人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
苦手な方はブラウザーバック推奨。
壱 名塚底根と冥界
人修羅として生きた嘉嶋尚紀やアスラ神族達の自己犠牲によって救われた地球。
CHAOS勢力との戦争によって破壊された世界は徐々にだが復興の道を進み出す。
それでも嘉嶋尚紀を失った魔法少女達や悪魔少女達は現実を受け入れ切れていない。
今でも彼は天から帰ってくるのだと信じ、壊れた世界を懸命に復興させようとしている。
その中でも特に立ち直れていない者こそ、人修羅である嘉嶋尚紀を父神として慕った女神。
「うっ…グスッ…父上…ちちうえぇぇぇ……」
円環のコトワリとして蘇った鹿目まどかの中にいるもう一人の存在は今日も涙で玉座を濡らす。
群体神である円環のコトワリ内には魔女の国が存在しており、そこに君臨するのがアラディア。
ギリシャ神話の魔女の神アルテミスの娘だと自称する虚構の女神であり、家族愛に飢える者。
ようやく見つけられた自分の父神だと信じた人は娘を残して冥界である地獄に旅立つ。
その引き金を引く役目を託されたアラディアはまどかと共に尚紀を殺す役目を果たすのだ。
「アラディア様……」
魔女達の城の玉座で泣き続ける女王様を円柱の影から見つめるのは円環の魔法少女。
眼鏡を掛け、後ろで纏めた緑髪をした円環魔法少女は女王様を心配してくれている。
しかしそんな彼女の肩を掴んで首を振る円環魔法少女がこう告げてきたようだ。
「慰めても無駄だと思うの~、アラディアはスーパーファミリーコンプレックス女神なの~」
「アマラ宇宙を放浪されてた頃から家族愛に飢えていたと聞いた事もあるしね…」
「スーファミ女神の愛情なんて、きっと16ビットまでしか表現出来ないと思うの~」
「セルマはアラディア様に対しては辛辣よね…?」
「キャハハ♪セルマはね、
セルマと呼ばれた天真爛漫な魔法少女は眼鏡魔法少女の紫丁香の手を引っ張っていく。
円環の女神であるアラディア宮殿の回廊を進んでいくセルマはこんな質問をしてくる。
「もしかして、家族を亡くした紫丁香と両親がいないアラディアを重ねてるのかな~?」
「そ、それは…その……」
「嘘が下手な紫丁香の態度はバレバレなの~」
紫丁香という魔法少女の生前は佐倉杏子と変わらない程の極貧生活を生きた者。
魔法少女契約までして家族のために尽くそうとしたのに、家族は極貧に耐えられずに自決する。
目の前でその光景を見せられた彼女は絶望し、反発をするゴムの魔女に成り果てた魔法少女だ。
「セルマ的にはね、まどかに表の仕事を放りだしたままの役立たずなアラディアは嫌いなの~」
「そうよね…今のアラディア様は塞ぎ込んでるせいで…まどか様だけに重荷を背負わせてる…」
「新しい世界秩序を築く多神教連合の一柱になったのに…役立たない女神なんて…」
――セルマ的には、消えて欲しいかな~?
前を歩いていたセルマが立ち止まり、首を後ろに向けながら薄気味悪い笑みを浮かべてくる。
不気味な円環仲魔に対し、紫丁香の顔には冷や汗が滲んでしまう。
「そういえば~…役立たずにされちゃってる他の奴もいたような気がするの~」
雲の上に浮かぶような円環宮殿のテラス席に座っている存在に目を向ける。
その少女が纏う魔法少女衣装はワルプルギスの夜が纏っていた衣装と酷似しているようだ。
黄昏た表情を浮かべている存在こそ、円環に導かれたワルプルギスの夜。
かつての魔女の顔は半分が欠落していたが、今の彼女の顔つきは暁美ほむらと瓜二つ。
髪の色こそ紫がかっているが、暁美ほむらとそっくりに見えてしまうだろう。
「やっほ~ワス!」
元気よく声を掛けてきたセルマに対し、ワスは疲れた表情を浮かべながら振り向いてくる。
「…わたくしに、何か用事ですの?」
「用事なんてあるわけないの~、だってさ、ワスはアラディアからこう言われた存在だし~」
――愛しい母上のデキソコナイ、真なるワルプルギスの夜を貶めるフェイカーだって♪
ゲラゲラ嘲笑ってくるセルマに対し、前髪で目元を隠すがワスの眉間にシワが寄っていく。
ワスとはワルプルギスを縮めた蔑称であり、ワルプルギスの夜と名乗る事も許されない小者。
真なるワルプルギスの夜とはディアナであるアルテミス崇拝をルーツとするもの。
歴史根拠を何も持ち合わせず、魔法少女の成れの果ての集合体に過ぎない存在は虚構そのもの。
アラディアからそう告げられた円環のワルプルギスの夜はフェイカーだと罵倒されてしまう。
母上になって欲しいアルテミスを狂信的に敬愛するアラディアは別のワルプルギスの夜を生む。
それこそが再び顕現した真ワルプルギスの夜であり、アラディアの歪んだ家族愛の結晶なのだ。
「いい加減にしなさいよ、セルマ!!」
天真爛漫な態度でワスを馬鹿にする者に激高した紫丁香が肩を掴んでくる。
「生徒会長みたいな紫丁香に怒られちゃったの~♪キャハハハハ♪」
「…いいのよ、紫丁香。彼女が言った言葉は…事実ですのよ」
「だからって……悔しくないの!?」
「所詮わたくしは偽物です。歴史根拠を持ち合わせない…真のワルプルギスの夜にはなれない」
「セルマにここまで言われてさ~、悔しくなれないなら…本当に役立たずで終わっちゃうの~」
「役立たず役立たずって…うるさいのよ!どうしてそこまで役立たずが嫌いなの!?」
それを問われた時、セルマは顔を俯けながら目元を隠す。
拳は握り込まれており、何かに対する怒りによって打ち震えていく。
「…セルマはね、役立たずが大嫌い。役立たずになっちゃうぐらいなら…立場を覆すの」
「立場を覆すですって…?」
「ねぇ、ワス?貴女は本物のワルプルギスの夜だって、円環で名乗りたいんじゃないの~?」
「そ…それは…その……」
「だったらさ、魔女の神にお願いしたら…本物になれる御利益を貰えちゃうかもしれないの~」
「魔女の神に…お願いをしに行く…?」
興味を持った態度に満足したのか、笑顔を浮かべるセルマの元に使い魔がやってくる。
セルマが生み出す使い魔の形は人型にまで大きいテディベアであり、何かの書物を持っている。
それを受け取ったセルマはページを開き、ワスと紫丁香も覗き込んでくる。
「このグリモワールにはね、ギリシャ神話の魔女として知られる女神の情報が記されてるの」
「こんな書物…どこで見つけてきたのよ?」
「えへへ、気になる?それはね……
それを聞いた瞬間、血相変えた表情を浮かべた者達がセルマを責め立てる。
「どういうつもり!?名塚底根は…アラディア様とまどか様が立ち入りを禁止したはず!!」
「その名を口に出すだけでも罪深いというのに…どういうつもりですか!?」
「そんなのセルマは関係ないもん。見たいものがあったし~…覗きに行っちゃったの~♪」
名塚底根とはかつての魔女達が生み出される場所であり、この世とあの世の境界線にある領域。
元々魔女の神に祈りを捧げる場所は暗い森や洞穴ではなく十字路や三又路のような道の境界線。
十字路や三叉路のような交差点は神々や精霊が訪れる特殊な場所だと古来から考えられている。
古代人は交差点で集会を開き、神々を傍聴人とした由来があるため人ならざる存在が集う。
名塚底根もそんな魔女の神が支配する領域に誕生した場所であるのだが、現在は封印される。
全ての魔女をこの世界だけでなく、過去と未来を含めた全ての平行世界の魔女を消し去りたい。
まどかの願いによって起こった奇跡によって、名塚底根は役目を終えて忘れられていたようだ。
「セルマはね、この円環世界で魔女の三又路を見つけたの。道の境界線で門が開いてたの」
「なんですって!?アラディア様の心の乱れが名塚底根の封印力を弱めたのでしょうね…」
「すぐに返して来なさい!これは禁書よ…絶対に触れてはいけないものよ!」
「だけど、これには可能性が残されてるの~。この書物だけは封印されてなかったし~」
セルマが名塚底根に下りてきた時、他の魔導書は結晶に包まれるように封印されていたという。
しかし中央に置かれていたこの書物だけは封印の影響を受けておらず持ち帰ったようだ。
「名塚底根は全ての魔女の記録が記された図書館だったの~、だからこそ…魔女の神もあった」
セルマが持ち帰った書物に記された魔女とは神。
魔女であり神という概念存在であったため、魔女に該当されずに封印の影響を受けていない。
「この書物に記された魔女の神はね、ギリシャ神話の女神でもある…ヘカーテ様なの」
「ヘカーテ……?」
ヘカーテとはナオミが使役した女神であり、アマテラスを宿したレイに打ち負かされた存在。
ヘカーテは砕かれてMAGとなり、実体を失ったその分霊は本霊が眠る冥界に返っているはず。
「ヘカーテ様はアラディアがママだと信じてるアルテミスに連なる存在だよ~」
ヘカーテはギリシャ神話において十字路、夜の旅、冥界の境界、魔法、松明、守護を司る女神。
彼女は多神教連合の重鎮であるゼウスから尊重を受けた古い神としてヘシオドスは描いている。
天、地、海で恩恵を受け、冥界の神ハデスがペルセポネを誘拐した時はデメテルと探しに行く。
彼女はギガントマキア戦争にも参加しており、モイライ三姉妹と同じく巨人族を打ち倒す。
ペルセポネがハデスの妻となった後は彼女が冥界と天界を行き来する際の随伴者となる。
彼女は単なる闇の怪物や現代幻想にありがちな魔女王などではない。
門口、道、誓い、危険な知の境界に立つ厳かな神だったのだと語ってくれる。
「境界線を司るヘカーテ様は三つの存在を司り、アルテミスやセレネとも同一視されるの~」
後世の伝承ではヘカーテは三体の女神、三面の女神として語られている。
三本の道を同時に見渡すヘカーテの頭部は牝犬、牝馬、牝狼の頭部をもつ三相一体の女神。
あるいは三体の女神の別々の姿か、少女、女性、老婆、過去・現在・未来を三つで表す。
ヘカ―テは変化する月を表す存在であり、天界・地上・冥界を支配する原初の三神一体の女神。
「わたくしもワルプルギスの夜と呼ばれる存在として…ヘカーテを知っておりますわ」
ヘカーテはギリシャ神話の魔女の女王であり、魔女の集会であるサバトで崇拝された存在。
豊穣や月、冥界、出産など様々な神格を持つ女神であるが恐ろしい側面も持ち合わす。
死の女神、魔女の指導者、闇の女王、魑魅魍魎を操る恐ろしい形相の女神でもあったという。
「偏見はよくないの~ヘカーテ様は守護神でもあり、拝むと御利益を与えてくれる女神だから」
「まさかとは思うけど…そのヘカーテを探してみたいとか…言い出さないわよね?」
紫丁香の質問に対し、胸を張るセルマはこう提案してくる。
「そのまさかなの~!セルマと一緒にさ、ヘカーテ様を探しに行こうよ♪」
「どうしてそうなるのよ!?」
「ヘカーテ様こそ魔女の指導者に相応しいと思うの~♪アラディアよりも女王に相応しいの~」
「無礼な態度もいい加減にしなさい!円環に築かれた魔女の国の女王様はアラディア様よ!」
「あんな泣きべそかいてばっかの女王よりも、もっと頼り甲斐のある女王がいいと思うの~」
「あんたって子は…聞き捨てならないわよ!私はアラディア様に報告に…」
「待ってください」
激高した紫丁香を止めたのはフェイカーと呼ばれてワルプルギスの夜と名乗れない少女。
暁美ほむらと瓜二つの顔をした彼女はセルマに同行したいと言ってくる。
「セルマ…ヘカーテは探し人を見つける御利益も…与えてくれる女神なのかしら?」
「勿論なの~♪ヘカーテ様は旅人を守る女神なの~きっと見つけたいモノを与えてくれるの~」
「わたくしは…探している。何故かは分からないけれど…見つけたい人がいるんですの…」
「ワスが見つけたい人って…誰なの…?」
円環の魔女の国は夜に支配された領域であり、月を見上げながらこう告げる。
――わたくしにとって愛しい人……マルグリートですわ。
♦
鹿目まどかであり、魔女の救済神アラディアでもある円環の女王の宮殿は雲の上にある。
天を貫く巨大な塔を思わせるその外観はかつてのまどかの魔女を髣髴とさせるだろう。
転移ゲートを潜って地上に下りれば下々の魔法少女達が暮らす巨大な城塞都市が広がっている。
城門を出て進めば見渡す限りの自然の景色が広がっているのだろう。
ここは虐げられた魔女達の楽園であり、隠れ潜みながら恐怖に怯える必要がない安寧の地。
しかしアラディアと思想の上で対立し、魔女達の城塞国家から出て行く円環魔法少女達も多い。
その者達は城塞国家から離れた森の中で隠棲し、数々の冒涜的な魔女活動を行っている。
そんな魔女達が暮らす鬱蒼とした巨大な森の中に入り込んだのはセルマと紫丁香とワス達。
「円環世界は魔女達が跋扈する夜の世界だから…森の中は猶更薄気味悪いのよね…」
松明を持ち込めとセルマに言われた紫丁香とワスは片手の松明の明かりを頼りに森を進む。
「ヘカーテを表す道具を持参してるだけで…本当にヘカーテに至る門は表れるのかしら?」
「それよりセルマの姿が見えないけど、何処に行ったのかしら?」
辺りをキョロキョロしている紫丁香は背後に気配を感じた事で後ろに振り向く。
「ばぁ~~~っ!!」
「うぎゃぁぁぁぁーーーっ!!?」
ビックリ仰天した紫丁香の後ろにいたのはテディベアの着ぐるみを着たセルマである。
「ビックリした?深い森の中でクマさんと出会ったら…食料として食べられちゃうの~♪」
腰を抜かす紫丁香に満足したのかファスナーを開けて中から出てくる。
そんなセルマの頭には有毒植物のトリカブトが備わっており、ヘカーテを表す花であろう。
「お…お…脅かさないで!わ、私は別に…驚いてなんて…ぜんぜん……」
「涙目でそんなこと言われても説得力ないの~。怖がりなのに何でついてきたの?」
「私は貴女達が円環クーデターを起こさないよう、見張るためについて来てるんだから!」
「皆さん、静かに。この森にはバアル崇拝時代のサバト文化を愛した堕落魔女が大勢いますわ」
「あいつらは自然を真逆に解釈する物騒な連中だし、見つかったら…純潔を奪われるの~♪」
「
「そうですわね。彼女達は病的なまでの快楽主義者…批判内容さえ擦り付ける卑劣な輩です」
秩序に冒涜的な円環魔法少女達の支配領域を避けながらセルマ達は森の奥に入っていく。
この領域には魔女の三又路と呼ばれる境界線があり、近づいた者は帰ってこないという。
そのため反社会的な円環魔法少女達も近づかない領域に向かう者達はトラブルなく到着する。
「開けた場所に三つの道…この場所に名塚底根の入口があるって言うの?」
「何もないように見えますが…?」
白い魔法少女衣装を纏うワスと緑色の魔法少女服を身に纏う紫丁香の間をセルマは通り抜ける。
黄色い裁縫職人のような魔法少女服を身に纏うセルマは振り返った後、笑顔を向けてくる。
「月の夜に松明と鍵を手にして彷徨い、魔女や霊魂を導くヘカーテ様なら応えてくれるの~♪」
「わたくし達は松明を持参してきましたけど…鍵なんて持ち合わせておりませんわ」
「セルマは鍵を持ってるって言うの?」
それを問われたセルマは不気味な笑みを浮かべながらヘカーテのグリモワールを持ち上げる。
すると深い森に広がる木々のうろ穴の奥が真紅の光を放ち始める。
その赤い光はまるで瞳であり、悪魔のような瞳が無数に広がっていく。
「こ、これは…っ!?」
危険を感じた紫丁香は両方に小さな傘がついたマジカルワンドを生み出して構える。
しかしワスが片手を持ち上げて止めてくる。
「敵意は感じませんわ。どうやら…鍵とはその魔導書だったようですわね?」
「その通り。ヘカーテ様はね、持ち主がいなくなった名塚底根の管理人でもあったの~」
道の境界線に振り向くセルマが見たものとは赤黒く光りながら次元が裂けていく景色。
内側から開いたような空間の奥は赤黒く光っており、底は見えない。
白い木の根が周囲に絡みついて創られたようなゲートが生まれた事でセルマが飛び込む。
「ちょっ!?待ちなさい!!」
躊躇わず飛び込んだセルマに続く勇気がないのか、紫丁香とワスはゲートの前で佇んでいる。
「天真爛漫な子って怖いわね…恐怖心という心のブレーキが壊れてる気がするわ…」
「この先に…わたくしが求める答えがあるのなら…恐れ入りますが、失礼致しましょう」
意を決したワスも飛び込んでいき、独り残された紫丁香も腹を括る。
「ええいっ!!二度目の死が訪れる末路になったら…化けて出てやるんだからーっ!!」
仲魔を追って飛び込んだ紫丁香はゲートに入り込んだ瞬間に視界を奪われる。
まるで巨大な両手に包み込まれたように暗くなり、何も見えなくなってしまう。
そして気が付いた時には紫丁香は名塚底根に辿り着いていたようだ。
「ここは……」
あまりにも広大な空間であり、中心部には螺旋を描く道が備わっている。
上を見上げれば巨大な両手は開かれており、ここに下ろされたようだ。
周囲は半円形の空間であり、周囲には巨大なマネキン像や結晶が大量に備わる。
「結晶の中に見える魔導書の数々は…何なの…?」
「それはね、セルマ達のような魔法少女達が魔女に作り替えられる時の記録なんだよ~」
セルマの声が聞こえた方に顔を向けると巨大マネキンの頭部でブイサインを向けてくる。
「ここはキュウべぇですら観測出来なかったこの世の外側…あの世であり、冥界なんだよ~」
「冥界ですって!?円環のコトワリ内部と冥界が…繋がり合ってたというの!?」
「そういう事なの~。ソウルジェムが濁った少女達はね、ここで名前と姿を与えられるわけ」
「なら…ゴムの魔女に成り果てた私も…ここで産み落とされた後に…円環に導かれたのね…?」
動揺している紫丁香の元に螺旋の道を歩いてきたワスがやってくる。
「セルマ…鹿目まどかはこの場所を知ってたのかしら?」
「人間時代の彼女は知る由もないよ~。だからね、ここは現世とあの世の境界線なんだ~」
「この場所を通って魔女達は現世に呪いをばら撒きに行ってたとしたら…」
「お察しの通り、魔女という化け物になったセルマ達は現世に呪いを振り撒きに行けるの~」
「こんな抜け道があったなんて…私…知らなかったわ…」
「だけどそれも意味はないですわ。円環の魔法少女達はMAGを用いて現世で実体化出来ます」
名塚底根に興味が無さそうな態度のワスはヘカーテは何処にいるのかを聞いてくる。
するとマネキンから螺旋の道に飛び移ってきたセルマが付いて来いと促してくる。
彼女の後ろをついて行きながらも紫丁香は名塚底根の景色を見つめながらこう零す。
「螺旋の形をした半円形の地底領域…まるで…詩人ダンテの神曲で描かれた…地獄の領域よ」
名塚底根はこの世とあの世の境界線で浮かぶ鳥籠の星であり、半円形は鳥籠構造で生まれる。
地底に向かって螺旋を描く半円形の形は神曲における地獄の図と酷似しているだろう。
地獄篇の冒頭においては先程の森のような場所で神曲主人公のダンテは地獄に導かれている。
奇妙な繋がりを感じてしまう紫丁香はついて来た事を後悔するように顔が青ざめてしまう。
螺旋の道は徐々に細くなっていき、螺旋階段のような道を下った先には鳥籠の底が見えてくる。
半円形の場所の最奥には試験管の底のような窓ガラスの領域があったようだ。
「あの地面にあるのって…扉よね…?」
「あの扉の向こう側は…どうなっているのかしら」
「勿論、冥界に決まってるの~」
「め、冥界ですって!?」
「名塚底根はこの世とあの世の境界線で生まれた鳥籠の星…その外に出たら…勿論あの世なの」
「ヘカーテは冥界にいる…そういう事ですのね?」
「ヘカーテ様はハデス様やペルセポネ様に次ぐ冥界の支配神なの~」
「冥界に行くだなんて…冗談じゃないわよ!?地獄に逝くようなものじゃない!!」
円環に導かれて助かったのに、冥界に導かれてしまったらそれこそ地獄に落ちる魔女の末路。
そんな風に恐怖を感じた紫丁香はヘカーテの魔導書を名塚底根に返して帰るよう言ってくる。
「キャハハ♪紫丁香はビビってるけど…ワスはどうなの~~?」
不気味なまでにこやかな笑みを浮かべてくるセルマに対し、ワスは頷いてくる。
「…行きましょう、冥界に。そこでマルグリートを見つける事が出来るなら…迷いませんわ」
「ワスはこう言ってるけど、紫丁香はどうするの~~?」
挑発するような態度を向けてくるセルマに対し、怒りの表情を向けながら武器を抜く。
「ここに足を踏み入れるだけでもアラディア様への反逆なの…最後通告よ、魔導書を返して」
「いやだよ~。それにさぁ…勿体ないとは思わないの~?」
「勿体ない…ですって…?」
「もしかしたらさぁ…自殺した紫丁香の親も冥界に逝っててさぁ…出会えるかもね~♪」
そう言われた瞬間、自殺した親の光景が脳内にフラッシュバックする。
魔法少女に契約し、化け物と殺し合う運命を背負ってでも救いたかった育ての親。
それなのに娘を残して目の前で自殺された時、どれ程の怒りと嘆きと絶望が噴き上がったか。
願う事なら両親を罵倒してやりたい、そんな望みを紫丁香は心のどこかで抱えている。
だからこそ葛藤に震える武器を下ろしてしまい、彼女もついて行くと言ってしまう。
「よ~し!神曲ダンテごっこの始まりなの~~♪」
一方、セルマ達の動きに気が付いた円環のコトワリ神アラディアは名塚底根にやってくる。
「あの馬鹿者共め…封印してきたここに訪れようなど…我への反逆行為であるぞ!!」
冥界の扉を開かれるかもしれないと焦っているアラディアに対し、脳内で声が聞こえてくる。
<<アラディア…焦ってる貴女の気持ちがわたしにも届いたよ。何かあったの…?>>
<鹿目まどか…円環の者達の中に名塚底根の封印を解こうとしている者達がいるのだ…>
<<そ、そんな!?名塚底根の封印の向こう側は…冥界なんだよ!?>>
<だからこそ急いでいる。冥界の魔物共が名塚底根を通して我が国に侵攻するやもしれん>
<<わたしも貴女の内側に合流する!2人でならその子達を止められると思う!>>
<汝は崩壊した見滝原市で被災した者…現実世界の苦しみがあるのにこれ以上は…>
<<わたしも貴女も円環のコトワリ…だからこそ、円環の問題はわたし達の問題なの!>>
<鹿目まどか…すまない…>
鹿目まどかの意識もアラディアに宿った事で体の主導権をまどかに渡してくれる。
女神姿のまどかは背中と両足の翼から一気に魔力を噴射し、光の翼で急降下を行う。
もう少しで名塚底根の底が見える時、それは起こる。
「キャァァァァァーーーーッッ!!?」
名塚底根の封印をヘカーテの魔導書で解放した事によって漆黒の波動が噴き上がる。
強力な波動で押し戻されかけたが、魔力を噴き上がらせるまどかは突撃していく。
「早まらないで…みんなっ!!」
閉まりかけた冥界の扉に突撃したまどかは間一髪で入り込む。
暗闇の領域に放り出されたまどかは初めて訪れる事になるだろう冥界の世界を目撃するのだ。
「うっ…うぅ……」
「ここが……冥界ですの……?」
倒れ込んだ紫丁香とハスはウキウキ気分なセルマに引き起こされて立ち上がっていく。
見えた景色こそ黄泉の国である冥界であり、日本ではイザナミが支配する黄泉平坂と呼ぶ。
イナンナ神話の冥界下りが行われた場所であり、生者が冥界下りする神話は世界で多い。
ギリシャ神話のオルフェウスの如く冥界落ちしてしまった紫丁香とハスは恐怖を感じている。
「ここが黄泉だとしたら…黄泉平坂と同じく水や食べ物には手を出さない方がいいわね…」
「そうね…わたくし達の体までイザナミと同じくゾンビになって腐りそうですし…」
「早く早く~こっちなの~♪」
かつての時女静香が訪れた黄泉平坂と同じく鬱蒼とした世界を円環魔法少女達は歩き始める。
イナンナ神話において冥界は生きて帰らぬ国と表現されており、生者は死者の仲魔入りをする。
彼女達を監視するかのようにして光っているのは冥界に巣くう悪魔達の眼光の数々。
男悪魔達は美しい生者のような円環魔法少女達に興奮しており、夢魔と吸血鬼共が動き出す。
<<ヒャッハァーッ!!美しい小娘共だぁぁ!!拉致って強姦してやるぜぇーっ!!>>
飛び込んできたインキュバスやヴァンパイア共に対し、セルマとハスと紫丁香は戦いを始める。
一方、遠く離れた場所に降り立った円環のコトワリは魔法少女達を空から捜索しているようだ。
「ここが冥界…深い森や山脈に囲まれた鬱蒼とした怖い場所だね…」
<冥界とはシュメール語でクルと読み、異邦や異界を意味する。異界こそ悪魔共の領域なのだ>
「現世に現れた悪魔達の結界は…この領域と繋がってたんだね…」
<ここは悪魔共の巣窟である魔界…だからこそ我は名塚底根ごと封印してきたのだ>
「うん…それは正しい判断だったと思うよ。悪魔の軍勢が円環に攻め込んできたら大変だし…」
生者すら死者に変えてしまう冥界という悪魔の領域こそ、イナンナすら死なせた領域。
だからこそはぐれてしまった円環魔法少女達の無事を願いながらまどかは懸命に捜索する。
そんな中、アラディアと一つの鹿目まどかは彼女の心に芽生えていく感情に気が付く。
「…何を考えているのか…分かるよ。尚紀さんを…探したいんでしょ…?」
<…父上は死んだ、我らが殺した。だからこそ…イナンナ神話の如く…蘇らせてあげたい…>
冥界下りしたイナンナは姉神エレシュキガルの門番達に全裸にされた後、裁判官に殺される。
冥界の裁判官達の死の眼差しを浴びたイナンナは死骸となって冥界に吊るされるだろう。
イナンナ家臣の大臣は神々に助けを求めるが冷遇される中、エンキが助け舟を出す。
二体の精霊に命の草と命の水を与えて冥界に送り込み、イナンナを蘇らせた神話なのだ。
エジプト神話ではオシリスの妹である妻のイシスが死骸を集めて蘇らせた神話もあるだろう。
「世界の神話にあやかって尚紀さんを生き返らせたい気持ちも分かる…だけどそれは…」
<分かっている…死者を生き返らせるなど世の秩序に反する。あってはならぬこと…>
「それでも…生き返らせたい自由を望む気持ちも分かる…。わたしもね…葛藤してるんだ…」
<死者の復活を望む気持ちは大衆とて同じ…それでも…死があってこその再生なのだ…>
「死がない生命は永遠に循環出来ない…それだと…尚紀さんが生んだ世界の再生でさえ…」
<死と再生というロンドこそ世界の秩序であり自然…自然の秩序を司る我もそれを望む…>
「それでもね…もし冥界に尚紀さんがいるのなら…会うだけなら…自由だと思うよ…」
<我は…この冥界で父上と会ってみたい。彼の望みは何なのかを聞けるだけでも嬉しい…>
それぞれが会いたい存在を心に抱えながら冥界を進んでいく事になるだろう。
そんな者達を見守る存在こそ、冥界の主人である冥界神ハデスとヘカーテなのであった。
映画を見終えた後、興奮と虚無的な感情の板挟みになって我慢出来ずに番外編を数話描きたくなったので投稿します。
一回しか見てないのでキャラの一人称とか二人称とか設定とか間違ってるやもしれんので、ネットで確認取れるようになったら後で修正します。