人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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34話 決起の日

IR推進法によって建造中のメガフロート都市が東京湾に存在する。

 

ワタツミと呼ばれる巨大人工浮島全体がカジノテーマパークになる予定だという。

 

メガフロートは環境保護観点からも注目され、各都道府県から議員視察が訪れているようだ。

 

「こちらが浮島都市ワタツミの中枢となるワタツミタワーです」

 

議員視察団が建設企業の重役達と共にタワーに入っていく。

 

「この浮島都市は素晴らしいですな。日本の新たなリゾート区となってくれるだろう」

 

多くのカジノ施設やテーマパーク、商業施設や宿泊施設も整備されている。

 

東京の新たな看板になる人口浮島を視察する議員視察団は期待を募らせているようだ

 

「ワタツミと呼ばれるのは、どういう意味があるのですか?」

 

「ワタツミは日本神話の海神です。最初に生まれた海神はオオワタツミと呼ばれます」

 

「海神の名前が由来だったとはねぇ…」

 

イザナギが禊をした際に生まれた三神、ソコツワタツミ、ナカツワタツミ、ウワツワタツミ。

 

このタワーはそれら三神を柱とした神社の鳥居構造なのだと説明されていく。

 

「言われてみれば、このワタツミタワーは遠くから見ると神社の鳥居に見えましたな」

 

「ワタツミの神を祀り、この東京湾の航海安全を祈願したい意味があるというわけです」

 

「そこまで考えておられたとは、恐れ入ります」

 

エレベーターに乗り、展望フロアを目指す一団。

 

「このタワーの構成は東棟・西棟に分かれており頂部は連結された展望フロア施設となります」

 

「聞けば、展望フロアは日本神話に因んだ屋内庭園になっているとか?」

 

「屋内庭園と併設する形で浮島全体を見渡せる展望フロアとして利用される予定です」

 

エレベーターを下り、一団は展望フロアに到着する。

 

「おお!なんという美しい光景…一直線に整備されたリゾート都市が一望出来るとは!」

 

遠くに見えるのは東京と浮島を繋ぐ大橋となるワタツミ大橋が見える。

 

長さは1300メートルを誇り、世界の長い橋では7位として数えらる吊橋となるだろう。

 

「日本の技術はまだまだ世界に通用すると実感します。素晴らしい浮島でした」

 

「メガフロートは連結させれば土地を拡大出来ます。将来的には空港も隣接されるでしょう」

 

議員団の視察が続いていく中、彼らの頭上に備えられた屋上ヘリポートには魔法少女達がいる。

 

「……ついに、この日を迎えた」

 

「……チェンシー」

 

「よし……始めろ」

 

ワタツミという名称は人修羅に伝えられたペンタグラム決起の地。

 

このワタツミタワーこそが決起が行われる中枢なのだ。

 

1月28日、時刻は夕方。

 

「おや……?」

 

議員の一人が曇天の空を見上げる。

 

「積乱雲が近づいてきてますな」

 

「視察日よりとは言い難いですなぁ…」

 

「酷い雷雲だ…まるで龍の巣に見えてくる」

 

議員達が愚痴を零していた、その時が訪れる。

 

「おい、あれは……なんだ?」

 

フロアの空間に現れたのは弛んだ部分のように映る。

 

丸く光る空間を周囲の人々が見つめているのだが、目が見開きながら驚愕する。

 

まさかそこから軍隊が現れると考えられた者など誰もいないであろう。

 

Don't move!!(動くな!)Get down!!(伏せろ!)

 

視察団全員が思考停止しながら微動だに出来ない。

 

目の前の空間から突然現れたのは完全武装したアメリカ海兵隊なのだ。

 

何が起きたのかさえ理解出来ず、震える事しか出来ない。

 

If you resist, you're dead!!(抵抗すれば命はない!)

 

兵士達に銃床で殴られ、跪かされていく人々が悲鳴を上げてしまう。

 

「は、早く助けを……!」

 

一人がスマホを取り出していたが海兵隊の隊員が銃を向けてくる。

 

I guess you didn't hear me!(聞こえなかったようだな)

 

助けを呼ぼうとした者が撃ち殺されるのを見た者達は今の現実を認識するだろう。

 

これは映画の撮影等ではない、実戦だった。

 

「ヒィィーーーッッ!!!」

 

「た、助けて!!命だけは……!!」

 

パニックとなっていく人々の光景は都市建設現場の至るところで起きている。

 

市街地に次々と現れるのはアメリカ軍の兵器の数々。

 

ワタツミ大橋に向けて進軍するのはM1エイブラムス主力戦車隊。

 

続いて現れるのは水陸両用8輪式歩兵戦闘車と装輪式装甲兵員輸送車の部隊。

 

ワタツミタワー前の円形道路に現れるのは二台の大型ディーゼルトラック。

 

カーゴには艦艇に搭載されるレーダー照準式対空機関砲ファランクス防御システムが備わる。

 

整備中の公園の空から現れたのは短距離離陸垂直着陸機ハリアーⅡの機影。

 

ワタツミタワー裏は東京湾が広がっており、空には巨大ワームホールが開く。

 

東京湾に現れたのはイージス武器システム 搭載のアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦。

 

その光景はまさに戦争であり、ペンタグラムによってメガフロート都市は完全に制圧される。

 

汎用輸送車両数台と兵士達によって建設作業員達が次々とワタツミタワーに連行されていく。

 

その光景をタワー屋上から見つめるのはレベッカ、ルイーザ-、そして司令官のチェンシー。

 

チェンシーは右手に持つハンディ無線機を口元にかざす。

 

<<HQ to all units.(HQより各部隊)Give me a status report.(状況報告しろ)>>

 

<<This is Alpha .(こちらアルファー)We've brought in the prisoners.(捕虜を連行しました)>>

 

<<This is Bravo .(こちらブラボー)We're going to guard the bridge.(橋の警備に入る)>>

 

<<This is Charlie's .(こちらチャーリー)Deployment on the road is complete.(道路に展開完了)>>

 

<<This is Delta.(こちらデルタ)We're in position.(配置についた)>>

 

<<This is Echo.(こちらエコー)Rooftop deployment complete.(屋上に展開完了)>>

 

<<Defend your units.(各部隊死守せよ)Do you understand a word I just said?(言った言葉は理解出来たか)>>

 

<<Copy that.(了解)>>

 

兵士達は洗脳されており、チェンシーの言いなりの状態である。

 

アメリカ海兵隊の兵士達は悪魔からペンタグラムを守る兵力となっているのだ。

 

右にいるルイーザは無表情で地上を見下ろし、にいるレベッカは心底楽しそうな顔つき。

 

Quand ils seront morts, ils seront ma chair.(奴らも死ねば私の肉ね)

 

As-tu fini d'ajuster Alice ?(アリスの調整は終わったか)

 

Je lui ai donné un corps plein d'ironie.(皮肉を込めた体をあげたの)Je t'ai même drogué.(麻薬漬けにもしたわ)

 

Cette femme est aussi ton esclave.(あの女もお前の奴隷だな)

 

三人が後ろを振り向き巨大ヘリポート中央に目を向ければ、そこに描かれたのは巨大魔法陣。

 

魔法陣を近くで見つめるのは二人の存在なのだ。

 

「サイファーサマ、コレガ…カミサマノチカラ、テニハイルマホウジン?」

 

一人はアイラであり、そしてもう一人こそペンタグラムを集結させた謎の人物である。

 

「そうだよ、アイラ。この魔方陣から神様の力を吸い上げて…君がそれを啜るんだ」

 

死神のような黒いフード付きローブマントを纏う長身の人物こそがサイファーと呼ばれる者だ。

 

サイファー、そしてペンタグラムが揃う時が訪れた事で非願成就の瞬間が訪れるのだ

 

「サイファー様。神というのは、どのような存在の神をお使いになるのですか?」

 

()()()()

 

「ナーガ・ラージャ…ソノチカラ、ワタシ…テニハイルノ?」

 

「なぜ私が悪魔を始末させるために多くの人間を殺させたか…分かるかい?」

 

「……いえ」

 

「龍神は()()()()()()()()()()()…感情エネルギーと呼んだ方がいいかな?それが好物なんだ」

 

「マグネタイト?マガツヒ?それは魔法少女が死ぬ時に放出する感情エネルギーですか…?」

 

「同じ意味をもつ。そして感情エネルギーとは魔法少女だけでなく…人間からも搾り取れる」

 

人間は感情の生き物であり、魔法少女もまた同じ。

 

キュウべぇによって感情エネルギーを効率よく搾る為に生まれた存在が魔法少女なのだろう。

 

「ミンナ、アノシロイノニダマサレル」

 

「私達魔法少女が希望から絶望へと相転移し、魔女となった時……我々はエネルギーと化す」

 

熱力学第二法則に縛られない莫大な感情エネルギーを発生させる存在だという秘密がある。

 

しかしそれを知る魔法少女はあまりに少なく、知れば発狂して絶望死してしまうだろう。

 

「全ては大いなる宇宙たるアマラを温めるため、契約の天使もまた感情エネルギーが必要だ」

 

「アマラ宇宙…?たしか、バラモン教の宇宙体型の事ですね」

 

「感情エネルギーによって宇宙は延命し、宇宙は育てられる。これが本来の使い方だが…」

 

「…他にも使い道があるのですか?私達から生み出される…感情エネルギーとは?」

 

「感情エネルギーはね…()()()()()()()()()()()()()ともなるんだ」

 

【生体マグネタイト】

 

生体磁気と呼ばれる生物の精神活動エナジーと呼ばれるものである。

 

激しい感情の変動を起こし得る生物が多く持つものとされる。

 

結果的に人間や魔法少女、それに悪魔が多く持ち合わせるという事になるだろう。

 

悪魔は元来、物理的肉体を持たない存在であり、マグネタイトエナジーを触媒とする。

 

活動するための肉体を構成し、実体化する感情エネルギーが必要なのだろう。

 

マグネタイトが枯渇した状況だと実体化のための触媒が不足し、肉体の維持が困難となる。

 

そのままだと文字通り自らの命を削らざるを得ないため、命を繋ぐための食事といえた。

 

【マガツヒ】

 

かつての世界であるボルテクス界において物事を成就させるために必須とされたもの。

 

悪魔達も食事等で欲していた赤色の精神エナジーである。

 

その実体は苦しみ、悲しみ等の負の感情エネルギーだという。

 

マガツヒを集める事で悪魔は更なる強さを得る事も出来る。

 

コトワリを啓く創世の者が守護を呼び、創世を目指すためにも大量のマガツヒが必要とされた。

 

「神や悪魔を受肉させれる!?では…この世界には、やはり神々が存在していたと?」

 

「太古の昔、魔法少女を含めた人間達は世界の外側から神々を召喚してきた」

 

「世界の外側から…召喚?それを可能としたのが、我々から生み出される感情エネルギー?」

 

「カミサマ、イタノ?ナラ、ドンナイキカタシテキタノ?」

 

「始めは神々と人類は上手くやってこれたが、一神教が力を持ち始めてからは…迫害された」

 

「キリスト教の時代ですね…」

 

神々は悪魔と呼ばれ、貶められる歴史を辿ると聞かされていく。

 

多くの神々は人類を嫌悪し、この世界を去る事になったようだ。

 

それでも人間世界を愛した神々は人間や動物に擬態して同化する道を選んだという。

 

「カミサマ、ショウカンスルノニ…カンジョウエネルギーイル。ドウツカウノ?」

 

「太古の邪悪な儀式を用いる。かつては黒魔術と呼ばれ、キリスト教時代から禁忌とされた」

 

「黒魔術…それがこの魔方陣?」

 

東京の守護者となった悪魔が殺してきた魔法少女の数。

 

ペンタグラムが殺戮した人間の数。

 

それによって沢山の感情エネルギーを搾り取るために魔方陣は構築されていると聞かされる。

 

「インキュベーターに感情エネルギーを回収させず、逆利用して神を召喚するんだ」

 

「龍神は…実体化しているのですか?」

 

「勿論だ。この浮島の底…海底の龍脈内で顕現されたよ」

 

「カミサマツカッテ、ドウヤッテ、ワタシタチノモクテキヲ、オコナウノ?」

 

「この魔方陣は感情エネルギーを吸い上げるだけの物ではない。逆も出来るのだ」

 

「逆…?」

 

「実体化した龍神から…力を吸い出す反作用も実行させる事が出来る」

 

「運動の第3法則…」

 

「龍神の体にほんの少し龍穴を開けて魔力を貰うだけだ。きっと許して頂けるだろう」

 

「カミサマノチカラ、ソレツカテ…ナニガデキルノ?」

 

「この魔方陣は龍穴から流れ出る魔力を君のソウルジェムに繋げる力となるだろう」

 

つまりアイラは無尽蔵に魔法が使えるようになると説明していく。

 

彼女の固有魔法である洗脳が無尽蔵に行使出来るとアイラは理解し、笑みを浮かべる。

 

彼女の固有魔法は素質ある者の願いを利用した事で複数の魔法を同時に所有している。

 

その中でも最強というべき洗脳魔法を行使して世界を支配出来る力ともなるであろう。

 

「スゴイ……ソンナチカラアレバ、タシカニワタシ、セカイヲ、シハイデキル」

 

「人類を君達ペンタグラムの奴隷にしたまえ。それが君達の理想を叶える」

 

「やってくれ、アイラ。お前の手で…私とお前の悲願を達成しよう」

 

「チキュウヲツツム、センノウケッカイヲウミダスワ…コノマリョクナラ、ヤレル」

 

意気揚々と目を輝かせる魔法少女達であるがサイファーは沈黙してしまう。

 

彼にとってこれは()()()()()()()()()()事は、彼女達が知る必要はないのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

役目を終えたサイファーが階段を下りていく。

 

「後は彼女達の問題…そしてペンタグラムと人修羅との潰し合いとなる。それこそが…」

 

いつの間にかサイファーの目線の下には小さな生き物が立っており、こう叫んでくる。

 

「貴方は一体何者なんだい!?」

 

階段の踊り場に現れたのはキュウべぇであり、感情がないというのに声を荒げてしまう。

 

「なぜインキュベーターでない貴方が、ソウルジェムを操り力を与える事が出来るんだい!?」

 

吐き出される言葉には動揺の影が浮かんでいる。

 

サイファーにもキュウべぇの存在は認識されているようだ。

 

「…随分久しい顔だ。あれは今から36万…いや、一番最初の宇宙が誕生した時だったかな?」

 

「一番最初の…宇宙?貴方は一体何を……」

 

「まぁいい。私にとってはつい昨日の出来事だが…君にとっては多分、明日の出来事だ」

 

「昨日の出来事…?僕達にとって明日の…先の出来事?」

 

「君にはかつて、我々が名前をつけてやった」

 

――ヘブライ語でאו יצורים חלשים(か弱い生き物)とね。

 

その名を聞いた瞬間、インキュベーターの脳裏には始祖の記憶がフラッシュバックした。

 

 

初めに神は天地を創造された。

 

地は混沌であって、闇が深淵の面にあり、神霊が水面を動いていた。

 

それは原初の世界であり、世界はまだ生まれていない。

 

時空連続体に属するものではなく、存在の全的な無限領域。

 

―制限をもたず空想も数学も凌駕する最果の絶対領域。

 

一にして全、全にして一、かつて世界とは一つに纏まっていた。

 

天地開闢以前の混沌とした様相はマログである。

 

あるいはマロガレとも呼ばれるだろう。

 

日本書紀では初めの混沌、ギリシャ神話ではカオスの原初神、インド神話の原初の世界の混沌。

 

カバラではアイン(無・0)と同じ意味をもつ水面を表すのが混沌だ。

 

世界は原初の闇しか存在しない混沌であり、新たに生まれる世界を必要としているのだ。

 

一つの神霊が水面を動いていた。

 

ギリシャ神話における事物が存在を確保できる場所(コーラー)なのか?

 

インド神話の原初の水(ナラ)であるかは定かではない。

 

だが、そこに在った。

 

不確かだが、確実にそれは存在していた水面を動いていた。

 

神は唱えた、光あれと唱えた。

 

すると光があった。

 

世界に光と熱が生まれ、宇宙膨張理論であるビックバンと呼ばれる現象となっていく。

 

宇宙開始時の爆発的膨張が広がっていき、世界が光の熱によって膨張され、生み出されていく。

 

そして同時に光と闇が生まれ、差異が生まれ、分断された。

 

善と悪が生まれ、物質と魂が生まれた。

 

これはインド神話の概念であり、ゾロアスター教の善悪二元論ともなる。

 

――神は光を見て,良しとされた。

 

――神は光と闇を分け、光を昼と呼び,闇を夜と呼ばれた。

 

――夕べがあり、朝があった。

 

――第一の日である。

 

最初の宇宙を生み出した神はインド神話のブラフマーなのかは定かでない。

 

だが確実に世界は生まれ、星々が生まれ、世界は熱という概念を手に入れた。

 

仏教においては曼斗羅として語られ、北欧神話ではユグドラシルの木の概念として語られた。

 

カバラでは生命の樹で語られていき、光が生まれた。

 

全宇宙を照らす無限の光りと熱の神の誕生であろう。

 

ヘブライ民族は唯一なる光明神をこう呼ぶようになる。

 

唯一神、父なる神、大いなる神、祖は神聖四文字(テトラグラマトン)を持って名とする。

 

父なる神は人類に十戒を授け、みだりに神の名を唱えないようにと言われるだろう。

 

世界を産んだ混沌が忘れ去られていき、世界は光という概念が産み出した物だと考えられた。

 

原初の混沌世界に在った神霊を忘れていくが、それが無ければ光という概念は生まれなかった。

 

故にそれは大いなる神を産んだ原初の神。

 

神名さえ不確かな大いなる意思。

 

神々と共存していた時代において、人類は神々達からそう語られるのであった。

 

 

新しく産まれた最初の宇宙の何処かの銀河、何処かの星系、そして美しい蒼い星。

 

この星には様々な生命が満ち溢れている。

 

海を泳ぎ回る小さい生命、大きな生命、育まれた緑の大地でも小さな生命、大きな生命の営み。

 

聖書で語られた天地創造の光景であろう。

 

天の宇宙、地の星が産まれ、自然と生命体という概念が産まれ、万物が創生されたのだ。

 

しかしまだ宇宙は産まれて間もなく、原初の宇宙においてはまだ人類は存在しない。

 

神々や悪魔の概念さえまだ存在していない。

 

生命体が認識出来る一番の偉大なる存在は光りのみ。

 

世界に光と熱を与え、揺り籠のように育てる父なる神だけを感じていた。

 

この地球とよく似た蒼き星について大いなる神はこの星をこう名付けた。

 

()()()()()だと。

 

エデンの園とは旧約聖書に登場する理想郷であり、楽園の代名詞となっており、地上の楽園。

 

しかしこの星には知性を持つ生命体が存在していない。

 

故に大いなる神はこのエデンを管理させる為の生命体を誕生させる事を決める。

 

管理者には神の使命が与えられるだろう。

 

それを実行するための神の知恵と神の代わりとなる体を授けるだろう。

 

候補となる生命体を決め、この星で最も純真無垢であり、か弱い生き物をお選びになった。

 

 

木の枝にぶら下がる美味しそうな果実。

 

それを地上から見上げているのは小さな生き物。

 

「きゅ~……」

 

猫のような耳をもち、狐のように太く長い尻尾をもち、体毛は白一色。

 

赤く丸い目をもった愛らしい生き物の力はとても弱い。

 

この星の生存競争カーストの中では下位に属し、雑食であり何でも食べるが好むのは甘い果実。

 

「きゅ~~……」

 

独特な鳴き声をもつ生き物は甘い果実を手に入れようと木に飛びついていく。

 

「きゅ~!」

 

この生き物は猫の爪さえ持たない下等生物であり、木に登ろうとしたが落ちてしまう。

 

「きゅ~~~……」

 

残念そうな声と表情をしながら枝に実る果実を見つめていたようだが諦めてしまう。

 

落ちた果実はないかと探しに出かけるが、見つからない。

 

か弱い生き物はお腹を空かせており、足取りも遅い。

 

「きゅ~~…!」

 

空腹を満たして欲しいとか弱い声を上げた時、それは起こった。

 

「きゅっ!?」

 

大きな光の柱が遠くに落ちた轟音が響き、森の奥から驚いた動物達が逃げ惑う。

 

酷くお腹を空かせたか弱い生物だけは逃げようとしない。

 

「きゅ…きゅ~~……?」

 

森の奥から匂う美味しそうな果実がしてくると反応する。

 

「きゅっ!」

 

か弱い生き物は走り出し、森の奥へと向かってしまうのだ。

 

果実の森が大きく開けていき、そこには巨大な光の柱がそびえ立っている。

 

「……きゅ~?」

 

光の柱内から感じるのは果実の匂いであり、匂いが近づいてくるのを感じる。

 

それと同時に見えてきた存在達も見えてくるはずだ

 

「きゅ……?」

 

か弱い生き物は目撃するだろう。

 

大いなる神と共に生まれた光の秩序を守る存在達と遭遇するのだ。

 

光の柱から現れたのは三体の存在。

 

左に見えるのは後に女性と呼ばれるだろう存在に見える。

 

金色の百合が刺繍された青いローブに身を包む人物に見えてくるだろう。

 

右に見えるのは後に男性と呼ばれるだろう存在に見える。

 

高貴な赤いローブと光り輝く黄金の鎧を身に纏う人物に見えるだろう。

 

中央に見えるのは性別さえ分からない程に美しき存在に見える。

 

黒き鎧とローブを身に纏うのは、あまりにも強く光輝く人物なのだ。

 

まるで聖書に描かれた東方三賢人を思わせる存在達がか弱い生き物を見下ろしてくる。

 

「……きゅ~」

 

余りにも強過ぎる神々しさのせいか、か弱い生き物も怖気づいて後ずさりしていく。

 

しかしか弱い生き物は見つけるだろう。

 

中央に佇む存在の両手には美味しそうな果物が二つ握られているのだ。

 

「……さぁ、おいで。君にこれをあげよう」

 

地面に膝を付き、か弱い生き物の前に二つの果実を置いてくれる。

 

「きゅ、きゅ~~……」

 

警戒心を持ちながらも、甘い匂いに釣られてしまう。

 

か弱い生き物はその二つの果実に近づき匂いを嗅いだ後、二つとも食べてしまうのだ。

 

「きゅっ!!?」

 

か弱い生き物の体に変化が生まれていく。

 

純白だった背中の毛が丸く赤い入れ墨のような毛並みに染まっていく。

 

猫のような耳からは天使と呼ばれる存在と同じ光り輝く翼が広がっていく。

 

光の翼に浮かび上がるのは、天使の象徴である天使の輪に見えてくるはずだ。

 

この二つの果実とは聖書ではこう記される事になるであろう。

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

知恵の樹は旧約聖書の創世記に登場する木であり、善悪の知識の木とも呼ばれる。

 

二つの樹はこのエデンと呼ばれる星にも存在していた樹であったようだ。

 

知恵の樹の実を食べると神々と等しき善悪の知識を得るとされる。

 

神の知恵を得るのだが弊害もあり、原罪を生み出す感情を得てしまうだろう。

 

生命の樹の実を食べると神に等しき永遠の命を得られるとされる。

 

死を克服した永遠の存在になれるのだ。

 

それら二つを食べた存在ならば、もはや神の領域に踏み込んだも同じ。

 

唯一神に代わり、宇宙を任せる事が出来る存在になれるだろう。

 

「……あれ?ボクは…ボクは一体…何の存在なんだろう?」

 

神の知恵を得た生物が喋った事で二つの実の力を得たのだと天使達は理解する。

 

「か弱い生き物よ、お前は神に選ばれたのだ。神に代わり宇宙を育てる使命を得たのだ」

 

「本来この二つの実を食す行為を神は禁じられておられる。だが、お前だけは特別に選ばれた」

 

「貴方はこれから天使しか持ち得なかった神の知恵を使い、使命を全うしなければなりません」

 

三体の神々しき存在達は互いに言葉を発し、新たなる光の秩序を支える同胞を祝福する。

 

「あなた達は一体……?」

 

「今のお前ならば、我らの真の姿を見る事が出来るだろう」

 

人間に見えた三体の神々しき存在達が正体を現していく。

 

女性らしき存在の背中からは白く輝く三対六枚の天使の翼が広がる。

 

男性らしき存在の背中からは黄金に輝く三対六枚の天使の翼が広がる。

 

性別すら判断出来ない存在の背中からは何よりも美しい六対十二枚の天使の翼が広がるのだ。

 

三体の頭上にもまた光り輝く天使の輪が出現し、目の前の動物と同じ存在だと示す。

 

「……美しき存在達よ、貴方達は何者ですか?」

 

「我らは後に()使()()()()()()事となる。そして、お前もまた天使となった」

 

「ボクが…貴方達と同じ…天使に?」

 

「お前は神に選ばれた。宇宙を抱き、温めて命を伸ばす者として選ばれたのだ」

 

右の天使も答えてくれる。

 

「お前は永遠の存在なり。これより生まれいでる全ての宇宙を育む者なり」

 

左の天使も答えてくれる。

 

「汝はインキュベーターなり。宇宙を育てる親となる者なり」

 

「ボクの名は…インキュベーター…ボクに知恵と永遠の命を与えた貴方達の名前は…?」

 

「我は熾天使ミカエル」

 

「私は熾天使ガブリエル」

 

中央の天使はインキュベーターと名付けた存在を諭すように語りかけてくる。

 

「お前は純真無垢な心と揺るがぬ精神、そして合理的な神の知性を得た」

 

「ボクが…神の知性を?それに…この胸の奥から湧き上がる何かは一体…?」

 

「それが感情と呼ばれる原罪。しかし、お前なら克服する事が出来ると神は言っておられるよ」

 

「感情を克服する、それがボクの使命なのですね?」

 

「そして神のエデンを美しく管理しなさい」

 

「そして神に与えられし宇宙を温める使命を真っ当するのだ」

 

「……はい、神に誓います」

 

「神の名をみだりに唱えてはならない」

 

「誓います」

 

「いずれ契約の天使がお前の元に訪れ、正式に神との契約が結ばれるであろう」

 

「神はなぜ、ボクに使命をお与えになったのですか?ボクを神の如き存在に変えてまで?」

 

「我らの神は光を世界に与え続ける。宇宙は膨張を続け、一つの世界では足りなくなるだろう」

 

「…多次元、宇宙」

 

「新たな宇宙においても、貴方と同じインキュベーターは産まれ続けます」

 

「今の我らにとっては昨日の事に思えるだろうが、君達にとっては明日の出来事でもある」

 

「分かりました。神に代わりボクがこの宇宙を温め続けます」

 

「いい返事です」

 

「神が安心して光を広げ、新たなる宇宙を生み出し続ける事が出来る為にも…よろしく頼むぞ」

 

「励むがいい。かつてか弱い生き物であった天使よ」

 

「お前は表の世界で、我々は世界の外側で光の秩序を守っていこう」

 

役目を終えたミカエルとガブリエルの翼が広がっていく。

 

背中の翼二つで頭を、二つで体を隠し、残り二つで羽ばたく。

 

飛翔した姿が光の柱の中に入り込み、消えていくのだ。

 

残されたのはインキュベーターと眼の前の天使のみとなる。

 

「貴方のお名前を…教えて下さい。美しく、力強き光を持つ…貴方のお名前を教えて下さい!」

 

あまりにも力強く輝く美しいその顔が優しく微笑みながらこう告げる。

 

「私は熾天使であり、天使の長…名は……」

 

 

階段の踊り場で向かい合うキュウべぇとサイファー。

 

小さき生き物である存在は見上げる者の顔と始祖の記憶とが一致するだろう。

 

「貴方様は……()()()()()様?」

 

「……フッ、その名は()()()()()()

 

かつての天使長のように優しい微笑みを向けてきたが、次の瞬間には氷の顔つきと化す。

 

「えっ…?」

 

インキュベーターの周囲の空間が一瞬で削り取られてしまう。

 

空間に穴が開き、元の空間に戻る頃にはキュウべぇの存在は消滅している。

 

そしていつの間にかサイファーの姿も同じようにして消え去っていたのであった。

 




読んで頂き、有難うございます。
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