人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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340話 アリナと千晶の道

ヨハネ黙示録における獣とは三体いると言われている。

 

それぞれが聖なる三位一体と対になる邪悪な三位一体と呼ばれる存在達なのだ。

 

第一の獣は海の中から現れ、十の角と七つの頭、燃えるような真紅の緋色の体をもつ。

 

大淫婦バビロンに支配され、赤い竜から力と王座と権威となる鉄の杖を与えられる。

 

これらを表す存在こそが新たなサタン、新たなエンキと呼ばれる人修羅なのだろう。

 

では第二の獣とは何か?

 

地中から現れる子羊に似た二本の角を持ち、竜のように話す獣。

 

第一の獣が持っていた全ての権力をその獣の前でふるい、第一の獣を崇拝させる存在だ。

 

本来なら悪魔ほむらが第二の獣として期待されていたが、彼女はリリスの道を行く。

 

第二の獣の道を進んだ者こそイナンナ化したアリナであり、彼女も二本角が備わっているのだ。

 

イナンナ神話には興味深い内容があり、それこそがエンキの権威を持ち逃げして利用した神話。

 

ウルクのエアンナ神殿の女神イナンナにまつわる神話によれば、エンキはイナンナに騙される。

 

エンキが饗宴のもてなしを受け、酔っぱらったエンキはイナンナを誘惑しようとする。

 

エンキは水と生殖を司る存在であるにも関わらず近親相姦を好むダメな部分もあるのだろう。

 

イナンナにビールをすすめて誘惑したが、彼女は断り純潔を守っている。

 

エンキは酔っぱらったまま勢いに任せて文明生活の恵みである()()を全て渡してしまうのだ。

 

神々の基本的な社会的慣行、宗教的習慣、技術、行動規範、文明を形成する知恵がメーである。

 

人間と神の契約、法を理解する基本であり、最高神エンリルが兄弟神エンキに任せていたもの。

 

それを渡すなど言語道断であったのだが、イナンナはエンキを利用してしまう。

 

目が覚めたらイナンナにメーを奪われていたと気づいたエンキは取り乱しながら追手を放つ。

 

しかしイナンナに追跡を振り切られてしまったため、観念したエンキはウルクと講和するのだ。

 

政治的権威がエンキの都市エリドゥからイナンナの都市ウルクに移行するという神話である。

 

権力が移り変わることを表しており、イナンナが天の女主人となれたのは最高神の権威のお陰。

 

その神話こそ黙示録の第二の獣が第一の獣が所有する全ての権力を行使する内容と酷似した。

 

……………。

 

「ワクチンのブースト接種も滞りなくワールドで行われていく…プロジェクト通りだヨネ」

 

「マ…い、いえ!魔丞様の命を受けているトール殿の指揮の元、滞りなく進んでますな」

 

クリフォト領域であるアディシェスにそびえる城の執務室で報告に目を通すのは城主の姿。

 

アリナはニューヨークからクリフォトに引っ越ししており、このクリフォトが今の住処。

 

ホログラム映像で表示される報告内容に対して片手を振り、映像を消してしまう。

 

「愚民はほんとフールだヨネ。ワクチンの危険性なら2010年代で分かる機会があったのに」

 

人類をウイルスで間引き、不妊化させて人口抑制を推進する。

 

カリフォルニア州で開催されたTED2010会議においてアルゴンソフト社代表はそう語る。

 

ワクチンや医療、生殖の技術を駆使して劣等人種(ゴイム)が勝手に増えないようにしていく。

 

女性は中絶の促進と不妊化、男性は生殖機能を落とすという複合的な方法を用いる。

 

これにより10億人以上の地球人口を間引くことが出来ると門倉はプレゼンしているのだ。

 

「3回目の接種でジ・エンドだカラ。その後にボディの検査に行ったら…きっと驚くヨネ♪」

 

「自己免疫疾患によって知らぬ間に重病を患っていると知れば…自分の無知に絶望しますな」

 

「権威主義者は何でも鵜呑みにするアホウドリな上で、それを周りにまで強制する連中だカラ」

 

「そして指摘する反ワクチン派に問題をすり替える…何でも鵜呑みにするのはお前の方だとね」

 

「ムカつくヨネ…問題の擦り付けばかりしてくる奴。アリナもスクール時代…同じことされた」

 

「堕落ばかり求める連中の堕落を指摘した時、頭のおかしい奴だと馬鹿にされたはずです…」

 

「イグザクトリー…マッドアーティストがマッドな事を言い出したと盛大に馬鹿にされたカラ」

 

「いつもの事です…相手の劣等性を指摘すれば自身の正しさの担保に出来る。卑劣な光景です」

 

「論点のすり替えばかり使うヨネ…相手の問題を指摘する時にアリナの問題にすり替えるカラ」

 

「これを防ぐには議長となる第三者を用意し、指摘内容を相手に受け止めさせる強制力がいる」

 

「議会制が何故生まれたのか分かるんですケド…ルールがないと話し合いは成立しない…」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それが愚民の愚かさなのですよ」

 

アリナがボールを投げても相手はボールを受け止めず、自分だけのボールを投げつけてくる。

 

周りの者達も勝手なボールを投げつけ、キャッチボールがしたかったアリナは痛めつけられる。

 

それこそが学生時代に浴びせられたアリナの虐めの光景であり、多数決とは虐めそのもの。

 

これはSNSでも同じであり、どんな指摘や追及も強制力がないため相手はすり替えてくるのだ。

 

屈辱に苦しむアリナの気持ちは融合した千晶も理解しており、同じ苦しみを経験している。

 

ストイックに生きる者達だけが虐められる社会こそ、日本の同調圧力社会であった。

 

「アリナはね…そんなクズ共なんて滅びればいいと思うワケ。だからアリナはここにいる」

 

「ワクチン推進任務を閣下から引き受けた理由とは…復讐でもあったのですね?」

 

「安らぎばかり求める堕落した劣等種共なんて、アリナが全員屠畜場に導いてあげるカラ」

 

旧フランス領アルジェリア出身のユダヤ系フランス人経済学者はこんな言葉を残している。

 

将来的には人口削減の方法を見つけることが課題になってくるだろう。

 

これが自身の為なんだと信じ込ませ、上手に間引いていく。

 

そのために何らかの事象を起こす、パンデミック、経済崩壊、ウイルスを撒くなどなど…。

 

事件を起こして弱い者、恐れる者はこれに屈服するだろう。

 

愚か者はこの偽事件を信じ込み、何とかしてくれと嘆願する、そこで我々の出番だ。

 

これが治療法だと救いの手を差し伸べ、こうして愚か者の自然淘汰が行われる。

 

ワクチン接種会場(屠畜場)に自ら進んで向かうようなものである。

 

「ウイルスなんてどんどん作れるんだヨネ。今ではもう2週間もかからないカラ」

 

「PCのセキュリティソフトを売るならソフト会社がウイルスをばら撒く。マッチポンプですよ」

 

「権威主義者はマッチポンプを疑わない。恐怖を煽る奴らは金儲けがしたいだけだと疑わない」

 

「だからこそ我らの計画は愚民が完成させてくれる。愚民が自滅する光景を楽しみましょう」

 

「その為にアリナは()()()()を与えるカラ。ワクチン接種証明の皮下移植を義務付けさせる」

 

ワクチン接種証明については既に皮下移植するマイクロチップ型証明証が開発されている。

 

これによりスマホアプリを用いて誰が反ワクチン派なのかが直ぐに分かる地獄の社会と化す。

 

「ワールドは衛生至上主義による独裁法を生み、従わない者はあらゆるものが利用出来ない」

 

紙幣は汚染と恐怖を煽り、キャッシュレス社会を促進させ、ワクチン接種者しか利用させない。

 

獣の刻印を体に刻まなければ社会の異分子とみなされ、移動や行動の自由が制限される。

 

売る事も買う事も出来なくなり、キャッシュレス化すれば反乱分子の電子決済は止められる。

 

「賢しい魔法少女達がいたところで、これだけの布陣を敷けば誰もが屈服してワクチンを打つ」

 

「人々は距離を取り、互いに話す事も禁止され、アクリル板やマスクで隔てられ、屠畜される」

 

「刻印を打つ事に賛同しない魔法少女達は犯罪者とされるカラ。何処まで抗えるか見物だヨネ」

 

秘書官を務めさせているアティスを下がらせたアリナは執務室の奥の扉からバルコニーに出る。

 

本来はアスタロトが司るクリフォトを勝手に改竄したその景色にはアリナの美が詰まっている。

 

彼女にとっては理想の美術館であるのだが、心には無感動しか湧き起らない。

 

その原因はクリエイトした芸術の良さを共に共有出来る親友がいないから。

 

「御園かりん…アナタはアナタのマイウェイを進めばいい…だけど…アナタに先なんてない」

 

大魔王のプロジェクトを遂行していけば大好きな後輩の未来だって壊してしまう。

 

それが分かる彼女だからこそ、力のヨスガの代表になりながらも心に弱さが生まれていく。

 

「分かってる…感傷は弱さだって。それでもね…アナタが望むなら…アリナは…アリナは……」

 

妥協しない道を後輩に望ませたくせに、その道を妥協させる矛盾を後輩に求めたい本音がある。

 

神であり悪魔となったアリナもまた矛盾を抱え込む存在であり、人修羅と同じく苦しんでいく。

 

「何かを選んだ時…片方で得られた恩恵を失う。失う事は悲しくても決断こそがロードだカラ」

 

踵を返すアリナは無感動な景色など見る価値もないとばかりに城に戻っていく。

 

この領域こそ無感動を司るクリフォトであり、今のアリナの心象風景に成り果てているようだ。

 

それでもアリナは決断した道を行く者であり、かりんを失っても迷うことなく自立を貫く。

 

それこそが天の女主人であるイナンナの在り方なのだと彼女は自分に鞭を打つのだろう。

 

今の彼女こそ第二のマスターテリオンとして生きる女神、イナンナである。

 

彼女は人修羅、ルシファー、モロクを表す数字を劣等種と差別する者達に刻む者。

 

小さい者にも大きい者にも、富んでいる者にも貧しい者にも、自由人にも奴隷にも刻み込む。

 

全ての人々にその額かその右手に刻印を刻む者となるだろう。

 

獣の名、またはその名の数字を持っている者以外は買う事も売る事も出来ないようにする。

 

ここに知恵がある、思慮ある者はその獣の数字を教えなさい。

 

その数字は人間をさし、その数字は666である。

 

これこそがヨハネの黙示録に記された内容であり、21世紀の未来を表す内容であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「かりんの奴…学校以外は外出しないようになっちまったホ…」

 

「無理もないぜ…人間を守るマジカルかりんが人間に襲われたんだ…人間不信になってくさ…」

 

混沌極まる神浜市で暮らす御園かりんのお供達は部屋の中に引き籠った主人を心配してくれる。

 

「怖いの…みんな怖いの…人間も魔法少女も変わらない…みんなが…わたしを襲ってくるの…」

 

学校から戻れば部屋の隅で三角座りしながら震えるばかりのかりんがいる。

 

その光景は彼女だけでなく神浜の魔法少女にも広がっており、気の弱い者達は部屋に引き籠る。

 

世の中が怖くなり、不安と恐怖と怒りに支配された愚民の同調圧力に怯えるばかりなのだ。

 

「こんなんじゃ大好きな漫画も描けない…わたしが信じる世の中は…こんな地獄じゃないの…」

 

すすり泣く音が扉の奥から聞こえてくるため、ランタンとリパーは顔を向け合って項垂れる。

 

そんな時、玄関からチャイムが鳴ったことで一階で暮らすかりんの家族が玄関に行くのだ。

 

<<かりんちゃん!ちょっと来ておくれ!!>>

 

「おばあちゃん……?」

 

祖母から呼ばれたことで部屋から出てきたかりんが玄関に行ってみる。

 

「誰もいないみたいなの……」

 

「悪戯だったのかしら…?物騒な世の中になったし…かりんちゃんも気をつけるんだよ」

 

「う…うん……」

 

ピンポンダッシュだと判断した祖母が部屋に戻っていくのだが、かりんは気が付いている。

 

「……そこに隠れている悪魔は出てくるの」

 

左手にソウルジェムを生み出したかりんの背後には心配してついてきた仲魔達がいる。

 

悪魔の魔力が分かるようにしていたのは彼女を外に連れ出すためだったようだ。

 

「……こっちに来るのだ」

 

塀に備わる門の外側から手招きしてくるのはオレンジ色のヒトデのような手。

 

「そっちが来るの!」

 

「ここでは目立つ!人気のない場所まで付いて来るのだ!」

 

手を引っ込めた存在がダッシュ移動したため、かりん達も門を開けて外に飛び出す。

 

キョロキョロ見回すと遠くの曲がり角でも手を振ってくるため、彼女達は追撃していく。

 

招かれたのは人気のない路地裏であり、その姿を目にしたかりん達の目が点になる。

 

「こ…この宙に浮いた大きなヒトデさんも……悪魔なの?」

 

「ヒトデではない!我が名はデカラビア!堕天使様なのである!」

 

「ソロモン王が使役したっていう…あの堕天使なの!?我を倒して名を上げに来た刺客だな!」

 

正義のヒロインとしての血が騒いだのか、マジカルかりん姿になりながら大鎌を構える。

 

「ばっかもーん!我の姿を見てみろ!刺客のような見た目をしておるか!?」

 

見ればデカラビアは何かを背負うように背中に括り付けており、とんがり頭にも帽子を被る。

 

「う~ん…とんがり頭が帽子を突き破ったまま被ってる…変な堕天使さんなの…」

 

「変な堕天使なのは間違いないホ。このデカラビアはな、堕天使の中でも変人だと名高いホ」

 

「この全身五芒星野郎!オレ様達は気が立ってるんだ…要件なら手短に済ませて消えやがれ!」

 

「言われんでもそうするわ!くそっ…なんで我がアリナの使いっぱしりをせにゃならん…」

 

「えっ……?ア、アリナ先輩の仲魔なの!?アリナ先輩は何処!?何処なの!!」

 

「アリナはここにはいない。我はこれを渡してこいと言われただけなのだ…」

 

ヒトデボディに括り付けてあった風呂敷を解き、背中に背負っていた大きな品を下ろす。

 

確認しろと言われたことでかりんが地面に置かれた品を持ち上げ、包みを解く。

 

「こ……これってもしかして……」

 

「……アリナが描いておった絵画であろう。それを渡せと我は言われただけなのだ」

 

かりんの隣に集まったランタンとリパーもアリナの絵を見つめた時、息を飲みこむ。

 

「な…なぁ…アリナって…こんなまともな絵を描く奴だったっけ…?」

 

「違うと思うホ…アリナが描くアートは必ず死と再生から生まれるって聞いたんだけど…」

 

「きれいなの……」

 

描かれていたのは大きなアンティーク鳥籠の世界から飛び出す美しき鳥と舟の絵画である。

 

鳥籠の持ち手部分にはテレビモニターが描かれ、檻の鍵穴はスマホで表現されているようだ。

 

白い光を放ちながら飛び立つ鳥と舟が空に求めている存在こそ、円環を描く知恵の光。

 

それはサタンを表す土星のリングであり、エンキの王権である()()()()()()()でもある。

 

円環は王冠として被ったり、光輝として身に纏ったり、玉座として座ることも出来る宝珠。

 

メーが舟で運ばれる逸話も現実の舟ではなく、太陽や月や星の天体が舟で運ばれる意味をもつ。

 

「その鳥籠の意味はきっと…デジタルゲリマンダーを表す表現なのであろうな」

 

「デジタルゲリマンダー…?」

 

「SNS利用者は知らぬ間に自分好みの偏見世界で閉じこもり、他の意見に敵意を向ける現象だ」

 

自分が所属するクラスタと触れ合う事が殆どになり、反対意見を持つクラスタと触れ合わない。

 

意見が似てるので意見はより極端に、より相互理解が困難になっていく。

 

好みの情報源と人々だけを相手する偏見状態となり、他の情報はシャットアウトされる。

 

「現代は情報源の選択肢が膨大だ。必然的にメディアは選択しなければならないのだ」

 

「メディアを選択…?わたしは飯時にテレビをつけたり…SNSで漫画仲間と繋がったりとか…」

 

「それが既に偏見状態なのだ。知らぬ間に自分好みの偏向情報に流され、他の情報が入らない」

 

そうなればバイアスがかかった情報しか知れず、社会的分断しか起こり得なくなっていく。

 

同じ意見を持つ者達によるSNSや友達付き合いで意見を表明したら賛成という反響が返る。

 

エコーチェンバーによるフィードバックによって偏見的意見が増幅・強化されてしまう。

 

極端で過激な偏りとなった意見になっていき、社会的分断が加速する。

 

極端な意見同士では議論は成り立たずに罵り合いとなり、対立や闘争をもたらしてしまうのだ。

 

「これってよぉ…今の神浜魔法少女社会やパンデミック社会の対立現象と合致するよな…」

 

「公式の一次情報を自分なりに検証せず、御上や専門家任せな連中ばかりであろう?」

 

「価値観が合う連中しか相手しないから…自分に合った情報しか集まらない蛸壺化だホ…」

 

「アリナ先輩は…今の世界で巻き起こっている争いの原因を伝えようとしてくれたの…?」

 

エコーチェンバー、フィルターバブルの中で閉じこもる連中を襲うのがフェイクニュース。

 

蛸壺内では自分の意見に沿っているのなら、フェイクニュースも事実だと信じ込む。

 

その際にSNSで使われるいいね!などの支持表明が起きても連中は検証をした者達ではない。

 

「メディアが多様化した事によって視野狭窄、集団浅慮が起きやすい。それを伝えたいのだ」

 

「じゃあ…この絵に描かれている鳥と舟は…偏見世界から脱出して飛び立てと言いたいの…?」

 

「鳥と舟が求める先には知恵を司る円環が描かれている…知恵がなければ檻からは出られんぞ」

 

「わたしの為に自由な鳥になれって言ってくれるんだね……アリナ先輩は……」

 

「もしかしたら…アリナの後輩という立場に縛られる必要はもうないという意味もあるやもな」

 

知恵を司る存在こそが金星や土星である光明であり、ルシファーやサタン、イナンナを表す。

 

「これこそがイナンナという女神となったアリナが後輩に送る作品…タイトルは()()()()()だ」

 

アリナのテーマを曲げてまで後輩のために描いてくれた絵画を持つかりんの体が震えていく。

 

「これを描いたのはアリナ先輩で間違いないの…だって先輩はわたしに自立しろと言ったの…」

 

大好きな先輩に会いたい気持ちが爆発したのか目の辺りから涙が零れていく。

 

「先輩……アリナ先輩……うわぁぁぁぁぁぁぁ~~~……ッッ!!!」

 

両膝が崩れたまま絵画を抱きしめるかりんを見つめる仲魔達の顔が俯いてしまう。

 

用事は済ませたはずなのにデカラビアは彼女が落ち着くまで待ってくれているようだ。

 

「……アリナの後輩よ、これが最後のチャンスになるだろう…汝の望みを聞かせるのだ」

 

「グスッ…ヒック……わたしの…望み……?」

 

「アリナはな、己の美を貫くために人であることを捨てた者。汝にもその覚悟があるなら…」

 

「……それはダメなの」

 

「即答するとはな…最後のチャンスなのだぞ?この機会を逃せば今生の別れとなるだろう」

 

「わたしは約束したの…わたしはわたしの求めたい理想の目標を…絶対妥協しないって…」

 

「……あいわかった。流石はアリナの後輩だ、己の道を曲げるような選択はせんようだな」

 

「アリナ先輩は自分の美を完成させる望みを叶えたんだね…だったらわたしも…頑張るの」

 

「その意気だ。後輩の覚悟…必ずアリナに伝えよう。きっとあいつも…喜んでくれるぞ」

 

ガラにもないことを言ってしまったと己を恥じながらデカラビアは飛んでいく。

 

残されたかりん達であったが、彼女は先輩が最後に残してくれた絵画を抱きしめていく。

 

暗い路地裏を歩き、光が差し込む出口に辿り着いた時、もう一度絵画を見つめてしまう。

 

少しの間見つめていた時、涙を零しながらアリナ・グレイに別れの言葉を送ってくれるのだ。

 

「……さようなら、わたしの先輩。わたしを育ててくれた……大切な恩師でした」

 

涙を流しながらも泣き崩れない気丈さを示す主人のためにランタンとリパーがついてくれる。

 

そんな仲魔達がいてくれると思えたかりんは涙を拭いた後、その後の人生を邁進するだろう。

 

それでも自由になった鳥が求める存在とは、遥か遠い天に輝く知恵の星の輝きであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「…あっそ。御園かりんはこっちに来てデビルになってでもアリナの傍にはいたくないワケ?」

 

「…そのようだ。汝の教えを守り、これからも強く生きるか…良い後輩を持てたではないか?」

 

「フッ……そうかも。これからはもう…フールガールとは呼べないヨネ」

 

「先輩として胸を張るがいい。クババと融合して豊満な胸になったことだしのぉ!」

 

「……アリナのバストばかりジロジロ見てるなら、そのヒトデ単眼を蹴り潰してあげる」

 

「お~~怖い怖い」

 

アリナの元に戻ったデカラビアは執務室でオーバーに両手を上げつつも、主人は微笑んでいる。

 

学生時代や東京で教授した先輩の教えをしっかり守る後輩の覚悟を持って、彼女も未練を断つ。

 

(……バイバイ、御園かりん。いつか円環に逝った時は…他の宇宙のアリナにヨロシク)

 

走馬灯のように巡っていく学生時代の感傷をバッサリ捨て、アリナは女神として邁進する。

 

マギアレコード宇宙以外のアリナはきっとアリナの美を得られずに腐り果てて終わっている。

 

それでもたった一つの宇宙でぐらい、アリナの美である死と再生を貫いたアリナがいてもいい。

 

そう思えるアリナだからこそ、誇りを持って天の女主人となるために野望をたぎらせるのだ。

 

「マ…いや!魔丞様。閣下からの任務もありますが…魔王ほむらの件はどうするおつもりで?」

 

秘書官を務めさせているスーツ姿のアティスの質問に対して、アリナは不敵な笑みを浮かべる。

 

「今の暁美ほむらなんてエンジェル軍を迎え撃つだけのミサイルの価値しかない。もう用済み」

 

「では……そろそろ仕掛ける時が来たと考えるべきでしょうか?」

 

「魔王達はムスビ思想を受け入れない。アイツはフェミニズムに踊らされるフール扱いなワケ」

 

「なるほど…つまり魔王ほむらが殺されてしまっても、文句を言う者はそう多くないのですね」

 

「フェミニズムはナアマにでも丸投げすればいいし、暁美ほむらが敷く必要はないカラ」

 

「しかし奴にはティタン神族の後ろ盾がある……それについては?」

 

「ティタン神族は実質クロノスが率いているワケ。暁美ほむらなんてオマケでしかない」

 

「クロノスを分断し、魔王ほむらだけを仕留める事が出来たなら…ティタン神族は頂きですね」

 

不気味な笑みを浮かべていく者達がついに暁美ほむらに仕掛ける決断を下す時がくる。

 

魔王ほむらを快く思わない強大な悪魔も存在し、魔王の座をほむらから奪いたい者がいるのだ。

 

「ティタン神族こそ力のヨスガに相応しい軍勢だヨネ。アリナが貰ってあげるカラ♪」

 

広い空間をしたアリナの執務室の明かりが消えていき、シャンデリアの蝋燭だけが灯る。

 

アリナの背後に伸びる影がどんどん巨大化していき、彼女に組する悪魔の影を生み出すのだ。

 

「アルシエル、暁美ほむらを倒せたら……アナタが魔王の椅子に座れるカラ」

 

<<勿論そうさせてもらう。ムスビ思想を掲げる者とは因縁があってな…潰させてもらおう>>

 

形作られた巨大な影とは人面の形をしており、魔王の権威を表すような王冠の影も見えた。

 

【アルシエル】

 

旧約聖書に記される七層の地獄ゲヘナの支配者であり、冥界の黒い太陽に喩えられる。

 

ゲヘナの由来はエルサレム南方にあるヒンノムの谷である。

 

そこは街の汚物や罪人の死骸等が焼かれる忌まわしき場所であり、腐敗物がイナゴを生む。

 

その為アルシエルはアバドンとも同一視され、魔王サタンとも同一視される存在であった。

 

<<ボルテクス界において我のアマラ神殿を穢したムスビに連なる者に…死を与えよう!!>>

 

「ゲヘナの谷にでもボッシュートしてやればいいワケ。シンナーとしてね」

 

ムスビを滅ぼせる戦いを楽しみにするアルシエルの巨大な影が消えていく。

 

完全に消え去ると同時に執務室の明かりが灯っていったようだ。

 

「暁美ほむらを滅ぼした後はエンジェル、そしてオンリーゴッド…だけどそれじゃ終われない」

 

「LAW勢力を滅ぼしても…まだ何かを求められるのですか…?」

 

「私のヨスガが築く王国において、王は一人のみ。至高天の玉座を手に入れるのは…この私よ」

 

アリナの雰囲気が突然豹変した事に対してアティスの体から冷や汗が吹き出す。

 

今の彼女こそ、かつてのボルテクス界において力の思想を掲げた者として宣言するのだ。

 

「何かのために命があるんじゃないわ。命を表現するために世界がある…私は力を表現する女」

 

創り出す力、意思を持つ者が競い合うことを最上とするコトワリこそがヨスガ思想。

 

王の力は弱者に対する否定と搾取であり、暴力と弱肉強食が支配する世界を望む。

 

その世界において聖域などなく、力ある神々が最後の一体になるまで殺し合い、競い合う。

 

ハルマゲドンなど彼女にとってはヨスガの試練に過ぎず、最終戦争に生き残れた者こそ強者。

 

「ルシファーであろうとバアルであろうと人修羅であろうと…生き残れた者と私は殺し合う」

 

――その時こそ…私がかつて求めた理想郷…力の千年王国が誕生するのよ。

 

バアルの化身となった女はアリナと融合し、新たな女神として金星を司る存在となっていく。

 

金星こそバアルの妻の星であり、バアルの巫女とも呼べた女はバアルの隣に立つ者となるのだ。

 

ならば王権を懸けた神々の戦争を望み、競い合い、殺し合う。

 

全てを征服してこそ天の女主人であり、その時にこそ天地魔界を統べる女神となれるだろう。

 

イナンナとして誰よりも強く在りたいアリナと千晶の道こそ、死を築き上げる魔丞の道だった。

 




アニメのマギレコでもアリナがかりんに絵画を送ってたシーンがあったので、そのネタを拙作にも取り入れてみました。
記憶喪失設定で初志貫徹から外れたマギレコアリナは個人的に好きじゃないので、僕が描くアリナは原点である死と再生を貫かせたいものですな。
死と再生こそメガテンのテーマ、女神転生ですしね(メガテン脳)
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