人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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341話 回り続ける愚者

かつて魔法少女となった暁美ほむらが何百回と戦った大魔女がいた。

 

舞台装置の魔女と呼ばれる大魔女の名はワルプルギスの夜。

 

本来は魔女宗である新異教主義を崇拝する魔女達の夜を表す通称であり、バアル崇拝でもある。

 

悪魔を表すお祭りの名を持つ大魔女と戦い続けた魔法少女はいずれ同じ魔女となるだろう。

 

くるみ割り人形の魔女となった少女は己の我儘を貫き通すために世界に反逆する者となる。

 

彼女は魔女を超え、悪魔と呼ばれる存在となり果て、大魔王ルシファーに踊らされる者と化す。

 

その在り方はまさに愚者であり、願いを貫けば貫く程、空回りするゼンマイに成り果てる。

 

いつしか悪魔ほむらの自己嫌悪は己の存在すら許せない程にまで追い詰められていく。

 

優しさを捨てきれず、完全な悪になり切れない存在こそが暁美ほむらの在り方であった。

 

……………。

 

「……嫌な女ね、私って」

 

見滝原市に戻っている悪魔ほむらはまだ日も昇り切っていない時間に起きている。

 

戦いばかりを繰り返した彼女も女の子であり、身だしなみを整える鏡ぐらいは部屋にある。

 

化粧台の前に備わる鏡を見つめる彼女であったが、鏡に映る自分の姿に酷い嫌悪感を生む。

 

「まどかを愛する私…仲間を大切に思う私…恩人に感謝したい私…全部私のはずなのに…」

 

ムスビの勇と接触して以来、彼女は邪神ノアに取り憑かれた女悪魔と成り果てる。

 

ただ無力に流されるノアの箱舟の名を持った邪神の在り方こそ、暁美ほむらでもあるのだ。

 

誰にも理解されず、助けてとも言えず、自己完結して戦い抜き、そして多くを裏切っていく。

 

女神まどかを裏切り、魔法少女達を裏切り、人修羅達ですら裏切った女の姿が鏡に映る。

 

「私は何がしたいの…?何が欲しいの…?殺し合いや裏切りを繰り返して…何を求めるの…?」

 

自己嫌悪によって心が酷く搔き乱される彼女は片手を持ち上げながら胸を抑え込む。

 

「溢れ出る…私の感情が…多過ぎて…私が…本当の私が……引き裂かれていく……」

 

イバリ、ネクラ、ウソツキ、レイケツ、ワガママ、ワルクチ、ノロマ、ヤキモチ。

 

ナマケ、ミエ、オクビョウ、マヌケ、ヒガミ、ガンコ。

 

暁美ほむらの感情から生まれた使い魔達がかつていた。

 

暁美ほむらの自己評価とも呼べるネガティブな分身こそ、偽街の子供達。

 

偽街の子供達もまた暁美ほむらの一側面であり、逃れられない自己嫌悪の象徴。

 

アラディアとの戦いで偽街の子供達が始末されようが、本体が無事なら再び生まれるだろう。

 

「だって…しょうがないじゃない…私はまどかが欲しいの…私の献身は…報われるべきよ…」

 

百合の間に男が挟まりに来る。

 

暁美ほむらが命を擦切らせてまで守り抜こうと足掻いた愛する少女との間に男が挟まりに来る。

 

「許せない…そんなの…許せない…!!私の物語には…男なんて…必要…ない…ッッ!!」

 

男が女を助けてしまう、それを許さないのがフェミニストでありフェミニズム。

 

男は女を搾取する悪魔であり、女の幸せを破壊するだけの存在だと叫び続けるリリス(百合)の思想。

 

「そうよ…私は正しい…他の魔法少女も望んでるはず…だって私達の大切な人が…盗られるわ」

 

人修羅をゴミのように切り捨てる行為は他の魔法少女達の恋愛さえも救うと正当化していく。

 

恩を仇で返そうが自分達さえ良ければそれでいいと卑劣を極めた傲慢の殻に閉じこもっていく。

 

「男は女を助ける存在じゃない…なら…どうして人修羅は…私を…助けて…くれたの…?」

 

理性の中では分かっているが、感情がそれを許さない。

 

男が女を助けてはいけないフェミニズム世界になれば女が事故で助けを求めても助けられない。

 

心肺停止した女に人工呼吸するのは男のレイプ行為!女性蔑視!女を助けるのは女!だと叫ぶ。

 

しかし周りにいたのは駆けつけた男だけであり、男が他の女に助けを求めに行く間に女は死ぬ。

 

男はフェミニズムに従って他の女に助けを求めたのに女性が死んだのは男のせいにされるのだ。

 

暁美ほむらだって人修羅が見捨てていれば報復に現れたアラディアに殺されていただろう。

 

観鳥令だって葛葉ライドウが見捨てていれば彼女を暗殺に来た悪魔に殺されていただろう。

 

フェミニストの理屈では女を救うことなんて出来ないと分かっていてもエゴがそれを認めない。

 

「私は男に救われた…だけど男は脅威よ…なんなの…コレ?私…どうして矛盾を抱えるの…?」

 

あまりにも醜い自分の在り方のせいで美しい顔も歪んでしまい、胸を強く抑え込んでしまう。

 

鏡に映る自分の瞳の色まで変化していき、醜い感情が生み出す様々な色に変化していく。

 

まるで多重人格者のような暁美ほむらが生み出す影もまた変化していく。

 

化粧台のライトが生み出す彼女の影が揺れ動き、14体に分裂しようとしていくのだ。

 

<<ウソツキ、レイケツ、ワガママ、ヤキモチ、イバリ、ミエ、ワルクチ、ヒガミ……>>

 

彼女が自己評価したネガティブさを語っていくのは揺れ動く14体の影。

 

ほむらが自分で生んだ複数の瞳の色を譲り受けたようにして次々と影の目に(感情)が浮かんでいく。

 

「はっ…ッッ!!?」

 

背後の気配に気が付いた彼女が後ろを振り向くが、そこには14体の影はいない。

 

14体の影から切り離されたように己の影(I(あい))だけが見える中、壁には果肉で描かれた文字がある。

 

――Gott ist tot(神は死んだ)

 

ドイツ語でそう記されている言葉は人間至上主義であるヒューマニズムさえも表している。

 

ニーチェの著作が残した神は死んだという言葉の中には()()()()()()()()宿()()と言われている。

 

彼が残したツァラトゥストラはかく語りきにおいて、それが示されているのだ。

 

19世紀の欧州は啓蒙思想と科学の発展によって従来のキリスト教的価値観が揺らいでしまう。

 

一方で産業革命による社会変化や個人主義の台頭が進み、多くの人が生きる意味を失っていく。

 

ニーチェはこの時代の価値観の崩壊を神は死んだと表現しているのだ。

 

道徳や宗教が人々の生きる意味を規定していた時代が終わり、個人主義が吹き荒れる。

 

自分自身の価値観を持ち、それに従って生きる。

 

聞こえはいいがそれは歴史や伝統の否定であり、先祖が育んだ人間性の否定でもある。

 

個人主義が生む堕落思想こそ唯物主義、拝金主義、快楽主義、エリート主義、あらゆる堕落。

 

エリートが民衆を支配し、民衆も堕落を貪るばかりの個人主義の世界こそ、神が死んだ世界。

 

神は死んだというニーチェの言葉こそ、悪魔が人の精神を乗っ取るという意味合いにもなる。

 

そしてここにも悪魔に精神を乗っ取られた女悪魔がいるのだ。

 

「誰が何と言おうと構わない…私の心の羅針盤は決まっている…それは…まどかへの愛よ…」

 

化粧台に映る彼女の表情は再び傲慢な魔王としての顔つきになっている。

 

力を求める意志を貫き、単なる支配欲ではなく自らの可能性を最大限に発揮して創造性を生む。

 

今の彼女にとって従来の道徳や宗教観では女性と女性の恋愛を認めさせる世界は得られない。

 

それは抑圧に過ぎず、これを乗り越えることが必要だと我儘を貫く意思こそが力だと信じる。

 

「道がないなら作ればいい…人生と同じよ。私とまどかの恋の道は…私の手で切り拓く」

 

朝日が昇っていく窓の景色に視線を向ける彼女の心もようやく晴れ渡ったようだ。

 

立ち上がって学校の支度を済ませた彼女は使用人達を引き連れながらまどかをエスコートする。

 

旧来の道徳に縛られず、自らの意志で価値を創造出来る存在こそが()()だとニーチェは語る。

 

従来の善悪や罪といった概念を超越し、自己の力によって人生を切り開く。

 

従来の道徳を否定するだけでなく、新たな倫理や生き方を創造する道こそが魔王ほむらの道。

 

科学的根拠0のフェミニズムであろうと、無理やり世界に押し付けられる超人になろうとする。

 

その在り方こそまさに自己完結であり、超人だけで生きられる程、世の中は甘くなかった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ほむらちゃん…あのね……伝えたい話があるの」

 

「……何かしら、まどか?」

 

放課後、まどかを家に送るついでに息抜きだと言ってほむらはお茶会に招待している。

 

招待された場所は見滝原商業区にある会員制の高級クラブであり、屋外席にいるようだ。

 

高層ビルの屋上にある広々としたガーデンテラスは貸し切りであり、様々なデザートが並ぶ。

 

女子学生なら誰でも夢に見る勝ち組生活の光景であるが、まどかは嬉しくなさそうだ。

 

「わたしのために色々尽くしてくれるのは嬉しいんだけど…その…わたしは…混乱してるの…」

 

「こんなご時世だものね…辛くて混乱もしてしまうわ。だからこそ息抜きに誘ったのよ」

 

「そういう意味じゃなくて…ええと…わたしにはセレブな世界はその…似合わないかなって…」

 

「自分を卑下する必要はないわ、貴女は私の親友よ?親友だからこそ喜ばせてあげたいの」

 

「その気持ちは嬉しいけど…わたしはね…みんなと一緒にお茶会する方が…楽しいかな…」

 

豪勢なケーキと紅茶を前にしてもまどかはナイフやフォークに手をつけようともしない。

 

そんな愛する人の閉じた心を無理やり開かせようと魔王は指を鳴らす。

 

貸しきり状態の高級クラブの店内からやってきたのは正装した音楽団である。

 

「えっ……ええっ!!?」

 

ほむらの使用人達が持ち運んだ椅子に座り込み、楽器をセットしていく光景にまどかも驚く。

 

「辛い気持ちを溜め込むからネガティブになるのよ。そんな時は楽しい事をしましょうよ♪」

 

立ち上がったほむらはまどかをエスコートするために手を伸ばす。

 

おどおどしながらもまどかはその手を取り、ガーデンテラスの中央まで歩いていく。

 

2人が向かい合った時、生演奏会が披露されていくのだ。

 

「私と踊りましょう、まどか。邪魔する者は誰もいない…私と貴女の世界で踊りましょう」

 

「ほむらちゃん……」

 

両手を繋いだ彼女達が音楽に合わせて踊っていく。

 

社交ダンスなんて踊ったこともないまどかをエスコートするようにしてほむらが操る。

 

彼女も社交ダンスなど知らない者だったが今日のためにナアマから学んできたのだ。

 

夕日の世界で美しい音色に合わせながら天空の庭で踊っていく見滝原女子学生服を着た少女達。

 

その光景はまるで王子様とお姫様の光景であり、これこそが傲慢な女魔王の望みである。

 

(まどかを導くのは同じ女である私なのよ…男の役目なんかじゃない、私の役目なのよ…)

 

男の役割を奪い、男の権威を貶め、男の尊厳まで踏み躙りたい女の望みこそがフェミニズム。

 

フェミニストとなった暁美ほむらだからこそ、女と女の恋愛を完成させられる世界を望むのだ。

 

戸惑いながらも踊ってくれる恋人の為に笑顔を浮かべているほむらであるが、幻聴が聞こえる。

 

<<ウソツキ、レイケツ、ワガママ、ヤキモチ、イバリ、ミエ、ワルクチ、ヒガミ……>>

 

自分の本性を表すネガティブな真実が聞こえてきても、努めて笑顔を崩さない。

 

醜い自分の本性となる分身から罵られようとも、今この時間だけは誰にも邪魔をさせたくない。

 

彼女は逆十字架を掲げる女となり、世界の在り方を真逆にすることを望む女魔王。

 

男が女を幸せにする旧来の道徳観を踏み砕き、抑圧を超えた創造性を世界に望む傲慢者。

 

(まだダメよ…まだダメよ…今この時を永遠に…まどかと踊る円環の世界こそ…私の望み…)

 

まどかの腰を抱き、クルクルと踊りながら回っていく。

 

この場所にいる他の者達など、女と女の恋愛世界を引き立たせるだけの舞台装置に過ぎない。

 

回り続ける愚者の如く、この世の全てを戯曲へ変えてしまうまで無軌道に世界中を回り続ける。

 

今のほむらの姿こそかつてのワルプルギスの夜であり、世界が育んだ男女の道徳観を破壊する。

 

竜巻の如き脅威となる政治思想を世界中にばら撒く姿となった暁美ほむらこそ、愚者の象徴。

 

大魔王達から利用されているとも知らず、懸命に回り続ける百合の獣の姿がそこにはあった。

 

……………。

 

「わたしが言いたい話はね…最近のほむらちゃんはその…何処かおかしいって…思うの」

 

撤収作業を続けている音楽団の横では向かい合う少女達が楽しいお茶会の続きをしている。

 

「わたしが知ってる今までのほむらちゃんは…誰かを遠ざけるような生き方はしてないよ…」

 

「……わたしが誰を遠ざけようとしているの?」

 

「みんなだよ…男子や女子のクラスメイト達はね…今のほむらちゃんを怖がってるの…」

 

「怖がらせておけばいい。誰の為にも生きる必要はない、私達は私達がいればいいの」

 

「そ、そんなことないもん!わたしはみんな大事だから…みんな一緒にいて欲しいんだよ…」

 

たとえ記憶を再び奪おうとも、彼女の道徳観はアラディアとの戦いで語った時と同じである。

 

「誰かの事を心配している限り、貴女の心は他人のものよ。貴女にも個を貫く意思が必要ね」

 

「個があるとしたら…それはみんなと一緒にいたい気持ち。それこそがわたしの個だよ」

 

「まどか…周りは危険でいっぱいなの。いつ貴女を傷つける悪者が現れるか分からないの」

 

「傷つけられるのは怖いよ…だけど怖がってばかりじゃ生活出来ない。決断しないとダメなの」

 

「私も万能じゃない…もし貴女を傷つける()()のせいで毒牙にかけられたら…私は許せない…」

 

「ま…まおとこ……?」

 

つい本音が零れてしまったため、慌てながら誤魔化してしまう。

 

「ほむらちゃん…変だよ…一体何が貴女を変えてしまったの?苦しんでるならわたしに話して」

 

「私は苦しんでなんていないわ…むしろ救われているのよ。今の私こそ…本物の私よ」

 

「だってそれじゃあ…みんなから嫌われちゃうよ…?そんなほむらちゃんの姿は…嫌だよ…」

 

「私を嫌いたい連中がいるなら……嫌わせておけばいい!!」

 

ネガティブな己の姿を恋人から指摘されるのが耐えられない彼女は激高しながら立ち上がる。

 

「他人の正しさの奴隷になるなんて嫌よ!私は私の正しさがあっていい…それが信念なのよ!」

 

「信念を持つのは自由だけど…それでもね、社会生活ではみんなを尊重する必要があるの…」

 

「尊重なんて必要ない!私が苦しんでも連中は助けてくれない…だから女は自立するべきよ!」

 

女の自立、それこそがフェミニズムの理念。

 

男社会からの抑圧からの解放、旧来の男女の道徳観からの解放、それこそが女の自由理念。

 

そうナアマに刷り込まれてしまった悪魔ほむらはフェミニズムこそが自分を救うと信じる者。

 

「ほむらちゃん…それは違うよ。だってさ…みんな()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「えっ……?」

 

驚愕してしまうほむらに対して、まどかはまどかなりの社会主義を語ってくれる。

 

社会とは大勢の人達がいて、大勢の人達が働いてくれて、地域の人達を黙って助けてくれる。

 

男達が汗水流して働き、下げたくない頭を下げる屈辱に耐え、地域生活を守ってくれている。

 

そんな男達が働いてくれるからこそ、ほむらだって食事やエネルギーを供給してくれるのだ。

 

「想像してみて。もし男の人達がわたし達女性を助けるのは嫌だと言えば…何が起きるの?」

 

「な…何が起きるって言うのよ…?」

 

()()()()()()()()()だよ。男の人でしか出来ない仕事もある…それを女性にやらせたいの?」

 

「そ…それは……」

 

「きっと耐えられなくてインフラがどんどん壊れていく…その責任をほむらちゃんはとれる?」

 

「うっ……うぅ……」

 

「ほむらちゃんは女の自立を言ったよね?だけど自立を強制された世界で…わたし達は幸せ?」

 

言い返せないほむらは力なく椅子に座り込んでしまう。

 

どうにかして男を悪者に仕立て上げ、フェミニズム理念を正当化しようと考えていく。

 

相手を悪者に仕立て上げればこっちのものであり、自身の正しさの担保に出来るからだ。

 

「多くの人がいる世界だからこそお互いに助け合うの。どちらかを悪者にしたらそれは壊れる」

 

「男なんて…女を傷つけるだけよ。まどかだって女性のDV被害のニュースは見てるはずよ…」

 

「それは知ってるけど…それって男性社会の何割が起こす加害行為だって言うの…?」

 

「それは……その……」

 

「ほむらちゃんの理屈で言うなら、わたしのパパもDVをするよ?だけどそんなパパじゃない」

 

男女が幸せを築き上げた家庭で産まれてくれたまどかだからこそ、フェミニストの嘘が分かる。

 

「わたしはね…男女がチームワークを築ける社会で生きたい。女の自立世界には…それがない」

 

「女同士だって男女家庭と同じように幸福を築けるわ!男なんていらない…男はいらないの!」

 

「……ほむらちゃんはさ、わたしのパパが大嫌いなんだね」

 

「えっ……?」

 

「さやかちゃんや仁美ちゃんのパパも大嫌いなんだね?男の人が大嫌いなんでしょ…?」

 

フェミニストに成り果てたほむらの言葉を聞き続けたまどかの表情は酷く冷たくなっている。

 

そんな恋人の顔を見るのが辛いほむらは怯えながら顔を背けてしまう。

 

「今のほむらちゃんを見るのは辛いの…。だからね、もう送り迎えはしてくれなくていいから」

 

音楽団が撤収した誰もいない天空の庭で巻き起こるのは恋人の拒絶である。

 

顔を俯けながら震え抜くほむらに対して同じように顔を俯けながら立ち上がる者が去っていく。

 

去り際に立ち止まり、自分の感情に振り回されるばかりの親友のためにこんな言葉を残すのだ。

 

「互いに助け合う人達の一方が滅びると、もう一方も危うくなるの。()()()()()()()()()()()

 

唇滅びて歯寒し。

 

父親から教えられた格言内容を伝え終えたまどかは今度こそ去っていく。

 

恋人から拒絶された現実を受け入れきれない悪魔ほむらは呆けた顔でまどかを見送る。

 

古びたゼンマイが軋むような音が出る程の鈍さで顔を前に向け、震える手でポケットを探る。

 

取り出したのは化粧品道具のコンパクトミラーであり、震える手で蓋を開く。

 

小さな鏡に映った自分の顔に手を伸ばし、唇を摘まみながら歯茎を鏡に映し込む。

 

コンパクトミラーの上には文字が刻まれており、ドイツ語で()()()を意味する形容詞が見える。

 

「……唇がなくたって……私の歯は……寒くないわ」

 

動揺が抑え込めない彼女の脳裏に聞こえてくるのは己を表すネガティブな幻聴。

 

<<ウソツキ、レイケツ、ワガママ、ヤキモチ、イバリ、ミエ、ワルクチ、ヒガミ……>>

 

悪魔ほむらから切り離された14体の影が周囲に潜んでいるようであり、馬鹿にしてくる。

 

こんな愚か者など必要ないとばかりに愛想をつかした偽街の子供達は消え去っていくようだ。

 

愚か者だとまどかを罵倒した女が一番の愚か者。

 

そう突きつけられた悪魔ほむらの左腕付近には残っていたトカゲの使い魔がいる。

 

彼女の腕に昇ってきたトカゲに対して、自分の劣等性を許さない女がナイフを握り締める。

 

腕ごとトカゲの使い魔を突き刺し、ナイフが腕を貫通したためおびただしい血が流れていく。

 

エゴに支配された女の目に涙は流れなくとも、溢れ出る血は彼女の心の涙となった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

地上に下りてきたまどかは迎えの者達が待っている車列に近寄っていく。

 

立っていたのはほむらの使用人達であるメイドと細目をした擬態姿の老人であったようだ。

 

「あ、あの……わたしは歩いて帰ります。今まで送迎をしてくれて…有難う御座いました…」

 

「……それは暁美ほむらが決めたことなのか?」

 

「…いいえ、わたしが決めた事です。彼女の気持ちは嬉しくても…わたしはそれを選びません」

 

「そうか…それもいいじゃろう。他人に合わせる生き方など隷属だ…お主はお主で在ればいい」

 

「は、はい!」

 

まどかの自由を尊重してくれた時の翁に笑顔を向けていた時、彼は咄嗟の判断で飛びつく。

 

「えっ!!?」

 

まどかに覆い被さるようにして倒れ込んだ長身の老人の頭上では悲惨な光景が生まれていく。

 

まどかを追いかけてきたほむらにもその光景は見えており、咄嗟の判断で地面に伏せる。

 

<<キャァァァァーーーーッッ!!!>>

 

倒れ込んだまどかが見たのは次々と撃たれる銃弾の雨。

 

向こうにはいつの間にか米軍の偽装トラックが停車しており、開いた荷台から次々と射撃する。

 

放たれるのは横に並べられたM2重機関銃であり、対物ライフル弾がメイド達を撃ち殺す。

 

ひき肉のようにされていくメイド達だけでは済まず、送迎用の車まで爆発していく。

 

高層ビルの玄関口も酷い有様であり、伏せたままのほむらの頭上も銃弾が飛び越えていく。

 

玄関ホールにいた人々まで対物ライフル弾の餌食となり、阿鼻叫喚の地獄となるのだ。

 

「くそっ……多神教連合が仕掛けてきたのか!?」

 

「なんで!?どうしてこんな事になるの!?お願いだからやめてぇぇぇーーッッ!!」

 

まどかの盾となってくれる時の翁は自分の体を盾にしているため時間停止が行えていない。

 

銃弾を撃ち終えたトラックの荷台が閉まっていき、現場から発進していくのだ。

 

「まどかぁ!!!」

 

倒れ込んで呻き声を上げながら助けを求める者など無視するほむらが駆けてくる。

 

クロノスが身を挺してまどかを守ってくれていたのを確認した彼女は安堵の表情となっていく。

 

それでも彼女は悪魔の魔力に感づいており、立ち上がったクロノス達にこう言ってくれる。

 

「クロノスはまどかの護衛をして。彼女を守りながら無事に家まで連れて行ってあげなさい」

 

「……お主はどうする?」

 

「私はあそこでふんぞり返っている大きな鳥悪魔をローストチキンにしてやるわ」

 

見上げる先にいたのは隣ビルの屋上で大きな翼を広げながら雄叫びを上げる鳥悪魔。

 

「コケーッ!!コノ程度デ死ヌヨウナ奴ジャナカッタカ!ツイテコイ、殺シ合オウゼェ!!」

 

現れたのはアリナの仲魔のコカトライスであり、翼を羽ばたかせながら飛んでいく。

 

まどかの手を掴みながら走り去っていくクロノスを確認した後、怒りの形相と化す。

 

「私のまどかの命を狙ってきた代償は高くつくわ…何処の刺客か吐かせた後に殺してあげる」

 

魔力を一気に高めたことで左腕の傷まで治癒され、背中からも鴉の如き骨の翼が広がっていく。

 

一方、コカトライスは獲物を引き寄せる場所まで飛んでいくようだが文句を垂れている。

 

「クソッ…ナンデオレサマガ獲物ヲ誘イ込ム囮役ヲシナキャナラナイ…他ノ連中ガ妬マシイ…」

 

ブツブツ言ってたものだから背後から高速で迫ってくる存在に気が付いていない。

 

「グハァァァァーーーッッ!!?」

 

高速で現れたのは怒りに燃え上がる悪魔ほむらであり、怒りを叩きつける形で飛び蹴りを放つ。

 

まさかこれ程までの速度で迫ってくるとは考えてなかった悪魔が高速で蹴り運ばれていく。

 

叩きつけられた地上とはかつてほむらが椅子に座りながら半月を見つめていた丘。

 

都市から離れた場所であり、ここでなら戦いを始めてもいいと狙った末の一撃だった。

 

「クッ…クソッ…イキナリ飛ビ蹴リヲカマシテクルカ…?腰ガァァァァ……」

 

「いきなり銃撃を仕掛けてきた鶏がどの口でほざくわけ?何故まどかを狙ったの?言いなさい」

 

「ヘッ!タダデ教エルワケネーダロ!!コレデモクラエーーッッ!!」

 

怒りで我を忘れたコカトライスは異界を構築するのも忘れながら絶対零度を放ってくる。

 

迫りくる極太氷結ビームであるのだが、怒りに我を忘れたからこそアリナの言葉も忘れている。

 

悪魔ほむらは一つの属性魔法と万能属性を除いては反射してくる鉄壁の守りがあるのだ。

 

「ゲゲェ!!?」

 

夜のオーロラを展開したほむらの守りが極太ビームを反射して相手に返す。

 

しかしコカトライスは氷を司る悪魔であり、氷結を無効化する耐性で防いだようだ。

 

「頭は冷えたかしら?なら私の聞きたい内容も理解出来るわね?お前の後ろにいる奴は誰?」

 

「シャラクセェ!!イカリニ燃エルオレサマノ頭ハナ……マッカッカナママダァ!!」

 

「あら、そうだったわね。鶏らしい真っ赤なトサカじゃない?」

 

「オレサマハニワトリジャネェェーーッッ!!ニワトリ言ウ奴ガニワトリダァァァ!!」

 

邪悪な魔眼を光らせて狙うのは相手を石化させる魔眼魔法のペトラアイ。

 

しかし魔王の耐性を持つ悪魔ほむらには通用せず、あくびをする仕草をしながら挑発してくる。

 

「その程度で私を倒すつもりだったのならお笑いね?高い授業料を払うことになるわ」

 

大きく飛び立ちながら再び氷結ビームを放とうとする相手に対し、魔法の弓を空に向ける。

 

魔法陣が描かれ、引き絞られた弦が魔力の矢を生み出し、極大の一撃を放つ時がくる。

 

「最後のチャンスよ…正直に言いなさい。攻撃を仕掛けてきたら…命はないわよ」

 

「ドウセ喋ラセタ後ニコロスツモリダロ!オレサマダッテドラゴンダ…プライドガアルンダ!」

 

「安いプライドね…それでもそれに縋りつきたいのなら、格の違いを教えてあげるわ」

 

互いに放った一撃によって眩い光が生まれていく。

 

正面に展開させた魔法陣に魔力の矢が触れた瞬間、無数の鴉の矢が放たれる。

 

無数の鴉の矢は意思を持つかのようにして極太ビームを避けながら敵を穿つ。

 

迫りくる極太ビームでは悪魔ほむらの夜のカーテンを破ることも出来ずに滅びるのだ。

 

空に昇っていくコカトライスのMAGに視線を向けているからこそ足元に気が付いていない。

 

「えっ!!?」

 

それに気が付いた時にはもう遅い。

 

彼女の立っている場所どころか丘一面を飲み込む程の巨大な口が開いていたのだ。

 

<<…バイバイ、コカトライス。もう少し頭が良かったら…生き残れてたカモ>>

 

アリナの声が念話で届いた瞬間、ほむらの体は丘ごと飲み込まれてしまう。

 

残されたのは超巨大な穴だけであり、その光景はまるでエルサレムのヒンノムの谷であった。

 




映画ワルプルギスの廻天の考察ネタで悪魔ほむらが新たなワルプルギスの夜になるとか、目の色が違うほむらは偽街の子供達?とか色々ネタが出回ってるので僕も取り入れようかと思って描いてみました。
映画PVで見せてきたほむらが唇を引っ張って歯茎を見せる意味は未だに不明ですが、僕なりに表現する努力をしてみました。
…なんで肝心の映画は延期するんや(憤慨)
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