人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
あれから尚紀は変わり果て、この世界に流れ着いた頃のような無表情な顔となる。
他人を寄せ付けない態度を繰り返し、誰かと深く関わるのを拒絶するような孤独な生き方。
もう人の愛は彼には必要なかったのだろう。
必要だったのは人間社会を魔法少女達から守るための人間社会主義。
それは政治用語の社会主義でもあった。
「…やぁ、ナオキ君。無事な姿をもう一度見れて嬉しく思う」
無表情な顔つきを見せてくる者に対してニコラスは心配そうな顔を向けてくれる。
「座ってくれ。君があれから何をしていたのか…聞かせてくれないか?」
ジュエリーRAGの商談用ソファーに促された彼は座って向かい合う。
「…そうか。傷が癒えてからは政治書籍を買い漁り、勉強する毎日か」
「ああ。今の俺には社会をコントロールする知恵が必要なんだ」
「君は政治を用いて魔法少女社会をコントロールしたいのかね?」
「魔法少女社会だと?国に管理されない社会など…
「彼女達とてルールを決めてはいるようだがそれでも学生の班分け気分だ。軽い取り決めだな」
「俺は社会ルールというものの大切さを痛感した。社会を拘束するルール…それが法律だ」
「まさか…今までなかった魔法少女社会全体を拘束する法律を作るつもりかね?」
「善人も悪人も自分達さえ良ければそれでいい奴らだ。人間社会など本気で考えてはくれない」
「東京の魔法少女達ならばそうだろうが…他の街はどうだね?」
「他の街?」
「例えば、心優しい魔法少女が沢山いる街なら…彼女達の努力次第では…」
「心優しい連中など俺は信じない。家族の成れの果てを見て…確信した」
「そうだな…これは単なるそうであって欲しいお気持ち主義。無根拠な世界だ」
「魔法少女は状況次第で幾らでも社会に牙を突き立てる」
「彼女達とて止むに止まれぬ事情があるだろう?社会的な苦しさから開放されたいだけだ」
「強盗なら許していいのか?人間の命を奪っていなければセーフか?」
「それは……」
「社会を大事にしないヤツが社会を構成する人間を大事にする保証などない」
「覚えがあるようだね?」
「堕ちたヤツはとことん堕ちる。自分を正当化する言い訳なら幾らでも用意するさ」
「君にとって魔法少女は…もはや善人も悪人も関係ないというわけだな?」
「信じるという概念程人間の思考を奪うものはない。何の保証も動かぬ根拠も用意しない」
「確かに知恵無き者達は短絡的な答えばかりを求める。
「俺にも経験がある。痛めつけたし改心するだろうと信じたが…その魔法少女は子供を殺した」
「そんな悲劇を経験していたか…」
あの時の尚紀は人は改心出来る、先は信じられる、そうであってくれと願っている。
しかし蓋を開ければ彼の信じたい気持ちによって子供の命が奪われたのだ。
「あの時、誰も信じない思考を持っていたら…あの悲劇は避けられた。今でも後悔している…」
「思考の視野狭窄…信じたい気持ちは聞こえはいいが、
「絵に書いたような正義の味方を気取る魔法少女達に俺の考えを語ったら、こう言うさ」
――魔法少女達は絆で結ばれている!魔法少女は信じ合える優しい心で分かり合える!
「何の保証も根拠も用意しないままにな…」
ビジネス鞄から本を取り出して机の上に置く。
見れば漫画であり、魔法少女ものの作品のようだ。
「この漫画は何かね?」
「正義の魔法少女が自分達の在り方とは何をイメージしているのかを知りたくなったんだ」
「十代の子供達だからね。サブカル世界観は彼女達のモチベーションに繋がるだろう」
「読んで見たが…くだらなかった」
魔法少女に変身して悪い奴らをやっつける。
時には仲間と喧嘩しながらも絆を深め合い、悪者の親玉をやっつけて終わり。
「真善美の世界は昔から変わらない。英雄劇はキリスト教に取り入れられ聖人崇拝に繋がった」
皆が正義のヒーローという世界観に陶酔していく。
それを批判する者は悪者だと罵り、間違っていると頭から決めつけてくる。
正義のヒーローという偶像崇拝にしか過ぎず、偶像という神を批判する者は弾圧される。
「これはもはや思い込みという名の宗教そのもの…
「戦いが美化されていく…。悪者を倒せば気持ちよくなり、次の悪者をヒーローは求めるか…」
第一次大戦期において社会学者のジンメルは戦いを精神の転換点と言った者。
平和とは悲しい状態であり、戦いこそ偉大なる可能性に満ちていると言葉を残す。
結果はどうなろうと、この戦争は偉大で素晴らしいものだ。
私達誰もが不可能だと考えていたことを乗り越えるのは喜びである。
戦いは統一化、単純化、そして集中化の力であるのだと戦争美化を行った存在だった。
「あの時代のドイツと英国は資本主義と英雄主義の対立構造。言い換えれば…宗教戦争だな」
真善美を語り人間を酔わせ、視野狭窄にして洗脳する。
それに異を唱えるものは正義の妨害者扱いを受ける時代があったと歴史の生き証人は語る。
「自分が絶対に正しいと信じ込む…間違いにさえ気が付かない洗脳だな」
「正義に酔う者は
――まさに地獄への道は、善意で舗装されているだ。
漫画を仕舞って取り出した政治書籍をニコラスに見せてくる。
その書籍のタイトルを見た彼の目が見開き、驚愕した顔を向けてくるのだ。
「優しさでは人は救えない。美しさの世界に酔いしれ他人を信じ込み、無関心になりたくない」
「君は分かっているのか!?この政治思想が社会秩序の為にどれ程の虐殺をもたらしたのか!」
「必要なのは魔法少女社会全体を規律する立法。法を犯す存在には極刑が与えられるべきだ」
「個人ではなく…
「俺を含めた強者達に必要なのは…社会主義。そして…全体主義だ」
「やめたまえ!!この政治思想を実行したら…君は歴史に名を刻む独裁者の仲間入りだ!!」
「恐れない。魔法少女社会を俺の政治で規律し、全体主義が安全保証を得られる根拠とする」
社会主義によって人間社会は魔法少女の驚異から開放され、公共の福祉が得られる。
だが全体主義が敷かれた社会では魔法少女の自由に生きていい
「長い話になってしまったが…俺の意志は伝えておく」
用事を済ませた尚紀が席を立ち上がる時、彼を心配する者が言葉を送る。
「忘れるな…ナオキ君。君が今言った批判は…そのまま君にも帰ってくる」
「…そうだろうな。それでも精神主義を信じる事は……もうやめたんだ」
店を後にしていく彼の後ろ姿が遠ざかっていく中、最後に彼はこんな言葉を残した。
「……1は全、全は1だ」
♦
社会主義。
個人主義的な自由主義経済や資本主義の弊害に反対し、平等で公正な社会を目指す思想運動。
社会を組織化することにより人々を支える制度である。
社会主義の雛形はフランス革命によって生まれたと言われる。
歴史的には市民革命によって市民が基本的人権など政治的な自由と平等を獲得した。
しかし、資本主義の進展により資本家と大多数の労働者などの貧富の差が拡大して固定化。
労働者の生活は困窮し社会不安が拡大したという。
そのため労働者階級を含めた経済的な平等と権利を主張したものとされる。
社会主義運動は市場経済の制限や廃止、計画経済、社会保障、福祉国家などを主張する。
社会主義を含む19世紀の社会改革運動は、生活環境改善などの物質的な側面だけではない。
理想社会である
第一次世界大戦後にロシア革命が起こり、世界最初の社会主義国であるソ連が誕生。
共産党の一党独裁のもとに中央集権型官僚制が構築されたのがソ連型社会主義であった。
「尚紀…どこ行くニャ?」
自宅に帰ってきた尚紀は手早く風呂などを済ませた後、フォーマルスーツに着替えている。
「ニュクスのところに行ってくる。俺の意志を伝えておきたい」
「その件について聞きたい事があるの」
「なんだよ、ネコマタ?」
「貴方は社会主義という政治思想を応用すると言っていたわね?どう応用するの?」
彼はベットに腰掛けた後、猫悪魔達にも分かり易く語ってくれる。
「魔法少女と人間。これは資本家と労働者のように力の格差が拡大して固定化したものだ」
「それは…そうね。魔力で強化された魔法少女と人間とじゃ…強さが違い過ぎるわ」
「自由主義を魔法少女に許せば際限ない弊害をもたらすのは分かるな?」
「東京で今まで散々見てきたニャ…。極めつけはペンタグラム騒動だったニャ」
「俺達力ある者は人間社会の為に、より平等で公正な社会を目指さなければならないんだ」
「コミュニティを優先するということ?」
「そうなる。俺達の魔力や魔法の力は弱い人間達の為に共有されるべきだ」
「それはその通りニャ。強い者達が弱い者達を守らないで誰が守ってくれるニャ?」
「この理屈はブルジョワ階級やプロレタリア階級等を参考にして考えたものさ」
「ブル…なんとか…?プロレ…なんとか…?」
「資産家と労働者って覚えておきなさい、ケットシー」
「弱い人間達を俺は無力階級と名付けた。魔法少女や俺のような存在は強者階級と呼ぶ」
「共同体を優先するコミュニズム…それってもしかして……共産主義?」
「知的な猫だけによく知っているな」
「社会主義から共産主義に至るという二段階論があるの。社会主義はその一段階目ね」
「真の公平な社会を生み出す為に俺は魔法少女社会の個人主義を破壊する」
「ぶ…物騒になってきたニャ…」
「人は自由に生きるべき?そんな理屈を語る奴がいるから
「自由があるから…ペンタグラムみたいな奴らが生まれるニャ…?」
「自由は聞こえはいいけど…人の自由を優先しろ!社会秩序や福祉なんて糞食らえ!って話よ」
「オイラにも分かりやすい口汚さが心地いいニャ」
「俺達は共産主義を目指す。考える力、疑う思考を持たない正義宗教家共を打破する」
「まるで
二度とお気持ち主義や真善美に惑わされない厳格な社会を作りだす。
尚紀達のような存在が無力階級のために魔力や魔法の力を持って安全を保障していく。
無力階級である人間の幸福を最優先にしていく。
それこそが尚紀の望みである社会全体組織化であろう。
「俺達強者階級に私権はいらない…1人は全体となろう、全体の幸福こそ1人の幸福だ」
その先に見えるだろう全体主義に支配された魔法少女達の未来に対して猫悪魔達は恐怖する。
魔法少女達の
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BARマダムのVIPルームにやってきた尚紀は中央のカウンター席に座り、ニュクスと向き合う。
「…本気でそれを実行するつもり?私は言ったはずよ。悪い面だけで判断しないであげてと…」
「善人も悪人も関係ない。社会という他人同士の共存空間を見てきた神なら分かるだろ?」
「それは…」
法律とは社会秩序を維持する為のもの。
各自の良識が徹底すれば法律の存在は無用かもしれない。
しかし生活環境その他諸々の要件が異なる複数が存在すればどうなる?と尚紀は語る。
「自ずと見解の相違が生まれる。この時に一定の基準を作り、行き過ぎを押さえるのが法律ね」
間違った法は法としての存在意義がないから無効であるという見解もある。
しかしその時点で維持されている法であればそれに従わなければ秩序は維持出来ない面もある。
悪法もまた法なのだと尚紀は信念を語ってくれたようだ。
「法は細かく整備されるけれど全てを掌握も出来なくなる。解釈変更で改ざん出来てしまうわ」
「法規定は守らなければならないが、それは法を守る為ではない。社会秩序を維持する為だ」
法の理念とは社会秩序を守り、国民の生活をより豊かにすることである。
この定義を魔法少女社会のルールと照らし合わせた時、何を感じるだろうか?
魔女や使い魔を倒し、人間社会に対して魔法の悪用はしない。
だがこのルールでは人間社会に危害を加える魔法少女を抑止するルールとはなり得ない。
強制力がないからだ。
「聖書では人はパンのみに生きるに在らずとある。だが本来、
「イエスの言葉ね。その言葉の意味は社会の為に執着心を抑えろという内容よ」
人間は物質的な糧を必要とする。
パンが無ければ生きられない、無ければ奪いに行く。
人は欲望に従って生きる生命体。
忍耐という抵抗力は備えているが、それも限界があるのだ。
「我慢の必要性を教えるのが道徳。正義の味方を気取る魔法少女達が好む価値観ね」
「道徳という人類普遍の規範法則だけでは社会は守れない。我慢出来ない者達には通用しない」
「人が破るに難しいリスクを与え、社会を守る抑止力とする。これが法律の存在意義ね」
「俺は魔法少女社会に全体主義の法を敷く。優先すべきは人間社会であり、魔法少女ではない」
道徳は人間の良心に対して内面的な平和を達成することを使命とする。
法は人間の外面的な行為を規律することを使命とする。
法による強制が敷かれる正当な根拠とはミルが提唱した侵害原理。
個人が他者に侵害を加えることを防止するという侵害原理こそが尚紀の法の根拠となるだろう。
社会全体主義を敷いた例を語るなら極右の大日本帝国もそうだ。
法は倫理の最小限の定義を踏み躙り、内心の自由まで変えさせる法律を作った歴史があった。
「貴方も独裁政府と同じ事がしたいわけ?」
「魔法少女達に自由思想を与えては…魔法少女至上主義者を生み出すだけだ」
「法と道徳は常に争い合う関係。それでもね、法を法たらしめる要素として一番重要なのは」
――正しい大義という、正義よ。
「正しさ…それは人の数だけあり、制御不能だ。しかし、大義とは大勢の利益を意味する」
「…だから全体主義なのね」
「この国で最も多い存在は誰だ?」
「……人間よ」
「答えは出たな」
尚紀は席を立ち上がり、VIPルームから出ていく。
見送るニュクスは大きな溜息をついた後、彼の今後を憂う言葉が零れだす。
「カール・マルクスが生み出した共産主義…貴方はあのユダヤ人の正体を知っているの?」
彼女はカウンターの下から一冊の本を取り出す。
その書籍は共産主義のルーツが書かれている本。
未来が分かる彼女だからこそ彼が目覚めた思想について先に目を通していたようだ。
「ユダヤでありながらヘブライを憎悪し、唯一神を憎み続けた男…マルクスはね…」
――
「あの悪魔崇拝者ですらこれを実現させたらこの世は地獄に変わると言った政治思想なのよ…」
本を持つ右手に魔力を込め、悪魔の政治思想を燃やしていく。
「マルクス主義は人間を地獄に送る為のもの。思想ですらない神々への憎悪……
燃え盛る炎はこれから起こりうる魔法少女社会を焼く地獄の業火を暗示させるだろう。
それを表せる言葉こそが共産党宣言の一部にはあった。
――共産主義者は全ての社会秩序の
♦
「だずげでぇぇぇぇ―――ッッ!!!!!」
悪魔に頭ごと抑え込まれた半グレ魔法少女が泣き叫びながら哀願する。
両手で押し潰されていく魔法少女は無慈悲な悪魔の言葉を聞くだろう。
「駄目だ」
次の瞬間、彼女の頭は額のソウルジェムごと弾ける。
潰れたトマトの果肉のように脳味噌を地面に垂れ流し、体が倒れ込む。
悪魔の黒衣は既に返り血塗れ。
金色の瞳が路地裏の奥に向けられていく。
見えたのは座り込んで震え上がるもう一人の生き残り。
路地裏の周りは既に虐殺した半グレ魔法少女達の骸だらけ。
一人は首を捻じり切られ、燃え上がる死体。
また一人は悪魔の貫手で胸元のソウルジェムごと貫かれた死体。
心臓を抉り出され、胸骨剥き出しの無残な姿を晒している。
血煙舞う夜において悪魔は何も動じないまま歩みを進めていく。
背後の二体の骸達も次々と炎魔法で発火して炎上する。
燃える炎の光に照らされた悪魔の影が近づいてくる中、震え抜く魔法少女が叫んでくる。
「お願い…許してぇ!!もうヤクザな仕事もやめるからさぁ!」
震え上がる魔法少女の股からは失禁が漏れ出していく。
「人間にもちょっかい出さ…がぁぁぁッ!!?」
頭部のこめかみを掴まれ、持ち上げられていく。
「都合のいい言い訳はいらない」
「嫌だ嫌だぁぁーーッ!!死にたくないぃぃーーーッッ!!!」
「死にたくないなら、お前は俺のメッセンジャーとして…東京の魔法少女全員に伝えろ」
「メッセンジャーって…!?」
「これから魔法少女社会は人間社会に尽くす存在となる以外に価値は無い」
「あ…あんた正気!?」
「価値無き者は俺が皆殺しにする」
「そんな理屈…まるで狂人だよ…!」
血塗れの手に掴まれた隙間から見えるのは燃え上がる骸達。
断れば彼女も燃える骸の仲間入りを果たす。
(悪魔みたいなこの男なら…本当にやりかねない!!)
東京に現れるという魔法少女の虐殺者の噂は本当だったのだと彼女は知るだろう。
「俺は常にお前達を監視する。そしてお前達も同じく、街全体の魔法少女達を相互監視しろ」
「どういう理屈なのよ!!?」
「全体主義だ。もしお前達の中で個人主義に走り、人間に危害を加えた者を確認出来次第…」
――連帯責任として、関わっていなかろうが全員殺す。
「あんた狂ってるよ!!!!」
「俺の歩む道は修羅道…正気であるように自分では思えても…既に狂っているのだろう」
「修羅…!?人の姿した……あんたは修羅!!?」
掴んでいた力が緩められ、地面にお尻をつく者を見下ろす悪魔が命令を下す。
「行け。全員命が惜しければ、これから始まる魔法少女社会主義体制を広めろ」
「ヒィィーーーッッ!!人修羅に殺されるぅぅーーーッッ!!!!」
「社会に害をなす個人主義者共は、お前達自身の命を守る為に…お前達の手で粛清しろ」
絶叫しながら逃げ去っていく者を見送った後、彼は自分の考えを口にする。
「俺の社会実験が上手くいけば…他の街の魔法少女社会も拘束する事が出来るだろうか?」
悪魔化を解き、黒衣のフードを被る。
返り血塗れの顔を隠した尚紀は踵を返して去っていった。
監視社会。
それはソビエト連邦、それに今の中国や北朝鮮などの社会主義・全体主義国家で見られるもの。
過剰な監視が生じた社会として知られている。
党や軍が一方的に国民を統制・監視している為、監視国家と表現されるものだ。
自由主義国家においても街頭や公共施設における多くの監視カメラの設置が見られる。
相互監視組織とも言える防犯ボランティアの活動などもあるだろう。
漠然とした犯罪不安を背景とした治安意識の過剰な高まりが監視社会化の懸念となっている。
監視システムによる過度な国民の監視が人権侵害として問題視されるのだ。
しかしジレンマも存在している。
人権侵害が一切起こりえない社会は人権侵害を監視する監視社会でしか実現出来ないのだ。
ある人が他の人の発言や行動に過剰に反応し、他の人もある人の発言や行動に敏感に発言する。
多人数で多人数を相互に監視することを特に相互監視社会という。
かつての戦前日本とて同じであり、今の日本も同じ光景になっていく。
社会不安を拭い去るという大義名分の元、人間の自由は安全保障の名の下に踏み躙られる。
かつてソ連のゴルバチョフ書記長が日本を訪れた時に次のような言葉を残す。
――日本は世界で最も成功した社会主義国だ。
立地的に絶海の孤島として存在している日本。
思想的にも絶海の孤島となり、日本でしか通用しないルールが数多く創り出される。
本当の自由主義も民主主義も理解しないのが日本人。
上の人間に前に倣え、右向け右と言われたら文句があろうが違う案があろうが黙って従う。
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5月1日はメーデーと言われる世界各地で行われる労働者の祭典として知られる祝日。
しかし別の意味もある。
4月30日から5月1日にドイツ等の中欧や北欧で広く行われる行事が存在するからだ。
祭りの前夜がヴァルプルギスの夜と呼ばれ、魔女がサバトを開き跋扈すると伝えられていた。
そして
西暦1776年。
アダム・ヴァイスハウプトが南ドイツのババリアでイルミナティを創設したのが5月1日。
特権階級無き労働者の祭典であり、イルミナティ聖誕の祝日なのだ。
無神論、無政府主義、社会主義、共産主義の源流ともいえる
この日を記念してメーデーは開始されたのだ。
国際共産主義運動である第2インターナショナルの決議により1890年にて行われたもの。
イルミナティの実行した世界史の破壊活動こそ、あのフランス革命。
それに続く恐怖政治、アメリカ独立戦争、ロシア革命等々…。
これはイルミナティの世界史裏側の歴史で数え上げたほんの一部に過ぎなかった。
♦
東京都墨田区に存在する高さ634メートルにも誇る電波塔スカイツリー。
ツリーの頭上には星一つ無い夜空に浮かぶ真紅の満月が怪しく輝いている。
東京の新しい観光スポットのスカイツリーには噂が存在する。
この高さはツリーから武蔵国を眺めることが出来るため、語呂合わせと言われるのが通説だ。
当初は610メートルで計画されていたのだが変更となってしまう。
2009年に頂上のゲイン塔を突然リフトアップしてこの高さとなったのだ。
語呂合わせなんぞの為にやらなければならない程、価値の有るものであろうか?
本当の高さは地下を含めて語られるべきだ。
スカイツリーは地下に頑丈な土台が築かれている。
これが深さ10階建て以上に相当するといわれ、31メートル以上掘ってあるという事になる。
32メートルだとしたらどうだろう?
634+32=
5月1日に日付が変わる東京の深夜。
スカイツリーの展望回廊の頭上部分に見えるのは666の悪魔の姿である。
黒衣のウィザードコートを纏い、フードを被った視線が地上を見下ろす。
全身から噴き上がるのは深碧の魔力であり、大魔王ルシファーと並ぶ程の次元を示す。
イルミナティの新たなる守護神と言われしエンキと呼ばれた神の力なのだ。
この力を用いて魔法少女社会に対しての恐怖政治が行われるだろう。
「なるほど、恐怖政治に抵抗を試みようというのか」
地上を見ればそこら中に集まってきたのは東京の魔法少女達であり、全員が臨戦態勢だ。
「当然か。自由に生きていい魔法少女達の人権を踏み躙る俺を許すはずがない」
個人の自由の為に集まった自由戦士達であるが如何ともし難い実力差がある。
それすら理解出来ない矮小な小者では何人集まろうが結末は決まっているだろう。
「魔女の如き者共…自由を叫び、魔法を自由に使って人間社会に危害を加えたいか?」
真の力の前では数の暴力など無意味。
彼女達は己の命という高い授業料をもって知る事となるだろう。
これをもって人修羅には絶対に逆らってはならないと皆に知れ渡る事になる。
血の惨劇として語り継がれる呪いの日となるのだ。
「全員血祭だ。さぁ、クソッタレ共…
人修羅と約束を交わした者達は関係ない。
誰かを出汁にして凶行を擦り付けて正当化はしないと彼は決めている。
自らの意思で行う覚悟を決めているのだ。
「守るために選んだ道…責任は全て背負う。結果として交わした約束に繋がればいい」
体のウィザードコートが蠢く。
開くと同時に悪魔の翼と化し、飛膜を広げる。
新たに手に入れた悪魔の四枚翼は体を覆う事で衣服の擬態を施す力を持ち合わす。
黒髪から白い髪に変化し、そこに立つのは大いなる闇の姿。
七つの大罪の憤怒を司る混沌王の御姿なのだ。
怒りの旋風を纏いしサタンが翼を羽ばたかせて浮かんだ後、一気に急降下する。
瞬膜となった悪魔の金色の瞳が獲物に狙いを定める。
魔法少女にとっては真紅の月よりも禍々しく輝く恐ろしき眼差しと共に断罪の時がくる。
魔法少女が流させる人間達の涙。
人々の涙を背負い、業火を纏って焼き尽くす憤怒の暴神。
「ククク……ハハハ!!ハァーハッハッハッハッハァ!!!!」
ワルプルギスの夜に響くおぞましき悪魔の笑い声。
裁く神は今、魔法少女達の頭上高くから
その夜、大虐殺が起きることになるだろう。
東京の魔法少女社会において3分の2に登る魔法少女達が死ぬのだ。
歴史に残る大虐殺事件、神をも恐れぬ狂気。
カンボジアにあったポル・ポト共産主義政権が行った国民大量虐殺と酷似する光景だろう。
後に東京に生きる魔法少女達にとって忘れられない恐怖の日として語り継がれる。
ワルプルギスの夜の惨劇として語り継がれる呪いの日となるのだ。
共産主義にはシンボルが幾つかある。
代表的なものは
農民と労働者の団結を表し、マルクス・レーニンの共産主義やシンボルとして使われたもの。
団結の象徴だけでなく労働者が手近に持てるであろう武器の形にも見える。
特権階級に虐げられた者達が使えば怒りの暴動力ともなろう。
人間社会にいつでも牙を向けれる魔法少女という特権階級。
人間の安寧を脅かす存在がすぐ近くにいる事さえ知ることが許されない人間達。
何に襲われたのか分からず犠牲になった人々の無念が悪魔の心を赤き政治へと燃え上がらせる。
振るわれる拳は顔を粉砕する槌となろう。
振るわれる刃は首を跳ねる鎌となろう。
「悪魔の共産主義を思い知れ。そして、他の街の魔法少女社会も逃れられると思うな」
正義を気取りながらも完全なる社会制御をしようとしなかった魔法少女達を彼は許さない。
放任主義者達に見せつけるかの如く、絶対的秩序という暴力が世界を赤くしていった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
同日の深夜。
「これでいい。あの黒いダイヤは十分過ぎるほど…磨かれたよ」
海の藻屑となった東京湾メガフロート都市。
サイファーが立っていたのと同じ場所に立ち、静かに東京湾を見つめる瑠偉の姿が見える。
「君達ペンタグラムには礼を言おう。悪魔を磨く、良い生贄となってくれた」
感謝の気持ちとして5枚の花弁をした一輪の花を海に投げ捨てる。
彼女達五名の命など、花弁一枚程度の価値しかなかったようだ。
「それに2年と少し前…悪魔を磨く生贄となってくれた彼女にも花を手向けないといけないな」
2年と少し前、それは風美風華が殺害された日であり全ては繋がっていたのだ。
あの日より尚紀は悪魔として血で血を洗う道を始めた者なのだから。
「彼女が人修羅と巡り合ったのは、偶然ではない」
3年近い前の雨が降る日、風美風華は用事のために市内の繁華街を歩いている。
そこで彼女は黒いローブとフードを纏う女性と思わしき存在と出会ってしまった。
「やぁ、お嬢さん」
「あの…私に何か、御用ですか?」
「さっき向こうの路地裏で薄汚く汚れて座り込んだ少年を見かけたの」
「少年?」
「何かあったのかしら?地元の学生制服だし、声をかけてあげてくれない?」
「どうして…私でないと駄目なんですか?」
「お嬢さんは困った他人を見捨てることなんて出来ない子と思ったの」
「貴女は、その子に声をかけなかったんですか?」
「私は急ぎの用事があるの。失礼するわ」
「あの…私だって用事が…!?」
とりとめのない会話による誘導だが、これによって全てが繋がり今に至る。
3度目の悪魔新生、そして用意した生贄の数は6人。
それは
「私が用意した最上級のお祝いの品、気に入ってもらえたかな?」
自分と並ぶ程の大いなる闇が誕生する祝いの席に対して祝いの品もないでは無作法というもの。
「お前に強い感情を与えた魔法少女達は極上の品であったろう?」
――お前はあの二人の魂と、成れの果てを喰ったのだから。
善と悪、光と闇、陽と陰、男と女、火と水、プラスとマイナス、愛と憎悪。
これは六芒星の三角と逆三角としても語られる相反する二元論。
六芒星は相反するエネルギーの象徴であると同時にエネルギーの調和が取れた形。
東洋では陰陽太極図としても描かれるものだ。
「お前はもう大丈夫だろう。後はこの世界で生まれる二人の悪魔達にも期待しよう」
光と闇の決戦の刻は確実に近づいてきているのをサイファーは感じているはず。
「時間の猶予はあまりない…ハルマゲドンは、この世界で起こるのだ」
<<そして、イルミナティのニューワールドオーダーは最終戦争を利用する>>
瑠偉の頭上を飛ぶのは一羽の梟であり、彼女が駐めていたスーパーカーの屋根に下りてくる。
「アモンか」
アモンと呼ばれた梟は人語を喋ったように見えるが人間が聞けば梟の鳴き声にしか聞こえない。
「お久しぶりです、閣下」
「何の用事だ?」
「ヘブライのラビ達と13人評議会議長のJが、あなた様をお呼びです」
「少ししたら行く」
懐からタバコを取り出し、指で火を点ける。
紫煙を燻らせながら海を見つめながらこう語っていく。
「私が選んだ人類を生き残らせる為の方舟建造…世界中に用意するのも苦労した」
「準備の為に、70年の歳月がかかりましたからな」
「ユダヤとユダヤが選んだ人為的ユダヤ。それらに仕えるゴイムだけが生き残れる揺り籠だ」
「世界に用意した13の方舟のうちの一つは既に日本で完成しています」
「この国か…。最終戦争に至る前に、新しい世界秩序の為の社会実験を日本で行う」
「ペンタグラムが残した傷跡を利用した憲法改正は直に進みますな」
「惨事を利用した社会改革…国民は
「真の変革は危機的状況によってのみ可能となります」
ショック・ドクトリンとは
現代において最も危険な思想とみなされている政治手法であろう。
危機的状況さえ生み出せたなら大抵の事は押し通せるもの。
社会正義に酔わせ、考える力を持たない愚民を騙して凶悪な法案が通ってしまう。
まさに
「日本と呼ばれる国の飼い主が誰なのかさえ、愚民共は分からないでしょうな」
「日本人を堕落させる政策こそ、GHQが行った
3S政策とは愚民政策としても知られており、三つの単語のイニシャルを集めた名称である。
スクリーン、スポーツ、セックスの頭文字を合わせて3Sと呼ぶ。
21世紀に入ってからはSNSも加えられ、4S政策とも呼ばれているようだ。
大衆の関心を政治に向けさせないようにする事を目的とし、
「劇場型国会に過ぎない現実を大衆が知ることはない」
「アニメや漫画やゲームに忙しいようですしな。私欲に飲まれた愚か者共です」
「智慧無き者に救いはない。能動的な勉強がどれ程大切なのかを教師は教えない」
「古い人間がテレビを見ていると馬鹿になると警告してきたはずなのに…実に愚かです」
「まさに
「牧師として、導いてやらねばなりませんな」
「フッ…そうだな」
「もっとも、誘導された先は…堕落と滅びですがね」
「緊急事態条項の成立も直ぐだろう。後はこの国の裏権力共に任せよう」
「全ては閣下の為に。国境無き世界連邦の為に…ワン・ワールドの為に」
吸っていたタバコを指で弾き、海に落とす。
海面に辿り着くよりも早く燃え上がり、吸い殻が消えてしまう。
踵を返した者がアモンが留まる自分の車に向かいながら不気味な笑みを浮かべていく。
「人修羅は私の思想に目覚めた。私の世界支配を完成させる思想…社会主義と共産主義にな」
――やはりお前は…
車の上から飛び立ち、夜空に消えていくアモンを追うように車は発進していく。
彼らの道こそが世界を支配する道となり、国境無き世界連邦、ニューワールドオーダーとなる。
ワン・ワールドの完成こそ共産主義が目指す悪魔の千年王国の形。
その全ては大魔王ルシファーの手の内にあった。
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【人修羅】
修羅とは阿修羅(アスラ)であり、インド神話で後に悪神とされた悪魔の名である。
阿修羅や修羅道を略して修羅とも呼ばれ、それに人を付け足して作られた造語であろう。
人間でも悪魔でもない存在を指す時にも使われる。
この世界には存在していないが、ガイア教の
相反する二元論を同時に内包した存在、あるいは世界に変革をもたらす者との記述が残る。
ミロクとは弥勒と書き、369としても表現され、
弥勒菩薩とは古代インドではマイトレーヤと呼ばれており慈悲から生まれた者を意味する。
釈迦が亡くなられてから56億7千万年後に仏となりこの世に現れる菩薩として知られる。
釈迦の教えで救われなかった人々を救済するといわれている
369は数秘術やオカルトの世界でも存在し、369は宇宙法則や高次元の数ともいわれる。
3は創造、6は愛と調和、9は宇宙と智慧。
これらの数字を足すと18となり、それは悪魔の数字666にもなりえるのだ。
未来に誕生すると言われる弥勒の数字を足してみても18。
ミロクとはメシアを表す言葉であると同時に悪魔を表す言葉でもあった。
これから先の人修羅の旅路を表すものとして死海文書も参考になるやもしれない。
イスラエルとヨルダンの国境にある死海の近くの洞窟で羊飼いが見つけた古書である。
内容は旧約聖書の写しのほか、聖書研究の専門家も見た事がない謎の文献が含まれている。
これらは2000年以上前のクムラン宗団が書いたと言われる。
クムラン宗団は救世主を待ち望み、終末思想に傾倒していた団体。
彼らによると光の子と闇の子の最終戦争が起こり、人類は大厄災に見舞われるとある。
その時に
クムラン宗団は旧約聖書のダニエル書を特別視していた団体。
ダニエル書は終末の予兆が始まってから約70年後に大破局が来ると伝えているという。
死海文書が発見された翌年の1948年であり、今のイスラエル国家が建国された年。
死海文書にはイスラエルの建国と混乱、そして破滅を予言している。
それから数えて約70年後とは2016年~2018年ぐらいまでだろう。
いわゆる人類滅亡のハルマゲドンが起こることを示唆していると言われていたようだ。
奇しくも人修羅がこの世界に現れたのは2016年。
それから2017年、2018年とこの世界で生き、今は2019年。
この3年近い時間の中によって世界の大破局が起こりうる因果は練られてしまうだろう。
いずれ始まる光の子と闇の子とのハルマゲドン。
そこに現れるというアロンのメシアとイスラエルのメシアとは何者なのか?
その答えはいずれ分かる時が訪れるのであった。
♦
通りを曲がり、路地裏を歩くのは黒いトレンチコート姿の男。
赤レンガの壁が続く路地裏はスプレー缶によって日本語や英語の文字が乱雑に描かれる。
男が歩く背後にはスプレー缶で描かれた一際目立つグラフティ・アートが見えるだろう。
『
男は歩き続ける。
『
男は歩き続けていく。
『
男の歩みが止まった。
顔を向けた赤レンガの壁には、このエリアを縄張りだと主張する魔法少女エンブレム。
しかしそのエンブレムは赤いスプレー缶によって塗り潰されている。
マルクス・レーニン主義のシンボルの一つである赤いペンタグラムであろう。
これはこの男が行った所業であり、誰も社会主義からは逃れられないと魔法少女共に示す。
悪魔は常に監視すると恐怖を刻み込まれた爪痕なのだ。
星とはペンタグラムであり黒魔術においてはサタンの足跡。
赤き星の上には、さらに日本語で描いた大文字が見える。
魔法少女達の怨嗟の声が具現化した恐怖文にはこう書かれている。
『お前を呪ってやる』
男の口元が不敵な笑みを浮かべた後、突然レンガの壁が爆ぜてしまう。
白煙が舞う向こう側には拳を突き出した悪魔の姿。
握り拳のまま腕を引き戻し、顔の前に掲げながら日本中の魔法少女に宣戦布告するだろう。
――いつでも、来な。
『
真・女神転生 Magica nocturne record
To be continued
ニ章のテーマは【逆五芒星】です。
女性の子宮とも言える五芒星は、魔法少女を表します。
可愛い魔法少女も、裏返れば悪魔の星となり、悪魔の如き存在となる。