人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
先手として黒龍が動く。
突き、右肘を払い、左蹴りを捌きながら悪魔は後退る。
「集中しろ、悪魔」
「まだだ…!」
右手で来いと促す彼女の元に近寄り、再び右手首を互いに合わせる。
その瞬間、悪魔が両手で右腕を掴む動作を行う。
彼女は左手で払い、右拳の崩拳を放つが悪魔はそれを左手で払い、互いが構え直す。
「いくぞぉ!!」
悪魔のローキックを膝を上げ受け止める。
反撃の左ハイキック、避ける悪魔に内回し蹴りと続く連撃が繰り出されていく。
身を屈めて避け、上体を仰け反らせて悪魔は避けきってくる。
「ハァァーッ!!」
続くダブルフックキックを中段、上段とガードしていき、右ハイキックの反撃を打つ。
彼女は身を屈めて蹴り技を避け、軸足を掴みながら引き倒す。
倒れ込んだ悪魔に追い撃ちの踏み蹴りが迫りくる。
体を地面で転がしながら起き上がりの最中に放つのは右前掃腿。
膝を上げて蹴り足を避けたが、地に手をついてから放つ悪魔の右浴びせ蹴りが迫る。
「フンッ」
頭部に迫る蹴りに対して体勢を低く下ろしながらの後掃腿を放つ。
地面を支える手を刈り取られた悪魔は俯向けに倒れ込む。
起き上がる一瞬、背後から右側頭部に向けて放たれた中段回し蹴りが放たれる。
それを肌感覚で感じ取り、背を向けたまま右肘で打ち払う。
最短で後ろに振り向きながら起き上がり、悪魔は構え直したようだ。
「…相変わらず大したヤツだ。聴勁を練り込んでやがる」
「勿論だ。そのために私は
「…そういう事か。どうりで美雨の動きが去年よりも悪くなっていると思ったぜ…」
「その名前から察するに…その者も魔法少女であり、私と同じ武術家だな?」
「それがどうした?」
「聴勁とは肌感覚を鋭敏にして攻撃を感じ取る技術。痛みが襲いかかる恐怖心を利用する」
「……その通りだ」
「これは痛みを感じる人間にしか出来ない。痛覚が麻痺した魔法少女では磨く事は不可能だ」
「激痛に恐怖心を感じなくなる痛覚麻痺の魔法少女だからこそ…恐怖心が消えてしまうか」
「戦いの際に傷ついた体を魔力頼りで回復を続けていては、直ぐに魔力不足となり命を落とす」
「痛みを取り戻したと言ったな?そんな事まで魔法少女は出来るのか?」
「武術家として危機感を持った私はインキュベーターからソウルジェムの操り方を聞き出した」
「あいつらのやり口なら、痛覚遮断と回復魔法のメリットで騙した上で…魔女化を促すか」
「散々見てきたよ…不死身の自分に酔いしれながら、魔力不足で魔女化していく愚か者共をな」
「痛みから逃げ出す者には真の技術は得られないか…」
「無駄話を続けたのだ、呼吸を整え直せたか?」
「…お陰様でな」
腰を落として歩幅を広げ、手を開きながら右手を上に、左手を下に向けるように構える。
悪魔も半歩足を開きながら腰を落とす。
手は脱力させながら左腕を下に、右腕を胸に持ち上げるようにして構えてくる。
「八卦掌の舞…お前に見せてやる」
「俺も見せてやるぜ…斉天大聖である孫悟空から学んだ拳法をな!!」
一気に悪魔が踏み込みながら順突きを打ちに来る。
彼女は左右の腕で払い込み、さらなる右突きを左肘で弾く。
悪魔の左側に回り込むように歩法を刻み、悪魔も体を半回転させて右肘を左側頭部に狙う。
しかし左手で肘を止められ、左貫手を悪魔の喉に打ち込む。
「チッ!!」
相手の貫手を掴んで捉え、梃子の原理を用いた技法で腕関節を攻撃する。
「何っ!?」
右腕を捩じった形の悪魔の右肘を右手で押し上げ、関節技を返されてしまう。
相手を振り払い、離れた彼女になおも追撃を仕掛ける悪魔。
打撃の攻防、腕を掴む関節技、それを打ち払う肘打ち。
それらを制する互いが構え直して睨み合う。
「やはりあの時に殺さなくて良かった。私は今…充実している」
「チェンシー…お前達は操られている。と言ったところで、聞く耳は持たないよな?」
「この期に及んで戯言を…!私は私の為にしか戦わない!!」
円を描く歩法を使い、悪魔の周囲を歩く彼女が一気に踏み込む。
蹴り、両手突き、相手の顔面を打ち抜く踏み込み蹴りが次々と繰り出される。
体勢を後ろにずらして避けた悪魔だが蹴り足が伸びてくる。
「くっ!!」
体を蹴り足で抑え込まれてしまい、拘束された悪魔は右腕で相手の蹴り足を掴む。
悪魔は体勢を半回転させて左足を彼女の股下に踏み込ませる。
左肘打ちを彼女の胸部に打ち込む反撃を繰り出す流れとなるだろう。
「ぐっ!!」
倒れこんだ彼女に追い打ちをかける右踵落としが放たれる。
しかし蹴り足が捕らえられ、足を掴んだ背負い投げが繰り出される。
悪魔は宙を一回転して倒れこみ、膝をついたまま相手に向き直るがまだ終わりではない。
「ここからだ!!」
互いが踏み込みながらワンインチ距離の激しい打撃応酬を繰り返す。
互いの半歩開いた足が接触するほどの距離で打ち合い、激しい衝撃破がばら撒かれていく。
「「うおぉぉーーッッ!!!」」
両拳の攻防、払う腕、掴んだ関節技と返し技、互いの連続蹴りと攻防が描かれ続ける。
彼女の旋風脚に対して同時に放つ悪魔の後掃腿によって旋風脚が頭上を通り超えていく。
ぶつかり合う程に近い半歩開いた互いの足、同時に行われるスイッチステップ、蹴りの応酬。
「うっ!!」
彼女の膝蹴りが悪魔の腹部に決まったが、悪手である。
「捕らえた!!」
膝蹴りの足を掴み、そのままタックルを仕掛けてテイクダウンを取り、マウントの体勢を生む。
「チッ!!」
右拳のマウントパンチに対して首を動かして彼女は避ける。
しかし悪魔は彼女の恐ろしい一撃はワンインチで繰り出される事を忘れているようだ。
「ぐああぁぁーーッッ!!?」
龍の爪の如き彼女の貫手が助骨の下に差し込まれてしまう。
指の力で肉ごと助骨を掴み、馬乗りになる悪魔の体を持ち上げていく。
「痛みはいいだろう?痛みから逃げるような奴には…本物の技術は手に入らない」
「痛みがそんなに好きか…?」
苦悶を浮かべる悪魔の左手は中高一本拳の形となっている。
「ならお前も…味わえ!!」
自分を持ち上げている右腕の下側を狙い、胴体の肺近い急所を一本拳が襲う。
「ゴフッ!?ガハァ!!!」
チェンシーは盛大に吐血を吐き出してしまう。
気の循環を破壊し、死にいたらしめる八不打の一つが突かれたダメージはそれ程に大きい。
互いが激痛に歪む中、怒りの魔法少女が吠えてくる。
「おぉぉーーーッッ!!!」
マウント体勢を力任せに持ち上げながら右手で悪魔を投げ飛ばす。
「ぐはっ!!」
掴まれた肋骨は砕けてしまい、そのまま倒れこんでしまう。
チェンシーに組み付けば容赦なく龍の爪によって引き裂かれる。
組打ちは余りに危険だったが、リスクを犯した甲斐はあったようだ。
「ハァ!ハァ!ハァ!!」
チェンシーは自ら痛覚を取り戻したため、その顔は苦悶に満ちる程の深手を負っている。
(チェンシー…マケソウ…)
心配そうに二人の戦いを見守るアイラ。
悪魔の技は以前とは違い、研ぎ澄まされていると肌で感じているのだろう。
(ヤッパリ…ワタシモエンゴスル)
洗脳魔法陣の構築を一旦止め、上空を見上げる。
遠くの空に見えたのは空を旋回しているだけの爆撃機の機影があった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
二人の戦いは全世界に向けて放送されている。
そのため見滝原市でもニュース速報を通して戦いの光景を見守る事は出来るだろう。
タワーマンションの一室ではテレビの前で食い入るように戦いの光景を見つめる巴マミがいる。
「嘘でしょ…これが尚紀さんの…正体?」
ニュースに流れている光景は戦争さながらの戦いであるのだが、それ以上に彼が気になる様子。
戦場を潜り抜けて駆け巡る悪魔の力は初めて見る存在であり、魔女でも魔法少女でもない。
「彼の存在についてはキュウべぇに聞くしかないけど…」
見た事がない力を振るう者が戦う光景を注意深く観察すると何をやってるかが分かるはず。
「少なくとも、人間を守る為に戦っているように見えるわ…」
出遅れてしまった不甲斐ない自分に対してマミは苛立つ事しか出来ないでいる。
しかし見滝原市から東京に向かうには時間がかかり過ぎる現実もあるだろう。
「本当なら、私だって駆けつけたい…。でも、尚紀さんに任せるしかない…」
悪魔の姿となった尚紀を信じて彼女は静かに見守ることにするのだ。
神浜市南凪区の武術館の事務所には美雨と互助組織の長老がいる。
椅子に座り、事務所に置かれたテレビ映像を固唾を飲んで見つめているようだ。
「ナオキ…お前が魔法少女と戦えるのは、こういう事だたネ…?」
テレビに映し出されているのは戦場を駆ける悪魔であり、魔法少女は見た事もない存在だろう。
「…美雨、彼の事が恐ろしくなったかのぉ?」
彼女は首を横に振り、テレビの前に歩み寄る。
「ナオキ!お前がどんな奴でも…私のライバルなのは変わりないネ!」
今の彼女はテレビに向かって激を飛ばすしかない。
本当ならば美雨だって駆けつけたい気持ちはマミと同じだが、距離があり過ぎるだろう。
「だから…ソイツぶ飛ばして!必ず帰て来るヨ!!」
「しかしまぁ…尚紀君はとんでもない魔法少女を相手にしていたとはのぉ…」
「コイツらは魔法少女の恥晒しネ!!」
興奮し過ぎてテレビを持ち上げながら美雨は応援を送ってくれる。
「ナオキ!!ぶちのめしてやるヨ!!」
「こりゃ、美雨!!テレビを乱暴に掴んで振り回すでない!!」
「何をしてるネ!もと攻めるヨ!!」
長老が恐れていた通り、力み過ぎて持たれたテレビがきしみを上げていく。
「全く…お前は本当にうちの備品の天敵じゃ!!」
南凪区の北側に位置する栄区では大きなビルの屋上端に座り込む人物が見える。
腰まである程の長く美しいエメラルド色のストレートヘアに黒い軍帽を被るのは魔法少女の姿。
足を宙にぶら下げながらスマホでニュース映像を見ているようだ。
「アッハハハハ!!グレート!」
彼女はニュース映像を見ながらも興奮している。
戦争映画などではない、ノンフィクションの死の嵐。
その凄惨な光景に対して感激しているのだ。
「なんなワケこいつ!?アリナこんなの知らない!」
一人称をアリナと名乗る彼女は世界的に有名なアーティストであり魔法少女でもある。
人間に災いを与える魔女を美しい芸術と呼ぶイカれた存在だと神浜では有名人物。
しかし今日は魔女よりも美しい存在と出会えた事に対して喜びを隠せない。
「チョーゾクゾクしちゃうんですケド!!」
尽きることのない醜悪美の追求こそ彼女を表す。
真善美を尊ぶ他の魔法少女達から見れば、はみ出し者のアウトサイダーである。
「次の作品のテーマは…アナタにきーめた♪」
風見野市。
繁華街のテレビモニター前では大勢の街行く人々が足を留めてニュースを見守る。
その人々の中に見えたのは杏子の姿なのだ。
「…尚紀、そいつなんだろ?」
何かの確信を得たのかテレビの前に出てきて呟いてしまう。
「あんたはきっと、そいつを求めて…東京で戦ってきたんだろ?」
彼女の脳裏に巡るのは心臓を貫かれた風華の遺体。
手を握り締め、かつては義兄と呼べた存在に向かって杏子は心からの叫びを送ってくれる。
「ぶっ倒せ、尚紀!!風姉ちゃんを…あたし達から奪い取ったそいつを…倒せ!!」
「なんだよ、この子?」
声を荒げた為に目立ってしまう中、風見野市の嫌われ者として彼女を覚えている者が気が付く。
「おい、もしかしてこの赤毛の子…」
「チッ…!」
新興宗教一家の娘だと気が付かれた為、彼女は人の集りを掻き分けて去っていく。
「…生きて帰ってこいよ、尚紀。あんたはあたしにとって…仇である事に変わりはねーんだ…」
冷たい夜空の下を駆けていく中、尚紀が壊した家族の家に至る道へと杏子は消えてしまうのだ。
多くの者達と出会い、多くの者達から支えられ、憎まれ、それでも守ろうとしていく。
それこそが悪魔を人間社会主義の道へと誘う原動力となっていくのであった。
♦
よろめきながらも悪魔は立ち上がり、チェンシーも血反吐を吐いて咳き込みながら立ち上がる。
「私は負けない…負けないぞ…!!」
「貴様はどうして…ここまでの事をしてまで…ペンタグラムとして戦ってきた!?」
「聞きたいか…?それは祖国への…復讐の為だ!!」
「祖国への復讐だと…?」
「ペンタグラムの理想など方便だ!私は…中国に復讐する為にここにいる!!」
「なぜそこまで…祖国を憎む!?」
「私の大切な両親の仇だからだ!法輪功を教えていただけで…共産党に殺された!!」
「法輪功の学習者だったのか…お前の両親は?」
彼は政治、社会ニュースや政治情報に目を通す社会人であり、中国共産党の蛮行は知っている。
「そして…私の両親の臓器は…そいつらを儲けさせる為に使われたぁ!!」
「20世紀末から続くあの事件か…。いや、それだけではないな」
「その通りだとも!!」
中国共産党は法輪功学者だけでなく、ウイグル自治区でも民族浄化という名の虐殺を行う。
そして独裁政権の名の下にウイグルの人達を洗脳して再教育を続けていると彼女は叫ぶ。
「待て!法輪功学者を弾圧した当時の最高指導者と、今の指導者は政治派閥が違う!」
「何が言いたい!?」
「当時の主席が所属してたのは上海閥という政治派閥だ!反米の米国民主党とも関係が深い!」
「知ったことかぁ!!」
「なぜそこまで一括りにする!?冷静になって調査する時間はあったはずだ!!」
「うるさい!!世界を支配した暁には私が命令してやる!中国も国民も全滅しろとなぁ!」
「復讐というよりは…ただの八つ当たりだ!このルサンチマン女がぁ!!」
「人間など…魔法少女の奴隷で十分!命も財産も全て…私達魔法少女のものだ!!」
「貴様は必ず殺す…もう俺の復讐は関係ない!人々を守る為にも…お前を殺してやる!!」
「私はチェンシー!!私こそがペンタグラム!!決着をつけるぞ…悪魔ぁぁぁーッッ!!」
構えた彼女に対して彼も構え、互いが駆け抜けていく姿を見せた時、何かに気が付く。
「何っ!?」
「なんだっ!?」
報道ヘリが何かによって破壊された轟音が響き、そちらの方に振り向くと互いに目が見開く。
<チェンシー、ハナレテ>
アイラの念話がチェンシーに届くと即座に跳躍し、後方に大きく弧を描く宙返りをする。
見上げる悪魔の眼前から迫りくるのはB2ステルス爆撃機の神風特攻の一撃。
「くそったれぇぇーッッ!!!」
意を決した悪魔は両腕を垂直に構えて迎え討つ。
全長21.03m、全幅52.43m、重量71・700 kgの巨体が迫る。
直後、機体がヘリポートにぶつかってしまうが機体は爆発していない。
屋上に突き刺さる手前で静止している原因とは機体の先端を見れば分かるはず。
放電を用いて張り付いた両腕を使いながら悪魔は爆撃機の巨体を受け止めきったのだ。
「そんなに…死に急ぎたいかぁーーッッ!!!」
受け止めた重量で地面が砕ける中、地面を踏みしめる悪魔が力を籠めると爆撃機が揺れる。
「うおぉぉぉぉーーッッ!!!」
悪魔の腕力によって巨大な機体は大きく振り抜かれていく。
「ウソデショ!?」
光の柱に目掛けて放たれるのは鈍器と化した巨大な爆撃機。
しかし魔法陣には防御結界が施されているため爆撃機は無事では済まない。
機体が光の柱にぶつかりながら柱に切断されるように両断されていくのだ。
「くそっ!」
構わず振り抜かれる機体がチェンシーにも迫りくる。
彼女は仆歩と呼ばれる歩型で身を低くめながら機体を回避。
「らぁぁーーーッッ!!!」
鉄屑と化した機体を手放しながら東京湾に向かって大きく投げ捨ててしまう。
自ら隙を生み出す強硬手段による攻撃を放った事で大きな隙が生まれている。
だが、チェンシーは動かないままアイラに怒りの顔を向けているようだ。
「…手出し無用だと言ったはずだぞ…アイラ」
「デ、デモ…ワタシ…タスケヨウト…!」
「うるさいい!!!」
「ヒッ!!?」
「お前は洗脳魔法陣を早く作れぇ!!私の復讐を成し遂げる為に…1秒でも早く!!」
チェンシーから放たれるのは恐ろしい殺気であり、仲間のアイラにさえ向けてくる。
怯えたアイラは目を瞑りながら再び洗脳魔法陣構築に専念するしかないだろう。
今のチェンシーは逆らえば殺される程の恐ろしさがあったのだから。
「そうだ…1秒でも早く……終わらせるべきなんだ」
気が触れたかのような表情を浮かべながら悪魔に振り向き、不敵な笑みを見せてくる。
「…やっと、全てを出し尽くす気になったか?」
彼女の右手には自らの力を最大限に発揮出来る魔法武器である黄龍偃月刀が握られている。
魔力切れの危険が大きい武器を使う決心を固める程にまで彼女は追い詰められた証拠だろう。
左手にはグリーフシードが握られており、魔力回復を行っていく。
髪飾りの花であるソウルジェムに掲げながら消耗した魔力を回復する。
用がなくなった回復道具は大きく捨てられ、東京湾へと沈んでしまう。
「私の魔力切れが先か、お前が死ぬのが先か…」
魔力が籠った黄龍偃月刀が雷の放電を始めていく。
「ここまで楽しめるとは思わなかったぞ…悪魔め」
彼女の魔力に呼応するかの如く積乱雲の周囲からも雷が都市に目掛けて落ちていく。
メガフロート都市が黒龍の怒りに焼かれていく光景が広がっているように見えるだろう。
水を司る龍とは雨を降らしながら雷を落とす神であり、今の彼女は龍神そのものだ。
「固有魔法だけでなく…属性魔法か。東京の魔法少女共は使えなかったよ」
属性魔法を使ってきた魔法少女を見るのは杏子と眼の前のチェンシーのみである。
「だが、それがどうした…?目の前の敵を殺す事に変更はない」
悪魔の右手からも光剣が放出される。
黄龍偃月刀を両手で回転させるチェンシーは武器術の構えを行いながら悪魔に叫ぶ。
「魔法少女こそが全ての支配者にして絶対者!全てはペンタグラムの…私の理想の為に!!」
「…
――さぁ…ファイナルラウンドだ!
――――――――――――――――――――――――――――――――
これは前日の会話内容であり、BARマダムにてニコラスはニュクスにこう語っている。
「なぜ、五芒星に魅せられた者達は…これ程の傲慢な存在となるのであろうな?」
「ペンタグラム、スター、国旗やスポーツチームのロゴ、様々な会社でも見かける印ね」
「慣れ親しんだ星マークだが、それこそが悪魔崇拝者達の罠であり、
グラスの酒を一口啜って乾きを癒やした後、ニコラスはこう語る。
「世界のセレブ達もまたこぞって星のタトゥーを刻む。誰もそれについて不思議がる事はない」
「大衆にとって慣れ親しんだものね。でも悪魔学やオカルトに詳しい者は…そうは考えないわ」
「彼らには星の本当の意味が分かるだろう。スターとは
悪魔のバフォメットに描かれた逆五芒星と同じ意味をもつ星であり、印章には秘密がある。
「フリーメイソンの最高位に昇った歴史人物が記した本にはこうある」
ペンタグラム、それは時空を超えた魔法のアート。
偉大なる霊の五つの性質、人間の五感、五大元素、人間の体の五つの先端部。
星を自らの魂に刻む事により、
自分を超越する存在には畏敬が求められるのだ。
「黒魔術において五芒星は割れたひずめ、悪魔の足跡とも言われるわ」
そこから二点が上になるのがバフォメットの逆五芒星であり、山羊の形。
上の点が下になることは金星(ルシファー)の下降(堕天)を意味する。
「スターの正体とは悪魔崇拝者にとって
「人々は深い洗脳に陥った為に星の意味が分からない。頻繁に使うから
「米国南北戦争、明治維新、二つの歴史と関わったフリーメイソン人物がいる」
「黒の教皇と呼ばれた…アルバート・パイクね」
「彼はこう語る。星は奥義的に人の神格化と宇宙の包括を意味し、サタンの星を象徴するとね」
「フリーメイソンやサタニズムにおける数々の定義ね」
「人々は騙されている。誰も疑問視しない…表向きの理由という常識に洗脳される」
「彼らは
「少し考えたら違和感に気がつく。セレブが全員揃って五芒星を尊ぶはずがない」
「それは術の一部よ。全員オカルトやサタン崇拝者達ね」
「奴らは何度でも繰り返し黒魔術を行っている…。支配者を気取っているからだ」
「人間よりも我々は優れており、支配するに値すると奴らは考えるのでしょう」
「大衆などエリート達から見れば飼われた牛だ。スターは全ての生き物を支配する印章だ」
「彼らが神である象徴だからこそ、彼らは
「大衆アイドルとしての偶像崇拝。偶像となる者達こそが大衆を統治すると考え、
フリーメイソンの思考、サタニストの思考、それがグローバルエリートの裏の価値観。
ここまで民衆を騙せてこれたのは、ひとえにメディアの力だとニコラスは語っていく。
「ハリウッドスター、芸能人、皆に憧れを抱かせる洗脳をテレビメディアが実行する…」
「そんな世界を目指しても…辿り着く場所は
「成功者という強者こそが全てであり、弱者が死ぬのは自己責任。社会の価値観は傲慢と化す」
「フリーメイソンの心情とはユダヤ主義。あの秘密結社は…100%ユダヤの為にあるわ」
「ユダヤ国際秘密力…奴らは民族的マフィアであり、国際ユダヤ幇だ」
「秘密主義を貫く金融マフィアに皆が騙され…堕ちていくのも気が付かないわね…」
ペンタグラムである星(スター)という偶像に取り憑かれた者は己を変えてしまう。
悪魔の如き傲慢者へと変えてしまうのだとニコラス達は言葉を残すのであった。
♦
日本の遥か上空を漂うのはアメリカの軍事衛星である。
衛生のカメラはワタツミタワー屋上の戦いを鮮明に映し出す。
映像は青暗い空間のモニターに映し出される。
空間内の中央には円卓机が備わり、中央には光るホログラフィック映像で地球が映し出される。
地球映像の頭上には、この星の支配者とばかりに浮かび上がるピラミッドとプロビデンスの目。
光に照らされた円卓を囲う椅子には正装スーツを着た13人の老人が座っている。
一番奥の席に座り、モニターを真正面から見つめる人物を尚紀は何処かで見た事があるだろう。
それはスイスのオークションで悪魔の宝石を落札した男性の姿であったのだ。
陰謀論界隈では彼らの事はこう呼ばれる。
イルミナティ闇のピラミッドヒエラルキーの頂点に君臨する世界政府
その代表者達とは
♦
ヘリポートの端まで大きく跳躍したチェンシーは魔法発射の距離を稼ぐ。
「はぁぁぁーーーッッ!!」
左右に黄龍偃月刀を回転させながら腰を落として背の上でも回転させる。
同時に大きな魔法陣が頭上に描かれ、雷の円環となりながら夜空に向かって大きく広がる。
腰を落として足を半歩開き、左手を垂直に相手に向けながら黄龍偃月刀を背中に構えるのだ。
「何か…仕掛けてくるな」
ワタツミタワー上空に大きく広がった雷の円環が五つの魔法陣を生み、上空を取り囲む。
「これがあいつの…雷魔法か」
それら小さな陣は五芒星の五つの角とも言える位置となるだろう。
巨大ヘリポートそのものが五芒星の中心点。
五つの魔法陣は帯電を帯び始めながら五芒星ごと回転していく。
龍の巣とも言える雷のリングを形成するのだ。
(雷魔法なら…マガタマのナルカミやアダマで無効化出来るが…)
一瞬だが視線をアイラに向けてしまう。
(あの女の洗脳魔法がある限り、イヨマンテを外すわけにはいかない…)
真正面から彼女の属性魔法を受け止める覚悟を悪魔は決める。
世界の女帝になろうという黒龍の真の力が悪魔に向かって振るわれる時がくるだろう。
「行くぞぉぉーーッ!!悪魔ぁぁぁーーッッ!!!」
距離が離れた彼女が振るう武器の一撃一撃こそが魔法の放射現象となる。
天の魔法陣から悪魔に向かって無数の雷が放射線を描くように落ち、高速で迫りくる。
人間であれば一瞬の雷速度だが、悪魔は放射状に迫る雷魔法を見据えながら駆けていく。
残像が浮かぶ程の跳躍回避を行いながら雷を次々に避け、目標に目掛けて一気に攻め込む。
「キャァァーーッッ!?ヤメテ!チェンシーーッッ!!」
放射状に迫る無数の雷がアイラの防御壁にまでぶつかり、見境無しで攻撃してくる。
雷魔法の衝撃は内側のアイラにまで及んでいるようだ。
「もはや仲間でさえ見えていないか!!」
悪魔との決着だけに全てを賭ける彼女の気迫を悪魔は迎え撃つだろう。
左掌を掲げながら破邪の光弾の連続発射。
走りながらのせいか魔法の溜めを行えない威力の低さでは目の前の強敵には通じない。
「舐めるなぁ!!悪魔ーッ!!!」
チェンシーの周囲を円を描くように雷が落ち続けて次々と光弾を撃ち落とす。
彼女の雷魔法は攻防において両方を満たすのだ。
「オオォォーーーッッ!!!」
悪魔は跳躍しながら右手から放出する光剣で斬りかかるが、彼女の魔法は先程説明した通りだ。
「ぐっ!!?」
円を描く雷が壁となるようにしてチェンシーの周囲に降り注ぎ、悪魔の体に直撃していく。
魔法少女なら一瞬で体を焼き尽くされる熱量であるが悪魔はそれでも止まらない。
「来い!!」
焼け焦げた体のまま放つ一撃に対して帯電させた黄龍偃月刀を用いて一撃を受け止める。
互いの間合いであり、これから始まる攻防は互いのクンフーが勝負を決めるだろう。
「「ハァァーーーッッ!!!」」
偃月刀の柄の一撃を防いだ悪魔に刃の一撃が迫りくる。
すかさず回し蹴りを悪魔の脇腹に打ち、彼の体勢を崩す。
「どうした悪魔ぁ!!」
悪魔の連続斬りに対して刃で受け、柄で弾き、右切り上げを行いながら次々と弾く。
体勢を回転させながら武器の柄で悪魔の腹部を殴打する。
「まだまだぁ!!」
悪魔の全身は天から降り注ぐ雷樹と化した豪雷が直撃し続けている。
雷ダメージを受け続けながらの攻防を強いられ、状況は余りにも不利。
斬撃の攻防を繰り返すが悪魔の体がヘリポート中央にまで押し切られていく。
「甘いッ!!!」
悪魔の左薙を武器を構えた姿勢で仆歩を行いながら回避する。
両膝のバネを使い、一気に体勢を持ち上げる右切り上げを放つだろう。
「ぐはっ!!!」
刃が悪魔の上半身の肉を掴み、体を大きく引き裂く様は龍のあぎとの如し。
胴体から流血が噴き上がる悪魔は連戦に次ぐ連戦を超えてきた事で限界を迎えていく。
悪魔の発光する入れ墨の色が深碧と真紅の色を交互に繰り返すように点滅して光りだす。
「くっ…」
限界を迎えながらも怯まぬ悪魔は直感で判断する。
(雷魔法を落とす触媒は…あの魔法武器か!)
このままではいずれ力尽きて死ぬならばと悪魔は光剣の二刀流を生み出す。
「かかってくるがいい!!」
偃月刀を巧みに使う苛烈な連続攻撃を彼女も仕掛けてくるだろう。
捌き、払い、鍔迫り合い、偃月刀連続突き、回転斬り、後ろ回し蹴り、前掃腿、旋風脚…。
流れるような回天剣舞が悪魔に目掛けて放たれていく。
悪魔の右切り上げに対して石突を地面に突きながら柄で受け止める。
「ハイィーーーッ!!」
同時に跳躍し、偃月刀で体を支えながらの連続蹴りが悪魔に決まる。
「くぅ!!!」
着地と同時に体勢を大きく回転させ、体勢が崩れた悪魔に目掛けて右薙の一閃を放つ。
「っ!!」
大きく上半身を仰け反らせて避けるが、体勢が崩れて背中を捕られる。
彼女は一回転の勢いのまま身体を横倒しに向けながらの跳躍回転。
「イヤァァーーーッ!!!」
二回転捻りを加えた唐竹割りの一撃が迫る中、悪魔は背を向けたまま二刀流で受け止める。
「この時を待っていた!!」
悪魔の右足が蹴り上がる。
「くっ!!」
鈍化した世界。
反動で刃が大きく跳ね上がった衝撃は彼女の両手に浸透し、握りが甘くなってしまう。
狙うのは龍のあぎとが天を向くだろう無防備な一瞬。
「ここだぁ!!」
振り向き様の左後ろ蹴りを偃月刀の柄に打ち込む。
「なっ!!?」
偃月刀は大きく蹴り飛ばされ、回転しながら地面に切っ先が突き刺さってしまうのだ。
雷樹の雷が止む鈍化した世界。
悪魔の袈裟斬りが迫りくる中、彼女は臆せず自らの体を踏み込ませていく。
袈裟斬りを放つ右手首を左手首で止めるのだが、振り抜こうとした悪魔の光剣が消えている。
インファイトを仕掛けてくるのは分かっていたようだ。
「我が拳を受けろーーッッ!!!」
「来い…ッッ!!!」
武器など無くても彼女自身が最強の武器。
ならば互いの粘連黏随・聴勁・会得した技を全てぶつけ合うはず。
(この世界で出会えた師よ…共に技を磨いた少女よ…見ていてくれ…悪魔の拳舞を!!)
双龍の戦いはついにクライマックスを迎えるだろう。
「「オオォォォーーーッッ!!!!」」
悪魔の右肘、右腕刀で受け止める。
黒龍の右裏拳、腕を左手で止め、掴もうとするが払い落としてくる。
悪魔の右肘打ちに対して体勢を低く回転させながらの潜り抜け。
彼女の左拳打をスウェーでかわし、右拳打を放つがチェンシーは左手で掴む。
左の追い突きを右腕刀で内側に払い、彼女の両腕を交差させる形で拘束し、右肘を顔面に打つ。
「ぐっ!!」
右重心が崩れた彼女に対して右足膝関節に蹴りを入れ、片膝をつく相手の顎に膝蹴りを打つ。
地に手をつき、バク転回避を用いて悪魔の膝蹴りを回避。
着地して視線を上げれば頭上から迫るのは悪魔の浴びせ蹴り。
跳躍しながら体を横倒しに向けて二回転捻り加えたバタフライツイストキックだ。
「くっ!!」
両手首を交差して蹴りを受け止めるが威力が地面に伝わり爆ぜるようにして砕けてしまう。
(…見ているか、ペンタグラムに殺された人々)
悪魔の右直突きを左手で逸らし、続く左鉤突きを右手首で外に払うと同時に手首を掴む。
右肘で関節を決め、体勢を崩す悪魔のみぞおちに右裏拳を打つ。
「かはっ!!」
仰け反った上半身に向けて中段・上段回し蹴りが打ち込まれる。
「私もお前も人殺しだ!!どちらが生き延びようが、人々から呪われるべき存在だ!!」
「だからこそ!!俺達は何も躊躇わずに殺し合える!!」
「そうだ!!所詮は社会悪同士の殺し合いだからな!!」
黒龍が跳躍し、二起脚の連続蹴りを悪魔に放つが連続して払い落とされる。
続く上段回し蹴り、飛び後ろ回し蹴りに対して悪魔はスウェーとダッキング回避。
着地と同時に両足を刈り取る後掃腿がくる。
片足で踏み切りを行い、地面と平行になるように跳躍回避。
悪魔の体は扇風機のような回転を蹴り足で表現しながら着地して向かい合う。
「フフ…まるでお前は……別の私だ!!」
「そうなっていたかもな!!」
右手刀を両手で止め、逆回転した黒龍の龍爪を右手首で払う。
続く左右の拳打を払い、顔面への裏拳を腕刀で止める。
左鉤突きをダッキング回避して彼女の顎にアッパーカットを放つ。
「がっ!!」
体勢が崩れた相手の右側頭部に狙いをつけた飛び後ろ回し蹴りが決まる。
(…見ているか、チェンシーに殺された人々)
倒れた彼女が首跳ねで起き上がり、なおも闘志は怯まない。
悪魔の左右突きを払い、両手で悪魔の両耳を打つ。
「カッ…アッ…!」
三半規管が麻痺した悪魔に対して腰を落としながら右脇に両手を抱え込む構え。
「セイッ!!」
構えから放たれたのは双掌打であり、跳ね飛ばされた悪魔であるが体勢が回転する。
両手を地面につき、側転からの猫宙返りで着地を行う。
視線を上げた悪魔だが、既に彼女の右拳が眼前に迫る。
左に避けたが開いた手で右側頭部を掴まれ、逆の手で右腕も掴まれる。
円を描く歩法で体勢が崩されていくが、崩れる勢いのまま体を前転させる着地を行う。
反撃の左肘打ちを彼女の右側頭部に打ち、さらに腰を落として右肘打ちを脇腹に打つ。
「「ハァッ!!」
互いが密着状態から半円を描く形となり、背を向け合う鉄山靠の同時打ち。
「「ぐっ!!」」
体勢が互いに崩れ、前方にバランスを崩す。
背を向け合う相手に対して二人は同時に跳躍する。
空中で互いの蹴り足が次々と交差していく。
互いの左右回し蹴り、右後ろ回し蹴り、左後ろ回し蹴りが空中でぶつかり合う。
二人の素早い蹴り技の光景はまさに無影脚であろう。
空中から互いに仆歩の形で着地を行い同時に攻め込む。
「「はっ!!」」
両膝をバネにして互いの右掌打が同時に胸部を打つ。
「「ゴハッ!!!」」
互いの掌打によって大きく二人が跳ね飛ばされて倒れ込むのだ。
「くっ…うぅ……」
俯向けに倒れ込み、歯を食いしばりながら二人は立ち上がろうとする。
「…私は登るぞ、悪魔…。このバベルの塔を…登るのだ…」
先に立ち上がったのはチェンシーであり、悪魔は片膝をついて起き上がろうと必死な姿。
「神の門を潜り抜け…龍娘(ロンニャン)は、神龍(シェンロン)となる…」
バベルの塔はアッカド語では神の門を表す。
聖書ではヘブライ語の
旧約聖書の創世記中に登場する巨大な塔として描かれている存在だ。
太古の昔、預言者ノアの子孫である
彼は神に挑戦する目的で剣を持ち、天を威嚇する像を塔の頂上に建ててしまう。
バベルの塔の物語は現代ではこのように解釈されているのだ。
――人類が塔を作り、神に挑戦しようとしたので、神は塔を崩した。
「ウオオオォォォーーーーーッッ!!!!」
黒龍となりし龍娘の雄叫びが木霊する。
地上の神となり、世界を混乱の闇に鎮める姿こそ、かつてのニムロデ王を彷彿とさせるだろう。
悪魔は立ち上がるが、もはや体力も限界を迎えている。
「……見ているか、風華」
トドメの一撃を放たんと黒龍が構えてくる。
「今日は…お前が愛した女が、私に殺された日……」
「……そうだとも」
「お前も同じく…私に殺されて……後を追いかけろぉーッッ!!!」
地面が弾ける程の踏み込みを行い、左拳の箭疾歩が迫る。
鈍化した長い一瞬。
悪魔の揃えられた右手が相手の左拳に向けられていく。
近づいてくる左拳を目前にした状態で揃えられた右手が固められ、拳となるだろう。
「ペンタグラムに殺された人々の怒り…この一撃に…込める!!!」
両者の拳が極限の一撃となってぶつかり合い、チェンシーの拳が爆ぜる。
「ぐあぁぁぁーーーーーッッ!!!?」
悪魔の寸勁突きの威力が伸ばされた拳から左腕の肩口にまで伝わっていく。
左拳は潰れ、左腕の骨は全て砕け散ってしまう。
そのチャンスを逃さない悪魔の体が一気に動く。
「そしてこれが……俺の怒りの一撃だぁ!!!」
体勢が崩れた相手に踏み込み、蹴り足が縦に向けて蹴り上げられていく。
「アグッ…!!?」
彼女の顎を打ち上げた一回転蹴りこそ、竜の尾が舞うようなサマーソルトキック。
「チェンシィーーーーッッ!!!!」
アイラの絶叫が響く中、空に打ち上げられた彼女はヘリポートの地面に叩きつけられてしまう。
トドメを刺せたかのような光景だが、悪魔は舌打ちしてくる。
「…チッ、顎を引きやがったな」
あの一瞬で顎を引き、悪魔の蹴り上がりの威力を弱めた咄嗟の聴勁反応。
しかしダメージは極めて深刻であり、完全に決まっていたら首が千切れ飛んでいただろう。
「がっ…ぐぅっ……ま…だ……」
彼女の執念が燃えるようにして上半身が徐々にではあるが持ち上がっていく。
「…お前の執念だけは認めてやる。だが…これでトドメだぁ!!」
悪魔は最後の力を振り絞る一撃の構えを行う。
彼女に目掛けて一気に踏み込み、トドメの一撃となるだろう右フックパンチを放つ。
意識が朦朧としている彼女に対して命を終わらせる一撃が迫ってくる。
だが、人修羅は黒龍娘に隠された固有魔法に気が付いてはくれない。
「……フッ」
無意識に左足を後ろに引くスウェーバックを彼女は行い、右フックが空を切る。
それと同時に動く右掌が悪魔の体と密着する。
無意識であろうが彼女が流した血と汗の結晶であるクンフーは裏切らない。
「…見事だ…悪魔。私に…これを使わせるとはな…」
彼女は封印してきた己の固有魔法を解き放つ。
彼女にとっては戦いをつまらないモノに変えてしまう為に封印してきた奥義が炸裂するだろう。
「貴様っ!!?」
「……眠れ」
悪魔の内側が一気に膨張するかのようにして膨れ上がっていく。
そして内部が突然爆ぜてしまう。
チェンシーの封印されし固有魔法の一撃とは必殺そのもの。
人間も世界も内側から壊して支配したい願いが形となった魔法の一撃。
それこそが内発勁と名付けられた彼女の固有魔法攻撃だった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
悪魔の体内を構成する臓器が次々に膨張して破裂。
血管、筋肉さえも破裂していく。
内側に送り込まれた魔力が全てを膨張させて破壊する内部爆弾とも言うべき固有魔法なのだ。
「魔女だろうが…魔法少女だろうが…これを使ってしまえば、爆ぜていったが…」
動揺する表情を彼女は悪魔に向けてくる。
悪魔の頑丈な骨と皮膚が結果を裏返すように内側の爆発を堪えきったようだ。
人の原型は残ったが、それでも必殺である事には変わりない。
「あ…ア…ゴフゥ…ッッ!!!!」
斬られた胸からは噴水の如き大出血。
耳からも眼球からも血が噴き出す。
吐き出した大量の吐血が血の海となり、その中に悪魔は倒れ込む。
倒れ込んだ血の海に転がっているのは吐き出してしまったイヨマンテのマガタマ。
内発勁の破壊力に耐えきったようだが、吐き出されては主を守る力にはなりえない。
マガタマが深碧の炎に包まれていき、彼の右手に宿るマガタマの元へと帰っていくのだ。
「なんだ…?悪魔の体が変化していく……?」
マガタマは悪魔化を行う力を与える悪魔の力の結晶。
それを体外に排出してしまったならば悪魔化が解けるだろう。
発光する入れ墨と首裏の角も消えていく。
「お前は……人間だったのか」
砕けた左腕を片手で抑える痛々しい姿だが、この光景は勝者が敗者を見下ろす現実。
敗北者となり転がっているのは、ただの少年の姿なのだ。
「チェンシー……カッタノ?」
アイラの呼びかけが聞こえた事で彼女の元に歩み寄る者に振り向いて頷くだろう。
「フッ…フフフ…やっと感じてきた…勝利の感覚をな…」
悪魔を滅ぼした魔法少女こそ、神の門を潜るのに相応しいと自画自賛していく。
大いに高笑いをしようとした時、全身に震えが走る。
「……まさか!?」
背後で何かが動く気配を感じたチェンシーは後ろを振り返り、目が見開く程に驚愕する。
「ァ…ぁ……」
掠れた声を響かせるのは血溜まりに倒れたまま上半身を持ち上げようとする尚紀の姿。
歯を『食いしばり』ながらも死んでいただろう一撃を耐えきっている。
しかし肉体の内側は完全に崩壊し、視力も聴力もない、息も出来ずに声も出せない。
痛みも感じず、心臓も含めて臓器は全て動いていない。
それでも動こうとする人の姿をした存在に対してチェンシーは全身に寒気が走っていく。
「なぜだ…お前はなぜ……死ななかったのだ!?」
彼女の問いかけに答える力など残っていない。
それでも悪魔の執念が消えかけた命を動かす。
無意識のうちに右掌からマガタマを召喚する。
何のマガタマなのか彼は考える余力もなく、動くはずがない手を動かして口に入れ込んだ。
「この怪物は……まだ戦う意志を失っていないのだな」
「チェンシー。ソイツカラマリョクボウゴ、カンジナイ。イマナラ、センノウデキル」
「待て…操る必要はもうない……私がトドメを刺す」
俯向けのまま悪魔化が始まっていく死にかけた肉体。
最後の一撃となるだろう跳躍攻撃をチェンシーは行う。
体勢を横倒しに回転させる捻り込みを二回転加える膝蹴りが悪魔の頭部に襲いかかる。
地面が砕ける程の一撃の音が響くであろう。
「……今度こそ、眠ってくれ」
悪魔はもう動かない。
悪魔の命の灯火は消えてしまった。
2019年1月28日。
人修羅と呼ばれた悪魔が死んだ命日の日となるのであった。
♦
同日、尚紀がチェンシーとの戦闘を始めている時間帯の東京の一角。
「…珍しいね?君が新月の日以外で人々の前に姿を晒すような真似をするなんて…」
ニコラスの店の前に駐められているのはロールスロイス。
後部座席に乗る人物を彼は出迎えてくれる。
「突然お邪魔してごめんなさい、ニコラス」
「今日の事もある…BARマダムの奥に独りでいては落ち着かないかね?」
「……まぁね」
運転手が後部座席のドアを開け、中から現れたのはニュクス。
今日の彼女はドレス姿をしていない。
黒の正装スーツとレディースブーツ、上着として羽織るのは白のクラッシックロングコート。
長い金髪はポニーテールに纏められたオールバックヘアー姿のようだ。
「中に入ってくれ」
「お邪魔するわ」
応接室に案内され、ニコラスが灰皿を用意する。
彼女は懐から煙管を取り出し、一服を始めていく。
ニコラスも葉巻を取り出し火を灯す。
紫煙が舞う空間の中、ニュクスの重い口が開きだす。
「……彼は、黒龍となった魔法少女に負けるわ」
「……君にも視えていたか」
「ええ…そして、その後の恐ろしい光景もね」
「1月28日は…悪夢の日として記憶されるな…」
重苦しい沈黙が続く中、ニュクスが先に口を開く。
「それにしても、なぜ彼女達ペンタグラムは…この日に決起を行ったのかしら?」
「恐らくは…ゲマトリア数秘術が関わってくる」
ゲマトリアとは、ヘブライ語で数秘術と呼ばれる。
聖書の言葉に隠された意味を読み解く神秘主義思想であるカバラの一部をなす。
「2019年1月28日…この中に数秘術が込められている」
「数秘術の中では数字の0は意味をなさないわ」
「計算するとしたら…」
2×1×9=18
1×2×8=16
18+16=34
「この数字だけでは意味は分からないわ。この日を象徴する数字がまだあったはずよ」
「ワタツミタワー、そして因縁の二人…」
「ワタツミタワーは神社の鳥居のように東棟と西棟が向かい合う塔…」
「決着を求める悪魔と…因果の魔法少女」
「恐らくは…この日を象徴するもう一つの数字は2ね」
「足せば36…それはゲマトリア数字においては、神の三位一体を表す聖数だ」
三位一体とはキリスト教において父と子と精霊を表す。
三つが一体の神であり、唯一神として解釈するのが一般的であろう。
「変な話ね…。混沌の悪魔の怨敵である唯一神を象徴する数字を使うだなんて…」
「いや、36の聖数には隠された数字がまだあるのだ」
懐からスマホを取り出し、計算機を用いて1から36までの数字を足していく。
「数字の答えは……
「黙示録の獣の数字……」
「今日この日は…大いなる神を称える日ではないのかもしれない」
「666の獣を称える……
「生き残りし者は……魔法少女となるだろう」
「チェンシー…あの黒龍が黙示録の獣だというの?」
「返り血塗れの黒龍…見方を変えれば赤き竜とも捉えられる」
「だとしたら、彼女は中国の伝承五行思想に現れる黄龍ではないわ」
「もっと邪悪な存在…神の反逆者となりし者」
「…エジプト神の中には暴風雨を司る古き蛇と同一視されるドラゴンがいるの」
「まさか…チェンシーと呼ばれる魔法少女は…サタンと同一視される邪神……」
――
読んで頂き、有難うございます。