪費癖が止まらない。

 

そんな彼を拾ったのが大正時代のヤタガラスであり、彼はとある人物の保護者を務めるのだ。

 

「そんな頃に俺達は出会ったんだ…ライドウ。パッションを失った俺にとっては眩しかったよ」

 

背負っているものは違っても、ガムシャラに生きる若者の姿がかつての自分と重なっていく。

 

そんな若者と接するうちに自分の中にもパッションが蘇ってきたのだろう。

 

「色々な事件を経験し…お前が俺の元を去る日が来ても…お前はきっと…真っ直ぐだったろ?」

 

別々の道を歩むことになり、彼から学んだ希望を信じて生きようとする。

 

それでも現実はあまりにも残酷であり、ライドウの力を持ってしても日本は地獄となったのだ。

 

「様々な思惑、人知を超えた国家の動き、そんな中では1人の人間なんて…ちっぽけだったな」

 

人間のちっぽけさに再び絶望した男は大国村に辿り着く。

 

ここを人生の墓場とし、絶望に沈むばかりの日本など忘れて自立した理想郷を作ろうとする。

 

それでも頭の中から離れないのは若かりし頃に知った絶望的真実と外国人共の脅威。

 

その苦しみを拭いきれない時、答えを教えてくれる国津神達が鳴海の元に現れたのだ。

 

「ライドウ…俺達の世界はな…本当に悪魔共から金融支配されてる…数千年間もの間ずっとな」

 

カナン族、フェニキア人、ヴェニスの商人、黒の貴族、秘密結社、金融、資本主義や共産主義。

 

全てが線で繋がるものであり、これこそが日本に現れた侵略軍である黒船となるのだと知る。

 

「俺達を異教徒と差別し…平気で命と財産を搾取してくる悪魔に…人生を秘密裏に殺される…」

 

手紙を書く手が止まり、無念のあまり大粒の涙が手紙に零れ落ちていく。

 

「ライドウ…俺達の人生は…悪魔の供物じゃないよな?子供達は生贄なんかじゃないよな…?」

 

紀元前1200年以降、カナン人の名があらゆる歴史記録から突然消える。

 

彼らは悪事をやり過ぎたために民族看板を変えたかったため、フェニキア人と名乗り出す。

 

チャンバーズ百科事典にはそう記されているのだ。

 

外見は無害な商人となり、古代世界で珍重された紫色の顔料を独占した商人となっていく。

 

ギリシャ語で紫を表すフェニシアに由来するフェニキア人となっていくのだ。

 

このため黒の貴族達にとって紫とはフェニキア繁栄の象徴であり、悪魔ほむらの魔力色も紫。

 

彼女が黒の貴族達から好まれたのもこの歴史繁栄があったからだろう。

 

「民族名を変えようが連中の本質は邪悪…バアルとその妻の崇拝を捨てるなんてなかった…」

 

狂宴の最凶形態である人肉嗜食、アシュトレト神殿の生贄儀式としてモロクに捧げられる子供。

 

現在のシリアに残るバアル神殿の残骸こそ神官達の性的儀式、売春巣窟としての腐敗の痕跡。

 

「奴らはポエニ戦争の敗北でローマを憎悪し…ローマ・カトリックを憎悪し…貶めたんだ…」

 

カナン人の悪行を書き続けようとしたが、資源が乏しい集落では手紙だって貴重品。

 

これ以上紙を無駄にすることも出来ず、鳴海は最後にライドウのためにこんな言葉を残す。

 

「ライドウ…お前もデビルサマナーだ…それでもバアルとその妻だけは許すな…必ず殺せ…」

 

――あの邪神共だけは…デビルサマナーであっても許してはならない…本物の悪の象徴だ。

 

手紙を書き終えた鳴海は封筒に仕舞った後、懇意にしてくれた一家の元に訪れて手紙を渡す。

 

いつか大国村に葛葉ライドウを名乗る者が現れたら渡して欲しいと土下座しながら頼み込む。

 

彼の思いを受け止めてくれた一家は代々この手紙を預かり、そしてようやく渡せたのであった。

 

────────────────────────────────

 

「鳴海……さん……」

 

年老いた鳴海の思いが届いたのか、手紙を持つライドウの体が震えている。

 

ゴウトにも聞こえるよう手紙内容を言葉に出したため、ゴウトの体も震えているようだ。

 

「鳴海よ…うぬもまた地獄の時代を彷徨った果てに…再び絶望する最後を迎えていたか…」

 

「これが…鳴海さんが背負っていた苦しみだったのか…大正時代でさえ語らなかった絶望か…」

 

「我々は本当に…狭い世界でしか…日の本や世界の歴史を認識してなかったようだな…」

 

情報は全て御上が用意するものであり、ライドウでさえ様々な歴史に自分から触れなかった者。

 

探偵として様々な諸学に興味を示してこれなかったことが恥ずかしくて堪らないのだろう。

 

「バアルやアナト…起源であるマルドゥクやイナンナを崇拝する民族が世界を制したのか…」

 

「バアルこそが聖書においてはサタンだ…ルシファーのような新参者ではない、本物の魔王だ」

 

「イスラエル崩壊の原因こそバアル崇拝をもたらしたカナン族…これが世界の呪いの根幹か…」

 

「ヤタガラスを築いた秦氏にとっても怨敵なのだ…カナン族のせいでイスラエルを失っている」

 

「ヤタガラスよ…我々は敵同士として殺し合うしかないのか…?憎む敵はカナンとバアルだ!」

 

「それがどうしたというのだ?」

 

意外な人物の声がしたので驚いたライドウが即座に立ち上がって振り向く。

 

オボログルマを停車させている横では自分の車にもたれかかったまま煙草を吸う者がいる。

 

吸っていた煙草を指で弾いて顔を向けてくる男とはライドウの宿敵である葛葉キョウジである。

 

「敵に情けをかけているようでは貴様もあの世行きだ。私情は交えず敵は殺せ」

 

「……どうして自分がここにいると分かった?」

 

「この前レイからGPSシールを張り付けられてたからな…仕返しに俺も張り付けてあったのさ」

 

「レイ達を尾行しておったか…いつからそこにいたのだ?」

 

「貴様らが手紙に夢中になってた頃からさ。俺が暗殺者だったなら…今頃死んでいたぞ?」

 

「うぬが不意打ちを仕掛けてこないのなら…何か他の用事があって現れたと考えるべきか…?」

 

七星剣を収めた木箱を背負いながらキョウジが近寄ってくるため、マント内の刀の柄を掴む。

 

しかしキョウジは仕掛けてくる気配もなく、ライドウの横に立ったまま宝崎市を見つめるのみ。

 

「初代の無念を晴らしたい気持ちもある…それでもな、現代を生きる俺にだって生活がある」

 

「ナオミという新人を迎えた新体制で探偵事務所を切り盛りする…それが今の望みなのか?」

 

「全てにカタをつけなければ俺の生活は脅かされたままだ…ならば敵は選ばせてもらおう」

 

「ならばうぬもレイやナオミと同じく…ヤタガラスを殲滅する手助けを申し出るというのか?」

 

「勘違いするなよ?俺は葛葉一族の未来を守りたいわけじゃない、俺の未来を守りたいんだ」

 

「うぬらしからぬ言葉だな…人を人とも思わぬうぬにしては珍しい…」

 

「俺は誰の為にも戦わない、自分のために戦うのみ。先ずは秘密結社の殲滅…次は貴様だ」

 

敵意は無いと判断したライドウが刀から手を放した後、口を開きだす。

 

「キョウジ…お前はこれからどう生きる?バアルに支配された金融世界で…希望を感じるか?」

 

「希望だと?希望など何処にもない。ないのなら…自分の手で作っていくしかあるまい」

 

「自分の手で…作っていく…?」

 

「人生と同じさ。道がないなら切り拓け、希望のために誰かが道を作ってくれると思うなよ」

 

――出来ないのは力が足りないからじゃない、()()()()()()()()()()

 

キョウジの言葉を聞いたライドウは心を打たれたのか目が見開いていく。

 

「何も守れず、立ち上がりもせず、誰かに縋るだけの非力な自分など…真っ先に殺してしまえ」

 

「それもまた…個の確立か……」

 

「殺戮者になろうが恐れるな。ああすればこう言われる…それを心配しながら人は死んでいく」

 

他人の評価を恐れて群衆生物になり、家畜として全体の一部になりながら死ぬまで誘導される。

 

こんなくだらない感情のせいで、どれだけの人々がやりたい事も出来ずに死ぬのかを問われる。

 

()()()()()()()()()()()()。人間の誇りも尊厳も…国際金融資本家共にくれてやればいい」

 

「たとえ出過ぎた杭として社会から呪われようと…自分の信じた道を行くために戦う覚悟…」

 

「それこそが執念だ。資本主義では生きるだけが目的にされる…だからこそ俺は反逆するさ」

 

人の真価が分かるのは喜びに包まれている瞬間ではない。

 

試練や論争に立ち向かう時に示す態度である。

 

キング牧師が残した言葉とは個の確立であり、権威主義や全体主義に流されない覚悟。

 

他人にどう思われるかを心配している限り、あなたの心は他人のもの。

 

擦れた人生を生きてきた雪野かなえのように、喧嘩上等精神である反骨心が必要なのだ。

 

「フッ…天から貰ったこの命、咲かせて見せよう。我、信じるもの守るため、鬼にでもなろう」

 

微笑んでくれたライドウの覚悟を受け取った男がスーツの内ポケットから何かを取り出す。

 

投げ渡されたケースの中に入っていたのはキョウジが作成した蟲毒の丸薬である。

 

「貴様が吐いた言葉に覚悟があるのなら…それを使え。蟲毒の丸薬が貴様を強くする」

 

「蟲毒の丸薬だとぉ!?ライドウ…それは危険な丸薬だ!後戻り出来なくなるぞ!!」

 

「構わない。後戻りという退路を探すから逃げてしまう…ならば退路など自分はいらない」

 

「その意気だ。正々堂々が通用しない時は邪道を使え…上手くいかない時こそ逆転させろ」

 

「それもまた陰陽だな…いいだろう。偏った道ばかりが全てではない…尚紀のようになろう」

 

「魔法少女連中だって邪道を選ぶ者ばかりだ。もっとも、それを正当化する屑揃いだけどな…」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ならば自分は…言い訳などせん」

 

暁美ほむらもまた鹿目まどかを救う為と称してあらゆる犯罪行為に手を染めている。

 

それでも彼女はそれが罪だと自覚しており、それを背負うと語れる覚悟がある者だった。

 

ならばライドウもまた邪道を選び、それを罪だと認められる覚悟をほむらと同じく示すのだ。

 

ライドウの覚悟を受け取ったキョウジは踵を返して車に戻り、その場を去っていく。

 

心配するゴウトに顔を向けることもなく、ライドウは夕日に染まる宝崎市を見つめるのみ。

 

「大きな嵐がくるな…それでも自分は突き進む。執念をもって…希望を切り拓くさ」

 

天から貰ったこの命、咲かせて見せます我が人生。

 

信じるもの貫き通し、鬼神になって見せようぞ。

 

それこそが14代目葛葉ライドウの新たな道。

 

その在り方こそ人修羅と同じ高みに昇れる程の誇り高き精神であった。

 




るろうに剣心は名言が多いんですよね。
志々雄さんの「強くならなければ一生惨めなままだ」とか、斎藤一の「生きるだけなら家畜も同然、誇りも尊厳も必要ない」とか。
惨めな環境に置かれても現状に甘んじ、自分の正当な権利を主張しない者を弱者といい、戦って負けた者は弱者とは言わないんでしょうな。
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