人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
【九頭龍】
世界を支えていると言われる九本の頭をもつ中国、日本の龍神。
中国においては九は陰陽思想における最大の陽数である。
また九という字は久の発音と結びつけられる事から永遠を連想させるという。
龍神は水神としてだけでなく風水においては地脈の象徴。
地脈はおおよそ山脈に添って流れており、これが平野で尽きる時その場所を龍頭という。
龍頭の先には龍が水を飲む池があり、誘われるように龍脈は野に広がり力あるものとする。
九頭龍はこうした地脈の龍の中では最も巨大な神龍であろう。
このうちの頭一本が日本にあり、日本列島をその背に乗せていると言われていた。
♦
あまりにも強力な神であるために神霊とまで言われる悪魔の顕現。
大地の龍は魔法少女達がもたらした感情エネルギーによって龍脈の中に具現化している。
ペンタグラムは神霊の魔力を利用していたが光の柱を伸ばした場所が悪かったようだ。
九頭龍の下顎に一枚だけあるという恐ろしき龍の鱗にまで伸ばしてしまう。
そこは逆さに生える岩の鱗であり、龍の逆鱗。
起きれば世界が完全に滅びるといわれる九頭龍はついに激昂し、龍頭を上げてしまう。
メガフロート地区どころか東京湾そのものを飲み込んでしまったようだ。
九頭龍伝承にて語られる日本武尊、ヤマトタケルノミコトの再現とも言える光景であろう。
「グォォォーーーーッッ!!!!」
天を貫くほどに激怒した九頭龍は天に向かってあまりにも巨大な体を伸ばしていく。
しかし本来の九頭竜の一部にしては小さすぎるサイズに見えてくるはず。
マグネタイト不足で体が小さい状態で顕現したようだ。
しかし本来は九つある龍頭の一つでさえ日本列島を覆ってしまう。
一体の首のサイズで地球の円周に匹敵する巨体なのだが顕現したサイズは小龍そのもの。
小龍ではあるが長さは日本列島では収まりきらず、全長はおよそ4000キロメートル。
大気圏・熱圏を超えていく九頭龍は地球を超え、偵察していた米国の軍事衛星を破壊していく。
無限の力に匹敵する九頭龍の一部はこのまま暴れ狂うであろう。
本来の大きさになる為の大虐殺を行い、感情エネルギーを喰らうだろう。
このまま地球に目掛けて体を丸めながら落下したとしたらどうだ?
日本の関東だけの被害規模では済まず、ユーラシア大陸にまで甚大な被害をもたらすはず。
そのまま体を地表で暴れさせたならどうだ?地球の大地が滅ぶだろう。
不完全でありながらも世界を破壊出来る力を持つ神こそが神霊であった。
「
「
――
――――――――――――――――――――――――――――――――
ここは暗闇の底であり、九頭龍の体内。
外側の岩の体とは裏腹に内部は生物のような広大な体内世界が広がっている。
東京湾の海水なのか、九頭龍の胃液の中なのかは分からない。
悪魔はその中で浮いており、九頭龍に飲み込まれた者達の叫びを感じているようだ。
人々は溶かされ、感情エネルギーも魂も喰い尽くされていく断末魔なのであろう。
「ゴホッ……ガハァ!!」
古傷からは未だにおびただしい出血が続く。
悪魔の体は物質だけでなく霊質も備えている。
霊体の傷は健在であったせいで古傷は未だに癒えていなかったのだろう。
トラウマを思い出し、藻掻き苦しむように古傷が開いてしまったようだ。
「俺を…止めてくれたのか?……ダンテ」
かつてあった世界で出会ってしまったデビルハンターを思い出していく。
ダンテと呼ばれた魔人はボルテクス界に現れ、メノラーを巡る魔人同士の争いに加わった者。
彼が一体何者なのかを詳しく聞いた過去がある。
ダンテとは、かつて存在した伝説の悪魔剣士スパーダの息子。
スパーダとは二千年前において正義に目覚めて魔界に反旗を翻した伝説の悪魔。
魔界の実力者である魔帝ムンドゥスや覇王アルゴサクスを倒した存在。
まだ隔たりのなかった魔界と人間界を分かち、封印した存在でもある。
20世紀まで生きたスパーダは一人の女性と添い遂げたという。
その後に産まれた二人の子供はダンテとバージルの名を授けられる。
二人に剣術の手ほどきと二振りの魔剣を授けた後に姿を消す。
以後の消息は不明となった。
人類にとっては英雄かもしれないが、他の悪魔達にとっては違う。
元々広く悪魔達の憧れの的となっていたため、激しい恨みの的ともなってしまう。
スパーダが残した家族の幸せは続かず悪魔達に襲われ、母も兄も失っていく。
その後は裏切り者の血族のせいで命を狙われるだろう。
名前を偽り生きてきたが、人々と関われば関わる程に死なせていった過去をもつ。
ダンテはいつしか誰とも関わらなくなった者。
その後は悪魔と戦う事を専門とした便利屋事務所を開業する。
ダンテの苦難は人を遠ざけてからも続いていくだろう。
仇の悪魔と戦い続けたが、失うばかりの悪魔人生であった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「…なぜ、そんな話を俺にした?」
「悪魔になると碌な事がねーって分かるだろ?」
二人の悪魔人間が並ぶように歩いていく光景が見える。
「お前も大事な奴らを失ったみたいだからな」
人修羅もダンテと同じく誰も守れなかった存在。
二人の親友と恩師、それにこの世界で知り合った人達も守れなかった苦しみを抱える。
「掃き溜めの奥底まで行って、掃き溜めの親玉から力を授かったようだが…」
「…何が言いたい?」
「お前は…何がしたい?」
「…ぶっ殺してやりたい」
全てを憎む怒りの言葉を人修羅は吐き出してくる。
その言葉ならダンテも幼い頃から何度も叫んできた経験をもつ。
「奪った奴らも、こんな運命を用意した神も…皆殺しにしてやりたい」
「リベンジは結構だが、お前には何も残らねーぜ?」
「……見た事があるのか?」
「俺も奪った連中にしてやったが…それ以上に価値のあるモノを、その中で見出した」
「復讐よりも価値のあるものだと…?」
復讐は何も産まないからやめろというお決まりのセリフがフィクション界隈にはある。
そんな言葉を口にしたならば、この場で殺し合いとなっていただろう。
それ程までに今の人修羅は殺気立っている。
静かなる憤怒を纏い、頭は冷静でも心は消えない怒りの業火が生み出されている。
彼に怒りの炎を運んだ悪魔はルシファーであり、ラテン語で炎を運ぶ者と呼ばれた大魔王。
怒りの炎は彼の心を焼き尽くし、身も心も完全な悪魔にしてしまったようだ。
人間か悪魔かも定かでない半端な人修羅ではない。
怒りと悲しみに塗れ、心が壊れた悪魔として生きる修羅と成り果てたのだ。
「そんなに力が欲しいのか?」
「……説教もいい加減にしろよ」
「力を手に入れても…お前はあの頃には帰れない」
「貴様は黙れぇ!!」
横を歩くダンテに目掛けて高速の裏拳が顔面に迫る。
それに対して右掌で受け止めたが、衝撃波は周りに拡散して暗い通路の周囲が破壊される。
力場によって地面に圧力が加わりながら亀裂が走って砕け散っていく。
「お前は…
バージルとはダンテの兄である魔剣士。
母親であるエヴァを守れなかった事で己の無力を悔やみ、力こそ全てと悟る事になった人物。
人間らしい優しさや正義といった感情を捨て、悪魔として生きる道を選んだ兄であろう。
兄弟は再開する事となるが、思想の違いにより戦い合った過去をもつ。
ダンテに敗北したバージルは魔帝ムンドゥスに捕らえられ、黒騎士として洗脳される。
魔帝の尖兵として再びダンテとの再戦を繰り返したようだ。
大魔王に操られた人修羅もまた魔帝に操られたバージルと重なって見えてくるはず。
形は違えど、なぞる道は互いに悪魔へと至る道なのだから。
「失った者達から受け継ぐべきなのは、復讐の力なんかじゃない」
右足を軸に体勢を回転させ、左肘打ちをダンテの左側頭部に放つ。
それよりも早く決まったのはダンテの右膝蹴り。
体勢の回転により無防備となった背中に打ち込まれたようだ。
大きく弾き飛ばされた人修羅は地面に倒れ込む。
ダンテは人修羅を見下ろしながらこう告げる。
「もっと大切な、人間としての…
「フッ…フフフ…ハハハ……」
起き上がりながら嘲笑う声を上げながら立ち上がる人修羅。
このボルテクス界において人間の意志など何の役にも立たなかったと経験した悪魔である。
ボルテクス界で道を切り開く事が出来たモノを知っているからこそ、彼はこう告げるだろう。
「悪いが俺の炎はこう言ってるぜ……
コトワリの神々を倒す力、神霊カグツチを倒す力、大いなる神を倒す力。
人間の心が死んだ人修羅が欲するのは力のみ。
「本当によく似てやがる…。俺の兄貴と同じ過ちは…繰り返させないぜ」
睨み合う二人の魔力が極限にまで高まっていく。
互いに踏みしめる大地が爆ぜ、互いの刃がぶつかり合う時、割って入る者達が現れる。
「「そこまでだ!!」」
後ろからついてきていた仲魔の二人が割って入り、仲魔割れを止めてくれる。
セイテンタイセイは人修羅の刃を如意金箍棒で受け止めている。
クーフーリンはダンテの刃をゲイボルクで受け止めているようだ。
「いい加減にしろ、二人共!戦う相手を間違えるな!」
「木によりて魚を求むってな。今は仲魔同士で殺し合ってる場合か?」
現在の人修羅は仲魔達を引き連れながら最後の決戦の場に向かっている道中である。
全てのコトワリ勢力が集う総力戦がすぐ其処に控えている現状でのこの騒ぎ。
こんな道中で仲魔割れをしている場合ではないはずだ。
静止したまま睨み合う中、人修羅の肩に仲魔の妖精ピクシーが舞い降りてくる。
彼の肩に座り、変わり果てた尚紀に対して怯えた言葉を紡ぐだろう。
「尚紀…あたし、最初の頃に出会った尚紀のままで…いて欲しかったなぁ…」
仲魔達の思いを受け止める優しき心は今の人修羅にはない。
しかし目的の前に戦力を消耗するのは得策ではないと考える冷静さはあったようだ。
その為だけに刃を収めてくれた事でダンテも同じように魔剣リベリオンを背中に収める。
人修羅の仲魔達を見つめるダンテは少しだけ笑みを浮かべてくれている。
「俺の兄貴と似てない部分もあるようだ」
「……?」
「自分の過ちを周りが止めてくれる人望ってやつは……バージルには、なかったぜ」
踵を返し、決戦の地へと至る地上に向けてダンテは歩きながらもこう告げる。
「若い少年。俺は何度でも、お前が過ちを犯そうとしたなら止めてやる」
――お前を殺す一撃を…くれてやる事になろうとな。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「……また、世話になったか」
自分と同じ苦しみを背負う半人半魔の魔人、それがダンテ。
誇り高きデビルハンターから受けた傷に対して彼は誇らしい気持ちが湧いてくる。
「あんたの言葉は…嘘ではなかったようだ」
過ちを止めてくれる存在があったからこそ今の彼は救われている。
共に戦ってきた仲魔を失ったが、それでも繋がり合うものを感じる事が出来ただろう。
体に力が入りこむ中、同時に九頭龍の体内世界が振動を始めていく。
「……体を倒し込もうとしているのか」
倒れ込む先は地球だと分かっている。
天から落ちる『山津波』となって神霊の一撃を地表に叩きつけるのだ。
死に至る程の古傷が開き、悪魔の体は瀕死の状態。
それでも背中に感じる四本の腕のような感覚に力を込めていく。
「…やらせない。俺が生きている限り!!」
四枚の翼が水面で大きく羽ばたき、水面が大きく爆ぜる。
水柱の中から現れたのは、四枚翼の飛膜を広げし悪魔の姿。
体の入れ墨は真紅の怒りに染まってはいない。
その瞳は人間の守護者を貫いてきた金色の瞳。
九頭龍の体が地球の重力に引かれるように落下していく中、最後の一撃を放つだろう。
「…この一撃を放つのは、カグツチやルシファーと戦った時以来だな」
悪魔にとっては地母の晩餐と並ぶだろう最強の万能極大魔法を放つ時がくる。
全身に気合を溜め込み、魔力が胴体からさらに上に向かって集まっていく。
全身から噴き上がる魔力の奔流が駆け巡る中、悪魔の口が開いていく。
顔の前に光の粒子が集まり、暗闇の世界が消滅の光りによって照らされていく。
(まだだ…もっと強く…力強く!!)
一撃で消滅させなければ砕けた龍の体が隕石の雨となって地球に降り注ぐであろう。
「これで最後だ、ペンタグラム…お前らとの因縁を…終わりにするぜ!!」
狙うのは九頭龍の頭部である龍頭。
人の姿をしたドラゴンの口から光芒が放たれていく。
その一撃の名は『至高の魔弾』であり、かつての神霊やルシファーを倒した必殺技。
九頭龍の体が内側より消滅の光りが迸り、次々と突き破られていく。
龍頭に目掛けて光の魔弾が一直線に伸びていくのだ。
「グオォォォォーーーーッッ!!!?」
九頭龍の断末魔の咆哮が上がる中、巨大な口が開いて奥から極大の光が溢れ出す。
九頭龍の頭部が至高の魔弾によって破壊され、光の粒子が拡散するようにして宇宙で爆ぜる。
あまりに巨大な爆発であり、光が太陽系を覆うかの如く広がり、夜空は白い光に包まれる。
体の内側から放たれた一撃によって九頭龍の体が崩壊していくのだろう。
体を維持出来なくなった神霊は感情エネルギーの光として消えていく。
神霊を構成していた感情エネルギーの光りは宇宙に向かって飛んでいく。
生き残れたのは宇宙空間を漂う悪魔のみ。
「……………」
魔力も使い果たした体であるが悪魔は力を振り絞って四枚翼を羽ばたかせる。
ゆっくりと地球に向かって進み、体が地球の重力に引かれて熱圏に入る。
赤く燃えながら流星のようになって地球へと堕ちていった。
♦
ここは月の地表。
そこに見えたのは巨大な六芒星。
九頭龍が消滅の際に撒き散らした感情エネルギーが六芒星に集まってくる。
六芒星は反応するかのようにして鼓動を始めていくのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
アメリカとカナダの国境に面した自然豊かな州である中北部ミネソタ州。
ミネソタ州北部の都市から離れた広大な森を所有している人物がいるという。
その人物は森の奥深くに大豪邸を所有していると街の人は話す。
有り余る財力でアメリカの天然資源事業に投資を行い富を増やしていったそうだ。
この投資家はフランス系移民であり、ミシェルと呼ばれる。
資産家のミシェルは現在、隠遁生活を送っていると地元の人は話すのだが、様子がおかしい。
彼女は1930年頃にこの街に現れた人物であり、当時の彼女の年齢は19歳ほどである。
それから89年もの月日が流れ、108歳を超えているそうだ。
いつ死んでもおかしくない老婆だと言われており、魔女ではないかと地元の人達は噂する。
それにビジネスの場に立っていた頃から彼女はおかしかったとも話してくれる。
見た目が変わらず、19歳の小娘のような若々しさを何年たっても維持したまま。
なぜ彼女はあの若さであんな莫大な資産を所有していたのか?
なぜ彼女の若さはずっと維持されたままなのか?
街の人々は噂の魔女に対してミネソタの錬金術師と呼ぶようになっていくのだ。
錬金術師の屋敷の召使いとして働かされているのは十代の少女達。
その子供達は全米からミシェルが引き取った孤児達なのだそうだ。
理由は様々だが彼女達は高待遇であり、衣食住には困らないと街の人々は口々に言う。
その少女達には奇妙な共通点があり、左手の中指には全員指輪をしているそうだ。
屋敷の召使いの少女達とはミシェルが集めた魔法少女達なのであろう。
秘匿社会に生きる魔法少女達だからこそ、主人の不老の秘密を守ってくれる。
そして主人もまた彼女達と同じ苦しみを背負う理解者でもあった。
♦
召使い達は今日も屋敷の奥に引き篭もった主人に代わって掃除の仕事を繰り返す。
地下のキッチンやボイラー室を掃除する者やダイニングルームを掃除をする者。
大きな屋敷のホールである多目的廊下の入り口前を掃除する者。
男性用と女性用と分けられた待合室や階段を掃除する者。
中庭のイングリッシュガーデンや図書館並の書籍量を誇る書斎を掃除する者。
そしてギャラリールームの掃除を行っている者と大勢を雇っているようだ。
ギャラリールームには中世フランスの百年戦争にまつわる品が美しく並べられている。
その中の絵画には百年戦争時代を駆け抜けた英雄達の絵画が飾られているようだ。
飾られた絵画の下には、それぞれの名前が書かれている。
リズ・ホークウッド、メリッサ・ド・ヴィニョル、エリザ・ツェリスカ。
ギャラリールームの一番奥に飾られているのはもっとも大きい絵画である。
描かれた少女とは救国の英雄であり魔法少女。
インキュベーターを天使として祭り上げた旗を戦場で勇敢に振る姿で描かれる。
百年戦争の英雄と呼ばれし魔法少女の名は
大豪邸ではあるが隔絶した場所もあり、そこは南館と呼ばれている。
この区画は屋敷の主人が研究を行うエリアであり、召使い達は立入禁止。
入る事を許可されているのはメイド長を務める魔法少女一人のみ。
屋敷の主人の秘密が全て詰め込まれているためか窓も封鎖されており、光りが入らない。
館内を歩いていけば割れたグラスや酒瓶などが散乱している光景も見えるだろう。
奥まった執務室から見える光りを覗けば内部にいたのは一人の若い少女の姿。
彼女の左手には召使い達と同じ指輪があるはずなのだが、指輪が見えない。
この人物こそがこの屋敷の主人なのであろう。
彼女は大型モニターに映し出された映像を見つめ続けている。
その映像とは日本の国営放送が世界中に報道してしまった映像記録内容。
それを何度も何度も繰り返し見続けていたようだ。
映像に映し出されているのは一人の少年であり、謎の声が木霊してくる。
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暗い執務室に座り、映像の光に照らされた少女の背後には誰もいないはず。
それに人間の影が映らなければならないはずなのに映っている影は人影ではない。
彼女の背後には誰もいない、しかし恐ろしい念話が彼女には聞こえている。
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それを聞いた彼女が驚愕しながら椅子から立ち上がってしまう。
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彼女はゲマトリアで逆算していく。
6に隠された数字とは獣の数字である666。
悪魔王ルシファーやサタンの力そのものだという仮設を立て始める。
その力を研究すれば、魔導の奥義を極める事が出来るであろうか?
彼女はルシファーのルーツと呼ばれる神の名をこう考えている。
古代シュメールにおいては地の王エンキ、バビロニアにおいては水神エア。
エンキとは魔法や魔術の祖と言われるエジプト神話のトート神の父神である。
古代シュメールではエンキの息子の一人であるニンギシュジッタだとトートは言われる存在だ。
トートに魔術を伝授したのが父神であるエンキ。
バビロニアでは水神エアとも語られ、
彼女は細目を開けて笑みを浮かべていき、あれこそ求めていたものだと悟る事になろう。
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魔法少女となってまで追いかけた道のゴール地点を数百年かけてでも見つけられたようだ。
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14世紀の子供時代に夢見た魔導の奥義を極めるため、今こそ彼女は錬金術師として蘇る。
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そして自分に取り憑いた悪魔との関係を終わらせる力を手に入れてみせると決意を固める。
暗い執務室の直通電話を用いてメイド長を呼び出して連絡を入れる。
それを聞いたメイド長の少女は首を傾げてしまう。
今まで聞いたこともなかったぐらい主人の生き生きとした声を聞けたからであった。
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周りの海水で埋められていきながら渦を巻く東京湾。
そこから南東に離れた位置に目掛けて人修羅は天から雷光のように堕ちてくる。
海に叩きつけられて大きく水柱が上がる中、海の中に沈んでしまう。
海面に煌めく夜空の明かりを見つめながら右手を海面に向けていく。
空気の泡を掴もうとするが、右手から溢れるばかり。
(…なぜ俺は誰も守れない?)
大勢の人々の命が尚紀の手から溢れ落ちてしまう。
(守ろうとすればする程に…失ってしまう?)
かつて在った世界の記憶が巡れば巡る程に失った記憶が蘇っていく。
(勇を救えなかった…千晶を救えなかった…祐子先生を救えなかった…)
聖丈二やフトミミやマネカタ達でさえも彼は救えなかった無力な悪魔。
どこに流れ着こうとも、また同じ事の繰り返しであろう。
(何が悪魔の力だ…?俺は……
襲いかかってくる無力感と共に神霊を倒す事さえ出来た力の源である感情さえも思い出す。
(魔法…少女……共め!!!!)
海の底に沈んでいき、見えなくなる海底の中で赤き瞳の光が一瞬だけだが輝いていく。
この光景はアマラ深界と呼ばれた魔界に堕ちて行く人修羅の姿のようにも見えるのであった。
♦
積乱雲も晴れ、海の上には星々が輝く。
悪魔化が解けた尚紀の体は海面を漂いながら海流に流されている。
背中の四本腕のような感覚は感じず、堕天使の四枚翼は消えているようだ。
羊毛のように白い髪の毛も元の黒髪に戻っている。
「…あの力は、何だったんだ?」
<<あれこそが、お前の命を壊す程の災いによって練り上げられた力だ>>
念話の声は将門であり、距離が離れた首塚からここまで届いてくる。
<<新たなるマガタマによって進化した姿なのだ>>
<俺の…進化?>
<<よくやった、人修羅よ。見事に東京を守り抜いてみせたな>>
<…俺は誰も守れてねーよ。東京の守護者として…失格だ>
<<守りし者が全てを守りきれる等と自惚れるな!!>>
<だが……>
<<比類なき優れた武将であろうとも、
<その人達に対して、なんて詫びればいいんだ…?>
<<大切な人々を亡くした者達に対して…かけてやれる言葉は無い>>
<…そうだな>
<<大事なのは、そこから何を学ぶかだ>>
<何を…学ぶか?>
<<お前はまた、魔法少女達に同じ事を繰り返されたいか?>>
<そんなのは…絶対に許せない…>
<<過ちは違った形となって何度でも降りかかる>>
<魔法少女共が…いる限り…>
<<しかし、それでも繰り返させたくないという…折れない意思が必要だ>>
<折れない意志……>
<<守りし者とは死ぬまで戦い、失いながらも守り抜く意思を貫く者>>
<失いながらも…意思を貫くか…救いようのない、悲しい道のりだな…>
<<…お前は、何を守りたい?>>
<俺は…>
<<何を守る力が欲しい…?>>
<か弱き人間達を守りぬく…力と、
<<その言葉、しかと我は聞いたぞ>>
見上げる夜空の上では暁のように輝く一つの星が見えている。
<<身も心も魂も進化し続けよ…人修羅>>
星がゆっくりと彼の体に堕ちてくる。
<<受け取るがいい>>
海面に浮かぶ体の上に浮遊して降りてきたのはマガタマの姿。
体を曲げながら回転し、6を描きながら9を描く。
6とは悪魔を表す数字。
9とは153を表すキリストと関係が深い数字。
混沌のマロガレ世界で溶け合い、生み出されたマガタマは再び人修羅に託されるだろう。
<このマロガレは…一体何なんだ?>
<<
<666の悪魔…?
<<神であり悪魔でもある三体の悪魔の力が宿りし…新たなる究極の力だ>>
<ルシファー…将門…そして…スパーダ>
<<我らの力が守りし者と共にある事を…忘れるでないぞ>>
浮遊するマガタマを掴みながら胸に抱きしめると将門の声が遠くなっていく。
丁度その時、体を照らす人工的な光を浴びせられる。
「なんだ…?海上保安庁の船か…?」
見えたのは巡視船であり、彼はろくに動かない体を動かして右腕を持ち上げて振ってみせた。
読んで頂き、有難うございます。