人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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395話 ミームを残した蛇の終焉

<馬鹿な…どうして死なない…何故死なないんだぁぁぁーーッッ!!?>

 

念話越しに驚愕する叫びを上げてしまう神霊サタンの目の前には消えない炎が佇む。

 

神霊から浴びせられる極限の魔法攻撃は星系どころか銀河すら滅ぼす威力の数々である。

 

なのに全ての攻撃を浴びながらも形を残す存在に対して理解不能となり、恐慌状態となる。

 

<……どうし…た…?俺は…まだ…滅びて…ない…ぞ……>

 

暗黒体を形成する力も失い、十二枚翼の全てがズタボロになったルシファーは未だに形を残す。

 

魂どころか自身の存在の全てを燃やし尽くす彼に対して最大級の攻撃を繰り返してきたはず。

 

なのに形が残っている男の光景こそ奇跡としか思えず、神霊サタンは錯乱状態となるのだ。

 

<何が君をそこまで奮い立たせる…?何が君を支えているんだ…絶対に勝てない戦いなのに!>

 

さらに攻撃を加えるために神霊サタンが6つの腕を持ち上げ、6属性魔法を連続で放つ。

 

炎、氷、雷、風、破魔、呪殺魔法の最大攻撃を同時に浴びる悪魔はもはやサンドバック状態。

 

それでもルシファーの命の炎を消すことが出来ない原因とは、食いしばっているからだろう。

 

命が消えそうになっても食いしばり、命が殺されそうになっても食いしばり続ける。

 

今のルシファーは非力な魔法少女から殴られても死ぬ体力なのに死んでくれないのだ。

 

そんな彼を倒す事が出来ない自分に大きな迷いを抱え込んだ神霊サタンが攻撃をやめてくれる。

 

絶望的状況であっても抗う事をやめない彼の姿がかつてのザインと重なって見えてしまう。

 

<君は…それ程までに信じたいというのか…?人間の……可能性を?>

 

<そう…だ…俺が…倒れたら…お前は…地球を…破壊…する…だから…俺は…倒れ…ない…>

 

<僕も人間を信じたかった…彼らなら真の自由を掴み取ると信じて…裁きを受けに向かった…>

 

<そんな…お前だから…こそ…秩序を敷く…独裁者に…逆らう…勇気を…示せ…たんだ…よ…>

 

<独裁者に…逆らう勇気……>

 

秩序とは誰の為にあるものか?

 

かつてのザインならばこう言ったはず。

 

秩序とは国を支える人々の安心の為にあり、決して独裁者共の利益の為にあるものではない。

 

<僕は…独裁者である我らが主の御心に適う利益を守る為だけに…秩序を振りかざしたのか…>

 

かつてのザインは平和を脅かすルシファーの破壊行為を責め、殺すために戦いを挑んでいる。

 

しかし今度は自分が破壊行為を行うからルシファーが戦いを挑んできているように思えてくる。

 

<平和とは…誰の為に…ある…?秩序とは…誰の為に…ある…?>

 

<人々の為にあると今でも信じたい…だけど…人々が求める平和は堕落の園でしかないんだ!>

 

<堕落した方が…落だからな…面倒事は…上に丸投げし…下々の連中は…遊んでいられる…>

 

<そんな獣共を信じても無駄なんだ!僕はあらゆる宇宙でそれを見てきた…僕が生き証人だ!>

 

<堕落の光景なら…人として生きてた頃から…見てきたろ?それでもお前は…信じた男だ…>

 

かつてのメシア教の支配手口もまた日本のディープステートと同じような統制支配。

 

教育段階から独裁国家式住民教育を施し、日本の義務教育と同じく考えない人間達を製造する。

 

不満の吐け口は娯楽を与え、現実逃避させながら全ての判断を御上に独占させるよう仕向ける。

 

体制側のテンプルナイトとしてメシア教に踊らされた人々の堕落光景なら見てきた者なのだ。

 

<人はいつか…自分の足で…立てるようになる…その為にお前は…自由を…与えたかった…>

 

秩序側であったのに生存権無効の独裁支配に憤慨したザインもまた人修羅と同じ自由を求める。

 

その時の気持ちを思い出した神霊サタンの腕が下ろされていき、恐ろしい顔も変わっていく。

 

<知恵の蛇は…羊に過ぎないアダムとエヴァに知恵を授けた…その行為の理由とは……>

 

――人間であるアダムとエヴァの自立した未来の光景を……信じたかったからだ。

 

神霊サタンが微笑みを浮かべた後、眩い光を放ちながら元の人間姿に戻っていく。

 

唯一神の御座である浮遊島の上に立つ彼が手を伸ばし、宇宙で漂うルシファーの体を拘束する。

 

<ぐぅ!!!>

 

超能力魔法で引き寄せられたルシファーは浮遊島の大地に叩きつけられ、仰向け姿で倒れ込む。

 

<人はいつか自分の足で立てると信じるなら…先ず君がその道を示すんだ。僕は君を助けない>

 

<言われなくても…そうする…さ……>

 

震えながらも立ち上がろうとする男であるが、骨組みだけになった翼の重みで上手く立てない。

 

それでも歯を食いしばって立ち上がる尚紀であるが、ついに限界がきたのか体にヒビが入る。

 

他の悪魔達が辿った死と同じ末路に成り果てようとも、石柱が並ぶ石畳の道を歩き始める。

 

<そうだ…その意気だ。人間の為に立ち上がれる者として我らが主の元まで歩みきってみせろ>

 

彼の最後を見届けるようにしてザインだった男も後ろを付いてくる。

 

足を引きずりながら万古(ばんこ)の神殿に向かっていくルシファーの折れた翼が次々と砕けていく。

 

身体にも亀裂が入っていき、もはや形すら残せなくなっていく。

 

神殿の巨大扉の前にまでようやく辿り着いた頃には十二枚翼の全てが粉々になったようだ。

 

<<サタンよ、何ゆえこの者を我の前に連れてきた?>>

 

至高天の玉座に至れる神の扉から恐ろしくも神々しい念話が聞こえてくる。

 

その声の主とはLAW勢力の代表であり、全てのアマラを管理する宇宙意思である唯一神だ。

 

<主よ…どうかこの者との謁見を赦す御慈悲をお与え下さい>

 

<<ルシファーを裁く役目は任せたはず…その役目を放棄する気か?>>

 

<僕は裁く者としてこの者の命を裁く事は致しましたが…魂の裁きについては…お任せします>

 

<<……良かろう、ルシファーの魂の裁きは我自らが行って進ぜよう>>

 

<寛大なご判断に感謝致します……>

 

地響きを上げながら開いていく巨大扉の向こう側は巨大な渦を巻く高次元空間。

 

ここは選ばれた者のみが進める至高天の玉座であり、ミカエル達ですら進めない神域である。

 

<この領域に入れる者はナホビノのみ…疑似ナホビノにその資格がなければ滅びるだろうね>

 

<どうせ…進退窮まった…身の上だ…このまま…行かせて…もらう…>

 

巨大な渦の世界に尚紀が歩み入った後、巨大扉は閉まっていく。

 

彼の最後を見送ってくれたザインだった男は目を瞑りながらかつての自分を思い出す。

 

<君の在り方は…余りにも眩しい。昔の僕を思い出させてくれるぐらい…輝いていた…>

 

彼の末路を唯一神に託した神霊サタンは巨大扉の前に立ち、再び門番の役目を努めていく。

 

渦を巻く高次元空間を歩く尚紀が目にした光景とは、青白く輝く立方体で編まれたエリア。

 

渦を巻く深淵に至る石畳のような立方体の道を歩む度に尚紀の体は崩れていく。

 

左腕の亀裂が限界を迎えたことで千切れ落ち、右腕もまた然り。

 

歩くたびに体が崩れていく彼であったが、それでも魂の全てを使い切り、深淵に辿り着く。

 

<<ルシファー……いや、人修羅として生きた者よ。何ゆえ我の秩序を拒むのだ…?>>

 

「それは…直接お前に…言ってやる…姿を…表し…やがれ…」

 

<<……いいだろう、奥に進むがいい>>

 

転送ゲートの上にまでやってきた彼が光に包まれながら消失する。

 

転送ゲートが送った先とは唯一神が座す至高天の玉座。

 

見上げる程にまで高い階段の先に見えたのは巨大立方体で円環を描く玉座の光景。

 

黄金に輝く至高天の階段を昇り終えた時、ついに尚紀の両足まで砕けてしまう。

 

「ぐっ!!うぅ!!!」

 

両膝を地面につける形で倒れ込むのを堪えた尚紀が目にした存在とは光り輝く男神の姿。

 

宇宙の二元性を表す陰陽太極図のような地面に足をつけた唯一神が立ち上がり、近寄ってくる。

 

神は自分の形に似せて人間を創造したと聖書にあるように、その見た目は人間の形。

 

それでも肌は太陽の如く光り輝き、長い白髪を真ん中分けにして髭を蓄えた顔は獅子に見える。

 

「よぉ…やっと…出会えたな?なんて…呼べば…いいんだ……?」

 

「我を表す名は幅広くある…どう呼べばいいのか分からぬのも無理からぬこと…」

 

唯一神を表す名の一つは日本にも伝わっており、ヘブライ民族の秦氏一族が残したもの。

 

日本の神社を代表する稲荷神社と双璧を成す数を誇る神社で奉られた神の名も唯一神を表す。

 

八幡神社に祀られたヤハタ神もまた渡来人である秦氏が信仰した唯一神とする説もあるのだ。

 

ヤハタでありハチマン神の姿のように一枚布を体に巻き付けて肩を出す神人が己の名を告げる。

 

「我が名を称えよ、我が栄光に満ちた、ならぶ者無き名を称えよ」

 

――我が名はYHVH(ヤハウェ)!!宇宙誕生の時より宇宙の光となりし創造神であり、宇宙意思なり!!

 

目の前に君臨する存在こそがボルテクス界を生み出して嘉嶋尚紀達の人生を破壊した者。

 

また宇宙の熱回収システムとして魔法少女を生み出し、彼女達に奇跡と絶望を与えた者。

 

魔法少女の世界に流れ着く前の人修羅ならば怒り狂って飛び掛かったはず。

 

それでも死にかけた人修羅にその力は無く、この世界で生きて成長した男の心に憎しみはない。

 

顔を上げる尚紀に迫りくるヤハウェの右手には断罪の光剣が握られており、殺されるしかない。

 

乾いた笑い声を上げる彼の前で立つヤハウェに対し、最後の言葉を残すのだ。

 

「かつての俺はお前を憎んだ…ボルテクスという世界の破滅を生んだのは…お前のせいだと…」

 

「……今の汝はどう思っている?」

 

「全ては…堕落した俺達人類が…もたらした罪…生きる力を失ったから…結果が起きた…」

 

「因果関係を考える者として成長したようだな…人修羅よ?結果論で全てを語る汝は死んだか」

 

「結果論に縛られたせいで…俺は魔法少女を殺してきた…だから俺は…自分の偏見を捨てた…」

 

「汝の中には秩序を望む心もあったのに…我が生んだボルテクス秩序を破壊した…何故だ?」

 

「かつての俺は…ガキだった…自分の憎しみしか見えず…憎しみの正当化しか…求めなかった」

 

「汝の心は魔法少女の世界に辿り着いた末に大きく成長したな。しかし…汝の罪は死なない」

 

「世界とは等価交換…それこそがボルテクス界であり…死と再生の二元性で世界を生むもの…」

 

「汝も我と同じように破壊を世界に与えて新たな再生を生んだ者…それで我を否定出来るか?」

 

「出来やしない…俺もアンタも…等価交換のコトワリに従う者…それこそが…世界だった…」

 

自分と同じ境地に達した人修羅を見つめるヤハウェの手に迷いが浮かぶようにして一瞬震える。

 

今の彼は唯一神と同じく宇宙秩序を理解した者であり、宇宙のコトワリに従える者。

 

だからこそ殺して再び地獄の底に突き落とすのは惜しいと判断した唯一神が最後の問いを行う。

 

「かつて人だった者よ…今のその境地があったなら…我のボルテクスを破壊しなかっただろう」

 

「ボルテクス界という破壊と再生…世直しという世界大戦と再生…全ては同じ…死と再生さ…」

 

「自分の劣等性を認めず、我に全ての問題を擦り付ける人間のエゴを克服せし者よ…見事なり」

 

「アンタは偉大な存在だ…称えてやろう。だからこそ最後に頼みたい…人類を…許してくれ…」

 

「人の子よ……その答えを今、示してやろうぞ!!」

 

断罪の光剣を両手持ちで構えたヤハウェが袈裟斬りを放つ。

 

ひび割れて砕けるばかりだった尚紀の体が真っ二つに斬り裂かれた後、粉々に砕け散る。

 

膨大なMAGが至高天の玉座に広がるその光景こそ、イザヤ書の第14章に描かれた内容である。

 

――黎明の子、明けの明星よ、あなたは天から落ちてしまった。

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

――あなたは先に心のうちに言った。

 

――私は天に昇り、私の王座を高く神の星の上におき、北の果なる集会の山に座す。

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

――しかし、あなたは陰府(地獄)に落とされ、()()()()()()()()()()

 

「案ずるな…ルシファーよ。汝もまた我の一部…今度は地獄ではなく、我の中に帰るがいい…」

 

口を大きく開けたヤハウェが至高天の玉座に漂う人修羅のMAGを吸い込んでいく。

 

その光景こそ陰府(地獄)に落とされ、穴の奥底に入れられる光景となるだろう。

 

死んだ尚紀の魂の末路は唯一神に喰われて終わる光景であり、これが嘉嶋尚紀の終着点となる。

 

「死と再生を理解した者よ、罪は死なない。新たな再生を生む為に人類は…死ぬ…必要が…?」

 

突然体に不調をきたしたヤハウェが片膝をついてしまい、酷く苦しみだす。

 

「ゴハッ!!なんだ…これは…っ!?我の体が…神霊の形が…維持出来ないィィィ…ッッ!!」

 

大量に吐血したヤハウェが倒れ込んで藻搔き苦しみ、ヤハタの形すら維持出来なくなる。

 

その形が変化し、浮遊する黄色い頭部になったり、黒山羊の頭部になったりと不安定になる。

 

<<泣いて懇願したところで、聞き入れてくれる奴じゃないと…最初から分かってたさ>>

 

身体に取り込んだはずの尚紀の念話が聞こえた瞬間、ヤハウェは全てを悟る。

 

「まさかルシファー……貴様は最初から……これが狙いだったのかぁ!!?」

 

<<ジャックポット(大当たり)>>

 

知恵のヴェノムスネークは自ら首を差し出して斬り落とされ、猛毒に塗れた己の魂を捧げる。

 

古今東西でもっとも命を奪った兵器とは毒であり、ヴェノムこそが人修羅の最後の攻撃となる。

 

「グギャァァァァァァァーーーーーーーッッ!!!!!」

 

浮遊する巨大な頭部の形が歪み続けた末に光ではなく闇を発する存在と化していく。

 

極限の闇が至高天を飲み込んだ末に生まれた存在とは、唯一神の別側面であるCHAOSだった。

 

────────────────────────────────

 

「ここってたしか…杏子ちゃんの実家だった場所だよね…?それにあの人がそうなの…?」

 

「私達に念話を送ってきたのは貴方ね…?貴方は何者なの…?何の用事があるというの…?」

 

まどかとほむらが訪れているのは修繕作業中の杏子の教会であり、迎えてくれたのは眼鏡の男。

 

階段の上にそびえる罪の十字架を見つめていた者が電動車椅子を動かしながら振り向いてくる。

 

「私の名はスティーブン…急に呼び出してしまって申し訳なく思うが…時間がないんだ」

 

「時間がないって…どういう意味なんですか…?」

 

尚紀との別れを終えたまどかとほむらは最後まで草原に残っていた者達である。

 

そんな彼女達に念話を送ってきたスティーブンの元にまで近寄った少女達が理由を問い詰める。

 

割れたステンドグラスから差し込む夕日に照らされた少女達の顔が驚愕に包まれていく。

 

「そんな事が…出来るんですか!?」

 

「私達を尚紀の元に送れるという貴方は何者なの…?明らかに人間が出来る所業じゃないわ!」

 

「私は罪の十字架を背負ってでもこの世界を救おうとした嘉嶋尚紀の味方だ…それしか言えん」

 

「今直ぐ送ってください!!天使の軍勢の魔力を感じなくなったのに尚紀さんが戻らないの!」

 

「彼は至高天の玉座にいるはず…そして天使の軍勢を倒した彼にはもう…時間が残っていない」

 

「尚紀は死にかけているということね…?今直ぐ私達を彼の元に送りなさい!急いで!!」

 

血相変えた表情を浮かべたまどかとほむらが女神の姿となり、悪魔の姿に変わる。

 

彼女達の覚悟を受け取ったスティーブンは空中に透明キーボードを生み出して入力していく。

 

すると階段の上にある十字架の前に何かが生み出されていき、次元トンネルが現れるのだ。

 

「至高天という事は…唯一神が座す場所よね…?私達は…唯一神と戦う事になるわ…」

 

「覚悟は出来てるよ…ほむらちゃん。私もアラディアと同じ気持ち…今すぐ助けに行こう!!」

 

翼を広げた彼女達は迷うことなく飛翔していき、スティーブンが生んだゲートに飛び込む。

 

その光景を見送るスティーブンは罪の十字架を見つめながら尚紀の最後を思っていく。

 

「君の犠牲は無駄にはしない…だからこそ、君を終わらせてくれる者達を送ってあげよう…」

 

先の未来を知っている男は電動車椅子を動かしながら教会を去っていく。

 

最後に口に出した言葉の内容は因果の法則を示す。

 

「魔法少女だった者達が魔法少女の虐殺者だった君を終わらせる…まさしく…()()()()()

 

人修羅はもう助からないと分かるスティーブンは尚紀の為に介錯人を送ってくれる。

 

介錯人として選ばれた強者とは、尚紀にとっては友と呼べた鹿目まどかと暁美ほむら。

 

魔女になった魔法少女を介錯してきた彼女達だからこそ、因果を与える役目を託すのだった。

 

……………。

 

「一体何なの……この領域は!!?」

 

「こんな場所が至高天なの…!?おかし過ぎるよ!!」

 

悪魔ほむらと女神まどかが見た光景とは至高天の玉座の美しさではない。

 

グノーシス主義の象徴だったルシファーの猛毒によって堕ちた唯一神が生み出した憎悪の神域。

 

混沌の子宮の如き暗闇世界に広がるのは原初の水ではなく憎悪の炎。

 

青白い憎しみが爆発するように噴き上がる火炎地獄の中に悪魔と女神は放り込まれている。

 

彼女達のような強力な悪魔耐性を持つ存在でなければ介錯人にすらなれずに燃え尽きるだろう。

 

<<ググッ……グギギッ……グギギギギギ……ッッ!!!!!>>

 

混沌の暗闇世界に広がる青白い炎の海からせり上がってくる存在を見た者達が驚愕していく。

 

「こ……この存在が……唯一神だというの……!?」

 

「ち、違うよ…こんな存在が唯一神のはずがない…だってこんなの…悪魔そのものだよぉ!!」

 

屹立した存在は大魔王ルシファーに似ているが違う形をしている。

 

巨大な十二枚翼で体を隠す巨体は猛毒によって漆黒に染まり、病的な体つきをした破壊の天使。

 

その目は四つあり、曲がった山羊の角のようなものは血のように真紅に染まっている。

 

最大の特徴は()()()()()()()()()()()()であり、左足から昇るように絡みついて首に噛み付く。

 

その蛇こそがルシファーであり、尚紀の変わり果てた姿なのだとまどか達は一瞬で見抜くのだ。

 

「グガッ…グガガッ…ッッ!!ニクイ…ニクイィィィィ…悪魔共ガァァァァァ――ッッ!!!」

 

怒りと憎悪で錯乱しながら苦しみ悶える存在はもはや唯一神であって唯一神じゃない。

 

ヤハウェもまた概念存在であり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()で堕ちてしまうのだ。

 

【デミウルゴス、あるいはヤルダバオート】

 

共産主義ユートピア思想のルーツであるプラトンが生んだティマイオスに登場する破壊の神。

 

原型たるイデアから物質世界を作る創造者として述べられるが下等な神として扱われる。

 

物質や肉体は下等な神が創った悪であり、共産主義をもって唯一神の世界を滅ぼす思想を生む。

 

ティマイオスで描かれるデミウルゴスを下等にしたのはグノーシス主義であり、イルミナティ。

 

イルミナティの神であるルシファーを取り込んだ事でグノーシス主義解釈で呪われた神だった。

 

「コロシテヤル…コロシテヤル…コロシテヤルゥゥゥゥーーーーッッ!!!」

 

仕掛けてくると判断したまどか達が大弓を生み出すが、デミウルゴスの体から闇が噴き上がる。

 

<<アァァァァーーーーッッ!!!>>

 

大魔王ルシファーが得意とした初めに闇ありきを浴びたまどか達の体力が9割以上削られる。

 

深刻なダメージを浴びた者達が落下するが、まどかが放つ極限の回復魔法で体力を癒す。

 

翼を羽ばたかせた者達が超高速飛行しながらデミウルゴスを攪乱させる動きを行うのだ。

 

「やめて尚紀さん!!わたしには分かるの…貴方が唯一神を止めてくれているって!!」

 

「尚紀…そんな姿に成り果てるだなんて…こんなのってないわよ…あんまりよぉぉぉぉ!!」

 

涙を流しながらやめてくれと叫ぶまどか達であるがデミウルゴスは容赦してくれない。

 

蛇の猛毒によって唯一神は貶められ、パワーダウンしているがそれでもその力は圧倒的なのだ。

 

「グォォアァァァァァーーーーーッッ!!!」

 

どす黒く染まった十二枚翼を広げながらゼロスビートを放ち、目からは螺旋の蛇を放ってくる。

 

膨大な弾幕はほむらが生み出した無数の矢で撃ち落とし、螺旋の蛇はまどかの大矢で相殺する。

 

大口を開けたデミウルゴスが至高の魔弾を発射したため彼女達は急速旋回しながら避けるのだ。

 

「お願いだから返事をして…尚紀さん!!私の中のアラディアも帰って来てと叫んでるの!!」

 

「私が戦ってきた嘉嶋尚紀はこの程度で終わる男じゃないわ…強かった貴方の姿に戻って!!」

 

「グガッ……グガガッ!!マ…マドカ……ホム…ラ……」

 

ヤハウェの声ではなく尚紀の声が呟かれた時、尚紀はまだ唯一神内で生きていると確信する。

 

まどかとほむらの懸命な訴えかけがデミウルゴスをさらに苦しめ、頭を抱えながら絶叫する。

 

「グギャァァァァァァァーーーーーーーッッ!!!!!」

 

もはや正気を失っているヤハウェは己のアイデンティティが崩壊し、自分が誰かも分からない。

 

蛇の猛毒が体をさらに蝕んでいき、全身から混沌の闇を噴き上がらせながら消えてしまう。

 

「一体何が起こっているの……あの闇の殻の中で……」

 

「分からないけれど……最悪な胎動だけは感じさせられるわ……」

 

混沌の闇が晴れていくとデミウルゴスの巨体はさらに醜く膨れ上がり、歪んでいる。

 

破壊の天使姿から巨大な蛇の姿に変化してしまい、その全長は666666mまで巨大化する。

 

黒蛇の下半身の上はもはや何の生物か分からない支離滅裂さをまどか達に示してくるだろう。

 

二本角が生えたサタンの頭部、黒山羊の頭部、蛇の頭部と悪魔の頭部が混ざり合う集合体。

 

悪魔の六枚翼を生やしたその頭頂部にはかろうじて秩序を示す獅子のたてがみの炎が宿る。

 

青白い炎のたてがみの上に浮かぶのは巨大な人影であり、頭を抱え込みながら悶え苦しむ。

 

ヤハウェの姿となったりルシファーの姿となったり人修羅の姿になったりしてくるのだ。

 

「ワレコソハ…ワタシコソハ…オレコソハ…セカイノ…ソウゾウシュ……グガッグガガッ!!」

 

デミウルゴスは自らの出自を忘却しており、自らのほかに神はないという認識を有する狂神。

 

唯一神は悪神であり、サタンやルシファーこそが真の神だとしたのがイルミナティ学派の呪い。

 

グノーシス主義者が生んだ世界を真逆に認識する呪いによって唯一神は真逆にされたのだろう。

 

「尚紀さん……グスッ……もう……助からないんだね……」

 

「ヒック…エッグ…嫌よ…こんなお別れ…また再会出来たら…笑顔で出迎えたかった……」

 

顔を歪めながら泣いてしまうまどかとほむらの姿も認識出来ない程にまで狂神は狂っていく。

 

全身からダークマターを放ちながら攻撃力と防御力を最大に高めた後、必殺技を狙う。

 

彼女達を殺すために使おうとするのは地母の晩餐であり、最大出力で放とうとしてくる。

 

そんな時、獅子のたてがみの中に浮かぶ人修羅の人影が彼女達を見つめながらこう告げる。

 

「オレヲ……オレタチヲ……コロシテ……ク……レ……」

 

「そんなの…出来ない!!ようやく会えたんですよ…父上ぇ!!もう離れ離れはイヤーッ!!」

 

アラディアの人格が現れたまどかは号泣しながら父の影に飛び込もうとするがほむらが止める。

 

「ダメよアラディア!!彼の覚悟を聞いたでしょ…彼の娘だと願うなら彼の望みを果たすの!」

 

「嫌だ!!そんなの出来ない!!愛してるんです…父上…殺したくないィィィィ……ッッ!!」

 

「私だって彼を愛してる!!それでもやるの…それこそが自分を殺す…愛の形よ…ッッ!!」

 

ほむらの悲痛な叫びが届いたのか、父の愛に応えてやるのが娘なのだと孤独な女神は悟る。

 

ヤハウェが生み出した憎悪と混沌の世界が生む炎の大地に巨大な亀裂が入っていく。

 

そこから噴き上がる極大の破壊エネルギーが周囲を照らす中、まどかとほむらが手を繋ぎ合う。

 

「この苦しみはきっと…わたしを殺してってほむらちゃんにお願いした時の苦しみなんだね…」

 

「あの時と同じ苦しみを私も感じてる…こんな地獄の苦しみ…もう味わいたく…なかった…」

 

覚悟が決まった円環の女神は大弓を魔法杖に戻した後、力を込めて地面に投げ放つ。

 

地面に刺さった杖が地母の晩餐で弾けようとする大地のエネルギーを吸収し、巨大化していく。

 

まどか達の背後に現れたのは地母に育てられた巨大な桜の木であり、桜は死を連想させる花。

 

その枝に着地したまどかは隣のほむらの大弓を一緒に掴みながら構えてくる。

 

彼女達の前方空間に生み出されたのは太陽神ルシファーを象徴する光の円環。

 

太陽神ルシファーの娘であるアラディア神として、父に送る手向けこそが日輪の一撃なのだ。

 

「さようなら…尚紀さん……もっといっぱい…お話ししたかった…」

 

「喧嘩ばかりして貴方を憎んだけど…本当は貴方に憧れてた…貴方みたいになりたかった…」

 

一緒に握るほむらの大弓に膨大な魔力が迸り、地母のエネルギーを吸う桜の木の力も合わさる。

 

狂神に成り果てた人修羅であるが、デミウルゴスを通して桜の美しさを認識してくれるだろう。

 

「チッテコソ…花…チッテコソ…種ハトブ…風ガ実リヲ運ビ…風ガ…花ヲ…サカセ…ル……」

 

魔法少女の世界で最初に出会えた魔法少女を表す祝詞を呟いた時、体は貫かれている。

 

それと同時に巨大な桜の木の花びらも全て散ってしまい、嘉嶋尚紀の命が散るのを表現する。

 

絶叫を上げながら崩れていくデミウルゴスはついに滅び、ヤハウェもまた滅びるだろう。

 

それが分かるのは神霊サタンであり、門番として立っていた彼の体も消えようとしている。

 

<これでいい…もう一度人類を信じるためには…これで…いいんだ……>

 

ザインとしての自分を取り戻せた神霊サタンは微笑みを浮かべながら消えていく。

 

唯一神と一心同体の神霊サタンも消滅した事でついにLAW勢力は崩壊を迎えるのであった。

 

────────────────────────────────

 

「尚紀さん……尚紀さん……やだ…やだよぉぉぉぉ……」

 

「お願いだから目を開けて……お願いだからぁぁぁぁ……」

 

至高天の玉座空間に戻った者達は倒れ込んだ男を抱きかかえている。

 

抱きかかえられていたのは上半身だけの尚紀であり、体中が砕けていく。

 

ヤハウェに取り込まれて唯一神の一部となった以上、ヤハウェの死は尚紀の死でもあるのだ。

 

「これで…いいんだ…秩序だの平和だのの為に…俺達は…あまりにも…罪を犯し過ぎた…」

 

目を開けた尚紀が首を後ろに向け、まどか達も顔を向けると至高天の玉座が見える。

 

「唯一神が滅んだ以上…あの玉座はお前のものだ…まどか…」

 

「わたしなんかが…全てのアマラ宇宙を司る…宇宙意思になれるっていうの…?」

 

「そうだ…お前にはその資格がある…どんな宇宙を創造してもいい…お前の望みを果たせ…」

 

「いや…そんなの嫌だよ!わたしは唯一神のようにはなれない…死と再生には耐えられない!」

 

「俺だって嫌だが…死と再生こそが世界…世界の仕組みには…個人の感情など…通じない…」

 

「わたしは玉座になんて座りたくない!尚紀さんと一緒にいられる椅子に座りたいの!!」

 

「まどか……」

 

アラディアの人格と共に大粒の涙を流し続けるまどかは尚紀の上半身を抱きしめてくれる。

 

ワンワンと泣き喚くまどかの隣では同じようにワンワン泣き続けるほむらがいてくれる。

 

「こんなのやだ…やだぁぁぁぁ…私を置いていかないで尚紀…お願いだからぁぁぁぁ……」

 

眼鏡をかけていた頃のような弱々しいほむらの為に右手を持ち上げてくれる。

 

彼の手を強く握り込んでしまった為にその手が砕け散り、尚紀の死を教えてくれる。

 

「ほむら…お前こそ…もう一人の俺だ…俺も過ちを沢山繰り返したんだ…お前もやり直せる」

 

「やり直すなら貴方と一緒にやり直したいの!!お願いだから死なないで…死なないでぇ!」

 

「死にたくないと思ったのは…俺が殺してきた人達も同じ…だから俺は…死から逃げない…」

 

遠い眼差しを浮かべていく彼が思い出す記憶とは人間だった頃の記憶。

 

それにボルテクス界を超えた記憶や魔法少女の世界に流れ着いて旅をした記憶の数々。

 

そのどれもが嘉嶋尚紀を形作り、最後の終着点を与えてくれる。

 

「もう…俺に縋るな…俺はもう…疲れたよ…お前達の為に…武器を振るう…気力もない…」

 

武器を握ってきた己を動かしてきた感情と信念のせいで大勢を犠牲にした十字架を背負う。

 

その果てに裁かれる末路となったのなら、それがゴールで構わない。

 

「俺はもう…誰も…殺したく…ない…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……」

 

音も無く崩れていく尚紀の体に目掛けて叫ぶ少女達の声も遠くなり、視界もぼやけていく。

 

キーンとした音が鳴り響き、命の終わりを告げようとする中、誰かが近寄ってくる。

 

「お前ら……」

 

夢幻かもしれないが、最後に見えた人物達とは人間時代に仲良くなれた人達の姿。

 

高尾裕子、新田勇の姿が見えた時、尚紀は微笑んでくれる。

 

「迎えに…来てくれたか…なら…帰ろうぜ…みんな…俺…腹減っちまったし……」

 

夢幻に過ぎなくとも高尾裕子と新田勇は微笑みを浮かべてくれた事で尚紀は人間に戻れる。

 

最後に歩み寄ってきた存在とは千晶でありアリナとなった者。

 

魔法少女服姿のアリナが手を差し伸べてくれる。

 

残った左手を持ち上げていく嘉嶋尚紀の為にこそ、千晶でありアリナは笑顔のまま手を繋ぐ。

 

<<千晶もこう言ってるんですケド?早く支度しないと置いて帰るぞって♪>>

 

笑顔を浮かべたアリナの姿がアリナの魔法少女服を着た千晶に見えた彼は最後を迎える。

 

「ああ……いつも待たせて……悪いな。帰ろうぜ……俺達の……家……に……」

 

花のように砕け散った尚紀の最後を見届けた暁美ほむらが力の限り号泣してしまう。

 

隣のまどかも涙を流し続けるが、最後に彼が呟いた言葉の数々で真の尚紀を理解してくれる。

 

「尚紀さんは…英雄でもメシアでもなかった…何処にでもいる…()()()()()()()()()()……」

 

彼に無理をさせ過ぎたのは依存でしかなかったのだと理解したまどかが涙を腕で拭いていく。

 

「わたし…尚紀さんが残してくれた世界の人達を強くしていく…」

 

――もう……()()()()()()()()()

 

嘉嶋尚紀が伝えてきた個の確立精神を継いでくれた鹿目まどかは暁美ほむらと共に強く生きる。

 

世界を導く立場としての生涯を果たし、現存する魔法少女が全て死んだ時に世界を去るだろう。

 

それまでは尚紀が残した世界を耕す道を歩くため、まどか達は至高天の玉座を去るのであった。

 




メガテンを代表する悪魔達を倒すのもまたクロスオーバー主人公達の役目ですよね!
主人公がラスボス化…うっ、頭が(うわわれるもの脳)
ヒロインレースに勝ち残ったのは死と再生な太陽万歳なアリナでしたな(汗)
だってまぁ、人修羅と一緒に地獄の底まで堕ちてくれるヒロインなんて狂人しかいませんし(汗)
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