人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
1月28日、時刻は早朝。
「くっ……」
体をベットから持ち上げる尚紀であるが胸の痛みに顔が歪む。
「杏子から受けた傷は魔石を飲み込み塞いだが…完全回復とまではいかないか」
だが、休んでいる訳にはいかない。
今日はペンタグラムとの決着をつけなければならない日。
「連中が決起を行う場所として指定してきたのは東京湾メガフロート都市…時刻の指定はない」
彼は復讐を果たす考えを巡らせていく。
「潜伏して待つべきか?いや…今回ばかりは派手な死闘になる」
チェンシーとの実力差が脳裏を過る。
「周りに人間がいる限り、強大な魔法行使は出来ない。それが俺の弱点だ…」
相手は容赦なく弱点をついてくる上に実力差まである不利な戦いとなるだろう。
「建設作業員を人質にする可能性がある…警戒を呼びかけるか?部外者として通報されるか…」
後手に回るしか無い現状に対して彼は苛立ちを隠せない。
「不利な戦いなど、かつての世界で幾らでも経験してきた……逃げる選択肢などない」
彼なりに戦略を考えていく。
「恐らくは乱戦となる。周囲の人々を人質とするならば…一箇所に集めると考えられるな」
ならばいっそのこと、それを利用してやると彼は思いつく。
街の至るところに人間がいては魔法の乱射は行えずに戦いの邪魔となる。
ならば人質を引き渡し、後から開放する選択をしたようだ。
「人々に被害が及ばないよう…俺が敵の猛攻を全面的に浴びるしかないな」
人質が有効利用出来ていると判断している状況ならば人質に危害を加えないと計算する。
「問題は人質を利用して俺の動きを封じる手口だが…あのチェンシーが使うとは考えにくい」
状況を分析すればする程に不利となっていく。
「あらゆる手口を使ってくる…それを潜り抜け、満身創痍になろうとも…俺はやる」
今日は仇との決着をつけるべき愛した人の命日。
復讐を果たすにはうってつけの日にちであり、このチャンスを逃すつもりはないのだろう。
「ちょっと待つニャー尚紀!!」
足元の猫達が心配そうに彼を見上げてくる。
「傷はまだ癒えていない。それでも決着に赴くというのなら、それは無謀というものよ」
「傷が癒えてからでも遅くはないニャ!!前だってボコボコにされて帰って来たニャ!」
「相手は貴方よりも技量のある敵でしょ?そして知性も持っている…敵陣での戦いになるわ」
「…全て覚悟の上だ」
ペンタグラム決起の目的を考えるとしたら、最初に出会ったあの場で語られた事が全てだろう。
「人類支配…それが連中の目的だ。今日を逃した時点で…人類は終わるかもしれない」
「何が潜んでいようが、止める以外に選択肢はないのかニャー…?」
「今日は仕事を休むしかないな」
事務所に連絡を入れ、魔法少女の狩人としての黒衣に身を包む。
「今は…敵の動きを待つしかない」
「……命の保証は無いわよ」
「そうだな…。なら、東京で関わった全ての人達に別れを済ませてくるか」
スマホを持ち、神浜にいる美雨にメールを送る。
『今日、決着をつけてくる』
『生きて帰れなかったら…マスターに済まないと言っておいてくれ』
返事は直ぐに帰ってきたようだ。
『ナオキ、必ずそいつブチのめして…帰てくるヨ』
『お前は私のライバル。そして、木人椿を買てもらう金づるネ』
「フッ…相変わらずの態度だな」
生きて帰れなければ必要のないものであるスマホをベットの上に捨ててしまう。
そして次は二匹の猫悪魔達の首根っこを掴む。
「ちょっ!?何する気ニャー尚紀!?」
「ま、まさか…私達とまで!?」
暴れ回る二匹と一緒に玄関の外に出てくる。
「俺が帰ってこなければ…お前達は野良に帰れ」
「ニャァァー嫌ニャ!!オイラも戦うニャー!」
「駄目だ」
「何でニャ!?オイラ達は仲魔じゃなかったのかニャ!!」
「お前が来ても死ぬだけだ」
「うっ…まぁ、それはそうニャんだけど……」
「人間に気に入られる方法をネコマタから学んで、いい飼い主を探してくれ」
「どうしても行くのね、尚紀……分かったわ」
「すまないな」
「二日ここで待って、貴方が帰ってこなければ……新しい飼い主を探すわね」
「ヤダヤダヤダニャー!!尚紀がオイラの飼い主なのがいいニャ!!」
「我儘言うなよ」
「悪魔のオイラ達を本当に理解してくれるのは…悪魔だけニャ!!」
「なら人間に化けた悪魔の末裔でも探すんだな」
「オイラ尚紀が帰ってくるまで…ここから動かないニャ!!」
「ケットシー……」
「必ず…必ず帰ってくるニャ……尚紀!!」
「…私たち悪魔に祈る神はいない。それでも信じる事は出来る…尚紀を信じるわ」
「……楽しかったぜ。お前らと出会えて良かった」
通路を歩きながら去っていく尚紀の背中を猫悪魔達は見送る事しか出来ない。
「尚紀がオイラの飼い主ニャ……オイラ、ここを墓にするニャ」
「私も同じ覚悟よ、ケットシー。彼が帰ってくると信じて…飢えて死ぬまで待ち続けるわ」
その頃、マンションと隣接している歌舞伎町に彼は赴くために歩いていく。
便利屋としての仕事を仲介してくれたシュウにも別れの挨拶を行うようだ。
「生きて帰れる保証は無い戦いに赴くんですね…?」
「ああ…今回ばかりは分が悪過ぎる。生きて帰れる保証は無い」
「貴方なら帰ってこれます。これまでも普通なら死ぬ依頼をこなしてきたじゃないですか?」
「シュウ……」
「僕は帰ってくると信じます。そしてまた歌舞伎町の便利屋としてパートナーを組んで下さい」
「……分かった。生きて帰れたら…また俺と組んでくれ」
シュウと別れた尚紀は歌舞伎町を去り、次は銀座にあるBARマダムに向かう事となる。
「午前中に店が開いているだろうか…?」
エレベーターから降り、回廊を見渡すが誰もいない中を歩いて豪華な扉の前で立つ。
「店の鍵がかかっていないな?」
両開きの扉を開けると奥には既にニュクスが立っている。
「来ると分かってたわ、尚紀。それとも…戦いに赴く悪魔として、人修羅と言おうかしら?」
「流石に情報が早いな」
「ええ。だって私は概念存在である神ですもの」
「神様なら未来を知れるとでも言うのか?」
「過去、現在、未来、他の宇宙。そこに神という概念存在が在れば、既に私が存在してるのよ」
「それじゃあ、未来人の神として…この戦いの結末を教えてくれよ」
「あら?未来に私がいたとして、未来の私が戦いの結末を教えてくれるとは限らないわよ?」
「どういう理屈だ?」
「未来は知らない方がいい…
「……ああ」
「その意思が未来を作るの。さぁ、立ち話もなんだから座って頂戴」
「酒を飲みに来たんじゃない」
「今は夜じゃないからお酒は出せないわよ?ジュースぐらいなら奢ってあげるわ♪」
客席に案内され、飲み物を飲みながらニュクスに質問していく。
「なぁ…人間や魔法少女、それに俺達のような悪魔が共に生きていた時代はどうだった?」
「人類は私達をこの地に召喚した。そして私達を神として崇め、様々な信仰が生まれたわ」
「多神教時代か。中東・エジプト・ローマ・インド・中国・日本。様々な神話が誕生したか…」
「弊害もあった。欲深き悪魔も存在して感情エネルギーや魂を目的に人々を襲う奴らもいたの」
「マガツヒ目当てか…実に悪魔らしいな」
「そんな者達を人類と私達神々が共に戦って駆逐してきたわ…」
「魔法少女から生まれる魔女以外の驚異となった者達もいたってわけか」
「でもね…価値観とは多様なものよ」
「言いたい事は分かる。お前達の存在を肯定する者もいたら…否定する奴らもいたんだろ?」
「そうね…共生は長くは続かなかった。一神教が力を持ち、私達は迫害の嵐となったの…」
「一神教の影響が弱かったのはインドやアジアだけだったしな」
「異教の神々は迫害から逃れるように東に逃げた。東の神との争いも生まれ…居場所を失った」
「そして俺達のような連中は…この地で暮らすのが嫌になって魔界に帰った…か」
「でもね、
「現人神がいたのなら、人類の戦争の歴史は神々の戦争になっていただろうしな…」
「人間、魔法少女、それら人類こそが歴史を作るべきなのだと神々は判断したと聞かされる。
だからこそ東の神達も西洋の神々に続いてこの地を去った歴史を聞かされたようだ。
「それでも、人類を愛して残った連中がいた」
「私もその一体であり、この国の天津神族の長アマテラスは子孫をこの地に残したりもしたわ」
「天皇一族か」
「アマテラスは高天原を統べる主宰神の立場がある以上、地上で暮らす事は出来なかったの…」
「ついでに三種の神器も天孫降臨とやらでくれてやったようだな」
「全ては末永い我が子が築く国の安寧を願っていたのよ。だけど…人類はそれが出来なかった」
「……原罪がもたらす戦乱か」
「人類というものはね、良い面もあれば悪い面も必ずあるの」
「…悪い面にだけ、良い面は犠牲になっていくがな」
「
「悪い面が人々の命を奪うなら、俺が変革させる」
そう言うと立ち上がって入り口に向かう中、彼は立ち止まってこう告げる。
「…俺は人間を傷つけて殺す魔法少女を許さない。勘定は生きて帰ったら払いに来る」
そう言い残して去っていくのだ。
「尚紀…いいえ、悪魔の頂点である混沌王よ。どうか……魔法少女達を信じてあげて」
――――――――――――――――――――――――――――――――
銀座にあるジュエリーRAGに訪れるとニコラスが出迎えてくれる。
「待っていたよ、ナオキ君」
「お前も魔石の未来予知のお陰で未来人だったか、ニコラス」
「椅子にかけてくれ。これが君との最後の会話にならない事を祈ろう」
促された尚紀は商談用ソファーに座ってニコラスと向かい合う。
「東京に現れ、幾度の災禍を東京に撒き散らした魔法少女達との決着をつけに行くのだな」
「ああ…連中の命は今日までだ」
「彼女達は強い。600年以上魔法少女を見てきたが、あれ程の実力者はそういなかったよ…」
「だろうな…東京にいる魔法少女共とはレベルが違う。魔法少女の強さとは何で決まるんだ?」
「才能や経験もあるだろうが、何よりも魔法少女の魔力の力を上げるのは…
「因果?」
「ジャンヌ・ダルク。この歴史人物を聞いたことがない者はいないだろう」
「まぁな」
「ジャンヌ・ダルクは魔法少女であったのだ」
「歴史に名を残す英雄が……魔法少女?」
「英雄と呼ばれた魔法少女の多くはね、世界にもたらす多大なる因果を持ち合わせていた」
「因果をより多く携えれば…魔法少女は強くなれるのか?」
「その通り。そして、それは他者に与える運命を背負うと言ってもいい」
「歴史上の英雄が背負った因果…それが魔法少女の魔力となるのか?」
「ペンタグラムのリーダーであるチェンシー。彼女はこの世界に強い因果をもたらす存在だ」
「……そうなるかもしれない」
「それは人類の救済という形ではない。人類に破滅をもたらす因果を与える存在…
「英雄であろうとなかろうと、世界に与える因果の量で…魔法少女の力は変わるのか」
「彼女の因果は世界を覆う。国という小さな因果を背負ったジャンヌ・ダルクを超えるだろう」
「因果の魔力だけじゃない。あいつには戦いの才能や経験…あらゆるものが備わり過ぎている」
「極めて…分が悪い戦いとなるな」
「……ああ」
既にチェンシーは魔法少女や英雄の次元さえも越えようとしているとニコラスは言う。
彼女の力は仙域に達し、神々の門の前にまで力を辿り着かせようとしていると聞かされる。
「…フン。生まれる時代が違ったら、あの女は災厄の名で歴史に名を刻んだろうな」
席から立ち上がり、尚紀は店を出ようとする。
背中を見送るニコラスだったが、重い口が開いていく。
「…今日、このペンタグラムとの最後の戦いこそが引き金になる」
「引き金…?」
「私の妻が…この国に訪れるきっかけとなるんだ」
「そうか…だったら覚悟を決めるんだな。その時に、俺がお前の隣にいるとは限らない」
「必ず帰ってきてくれ、ナオキ君。そして……いや、すまない」
「お前の妻は…必ずお前が救うんだ、ニコラス。俺と同じようにならないためにもな」
そう言い残して彼は店から去っていく。
「私に出来るのだろうか…?悪魔から、妻を救う事が……?」
ニコラスの店から離れた尚紀は将門の首塚に訪れた頃には昼過ぎの時刻となっている。
<<来ると分かっておったぞ、人修羅よ。別れの挨拶にでも来たか?>>
<あんたに頼まれ、東京の守護者をやってきたが…この戦いに生き残れなければ、それまでだ>
首塚に線香を灯し、立ち昇る煙の中で手を合わす。
<<ペンタグラムと名乗る魔法少女達と決着をつけに赴くか>>
<……ああ>
<<あの者達は東京を酷く傷つけた存在共だ…八つ裂きにしろ>>
<言われなくても、あんたより小さく刻んでやるさ。あいつらとの因縁は今日…必ず断ち切る>
<<殊勝な心がけだ。ところで…お前に伝えておかねばならぬ事があるのだ>>
<伝えること?>
<<お前の体の中で砕け散ったマガタマ、マサカドゥスについてだ>>
<マサカドゥスがどうかしたのか?>
<<お前は魔法少女達との戦いによって、様々な災厄を経験した>>
<……大勢、失ったよ>
<<それによって禍魂の破片が徐々に息を吹き返し、動き始めている>>
<マサカドゥスは…蘇りたがっているのか?>
<<災厄の中より産まれし禍魂は、災厄をもって産むしか無いのだが…一つ提案がある>>
<言ってみろ>
――砕けた禍魂の破片を、
<禍魂を…同じ禍魂に寄生させるのか?>
<<禍魂は災厄の中より生まれる兄弟も同然なのだ>>
砕けたモノを1に戻すよりは、1を与えて一体化させる。
新たな1を生み出せと将門公は言ってくる。
<1は兄弟…故に全。全は新たなる1ともなる……か>
<<これは原初の混沌と同じマロガレによって理論付けたものだ>>
<だとしたら…依代とすべき禍魂は…>
右手にマロガレの脈動を感じていく。
<<それともう一つ。これは以前、伝え忘れていたことなのだが…>>
<……言ってみろ>
<<お前の体の中に散らばった破片の中に、マガタマの破片とは違う破片を見つけたのだ>>
<砕かれたマサカドゥスとは違う破片だと?>
<<心当たりがあるのではないか?>>
脳裏に浮かぶのはダンテとの戦いの記憶であり、貫かれた古傷が疼きだす。
<……
<<その破片がお前に何をもたらすかは分からぬ。だが、その破片は生きておる>>
<ダンテの置き土産か…。返せと言いに現れないなら、これは俺が貰ってもいいという事だな>
<<マサカドゥスの声に耳を傾けるのだ。災厄の中でのみマガタマは応えてくれる>>
災厄が体と心を十分蝕めば、必ずマサカドゥスは応えるだろうと餞別代りに伝えたようだ。
<…分かった、行ってくるぜ。東京の守護者として…ケリをつけにな>
<<必ず帰ってこい。この世界で魔なる者を相手に東京の守護者として戦ってくれた者は…>>
――お前だけだった。
去っていく悪魔を見送り、東京の守護神は再び沈黙するのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「…よぉ。随分遅い出勤じゃねーか、尚紀?」
聖探偵事務所に彼が訪れた頃には時刻は既に夕刻となっている。
「つーか、何だその姿は?いつもの服装はどうした?」
「……これを受け取って欲しい」
黒衣のポケットから封筒を取り出し、所長の机に置く。
「……どういうつもりだよ?」
退職届と書かれた封筒に目を向けた後、所長は真剣な顔つきで彼に向き直る。
「生きて帰れないかもしれない捜査に行ってくる」
「何だと!?」
「死んだら行方不明になるだろうが、捜索願いや行政手続きなんかをやらせる訳にはいかない」
「一体どんなヤバい案件に首突っ込んだんだよ!?俺だって協力は出来るぜ!」
「これはただの事件じゃすまない…探偵や警察の力じゃどうする事も出来ない案件だ」
頑なな態度を見せる職員に対して所長は深く溜息をつく。
椅子を横に回転させて深く背もたれながら窓のブラインド隙間から入り込む夕日を見つめる。
そんな時、丈二は重い口を開いてくれる。
「なぁ…尚紀。俺が警察を辞めた理由を話してなかったな」
手に持ったコーヒーを啜りながら丈二は語り始める。
「この国で行方不明になっている人間の数を知ってるか?」
「毎年8万人以上が姿を消していると聞く」
「行方不明届が受理されてない数を入れたら…もっとだな」
「それが刑事を辞めた理由と繋がるというのか?」
「ただの行方不明とは思えない事件も多いんだよ」
痕跡さえ追えない神隠しにあったような失踪者が後を断たないのだと尚紀は告げられる。
丈二が言う神隠しによる行方不明事件なら尚紀は知っている者だろう。
それが魔法少女絡みであろう事は魔法少女と深く関わる彼でしか理解出来ない。
「本人の意思で家出したのか、特異行方不明者なのかも判断がつかない」
「そうなる場合、自分の意思で失踪した行方不明者として扱われるのが日本の現状だな」
「そのせいで…警察も消極的な捜査しか出来ないんだよ」
「だからこそ民事で動く探偵屋がいるんだ。そんな現状を憂いて探偵事務所を開業したのか?」
「俺が捜査第一課に努めていた頃の話だ。俺をデカとして鍛えてくれた先輩がいたんだが…」
「捜査第一課?たしか殺人・強盗・誘拐等の凶悪犯罪捜査を行っている刑事連中だな」
「俺を鍛えた恩人の先輩警部には、一人娘がいた」
警部の妻は職業柄いつ夫が死ぬか分からないせいで心身を喪失した末に離婚したと聞かされる。
「残された先輩警部にとって…大事な娘さんだったようだな」
「仕事で家を留守にする父親だが、娘は正義のヒーローと呼ぶ程に先輩を誇りにしてくれてた」
自分も将来そうなりたいと言ってくれた娘に対して先輩刑事は溺愛したと聞かされる。
「…いつ頃だったか、娘さんは行方不明者となった」
事件性が疑われなかった理由で捜査は行われず、探偵を利用して捜索するが見つからない。
「…父親は刑事だ。自分でも探したのか?」
「ああ…休日だろうが探して回っていた頃…その先輩警部まで行方不明者となったんだ…」
「刑事が行方不明になったなら警察だって動くだろ?」
「先輩は事件に巻き込まれたのだと俺は上層部に主張した。だが…警視庁は動いてくれない」
「民事不介入の原則か…」
「何より許せないのは…人手が足りない、優先すべき仕事があるだのとほざく…組織の怠慢だ」
「…お前は諦めず、知りたくなったのか?」
「その通り。なぜ社会では原因不明の行方不明者が続出するのか…知りたくなったんだ」
「毎日の職務に埋もれてしまう刑事職を辞めてでも…社会の闇を知りたくなったんだな」
「ああ……。独立してからも捜査を続けた頃に…おかしなコスプレ少女とお前に出会った」
「……そうか」
「なぁ…お前が首を突っ込んでるヤバい捜査ってのは、あのコスプレ少女共が絡んでるのか?」
迷った後に決断した尚紀は頷いてくれる。
「なぁ、尚紀。俺が人生で一番いい買い物をしたモノは…何だと思う?」
「……さぁな」
「お前と出会えなかったら殺されてた。あれが…先輩と娘さんの行方不明の手がかりだと思う」
「俺と丈二が出会う事になった日だったな…」
「俺の人生で一番いい買い物は……お前なんだよ、尚紀」
そう言うと退職届を手に取った丈二は破り捨ててしまう。
「代わりなんていない。これから先、先輩達の行方不明の真相を暴くには…お前の力が必要だ」
「丈二……」
「必ず帰ってこいよ、尚紀。これは所長命令だ」
「……フッ、期待されたもんだな。了解だ、ボス」
互いに頷き合った時、事務所のTVに視線が向かう。
テレビ番組に速報テロップが流れると二人の目が見開いてしまう程のニュースが流れる。
「東京都江東区のメガフロート都市計画地区で…アメリカ軍の部隊が地区を占拠だと!?」
「おいおい…嘘だろ!?もしかして、これがお前が関わってる捜査なのか!?」
そのニュースを見た途端、尚紀は弾かれたようにして事務所から出ていってしまう。
階段を飛び降り、ガレージから出ようとした時に声をかける者が現れる。
「尚紀!!これを受け取りなさい!」
瑠偉の声が聞こえて振り返ると車のスマートキーが投げ渡されたので片手で受け取る。
「私の車、使っていいわよ。早くメガフロート地区に向かいたいんでしょ?」
「いいのか?悪いが…この状態で返せる保証は全くないぞ」
「いいのよ、貴方にそれあげる」
指差した先にはアウディR8スパイダーの車体が見える。
「気前がいいな。また車に飽きたのか?」
「貴方がそれ壊したら、車を弁償しに帰ってこなければならないでしょ?」
「瑠偉……」
「冗談♡それは貴方にあげるけど、貴方が恩義を感じて帰る理由になるのなら惜しくはない」
「…すまない、使わせてもらう」
オープン屋根から運転席に飛び乗り、エンジンスイッチを押す。
車のエンジンが始動し、ハンドルを持つ。
瑠偉が歩み寄り、彼の顔を覗き込んでくる。
「貴方は私達に必要な存在なのよ。だから必ず…生きて帰りなさい」
「ああ……分かった」
それが聞けた瑠偉は満足そうに微笑み、ガレージシャッターボタンを押す。
唸り続けるエンジン音と共に外の光がガレージ内に入ってくる。
「…今度こそ、決着をつけてやる!!」
シャッターが上がると同時に車が急発進していく。
ガレージの外で見送る瑠偉であるが、遠いまなざしを浮かべながら呟いてしまう。
「……思い出すわね」
それは永遠に忘れられないであろう記憶。
思い出すのは混沌王となった人修羅と戦った世界の記憶であった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
そこは、何も無かった。
在るのは暗闇に包まれた大地のみ。
闇の世界に佇むのは発光する入れ墨を全身に纏った悪魔のみ。
その心は既に闇に堕ちているのだろう。
――カグツチは、そのひかりをうしなってしまった。
――ひとりのアクマの、てにかかって。
――せかいはもう、うまれかわれない、もうソウセイは、できなくなってしまった。
――うまれ、そだち、ほろび、そしてまたうまれる。
――それがこのセカイのあるべきすがただったのに。
――ひとりのアクマが、それをゆるさなかった。
一つの宇宙が死滅した。
残されたのは原初の混沌世界であり、創世記で語られる世界の在りよう。
一人の悪魔が成し遂げた偉業となり、大いなる混沌王の伝説が敷かれた景色であろう。
――世界が生まれ、人が現れ、そして滅んでいく。
――その輪廻が時を刻み、輪廻の死が時を止める、今また、時が死を迎えた。
――創りかえられるはずだった世界と引き換えに、生まれてきたのは。
――混沌を支配し、死の上に死を築いてきた、闇の力だ。
――もはや、おまえには解ってはいないだろう、自分の意思の向かう先、力の向かう先がな。
――大いなる意思はその意に逆らったおまえを呪い、罪科の償いを永遠にさせんとするだろう。
―――案ずるな。
―――おまえは、その呪われた身をもって初めて真に世界を征服する道を歩む事ができるのだ。
―――だが、そのためには最後に、おまえの内なる闇の力を見なくてはならん。
―――そう、大いなる意思の産んだ、最高の闇の力をもってな。
世界が生まれ、幼少期を迎える象徴の姿をした喪服の少年。
世界が老いて、死を迎える象徴の姿をした金髪の老紳士。
人なる悪魔は二人の影に目が向かう。
闇に染まった真紅の瞳で見つめ続けると足元から流れ出るのは赤黒い血の海。
血の海は混沌王の背後にまで流れていき、既に背後は巨大な血の海。
血の海が膨れ上がっていき、闇の形を作り上げていく。
血の海が凝固し、現れたのは巨大な悪魔の姿。
人なる悪魔は背後に振り返る。
そこには、天地貫く
<<我が名は大魔王ルシファー。お前の闇の力を……全ての力を、私に示せ>>
【ルシファー】
ユダヤ・キリスト教の堕天使であり、全ての堕天使、悪魔、魔神の上に君臨する大魔王。
その名はラテン語で
ヘブライ語では
かつては光と知恵の熾天使であり、神に最も近い地位を与えられた存在。
だが神の座を求めるようになり、天使の三分の一を率いて反乱を起こす。
しかし同じ熾天使である大天使の長ミカエルとの戦いに破れ、地獄に堕ちる事となる。
サタンと同一視され、7つの大罪のうち傲慢を司る悪魔であった。
「……ルシファー。それがお前の真の姿か」
人の心を失った人修羅は怯える事なく大魔王を見上げる。
「いいだろう、カグツチを倒した次は…サタンであるお前を破壊する」
<<…我は、
「……?」
<<いずれその意味……お前は理解する>>
「大いなる闇を名乗る貴様を超えて俺は進む……俺は大いなる神の全てを破壊する悪魔だ」
互いから溢れ出る極限の神域に至る程の魔力の波動が暗闇の世界を大きく揺るがす。
人修羅の全身から噴き上がるのは深碧の魔力。
三対六枚の巨大な翼を持つルシファーの全身から噴き上がるのは赤黒い魔力。
今ここに始まるのだ。
混沌王へと至った人なる悪魔と大魔王と呼ばれし魔界の王との戦いが始まるのだ。
最早この戦いは大いなる神であろうと止める術は無い。
人修羅と呼ばれし悪魔がこの戦いに生き残ったならば、悪魔達はこう讃えよう。
もう1つの大いなる闇と讃えられる程の大悪魔として伝説になるのであった。
♦
そっと瞼を開けた瑠偉の口元は歪んだ笑みを浮かべている。
「行くがいい、人修羅」
――お前の伝説を、取り戻してこい。
読んで頂き、有難うございます。