人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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弐 父の愛を得られなかった女

冥界と地獄は似た印象があるが違いは何か?

 

冥界とは死者が行く全ての世界であり、その中で生前の罪を償うための罰の場所が地獄。

 

地獄とは冥界に流れてきた罪人共を永遠に拷問する強制収容所のような領域であろう。

 

そのため裁判所も存在しており、閻魔大王も冥界の裁判官であり罪人を地獄に落とす。

 

冥界に司法裁判所があるのなら行政機関や立法機関もあるのが自然。

 

政府機能を持ち、冥界に国を築き上げた存在は地域の神話によって色々あるだろう。

 

日本のイザナミ、エジプトのオシリス、シュメールのエレシュキガル等もそれぞれ国を持つ。

 

そしてセルマと紫丁香とワスが辿り着いた冥界の国とは冥界神ハデスの支配領域なのだ。

 

ギリシャの冥界はハデスが王を務め、裁判官にはアイアコス、ミノス、ラダマンティスがいる。

 

裁判官に裁かれた者達は冥界よりもさらに下の地獄に流刑される事になる。

 

この地は人の魂を永遠に苦しめるサイコパスのような存在が求められる忌まわしき世界。

 

そのため悪魔共が人間の魂を永遠に屠る世界とも表現出来るだろう。

 

<<キャァァァァァーーーーッッ!!!>>

 

冥界に巣くう悪魔達の一斉攻撃を避けたセルマと紫丁香とワスは崖沿いで着地する。

 

しかし盛大な魔法攻撃によって足場が崩れた事で瓦礫ごと崖から転落してしまう。

 

「チッ!!やり過ぎちまったか…このまま川を流れて行っちまうかもなぁ…」

 

「その先はハデス様の領域に繋がる…あの御方は冥界の主人だが…秩序側でもある…」

 

「俺達のハッスルがバレちまうと裁判所に連行されかねんし…お遊びもここまでかもなぁ…」

 

追撃を諦めた悪魔達の眼下では冥界と生界を区切る忘却の川の流れがここまで続いている。

 

激流に流される円環魔法少女達だけでなく、今も現世で続くカナン族狩りの死者達も多い。

 

無数に流れるどざえもんと共に流されていく円環魔法少女達は必死に浮上しようとする。

 

「キャァ!?」

 

「どうしたのセルマ!?きゃぁ!!」

 

セルマと紫丁香の足を掴んで川の中に引きずり込んだのは無数のカナン族共の思念体。

 

ヘブライ語で助けてくれと叫びながらも彼女達の感情エネルギーを吸い上げようとしている。

 

これこそが強欲で傲慢な二枚舌のカナン族ユダヤの性質であり、異民族を騙して貶め続ける。

 

死してなお許されざる存在共の慰み者にさせまいとワスが真の力を発揮するのだ。

 

「乱暴な男共が相手なら…容赦はしませんことよ!!」

 

旅人のような白い魔法少女衣装を纏っていたワスの衣装がワルプルギスの夜衣装に変化する。

 

水流の中で体を回転させると巨大な竜巻と化し、川の水ごと魔法少女達を空に巻き上げる。

 

「「うひゃぁぁぁぁぁーーーっ!!?」」

 

暴風を司るワルプルギスの夜の力によって魔法少女達は陸地にまで巻き上げられて倒れ込む。

 

亡者化したカナン族連中は再び川の中に叩きこまれてコキュートスまで流れていくだろう。

 

「あいたたた…セルマのお尻はデリケートだから…もっと優しく助けて欲しかったの…」

 

「め…眼鏡…私の眼鏡は何処なの…?」

 

お尻を摩っているセルマの横では目が3の形になりながら自分の眼鏡を探す紫丁香がいる。

 

浮遊しながら降りるワスの背後には光の魔法陣が浮かんでおり、かつての大魔女を彷彿させる。

 

フェイカーと呼ばれようと彼女はワルプルギスの夜であり、その力は凄まじいものなのだろう。

 

「ハァ…魔力で視力を補えばいいというのに、紫丁香は物好きですわね…?」

 

魔力で生み出した眼鏡を紫丁香に渡した後、背後の魔法陣を消したワスが周囲に振り向く。

 

「ここは一体…どの辺りなのでしょう…?」

 

ワスが見た景色とはハデスの領域であり、不毛な山脈に沿うようにギリシャ建築が備わる。

 

切り立った崖のような道の上から落ちてくるのは冥界の曇天から落下する亡者共の雨。

 

それらは崖の下の川に落ちたり、そこら中に積み重なって亡者の山を築き上げている。

 

それらは冥界の住人として生きる亡者達が崖下に捨てる仕事をこなしているようだ。

 

「あれが思念体と呼ばれる人々なのね…」

 

「我々は円環魔法少女として悪魔と同じく外側の存在…だからこそ彼らを知覚出来るのです」

 

冥界には地獄に落ちる事も出来ずに彷徨う思念体も大勢存在している。

 

彼らはハデスの領域で永遠の労働をやらされる立場に追い込まれているようだ。

 

「ちょうどいいし、道を聞いてくるの~」

 

駆け出したセルマを見送る仲魔達は鬱蒼とした世界を見ながら感想を述べていく。

 

「オルフェウスやヘラクレス…それにイザナギやスサノオやオオクニヌシになった気分よね…」

 

「そうですわね…彼らのように冥界から生還出来るよう…願いたいものですわ…」

 

<<ソレハユルサン>>

 

背後から凶悪な唸り声を上げてくる獣悪魔に気が付いたハス達はビクッと体が震える。

 

恐る恐る後ろに振り向くと三つの頭を持つ白い獣悪魔が雄叫びを上げてくるのだ。

 

「こ…この巨大な犬が…もしかして…あの……?」

 

「……そのようですわ」

 

現れたのは尚紀の仲魔として生きたケルベロスと同じ存在。

 

ケルベロス族特有の三つの頭を持つ存在が獰猛な口を開けながら炎の息を噴出する。

 

「ソノ姿…円環ノ魔法少女共カ?名塚底根ノ封印ヲ無断デヤブッタナラ…冥界ノ住人トナレ」

 

「は…話をちゃんと聞いて欲しいわ…私達はね…とある存在と出会いたかっただけなの…」

 

「関係ナイ。冥界ニ一度デモハイッタノナラ…冥界ノ法ニシタガッテモラウゾ…」

 

「まるで神曲の地獄門ですわね…一切の希望を捨てよという意味は…こういう事でしたのよ…」

 

「名塚底根の扉にも地獄門みたいにちゃんと注意書きを書いてて欲しかったわよ~!!」

 

「こっちなの~~っ!!」

 

手を振ってくるセルマに振り向いたワスと紫丁香は一目散に逃げだしていく。

 

「ノガサン!!冥界ヨリ生還シタイトイウノナラバ…ソノ資格ヲシメセ!!」

 

雄叫びを上げながら飛びついてくるケルベロスに対し、振り向いた紫丁香がワンドを構える。

 

両方に備わる小さな傘を魔力で大きくした事でケルベロスの飛びつきを弾き飛ばす。

 

「ヌォォォォーーーッ!!?」

 

強力な反発魔法が使える紫丁香の防御で弾き飛ばされた獣悪魔が崖下に落下していく。

 

しかしアイアンクロウを用いて崖に張り付き、そのまま垂直に駆け上ってくる。

 

険しい山脈にそびえたつギリシャ神殿のような建造群の道を円環魔法少女達は駆け上がる。

 

「この山脈の奥にハデス様とヘカーテ様の宮殿があるみたいなの!そこまで頑張るの~!」

 

「元はと言えばあんたのせいでしょ!?なんとかしなさいよ~!!」

 

「しょうがないにゃ~~っ!!」

 

裁縫の魔法で生み出したテディベアの群れが巨大な編針を振り上げながら突撃する。

 

しかし裁縫人形ではケルベロスのファイアブレスで焼き尽くされるのみであろう。

 

「わたくしの風魔法なら通じますわ!」

 

「ワスはやめて!!ここは切り立った山脈都市だし…竜巻なんて生んだら落石地獄になる!!」

 

「落石ごと巻き上げられて…セルマ達は竜巻の中で落石と一緒にミキサーされるのーっ!!」

 

ならば空に飛んで逃げようとワスは魔力で宙に浮かぶが彼女達を覆う巨大な影が現れる。

 

「逃がさんぞぉ!!冥界の門番はケルベロスだけではない!我らもいるのだぁ!!」

 

<<ば、化け物~~っ!!?>>

 

山脈都市の向こう側から巨体を覗かせてくるのは腕が何本もあり、三つの頭部の大巨人。

 

【ヘカトンケイル】

 

ギリシャ神話の巨人であり、ゼウス側についてティタン神族と戦った存在。

 

父ウラノスに嫌われキュクロプス共々冥界タルタロスに幽閉されていたが、ガイアに救われる。

 

百の腕から三百もの岩を投げ、ゼウスを勝利に導いた後はタルタロスの門番になったという。

 

「邪魔ヲスルナ!ソノ獲物ハ我ノモノダァ!!」

 

「抜け駆けは許さん!これでも喰らうがいい!!」

 

冥界の曇天に頭が届く程の大巨人が手に持つのは無数の巨岩であり、豪快に投げてくる。

 

「くっ!!」

 

両手を放射状に構えたワスが巨大な竜巻を一直線に放つが大質量過ぎて通じない。

 

「そんな!?高層ビルすら持ち上げられる程のワスの風魔法が通じないなんて!?」

 

「掴まりなさい!!」

 

セルマと紫丁香の手を掴んだワスは飛翔しながら巨岩の雨を避けていく。

 

後方に大きく飛び退いたケルベロスは巨岩の雨で潰されていく道によって進路を阻まれる。

 

「貴様ノセイデ侵入者ヲ取リ逃シタデハナイカ!図体ダケデカイダケノ、デクノボウメ!!」

 

「やかましい!貴様が連中を足止め出来なかったから命中させられなかったのだ!」

 

「責任転嫁ナドスルナ、見苦シイ!貴様ガ破壊シタハデス様ノ領域ノ件ハ報告サセテモラウ!」

 

門番同士で言い争いを続けてくれるお陰でワス達はどうにか危機を脱する事が出来たようだ。

 

「最初から飛んで逃げてたら良かったの…」

 

「私達も空を飛べる魔法が使えたらいいのに…美樹さやかですら楽譜の道で飛べるのに…」

 

「それより見なさい、あの開けた領域から続く階段の上にそびえる城館を…」

 

ワス達が着地した場所とはハデスの城館に至る巨大な階段であり、その下は円形広場である。

 

広場に着地したワス達はバチカン市国のサン・ピエトロ広場のような景色に目を向ける。

 

オリュンポス十二神の像が並び立つ広場に広がっていくのは邪悪な気配。

 

<<オーックックックッ!!円環の魔法少女共が何用でハデス殿の領域に現れたのだぁ?>>

 

巨大な広場の中央に顕現する巨大な怪物を見上げる魔法少女達の顔に冷や汗が流れ落ちる。

 

現れた存在こそハデスとも同一視される存在である死神であった。

 

♦

 

円環のコトワリが降り立った場所は広大な冥界の東洋であり、イザナミの支配領域。

 

黄泉平坂に辿り着いてしまったまどかは天神降臨の際に現れたイザナミに声を掛けられる。

 

ハデスやオシリスと同じく冥界の支配神であったイザナミの念話によって居場所を特定する。

 

冥界の西洋であるハデスの支配領域に目掛けて高速で飛行する彼女は焦っているようだ。

 

「お願い…間に合って!!」

 

一方、ハデスの居城にまで辿り着いた円環の魔法少女達の前には巨獣が出現している。

 

黄色い肌をした豚のように見えるが胴体はドラゴンにも見えるその者こそハデスと同じく死神。

 

王冠を被り王のマントと杖を纏う存在は異世界転生で描かれるオークのような笑い声を上げる。

 

「オーックックッ!ハデス殿の居城に侵入するとは無礼者め!今夜のディナーは決まったな!」

 

【オーカス】

 

本来はエトルリアの神であり、墳墓の壁画では髭を生やした恐ろしげな巨人の姿で描かれる。

 

誓約を破った者を罰する神とされ、冥王ハデスやローマ神話のプルートとも同一視される。

 

中世のヨーロッパでは豚の頭を持つ悪魔や怪物に変化し、イタリア語でオルコになっていく。

 

ファンタジーに登場するオークの呼び名はオルコから派生したのではないかと言われていた。

 

「ワガハイはその名も高き、死の魔神オーカスである!何用でハデス殿の領域を犯した!?」

 

「魔王オーカスですって!?ハデスとも同一視されるという…あの死神なの!?」

 

「そんな偉そうな肩書をしてる奴を門番にしてるなんて、ヘカーテ様の権威は流石なの~」

 

「わたくし達はヘカーテ様に用事があって参りました!お目通り願います!」

 

「ならぬ!おんしらは円環の魔法少女…なのに冥界に無断侵入しておる!誓約違反であるぞ!」

 

「誓約違反ですって!?一体いつの間にそんな誓約が出来ていたのよ!?」

 

「おんしらの主神であるアラディアとゼウス殿、そしてハデス殿との間で結ばれた誓約だ」

 

「アラディア様はギリシャ神話の神々と関係を持っていただなんて…知りませんでしたわ」

 

「おんし共はそのお陰で円環に導かれておる。円環の女神が生まれる前は冥界に落ちていた」

 

「そういう事だったのね…私達のような魔女は本来なら地獄に落ちても不思議じゃないし…」

 

「ワガハイは誓約を守る番人としておんしらを屠らねばならぬ!丁度腹も減ってたからな!」

 

「セルマ達を食べてもお腹を壊すだけなの~……」

 

「そうは思わん!ワガハイは肉料理が好きでな…特に人肉を好む。おんしらの肉は美味そうだ」

 

手に持っていた杖を消し、巨大なナイフとフォークを生み出した豚魔王が二刀流を構えてくる。

 

戦うしかないと武器を構える魔法少女達であるが、オーカスは紫丁香が気になる様子。

 

「むぅ?おんしの顔つき…どこかで見たような…」

 

「わ…私は貴方となんて出会った事はないわよ!?」

 

「おんしではない、おんしとよく似た冥界の住人をモグモグした事があるような…」

 

「私とよく似た冥界の住人ですって…?」

 

腕を組んで思い出そうとするオーカスはど忘れしていた食材について思い出す。

 

「おお、思い出した!その者は娘を残して自殺した罪人として冥界で服役していた受刑者だ」

 

「娘を残して自殺した…私の顔つきとよく似た冥界の住人……ま、まさか!?」

 

永遠に強制労働させられるのは嫌だと誓約を反故にして逃げ出そうとしていたが捕らえられる。

 

ケルベロスに囚われた罪人はオーカスの前に引っ立てられたと語ってくれる。

 

「無論ワガハイは極刑を下した。その思念体はワガハイにマルカジリされたというわけだ」

 

顔面蒼白になりながら震えぬく紫丁香の不安は確信に変わるだろう。

 

「その者は食い千切られながら娘の名を叫んでおった…たしか…紫丁香だったかのぉ?」

 

「ま…ま…間違いない…お前は…私の家族を…食べたのね!!?」

 

「おんしが紫丁香なのか?不憫よのぉ…娘を残して自殺したのに死後に娘に縋り付くとはなぁ」

 

「どうして…どうして生前の私に縋ってくれなかったのよ…魔法少女の私なら…救えたのに!」

 

「理由を聞きたいか?ワガハイに喰われた以上、その者の記憶はワガハイの中にある」

 

事業に失敗して借金地獄の俺は妻にも逃げられた、もう娘を育てる自信もない。

 

俺は疲れた、若い娘ならどうにか生きていけるだろう、さようなら、許してくれ。

 

取り込んだ思念体が自殺する時の気持ちを代弁された事で紫丁香の顔が憤怒に歪む。

 

「何処までも勝手な奴よ…それでもね…そんな人のために私はね……魔法少女になったの!!」

 

紫丁香の体から怒りの魔力が噴き上がり、その体が異形の魔女へと変化する。

 

円環の魔女となったゴムの魔女の体は触手めいており、巨大タコのように襲い掛かる。

 

「ダメなの紫丁香!」

 

「相手が悪過ぎますわ!!」

 

仲魔達の制止など怒りに我を忘れた紫丁香には届かない。

 

「お前の中に糞親父が取り込まれたのなら…お前は私の憎い糞親父よ!!殺してやるーっ!!」

 

「オーックックックッ!今夜はタコ魔女の踊り食いといこうではないかぁ!!」

 

怪獣バトルの如く激しく暴れ回る者達に対して、ワスとセルマも腹を括ってくれる。

 

大事な紫丁香を殺させまいと魔法攻撃を用いて援護を行うが、オーカスは強力な魔王である。

 

死神であるオーカスは死霊術を行使してくる。

 

「な、なんか…コックさんみたいなお人形さん共が迫ってくるの~!?」

 

「随分と可愛らしい見た目のコックさん連中ですが…刃物を振り回すのは関心しませんわね」

 

「オーックックッ!その者達はワガハイの料理人軍団でもある!いくがいいコックさん共よ!」

 

城館前には無数の死霊コックさん軍団が飛び込んできた事で辺りは大乱戦となってしまう。

 

体に巻き付いて締め潰しを狙うゴムの魔女であるが、物理耐性に優れる魔王には効果は薄い。

 

「おんしもワガハイに喰われるがいい!家族共々ワガハイの一部となれぇ!!」

 

巻き付かれたオーカスの全身から放たれたのはマハラギダインであり、業火が噴き上がる。

 

「ああぁぁぁぁぁーーーっ!!!」

 

天を穿つ炎の火柱と化したオーカスの攻撃で全身を焼かれた紫丁香は魔女化が解けてしまう。

 

倒れ込んだまま燃える紫丁香はこのままでは絶命してしまうだろう。

 

「「紫丁香ーーーっ!!?」」

 

地響きをたてながら迫りくるオーカスは右手の巨大フォークを逆手に持って振り上げる。

 

「小さくなって喰いごたえがなくなったがまぁいい…タコ姿焼となったおんしを頂こう!!」

 

絶体絶命の中、燃え上がる世界で意識を失う紫丁香は心の中でこう零す。

 

(家族を救うために魔法少女になったのに…家族を喰らった悪魔に殺される…因果なものね…)

 

絶体絶命の中、冥界の空から放たれたのはピンク色に輝く矢。

 

「ヌゥ!!?」

 

巨大フォークを撃ち抜いた攻撃に怯んだオーカスは冥界の空を見上げる。

 

地上では燃え上がる紫丁香の体に回復の光が迸り、傷ついた体が全回復している。

 

倒れた紫丁香の元に駆け寄った仲魔達が彼女を抱き起しながら空に顔を向けると目が見開く。

 

「ま…不味いの……」

 

「……見つかってしまいましたわね」

 

曇天の空に降臨したのは魔女の救済神であり、鹿目まどかでもある円環の女神であった。

 

♦

 

金色の眼差しを持つ女神が鋭い視線を送ってくるのに対し、オーカスの顔に冷や汗が浮かぶ。

 

「ヌゥゥゥゥゥ…邪魔立てするか…アラディア!誓約を破ったのはこ奴らであるのだぞ!!」

 

ゆっくりと地上に降り立った円環の女神が円環魔法少女達の元に駆け寄ってくる。

 

「みんな、大丈夫!?」

 

「その雰囲気はもしかして…まどかなの…?」

 

「アラディアと一緒にわたしも助けに来たの!良かった…無事でいてくれて…」

 

「鹿目まどか…わ、わたくし達は…その……」

 

「お説教なら後にするよ。今は…この場を切り抜ける事だけを考えようよ」

 

オーカスとコックさん軍団は円環の女神に対して攻め込む事もせず佇んでいる。

 

アラディアの実力は桁外れであるのは知っており、戦えば命はないのは分かっているのだろう。

 

「誓約を破ったのは謝るよ…この子達に罰を与えるのはわたしだから…ここは引いてくれる?」

 

「それを決めるのは冥界を支配する我々側だ!冥界に入った以上は冥界の法に従え!!」

 

「法を破る事は悪い事だって知ってる…それでもね…この子達は円環の魔法少女なの…」

 

「だからなんだ!ワガハイの料理を掠め取ろうとする者は…アラディアであっても許さん!」

 

怒り心頭のオーカスは恐怖を塗り潰す程の憤怒で戦いを仕掛けようとしてくる。

 

迎え撃つまどかもまた戦うしかないと大弓を構えた時、恐ろしい念話が響く。

 

<<互いに矛を下ろせ>>

 

送られた念話の主が誰か分かるオーカスは巨大な階段の上にそびえる城館の主に叫んでくる。

 

「何故ですか…ハデス殿!?この者共はハデス殿とペルセポネ殿の領域を穢した賊共ですよ!」

 

<<その者達は我に用事があって来たのだろう?客人であるのならば相応の態度でもてなせ>>

 

「ヘカーテ様まで…何故そのように振舞われるのです!?このような矮小な者共に対して!?」

 

<<忘れたか、オーカスよ。目の前にいる御方は何者なのか…申してみよ>>

 

「そ…それは…その…円環の主神である…アラディアでありますが…」

 

<<我らの混沌王陛下より賜った御言葉…忘れたとは言わさんぞ>>

 

そう伝えられたオーカスは青ざめてしまい、人間の上半身を思わせる体が気を付け姿勢になる。

 

そのまま深々とアラディアに頭を下げてきた事に対し、まどかとアラディアは困惑してしまう。

 

<どういう事なの…これって…?>

 

<聞こえる念話の内容からして…どうやらハデスは我の父上を敬愛してくれる者のようだ>

 

<だとしたら…尚紀さんの義理の娘として認められたアラディアに逆らうのは不味いよね…>

 

<父上…死んでからも我らをお守りしてくれているのですね…>

 

去って行くオーカス達を見送った後、まどか達はハデスの城館に招かれる事になっていく。

 

「こちらにお越しください、ハデス様とヘカーテ様がお待ちですわ」

 

階段を上る者達の元に舞い降りたのは遣わされた侍女達であり、その背中には翼が備わる。

 

【セイレーン】

 

人魚のモデルとなった存在であり、ギリシャ神話の海の魔物として恐れられる存在。

 

海の航路上の岩礁から美しい歌声で航行中の人を惑わし、遭難や難破に導く悪魔であろう。

 

ペルセポネに仕えており、誘拐された時には捜索を願って翼を得たと言われる存在だった。

 

「あの…えっと…セルマ達はね…その……」

 

「セルマちゃん、今はやめて。貴女にも目的はあったんだろうけど…生きて帰るのが先決だよ」

 

「あうぅぅぅ……」

 

城館に入り込んだ者達は謁見の間にまで案内されていく。

 

「こちらで御座います」

 

セイレーン達が謁見の間に繋がる巨大な扉を開いた後、レッドカーペットの上を歩いていく。

 

階段の上に備わる玉座に君臨している者こそがハデスであり、隣にはヘカーテもいる。

 

「あれが…地下のゼウスとまで呼ばれた冥界神…ハデスですのね…」

 

【ハデス】

 

冥府の神でありオリュンポス十二神の一柱に数えられ、クロノスとレアの長男でもある。

 

ゼウスやポセイドンの兄神であるが弟神達よりも権威を下にされた存在でもある。

 

くじ引きで外れくじを引かされたせいで冥府の神という閑職に追い込まれたのだろう。

 

神話では女性の扱いに不慣れな彼に対して、ゼウスはペルセポネを誘拐しろとそそのかす。

 

ゼウスの誘惑に負けたハデスはデメテルの娘のペルセポネを誘拐して強引に妻にしてしまう。

 

そのせいで豊穣神デメテルは嘆き、世界を荒廃させた一旦を担う存在となったようだ。

 

「…オーカスめが失礼を働いた。その件については謝罪しよう…アラディア殿」

 

玉座から立ち上がって深々と頭を下げるハデスに対し、改めてアラディア権威に驚愕する。

 

「あの恐ろしい姿をしたハデスとアラディア様は…どのような御関係なのでしょう…?」

 

ハデスの姿は漆黒の鎧を上半身に纏ったような姿であり、顔は黒いベールで包まれて見えない。

 

上半身に備わる三角のポールの上には三角の魔法陣が備わり、天蓋のように備わっている。

 

王様ズボンの周りは四枚翼の羽を思わせる外装で覆われており、黒い厚底靴で身長を伸ばす。

 

見た目の雰囲気からしてグラムロック歌手が纏うようなゴージャスな見た目であろう。

 

<我らは共に冥府の神…死んだ者達の魂の管理についての誓約を交わし合っただけだが…>

 

<アラディアに対して、あんなにも礼節を振舞ってくれる冥界神も…なんだか不気味だね…>

 

ハデスに対して警戒するまどかの横にいたセルマはヘカーテを見た事で駆け寄っていく。

 

玉座が備わる階段の前で跪き、鞄の中のケースに入れていた魔導書を取り出して掲げてくる。

 

「ヘカーテ様!会いたかったですの~!セルマは名塚底根でこれを見つけて探しに来たの~!」

 

ヘカーテの姿は召喚された頃と同じくSMチックな女王様な姿であり、魔法少女達は息を飲む。

 

こんな存在が円環の魔女の指導者になるのかと考えただけで恐ろしくなるのだろう。

 

「円環の魔女よ、今はハデス様の謁見の最中だ…後にせよ」

 

「あっ…えっと…ごめんなさい…なの…」

 

しょんぼりしながら項垂れるセルマの横を階段を下りてきたハデスが通っていく。

 

まどかの前で立ったハデスは漆黒のベールで覆われた向こう側から金色の瞳を見つめてくる。

 

「そなたが混沌王陛下の娘として認められたアラディア神の片割れ…鹿目まどかであるか?」

 

「は、はい…そうです。あの…人修羅…ううん、尚紀さんを知ってるんですか…?」

 

それを問われたハデスは失楽園について語ってくれる。

 

「ジョン・ミルトンの失楽園において…夜と我、そしてオーカスは混沌王陛下の臣下なのだ」

 

「それなら貴方達は…尚紀さんの臣下でもあるんですね…?」

 

「その件について話すと長くなる…立ち話もなんだ、こちらでもてなそう」

 

ハデスの城館に備わる迎賓館に案内された者達が周囲を見学しながらこう呟く。

 

「恐ろしい冥界の君主が住まう宮殿にしては…随分と気品溢れた豪華絢爛な空間よね…」

 

「わたしの中のアラディアもね、貴女達を円環に導くためにここで調印式を行ったそうだよ」

 

「そのお陰でわたくし達は冥界に落ちること無く、円環の魔女の国に導かれるのですね…」

 

豪華な金箔張りのレリーフや鏡、シャンデリアで飾られた間に通された者達が椅子に座る。

 

奥の席に座ったハデスとヘカーテは疑問に思っている事に答えてくれるだろう。

 

「アラディア神よ、そなたは混沌王陛下が認めた娘。ならば臣下として我らは礼を尽くす」

 

「調印式の時に見かけた時には我に対して冷ややかな態度であったが…どういう了見なのだ?」

 

まどかからアラディアに人格が切り替わった女神に対し、ハデスは経緯を語ってくれる。

 

「我はオリュンポス十二神であるが…閑職故に馬鹿にされたものだ。それに不満を募らせた…」

 

ゼウスに不満を募らせるばかりのハデスは自分の概念に対して劣等コンプレックスを抱く神。

 

自分を閑職に追い込むゼウスやポセイドンではなく、自分を評価してくれる者に付きたい。

 

そんな願望を抱く彼が希望を感じられたものこそ、ジョン・ミルトンの失楽園。

 

ハデスという概念に新しい一ページを与える概念になってくれると思った彼は混沌王を求める。

 

そんな頃、ハデスは城館のテラス席から冥界の曇天を見物していた時に希望の光を見出す。

 

「おお……おおおぉぉぉ……っ!!?」

 

驚愕しながら立ち上がるハデスが見た存在こそ、天から堕ちてきた暁の星。

 

新たな太陽神であり、新たな大魔王となった嘉嶋尚紀はルシファーの如く天から堕ちる。

 

太陽は落日する星であり、ルシファーの如く堕天しながら冥界の地面に叩きつけられる。

 

「うっ……うぅ……」

 

思念体に成り果てた尚紀の意識は薄れていき、そのまま気絶してしまう。

 

何も知らない冥界の労働者達は落ちてくる亡者共と同じように谷底に捨てようとする。

 

それに待ったをかけた存在こそ、彼に希望の光を感じられたハデスであった。

 

「陛下は確かに罪人…それでも金融支配を終わらせたメシア。地獄で終わるべきではない」

 

そう思ったハデスは倒れ込んだ彼を自分の城館にまで運ばせた後、目覚めた彼に平伏する。

 

人修羅として生きた尚紀こそ混沌王であり、失楽園のように自分も共に在りたいと嘆願する。

 

「しかし陛下は我にこう言われた…貴様もベルゼブブと同じなのだとな…」

 

糞山の蠅王という自分の悪魔概念にコンプレックスを抱いたベルゼブブもまたハデスと同じ。

 

望むのは権威と権力なのだろうとハデスの望みを見透かしてきたようだ。

 

「我は本心を見抜かれて焦り、言葉も上手く話せなかった時…陛下は我に質問してきた」

 

その力は誰のためにある?誰のために神としての役割を果たしたい?

 

そう聞かれた時、閑職であっても冥界の神としての役割を続けたハデスはこう告げる。

 

「神とは世界であり、自然の在り方を守る秩序…己(・)の(・)見(・)栄(・)の(・)た(・)め(・)に(・)神(・)を(・)名(・)乗(・)る(・)愚(・)か(・)者(・)で(・)は(・)な(・)い(・)」

 

自分の本心に権力欲はあっても、それでも神としての在り方までは曲げられないハデス。

 

そんな冥界神に満足したのか、尚紀は頷いてくれる。

 

「俺と共に在りたいというなら…貴様も地獄の底まで導かれる事になるぞ?」

 

「陛下がどんな地に逝こうとも、我は陛下と共に歩みたい…兄弟のゼウスにはついて行かない」

 

「そうか…ならば俺と共に在れ。貴様の在り方を見極めた時…望む恩賞を与えてやろう」

 

「その御言葉が聞きたかったのです!我らは共に在りましょう…失楽園の如く」

 

「ニュクス(夜)だけでなく貴様も俺と共に在りたいか…つくづく混沌王という肩書は重過ぎる…」

 

ハデスだけでなくオーカスもまた尚紀に忠誠を誓って軍門に下る。

 

ハデスはオリュンポス十二神でありながら大魔王となった尚紀の軍勢にも加担する者となろう。

 

秩序でありながら混沌にも与する矛盾を極めたハデスもまた、矛盾を極めた尚紀と共に在る。

 

そんな陰陽神であり大魔王は自ら望んで冥界の裁判官達の裁きを受ける。

 

裁判官は迷い抜き、死者の赦免や復活を司るペルセポネは尚紀に恩赦を与えるべきと具申する。

 

冥界の曇天の上に存在する天国、エリュシオンに導かれるべきだと裁判官達は告げる。

 

しかし尚紀は自らコキュートス逝きを望みながらこう告げたようだ。

 

「人修羅として生き、大魔王にまで堕ちた俺の道こそ冥府魔道…その道を進む覚悟はしてきた」

 

ハデスの城館が備わる王宮の底に流れる川に立つのはぼろ布を纏った尚紀。

 

見送りに来たのはハデス達であるが、彼らは無念そうにしている。

 

「本当に…逝ってしまわれるのですか?望めば天国にも逝けたというのに…っ!?」

 

「これが俺の選んだ責任の道…俺は責任からは逃げない。それでも…悔いは残っている…」

 

俯いた尚紀が思い出すのは生前に絆を結べた魔法少女達や悪魔少女達。

 

彼女達を支えてあげたかった気持ちもあり、それに尚紀を父神だと慕った娘まで残している。

 

「もし…俺の娘が俺を探しに冥界まで来る日がきたのなら…俺の言葉をお前が告げてくれ」

 

――娘だけでなく、皆に希望を残せる世界を残して逝けたのは…父神としての…俺の誇りだ。

 

そう言い残す彼は河原を歩きながらカロンがいるアケローン川まで進んでいくだろう。

 

その河原で尚紀はアリナの思念体とも再会を果たし、共に冥府魔道の道に堕ちていくのだ。

 

「陛下はそなたを愛していた…愛するからこそ女のために死ねる…それが古来からの男なのだ」

 

清聴してくれていた円環の魔法少女達であるが、堪え切れずに泣きだす者もいる。

 

「父上…グスッ…ヒック…あぁ…あぁぁぁぁぁぁ~~~……っ!!!」

 

机に置かれた腕の中に顔を埋めながら泣き崩れるアラディア。

 

彼女の父となってくれた尚紀の愛は本物であり、それこそが彼女が求めた父性愛。

 

本当の父親の温もりに触れたアラディアの気持ちに寄り添うようにしてまどかは抱き締める。

 

円環の女神の体内では抱き締め合った二つの魂が同時に存在しているのだろう。

 

「……どうして……私は……」

 

清聴していた者の中でひときわ濁った目をしている者がいる。

 

それは紫丁香であり、父の愛すら得られずに父から見捨てられた女でもある。

 

「父親の愛を……得られなかったの……?」

 

彼女の心の中で噴き上がるどす黒い感情とは七つの大罪の一つである嫉妬。

 

得られる者に対する劣等コンプレックスであり、体が震える程の憎悪が溢れ出す。

 

その感情が向けられた相手とはアラディアであり、主神に対する憎しみが堪えきれない。

 

そんな紫丁香を見つめるのはセルマであり、その口元には不気味な笑みが浮かぶのであった。

 




ペルソナ3のタナトスもニュクスの使役悪魔として登場させた事だし、ペルソナ罪のパンツ番長のペルソナなハデスも出していいですよね!
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