人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
雨もすっかり上がり、空に虹が浮かぶ頃。
彼は彼女に傘を返して帰ろうとするが呼び止められる。
「……放せよ」
「貴方は私の命の恩人です。何かお礼をさせて下さい」
「しつこい奴だな」
「恩知らずには、なりたくありません」
嫌がっていたが、あまりに頑固だったので仕方なく少し考えた後にこう言ってくれる。
「安い飯でいい。それでチャラだ」
そう注文された彼女はキョトンとした表情を見せる。
それに合わせて彼のお腹から空腹の音が聞こえてきたようだ。
公園のベンチが濡れていない場所に移動した後、二人は向かい合って座る。
買ってきてくれたコンビニ弁当とおにぎりを夢中で食べている彼を彼女は静かに見つめるのみ。
(一体どれぐらいご飯を食べてなかったんですか……?)
彼の汚れた見た目と路地裏に座り込んでいた時の事を彼女は思い出す。
察するに余りある境遇があるのだと彼女は察したようだ。
「本当にいいんですか?これぐらいの事でチャラだなんて?」
「無用なほどこしは受け取れない」
食べ終えた弁当とおにぎり袋をコンビニ袋に詰め、ベンチの横にあるゴミ箱に捨てる。
買ってくれたお茶を飲みながら彼女に対してこんな質問を語りだす。
「あの怪物は…何なんだ?そして、あのコスプレ姿のお前は何者なんだ?」
その質問は彼女が戦っていた魔女と魔法少女の説明を要求しているのだと理解してくれる。
「あれは魔女。私達
(魔女……魔法少女?それにキュウべぇ?また聞き慣れない単語が出てきたな)
彼は彼女の話に耳を傾け、この世界についての情報を集める。
魔女とは世界に災いをもたらす存在。
呪いから生まれ、負の感情に支配された人間達に
その力で人々を扇動し、人間を死に誘う存在だと伝えてくれるのだ。
「人間にはそれが分からないのか?」
「はい…人間にとっては自然災害や事故で片付けられるばかりです」
「魔女と呼ばれる存在の周りにいた…あの小さい下僕のような連中は?」
「魔女の使い魔と呼ばれています」
使い魔も人間を喰らうこともあり、繰り返されたらその使い魔も魔女として孵化するという。
「なるほど、お前たち魔法少女は……言ってみれば害虫駆除屋か」
「商売に出来る程の存在ではありませんけどね…」
(この世界の魔女も…俺たち悪魔と変わらないな…)
悪魔もまた人間を騙したり扇動し、捕まえたら拷問を加えて感情エネルギーを搾り取る。
かつての世界で
「キュウべぇさんは人には見えません。見える人のみが素質ある少女として認められるんです」
どんな願い事でも一つだけ叶える代わりに魔法少女として契約する事になると説明される。
「魔法少女…ねぇ?俺のイメージでは何かの杖を振り回して変身したりする連中なんだが…?」
「フフ♪変身ヒロインの定番ですね。実は私達にもそんな変身道具がありますよ」
「ますますコミック地味た連中だ」
「私達はそれを
「ソウルジェム?」
「普段は左手中指の指輪の形になっていますが、用途によって使い分けられるんです」
魔女や魔法少女の魔力探索にも使えたり、杖のような武器になったりもする宝石じみた卵の形。
それがソウルジェムなのだと説明される。
「なるほど。ただのアクセサリーかと最初は思ったよ」
「それに魔法少女同士はテレパシーという念話を使う事もできるんですよ」
(悪魔の俺達も使えた念話のようなモノか?)
魔法少女の魔法についても質問してくる。
魔法少女はそれぞれ願いの形によって固有魔法が備わっていると聞かされていく。
癒やしの願いで契約した魔法少女は癒やしの魔法を使う者。
人を惑わす願いをした魔法少女は幻惑させる魔法といった感じで魔法の力が分かれるという。
「願いごとの内容で使える魔法種類が限定されるのか?不便な連中だな……他に戦う力は?」
「魔力を使って様々な魔法武器を生み出す力もあるんです。人によって形は異なりますがね…」
「武器に金を出さない代わりに魔力を消費するわけか」
「そうですね。魔力切れを起こさない限り、私達が武器に困る事はありません」
「魔力切れなんて感覚で分かるものなのか?」
「魔力消費を私達に伝えてくれるのもソウルジェムなんです。私達は
「穢れ?濁れば濁る程に魔力を消耗して戦う力を失うのか?」
「そうなります。それを回復させるのが
グリーフシードは魔女の卵だと聞かされる。
放って置くと人間の心の穢れを吸い上げ、魔女として孵化してしまうという。
「危険なものですが…ソウルジェムの穢れを吸い取る力があるんですよ」
「グリーフシードを手に入れないと…お前達は戦う余力もなくなるわけだな?」
「役目を終えたグリーフシードをキュウべぇさんが回収して魔女の孵化を防いでくれます」
「魔法少女の事は大体分かった。だが、あえて聞いてみたい」
「何をですか?」
「あのコスプレみたいな姿で戦う事に抵抗はないか?」
「可愛いでしょ?」
「……そうか。聞いた俺がバカだったよ」
魔法少女と呼ばれる存在に対してコミカルなイメージだけは拭えない尚紀なのであった。
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話疲れたのか、彼女もお弁当と一緒に買っておいた自分のお茶を一口飲む。
魔法少女と魔女の戦い。
それがこの世界で行われている裏側の事情なのだと彼は理解したようだ。
「……怖くないのか?魔女との戦いなんて逃げ出したいと思わないのか?」
悪魔と戦ってきた自分だから分かる質問を投げかけてくる。
その質問に対し、彼女は少し困った表情を浮かべてしまう。
(俺もボルテクス界に放り出され、悪魔という存在と出くわした時は…恐ろしかったんだ…)
それでも戦えなければ容赦なく悪魔達に殺されるしかない地獄を彼は生き抜いた者。
生きるか死ぬかしか与えられない地獄を超えた者として聞いてみたいのだろう。
目の前の魔法少女は少し考え込んだ後、迷いのない顔を向けてくる。
「それは出来ません。魔法少女は
「魔女と戦う事そのものが魔法少女の命綱なのかよ…とんでもない重荷だな」
「それに私は嬉しいんです。魔法少女の力があれば…多くの人達を救えるのですから」
彼に笑顔を向けながら自分の信念を語るのだが、悪魔として生きる彼は冷ややかな言葉を送る。
「魔法少女として自分に誇りを持っているようだな?絵に描いたような正義の味方ってわけか」
「それが私達魔法少女の戦う勇気になってくれると信じています」
(ソウルジェム…それは魂だ。悪魔の俺達にとって…縁が深い代物だな)
赤の他人である自分にとって不躾な頼みだとは分かっていたが彼女に頼んでみる。
「お前のソウルジェム…俺に見せてくれないか?」
「いいですよ」
彼女は左掌を彼に向けた後、ソウルジェムを掌内に生み出す。
それを見た彼は絶句してしまう。
彼にはそれが何なのかがはっきりと分かるのだろう。
(卵の器に入ってはいるが……
外側に出されている彼女の魂を見た後、本来なら魂が収まっているはずの器の体を見る。
(こいつの体から…
人間を構成する肉体と精神。
そしてあるべきはずのもっとも大きい存在の魂が彼女の体には存在していない。
東京受胎に巻き込まれて命を落とし、ボルテクスに放り出された時に発見した存在を思い出す。
それは死んだ自分が分からない思念体であり、それが卵の形にされたように彼には見えるのだ。
本来なら人間に魂など見えるはずが無い。
しかし悪魔となった彼は見えない魂が見え、肉体の口も持たない魂の声も聞こえる悪魔。
故に耳すら持たない魂とさえ念話を用いて会話する事さえ出来たようだ。
(この世界に流れ着き、多くの人を見てきたが…人を構成する中に魂と呼べる霊魂があった…)
それが本来の人間のあるべき姿だが、魔法少女にはそれが無いと分かってしまう。
魔法少女と呼ばれる存在は、あるべきはずの魂が肉体の中ではなく外側にある。
言うなればソウルジェムという卵の檻に囚われていたのだと悪魔は瞬時に見抜いたのだ。
(これが…魔法少女の契約というものか?これじゃまるで…
魂を失った肉体など、ただの屍。
さっき語られた話の中で微量ながら魔力を消費すると聞いた話を思い出すと辻褄が合うだろう。
(本体であるソウルジェムの魔力を使って外側の屍を操っているのだと考えれば合点がいく…)
ソウルジェムと彼女を交互に見つめながらこう思ってしまう。
(人の魂の石ころか…まるで実体を失ってなお人間的個性と感情を残した思念体と同じだな…)
「あの…さっきからずっと黙って私のソウルジェムを見てますけど…?」
これ程の死霊術が使える悪魔は限られていると彼は思考していく。
ルシファー、ベルゼブブ、アスタロトに次ぐ悪魔であるネビロスぐらいだろうと考えこむ。
キュウべぇと呼ばれる存在はそれ程のネクロマンサーなのかと考えてた時、彼女が声を荒げる。
「あの…っ!!一体どうされたんですか!?」
彼は押し黙ったまま何も語らないが、語れるはずもないだろう。
(戦わなければ生き残れないとこいつが言った通りなんだろうな…)
外側の屍を動かし続けるため魔女を倒し、グリーフシードを手に入れて魔力を回復させ続ける。
それが出来なければ、恐らく文字通りの屍と化すのかもしれないと分かってしまった者なのだ。
「私のソウルジェムを見つめながら怖い顔をされてますけど…何か分かるんですか?」
彼女が声をかけ続けていたことにようやく気がついてくれる。
彼女であるソウルジェムに視線を向けた後、かつての思念体に語りかけるように念話を行う。
<なんでもない。気にするな>
彼女は驚いた表情になって立ち上がりながら同じく念話でこう返す。
<貴方もテレパシーが使えるんですか!?>
魔法少女の念話能力をテレパシーだと彼女は言うが、魔法少女達は超能力者ではない。
これは実体を失った思念体同士の念話光景と同じ事をやっているだけだと彼には分かるのだ。
「そのソウルジェム……無くすなよ。それはお前の命そのものだ」
彼の言った言葉の意味は、今の彼女には理解出来るはずがなかった。
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ソウルジェムを見せて以来、彼は押し黙ったままである。
(私をどこか哀れんでいるような表情にも見えますね…)
魔法少女と魔女についての説明も終わり、今度は彼女が彼の事を聞きたくなったようだ。
「今度は私が貴方の事について尋ねてもいいですか?」
「断る」
「えっ!?わ…私だって説明したんですから聞きたいです!」
「言ったところで、お前には理解出来ない」
自分の事を喋ろうとしない彼に対して彼女は言葉を選びながら心配してくれる。
「語れない理由があるんですか…?あの力は魔法少女と違うけど、魔力を力にした戦いでした」
「そう見えたなら好きに解釈しろ。お前達魔法少女も同じ事が出来るんだ、珍しくないだろ?」
彼女の言葉通り、魔法少女も魔力で身体能力を向上させられる。
その気になれば軽く突いただけで人間を跳ね飛ばせるし、オリンピックを制覇する事も出来る。
「珍しくはないですが…私達の魔力の力は軽はずみで他人に見せられないものなんです…」
「力がバレてはならない魔法少女の秘匿社会があるなら…黙っておきたい俺の気持ちも察しろ」
彼の力を気にしてしまう理由とは、魔法少女とは次元が違い過ぎた部分であろう。
銃弾さえ魔法武器で弾き飛ばせる魔法少女の動体視力でも彼の動きが見えなかったからだ。
魔女が相手にならない程にまで次元が違う彼の戦闘力。
魔女結界すらその力で引き裂いてしまう程の力ならば気になってしまうのも無理はない。
(一体彼は何と戦って……あれ程の力を手にいれたの?)
彼の口から吐き出されたあの桁外れの魔力が結晶生物のようなものと関係があるのか?
色々と彼女なりに考察してみるが憶測の域を出ないし、黙った彼も答えは伝えてこない。
喋りたくないなら仕方がないと彼女は話題を変えたようだ。
「家族は…どうされてます?」
「俺に家族はいない」
いきなり彼の地雷を踏んでしまったような気持ちになり彼女は目を伏せてしまう。
「…お友達はいないんですか?」
「俺に友達はいない」
また彼の地雷を踏んでしまった気持ちになり、彼女は俯いてしまったようだ。
「それは……とっても辛いですね」
申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまい、言葉を慎重に選ぶべきだったと後悔していく。
彼の汚れた姿や路地裏で行く当ても無いかのように座り込んだ姿を見れば自ずと分かったはず。
察していたはずなのに世間話感覚で触れて欲しくない部分に触れた自分を恥じてしまう。
(何処にも行く当ての無い人生…誰からも必要とされない毎日…まるで…昔の私みたい)
「もう用事は済んだことだし…借りも返してもらった。これ以上関わる理由もない」
彼は立ち上がり、去っていこうとするが彼女が呼び止めてくる。
「…待ってください!」
彼女も立ち上がり、彼の後を追いかけてきて手を掴む。
(この人を放っておけない。彼がどんな存在でも構わない…私は彼の孤独な気持ちを救いたい)
――昔の私が救われたように。
苛立ちを感じているような暗く冷たい目を彼は向けてくる。
「行く当てが無いのなら、私…頼れる人を知っています!私について来て下さい!」
「余計なお世話だ」
(私と同じだ…昔の他人を拒絶していた頃の、私そのものに見える…)
「俺はお前と関わる理由なんて無い」
「それでも……それでも私と来て下さい!」
手を掴んだまま彼を離さないため、強引に彼女の手を振り払いながら声を荒げてしまう。
「いい加減にしろよ!何故そこまで俺に関わる!!」
「私……貴方の孤独の気持ちが分かるから!!」
彼女の言葉を聞いた彼は彼女の瞳に涙が浮かんでいる事に気がつく。
(俺の孤独の気持ちが分かるだと?この女は…今の俺と同じ過去を背負っているのか?)
嘘を言っているような顔ではない。
彼女は彼の心に寄り添える者であり、そんな者に対して彼は目を伏せながらこう呟いてくれる。
「俺には……何も無い。人間かどうかも分からない男だぞ?」
「いいんです……それでも、私は貴方を救いたいから」
彼女は手を伸ばしてきてこう言ってくれるのだ。
「私……
彼は彼女の顔を見た後、頷きながら手を差し伸べてくれる。
「……嘉嶋尚紀だ」
握手を交わす事が出来た時、二人は心が触れ合えたような気がするのだった。
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彼女の後について行きながら彼は取り留めもない話に耳を傾けている。
この街が風見野市と呼ばれていること。
彼女が風見野中学校に通う中学三年生だということ。
児童養護施設で暮らしていること。
風見野市の一部を縄張りにした魔法少女だということを聞かされた彼が質問してくる。
「縄張りって何だよ?魔法少女はヤクザみたいにシマをめぐる抗争でもやってんのか?」
「魔女が沢山現れる街は…それだけグリーフシードを求めて争いが起きるんです」
魔女という存在は魔法少女達にとっては生命線。
魔女の数に限りがあるのなら奪い合いが起きるのは当然なのだろう。
「この風見野市には私以外にも複数人の魔法少女がいます」
「そいつらと毎日潰しあってるってわけか?」
「出来る限り争いたくない私は…この街の一部分だけを縄張りとして活動を続けてきました…」
(お人好しの魔法少女だな…?自分の縄張りの魔女が尽きた時はどうするつもりなんだ?)
市内の郊外にまで歩かされた事で後どれぐらいなのかと彼が聞いてくる。
「貴方にとって頼りになる人は、もう少し奥に住んでいるんです」
二人は田園地帯をさらに超え、森の道を歩いていく。
(こんな辺鄙な場所に暮らしている人間の世話になるのか……まぁいいか)
この世界に居場所が無い彼にとって人が少ない場所の方が居心地がいいのだと思ってしまう。
それだけ彼の心が孤独に苛まれており、だからころ風華は手を差し伸べてくれたのだ。
「で?そろそろ教えてくれないか。俺は何処のどいつの世話になるんだ?」
「フフ…ついてからのお楽しみです♪」
後ろを振り向きながら意地悪な微笑みを浮かべた後に踵を返し、森の奥に歩いていく。
暫く歩き続け、ようやく開けた場所に辿り着いた彼が目にしたもの。
それは悪魔の人修羅にとっては目を疑いたくなるような場所であったのだろう。
「ここがそうです♪」
「おいおい……嘘だろ?」
そこにはとても大きな西洋建築の教会が建っている。
(大いなる神に呪われた悪魔の俺が…神の家である教会で暮らす?……笑えないジョークだ)
ガックリと項垂れてしまう尚紀はついて行くべきではなかったと後悔し始めるのであった。
読んで頂き、有難うございます。