人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
「ハァ…ハァ…勝った!私は悪魔に…勝ったぞ!!」
自らが流す血溜まりに倒れた尚紀の姿を見下ろす勝者は勝利を確信していく。
チェンシーの固有魔法とトドメの一撃を浴びて力尽き、彼は既に死んでいるからだろう。
神の如き悪魔に勝利し、双龍の戦いに生き残ったのは黒龍となった魔法少女である。
「これで私は名実ともに…この星の最強の女帝だぁ!!」
神の門に至るバベルを昇り、神の次元に立つ魔法少女こそ世界を支配する神龍となるはず。
「私の支配が始まる!この星は私のものだ!!人間共を支配し、滅ぼしてやる!!」
禍々しく狂った笑い声を上げ続ける者を見つめるアイラの顔は凍り付いて震えている。
(チェンシーハ…クルッテイル…)
狂った凶龍の姿を見つめるアイラは強い不安を感じてしまう。
(アノコニツイテイッテ…ホントウニウツクシイ…マホウショウジョノ…セカイニナルノ?)
この後に続く世界とは、終わりの始まりなのではないかと疑ってしまう。
高笑いの最中、突然真顔になったチェンシーがアイラに向き直る。
「……終わったか?」
「……ウン、オワッタ」
天を貫くバベルの塔から生み出されるアイラの洗脳魔法はついに地球を覆い尽くす。
後は世界中の人間達に暗示をかければ世界は変わり果てるだろう。
悪魔はかつての世界と同じようにして、何も守れなかったのだ。
力及ばなかった己の無力さを噛み締めて眠るがいい。
――死の安らぎは、等しく訪れよう。
――人に非ずとも、悪魔に非ずとも。
――大いなる意思の導きにて。
――――――――――――――――――――――――――――――――
(俺は……死んだのか?)
体の五感は無く、何も感じられない状態で水面に浮いている。
死した者達が辿り着くであろう、大いなる意思の世界に彼はいる。
人や神や悪魔であろうといずれ帰り着く場所こそがまろぐの海であり、
始まりの場所であり終わりの場所、そしていずれまた新しい始まりの場所ともなろう。
まるで母の子宮世界であり、温かい暗闇の世界で新たな命は転生を重ねて紡ぎ出される。
神も、悪魔も、宇宙も、星も、自然も、動物も、そして人間も母なる熱を必要とする者達。
母なる熱を持った温もりの中で生み出され、万物は熱世界によって生まれていく。
光と闇、陰と陽となり、神は生まれ、悪魔は生まれ、星や生命も生まれるのだ。
森羅万象を構築する全ての姿、形、概念は常にこの場所から始まっていく。
しかし子宮で成長した頃を思い出せないのと同じように、それは思い出す事は出来ないだろう。
原初の時より変わらない最初のコトワリであるイデアの光景であり、まろぐなる
それは全ての霊が帰るであろう母なる原初の霊界そのもの。
尚紀の意識は徐々に羊水のように温かい暗い海の世界に沈んでいく、母に抱かれるようにして。
(何も成せなかった…人としても、悪魔としても、何も成せなかった…)
辛く苦しい絶望と怒りに飲まれた生が走馬灯のように巡ってくる。
(終わった…疲れた…目を閉じたい…優しい…抱かれ…温かい…おふくろ…もう…いいだろ…)
目を閉じると意識は消えていく。
呪われた生への執着も消えようとしていた、その時だった。
<<お前の執念は、その程度か?>>
耳は聞こえないが、魂に直接響くような声が響く。
それは母なる海からではなく、体の奥底から響いてくる。
<<我が主は、死してなお人々に継ぐべきモノを世界に残した>>
(……継ぐべき、モノ?)
<<お前は、この世界に何も残せない悪魔として…終わってしまうのか?>>
(……あんた、は?)
声の主である姿が薄れゆく意識の中に浮かんでいく。
それはかつて、自分の体を串刺しにしたダンテの父の魔剣の姿である。
<<我は主と同じ名をつけられた魔具、スパーダ>>
魔具とは悪魔が姿や形を変えた別の姿。
魔界の名工マキャヴェリは魔界の住人達にそう語るだろう。
魔剣スパーダもまた、かつての魔界では別の姿をしていたとも考えられるやもしれない。
意思を持った神か悪魔として。
<<何も成せなかった者よ…お前は何者か言ってみろ>>
(俺は…人間…悪魔……?)
<<お前の姿形ではない、魂は何者なのかを言ってみろ>>
(俺の…魂……?)
<<魂とは、何になりたいかの意思で磨かれ、生きた世界の因果で決まる>>
ヴェーダやバラモン教でいう
原因が有り、結果が起こる。
この世のすべての事象は原因の中に既に結果が包含されている。
善因には善果、悪因には悪果が訪れるというカルマの因果法則であろう。
(俺は…俺は……)
<<…ただ神に復讐するだけの、呪われし悪魔か?>>
彼の魂を決めるべきものは大いなる神への憤怒だけではなかったはず。
この世界で出会えた因果全てが彼の魂が何者になりえるかの可能性を与えてくれたはず。
救ってくれた人々がいたはず、交わした約束があったはず。
守れた人達もいれば、守れなかった人達もいたはずだ。
そして今、神の門を潜り支配神になろうとする黒龍の前に立った悪魔は何者であったのか?
<<思い出せ…お前の魂は何者であるか!>>
――
スパーダの声によって自分の魂は何者なのかを思い出す。
悪魔である前に人間としての嘉嶋尚紀の目が開き、こう叫ぶだろう。
(俺は……東京の守護者だぁ!!)
<<我が主と同じ道を生きる覚悟を決めし魂よ!我はお前と共に行こう!!>>
――
悪魔の体の奥底に漂う魔剣スパーダの破片が闇の輝きを放つ。
呼応するかのようにして悪魔の内部を漂う究極の悪魔の力も輝きを放つ。
マサカドゥスのマガタマ破片が魔剣の破片に集まっていき、そして喰われていく。
マガタマのような形へと変わってしまった魔剣の一部が胎動を始める。
体の中で宿主のマガタマと合わさるように回転を始めていく。
6と9、胎児と大人の形、輪廻転生の風車、陰陽太極図のようにして二つのマガタマが回る。
そして溶け合うように二つのマガタマは合わさっていくだろう。
生み出された大いなるマガタマこそ、
まろぐの海の中で生まれしマガタマの力を人修羅は今、解放するのだ。
<<心せよ、誇り高き魂よ。この力は御し難き力と感情の本流をお前にもたらす>>
(共に行こう…俺達の…終わりなき旅路へ)
――――――――――――――――――――――――――――――――
チェンシーは東京が見える位置に立つ。
彼女には東京の遥か彼方にある祖国が見えているだろう。
資本主義を選びながらも、未だにおぞましき共産主義によって支配された暴君の国なのだ。
「長かった…この日をどれだけ待ち望んだか。今こそ復讐を遂げよう」
中国共産党に疑問を持たず、誰も助けてくれなかった祖国民。
同じように助けてくれなかった世界中の人間達。
天に登ったチェンシーの両親の為にこそ、その罪深き命を供物として捧げるのだ。
「人類の数は増え過ぎた…間引くには頃合いだ」
「サァ、アナタハナニヲ、ノゾムノ?セカイノ、ジョテイ」
これから始まるのはチェンシーの支配であり、アイラは拒む事など許されない。
元々これが彼女に組みした理由であり、それを否定するのは自分を否定するのに等しい。
聖なる塔を背後にして立つ狂気の復讐者は不敵な笑みを見せていく。
自分の望みを高らかに宣言しようとするだろう。
死した悪魔に抗う術無しか?
人修羅は死んだが、それでも体内のマガタマは死んでなどいない。
マガタマは意思を持たない力だが生きており、生きているならば動く事が出来る。
かつてあったボルテクス界の旅路でも同じ光景があっただろう。
マガタマは宿主の体の中で暴れ始めた事が何度もあっただろう。
人修羅はそれを好きなようにさせるかどうか、常に選択を迫られた悪魔人間。
しかし今の悪魔は死んでいるならば、選択肢など存在しない。
マガタマは大いに死した宿主の体の中で暴れるだろう。
その効果は宿主を呪う事もあれば、状態異常に貶めるデメリットもある。
しかしメリットも存在し、マガタマはその力を持って宿主の体に与えてくれるものがある。
それは傷ついた体を全て元通りにして全快させる癒しの力であり、
「さぁ!世界の女帝の望みを言おう!中国人は自分の罪を呪いながら…全員自殺しろぉ!!」
ペンタグラムの女帝となったチェンシーは中国で暮らす者達に死の命令を下す。
これを持って洗脳魔法陣に支配された地球には死の嵐が吹き荒れるはず。
最初の犠牲者は誰だ?
「……ん?」
チェンシーの背中の衣服に何かが飛び跳ねてきたようだ。
背中に温かい感触を感じた彼女は動く右手を背中に伸ばす。
「こ…これは!?」
右手を見た彼女は絶句してしまう。
それはアイラの血飛沫であり、驚愕したまま背後を振り返る。
眼前にはアイラを光の防御壁ごとアイアンクロウで完全破壊した存在が映る。
返り血塗れの真紅の悪魔が立っている。
足元にはアイラの一部だった小さな肉片や眼球も見える。
ペンタグラムの理想を叶えるバベルの光も消えていく。
この世界の神となる挑戦をしたチェンシーの理想が消えていく。
バベル神話の如く、
「あ……ああ……ああぁぁぁぁぁぁーーーッッ!!?」
爪撃を大きく振り抜き終えた悪魔が顔を上げていく。
その目は金色の瞳などではない、悪魔の本能が現れた真紅の瞳。
瞬く真紅の瞳の中に一瞬だが見えるのは魔眼の魔法を使う際に見られる瞬膜。
瞬膜とは瞼とは別に水平方向に動いて眼球を保護する透明又は半透明の膜、第三眼瞼。
鳥や爬虫類が瞬きをする時、目の内側から瞬間的に出てくるため瞬膜と呼ばれる。
蛇は爬虫類、ドラゴンもまた爬虫類、それらを象徴する悪魔もまた爬虫類の如き存在。
目の前に立っている存在とは、純粋なる悪魔。
かつて二度目の誕生を迎えた姿そのものであり、人の心を完全に無くしてしまった悪魔の姿。
チェンシーの顔が恐ろしく歪んでいき、両目からは悔し涙すら溢れ出す。
彼女の姿を見た悪魔は皮肉一つ発しない。
無言のまま静かに歩みを進めていき、目の前の敵に殺意だけを向けてくる。
「悪魔ぁぁぁーーーッッ!!!!」
地面を砕きながら一気に踏み込んで箭疾歩の右拳突きを悪魔に打ち込む。
だが、右拳は悪魔の体には届かない。
「何だとぉ!!?」
空間が弛んでいるかのようにして悪魔の眼前で静止したままなのだ。
続く右肘、右裏拳、左膝蹴り、右回し蹴り、着地からの旋風脚などが繰り出されていく。
微動だにしない悪魔の体に届く前の空間によって、それらは全て止められてしまう。
これはマサカドゥスの力に見られた悪魔耐性の一つであろう。
究極の力を持つマサカドゥスは物理攻撃を無効化する力があるマガタマ。
この耐性を持った悪魔は他にもいるが、打ち破るには神の耐性さえ貫通させる能力が必要だ。
因果の力を携えた魔法少女であるチェンシーでさえ、そんな能力や固有魔法は持っていない。
「アアァァァァァーーーーーッッ!!!!」
それでも無念の感情を悪魔に叩き込み続けていく。
既に無力な彼女を前にした悪魔の左腕が動いていく。
右回し蹴りに合わせるカウンターの形で首を掴んでくる。
「ぐっ!!うぅ…離せ…悪魔ぁ!!!」
羽根を持ち上げるように宙に持ち上げられていくと怒りに満ちた悪魔の目が向けられる。
そして悪魔の視線が彼女の下腹部に下りていき、魔眼の射線は空に向けられているのだ。
「何をするつもりだ……!?」
悪魔の顔の前で雷雲から生み出されるような雷と光の粒子が集まっていく。
その両目は輝きを帯びていき、悪魔は魔眼の一撃となるだろう螺旋の一点放射を行うだろう。
螺旋とは陰陽の合一で雲が生じるという考えであり、その図は螺旋で表される。
螺旋とは太極であり、万物の根源を指す。
陽を司るイザナギと陰を司るイザナミは矛をかき回したり、柱の周囲を回って螺旋を描く。
日本神話の国生みでは天沼矛を混沌とした大地をかき混ぜる為の螺旋を生みだす神具となる。
矛も柱も剣を表すことから三種の神器の天叢雲剣には雲があるのだ。
放たれようとする一撃こそ螺旋であり、陰陽を生み出す国産みの剣の一撃に匹敵する。
「神の門を潜るのは……お前ではない」
「やめろ……やめろぉぉーーーッッ!!!!」
魔眼の中に見えるのは二匹の蛇が陰陽太極図を描くように回転する光景。
悪魔の両目から光は一気に放たれ、『螺旋の蛇』の一撃となって黒龍に襲い掛かるだろう。
黒龍の腹部が消し飛び、美しい背中の長髪も消し飛ばされる。
国産みの一撃の如き魔力の放射が雷雲渦巻く天の叢雲に昇っていく。
彼女の下半身が悪魔の足元に落ちてしまい、臓腑と流血を撒き散らす。
「ゴブッ!!ガッ……あっ……あ……」
胸から下を失ってなお、魔法少女という存在は死なないらしい。
魔法少女の本体はソウルジェムであり、彼女の左側頭部に飾られているもの。
それさえ無事なら体を損失しようが復元レベルの回復魔法で蘇る事も出来るであろう。
悪魔の視線が彼女のソウルジェムに向けられていく。
「ソウルジェム…それは、美しき少女達の魂」
第二次性徴期の少女達が持つ大きな感情エネルギー。
それを効率よく宇宙の熱エネルギーとして変換させる魔女の卵に見える石。
「以前から気になっていた…」
「な……に……?」
「この中にはどれだけ感情エネルギーが秘められてる?美味そうなマガツヒが噴き出す?」
――拷問してでも取り出したい程にまで、味わい深き魔法少女の絶望が隠されている?
「キ…サ……マ……!!」
「沢山戦った、沢山傷ついた、沢山魔力を使った…腹が減った……
無表情だった悪魔の顔つきが変わっていく。
魔法少女ならば恐怖を感じずにはいられないだろう。
おぞましき笑みを浮かべる悪魔の右手がゆっくりと持ち上げられていく。
髪飾りの花の形をしたソウルジェムは悪魔に奪われてしまうだろう。
少しだけ右手に力を入れて花飾り部分を砕き、ソウルジェムを掌で転がしながら弄ぶ。
まるで
「な…何をする気だ…!!やめろ……やめてくれぇ!!?」
自分の本体が悪魔の手に運命を委ねられている。
魔法少女なら誰もが恐怖に慄くだろう。
左腕を下ろし、体が小さくなった彼女に目線を合わせる。
死にかけた憎たらしい女の怯えきった顔を見ながら悪魔は愉悦の極みとなるだろう。
両頬の頬筋がつり上がっていく程の邪悪な笑みを浮かべながら死の宣告を与えてくる。
「恐怖に慄け…これが俺達悪魔が…魔法少女に行う所業だ」
「やめろぉぉぉーーーーーーーッッ!!!!」
悪魔は一息にソウルジェムを飲み込んでしまう。
邪神である黒竜セトの化身ともいえる魂を喰らってしまう。
「あっ……」
その光景を最後に彼女の意識は遠ざかっていく。
彼女のソウルジェムは悪魔の体内の中で絶望を迎えてしまう。
ソウルジェムは破裂し、因果の力を携えし魔法少女の膨大な感情エネルギーが噴き出す。
そのエネルギー量は余りにも巨大であるのを悪魔は感じているはず。
インキュベーターに課せられた残りの回収ノルマを全て回収出来てしまう程の量なのだ。
「これがお前の絶望の味か……
悪魔は感情エネルギーを全身で飲み干し、喰らいつくしていく。
彼女が今まで生きてきた人生の感情であり、経験値ともいうべき因果が飲み下されてしまう。
体内に残るのは残りカスともいうべきグリーフシード
それもまたインキュベーターの背中に取り込まれるグリーフシードと同じ末路となるだろう。
この星を破壊し尽くす事が出来ただろうチェンシーから産まれる大魔女は誕生しない。
産声を上げる事も出来ずに悪魔の中で溶かされて吸収されたのだから。
「クックックッ…ハハハハハハハハハハハハ…ッッ!!!!」
左手から業火が生み出された事で持ち上げられた死体が焼き尽くされていく。
地面に転がった下半身にも燃え移り、呪わしき魔法少女の遺体を燃やし尽くす。
「ハーーーーッハハハハハハハハハッッ!!!!」
復讐を果たした悪魔のおぞましき高笑い。
天を貫く程に全身から噴き上がる深碧の魔力。
悪魔は赤き獣として帰ってきた。
純粋なる混沌の悪魔は帰ってきた。
混沌王の伝説を生み出した悪魔は、ついに復活を遂げるのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
満足したのか踵を返して歩いていく。
魔力を龍神から吸魔していたと思われる魔法陣の中央にまで足を進めたが立ち止まる。
地面に視線を下ろして魔法陣を見つめる悪魔は魔法人の形が気になる様子だ。
「赤い…六芒星?」
ペンタグラムの象徴である五芒星ではなかった魔法陣について疑問が浮かんでしまう。
「なぜだ?あれだけ五芒星に固執していた連中なのに…」
彼の脳裏に浮かぶのはルイーザの言葉の数々。
「あの工作員…何か別の魔法陣を隠してやがったな」
ペンタグラムを象徴する五芒星は彼が立つ真下のエリアに描かれている。
「この六芒星…どういう意味で描かれた?ペンタグラム連中は知っていたのか?」
注意深く六芒星を観察すると模様が見えてくる。
「中央の六芒星…星の周囲に描かれたアルファベットとシンボル…」
斜め左下にα、斜め右下にΩ、左にP、右にX、左上に王冠、右上に聖杯。
星を覆う円陣の枠内には真紅のヘブライ文字が備わっている。
円陣の天地には十本の角を思わせるエルサレム十字。
円陣の下に向かうように伸びた真紅のヘブライ文字にはこう書かれている。
「…かつてあった世界で、俺は仲魔から六芒星について聞かされた事があったな」
六芒星とは天地陰陽の合一だけではなく、別の意味もある。
「六芒星とは獣の数字…
悪魔の数字666の原点は新約聖書のヨハネ黙示録である。
世界の終末が近くなった時、全人類を地獄へと導く獣が現れる。
暴君にして史上最強、最大の反キリストが現れると記されているようだ。
「たしか…数学でも六芒星を紐解く事が出来るって話だったな」
角度の和は180°である事は決まっており、正三角形の場合は一つの角度は60°である。
これらが合わさると60+60+60=180となるだろう。
数秘術のゲマトリアでは0は数える事がない。
6+6+6=18となり、18=666という意味合いが数学で紐解ける。
「六芒星が示す存在はサタン…だが、ルシファーだけがサタンと呼ばれる悪魔ではない…」
赤き六芒星を象徴する別の魔王の名も彼は仲魔から聞かされている。
「……
混沌王が呟いた魔王の名が示す悪魔こそ、聖書においてはルシファーよりも邪悪な悪魔の名。
【モロク】
モレクとも呼ばれ、ヨルダン川東岸に住んでいたアモン人が信仰していたとされる神。
アモン人はカナン諸語を話す民族であり、聖書ではモアブ人の兄弟民族。
アモン人の国はイスラエル王ダビデに征服され、イスラエル民族に取り込まれた歴史をもつ。
生贄を求める神であり、アモン人と混ざった多くのイスラエルの民がモロク信仰に堕ちる。
それによって子供を炎の中に投じて生贄にしたとされているようだ。
モロクの像は牛の頭部をした巨大なものであり、内部は生贄や罪人を焼く業火が燃やされる。
バアル・ハモンやサートゥルヌス(サタン)とも同一視される存在であろう。
「あの牛の悪魔は…子供の生贄を何よりも欲する」
魔法少女と呼ばれた子供達は魔王モロクに捧げられたのかと考えていた時、異変が起きる。
「何だ!?」
六芒星の魔法陣を見ていたら突然鼓動を始めていく。
混沌王の魔力に反応したようにして起動したようだ。
「ぐっ!!溢れる力が抑えられない!?」
体の内側から何かが体の中で蠢くような激痛に襲われていく。
彼は魔法陣の中央で両膝をついてしまい、酷く苦しんでしまう。
「がっ…あぁ……体中が蠢く……背中が……熱い!!!」
周囲の様相が変わっていく。
地面に撒き散らされた魔法少女達の血溜まりが魔法陣に集まっていく。
この現象はヘリポートだけではない。
下の階の魔法少女達の血溜まりまで上の階に向かって遡っていくのだ。
地上に穿たれた穴からも魔法少女の血が遡っていく。
巨大な肉塊と化した魔法少女の膨大な血がタワーを赤く染め上げていく。
鳥居を模したタワーそのものが朱色の鳥居となっていく光景に見えてくるだろう。
「ぐぉぉああぁぁーーーーーッッ!!!!」
苦悶の雄叫びが人工島を超えて千葉県浦安市港にまで響き渡ってくる。
「…始まったか」
サイファーは黒いフードの中で不気味な笑みを浮かべていく。
「鳥居とは、神域と人間が住む俗界を区画するものであり…結界とも言えるのだ」
神域への入口を示すヘブライ語のアラム方言ではTARAA=門という意味を持つ。
出エジプト記12に記された記述内容の中にはこうもある。
この月の十日に各々、その父の家ごとに小羊を取らなければならない。
その血を取り、小羊を食する家の入口の二つの柱と、鴨居にそれを塗らなければならない。
その血はあなた方のおる家々で、あなた方の為に印となる。
私はその血を見て、あなた方の所を過ぎ越すであろう。
追手である殺戮の天使の害に合わない為に、二本の柱と鴨居を羊の血で染めろという内容だ。
二本の柱とは鳥居を示し、ワタツミタワーとは鳥居を示す。
ではこの印無き者の家は十の災いによる神罰が待っているのか?
それを執行する正体が未だ明らかにない殺戮の天使とは?
神の門を現すバベル、鳥居を超えて極限の神域に辿り着く存在とは?
「フッ…フフフ……待っていたぞ、この時をな」
ルイーザと共に人工島に向けてコルナサインを右手で作る。
「サタンが似合うのは私でもベルゼブブでも…モロクでもない」
――我が子の如き、お前であるべきだ。
「
「神の門を潜り、今ここに三度目の新生を迎えるだろう。悪魔であり、神となる者に祝福を」
その頃、イルミナティ13人評議会メンバー達もまた、この光景を軍事衛星から見守る。
評議会の長と思われる老人の横にいた老人メンバーが興奮した様子で声を荒げてくる。
「J!!
屋上まで流れ出た大量の血を吸い上げ、赤黒い血煙舞う魔法陣。
上半身が倒れ込みながら藻掻き苦しむ悪魔の姿がモニターで見えるだろう。
入れ墨の発光色が赤く染まり、頭髪が白色のように変色していく。
剥き出しの歯は鋭い諸刃の剣のように尖り始め、爪は龍爪のように伸びていく。
最も変化が著しいのは背中であろう。
大円筋部位から縦に広背筋に沿うように4つの割れ目が血を流しながら生まれていく。
俯向けに倒れこんだ姿から見えるのは首裏の一本角。
Jと呼ばれた老人は静かに目を瞑り、記憶を辿る。
自分の一族が掲げた紋章に備わり、英国を始め世界各国の王族や皇族家の紋章や家紋にもある。
神話の壁画さえ思い出していくと答えは出てくるだろう。
それは
古代シュメールの壁画に描かれた
ルシファーと呼ばれた悪魔のルーツとは一角獣なのかもしれない。
キリスト教が誕生した一世紀後半の時点ではルシファーという悪魔概念は存在しない。
初めてルシファーの存在が指摘されたのは西暦230年の頃。
旧約聖書文献の一つイザヤ書に知られていなかった悪魔の存在を指摘した事で誕生する。
概念存在とは、同類のモノに対していだく意味内容そのもの。
ルシファーの同類とされた表象から共通部分をぬき出し、得た表象として生み出された概念。
それこそが古代シュメールの最高神の一体なのだとJは判断したようだ。
「
評議会の老人達はJに視線を移しながらも古代シュメールの最高神の一体の名を呟く。
その神の名は
――――――――――――――――――――――――――――――――
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”ーーーーッッ!!!!」
悪魔が絶叫を上げると背中の四つの割れ目から血飛沫が噴き上がっていく。
体内から生み出されたものは天使の翼などではなく、堕天使の翼である四枚翼。
ルシファーの翼の如き飛膜を持った堕天使の翼なのだ。
その飛膜には赤く発光する入れ墨が浮かび、人修羅に刻まれた光る入れ墨と酷似するだろう。
黒を基調とした直線、曲線を組み合わせて発光するトライバルタトゥーが刻まれた翼である。
頭髪は雪のように白く、羊毛と似て真白い白髪、そしてその顔は獣の如き悪魔そのもの。
チェンシーから生まれるはずだった大魔女を取り込んだせいで異常な悪魔化が起こったのか?
それは今の彼だろうが他の誰だろうが分からないだろう。
「Grrrrrrrr!!!!」
悪魔の体が宙に浮かび上がっていく。
外側の両翼を横に広げながら羽ばたき、内側の両翼を縦に広げるようにしていく。
大きく広げられた四枚の堕天使の翼によって描かれる印章があるだろう。
悪魔の体も含めて背後に描かれた形とは、
五芒星とは原初の混沌に含まれた五大元素を表す印章であり支配の象徴。
逆五芒星とは五芒星を反対にした星であり、悪魔を呼び、地獄を示すと云われる。
黒魔術では逆五芒星はサタンの象徴として有名であろう。
グノーシス主義のイルミナティは智慧の蛇サタン(ルシファー)を崇拝している。
神の門を潜った悪魔もまた真紅のサタン。
七つの大罪の一つを司りし者とは神の敵対者サタン。
今の人修羅こそが、
「AAAAAAAAAARRRRRRRRRTTTTTTTTHHHHH!!!!!」
真紅の瞳を持ち、赤く発光する入れ墨をした悪魔が狂った雄叫びを上げながら絶叫する。
その理性は完全に崩壊し、一つの感情に支配されているのだろう。
それを見届けてくれるサイファーはこう語ってくれる。
「これこそが人間の感情の極み。希望さえ呪い、絶望から生み出される理性無きモノ…」
――
今ここに極限の怒りが無制限に放出されようとしている。
出エジプト記の十の災い程度では済まない規模となり、人類を滅ぼす一撃となろう。
自分を傷つけてきた全てに怒り狂い、東京の守護者であることさえ思い出せない。
地球全てを破壊しつくす程の神罰を全身から放出しようとした瞬間だった。
「
サタンの腹部から背中に至るまで広がっていくのは大きな古傷。
それは剣で貫かれたかのような傷跡にも見える。
古傷が蘇って開いたことで大量に血を噴き出してしまう。
「Ga…a……あ……?」
この痛みは人修羅と呼ばれた尚紀には覚えがあるはず。
「ダン…テ……?」
混沌の闇の世界で戦った男につけられた傷の痛みを彼は再び味わっている。
全てをぶつけてもなお怯まず戦い抜いた誇り高きデビルハンターの姿が脳裏に浮かぶ。
「俺は…何を……?」
激痛によって我を取り戻した悪魔が地上に向けて降下していく。
「ぐっ……うぅ……」
地面に着地して片膝をつく彼の傷は余りに深く、発光する入れ墨も真紅から深碧と明滅する。
「なぜだ…傷は完治したはず……」
――さぁ、答えを聞かせてもらおうか、人修羅。
――お前は尚紀か?
――それとも悪魔か?
「……俺は」
自我を忘れて約束を違えようとした自分を猛省していた時、浮島全体に異変が起きてしまう。
人工島に巨大振動が生まれていく。
人工島というよりは東京湾そのものが揺れているかのようだ。
上空から浮島を見下ろせば黒い何かが巨大な口を開けているようにも見えてくるだろう。
「感じさせてくるこの莫大な魔力は…神霊か!?」
悪魔が気がついた時には遅すぎたために東京湾が弾け、それは顕現してしまう。
「うおおぉぉーーーーッッ!!?」
海が弾けたのが一瞬見えたようだが次の瞬間には暗闇の底に飲み込まれてしまうだろう。
地球の大地が岩盤ごと勃起したかのような光景こそが異変の正体。
雷光を纏って天に伸びるのは巨大な大地そのもの。
天を貫くのは龍の如き岩の塊であり、余りにもその存在は巨大過ぎる。
東京の住人達はその光景を見ることは出来ない。
現れたのは概念存在であり、神や悪魔と呼ばれる者なのだから。
魔女の姿が見える魔法少女達ならば神霊の姿を見る事が出来るはず。
東京湾から遠く離れた見滝原市からでもその巨体は見えてしまう
「キャァァァーーーーッッ!!!!」
遠く離れた街からでさえも感じてしまう神霊の魔力が天を貫く畏怖の柱となっていく。
マミは窓際で腰を抜かして絶叫してしまったようだ。
風見野市からも大地の如き龍の巨体が見えるはず。
「おい……この世の終わりが来たのかよ?」
教会の廃墟に向かう森の道を歩くのは杏子であり、夜空を見上げたまま固まっている。
空を見上げる彼女は全てが終わるのだと悟ったかのように両膝をついてしまう。
神浜市からでもこの世の終わりの光景が見えるはず。
「……ワーオ」
呆然とした表情を夜空に向けるのはアリナと自称した魔法少女。
天を貫く巨大な柱を見物しながらも彼女は興奮を隠せない。
この世ならざる最高の美が顕現したかのようにアリナは感じていたようだ。
神浜市南凪区の海沿いに見えるのは美雨と長老の姿。
テレビ映像が切れてからは場所を変えて東京の方角を見守っていたようだ。
「あっ……あぁ………」
震えながら膝をついてしまう美雨の隣に立つ長老の額にも冷や汗が落ちていく。
神霊の姿が長老には見えているのか細目を開けながらこう呟いてしまう。
「あれは中国や日本で崇められてきた…最強の神龍……」
――
読んで頂き、有難うございます。